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<東京怪談・PCゲームノベル>


霊駆巨兵ファントムギアトルーパー

■巨兵のいる学園――巫女神乱舞
「さあさあ、急いで下さい。転入早々遅刻なんて嫌ですからね」
「あん、待って下さいさせ撫子姉様〜」
 朝の陽光が注ぐ中、二人の若い女性は足早に人通りの少ない山道を歩いていた。一人は、上品な眼鏡を掛けた和服を纏う黒髪の大和撫子で、遅れて付いて来るのは、真新しい制服に身を包んだ長いストレートヘアを風に揺らし、神秘的な雰囲気を醸し出す可憐な美少女だ。
 互いに甲乙付けがたい風貌の彼女達だが、山裾に敷かれた路上には気に止める視線は無い。二人の姿を確認しているのは、朝の囀りを交わす小鳥たち位だろうか。
「亜真知さん、楽しそうですね」
 傍を歩く義妹に優しそうな視線を流し、天薙撫子は話し掛ける。制服姿の榊船亜真知はニッコリと微笑んだ顔を向け、細い両手を胸元で合わせた。
「ええ、何か楽しそうな事になりそうですわ♪ そんな予感がしますの☆」
「まあ、それは神さまの勘、というものかしら?」
「そうですわね。ええ、きっとそうですわ」
 冗談のような会話だが、亜真知は全宇宙的規模の神さまと呼ぶに近い『超高位次元知的生命体』である。外見は愛らしい16才位のものだが、実は999歳を越えているのだ。
 和服の美少女が柔らかく微笑む。
 ――お手伝いして上げて下さいね。
 そう親戚に頼まれて、撫子は補助教諭として国語・古典系を担任する為に、麗刻学園へと足を運んでいるのだが、対する亜真知は興味本意で付いて来ていた。それ故にこれから始まる新たな生活に対する思いも違う。
「あ、見えて来ましたわ♪ あれが麗刻学園ですのね☆」
 二人の目の前に広がる広大な土地の中に、三つの校舎で形成された巨大学園が姿を見せた。人里から離れた場所にある全寮制の総合学校――麗刻学園。彼女達の新たなステージは動き出そうとしていた。

●迷子の迷子の‥‥
「困りましたね、もうお昼の時間になってしまいます」
「それでは、お弁当をお食べになります?」
「いえ‥‥そうではなくて‥‥新任早々無断欠勤‥‥亜真知様も無断欠席です。これはご理解できます?」
「あら、学園には早く着き過ぎる位に間に合いましたわ。無断欠席ではありませんわよ」
 悪びれることもなく、亜真知は答えた。さすが神さま。許容レベルが段違いだ。オマケにこの状況も楽しんでいるように見える。
 ふわりと笑みを浮かべると、撫子は薄暗い天井を見上げた。
「‥‥そうですね、無事に出口が見つかれば遅刻で済みますから」
 ――そう、彼女達は迷っていたのだ。
 あまりにも早く学園に辿り着いてしまった為、暇つぶしにと学園内を散策する事にしたまではよかった。しかし、「次はこの角を曲がりましょう♪」「あら、鍵が掛けてありますわ。えいっ☆」「まあ、地下への階段ですわよ♪」「あらあら〜‥‥あれ〜?」と、進む度に床を照らす明かりは薄暗くなってゆき、現在は稼働を止めた大きな工場内のような所に佇んでいる訳である。普通なら明かりが薄暗く感じた時点で引き返すのだが、彼女達は神さまと霊能力に秀でた巫女だ。常人レベルの不安感はノープロブレムという所か。
「それにしても、どうして校内の地下にこんな設備が‥‥!」
 ――撫子が白いハンカチで頬の汗を拭いた時だ。
 青白い照明が次々に天井から注ぎ込み、彼女達は眩しさに目を細める。二人の瞳に映ったのは、所謂、体育座りをした恰好の巨大な人型だった。照明の反射で鋼鉄製である事が推測できる。
「鎧、の、巨人‥‥?」
「まあ、体育座りなんて愛らしいですわね♪ あ、動き出しましたわ」
 戸惑う姉と対照的に妹は興味津々だ。
 二人が見守る中、ベルトコンベアに運ばれるように、数体の人型が移動し、リフトアップされてセリ上がってゆく。撫子は呆然と、亜真知はハシャギながら光景を眺めていた。
「いかがですか? 霊駆巨兵を見た感想は」
 不意に背後で響き渡る澄んだ声。
 二人が我に返り、研ぎ澄ました視線を流すと、瞳に映ったのは西洋人形のような銀髪の少女だった。歳は14才位だろうか。長いストレートヘアに漆黒のドレスを纏う彼女はニッコリと微笑んで訊ねる。
