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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■Lovely-Rainy

【ACT.1 オープニング】
−チャリン、ジャラジャラーッ
金属の擦れ合う音を立てて、テーブルに広げられた大量の小銭。
「これで彦星さんを探してくだしゃい」
真剣なまなざしで見上げるのは4歳くらいの女の子。
「これでって……なぁ」
山と積まれた小銭を前に、探偵・草間武彦は困り果てた様子で頭を掻く。
「足りないでしゅか? それならこっちも……」
と、もうひとつ、ピンクの豚型貯金箱を取り出し叩き割ろうと振りかぶる。
「わーっ。まてまて!! わかった、ひとまず引き受けてくれそうな調査員は当たってみるから」
あわてて少女を引きとめ、草間はため息をついた。
(こんな、ほとんどボランティアみたいな依頼、引き受けてくれる奴はいるんだろうか……?)


【ACT.2 子供の事は、女性にお任せ】
「と、まぁ……そういうわけなんだ。何とか頼まれてくれないか?」
草間は目の前の女性にこう言って頼み込んだ。
「そうね、たまにはこんな依頼も悪くないものね」
にこり、と微笑んで彼の頼みを聞いてくれたのは、艶やかな黒髪を一つにまとめた、知的な印象の女性。
 この興信所の事務員にして古参調査員の一人、シュライン・エマだった。
たまにはと言ってはいるが、実際には無償で依頼を引き受けることは今回に限ったことではない。
「可愛いお姫様のお願い事を聞いてあげるのも悪くないね。ボクも手伝うよ」
シュラインの傍らでにっこりと歯を見せて笑うのは、ベリーショートの赤毛、鼻筋に一本通った傷跡が印象的な女性。
 彼女もちょうどこの場に居合わせていた調査員。名前はレイザーズ・エッジ。
本職はもう少し裏街道寄りなのだが、たまにはこんなのんびりとした依頼に触れるのも悪くない。彼女はそう言った。
「じゃあ、3人で行きましょう。じゃあ先ずは……、お名前を聞いてもいいかしら? 依頼人さん」
シュラインは、ソファに座って成り行きを見守っていた依頼人の少女に近づき、彼女の視線の高さまで腰を落とす。
そして、優しい口調で少女の名前を尋ねる。
「おりひめさんです。おねぇちゃんは?」
「シュラインよ。3人で彦星さんに会いに行きましょうね? 織姫さん」
「お姉ちゃんたちが手伝ってあげるから、な?」
「うんっ! ありがとう!!」
2人とも女性だったこともあったのだろう。織姫はぱぁぁ、っと満面の笑みを浮かべてそれぞれの手でレイザーズとシュラインの手を握る。
「じゃあ、悪いが任せた」
 手のかかる依頼人を引き受けてくれると一安心したらしい。俺は一眠りするよ、とのそりと席を立つ草間。
そんな調子じゃ、将来子供ができたら大変だよ、とレイザーズに笑われると、
「それよかまず、嫁さん探しが問題だな」
と草間は苦笑し、部屋の奥へ入っていった。


【ACT.3 まずは目的地を】
「じゃあ、幾つか聞いて良いかな? 依頼人の織姫さん」
「うんっ」
仰々しく握り拳を膝の上に乗せ、織姫は真剣な眼差しでレイザーズを見つめる。
「織姫さんの依頼は、隣町に引っ越したというお友達の彦星さんに会いに行く、で間違いないね」
「うん。彦星さんは、大きな河の向こうにお引越しちゃったの。おりひめさんは、彦星さんに会いに行きたいの」
「うん、じゃあ、彦星さんがとなりの町のどこに引っ越したか、わかりますか?」
「えっとね、えっと……」
目の前に広げられた、隣町の地図を見つめ、織姫は一点を指差す。
「ここだとおもうんでしゅ」
と、指したのは……、
「……貯水池、ね……」
「こんなへんぴなトコに?」
2人は顔を見合わせ、首をかしげる。
「彦星さんはおとーさまとおかーさまと一緒にお引越したのでしゅ」
無邪気な微笑を浮かべる織姫。
(コイツはまた、変わった依頼になりそうだな……)
仕事の勘と言うべきか。非日常的な空気を感じ取り、レイザーズはくすり、と笑った。
「彦星さんは、どんな子なのかしら?」
シュラインが今度は尋ねる。
「ええと、ええと……真っ青で、目は金色で、それでそれで……とってもやさしいのでしゅ」
「真っ青で目は金色?」
「うん、髪も金色なのでしゅ」
どうやら、二人の推測に違わず、「ヒトではない何か」のようだ。
「それじゃあ、彦星さんはどうしてお引越をしたの? お仕事の都合かしら?」
「えっとね、えーと。おうちがお引越したから」
「何か理由があって引っ越したから家を変えたのではなくて、家がお引越したからなの?」
「う?」
織姫は首をかしげる。よく解らない、と言った表情だ。
「家が引っ越して、新しい家は貯水池、ね……」
彦星たち自身の意志に関わらない移転なのか、とレイザーズは推測する。
「そう……。じゃあ、彦星さんは前のおうちもお池の側?」
「うん。おりひめさんのお隣さんだったの」
「じゃあ、織姫さんのおうちも近くに池があるの?」
「うんっ。おっきなお池があるんだよ。でも、今日はお池の水を出しちゃう日だったからおりひめさんも彦星さんに会いに行くことにしたの」
「お池の水を出す日は、彦星さんに会えるの?」
「うん、彦星さんのおうちまで道ができるの」
そこまで話を聞いて、2人は顔を見合わせる。
「水を出す日がある池、っていうと……ダムかな?」
「恐らくそうね……。ここ最近放水を行なったダムがあったかしら……」
「少し、調べてみようか」
「そうね」
そして、2人は再び織姫に向き直り、
「じゃあ、ひとまずこのお池までいってみましょうか」
「こんなに遠くに行くのならいろいろいるだろうしね。途中で買い物してから出かけようか。確か、近くにスーパーがあったと思うし」
「スーパー? おかいもののおみせにいくー♪」
織姫は目を輝かせる。子供はとかく、スーパーがお好きらしい。
「じゃあ、行きましょう。これからながーい旅をするんだものね」
こうして、3人で揃って近くのスーパーへ。

