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<東京怪談・PCゲームノベル>


奇跡の宝石

〜 望まぬ奇跡 〜

「探してきてほしいものがあるんだ」
 そう言いながら武彦の向かいに腰を下ろしたのは、なんと十歳ほどの金髪の少年だった。
 少年の表情を見る限りそれほど深刻な事態とも思えないし、なによりこんな子供の依頼では満足な報酬など得られそうもない。
「悪いが、子供の相手をしてるほど暇じゃない」
 武彦はそう言い放つと、片手で少年を追い払おうとした。
 ところが、少年はそんな武彦の様子など一切意に介さず、勝手に話を進める。
「ボクが探してるのは、『奇跡の宝石』って言ってね。
 持っている人の願いを、一つだけ叶えてくれるんだ。
 その代わり、願いを叶え終わったら、持ち主の手を離れ、今度は別の誰かの荷物の中に、こっそりと紛れ込むんだよ」

 どうやら、少なくとも武彦が当初考えていたよりは大きな話らしい。
 が、これではさすがに話が大きすぎる。
 この興信所を訪れる人物が必ずしも外見通りの人物でないことは武彦もこれまでの経験でわかっていたが、「何でも願いが叶う宝石」は、さすがに子供の作り話じみていた。

 武彦がそんなことを考えている間にも、少年は一方的に話を続ける。
「そうして、いろんな人のところを転々としながら、いくつもの奇跡を起こしていく、と。
 この前使っちゃったせいでどこかへ行っちゃったけど、もともとはボクのなんだ」
 そこまで言い終わると、少年はにっこり笑って武彦の顔を覗き込んだ。
「ね、見つけてきてくれるよね?」

 はたして、この少年の話を信用すべきなのだろうか?
 それとも、彼は「怪奇探偵」の噂を聞いてきただけのただのいたずら小僧なのだろうか?
 少し考えた後、武彦の出した結論は、後者だった。

「話はなかなか面白かったが、そんなもの本当に実在するのか?
 それに、百歩譲ってその宝石が実在したとしても、それがお前の持ち物だというのはどうも信じられん」
 武彦がそう答えると、少年は頬をふくらませて一言こう叫んだ。
「信じてくれないんだ。
 そんな意地悪な探偵さんは、アオダイショウにでもなっちゃえばいいんだ!」

 と、次の瞬間、武彦の全身に激痛が走った。

 驚いて自分の身体を見ると、なぜか両手が見あたらなくなっている。
 それどころか、ズボンも左足の方は完全に中身が入っていないように見えるし、身体もなんだかだいぶ、いやかなりほっそりとしてしまっている。

 まさか。

 必死に否定しようとする武彦に、少年は満面の笑みを浮かべて手鏡を向けた。
「いつの間にか、ボクの所に戻ってきてたみたいだね。
 でも、またどこか行っちゃったし……探してくれるよね? アオダイショウさん」

 鏡には、眼鏡をかけて、煙草をくわえたアオダイショウが映っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 見つけることが奇跡? 〜

「で、本当に変温動物になっちまった、と」
 現場にいた零から話を聞いて、守崎北斗(もりさき・ほくと)は半信半疑といった様子でアオダイショウに目をやった。
 にわかには信じがたい話ではあるが、ただの冗談にしては手が込みすぎている。
 何より、電話で助けを求めてきた時の零の慌てぶりは、とても芝居とは思えなかった。
 