「お乗りになりません? 外は敵の攻撃を受けて大変ですの」
 妖美な雰囲気を醸し出す少女は経緯を手短に話した。
 町で起こった騒動のこと。同じことが学園で起きていること。騒ぎを起こした存在を退治する為に、鋼鉄の人型ロボットが作られたこと。そして――――
「あなたのような特殊な能力をエネルギーとして駆動しますの。ですから、これは特別な方しか操れませんわ。乗って下さいます?」
「あの‥‥でも、これって」
「いいですわよ☆ わたくし乗りますわ♪」
「亜真知様!?」
 撫子を置いて二人の美少女は微笑み合う。仕方が無いと深い溜息ひとつ。
「‥‥承知いたしました。乗らせて頂きます」

 ――背中に入口がありますからお入り下さいな☆
 言われるままに二人は巨人の背中にある階段を登った。勿論、先を楽しそうに走るのは亜真知だ。
「まあ☆ あれですわ、ゲームセンターとかいう場所にある‥‥」
「筐体でございますよ、亜真知様」
 そう、それは確かに筐体に酷似していた。
 尤も、撫子も亜真知も遠くから実物を見た事があるだけで、詳しくは分からなかったが、二本のスティックが突き出しており、その周りには複数の赤や青色のスイッチやレバーが覗え、足元にはペダルのようなものが見える。
「それでは撫子姉様、後ほど☆」
 義姉に振り向くと、亜真知は小首を傾げて笑顔を浮かべた。何ゆえ後ほどなのかと撫子は言葉を見つけ出すのに苦労する。やっぱり分からない。義妹は笑顔のまま返事を待っているらしい。ここは訊くのが早いかもしれない。
「‥‥亜真知様? 後ほどとは、どのような意味があるのですか?」
 困惑しつつも笑顔を浮かべる撫子に、亜真知は数回瞬きを繰り返す。
「あら? 何を仰っていますの? 巨人は1体ではありませんのよ?」
 確かに複数あったように思い出された。次第に義姉は端整な風貌を引き攣らせる。
「まさか‥‥別々に乗る、と言うことですか?」
「当然ですわ☆ 敵がおりますのよ? 数は多い方が有利ですわ♪」
 眩しいほどに屈託の無い笑顔だった。確かに亜真知の言う事も尤もだ。多勢に無勢という言葉もある。しかし、初めて動かすのに不安感は無いのだろうか? さすが神様だ。
「‥‥そ、そうですね。分かりました」
「頑張りましょうね☆」
 肩を落とし、撫子は諦めたように背中を向けてコックピットから離れる。背後では手を振って見送る亜真知の楽しそうな声が響き渡った。きっと満面の笑顔に違いない。

「さあ、動かしますわよ」
 早速シートに腰を降ろす亜真知。一通りコックピットのスイッチやスティック、レバーなどを見渡すと、瞬時に機能を読み解いた。彼女の能力<全電脳の操作・支配>である。
「リフトアップして下さいませ。霊駆巨兵、発進しますわ♪ 撫子姉様? 席に着きまして?」
 通信機を操作して訊ねると、疲れたような義姉の声が流れた。
『ええ‥‥。亜真知様‥‥楽しそうですね』
 モニターに映し出される視界が上昇する。
「撫子義姉様、絶叫マシンってこんな感じなのかしら♪」
『分かっておられますか? 戦うのですよ?』
「ええ、分かってますわ。撫子姉様も操縦頼みますね。さあ、地上に出ますわよ」
 外の陽光が僅かに射し、亜真知は瞳を細めた。でも感覚的には長いトンネルを抜けて曇り空に出くわしたようなものだ。空はどんよりと暗雲が発ち込めており、いかにも普通の状況ではないと神様の勘が答えを導き出す。
『あ、子供達が‥‥亜真知様、このまま戦えば被害が増えるだけです!』
 視界の下方では、逃げ惑う生徒達が先生達に誘導され、避難している最中だった。パニックに陥った子供達は指示通りに動けず、中には蹲って立ち止まる生徒までいる。
「結界を展開し、周囲の空間から切り離しますわ! もしもし、もしもし聞えますか? これから空間を障壁で固定しますわ。私達も移動範囲が制限されますが、敵も逃げられませんのよ。その間に退治いたしましょう」
 巨兵が上半身を捻り、左右の腕を突き出す。上腕の装甲が突き出し、青白い竜がのたうつ如くスパークが迸る中、腰を回転させると周囲に半透明の波紋を描き出した。
「結界完了ですわ。さあ、敵を探し出しますわ‥‥きゃッ!?」
 目に見えない何かが飛来し、衝撃にコックピットが揺れる。敵の推測は二人とも導き済みだ。これは所謂、飛礫が命中した衝撃。
 ――敵は妖怪小豆洗い!
