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ゆうしゃたん
●プロローグ
「おねがいです、わたしをゆうしゃとしてきたえてください」
と、そのちっさな女の子はオドオドと興信所にやってきました。
ドアの影から「じーっ」と警戒心をあらわに見つめながら。
逃げてー! ロリコンな怪奇探偵に食べられちゃうー!!
「誰がロリコンだ! 誤解を招くような風説の流布はやめろ!!」
‥‥コホン。
さて、そのかわいらしい容姿に似合わず勇者志願の娘はおびえたような口調で懇願します。よく聞こえないけど。
「おねがいです。わたしをせかいをまもれるだけの『ゆうしゃ』にそだてて」
「はぁ? 育てるって‥‥お前をか?」
「ひっ!」
ズダダダッと逃げて再びドアの影に隠れる自称勇者の女の子。
「‥‥‥‥」(じー)
「‥‥‥‥」(汗)
「‥‥あ、あの、わたし、がんばります‥‥いっしょうけんめいがんばりますから‥‥」
「まずそのひらがな喋りを何とかしろ」
「はうあ!! ご、ゴメンナサイゴメンナサイがんばります!!」
「‥‥まあ、別にいいけどさ」
なんだかとりつくしまもない。
「で、育てるって何を期待してるんだ?」
「ゆ、勇者として相応の知識や技や、能力や、理想の姿、振る舞いなどをおしえていただけたらと‥‥」
「随分欲張りだな」
「ごめんなさいごめんなさい! 本当にごめんなさいいぃ!!!」
額をこすりつけるように土下座する。見事な謝りっぷりだ。
――この子、本当に勇者になんて育てられるの?
ちなみに、勇者ちゃんは戦闘力は低く能力もなく、ドジの鏡と褒め称えるような素晴らしい覚えの悪さです。きっと手間のかかることでしょう。貧乏なので依頼料もありません。
ただし、勇者ちゃんはやる気だけはあるようです。
もしかして、万が一、ひょっとしたら、勇者として大成するかも‥‥奇跡的な確率でしょうが。
【シナリオ傾向 勇者さま育成/想像以上に物覚えが悪いです】
※尚、「勇者さま育成コース」と「魔王さま育成コース」(アトラス編集部)とがございます。
この両者のバトルが発生するかもしれません。
●ゆうしゃたんと6人の師匠!
志羽 武流(しば・たける) は、神聖都学園大学部の薬学部の学生だ。
友人との待ち合わせ場所に行こうとしたが、道に迷って草間興信所にやって来てしまった。
「ここは、草間興信所‥‥? あ、来客中だったのか」
「あれ、にーちゃん? うんそう、珍しいお客で取り込んでるからさーちょっとばかし待っててよ」
事務所から顔をのぞかせて返事をした 志羽 翔流(しば・かける) は、武流の双子の弟だ。
高校生にして大道芸人でもある。
「そっか、邪魔をしてすみません‥‥って、翔流! 何故お前がここにいる!」
芸人武者修行と称して、勝手に家出した双子の弟を連れ戻すよう神社の宮司である祖父に命じられた武流は、それを口実に上京して、薬学部に進学した。そして弟は無事見つけ出したのだが、6年間という条件つきの約束で自由奔放にさせている――そんな関係の兄弟なのだ。
「えーとまあ、成り行き?」
あはは、と笑いながら翔流は頭をかいた。たしかに道に迷ってやってきた興信所に弟が先に居る――なんて状況に出くわして武流が驚くのも無理ない話だ。
翔流はことのあらましを説明した。
「――成る程、この子が勇者になりたいと。しかし、こんな小さな女の子には無理なんじゃないかな?」
「まあね、俺もはじめに聞いたときは信じられなかったけどさ。『何、この子? はぁ!? 勇者だって?』‥‥て感じで」
しかし、嘘のような本当の話とはこのことで、彼女は勇者を自称していることは紛れもない事実だ。応接室のソファにびくびくとして座っている女の子は、とてもおびえているように見えて、勇者などという柄にはけして思えないのだけれど‥‥。
「それでもこの子はゼッタイ勇者ちゃんなんだもん☆」
パタパタと背中の翼を羽ばたかせて、小柄な少女が飛び出した。
別世界からやっきた竜族、 ファルス・ティレイラ(ふぁるす・てぃれいら) だ。勢いよく勇者に抱きつくとむぎゅ〜っとじゃれつくように抱きしめた。あたふた腕を振る勇者ちゃん。
