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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


もう一歩……




 教室の外では、蝉がジージーとこれでもかとばかりに鳴いている。夏休みまで後数日という位置にまで来ているため、誰も夏であることを疑ったりはしない。外の暑さは三十度前半、雨が降ったり止んだりを繰り返してくれているため、まだ気温は我慢できる範囲だった・・・
 だがそれでも、日中は暑い。加えて、その気温を多少下げてくれる雨が降ったり止んだりなので、暑さの方が勝ってしまうと湿度が上がり、不快指数が倍加する。
 そんな暑さにヤられたらしい級友に絡まれながら、和泉 大和は

「暑い……大和、頼むから涼しくしてくれ」
「不可能だ」
「そこを何とか」
「ならないから諦めろ」
「冷たいなぁ……」
「良かったな」

 机に頬擦りしながら、すっかりダメな人になっている級友を無視し、大和は自分のテスト結果表を机の引き出しに突っ込んだ。あちこちから悲鳴だの歓声だのが湧いている教室を見渡し、その中に御崎 綾香の姿を見つけ、何となくジッーーーーーーーーーーーッと眺めてみた。
 級友達に囲まれている綾香は、苦笑しながら自分のテスト結果表を級友から取り返していた。周りから賞賛の声が上がっているのを聞くと、どうやらいつも通りに、上位に食い込んでいたらしい。

「こら大和。俺の心のアイドルである綾香様を、そんな何考えてるんだか分からない目で見るんじゃない。端から見てて、色々不安になるだろ」
「なんだそれは?」
「例えば、お前が綾香様を襲うとか押し倒すとか拉致するとか?」
「…………」
「ん?怒ったか?怒ったのなら掛かって来………痛い痛い!!相撲部員にくせにプロレス技なんて反則だぁ!!ぬおっ!ギブギブ!」

 両腕を極められている級友である相撲部部長が悲鳴を上げる。手を離して解放してやりながら、大和は再び綾香に目を向けた。
 こちらには気が付いていないようで、級友達から、普段どんな勉強をしているのかを聞かれて困っていた。

(まぁ、普段から、普通に予習復習をしているだけだって言ってたからな………)

 苦笑しながら、大和は自分の視線に気が付いた綾香に軽く手を振る。その後、綾香の周りを囲んでいる女子生徒達に気が付かれる前にと、視線を外して窓の外へを眺め始めた……








 そして、二人はいつものように帰路についた。それぞれインターハイに向けて特訓中なため、部活は遅くまで続き、辺りは夕方から夜に移り変わる頃となっている。。
 マネージャーである大和も、まだまだ相撲部内での実力は高いため、一年生やレギュラー達の練習に付き合っていたため、現役の綾香と同じ時刻の帰宅となった。
 外の涼しい風を上機嫌で浴びながら、綾香と大和は二人で夏休み中の計画を話し合っていた。

「あの神社で祭りの準備か………」
「ああ。それに、部活での合宿もあるし、大会もあるから忙しい。家でも、夏の行事は祭りだけではないからな。宿題も片づけなければならないし」
「遊んだりはしないのか?」
「特にはな」
「つまらなさそうだな。折角なんだから、あっちこっち行ってみたらどうなんだ?」
「そう言うお前はどうなんだ?」
「俺か?……………溶けてるな。大抵」
「? どういう事だ?」
「あまり気にするなよ綾香………」

 どうしてか視線を反らす大和。だがしかし、綾香はそれを追求するどころではなく、何故か顔を赤くして大和を睨み付けた。

「どうかしたか?」
「…………別に!」

 何でもない風に聞いてきた大和に、綾香は強い口調で答え、そして歩を早めた。
 先日の祖母の追求から逃れる時に、思わず綾香のことを名前で呼んでからというもの、大和は綾香のことを名前で呼ぶことに抵抗感が無くなったらしく、今では人前でもない限りは“御崎”ではなく“綾香”と呼ぶようになっていた。
 本人が意識しているのかないのか、大和にとっては何でもないことなのかもしれないが、綾香自身にとってはとんでもないことだ。正直、名前で呼ばれて赤面しない時はない。
 腹いせに、自分も“大和”と呼んでやろうとも思ったが………この昼行灯男が、それでダメージを受けるとは思えなかった。
 大和の前を歩いていく綾香。大和は、その後ろを苦笑しながら着いていった。
 と、綾香の足が止まる。どうかしたのかと訊くより先に、綾香の視線が通りかかった公園内に注がれているのを察し、そちらの方を追って見やる。
 街灯すら灯っている公園の砂場で、一人の子供が、一羽の鴉と格闘しているのが見えた。

