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<東京怪談・PCゲームノベル>


霊駆巨兵ファントムギアトルーパー

■巨兵のいる学園――少女パニック
「千里〜♪」
 廊下の窓から外の風景を眺めて彼女を呼ぶ声が飛び込む。月見里千里は走って来る少女に顔を向け、笑みを投げた。
「何よ慌てちゃって」
「ハァハァ‥‥千里よ、学生の昼休みは貴重なのだぞ!」
 オーバーね、と苦笑する彼女だが、納得できない事もない。確かに普段同じ教室なら兎も角、他のクラスの娘と話が出来るのは昼休みか放課後位なものだ。
「それで?」
 千里は小首を傾けて用件を促がす。
「うちの部を手伝ってくれるって話なんだけどさ」
「あー、新聞部で特集する例の都内突風騒動でしょ? あれなら進んでるわよ」
「頼りになるよ〜、でね、もう一件お願いしたいんだけどぉ」
 少女は両手を合わせて軽くウインクして見せた。
「何よ? 退屈しのぎになるなら協力するわよ」
 そう。彼女は暇潰しの為に新聞部の知り合いから頼まれた記事作成を引き受けているのだ。しかし、少女からの依頼に素っ頓狂な声をあげる事となる。
「はあ? 深夜の怪音調査ァ!?」
「そう! 前に忘れ物した生徒が夜中に校内に侵入した時の話なんだけどさ‥‥聞いてる?」
 千里は不意に両手で耳を塞いでいた。彼女は怪談話が苦手なのだ。
「それ、あたしパス‥‥」
 えへへと笑って、彼女は短い茶髪をポリポリと掻いて見せる。
「うーん、駄目かぁ? それで真っ暗な廊下を歩いていると」
「いやあぁぁッ聞きたくなーいッ!」
 ペタンとしゃがみ込み再び両耳を塞いだ。細身で身長の高い千里が蹲って怖がる姿に、つい悪戯心が芽生えたらしい。
「ごめんごめん。あ、私そろそろ行くね♪」
 妙な恰好のまま取り残された。これはチョット恥かしいかも。
 千里は何事もなかったようにスックと立ち上がり、頬を赤らめながらも気付かれぬように再び窓から空を眺めた。
「いい天気ねぇ〜帰ったらゲーセンにでも行こうかな〜」
「あの‥‥千里さん?」
 半信半疑な呼ばれ方をした彼女は、窓枠に頬ずえを付いたまま顔を向ける。視線をちょい下に向けると知った顔が映った。
「零ちゃん?」
 少女は自分の知っている千里だと確認すると安堵感に顔を綻ばせる。対する千里は訝しげに眉を跳ね上げた。
「あの、千里さんもここの生徒だったんですか?」
「そーよ、少なくとも草間兄妹より先に転入しているわ」
「‥‥えっと、怒ってます?」
 零が困ったような表情で、千里の顔を覗き込む。
 別に彼女とて怒っている訳ではない。ただ、最近になって転校して来た零や、教師となって潜り込んでいる草間武彦に警戒しているのだ。自然と身構えた態度が機嫌を損ねたように見えるのだろう。
「やっぱり、怒ってます、ね?」
「怒ってないわよ! いったい何しに」
「ちさとー? 家庭科実習のオカズ余ったんだけど食べなーい?」
「あ、うん食べる♪ それじゃ、あたし行くからね」
 クラスメイトに呼ばれた彼女は、教室へと戻って行った。
「‥‥やっぱり怒ってるみたい‥‥!?」
 零の瞳が研ぎ澄まされ、窓の方角へと視線を流す。
 刹那、校舎の窓ガラスが次々と乾いた音を響かせた。
「あれは‥‥千里さん伏せてッ!」
「なに? きゃッ!」
 教室の窓ガラスが順序良く次々と割れ出し、中へと破片が飛び込んで来る。忽ち生徒達の悲鳴が室内に響き渡った。
「これって‥‥あの騒動と同じ?」
 身を屈めた千里の目の前に赤い雫が零れ落ち、茶色の床が深紅に染まる。視線をゆっくりと上げると、嗚咽を洩らす傷だらけのクラスメイトが映った。
「千里さん、私、兄さんを探して来ます!」
 ――この騒動を追っていたの? それとも偶然?