「あっ、はわ、ふぎゅ〜〜〜‥‥!!」
「安心しちゃってね。私がしーっかりと、一人前の勇者にしてあげるからっ!」
真っ赤になりながらも勇者ちゃんはコクコクと頷いた。
「それくらいにしてあげてね。‥‥でないとその子、真っ赤になって倒れちゃいそうよ?」
ファルスの後から草間興信所の事務員 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) も、事務所の奥からお茶を運んできた。
人数分の湯のみを用意するシュラインに並んで、 海原 みなも(うなばら・みなも) もお茶出しを手伝っていく。
「みなもちゃんがいてくれて助かったわ。勇者ちゃんの噂を聞きつけたのか来客が多くって大変だったのよ」
「そんな、私のほうこそ急に立ち寄りご迷惑をおかけして‥‥学校帰りにアルバイト探しに寄ってみたんですけど、はじめは本当に驚いたんですよ」
そして、やわらかい笑顔で当然のように言った。
「ついに『勇者』さんまで現れましたか。草間さんって“すごい”ですね」
思わずお茶を吹きかける武彦。
「‥‥だそうよ。ふふ、良かったわね、武彦さん」
「あのな、俺は知らないからな、ったく‥‥」
イジワルそうに横目でシュラインが見つめると、武彦はそっぽを向くように顔をそらした。
「とりあえず、学校終わってからしかお付き合いできませんけど、あたしもお手伝いしてもいいですか?」
みなもが何事もなかったように話を戻すと、視線を向けられたファルスに抱きつかれたままの勇者ちゃんは、またコクコクと頷いてみせた。
「‥‥お手数をおかけしますが、よろしく、おねがいします‥‥っ!」」
「何かを目指そうとする人を見ていれば、あたしも何かつかめるかもしれませんし‥‥それに困っている人は見過ごせませんから」
「いやぁ、その心意気はえらい! この俺も感心したよ!」
冷えた麦茶を飲み干して、湯のみをドンとテーブルに置いた 雪ノ下 正風(ゆきのした・まさかぜ) が「くぅー!」と仕切りに感心する。
オカルト作家にして気功拳士でもある正風だが、草間興信所に遊びに来ると可愛い女の子を発見し、そのまま可愛い女の子に徹底して甘い性格から勇者特訓の手助けをすることを快諾したのだ。
ひとしきり感心した正風は、ようやく素に戻ると、武彦と女の子を見比べた。
そして一言。
「‥‥草間さんの隠し子ですか?」
「「そんなわけあるかー!!!」」
武彦とシュラインの必殺Wパンチで吹っ飛ぶ正風。
「全く、これまで何を聞いていたのかしらね!」
「‥‥俺はわかるが、どうしてシュラインまで‥‥」
「あ‥‥、ふふ、条件反射でなんとなく‥‥ね?」
誤魔化すようにシュラインが席に戻ると、正風がすっくと立ち直り、何事もなかったような優しい微笑みで勇者ちゃんに話しかけた。
「‥‥とにかくだ、勇者になりたいのなら‥‥ひたすら特訓するのみだ!」
「は、はい‥‥! よ、よろしく‥‥おねがいします‥‥っ!」
正風は勇者ちゃんの手を取ると、お持ち帰り態勢に入って自分の家の道場に案内しようとする。
「まずはお兄ちゃんの家の道場においで♪」
「「「「そんなあぶないことできるかー!」」」」
と、止められた。
ちなみにこのときの必殺合体パンチで天井を突き抜けた正風が再び落下してくるまでの滞空時間はかなりのものだったらしい。
シュラインは腰落して、勇者ちゃんと視点あわせる。
「初めまして‥‥私はシュライン・エマ、この興信所の事務員よ。あなたのお名前は?」
握手で自己紹介しつつ訊ねてみる。
「‥‥名前は、ないのです」
と、勇者を自称する女の子は答えた。
彼女の話によると、名前とは栄誉であり存在そのものを表すそうだ。女の子は勇者となる使命を帯びてこの世界に現われた。しかし、本当の勇者になったわけではなく、この小さな女の子が真の勇者になれたときに、初めて名前が与えられるのだという。
ファルスは不思議そうに目をしばたたかせた。
「え〜っ! でもそれって名前を呼ぶのに不便だよねっ? とりあえず勇者ちゃんって呼んじゃうよ?」
「は、はい、‥‥それでけっこうです」