 その一方で、少年の方は、特に動揺した様子もない。
「ボクのせいじゃないよ。信じてくれない探偵さんが悪いんだからね」
 彼のその言葉を聞きとがめて、武彦が威嚇するような音を発する。
 そんな武彦をなだめながら、シュライン・エマは少年に話しかけてみた。
「私はシュライン・エマ。あなたは?」
「ボク? ボクは虹野輝晶(にじの・てるあき)だよ」
 そう答えて、少年はかわいらしくお辞儀をする。
 どうにもつかみ所のない感じではあるが、悪意のある相手とも思えない。
 それならば、ここは普通に話を聞いてみるのがいいだろう。
「それじゃ、輝晶くん。その宝石について詳しく聞かせてくれるかしら? 色とか、大きさとか」
「色はほとんど透明で、大きさはちょっと大きめのビー玉くらいかな?」
 まあ、これは想定の範囲内である。
「そのサイズだと、見つけるのは結構苦労しそうだな」
 確かにその通りだが、砂粒ほどの小さな宝石でなかっただけマシだと考えるべきだろう。
「願いを叶えてくれるのは、直接持っている時だけ? それともポケットや鞄の中でも大丈夫?」
「ポケットの中は大丈夫だと思うよ。
 鞄は……どうかな? トランクみたいなのはダメだと思うけど、ハンドバッグくらいなら大丈夫、かな?」
 これも十分に想定できたことではあるが、事件解決のためには大きなマイナスである。
「そうなると、気づかないうちにポケットや鞄に入ってる、ってこともあり得るわけだ」
 ビー玉大の何かが直接身体に触れれば気づかない人は少ないだろうが、ポケットの中、まして鞄の中では気づく方が珍しいだろう。
「願い事は、やっぱり口に出して言わないとダメなの?」
「ある程度の強さだったら、思ってるだけでも叶っちゃうかも」
 これもまずい。叶わないことが前提の突拍子もない願いは、えてして本当に叶ってしまうと大変な騒ぎを引き起こすものだ。
「ますます厄介だな。ちょっと何か考えただけで、願い事扱いになっちまうかもしれねぇのか」
 北斗の言う通り、なんだか話を聞けば聞くほど事態のややこしさが際だってくるような気がする。
「で、願いが叶ったとして、その効果はどれくらい続くの?」
「内容にもよるけど、変化があるのは一瞬。でも、その変化の結果はずっと続くよ」
 さらに、マイナスの材料がまた一つ。
「じゃ、草間もこのままだと一生アオダイショウ? そりゃさすがにまずいな」
 放っておいては元に戻らない、ということであれば、武彦を元に戻すために、一度は宝石の力を借りなければならないだろう。
 そうなると、有効な対策ができない限り、二回は宝石を見つけなければならないということになる。
 その「有効な対策」を考えるためにも、最後の質問に対する答えはきわめて重要なものとなるだろう。
「最後に、一番大事なことなんだけど、その宝石は、願いを叶え終わった後、どこに移動するの?」
 その問いに、輝晶は少し首をひねってからこう答えた。
「願いを叶えた場所から、少し離れたところにいる誰かのところ。だいたい、五メートルから二十メートルくらい、かな?」
「どこへ行ったかわからなくなるほど広くもないけど、誰が持ってるかすぐわかるほど狭くはない、と」
 北斗はそう感想を述べたが、これはなかなか簡単な話ではない。
 人の少ないところならともかく、人が多いところでは、ほとんど誰の手に渡ったか特定できないレベルである。
 まして、近くにビルがあったり、地下街があったりすれば、見失うことも十二分に考えられた。
「うーん……これはなかなか難しいかくれんぼね」
 追いかける方法もこれと言って思いつかないし、そもそも今どこにあるのか見つけるだけでもかなり骨が折れそうだ。

 それでも、北斗はいつもポジティブだった。
「ま、やるっきゃないだろ。これはこれで面白いけど、いつまでもこのままにしておくワケにもいかねぇし」
 確かに、悩んでいても始まらない。
 そう思い直して、シュラインは北斗の方を振り向いて……思わぬ事態に呆然とした。
 なんと、北斗はアオダイショウになった武彦を首に巻いて遊んでいたのである。
「えりまき〜」

 と。
 さすがにこれには頭に来たのか、突然武彦が北斗の首を締めつけた。
「……!! ギブギブギブギブ!!」
 たまらず北斗がタップすると、武彦はまるで本物の蛇のような動きで北斗の腕を伝って机の上に降りる。

 ――早いうちに何とかしないと、本当にアオダイショウになっちゃうかも……。

 やたら適応の早い武彦の姿に、シュラインは言いようのない不安を感じたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 奇跡的な手がかり 〜

「北斗! 大変だ!!」
 守崎啓斗(もりさき・けいと)が草間興信所に飛び込んできたのは、ちょうど北斗たちが探索に出発しようとしていた矢先のことだった。

「どうしたんだ? そんなに血相変えて」
 普段は冷静な兄の豹変ぶりに、北斗はそう尋ねずにはいられなかった。
 こっちだけでも大変だというのに、まさかまた何かトラブルでも起きたのだろうか。
 そんな悪い予感に襲われる北斗をよそに、啓斗は興奮した様子で突然こんな事を言い出した。
「お前、一度でいいから腹一杯食ってみたいって言ってたよな?」
「あるけど、それがどうかしたのか?」
 大山鳴動して鼠一匹と言うべきか、大慌てで駆け込んできたにしてはなんとも小さな話題である。
 北斗が呆気にとられていると、啓斗は小脇に抱えていた炊飯器を下ろし、中の飯で次々と握り飯を作り始めた。
「喜べ! お前の念願が叶ったぞ!」
 みるみるうちに、握り飯が山と積まれていく。
「え? これ、食っていいのか?」
「ああ、どんどん食え! 好きなだけ食っていいぞ!」
 普段は食費がどうのとうるさい兄が、今日は妙に気前がいい。
 一体どういう風の吹き回しかは知らないが、なんにせよ、この好機を逃す手はなかった。

