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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


FAKE FAMILY

 世間知らずな機械人形に家族というものを教えてやって欲しい。
 レンにより集められた面々は、某日、某所にあるマンションの一室に集まっていた。
 レンが事前に用意していた場所である。
 人形は物珍しそうに部屋の中を見まわしていた。
「さーて、これから俺達は数日だが家族になるわけだ。とりあえず役割分担を決めないか?」
 それぞれの自己紹介を終えてから、最初に口を開いたのは製菓会社で働いているというサラリーマン・相澤・蓮だった。学ラン姿の中学生・草摩・色が「さんせーい」と手を挙げる。
「とりあえず俺がお兄ちゃんということで・・・」
「はあ?それは有り得ないだろ。兄貴は俺、あんたは親父。これで決定だよなあ?」
「お・・・おや・・・っ?」
 顔をしかめる蓮だったが・・・
「そうだね。その方がしっくりくるかなあ」
 アパート「しめじ荘」の管理人・綾香・ルーベンスが同意した。その横で堕天使だというニルグガルも頷いている。
「お・・・俺ってそんな歳なのか・・・・・・?」
「おっさん29歳って言ったっけ?全然ありなんじゃねーの」
 人形の外見は12歳くらいだ。17歳の時の子供。確かに今時珍しくないのかもしれない。
 そんな事実を認識させられ、蓮はかなりの衝撃を受けていた。
 彼が沈んでいる間に他のメンバーで役割分担を続ける。
「ニルグガルさんはお兄さん?それとも外見的にお姉さんがいいのかな?」
「・・・姉で」
「姉・・・って、いいのかおい。あんた男・・・」
「姉で」
「・・・そーかよ・・・」
「じゃあ、私がお母さんかな。ちょっと見た目的に無理があるかもしれないけど」
「よっしゃ。それで決定なっ」
 色は頷くと部屋の中をうろうろしていた人形を引っ張ってきた。
「と、いうわけで俺が兄貴」
「私が姉」
「私がお母さん」
「・・・俺が父親・・・ということになったようだ」
「よろしくなっ!」
 人形は一同の顔を見まわし、嬉しそうに微笑む。
「はい。よろしくお願いします」
「はい、ストップ」
 色が人形の頭を軽くはたいた。
「何でしょう?」
「敬語禁止。家族ってのは普通敬語なんて使わねーんだぞ」
「え・・・そうなんですか?」
 首を傾げる人形に綾香がクスクスと笑う。
「何だか本当に何にも知らないんだね。まあ、これからゆっくり覚えていけばいいんだけど。ところで、君の名前は何ていうのかな?」
「名前はないんだ。所有者がつけることになってるから」
「そっかあ。じゃあ私が命名を・・・んーっと・・・スットコとか?」
「却下」
「有り得ない」
「センスゼロだな」
 色、ニルグガル、蓮とリズムよく上がる抗議の声に綾香は不服そうに頬を膨らました。
「じゃあ、何がいいの?」
「うーん・・・?お前さ、本気で名前ねーの?」
 色の問いに人形は首を傾け、
「製造番号ならD−1だったけど」
「D−1」
 四人は顔を見合わせ同時に頷いた。
「決まりだな」
「うーん・・・スットコもいいと思うけどなあ・・・」


【握った手〜ニルグガル・―〜】


「で、ディー。お前、何がしたい?」
 結局単純に「ディー」と呼ばれることになった人形は、蓮を見つめ言った。
「僕、本当に何にもわからないから・・・。お父さん達がしたいことでいいよ」
「お・・・お父さん・・・?」
「あれ・・・?こうやって呼ぶんだよね・・・?違った・・・?」
 不安そうな顔をするディーに蓮は首を横に振る。
「いやいや合ってる合ってる。そうか・・・お父さんか・・・悪くない響きだな・・・」
 すっかり気を良くした蓮は色とニルグガルの肩を抱き寄せた。
「お前らも遠慮なく俺のことは父さんと呼んでくれて構わないからな」
「・・・ノリノリだな、あんた」
「目が輝いてますね」
「それでいいんだよ。だって私達、家族になりにきたんでしょ?」
 家族。
 ニルグガルを召喚した魔術師は家族のことを「居心地がよくてあたたかくいいかげんなもの」と言っていた。
 彼には・・・良くわからないけれど。
 隣の色が蓮を見上げ、呟いた。
「・・・父さん」
「よしっ、いい子だ」
 すっかり父親になりきった蓮は色の頭を撫でまわす。
「わっ、こら!何すんだよっ、鬱陶しいっつーの!」
 暴れる色をディーが不思議そうな目で見つめていた。
「ほらっ、撫でるならディーを撫でてやれよっ!メインはあいつっ!」
 蓮は「そういやそうか」と手を打つとディーの頭を撫でてやった。
「え・・・何・・・?」
「親子のスキンシップだ」
 何やら嬉しそうなディーにニルグガルは顔をしかめる。
「何だ。お前も撫でて欲しいのか?」
「は?いえ・・・そういうわけでは・・・」
 聞く耳なし。
 蓮は彼の頭をめちゃくちゃに撫でまわす。
「どうだ?何か親子って感じするだろ」
「いえ、全然」
 そもそも「家族」というものの感覚がわからないのだ。
 そろそろ鬱陶しくなってきたので逃れようとする前に、色が声をあげていた。
「で、結局どうすんだ?」