「…………どう思う?」
「…………本人に訊いてみよう」

 二人は揃って公園内に入っていく。砂場で遊んでいる子供は、近づいていくと少年なのが分かった。遠目だと夕闇に紛れて分からなかったが、遊んでいるのは珍しくも白い鴉、大和の飼っているカー助だと言うのが解る。二人は近づく歩を少しだけ速めた。

「たぁぁああ!!」
「カァァアア!!」

 砂場には大きな砂の城が造られており、少年はそれの前に立って、襲いかかってくる鴉を追い払おうとする。
 だがカー助は、多彩なフェイントを駆使し、少しずつだが、確実に城を崩していた。少年が捕まえに掛かろうと手を伸ばすと、縦横無尽に非常識なまでに素早く飛び回り、危険と判断するとすぐに後退して間合いを取っている。
 大和と綾香が砂場前まで辿り着いても、二人(?)ともそのことにも気が付かずにジッと睨み合っている。

「…………最近の子供って強いんだな」
「それよりカー助の方が問題だと思う」
「それもそうか。おいカー助、もう止めろ!」

 横から入ってカー助を取り押さえる大和。そこまでしてようやくその存在に気が付いたらしく、少年は二人に向かって身構えた。

「カァァアア!!」
「うわっ!いつのまにこんなちかくに!?」
「さっきから居たぞ」

 距離を取る少年を前にして、大和はカー助の首根っこを掴んで差し出した。綾香は、少年がそれを受け取るのを見て振り回されたりしないかとハラハラしたが、少年はカー助を砂の城の上に置き、大和を見上げた。

「そのからす、にいちゃんの?」
「まぁ、そうなるのかな。君は、どうしてこんな時間までこんな所に?見たところ一人みたいだが………」

 辺りを見渡しても、保護者らしき人は見当たらない。
 子供が一人で外で遊ぶにしては、少々遅すぎる時間なのにもかかわらず、だ。

「誰もみたいだぞ?」
「だな」
「みんなかえっちゃったから。母さんがむかえにくるまでまってなきゃダメなんだ」
「一人で………?」

 大和と綾香が顔を見合わせる。
 少年の話によると、少し前までは友達と大勢で遊んでいたらしいが、時間が経つに連れてみんな帰ってしまい、一人で砂の城を造って待っていたという。
 そこに白い鴉(カー助)が強襲、激しい攻防戦が繰り広げられることになったとか何とかというのは、この際スルーしておいた。

「なんていい加減な………」

 綾香が不機嫌そうに呟く。
 公園内だし、この近くに変質者が現れたとか言う話は一切無いが、それでも小学生前半っぽい子供を一人で待たせておくなど、良いこととは思えない。
 少年は綾香が怒っているのを感じたらしく、少しだけ身を退いた。大和は、少年の頭の上に手を置いてポンポンと叩いてやる。

「大丈夫。君に怒ってる訳じゃないから」
「でも……」
「お母さんにも何もしないさ。大丈夫。………一人で暗いところにいるのは危ないから、俺たちもここに居るぞ?良いか?」
「うん!じゃさ、いっしょに遊ぼう!!」

 大和に懐いたらしく、少年は大和の服をガシッと掴んで城の方へと引っ張った。城の上に置かれていたカー助も、途端に臨戦態勢に入る。

(なんだかんだ言って、寂しかったみたいだな)

 大和は、後ろで諦めたみたいな顔の綾香に目を向ける。綾香は苦笑し、そして頷いた。

「よしッ!良いぞ、俺とお姉さんで遊んでやろう」
「やったぁ!!それなら、兄ちゃんはこっちね。おねえちゃんはトリの方のまわって!!」
「分かった。和泉、手加減しろ」
「分かってるって」

 綾香が回り込んで、カー助の隣に立つ。大和はそれを少年の隣に立って待ち、少年が綾香に駆け寄ると同時に、自分も城を崩すためにカー助に立ち向かった………






 それからおよそ三十分後。日も落ちて暗くなった公園のベンチで荒く息を吐きながら、綾香と大和の二人は疲れた表情で腰掛けていた。
 子供の体力は半端なく、少年とカー助は、二人がダウンしても動き続けて攻防を繰り広げていた。

