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<東京怪談・PCゲームノベル>


霊駆巨兵ファントムギアトルーパー

■巨兵のいる学園――出会い
「ねぇねぇ、今日は登校しているわよ」
「えっ、誰? あぁ、尾神君ね。今日も一人?」
「ルックスは合格だけど、おとなしすぎるっていうかぁ」
「うんうん、近づき難いわよねぇ。優等生って感じ?」
「でも、実際に成績は良いみたいよ。ほら、この前のテストで」

 女子生徒の話題に上がっている人物は、校庭の端にある長椅子に一人腰掛け、ノートパソコンのキーを叩いていた。周りの声が聞こえない訳ではないし、昼休みの中、同じクラスの生徒も周囲にいない訳でもない。ただ、彼は進んで他人と関わろうとしないだけ。
 ――いつから、僕は一人に慣れてしまったのでしょう‥‥。
 ふと周囲が色めき立つ。明らかに自分への反応ではない。
 ノートパソコンのキーに影が被った。誰かが傍に来たのだ。
 尾神七重は灰色に近い銀の短髪をサラリと揺らし、未だあどけなさの残る麗美な顔を上げる。大きな暗紅色の瞳に映ったのは、長いストレートヘアの銀髪を風に揺らす一人の少女だった。
「あ、あの‥‥」
 七重は言葉を見つけ出そうとしながら、少女の姿を視線で上から下まで流す。何故なら、彼女は西洋人形が纏うような、肩が露わとなった漆黒のドレスに身を包んでいたからだ。前屈みに覗き込む妖美な風貌の胸元から、僅かな膨らみの谷間が覗え、少年は顔を紅潮させて視線を逸らす。西洋人形が青い瞳を微笑させる。
「どうかしまして?」
「いえ‥‥その‥‥学校ですよね、ここ‥‥」
 チラリと少年が視線を少女に流すと、彼女はクスッと微笑んだ。
「この衣装の事ですの? 確かに生徒には見えませんわね。何に見えます?」
 クッと小首を傾げ、相変わらず笑顔を浮かべて少女は訊ねる。七重は導き出された答えを口に出す。
「‥‥幽霊、ですか?」
「まあ」
 彼女は上品に笑った。少年は苦笑する。
 ――だって、やはりここは学校ですし、まるで人形のような女の子が現れたら‥‥それに、この学園は普通じゃない生徒が多いって聞きますし――――
「それもいいですわね☆ では、この幽霊にお名前を教えて頂けます?」
「‥‥尾神、七重です」
 まるで催眠術にでも掛かったような口調で、少年は名前を告げた。すると彼女は、ふわりと隣に回り込み、パソコンを覗き込んで口を開く。
「尾神様は何をなさっていたのです? 皆さんとお遊びになりませんの?」
「尾神、様? 尾神で構いませんよ。僕、身体が弱いから‥‥皆のようには遊べないんです。それに、パソコンなら少しは得意ですし、気になることもありましたから」
 パソコンのモニターには、最近の事故関連の情報が映し出されていた。あの、突風による自然災害と決定された騒動だ。
「この事故が気になりますの?」
「ええ、あれは自然災害なんかじゃありません」
 少年は少女に説明して話した。無口で寡黙な彼だが、1対1なら会話もスムーズに出来る。気付かぬ間に、七重は色々な話をしていた。彼女は微笑みながら聞き、訊ねたものだ。休み時間にこんなに話したのは何日振りだろうか‥‥。もうすぐ昼休みは終わる‥‥。
「‥‥くん、尾神くん?」
「は、はい」
 呼ばれていた事に気付き、少年は返事を返すと、少女は顔を近づけ、大きな瞳を悪戯っぽく細めた。微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと口を開く。
「もし、この学園に同じことが起きたら、どうなさいます?」
「えっ?」
 ――その時だ。
 校舎の窓ガラスが次々に乾いた音を響かせた。降り注ぐ破片に生徒達が悲鳴をあげて逃げ惑う中、忽ち校内外問わず、パニックに陥った。
 呆然と立ち尽した七重は、警戒するように少女へと向き直る。
「えっ? まさか、あなたが‥‥」
 彼女は首を横に振りながら、ゆっくりと後ずさる。
 刹那、二人を分け隔てる如く地面が割れた。
 足元から振動が響き渡ると共に、ゆっくりと割れた地面の下から大きな塊がセリ上がって来る。
「幽霊からのプレゼントですわ」
 少女の声と共に姿を現わしたのは、所謂、体育座りをした形状の人型をした鋼鉄の巨人だった。今は4m位の高さだろうか? これが立ち上がれば倍近くになる事は、中学生の彼にも容易に想像できる。そんな人型ロボットが付近にもう一体確認できた。
 ――ロボット? プレゼント!?