 現在の時刻は午前10時。とりあえず綾香と蓮で昼食の用意。その間、色はディーを学校に連れていってやることにしたらしい。特にやることもないので二人についていくことにする。
 午後は皆で遊園地へ行く予定になっていた。
「ほら、ディー。ここが俺の教室」
「ここで皆勉強するんだよね」
「そ。良く知ってるじゃん」
 色は教壇の上に立った。ディーとニルグガルを机に座らせる。
「今日は特別。お兄ちゃんが勉強を教えてやるよ」
「本当!?」
「私は別に必要ありませ―――」
 色が投げたチョークが頭にヒットして、ニルグガルは言葉を止めた。
「敬語禁止」
「・・・私は別に必要無い」
「たまにはいーじゃん。学校の勉強ってのもなかなか楽しいもんだぜ?もしかして馬鹿なことがばれるのが怖いんじゃねーの?」
 何だか引っ掛かる言い方だ。ニヤニヤ笑っている色の目をニルグガルは真っ直ぐに見つめ返す。
 そして一言。
「やる」
「よし」

 一度はやる気になったものの、結局数分で飽きてしまった。
 教室を出て、校舎内を適当に歩く。今日は休日らしく、生徒の姿は疎らだった。
 校庭に出てみると、すっかり荒れ果てた花壇が目に入った。長い間、誰も手入れをしていなかったのだろう。ニルグガルは花壇の前にしゃがみこみ、土を整え始める。
 何時の間にか夢中になっていたようで。
 しばらく声をかけられていることに気付けなかった。
「・・・ディー、色」
「迎えにきてみれば・・・」
「ニルグガル姉ちゃん、何やってるの?」
「庭いじり」
「楽しい?」
「退屈ではない」
「へえー」
 ディーの目はどういうわけかキラキラと輝いている。
 レンはこの人形に色々なことを教えてやって欲しいと言っていた。ただし「血なまぐさいこと」以外で。
 そうなるともう、自分にはこれしかないわけで・・・
「・・・教えてあげようか」
「本当!?」
「おいおい、教えるも何も庭いじりだろ?適当にやりゃいーんじゃねーの?」
「いい、ディー?まずは・・・」
「無視かよ・・・」
 最終的には色もしゃがみこんで土を掘り返し始めた。
「雑草は根元から抜くんだよ」
「わーってるよ」
「根元から・・・根元から・・・」
 三十分後には花壇はすっかり元々そうだったであろう姿に戻っていた。
「これで花の種を植えれば綺麗に咲くはず」
「すっごーい!ありがとう、ニルグガル姉ちゃんっ」
「・・・」
 心の底から嬉しそうなディー。目を瞬かせるニルグガルの肩を色がつついた。
「どーしたんだよ、ぼーっとして」
「いや・・・まさかこんなに喜んでもらえるとは思わなくて・・・」
 驚いたのだ。


「お父さんっお母さん!色兄ちゃんとニルグガル姉ちゃんもっ。あれ乗ろう!あれっ」
 昼食後、予定通りに遊園地に向かった。
 入場してから1時間。
 ディーはすっかりエンジンがかかってしまったらしく、大はしゃぎだった。見るもの、乗るもの、全てが珍しいのだろう。
 正直に言えば、ニルグガルも同じような心境だ。こんな場所、滅多に来るような機会はない。ディーはどんどん先に進んでいく。ニルグガルはそれを見失わないように見張っていたのだが・・・
 ほんの少し目を離した隙に、ディーの姿が無くなっていた。
 振り返り、蓮に声をかける。
「・・・お父さん」
「どうした娘」
「ディーがいなくなった」
「はあ!?」
 蓮の間の抜けた声と同時に、隣の色が驚いたように顔を上げ、綾香が顔を真っ青にしていた。
「少し目を離した隙に・・・気付いた時にはいなかった」
「うっわ・・・そりゃ不味いな。はぐれたか」
「これだけの人だもんね・・・」
「っだあ!だらだら話してる場合かよ!捜すぞ!!」
 色の声に全員が同時に頷いていた。