「最近の子供は凄いな………」
「本当に……」

 二人して笑い合う。だがそこまで暗くもなると、さすがに親が来て然るべきだ。結局少年とカー助の決着を見届けるよりも前に、少年の母親らしき女性がスーツ姿で現れた。

「母さん遅い!」
「ごめんなさいね、仕事が長引いちゃって……そちらのお二人は?」
「通りすがりの善良な学生です。決して誘拐魔ではありません」
「誤解を招くような言い方をするな!!」

 綾香が大和の後頭部を叩く。その遣り取りを見ていた少年は、母親を見上げて質問した。

「母さん、アレって、“めおとまんざい”って言うんだよね?」
「夫婦!?」
「そうねぇ。合ってるわよ」
「ち、違う!和泉も否定しろ!!」
「………え、どこをだ?」
「!!!?」

 赤面して顔を背ける綾香。それを見て、少年はさらに追い打ちを掛けてきた。

「ねぇ、兄ちゃんとねえちゃんはけっこんするの?」
「お、よく分かったな」
「な!?」

 綾香は大和のセリフを聞いて、絶句したように硬直する。大和はそれを眺めながら、楽しそうに、礼を言って去っていく少年と母親に向かって手を振った。






 惚けたようにその後ろ姿を見ていた綾香は、自分のことを見ていることに気が付いた。何となく今の遣り取りを意識してしまい、つい怒った風に言う。

「何だ、人のことをジロジロ見て」
「いや。綾香も、ああいう風に子供を迎えにくるのかなって思ってさ」
「なっ!?」

 たじろぐ綾香。その綾香の手を取って、大和は綾香から目を背けずに言い切った。

「結構本気だぞ?」
「や、大和!?」
「あ、初めて名前で呼んでくれたな」
「!? ………馬鹿!!」

 手を振り払って、綾香はその場を走り出した。顔は真っ赤に染まっていて、とても大和に見せられた物ではない。
 今まで一緒にいて、意識しなくても時々は思い描いていた光景が来たというのに、綾香はろくに答えることも出来ずにその場を走り去るしかできなかった。こんな時には、本気で自分の弱さを罵ってしまう。これでは、明日からどんな顔をして学校に行けばいいのか…………夏休み間近なのが幸いとしか言いようがない。
 走り去る綾香を眺めながら、大和は砂の城の上から飛んで肩に止まったカー助を撫でながら、ポツリと一言呟いた。

「本気だからな。綾香」

 出来れば、これからは自然に、違和感なく名前で呼んでもらえるように――――
 そんな関係になれることを強く思いながら、大和は星がチラホラと出てきている空を見上げた。比較的都会化している訳でもないこの町でも、まだ光が溢れている所為か、見える星の数は、そう多くはない。
 夏の暑い日差しが無くなったことで、夜の風は涼しく、外に出ている者達にとってはとても有り難いものだった。
 その風に胸の内を冷まして欲しいとばかりに、綾香は神社まで走り続ける。







 夏休みは近い。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 さぁ、ついに物語も佳境に入って参りました!メビオス零です!!
 では、とりあえず次回予告(偽)など!

 次回予告(偽)
 ついにプロポーズに踏み切った大和、綾香は自分の胸の内に秘めていた思いに気付き、その熱さに耐えきれずにその場を駆け出してしまう。
 大和はそれでも綾香を思い、必ず答えを聞かせてくれると信じ切ている。
 だがその光景を見て、ほくそ笑む邪悪な白い鴉と謎の和服美人が居た!!
 思いに揺れる綾香、そして突如として謎の集団に拉致られる大和!
 果たして、綾香は大和を救い出し、ハッピーエンドを迎える事が出来るのか!?
 次回、東京怪談ツインノベル〜大団円!地球最期の日!!〜
 乞うご期待!!


 ………ってごめんなさい。(偽)です。少なくとも、こんな内容にしたらやばいです。今までの設定が台無しだ!つ〜か大団円で地球最期の日ってどういう事だ?
 巫山戯るのもこれ位にして、さぁ、これからどうなるんでしょうか。次回(有るの?)は夏休み編。二人の青春が描かれるのでしょう……たぶん。
 では、次回もご依頼頂けたら幸いです。これからもよろしくお願いします。