 スーパーに着いた3人。
「わー♪」
織姫は真っ先に何処かへかけていく。
「あっ!! ちょっと」
慌ててレイザーズが後を追う。
「レイザーズさん、あの子のことお願いね。あぁ、それから、お菓子を少し買ってあげて。遠くまで歩くと疲れると思うから」
「うん、了解」
恐らくシュラインは先ほどの貯水池の事を調べるのだろう、と推測したレイザーズは織姫の世話を承諾する。
 さほど広い店ではないが、高い棚がいくつも並ぶスーパーでは、小さな子供を捜すのは一苦労だ。
「子供が行く所……って言ったら、あそこしかないよね」
おおよその行き先の目星はついている。その目的の売り場へ彼女は足を運んだ。

「おりひめさん、これがすきなんでしゅ」
 子供がスーパーに来れば真っ先にどこに行くか。言うまでもなく、お菓子売り場である。
 大量に並べられたお菓子の中から、織姫は小さなグミの袋を手に取り、やってきたレイザーズに見せる。
「じゃあ、そいつを持っていこうか」
お菓子をかごに入れ、レイザーズは織姫の頭を撫でる。傍目から見れば面倒見のよい姉とやや歳の離れた妹、といったところだ。
 2人で手を繋いで今度は飲料売り場へ。小型の麦茶ペットボトルをかごに放り込む。小型のものの方が、自分で持てるせいか子供にとっては嬉しいらしい。
「おまたせ。これも持っていきましょう」
そこへシュラインが合流する。その手には小さなハンドタオルに、携帯用の救急用具。
「子供と出かけるときには、何があるかわからないものね」
それらを持ってレジに行き、支払いを済ませる。
そして、購入したものをカバンに詰めていざ、隣町の貯水池へ……。


【ACT.4 寄り道だらけのピクニック】
 織姫の言う、隣町の貯水池までは約2キロ。川を挟んだ先である。
「何処かに歩行者も渡れる橋があったかしらね」
地図を見ながら、ルートを選定するシュライン。その間、あっちへうろうろ、こっちへちょこちょこと休む様子もない織姫は、レイザーズがしっかり面倒を見ている。
「あれなら渡れるんじゃないかな」
土手から、織姫と川を眺めていたレイザーズが指差す。
 その先にはやや大きめの橋。
「そうね……。あれなら、歩行者用の道路もあるでしょうし」
地図と見比べる。今いる場所から数十メートルほどだろう。
 3人はその橋から隣町に渡ろう、と。橋へ向かう。

 土手沿いを歩けば、
「あっ!! ねこじゃらしー」
道端の草に気をとられ。
 散歩中の犬とすれ違えば
「ワンワンさんだー♪」
と、その場で十数分。
たった数十メートル進むのに30分近く掛かってしまう。
 そして、到着した橋を渡りながら
「お姉ちゃんたち、みてみて〜。お魚がいるよ〜」
川面に見え隠れする鯉らしき魚を見つけてはきゃあきゃあとはしゃいでいる。
「子供っていうのは、何でも物珍しいんだな……」
目に付くもの全てが物珍しいといわんばかりの織姫を眺めながら、くすりとレイザーズは笑う。
「私たちにはもう見慣れてしまった世界でも、あれくらいの子供には新しいものに見えるんでしょうね」
シュラインも微笑む。
「そうそう、さっき買い物をしているときにお店の人にも聞いたのだけど……」
と、シュラインは見せて手に入れたミニコミ誌をレイザーズに見せる。
開かれたページをしばらく見て、
「……なるほどね」
と納得。
「しかし、じゃあ、何故あのこは一人でここまで来たんだろうね。両親はどうしたのかな?」
「そうね……。目的地に着けば、何かわかるかもしれないわね」
「……そうだね」
と、2人でうなづいた。


