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<東京怪談・PCゲームノベル>


童話革命

「ボクはロルフィーネだよ。この辺り散歩してて小腹が空いちゃったんだ。」

窓から差し込んだ一筋の光が、ロルフィーネと名乗る少女を輝かしく照らし出した。長い黒髪はふんわりと靡き、その赤い瞳は透き通ったビー球のよう。
新商品のユーザーとはなりえなそうな少女の言葉に、紅は隠さず大きな溜息をついて、失礼にも背を向けた。朱鷺はにこりと微笑み「美味しい定食屋さんをご紹介しましょう。」なんて言った。ロルフィーネは朱鷺を見上げてくすりと笑い、突然キラリと牙を見せ付けた。可愛らしい少女の外見からは結びつかなかった牙の存在に、思わず後ずさりする朱鷺だが、空腹のロルフィーネがそれを逃がすはずも無い。すかさず朱鷺のエプロンを掴み、行動を制御すると、朱鷺は簡単にその場へしりもちをついた。
「だから、キミ達がボクのおやつだよ★」
恐怖した朱鷺の精神にとどめを刺すように顔を近付け、絶妙な角度で牙を迫る。最愛の人物のピンチに紅が振り返った時には、既に朱鷺はロルフィーネの牙の餌食にならんとしている所だった。山積みになった本が邪魔をしてロルフィーネを振り払うこともできず、また振り払えたとしても自分自身が餌食となろう。まさに絶体絶命。
そんな時、自分の手にしていた童話集に気がついた。

こうなれば一か八かだ・・・!

震える右手をなんとか動かし、少女の名前をそれに刻んだ。丁度開かれたページには可愛らしい赤ずきんを被った少女と、オオカミの絵が描かれている。

「うわぁ、何?」

ロルフィーネはみるみる足から光に包まれていき、その光は童話集へと吸い込まれる。時間を動かすように吹いたそよ風がカウンターの風鈴を鳴らしたとき、そこには安堵に満ちた朱鷺と、それを抱きしめる紅しか残らなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


赤いずきんをすっぽりと被り、手にはブドウ酒と美味しいパイが入ったバスケット。今日は病気で寝込んだ祖母にこれらを届けるおつかいの日。「森のオオカミに気をつけること」と、さり気に爆弾発言を交えた約束を母にされ、出発当初は正直憂鬱だった。しかし、美しい自然に囲まれているとそれもどうでもよくなる。なにしろオオカミが出るなど考えられないような爽快な空気、空。これは先入観の問題かもしれないが、こんな環境にオオカミが出没するなど考えられない。そう時雨は解釈していた。大きく一度背伸びをすると、今度はスキップで道を進んだ。祖母の家はまだ遠い。

「何だか良くわかんないけど、美味しそうなのがいるからいいか☆」

時雨が通った道の外れ、濃い緑色の茂みの中からロルフィーネが顔を出した。その頭には先ほどまでなかったオオカミの耳と尻尾。
どうやら紅が咄嗟に書いたのは、オオカミの名前の横だったらしい。紅は、元々息子達を「赤ずきんちゃん」の世界に送り込んでいた。勿論その上で二人に危害を及ぼす危険があるオオカミには、予め線を引いて消し去っておいたのだ。それが、ロルフィーネの名前が刻まれたことによりこの世界に新たなオオカミが生まれてしまったということだ。

「でもここにどれだけ人がいるかわかんないからな、すぐに赤ずきんを食べるんじゃなくて、色々考えて食べていかなくっちゃお腹一杯にならないや。」

右手を口元に置いて、うんと考える。そして次の瞬間にはロルフィーネはひょいと茂みから飛び出して、すぐさま赤ずきん時雨の元へかけていった。ここは物語通り展開して、沢山人が集まったら片っ端から頂いちゃおう♪・・・そんなことを考えながら。