「ちょっと待ってよ!」
 直後、けたたましいサイレンの音がスピーカーから飛び出す。
『全校生徒に連絡します。直ちに指定された避難口に移動しなさい。これは避難訓練ではありません。繰り返します‥‥』
 学級委員が指揮を取り、生徒達を誘導する中、制止する声に逆らい、千里は零の後を追う。再び放送が廊下に響き渡る。
『避難防御壁を展開させます。落ち着いて指定通りの通路を速やかに移動しなさい。他の通路は危険ですので指示に従いなさい』
「危険って言ってるけど‥‥な、なに?」
 刹那、廊下が激しい振動に襲われたかと思うと、彼方此方の壁がスライドして空間を変容させてゆく。
「ちょ‥‥わっ」
 千里は次々にスライドしてゆく足場で、ふらつきながらもバランスをとって駆け抜ける。しかし、それも限界が訪れた。
「千里さんッ!」
「うっそおぉぉぉッ!!」
 ありえなーいと言わんばかりの表情で、彼女は奈落の底へと落ちて行ったのだ。端の方から悲鳴のような叫び声をあげる零の顔が映ったが、ものすごい速さで小さくなり、やがて漆黒の闇に包まれた。
 ――あぁ、あたし、こんな死に方しちゃうんだ‥‥
 まだまだやりたいゲームやコスプレがあったのに‥‥
 あっ、発売日もうすぐだったっけ――――
「(お父さんお母さん家政婦さん先立つ不)痛ッ!」
 地の底への激突は予想以上に早かった。
 背中を強かに打ったものの、命に別状はないようだ。
 人の感覚なんて誤差は付き物。かなり落ちたと感じていたが、背中の痛みが事実を証明している。
「大丈夫ですか?」
 未だ仰向け状態で動かない千里の視界に、不安気な表情の少女が映る。長い銀髪と整った風貌は、どこか西洋人形を連想させた。
「今度は天使ちゃんの御出座しって訳?」
 驚く気力も無い千里は、顔を崩して呟いた。
「まあ、あなたは天使と仰って下さいますのね♪」
 何故か少女は上機嫌で微笑んだ。千里も力なく苦笑するしかない。もうどうにでもなってと言う心境か。
「それより、そろそろ起きて下さいます? 邪魔になりますわ」
「は? 邪魔? 今あたしの事を邪魔って言った?」
 むくッ半身を勢い良く起こす。よく見渡せば自分が階段状の場所に倒れていたと知った。何故? という表情を浮かべる千里に、銀髪の少女は告げる。
「乗って下さるなら邪魔ではありませんわよ」
「乗る? あたしが? 何によ?」
「霊駆巨兵ファントムギアトルーパーにですわ」
「れいくふぁんぎぱー?」
 素っ頓狂な声を響かせる千里に、少女はズイッと顔を近付ける。
「まあ中に入りましょ☆ ささ、こちらですわよ♪」
 カンカンッと靴音を響かせて上へと登る。ドレスを翻してクルリと振り向くと「おいでおいで」と手招きしながら微笑んでいた。
「‥‥天使撤回‥‥幽霊ね」
 ジトッとした目で少女を睨むと、千里は警戒しながら少女を追って中へと潜り込んだ。
「!? どうして筐体がこんなに‥‥」
 千里の瞳に映ったのは、複数の座席のある機械の部屋だった。例えるなら、ゲームセンターの横並びになった対戦筐体が似ているだろうか? 二本のスティックが突き出しており、その周りには複数の赤や青色のスイッチやレバーが覗えた。足元にはレースゲームで目にするアクセルとブレーキに酷似したものが見える。彼女には馴染み深い物ばかりだ。必然的にムクムクと好奇心が鎌首を持ち上げる。
「なになに? どこのメーカーの筐体なの? 似た物がコンシューマーにもあったわね♪ 操作方法も同じかなぁ」
「‥‥喜んで頂けて光栄ですわ」
 流石に困惑した表情を浮かべる銀髪の少女。漫画なら頭の上に大きな汗マークが浮かんでいるに違いない。しかし、はしゃがせてばかりもいられないのが事実だ。
「説明致しますわね? この機体は貴方の<力>を原動力として動きますの。スティックを両手で掴んで、足をペダルに乗せて下さいな」
「そっか、この左のスティックで移動して、右のスティックで上下角の補正で、ペダルを踏むと動くんでしょ♪」
「‥‥殆ど当りですわ。この機体は貴方の力をフィードバックさせ、念じる事によって巨兵サイズで能力を具現化させられますの。これで、学園を襲っている妖機怪と呼んでいる敵を退治して下さいませ。では、頼みましたわ☆」
「任せてよ。こういうのは意外と得意な‥‥ちょっと!?」