【ACT.4 目的地に到着〜】
 こんな調子で約3時間。途中で休憩を入れながらゆっくり歩いてきた一行は静かな池のほとりにたどり着いた。
「彦星さーん」
池に向かって尋ね人の名を呼ぶ織姫。
池の向こう岸まで残響が届いたか、と思われたとき。

− ザバァァ……ッ

水面が不意に持ち上がる。そして、池から姿を現したのは、体長1メートルほどの龍だった。
「織姫、どうしてここへ?」
表情はよくわからないが、その声にはありありと驚きの色。やや高いトーンの声だから、子供の龍なのだろう。
「彦星さんに会いに来たのでしゅ。お姉ちゃんたちが連れてきてくれたんでしゅ」
えへへ、と満面の笑みを浮かべて織姫はシュラインとレイザーズを紹介する。
「こんにちは、彦星さん」
「こんにちは。ええと、ありがとうございます」
彦星龍はおずおずと頭を下げる。2人を物珍しげに見比べる。
「ボクを見てもびっくりしないの?」
「そうだね、きみみたいな存在に遭遇したこともあるしね」
龍の姿に驚かない人間二人を見てか、彦星の両脇から2つ、新たに龍が現れる。
「彦星さんのおとーさまとおかーさま、こんにちわー」
「あらあら、織姫ちゃん。こんな遠くまで一人できたの?」
穏やかな口調で織姫に話しかける一方の龍。柔らかい印象からして、母龍だろう。
「一人じゃないよ。お姉ちゃんたちが連れてきてくれたの」
「おやおや、人間にも親切な人がいたものだね」
もう一方の龍が微笑ましげに目を細める。こちらはもう少し、がっしりとした印象だ。
「織姫さんが、私どもの興信所に依頼されたのです」
「あらまぁ、興信所に。お父様とお母様は?」
「おとーさまもおかーさまもお盆の準備で忙しくて取り合ってくれないの」
織姫はぶぅ、と頬を膨らませる。
「あらあら、そうだったの……」
お盆の準備、とはなんだろう? とシュラインとレイザーズは首をかしげる。
「ああ、この子の両親は今、盆に先駆けて御霊を迎えに行っているのですよ」
どうやら、織姫の両親は盆に帰ってくるという先祖の霊魂を誘導する役目を負っているらしい。
「じゃあ、御両親も織姫ちゃんが遠出をしたのを知らないのね」
そうなると、興信所への依頼料をどうしましょうかしら、と龍たちが言っていると……。
「あっ!! そうだった。ほーしゅうっ!!」
織姫は思い出したように、リュックの中からピンクの豚型貯金箱を取り出す。
「あら、いいのよ。最初に草間のお兄さんに渡したでしょう?」
シュラインが止めようとしたが、一瞬遅かった。織姫は豚型貯金箱を地面に叩きつける。

− パサッ、ザラザラー……

紙のこすれる音と砂か何かがすれるような音。それと共に転がり出たのは2つの袋。
「はい、ほうしゅうなの。だいじにだいじに貯めたんだよ」
織姫はにこにこっと微笑んで、袋を一つずつ手渡す。
「これは……金平糖?」
中に詰まっていたのは色とりどりの金平糖らしきもの。
「それは、星屑を集めたものです」
「すごく、すごーっくおいしいんだよ」
「でも、これは織姫さんが大事に貯めてたものだろう?」
もらうのは悪いよ、と返そうとしたレイザーズを彦星の両親が引き止める。
「もらってあげてくださいな。この子の両親には私どもからよく話しておきますので」
人間には他愛のない品ですが、私たちにとっては金銭に匹敵する宝。織姫の心からのお礼と受け取ってください、と。
「……そうね。じゃあ、確かにお代は頂きました」
シュラインはにっこりと織姫に微笑む。

 こうして、ひとしきり織姫は会いたがっていた彦星とたっぷり積もる話をしていたが、疲れたのか途中ですうすうと居眠りを始めてしまう。
 織姫が寝付いたのを見計らって、シュラインとレイザーズは龍の一家に挨拶をし、興信所への帰路につく。
「来年もまた、このこは彦星に会いに行くと興信所に来るのかな?」
「ええ、そうかもしれないわね。このことは、草間さんには内緒にしておきましょう。また、『うちは怪奇事件お断りだー』って言い出すものね」
「そうだね、じゃあ、コイツはボクとシュラインと織姫だけの秘密だね」

そんな秘密の約束を交わした3人の頭上には、夏の高い星空が瞬いていた……。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4955/レイザーズ・エッジ/女性/22歳/流民】


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■         ライター通信          ■
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はじめまして、この度はご参加誠にありがとうございました。
お二人の外見の印象が対照的で、お二人がどう行動するのかな、といろいろ考えながら、
シュラインさんには情報収集、
レイザーズさんには織姫の相手、
という役割を振らせて頂きました。

多少なり、プレイヤー様のイメージに副えましたでしょうか?

もし、またお気が向かれましたら何卒よろしくお願い致します。