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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



「きゃあああああああああっっ!」
 奇声のような悲鳴が、ファーストフード店に響いた。
 周囲の人物がそちらを注目する。マイ・ブルーメもその一人だった。
「な、なああああっっ! なんですか、この不吉としか言いようのない写真はっっ!」
 黒髪の少女が金髪の少年の襟首を掴んで前後に揺する。少年は「あうあう」と声を洩らしていた。
 黒髪の少女の横では、もぐもぐとハンバーガーを食べているボブカットの少女もいる。どうやら人数は全部で三人のようだ。
「朱理! なにを他人事みたいにもぐもぐ食べてるんですか! あなたのことなんですよ!」
「べつにぃ。だってあんまり気にしないし」
「少しは気にしてください! 頭に包丁刺さった写真なんて、洒落になってないじゃないですか!」
「包丁みたいなものだって。こんなにぼんやり光る包丁があるわけないじゃん」
 そういう問題ではない。
 黒髪の少女はテーブルに手をバン! と叩きつける。
「これは……きっと何かあります。絶対に!」
「あっそ」
「『あっそ』ではありません! この写真はプール! 写っているのはあなた! しかも、包丁が頭にあります! 何かの警告かも……」
「だとさ。正太郎はどう思う?」
 ボブカットの少女が視線を少年に向けると、あ、と小さく声を出す。
 少年は揺さぶられすぎて、気絶していた。
「あ、あのぉ……」
 そしてそこへ、声がかかる。少女二人はそちらを見遣った。



「何かお困りですか?」
 騒ぐ二人の少女に、遠慮しつつ声をかけたのはシスターである。名前はマイ・ブルーメ。
 困っているならと彼女たちに声をかけたのである。
(あら。可愛らしいお嬢さんたちですね)
 そう思っていると、小柄な少女が訝しそうに見てきた。
「尼さん? 尼さんもハンバーガーとか食べるんだ。へえー。都会ってそういうもんなの? 奈々子」
「ちょ! なんて失礼なこと言うんですか、あなたはっ!」
 黒髪の少女が、容赦なくその頭を殴りつける。ごす、と嫌な音が響いた。
 ぐったりして動かなくなった少女を無視して、黒髪の……奈々子と呼ばれていた少女が苦笑する。
「す、すみません。朱理は思ったことをすぐに口にしてしまうんです。気を悪くなさらないでくださると嬉しいんですが……」
「あ。大丈夫です。私は気にしていませんよ」
 ゆったりと微笑するマイの言葉に、奈々子は安堵して胸を撫で下ろした。
 マイはテーブルの上に置かれた写真へと視線を移す。
(これは……心霊写真?)
 一瞬、どういう反応をしていいかわからなくなった。
(す、すごい写真……)
 はは、は。
「後ろのプールの場所、私、知っています」
「えっ! 本当ですか!?」
 マイの言葉に奈々子が瞬きする。
 マイは頷いた。
「はい。このプール、学校のプールです」
「どこの学校か知ってるんですか?」
「もちろんです」
「あ、じゃあ案内してもらえますか!?」
 うなずこうとしたマイは、むくりと起き上がった朱理という名らしい少女が奈々子を軽く睨んで彼女の腕を抓ったのを見てしまう。
「いったぁ!」
「あのさ、これはあたいの問題でしょ? いいよ。あたいが行くから」
「なんで抓るんですかっ」
 赤くなった腕を見て、奈々子は涙を浮かばせている。相当痛かったようだ。
 マイはどうするべきか悩んで二人を見遣った。
「あ、ごめんごめん。自己紹介遅れたね。あたいは高見沢朱理。こっちは一ノ瀬奈々子。で、あっちで気絶してるのが薬師寺正太郎。しがない高校一年生だよ」
「私はマイ・ブルーメと申します。見ておわかりと思いますが、シスターをしています」
「……まんまだよね、格好が」
「朱理っ!」
 怒られた朱理だったが、特に気にした様子もない。
「でさ。この写真の場所がわかってるって言ってたよね。あたいを案内してくれるかな?」
「いいですよ」
 にっこり微笑むマイに、朱理も笑って返す。
 だが。
「一人で行くつもりですか、朱理!」
「包丁の写真だなんて、物騒じゃん。奈々子が行くことないよ。あたい一人で十分」
「このバカッ! あなたみたいな考え無しが一人で行って、うまくいくとでも思ってるんですか!」
 立ち上がって両手を腰に当てる奈々子の剣幕に、マイは苦笑してみせた。
「では皆さんで行きましょう」



「マイさんって、シスターなんだ」
「はい。尼とは違いますよ」
 ふぅんと朱理は呟く。
 結局のところ、マイ、朱理、奈々子の三人で行くことになった。
 電車に揺られる三人は、他愛無い会話をしている。
「そりゃそうだ。尼さんは仏教だもんね」
「そうですね」
「じゃあマイさんはクリスチャンなの?」
「そういう……わけでは」
「なんでシスターなんてしてんの? クリスチャンでもないのに」
「あ……ええっとぉ……」
 困るマイ。
 朱理が奈々子に殴られた。
「やめなさい! 困ってるでしょう、ブルーメさんが!」
「っつう……。すぐ暴力を振るう……」
「いいんですよ、奈々子さん。私は気にしてませんから」
「そういうことを言うと、この子は付け上がるんです!」
 まるで保護者のようなことを言う奈々子の言葉に、マイは小さく微笑する。
(面白い二人ですね)
 マイは電車の外を眺めた。
 遠い昔、マイは写真に写った場所に勤めていたことがある。だから、場所を知っていたのだ。