『龍晶眼を発動させます!』
 撫子の声が通信機から発せられると、亜真知はモニターの視界を流して、義姉の駆る巨兵を捉える。
 刹那、巨兵の両腕が発光し、次第に機体全身は青白い光に包まれた。背中に三枚の羽根のようなものが延び、シルエットが浮かび上がる。それは、背に三対の翼を生やした東洋の天女の如き姿だった。
 手に巨大な太刀を構え、刀身を優麗な額に翳す。ギンッと巨兵の瞳が閃光を放つと、敵のシルエットが浮かび上がった。巨大な蜘蛛を模った機械。手に持つのはザルのような物体。そして、片方の手はザルを掻き回し、中からマメのようなモノを取り出しては放り投げていたのだ。
「見えました!」
 ――龍晶眼。
 『全て』を見極める神眼。全ての事象を見通す事も可能となる撫子の能力である。
 彼女の瞳には、妖機怪の姿も数も捉えられていた。
「数は5体! 距離は、わたくしから東5m、西10m、北西15m、北5m、20mです。更に展開」
 撫子は通信機で捉えた数と距離を随時報告してゆく中、一番近い妖機怪へ瞳を走らす。
「右手に神斬! 左手に妖斬鋼糸! 必殺ッ!」
 巨兵は軽やかな機動音を響かせながら駆け出し、左手の鋼糸を薙ぎ振るった。1体の妖機怪の蜘蛛を模ったシルエットへ絡めて身動きを制すると、もがく敵へ太刀を構え肉迫!
「天魔! 断! 絶!!」
 閃光が残像を描いて叩き込まれた。妖機怪は十文字に切断面を覗かせ、弾けるように失散する。
「こちらは片付けました」
『ご苦労様☆ 格納庫に移動いたしますので、指示に従って下さいます?』
 予想を裏切り、響き渡った声は銀髪の少女のものだった――――

●霊駆巨兵の意図と謎の少女
 通信により8名の男女が集まっていた。尾神七重、榊船亜真知、天薙撫子、シュライン・エマ、シオン・レ・ハイ、藍原和馬、月見里千里、ササキビ・クミノだ。生徒もいれば教師もいる。
「お疲れ様でしたわ☆」
 校内の地下である格納庫と呼ばれる場所に現れたのは、あの銀髪の少女だった。選ばれた7名のパイロットが沈黙する中、ズイッと一歩踏み出して口を開いたのはシュラインだ。
「あんたには聞きたい事が山ほどあるのよ、いいかしら?」
「無理もありませんわ。答えられる範囲でよろしければ☆」
 シュラインは確実に怒りを表情に浮かばせていた。なのに少女は相変わらず微笑みを絶やさない。外国語講師である中性的な容姿の女は、軽く溜息を吐いて両手を腰に当てると訊ね始める。
「あのロボは何なの? それに敵の妖怪型ロボも何? 敵とあんた達の背景は? さあ、答えなさい!」
 正に教師の風格だ。彼女の切れ長の視線に見据えられながらも、「そうですわねぇ」と頬に手を当て、少女はゆっくりと口を開く。
「理解できるように順を追って説明いたしますわ。敵は妖怪の魂をコアとして作り出された機械生物ですの。私達は妖機怪と呼んでますわ。妖機怪は恐らく能力者に因って作られているものと推測されますの。目的は分かりませんが町で騒動を起こす存在を見逃す訳にはいきませんわ。そこで妖機怪を退治する為に、霊駆巨兵を誕生させましたの。敵が何者かは現在分かっておりませんが、市街の被害を最低限に抑える為に、この学園を建て、パイロット選定に使わせて頂いてますの☆ きっと起動実験を続けている内に何らかの影響を与えてしまい、敵にキャッチされてしまったようですわね‥‥」
「待ってくれ!」
 慌てて口を出したのは体育教師の和馬だ。
「すると、この学園の生徒達は戦う為に意図して集められたのか?」
「だって、常人には見えませんのよ? どんな事件が起きても、この社会は自然災害や何らかの事故として扱いますでしょう?」