 とりあえず、握り飯の一つを手に取り、一口食べてみる。
 食感や味から判断する限り、これは本物の米に間違いない。
 しかし、これは一体どうしたというのだろう?
「確か、うちにあったコメは昨日全部食い尽くしちまったんじゃなかったっけ?
 明日からは春雨やら高野豆腐やらで何とかするしかないって言ってたような気がすんだけど……」
 その疑問に、啓斗はきっぱり一言こう答えた。
「奇跡が起きた」
 なにか、どこかで聞いたような話だが、そんな細かいことはどうでもいい。
 大事なのは、この山のような握り飯を全部食べていい、ということだ。
 それがはっきりするやいなや、北斗は握り飯を次々と頬張りはじめた。

 そうして、一体どれくらいの握り飯を腹の中に納めただろうか。
 さしもの北斗も、だんだん満腹になってきていた。
 それなのに、握り飯は次々と補充されており、いっこうに減る気配を見せない。
「ちょ、ちょっと待って! いくら俺でも白い飯だけじゃだんだん食い飽きて……」
 やんわりと「これ以上はいらない」という意を示してはみたが、啓斗はてんで聞いていない。
「どうした? 残すなんてお前らしくもない。遠慮せずにどんどん食っていいんだぞ?」
 まったく、人の胃袋をブラックホールか何かだと思っているのだろうか?
 もっとも、そう思われているとしたら、それには普段の北斗の行動が大きく影響しているのだろうが。

 ともあれ、実際にはブラックホールではない北斗の胃袋は、無尽蔵にわき出してくるかと思われる握り飯の洪水の前に、ついに白旗を掲げることを余儀なくされた。
「……っても……もう食えねえ……」
 満腹で幸せなのが半分、食べ過ぎで苦しいのが半分といった状態で、北斗は近くのソファーに倒れ込んだのだった。

「北斗? 食べてすぐ寝ると牛になるぞ?」
 相変わらずピントのずれたことを言う啓斗に、先ほどまで唖然としてことの成り行きを見守っていたシュラインが声をかける。
「啓斗くん、いったいそれどうしたの?」
 それに対する啓斗の答えは、実に驚くべきものだった。
「いや、『いくら食べても中身が減らない炊飯器があったら』と思っていたら、これが急に」
 その言葉に、シュラインと輝晶は顔を見合わせて頷きあった。
「これは、間違いないわね」
「だね」
 事情が飲み込めないのか、不思議そうな顔をしている啓斗に、今度は零がこう尋ねる。
「それは、一体どれくらい前の話ですか?」
「炊飯器を見つけて、すぐこっちに来たから、そんなには経ってないはずだが」
 ということは、宝石はまだ守崎家の近くにある可能性が高い。
「行くわよ! 事情は移動しながら説明するから、啓斗くんも手伝って!」
 そう言うなり興信所を飛び出していったシュラインたちに遅れぬよう、北斗は大慌てで飛び起き、後に続いたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 奇跡は起きるから奇跡 〜

「多分、この辺りにあると思うんだけど」
 一同がやってきたのは、守崎家から少し離れたところにある商店街だった。

 もし、宝石が「次の持ち主」を範囲内の人間からランダムに選んでいるとするならば、確率的には、候補の多い方、つまり人の多い方へと移動する可能性が高い、ということになる。
 そう考えると、この時間、この近辺でもっとも人が集まるこの区域に宝石がたどり着くのではないか、というのが、シュラインの推理の根拠であった。

 とはいえ、もし仮に宝石がこの一帯にあったとして、どうやってそれを見つけたらいいのだろうか?
 とりあえず辺りを見回してみたが、皆一つ以上の鞄と、いくつものポケットを持った人ばかりで、誰が持っていてもおかしくないように思えてくる。