「勇者ちゃん☆ でもでも、勇者ちゃんってやっぱりかなり変わってるよね!」
「‥‥名前の由来も変わっていますが、勇者として存在している話それ自体が、不思議といえば不思議です‥‥」
みそのの疑問は誰もが感じていたことであった。
突然現われて勇者になりたいという勇者。
世を乱す魔が現われたとき、その邪悪を討伐すべく世に使わされる勇気ある者――
「勇者の正体についてはいくらか仮説は出せるだろうが、今問題になっているのはまさにこいつが、この瞬間、この場所にいるという状況に俺たちが立ち会っている事実だろうな」
タバコの煙をくゆらせながら武彦が呟いた。武流と翔流は今の言葉に違和感を感じて、武彦に怪訝そうな視線を向ける。
「ふぅん‥‥随分と抽象的な物言いだねー」
「俺も同じことを感じた。具体的にどういうことだ?」
勇者はなぜこの場に現われたのか、その理由を探るよりも重要なことがあるといっているような武彦の口ぶり――しかし、勇者の謎以上に重要な事があると言いわれても正直なところピンとこない。
二人の疑問に武彦は簡潔に答えた。
「俺達にとっての問題は、こいつを特訓して一人前の勇者にできるのかってことさ」
●シュライン・エマ編
「んー‥‥現代社会に対する勇者なのかRPG等に見られる勇者タイプの事なのか、どちらの方向かぐらいは確認しておかないとね」
「えっと、あーるぴーじー、ですか‥‥?」
「あ、こっちの話だから気にしないでね。それより特訓だけれど‥‥やっぱり勇者の第一の力って、手伝いたくなるというか、他の方々から力を借りられるって所も大きいと思うの。一人で立ち向かうタイプのもあるけれど戦闘時くらいでほかは色々協力貰ってるでしょう?」
「そ、そうですねっ!」
勇者ちゃんは両の拳を握りしめて強く頷く。
「だからね、自分が何を求めてるか明確に具体的にまとめられるようにするクセをつけるようにしてみましょ。物覚え悪くても努力が嫌いじゃなければその姿で人は助けてあげたくなるものだから、ね、頑張ろ」
シュラインがやさしく撫でると、勇者ちゃんは子猫のように気持ちよさそうな表情で大人しくなる。
‥‥か、可愛いかも‥‥!
シュラインはときめきMAXだ。
とりあえず、戦闘等については他の誰かが教えると思うので、彼女の体力や栄養面考えた食事や怪我の応急手当等しつつ、困ってる人への声のかけ方や諸々の口調、挨拶や謝罪等言葉の表現面で指導‥‥と言う面で訓練を施した。
指導の成果を見て、武彦が感心した。
「お、なんとなく指揮については様になったな。一応それらしく見られる位には成長したじゃないか」
「ええ、訓練というとあれだけど、じっくり焦らず少しづつでも教えてあげられたらと思っているのだけれどもね」
・獲得アビリティ:【仲間の助力】×2【自分探し】
●ファルス・ティレイラ編
「勇者にちゃんとなれるかわからないけど、やってみなきゃわからないよね!」
という精神で鍛えてみようと付き合ってみることにした。
教えられることが少ないので、勇者に必要と思われる何事にも動じない精神力が必要だとファルスは思う。
「精神を鍛えてあげちゃいたいんだけど‥‥どうしよ?」
「わ、私のことなら、気になさらずに‥‥どんな特訓でもがんばりますっ!」
頑張るといわれても――と悩んでいたその瞬間、天啓が閃く。
「そうだっ! これでいっちゃおー!」
勇者ちゃんの目の前で紫の翼がある姿になって見せると、大きく翼を羽ばたかせた。
「はっ! ひゃう! はぁわーーー!!!!??」
気がつくと勇者ちゃんは、遥か彼方地上から飛び立ち、ファルスに抱え上げられながら上空数百メートルという高さに持ち上げられていた。
「ひゃっ、ひゃうっ!! なんですか、この高さ‥‥!!」
自分の足の下に豆粒になったような建物が並び、丸みを帯びた街並みの続く地平線が彼方に見える。とんでもない上空に持ち上げられてる‥‥。
「えへ☆ それじゃ思いっきり飛翔するからしっかりつかまっててねェ」
「思いっきりって、は‥‥ふえええぇぇええぇぇっっ!!!」
ハイスピードでファルスは空を疾走した。