 ――確かに能力には能力で対処しなければならない。
 実は見えない敵が町で騒動を起こしているなどと伝えても、簡単に理解しては貰えないだろう。まして、特殊な能力を具現化する方法など知られた日には、どんな災いが降り掛かるか分からない。
 しかし、その為に――――
「その為に生徒を危険に晒すのは賛成できませんね」
 次に意見したのは家庭科教師のシオンだ。続けて亜真知が軽い調子で発言する。
「あら、学園はわたくし達で守ればよろしいのですわ☆ ね、撫子姉様?」
「確かに、わたくし達に力があり、それを扱えるのでしたら、町の被害を抑えて誘い出し、退治する方が安全かもしれませんね」
「「でしょう♪」」
 亜真知と銀髪の少女は意気を合わせて撫子に微笑む。どうやら性格的に相性が良いのかもしれない。
「まあ、どっちでもいいけど」
 落ち着いた声を響かせたのは、一番後方で腕を組んでいるクミノだ。
「いいの? 私達、生徒なんだけど?」
「え? あたしは別に‥‥まだ、どうしたらいいか分からないしさぁ」
 生徒という立場なら、千里も同じだ。しかし、自分達が戦う為に意図して集められたなどと生徒達に知らせるつもりは現状ない。彼女は短髪を掻く仕草でおどけると、笑って誤魔化す事に決めた。
「ふーん、そう‥‥尾神さんは? 何も言うことないの?」
「僕は‥‥よく分かりません。僕より上手く扱える人がいるかもしれないし‥‥まだ、乗り続けると決めた訳でもありませんから」
 俯き加減に少年は呟いた。すると重い空気を掻き消そうとしてか、銀髪の少女はパンッ☆ と両手は合わせて口を開く。
「生徒達も分かってくれますわ☆ 明日には全校朝礼でお話するつもりですもの♪」
「って、あんた何者なの!?」
「申し遅れましたわ。私はこの麗刻学園の理事を務めている鎮芽・グリーペルと申しますの☆」
 少女はニッコリと笑みを浮かべて見せた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【2557/尾神七重/男性/14歳/中学生】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/外国語講師】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/家庭科教師】
【1533/藍原・和馬/男性/920歳/体育教師】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船・亜真知/女性/999歳/女子高校生】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 はじめまして♪ 切磋巧実です。
 数多くの物語に参加されておられるPC様を演出させて頂くのは、なかなか緊張ものでしたが、いかがでしたでしょうか?
 初めは二人で一機に搭乗するのかと綴りましたが、実は一機単体搭乗なのですね。PC様の親元が同一だとツマラナイかなと思い、戦闘パートのみ視点が分かれています。
 具現化能力の使い方GOODです☆ 霊駆巨兵は姿も変わる事も考慮して、素体みたいにシンプルなデザインとしています。
 また参加して頂ける際は、必殺技の名前なんかも考えて頂けると楽しいかなと思います。
 今回はエピソードごとに5本+α分あります。お時間があれば他のPCの活躍も読んで頂けると嬉しいかも。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