「おい・・・ディーは何であんな所に居るんだ・・・?」
 捜しまわること数分。すっかり息を切らした一同は、一本の木の前で立ち止まっていた。
「この女の子の風船を取ってあげようとしたみたいだよ」
 そう言う綾香の傍らには幼い少女の姿がある。
「おーいっディー!とっとと下りて来ーいっ」
 色の呼びかけにディーは首を横に振った。登ったはいいが、下りれなくなってしまったようだ。蓮が声を張り上げる。
「大丈夫だ、ディー。ゆっくり足を下ろして・・・」
 蓮の指示に従い、ディーは足をゆっくりと動かす。
 が
「あ」
 思わず声をあげていた。
 落ちる・・・!!
「危ない!!」
 四人の声が見事にはもった。

 一瞬間後。木の下には互いにぶつかりあって地面に突っ伏す四人の姿。
「当然、同時に飛び出せばこうなる」
 ぶつけた頭を擦りながら、冷静に状況判断するニルグガル。色が勢い良く上半身を起こした。
「ディーは!?」
 ディーのことは蓮がしっかりと受け止めていた。
「び・・・びっくりした・・・」
「びっくりしたのはこっちだ!」
「え?」
 蓮に強く抱きしめられ、ディーは顔をしかめる。
「あの・・・何で皆そんな必死な顔なの・・・?」
 服についた砂をはらって、綾香がディーに微笑みかけた。
「それはね、皆あなたが心配だったから」
「心配・・・?」
「家族がいなくなりゃ誰だって心配するし、家族が怪我しそうになったら誰だって必死になるもんなんだよ」
 口に入った砂を吐きだしながら色。
「だからね。家族にはあまり心配のかけすぎは駄目」
「そう・・・なんだ」
「はい、ここでお父さんから教訓」
 蓮がディーの背中を一回ぽんっと叩く。
「こういう時は”ごめんなさい”だ」
「それと心配してくれて”ありがとう”・・・かな?」
 微笑みながら綾香も言った。ディーは四人の顔を順番に見つめ―――
「・・・ごめんなさい。・・・ありがとう」
「よし。良い子だ」
 蓮がディーの頭を優しく撫でた。


 帰り道、五人の長い影が伸びる。
 真ん中にはディー。その両隣には色とニルグガル。両端に蓮と綾香。
 それぞれが手を繋いでいた。
「俺達ちゃんと、家族に見えてるのかな」
 そう言ったのは色だ。蓮が「ははは」と笑う。
「何言ってんだ、見えてるんじゃなくて家族だろ」
「ねえ?」
「家族」
 それはきっと、血の繋がりがなくてもなれるもので。
 特に決まりとかそういうものはない「いいかげんなもの」。
 それでもニルグガルはほんの少し・・・胸の奥に温かなものを感じていた。
 それが何なのかはわからないけれど。
 居心地は・・・悪くない。
 悪くなかった。


「ニルグガル姉ちゃん、あの花壇どうなったかな?」
「・・・そうだね。・・・今度、花の種を植えに行ってみる?」
「行くっ!」


 握った手が温かくて。
 あの魔術師が言っていた「家族」というもの。
 今なら少し、理解できるかもしれない。


fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC

【5054/ニルグガル・―/男性/15/堕天使・神秘保管者】

【2675/草摩・色(そうま・しき)/男性/15/中学生】

【5546/綾香・ルーベンス(あやか・るーべんす)/女性/26/アパートの管理人】

【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29/しがないサラリーマン】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターのひろちです。
前回に引き続きありがとうございました!

今回は初家族ということで、書く方にもかなり力が入りました。
ニルグガルさんにはお姉さんを担当して頂きました。
人形や他のPC様と一緒ににんびり過ごして頂いたのですが・・・いかがでしたでしょうか?
春になったら学校の花壇には人形とニルグガルさんが植えた花が綺麗に咲くかもしれませんね。
もしよろしければ他の三つの納品作品にも目を通してみてください。
内容的には同じですが視点が違っていますので。

本当にありがとうございました!
またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。