「ぼ、僕に乗れって言うのですか? 僕ではお役に立てません!」
「あら? 歩いていたら的になりますわよ? 走ることもできないのじゃなくて?」
 少女は楽しそうに微笑みながら、長い髪を舞い躍らせ、走り出した。駆けながら彼女は振り向き、立ち尽す少年を瞳に捉える。
「どうして‥‥どうして僕なんですか‥‥」
 正直、七重は困惑していた。
 当たり前だ。ちょっと有意義な昼休みの筈が、突然ネットで調べていた騒動が学園を襲い、追い討ちを掛けるように地面から巨大ロボットが現れたと思うと、それに乗れと言われたのである。漫画やアニメの主人公だって動揺するというものだ。しかも、彼にはアニメの主人公にない欠点があった。
 ――走って逃げる体力がないのだ。
 逃げられれば、運命に逆らう事も出来たかもしれない。だが、少年に『逃げる』という選択肢は見つからなかった。
「乗るだけ、乗ってみますか」
 七重は鋼鉄の身体を見渡す。乗れというならコックピットがある筈だ。しかし、アニメなら頭部や胸部にある筈のものが、見当たらない。14才で小柄な彼には、酷く苦労する仕事だった。
 ――どうして僕なんか‥‥。
 何とか小走りで一周してみる。すると、背中の部分が開いている事に気付いた。ご丁寧に階段状になっており、開いた背中へと誘う準備が整っている。
「まるで旅客機みたいですね」
 少し緊張が解れた気がした。中がどうなっているか分からないが、階段を登る動作に特別な事はない。震える足に喝を入れるように、ゆっくりと少年は登った。ふと耳に飛び込む機械の音。顔を向ければ同じような人型ロボットが立ち上がっていた。
 ――僕だけではないじゃないですか。
 でも、これで戦うとしても、何と戦うのでしょう?――――
 周囲を見渡しても、敵対する対象は見えない。ただ、何かが放たれて被害を起こしているのだけは、割れた窓ガラスで分かる。七重は少し急いで中へと身を投じた。
 少年の瞳に映し出されたのは、複数の座席のある機械の部屋だった。例えるなら、ゲームセンターの横並びになった対戦用筐体が似ているだろうか? 二本のスティックが突き出しており、その周りには複数の赤や青色のスイッチやレバーが覗えた。足元にはレースゲームで目にするアクセルとブレーキに酷似したものが見える。
『もしもし、もしもし聞えますか?』
 突然スピーカーから女性の声が飛び出し、七重はビクッと肩を跳ね上げた。あの少女の声ではない。
『これから空間を障壁で固定しますわ。私達も移動範囲が制限されますが、敵も逃げられませんのよ。その間に退治いたしましょう』
 七重は声の飛び出したスピーカーの傍の席へと腰を降ろした。
「あの、聞えますか? これ、どうやって」
 返事がない。通信には何かしらの操作が必要なのかもしれない。
「オンラインのパソコンゲームでもマニュアル位ありますよ‥‥」
『そろそろ席に着きまして?』
 今度は聞き慣れた声が飛び込み、少年は縋る様に身を寄せる。
「酷いじゃないですか? マニュアルは」
『落ち着きなさって☆ これは霊駆巨兵と呼んでいる人型ロボットですの。またの名をファントムギアトルーパー。FGTでもファンギアでもよろしくてよ♪』
「いえ、そんな事より」
 視界に映る光景では、数体の霊駆巨兵が動き回り、何かと戦いを繰り広げている。振動だって伝わるし、動けなければ的に変わりない。
『この機体は貴方の<力>を原動力として動きますの。スティックを両手で掴んで、足をペダルに乗せて下さいな』
「‥‥こう、ですか? うわっ!」
 少年の手は、スティックに吸い込まれる感覚を覚えた。足も同様だ。何か強力な掃除機に手足を近づけた感覚‥‥或いは蛸の吸盤に吸い付けられた感覚が近いだろうか。
『右足のペダルを踏み込んで<動いて>と念じなさって』
 七重は硬直した。でも、動かさなければ――――
 グッとスティックを握り、上目遣いでモニターを睨む。
「立って下さい!」