 ひょっとしたら、見つけることなど不可能なのではないだろうか。
 そんな考えがふと頭をよぎり、背筋が寒くなった。

 と。
「それはそうと、なんだか急に寒くなったような気がしないか?」
 啓斗が、不意にこんな事を言い出した。
 言われてみれば、先ほどの寒気も不吉な考えのせいだけではないような気がする。
「啓斗くんも?
 ひょっとしたら私だけじゃないかと思ってたんだけど、どうやらそうじゃないみたいね」
 シュラインがそう答えるのと、北斗が空を指さしたのとは、ほとんど同時だった。
「お、おい、これってひょっとして……」
 空から、何かが降ってくる。
 何か、白くて冷たい、この時期にはまずありえないはずのものが。
「雪、か?」
 呟いた啓斗の手のひらに、季節外れの粉雪がひとひら舞い降りる。
 このあまりに急激な気候の変化に、北斗や啓斗だけでなく、行き交う人々も一様に困惑した表情を浮かべている。
 ただ一人、輝晶を除いては。

「きっと、誰かが『早く冬にでもならないかなあ』って願ったんじゃない?」
 なるほど、輝晶にとっては、全てが明々白々だったらしい。
「って、お前元気だな。寒くないのか?」
 呆れたように言う北斗に、輝晶はさらりとこう返した。
「別に。子供は風の子、って言うでしょ?
 ま、あんまり気にしなくてもいいと思うよ。
 この状態なら、多分次に受け取った人が何とかするだろうし」
 確かに、この状態で多くの人が願うことと言ったら、まずはこの寒さを何とかすることだろう。
 その反動で今度は猛暑、などという可能性もあるが、季節を考えればその方がよほどマシというものだ。

 けれども、事態はシュラインの思ったようにはいかなかった。
「ん? あそこの人は、ちゃんとコートを着ているようだが」
 啓斗の視線の先をたどると、確かに暖かそうな冬物のコートを着た男性の姿が目に入った。
「そりゃまた用意がいいな……って、そんなわけあるかっ!」
 北斗の言う通り、今は夏で、ついさっきまでは暑かったことを考えれば、冬物のコートを持ち歩いていることなど常識的にあり得ない。
 となれば、これもきっと宝石の力によるものだろう。
「あ、そういう解決策を選んじゃったか。じゃ、次の人に期待だね」
 あっけらかんとした表情で言う輝晶。
 まあ、なんにせよ、彼がつい先ほどまで宝石を持っていたことがほぼ確定でき、宝石の現在位置がこの周辺でほぼ間違いないことが証明されただけでも、収穫はあったとすべきだろう。

 と、そのことをシュラインが話そうとした時。
 隣を歩いていた女性が、突然消えた。
 文字通り、一瞬で消えてなくなったのである。
「ねえ、今、隣の人が急に消えなかった?」
 驚くシュラインに、輝晶はなんでもないことのようにこう説明する。
「どこかに行きたい、って願ったのかもね。
 心配しなくても、宝石はこっちに残るから大丈夫だよ」
 寒さに耐えかねて、ハワイか沖縄にでも飛んだのだろうか?
 ともあれ、これでついさっきまで隣の人が宝石を持っていたことは証明された。
 今度こそそう言おうとしたが、それより先に、北斗が身も蓋もないことを口にした。
「これだときりがねぇな。
 いつの間にか、自分のポケットに紛れ込んでるかも知れないんだろ?」
 言われてみれば、確かにその通りだ。
 このままでは、「さっきまで持っていた人」は特定できても、「今持っている人」は全くわからない。
 そして、それはひょっとしたら自分であるかもしれないのだ。
「それに気づかずに何かを願ってしまうと、それと引き替えに宝石を逃がしてしまう、と」
 しかも、その願いは口に出したものだけではなく、頭の中で考えた程度のことでも反応するとなれば、宝石を手元にとどめておくことはとてつもなく難しい。

 そこで、啓斗がこんなことを提案してきた。
「宝石を見つけたい、って考え続けるのはどうだ?」
 ところが、輝晶があっさりとそれを否定する。
「見つかった瞬間に願いが叶ったことになって、またどっか行っちゃうんじゃない?」
 それを聞いて、シュラインはあることに思い至った。
「それなら、呼べばすぐに宝石が手元に戻ってきますように、というのはどうかしら」
 これなら、宝石を手元にとどめておくことができるかもしれない。
 とはいえ、この手の「願いを叶えてくれる品物」に、結果的に「願い事の数そのものを増やす」ような願い事は、はたして有効なのだろうか?
「ん〜……物語とかだと、その手の願いは大抵却下されるんだよなあ」
 北斗も同じことに気がついたらしく、心配そうにそう呟いたが、現時点でこれ以上いい手は思いつかなかった。