上から下に、下から上に、一定の距離を飛んでスピードの乗ったところで急反転し、ジェットコースターのような飛翔で恐怖を煽るように飛び回った。
勇者ちゃんの視界では、天と地がグルグル回ってタップダンスを踊っている。
「ほらほら〜♪ 錐もみ回転だよォ♪」
「ふっ、ふえええぇぇぇぇええええぇえぇぇぇんっっっ!!!!!!」
このとき、勇者ちゃんは死を感じたと、特訓後に泣きながら感想を述べた‥‥。
・獲得アビリティ:【動じない精神力】×3
●海原 みなも編
この日、みなもと勇者ちゃんは水着に着替えて、市営プールにやってきた。ここが特訓の場所なのだ。しかし、今日の特訓の焦点はプールで泳ぐこととはまた別にある。
みなもは、勇者ちゃんの前にどっさりとお弁当箱と水筒を積み上げていた。
「私にできるとしたら、演劇部で鍛えている基礎一通りと水泳部のメニューくらい。あとは皆さんのお手伝いか、お弁当や適切な水分補給に務めるくらいかな。今の時期、熱中症も恐いから」
だから、この量の補給物資の数々なのだ。
「それじゃ、特訓がんばりましょう? あたしも出来る範囲でがんばりますね」
「え、え、えぇと‥‥ありがとう、ございます‥‥」
口では御礼を言いつつも勇者ちゃんは分かりやすいほどに青ざめていた。
いくら特訓とはいえ、そこはさすがにレディーであり、不謹慎だとは知りながらもダイエットやカロリー、皮下脂肪という不吉ワードが頭を過らないわけがない。 このお弁当の山を食べるだけでかなり根性を鍛えられそうな気もする。
そんな勇者ちゃんの様子を、特訓に対する自分の能力の不安と見て取ったみなもが力強く励ました。
「勇者が勇者たらんのは能力にあらず‥‥とどっかで言っていましたから、がんばればなんとかなりますよ」
「え‥‥は、はい‥‥っ!!」
そうだ。自分は贅沢を言える身分ではない、と勇者ちゃんは己に喝を入れる。
カロリーを摂取したのならまたそれだけ消費すればいいだけの話だ。消費した分だけ自分の力となり、真の勇者にまた一歩と近づける――とかなんとか自分を鼓舞しながら。
「‥‥とは言え、あたしも勇者じゃありませんから、基礎くらいしかお手伝いできないかな」
という感じで、プールで延々と泳ぎつづけた勇者ちゃんはかなりの基礎体力を得た。
・獲得アビリティ:【水泳】【基礎体力】×2
●志羽 武流&翔流編
武流と翔流は、志羽兄弟二人で勇者ちゃんの特訓についた。
主に翔流が付きっきりでトレーニングを指示して、武流がバックアップするというやり方だ。
「勇者として育成するしかないな、こりゃ。礼儀正しいようだから、礼儀作法はいいだろ」
「私‥‥礼儀正しいですか‥‥?」
「ああ、たしかに礼儀の良さは認める。だから問題なのは――」
「問題なのは‥‥」
「ズバリ、足りないものは基礎体力だ! 力がなきゃ、協力な武器が持てないだろう」
翔流の指摘に雷に打たれたように衝撃を受ける勇者ちゃん。
「きそ‥‥たいりょく‥‥!?」
「心配するなって、いきなりスパルタ教育しねぇから。んじゃ、まずは軽〜く腕立て10回でもしてみようか」
その気軽な一言にゆうしゃは地獄を見たように顔を青ざめた。
‥‥できないのか、腕立て10回‥‥。
腕立て、腹筋、マラソン等の運動をさせてみるが、どれもまともにこなせなかった。
木陰で休憩を取っている間に、武流は勇者ちゃんに話しかけた。案の定、勇者ちゃんは激しく落ち込んでいる。
「キミ、どうして勇者になりたいのかな? それを説明してもらわないと俺達も育成しようがないんだ」
「それが、私がこの世界にいる、意味だからです‥‥きっと‥‥」
「ふぅん‥‥倒すべき魔王様でもいるのかい?」
「はっきりとはわからないけど、多分‥‥」
あいまいな返事ながら、答える彼女のまなざしの中に強い光を感じ取った。
「どうやら、どうしてもやらなければならないことがあるみたいだね。いいよ、俺も本腰を入れて特訓に協力することにするよ」
「あ、ありがとうございますっ!!」
ぱっと華やいだ笑顔を見せた勇者ちゃんに、武流は厳しい表情で言った。
「――――勇者に必要なのは、言うまでもなく勇気だ。勇気がなければ、何事にも立ち向かえない」