 千里が顔を向けると、少女の姿はない。沈黙するコックピット。
 ちょっと悪寒を感じながらも、ブンブンと頭を横に振り、意識をコントロールに集中した。
「月見里千里、行くわよ!(今度はコスチュームも作らなきゃ♪)」
 スティックが青白く発光し、激しい振動と共に視界が上昇する。
 刹那、一気に床がセリ上がり、千里の機体は地上へと姿を見せた。見渡せば他にも同じ機体が駆け巡り、何かと戦いを繰り広げている。
『もしもし、もしもし聞えますか?』
 突然スピーカーから女性の声が飛び出す。
『これから空間を障壁で固定しますわ。私達も移動範囲が制限されますが、敵も逃げられませんのよ。その間に退治いたしましょう』
「OK! と言いたいけど‥‥敵って‥‥小豆洗いなのはネットで調べは着いているんだけど‥‥」
 千里には敵の姿が見えなかった。
「あたし‥‥どうしたらいいんだろ‥‥きゃッ! 直撃!?」
 何かが機体に命中し、激しい振動がシートを揺らす。
「防ぐのが先よね! えっと、月見里千里はシールドを召喚ッ!」
 巨兵が左腕を前へ突き出すと、上腕装甲が展開し、蛇の如く青白いエネルギーがのたうった。刹那、光の粒子が集い、左手に頑丈そうな盾が出現する。
 千里の<1日に3回、空中の分子を変質固定し自ら望むものを瞬時に作り出す事ができる>能力が具現化したのだ。見えない攻撃はシールドの前で火花を散らして失散していた。
「行けるわ! このまま接近すれば‥‥あれ?」
 盾から伝わる小さな振動が止んだ。次の瞬間、側面から激しい衝撃がコックピットを強襲した。
「くッ! 周り込まれた!? きゃッ! 今度は後ろ!?」
 右スティックを動かしながらペダルを踏み込む。視界がグリルと移動すると、後方を捉えた。そこに映ったのは同型の巨兵だ。
「えっと通信機は、これかな? チョット、誰? 味方に弾を撃つなんて!」
『感謝されても文句を言われることはないわ』
「えっ?」
 視界を再び前方へと回すと、ササキビ・クミノの放ったペイント弾により、妖機怪のシルエットが浮かび上がっていた。巨大な蜘蛛を模った機械。手に持つのはザルのような物体。そして、片方の手はザルを掻き回し、中からマメのようなモノを取り出しては放り投げていたのだ。
「見えたわ! 行っけーッ!」
 千里が左スティックを叩き込み、ペダルを一気に踏み込むと、巨兵がシールドを構えながら肉迫する。
「あたしのターン! ゴールドハンマーを召喚ッ!」
 巨兵は距離を詰めると、巨大な金色に輝くハンマーを手に具現化させた。小豆洗いも執拗に攻撃を放つが、視界に捉えられればシールドで防ぐのも容易だ。千里の機体は上段から勢い良くハンマーを振り下ろす。
 鈍い打撃音が響き渡り、蜘蛛の頭部は胸部に押し込められながら潰れた刹那、光の粒子を失散させながら消滅するに至った。
「やったわ! ありがとね☆」
 クミノの機体に向けて親指を突き出すが、リアクションは返って来ない。代わりに通信機から緊張感のない少女の声が流れて来た。
『ご苦労様☆ 格納庫に移動いたしますので、指示に従って下さいます?』

●霊駆巨兵の意図と謎の少女
 通信により8名の男女が集まっていた。尾神七重、榊船亜真知、天薙撫子、シュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、藍原和馬、月見里千里、ササキビ・クミノだ。生徒もいれば教師もいる。
「お疲れ様でしたわ☆」
 校内の地下である格納庫と呼ばれる場所に現れたのは、あの銀髪の少女だった。選ばれた7名のパイロットが沈黙する中、ズイッと一歩踏み出して口を開いたのはシュラインだ。
「あんたには聞きたい事が山ほどあるのよ、いいかしら?」
「無理もありませんわ。答えられる範囲でよろしければ☆」
 シュラインは確実に怒りを表情に浮かばせていた。なのに少女は相変わらず微笑みを絶やさない。外国語講師である中性的な容姿の女は、軽く溜息を吐いて両手を腰に当てると訊ね始める。
「あのロボは何なの? それに敵の妖怪型ロボも何? 敵とあんた達の背景は? さあ、答えなさい!」
 正に教師の風格だ。彼女の切れ長の視線に見据えられながらも、「そうですわねぇ」と頬に手を当て、少女はゆっくりと口を開く。