 スティックが青白く発光し、激しい振動と共に視界が上昇する。
 不思議な感覚だった。絶叫マシンが上昇する時もこんな感覚なのだろうか。
『まあ、上手ですわよ☆ この機体は貴方の力をフィードバックさせ、念じる事によって巨兵サイズで能力を具現化させられますの』
「具現化‥‥ですか?」
 返事は来ない。つまりタイミングを想定して一方的にメッセージを流しているだけのようだ。
「とにかく、やるだけやってみます!」
 自分でも思っていない位、七重は冷静だった。目の前のモニターに衝撃と、コックピットに振動が伝われば攻撃された事を悟る。
「このままでは機体の中にいても危険ですか。でしたら一撃必殺、一撃離脱を目指します!」
 左のスティックを前方に倒すと機体は前へと動き出した。右のスティックを動かすと、倒した方向へと旋回する。ペダルは踏む度合いによって歩いたり走るようだ。
『今、貴方が戦っているのは妖機怪と呼んでいる敵ですの。敵は何らかの妖怪のシルエットと攻撃を特徴としていますわ』
 少年は赤い瞳を研ぎ澄ます。
 事件の証言やネットで調べた事柄が脳裏へと甦った。何かを腕に抱えた妖怪で飛礫を投げる存在――導き出される答えは――妖怪小豆洗い!!
「障壁展開です!」
 巨兵は掌を前に突き出すと、見えない敵の攻撃が掌の前で弾け、赤い閃光となって次々と散った。しかし、敵を目視する事は出来ない。
 七重は静かに大きな瞳を閉じ、敵の存在をイメージする。彼の能力は<思い浮かべる事で対象の存在を感知する>事が出来るのだ。
「小豆洗い‥‥小豆洗い‥‥そこです!」
 カッと瞳を開くと同時、巨兵のカメラアイがギンッと輝いた。
 突き出した腕の上腕装甲が展開し、蛇の如く青白いエネルギーがのたうち、次第に発光してゆく。七重の能力がまた一つ具現化されようとしているのだ。
「潰れて下さいッ! 重力破壊!!」
 巨兵の腕がエネルギーに一瞬押されながらも、見えないパワーが空気を巻き込んで放たれた。刹那、前方で赤い大きな蜘蛛のシルエットが浮かび上がると共に、何かに押し潰される如く前方から後方へと形状が湾曲して拉げると、ビクビクと痙攣しながら砕け散った。彼の能力<重力操作>が発動したのである。
 モニターに映る巨兵もどうやら敵を撃退したようだ。七重はシートにもたれて深い溜息をもらした。酷く疲れた気がする。
『ご苦労様☆ 格納庫に移動いたしますので、指示に従って下さいます?』
 相変わらず緊張感のない彼女の声が耳に流れていた――――

●霊駆巨兵の意図と謎の少女
 通信により8名の男女が集まっていた。尾神七重、榊船亜真知、天薙撫子、シュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、藍原和馬、月見里千里、ササキビ・クミノだ。生徒もいれば教師もいる。
「お疲れ様でしたわ☆」
 校内の地下である格納庫と呼ばれる場所に現れたのは、あの銀髪の少女だった。選ばれた7名のパイロットが沈黙する中、ズイッと一歩踏み出して口を開いたのはシュラインだ。
「あんたには聞きたい事が山ほどあるのよ、いいかしら?」
「無理もありませんわ。答えられる範囲でよろしければ☆」
 シュラインは確実に怒りを表情に浮かばせていた。なのに少女は相変わらず微笑みを絶やさない。外国語講師である中性的な容姿の女は、軽く溜息を吐いて両手を腰に当てると訊ね始める。
「あのロボは何なの? それに敵の妖怪型ロボも何? 敵とあんた達の背景は? さあ、答えなさい!」
 正に教師の風格だ。彼女の切れ長の視線に見据えられながらも、「そうですわねぇ」と頬に手を当て、少女はゆっくりと口を開く。