「キミはきっと、そのことを忘れなければ、どんな特訓も勇気を育んでくれる――翔流、変なこと教えるんじゃないぞ」
「わかってるってば、にーちゃん。よし、特訓再開するぞ」
翔流の声を合図に、次の特訓が始まった。
「‥‥んじゃ、次は技だ。俺直伝の水芸を教えてやるよ。魔法の代わりにゃなるだろ」
「えっと、水芸ですか‥‥?」
「ほい、扇子」
勇者ちゃんに扇子を持たせて、水芸の基礎からみっちり教える。こなせないかと思われていたが、何とかコツを飲み込み始めた。
「‥‥あんた、本当に物覚えが悪いな。でもその調子でいけば、そこそこはものになるかな」
「が、がんばりますっ!!」
「何でも挑戦してみようって根性は勇者だって言えるけど。勇気を武器にしてみたらどうだ? 失敗を恐れず、悪の魔王に立ち向かう。それが真の勇者ってもんだ!」
‥‥これは、武流さんの言っていた言葉‥‥。
勇者ちゃんは二人の『勇気』について教えてくれた言葉を胸の内で噛み締める。
瞬間、水芸でしかなかったものが進化した。勇者ちゃんの意思に合わせて水流を操る水魔法となる。驚いた翔流は、愉快そうに笑った。
「はは! こりゃいいな! いつか来る魔王との対決までトレーニングに付き合ってやるよ」
・獲得アビリティ:【勇気の力】×3
・獲得アビリティ:【基礎体力】【水魔法】【勇気の力】
●雪ノ下 正風編
「まずは胴着に着替えてきなさい、それからだ」
勇者ちゃんは正風の用意した稽古着に着替えた。
「よし、稽古をする前にまず正座してお互いに礼、勇者足るもの武芸に通じてなければならない」
「は、はい‥‥」
「声が小さい!!」
「はっ、はい‥‥!!」
という感じで特訓が始まり、勇者ちゃんに正風は自分の技である『気法拳』の稽古をつけた。
怪我したら気で治療しつつ掌から気の塊を発射できるようになる位まで、丹念に、それでいて厳しく教授する。まさに体に覚えこませるかのような猛特訓だ。それほどの厳しさをもってあたらなければ物覚えの悪いこの女の子に気法を教えることなどできはしない。
「いいか、気を感じられなければ話にならない――気は体に流れていて、そこから己の体を介して森羅万象の気へと通じる、一連の流れを知ることこそが気の極意! 気を掴むまで今日は返さないから、そのつもりで覚悟しておけ!」
「はっ、はいっ!!」
返事をした瞬間、力の加減を誤まり勇者ちゃんは態勢を崩してしまった。床に倒れた衝撃で、全身に張り巡らしていた気の流れが暴走を始める。
「き――きゃあ!!」
勇者ちゃんの周囲を荒れ狂ったように気の嵐が巻き起こった。刹那、正風の手が突き出され、両掌から気が繰り出される。暴走する気を中和し、一瞬にして鎮めてしまった。
「‥‥す、すごいです‥‥」
「まあ、今日はこれくらいか。これからも通って修業しなさい。入門書に名前書いて」
と言って包容力溢れる笑顔を向けて必要書類に記入させてようとしたその時、草間零が割り込んできた。
「はい、神聖な特訓を利用して無理に弟子入りさせてはいけません」
企みを見抜かれている――。
正風、弟子ゲット作戦‥‥失敗!
しかし、ハードな特訓により勇者ちゃんは気法拳における気のコントロールを漠然とだが学習した。
・獲得アビリティ:【気法拳】×3
●バトル!!!! ‐BATTLE‐
――――その日は、突然やってきた。
場所は芝浦公園、東京タワーのすぐ近くだ。勇者と魔王、お互いがお互いの存在を感じて、導かれるように対峙した。
誰もこの決闘には、手を貸すことも、アドバイスさえ許されない。これは二人の戦いなのだ。
そして、戦いが始まった――――!!
勇者は叫んだ。
「私は‥‥私は、あなたにだけは負けられないから‥‥!!」
発動:【自分探し】
魔王は全く動じない。それどころか圧倒的な威圧感で勇者を怯ませている。
その崇高さ、美しいまでに溢れる気高きオーラは、何人たりとも寄せ付けない絶対性すら感じさせた。
発動:【悪のカリスマ】
発動:【悪の美学】
発動:【魔王ヘア】
「ふん、小娘ごときが笑止千万!」
しかも、戦いを見守る人間たちからも、魔王ファンが出始める。その優雅な物腰に感化され始めているのだ!