「理解できるように順を追って説明いたしますわ。敵は妖怪の魂をコアとして作り出された機械生物ですの。私達は妖機怪と呼んでますわ。妖機怪は恐らく能力者に因って作られているものと推測されますの。目的は分かりませんが町で騒動を起こす存在を見逃す訳にはいきませんわ。そこで妖機怪を退治する為に、霊駆巨兵を誕生させましたの。敵が何者かは現在分かっておりませんが、市街の被害を最低限に抑える為に、この学園を建て、パイロット選定に使わせて頂いてますの☆ きっと起動実験を続けている内に何らかの影響を与えてしまい、敵にキャッチされてしまったようですわね‥‥」
「待ってくれ!」
 慌てて口を出したのは体育教師の和馬だ。
「すると、この学園の生徒達は戦う為に意図して集められたのか?」
「だって、常人には見えませんのよ? どんな事件が起きても、この社会は自然災害や何らかの事故として扱いますでしょう?」
 ――確かに能力には能力で対処しなければならない。
 実は見えない敵が町で騒動を起こしているなどと伝えても、簡単に理解しては貰えないだろう。まして、特殊な能力を具現化する方法など知られた日には、どんな災いが降り掛かるか分からない。
 しかし、その為に――――
「その為に生徒を危険に晒すのは賛成できませんね」
 次に意見したのは家庭科教師のシオンだ。続けて亜真知が軽い調子で発言する。
「あら、学園はわたくし達で守ればよろしいのですわ☆ ね、撫子姉様?」
「確かに、わたくし達に力があり、それを扱えるのでしたら、町の被害を抑えて誘い出し、退治する方が安全かもしれませんね」
「「でしょう♪」」
 亜真知と銀髪の少女は意気を合わせて撫子に微笑む。どうやら性格的に相性が良いのかもしれない。
「まあ、どっちでもいいけど」
 落ち着いた声を響かせたのは、一番後方で腕を組んでいるクミノだ。
「いいの? 私達、生徒なんだけど?」
「え? あたしは別に‥‥まだ、どうしたらいいか分からないしさぁ」
 生徒という立場なら、千里も同じだ。しかし、自分達が戦う為に意図して集められたなどと生徒達に知らせるつもりは現状ない。彼女は短髪を掻く仕草でおどけると、笑って誤魔化す事に決めた。
「ふーん、そう‥‥尾神さんは? 何も言うことないの?」
「僕は‥‥よく分かりません。僕より上手く扱える人がいるかもしれないし‥‥まだ、乗り続けると決めた訳でもありませんから」
 俯き加減に少年は呟いた。すると重い空気を掻き消そうとしてか、銀髪の少女はパンッ☆ と両手は合わせて口を開く。
「生徒達も分かってくれますわ☆ 明日には全校朝礼でお話するつもりですもの♪」
「って、あんた何者なの!?」
「申し遅れましたわ。私はこの麗刻学園の理事を務めている鎮芽・グリーペルと申しますの☆」
 少女はニッコリと笑みを浮かべて見せた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【2557/尾神七重/男性/14歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/外国語講師】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/家庭科教師】
【1533/藍原・和馬/男性/920歳/体育教師】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/女子高校生】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 数多くの物語に参加されておられるPC様を演出させて頂くのは、なかなか緊張ものでしたが、いかがでしたでしょうか?
 今回はゲーム好きという点と好奇心旺盛ながらも警戒心が強い雰囲気を演出させて頂きました。
 また参加して頂ける際は、必殺技の名前なんかも考えて頂けると楽しいかなと思います。
 そして是非コスチュームを作って下さい(笑)。
 今回はエピソードごとに5本+α分あります。お時間があれば他のPCの活躍も読んで頂けると嬉しいかも。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