「理解できるように順を追って説明いたしますわ。敵は妖怪の魂をコアとして作り出された機械生物ですの。私達は妖機怪と呼んでますわ。妖機怪は恐らく能力者に因って作られているものと推測されますの。目的は分かりませんが町で騒動を起こす存在を見逃す訳にはいきませんわ。そこで妖機怪を退治する為に、霊駆巨兵を誕生させましたの。敵が何者かは現在分かっておりませんが、市街の被害を最低限に抑える為に、この学園を建て、パイロット選定に使わせて頂いてますの☆ きっと起動実験を続けている内に何らかの影響を与えてしまい、敵にキャッチされてしまったようですわね‥‥」
「待ってくれ!」
 慌てて口を出したのは体育教師の和馬だ。
「すると、この学園の生徒達は戦う為に意図して集められたのか?」
「だって、常人には見えませんのよ? どんな事件が起きても、この社会は自然災害や何らかの事故として扱いますでしょう?」
 ――確かに能力には能力で対処しなければならない。
 実は見えない敵が町で騒動を起こしているなどと伝えても、簡単に理解しては貰えないだろう。まして、特殊な能力を具現化する方法など知られた日には、どんな災いが降り掛かるか分からない。
 しかし、その為に――――
「その為に生徒を危険に晒すのは賛成できませんね」
 次に意見したのは家庭科教師のシオンだ。続けて亜真知が軽い調子で発言する。
「あら、学園はわたくし達で守ればよろしいのですわ☆ ね、撫子姉様?」
「確かに、わたくし達に力があり、それを扱えるのでしたら、町の被害を抑えて誘い出し、退治する方が安全かもしれませんね」
「「でしょう♪」」
 亜真知と銀髪の少女は意気を合わせて撫子に微笑む。どうやら性格的に相性が良いのかもしれない。
「まあ、どっちでもいいけど」
 落ち着いた声を響かせたのは、一番後方で腕を組んでいるクミノだ。
「いいの? 私達、生徒なんだけど?」
「え? あたしは別に‥‥まだ、どうしたらいいか分からないしさぁ」
 生徒という立場なら、千里も同じだ。しかし、自分達が戦う為に意図して集められたなどと生徒達に知らせるつもりは現状ない。彼女は短髪を掻く仕草でおどけると、笑って誤魔化す事に決めた。
「ふーん、そう‥‥尾神さんは? 何も言うことないの?」
「僕は‥‥よく分かりません。僕より上手く扱える人がいるかもしれないし‥‥まだ、乗り続けると決めた訳でもありませんから」
 俯き加減に少年は呟いた。すると重い空気を掻き消そうとしてか、銀髪の少女はパンッ☆ と両手は合わせて口を開く。
「生徒達も分かってくれますわ☆ 明日には全校朝礼でお話するつもりですもの♪」
「って、あんた何者なの!?」
「申し遅れましたわ。私はこの麗刻学園の理事を務めている鎮芽・グリーペルと申しますの☆」
 少女はニッコリと笑みを浮かべて見せた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【2557/尾神七重/男性/14歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/外国語講師】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/家庭科教師】
【1533/藍原・和馬/男性/920歳/体育教師】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/女子高校生】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 切磋が再起動して七重さんが一番最初の発注でした。
 数多くの物語に参加されておられるPC様を演出させて頂くのは、なかなか緊張ものでしたが、いかがでしたでしょうか?
 今回は少女との出会いを中心に、戸惑いと決意を演出して描かせて頂きました。
 また参加して頂ける際は、必殺技の名前なんかも考えて頂けると楽しいかなと思います。
 今回はエピソードごとに5本+α分あります。お時間があれば他のPCの活躍も読んで頂けると嬉しいかも。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