発動:【大衆扇動術】
発動:【魔王的礼儀作法】
発動:【悪の手先軍団】
発動:【下僕】
「あなたを倒します――覚悟なさい、魔王‥‥!!」
勇者は仲間を呼んだ!
しかし、まだ仲間を見つけられてはいなかった。
発動:【仲間の助力】×2
魔王は、魔獣軍団を呼んだ。
調教された犬猫が勇者を襲った。その数は侮れない。
発動:【魔獣軍団《わんこにゃんこ》】
発動:【調教術】
獣の群れに囲まれても勇者は冷静を保っている。
勇者は、水魔法を使った。
犬や猫を吹き飛ばし、一帯が水流に包まれる。
勇者は水の中を自在に移動した。
水流で魔王を攻撃する。
発動:【動じない精神力】×3
発動:【水魔法】
発動:【水泳】
魔王は水流攻撃に耐えている。
「そうこなくてはな‥‥戦いはこうでなくては」
魔王は何かを企んでいる!
発動:【師匠の愛】
発動:【ハングリー精神】
発動:【冷酷な性格】
勇者は、師匠の言葉を思い出した。
「いいか。気や念は妖魔を倒す――術より気を込めて殴る方が早くて手軽だ」
勇者は、気の強烈な波動を放った!
発動:【気法拳】×3
「おっと、その力を余に当てたられるかのう?」
魔王は、破壊魔術で波動を吹き飛ばした。圧倒的な力の差だ。
発動:【破壊魔術】
「ふふ、これが才能の差だ‥‥勇者よ、お前のような天武の才に見捨てられたものがこの余には勝てんのじゃ」
勇者は、力の差に愕然とした。あれだけ練習した気法拳も通用しなかったのだ。
「ここで潔く降伏するなら、余の妃として支配した世界で生かしてやろうぞ‥‥」
発動:【脅迫術】
発動:【枕技】
「妃って‥‥お嫁さん‥‥!?」
その時、アトラス編集部の麗香がくしゃみをした。
発動:【お嫁さん《候補・碇麗香》】
「私は‥‥たとえ弱くても、あなたの言いなりになんてならない‥‥!」
勇者は、勇気を振り絞り魔王の誘惑を拒絶した。
「ならば、力の差をその身でしるがよい!」
破壊魔術が次々と勇者を襲う!
発動:【勇気の力】×4
勇者は、どうにか攻撃に耐えていた。
交差した腕で身を守り、倒れないで立ちつづける。
発動:【基礎体力】×6
‥‥しかし、その体は破壊魔術によりぼろぼろだ。
魔王の勝利は目前だ。
その時、魔王はみその言葉を思い出した。
‥‥でも、勝っても負けてもいけないかと‥‥。
「ふっ、命拾いしたな‥‥今日は見逃してやろうぞ‥‥」
ヨタヨタと立ちあがる勇者に一瞥をくれると、冷笑を残して魔王は立ち去っていった。
発動:【勇者と引き分ける隠し能力】
バトルの結果は、表面上だけ見れば引き分けだった。
しかし、限りなく勇者の敗北に近い引き分けであることは、当の勇者ちゃんが一番理解していて、悔しさで何度も拳を地面にたたきつけながら涙を流す。
そして、勇者はさらなる成長を誓うのだった。
●勇者ちゃん、本日の獲得能力
【自分探し】
【水魔法】
【水泳】
【仲間の助力】×2
【動じない精神力】×3
【基礎体力】×6
【勇気の力】×4
【気法拳】×3
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0391/雪ノ下 正風(ゆきのした・まさかぜ)/男性/22歳/オカルト作家】
【1252/海原 みなも(うなばら・みなも)/女性/13歳/中学生】
【2459/志羽 武流(しば・たける)/男性/18歳/大学生(薬学部)】
【2951/志羽 翔流(しば・かける)/男性/18歳/高校生大道芸人】
【3733/ファルス・ティレイラ(ふぁるす・てぃれいら)/女性/15歳/フリーター(なんでも屋)】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、雛川 遊です。
シナリオにご参加いただきありがとうございました。
それと大幅なシナリオ作成の遅延をしてしまい申しわけありませんでした。遅れ馳せながら、ここに今回のノベルを納めさせていただきます。
参加していただいた皆さんには申し訳なく思っています。本当にすみませんでした。
あと、今回のノベルではいくらか普段とは違った趣向を凝らしてみました。結果としては、魔王様お強いですねェという感じになりました。時代は悪なのでしょうか。
それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。
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