 そこは木造の校舎。裏手にあるのは、新しく作られたと思われるプールだ。
「ここです」
「年代物ですねぇ」
 感心する奈々子の言葉に、マイは頷いた。
 時代が時代だから閉鎖されているとは思ったが……やはりそれでも、懐かしさと切なさを感じさせる。
「裏側にプールがあります。そちらに行きましょう」
「ん」
 了解する朱理の横で、奈々子が真っ青になって立ち尽くしている。
 マイが不思議そうに彼女を見た。
「? どうしました、奈々子さん?」
「あ、あ、……あそ、こ」
 ぷるぷると震える指で示した先にはセーラー服姿の少女が立っていた。
 荒んだ瞳で見据える少女は、まっすぐ朱理を見ている。
(あれは……!)
 マイが目を見開く。
 数十年前に見たことのある少女だった。それが、今なお、あの時と同じ姿でそこにいる。
(どうして?)
 ゆらりと赤い光を立ち上らせた少女は朱理を、つい、と指差した。朱理もそれにならって「あたい?」とばかりに己を指す。
「なんで朱理なんですか……?」
「わ、わかりません」
 首を緩く横に振るマイ。
(あの子は幽霊? そんな……)
 記憶を探る。
 そういえば病弱で、途中で学校を辞めていったような。
(もしかして、ずっとここに?)
 マイは愕然とし、そして朱理のほうを見る。
(どうして朱理さんなの?)
 朱理に奈々子がしがみつく。
「指名されてますよ、朱理!」
「みたいだね」
「呑気に言ってる場合ですか!」
「ま、待ってください! あの人、見覚えがあるんです! 悪い子ではないはず……!」
「でも!」
 言い合っている二人を見遣り、朱理が一歩前に出た。
「わーったわーった。あたいがアイツの相手をしてやるから、その間にあの幽霊を説得する方法を二人で探しておくれよ」
「朱理!?」
「だってあたいを指名してんだろ?」
「バカなこと言ってないで、逃げますよ!」
 奈々子が朱理の首に手を回して、駆け出す。喉を締め付けられ、朱理がくぐもった声をあげたが、奈々子は無視した。
 マイも奈々子に続いて走り出す。
 セーラー服の少女は校舎の前に立ったままで、動こうとはしない。
「…………」
 朱理はそれを見て、顔をしかめた。

 夕方。
 朱理は一人でまたあの学校に来ていた。
 セーラー服の少女がぼうっと現れる。
 朱理は目を細めた。
「理由がわかったんでね、指名された身としてはやっぱちゃんと後始末しないとね」



「おばあちゃん?」
 ぼんやりとした視界の中で、娘がそう言う。
 白い部屋だ。揺れるカーテン。
 遠い昔……これと同じ光景をずっと見ていた。中学校の頃だ。
「おばあちゃん、意識が戻ったの!?」
 嬉しそうに顔を歪める娘。その横には孫の姿もある。
 ああ、戻ってきたのだ。
「……悪いねえ。ちょっと、少ししか通ってなかった学校がなつかしくてね……」



 夕暮れの中、マイと奈々子は病院を振り返った。
「朱理さん、なんとかしてくれたみたいですね。良かった」
「まさか生霊だったとは、驚きましたよ」
「ええ。彼女は中学の頃、途中で学校を辞めてしまったんです。元々病気がちだったので。でも、その後治ったと聞いていましたから」
「…………」
 無言でマイを眺める奈々子。
「なんだか……そんな昔から知ってるみたいな言い方ですね」
「えっ!」
 ぎょっとしたマイが顔を引きつらせて苦笑した。
「あ、あはは……」
 おーいと掛け声が聞こえる。振り向けば、朱理がこちらに向けて走ってくるのが見えた。
 マイと奈々子は微笑み合い、歩き出す。
「でもあのおばあさん、そんなにあの中学に思い入れがあったんですね」
「そうですね。人は昔を懐かしく思って、そして戻れたらと願うものではないでしょうか……」
 マイは空を見上げる。朱色の空はとても綺麗で、病院を照らしていた。
(そういえば……あの子のお見舞いに来た時も)
 こんな空だった。
 懐かしい、遠い記憶。
 きっと治りますよと励ましたマイを、彼女は辛そうに見つめていた。治るわけがないと、半分は諦めた瞳で。
 それを克服したのだ。
(長生き、してくださいね)
 もう一度だけ病院を振り返って、マイは駆け寄った朱理を見つめる。
「どうでした?」
「どうって……べつに。たいしたことしてないよ」
「無茶はしてないでしょうね?」
 じとりと見てくる奈々子を見て、朱理は「信用ないなあ」とぼやいてみせた。
 マイは今日一日見てきて、この二人のことを……少しはわかったと思う。
 妙な能力を持つようだが悪人ではない。
 だから。
「あの、私……16歳と言ってましたが」
 実は――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【0126/マイ・ブルーメ(まい・ぶるーめ)/女/316/シスター】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、マイ・ブルーメ様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 あまり切なくないかもしれませんが……いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。