 それから数分後。
「あっ」
 不意に、輝晶が大きな声を出した。
「みーつけたっ」
 一同が見守る中で、輝晶はズボンのポケットに手を入れ、ビー玉大の宝石を取り出す。
「呼んだらいつでもボクの手元に戻ってきますように」
 そして、彼は宝石に向かってそう願い――。

 次の瞬間、宝石は急速にその輝きを失い、灰色のただの石になって、静かに崩れ去った。
「ま、こんなもんだよね。奇跡は起きるから奇跡。でも、そう何度も起きないからこそ奇跡」
 つい先ほどまでは宝石だった塵を見つめて、輝晶は小さくため息をついたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 奇跡の理由 〜

 かくして、今回の事件は解決し……ていない。

「ちょ、ちょっと待って! それじゃ、武彦さんはどうなるの!?」

 そう。
 宝石は崩れ去ってしまったが、武彦はまだアオダイショウのままなのである。

「宝石の力を借りる訳にはいかなくなっちまったし……何か手はねぇのか?」
 頭をかく北斗に、考え込む啓斗。
 シュラインは深刻そうな表情を浮かべ、零はあからさまに動揺している。

 そんな一同の様子を見て、輝晶は反対側のポケットから「あるもの」を取り出して、手近にいたシュラインに手渡した。
「じゃ、これあげる。宝石を探すのを手伝ってくれたお礼だよ」
「これは?」
 手渡されたもの――見るからに怪しげな紫色の液体の入った小瓶を不思議そうに見つめるシュライン。
「何か変身しちゃった人が、人間に戻るための薬だよ。
 ただし、変身している時間が長くなればなるほど効きにくくなるから、なるべく早く飲ませてあげてね」
 輝晶がそう説明すると、皆、一様に安心したような表情を浮かべた。
「そんなものがあるなら、先に言ってくれよ」
「ごめーん。ボクも慌ててて忘れてたよ」
 苦笑する北斗に軽く謝ってから、輝晶は一同と別れた。
「それじゃ、ボクはそろそろ帰るね。
 今日は本当にありがとう。
 また何かあったら相談に行くから、探偵さんにもよろしくね」





 なんだかんだで、今日はなかなか楽しい日だった。
 急いで草間興信所に戻っていく四人の後ろ姿を見つめながら、輝晶――いや、「プリズム」は、この後に起こるであろうことを想像して口元を緩めた。

 あの「いくらでも飯が出てくる炊飯器」が、「近くにある他の炊飯器から中のご飯を調達している」ことに、守崎兄弟が気づくのはいつのことだろう?
 ひょっとしたら、「うちのご飯が消えるんです」という依頼が、草間興信所に転がり込むかもしれない。
 そうなったら、武彦ははたして真実にたどり着けるだろうか?

 そして、武彦がアオダイショウに変身した時、服やメガネはそのままだったことを、はたしてあの四人は覚えているだろうか?
 薬が効かなくなるかもしれないと嘘を言って脅かしておいたから、おそらく、そんな些細なことまでは気が回らないだろう。
 アオダイショウを連れて探索に来ていればもっと面白いことになったかもしれないが、まあ、別にそこまでする必要はない。

 それよりなにより、あの探偵とその周囲の人々は、想像した以上に面白そうだ。
 うまくすれば、この先もいい暇つぶしの相手になってくれるかもしれない。

「さて、と。次は何をして遊ぼうかな」
 ぽつりとそう呟いて、「プリズム」は夕暮れの街へと消えていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 0554 /   守崎・啓斗  / 男性 / 17 / 高校生(忍)
 0568 /   守崎・北斗  / 男性 / 17 / 高校生(忍)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
 また、ノベルの方、大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で五つのパートで構成されております。
 そのうち、二つめのパートにつきましては、啓斗さんのみ違ったものになっておりますので、もしよろしければもう一つのパターンにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(シュライン・エマ様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 シュラインさんには、今回もまとめ役をお任せしてしまいましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
 最終的に宝石はあんなことになってしまいましたが、まあ、これはこの手のアイテムのお約束ということで。
 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。