「赤ずきんちゃん☆ボクはオオカミさ♪キミはどこに行くの?」

突然オオカミと名乗る少女が顔を覗き込んで話しかけてきた。確かに頭には耳、口には牙、お尻に尻尾。気をつけなさいという母の声が遠くでしたきがしたが、こんなにフレンドリーな彼女を無視するなんて到底できず、「祖母の家へブドウ酒とパイを届けに・・・。」なんて正直に答えた。バスケットの中身だって偽ることなくすべて暴露。ロルフィーネはにこりと笑って、物語通り右手を指した。
「この先にお花畑があるんだよ、そこでお花を摘んでいったらどうかな?」
指された方角からは、柔らかい蜜の香りがした。微笑むロルフィーネはとても悪い人には、いや、悪いオオカミには見えないと判断したので、「そうする、有難う。」と言って軽くお辞儀をして返した。絡まるスカートを引っ張り上げて、はしたなく駆け出した赤ずきん時雨。それを見届けたロルフィーネはしてやったりと笑みを零し、すぐさま赤ずきんの祖母の家に急いだ。
祖母は歳をとって不味そうだったが、空腹だったので結局血も吸い尽くしてしまった。そして、訪れるであろう次の獲物を静かに待った。

何も知らない赤ずきん時雨は、花を忍ばせ祖母の家を訪れた。コンコンとドアを鳴らすと、「開いているよ」と声がした。祖母にしては可愛らしい声だと微かに思いながら、部屋へと進む。
「病気は大丈夫?なんか色々母上から貰って来たんだけど・・・。」
ベッドに近付いて祖母を見やると、思わず固まった。想像より明らかに若い美しい顔に、黒い髪。拭いきれなかったと見える血が頬についていて、獣のような耳と尻尾、そして口には牙が見える。どこから突っ込んでよいやら悩むところ。とりあえず、大問題な場所から突っ込んでおこうか・・・。

「あの・・・その牙はどうしたの・・・?突然変異とか・・・?」

不審な様子で覗き込んでくる赤ずきん時雨に、ロルフィーネはにっこりと微笑み返す。

「この牙はね、キミの血を美味しく食べちゃう為にあるんだよ〜♪」
「え?」

ロルフィーネは軽やかにベッドから飛び出ると、勢い良く時雨に襲い掛かった。突然の奇襲にひるんだが、そうそうやられるわけにもいかない。スカートの裏から愛用の数珠を取り出し、防御体制を取る。しかし、ロルフィーネの牙は今にも首筋に刺さりそうだ。決死の思いでお札を取り出し、軽い電撃を生み出すと、その力でロルフィーネを弾いた。飛びのいたロルフィーネは、時雨の力を見て嬉しそうに笑うと

「ボクにだって出来るよ♪影縛り!」
「!?」

時雨の身体は見えない物に縛られたように動かない。手にした数珠を握り返そうにも、新たなお札を出そうにも、身体は自分のものではないかのように固い。

「もう攻撃はお仕舞いなの?じゃあ、いただきまーす♪」

光る牙が時雨の恐怖を掻き立てた。しかしどうしようもない状態。少々涙目になりながらキツク目を閉じる。ロルフィーネの両手が時雨の両肩にかかった。足掻く事もできないまま、体中に冷たいものが走る。もう駄目だ・・・

「時雨!!」

聞きなれた声にはっとした。薄ら目を開けると、東雲が大剣を手にロルフィーネに対峙していた。よれよれのツナギを着て、背中には「猟師」と書いた紙が貼ってある。大剣を握り返し、じりじりと間合いを詰めるが、ロルフィーネは焦った様子もない。むしろ新たに現れた食事に嬉しそうにさえしている。

「そんな鉄屑、ボクには効かないよ♪」

東雲の大剣をひょいとかわして、今度は東雲に噛み付きかかる。間一髪しゃがむことでそれを回避したが、この体制では次に備えられない。ただ大剣を盾のように翻して身構えるばかり。

「東雲!!」

時雨が叫ぶと、かろうじて握っていた数珠が光を再発させ、その光は一直線に東雲の大剣に向かった。大剣は、時雨の雷の力を吸って目見にえて強力化。

「魔法がかかったのっ!?」

ロルフィーネは思わず飛び掛る速度を遅め、その大剣に身構えた。しかし時既に遅く、東雲が振り下ろした大剣の雷力によって倒れる他なかった。身体に軽い痺れを感じて、その場に座り込んだロルフィーネ。それと同時に、時雨を束縛していた力は失われた。

「ボク・・・死にたくないよ・・・。」

ロルフィーネの瞳から真珠のような涙が落ち、ついには泣きじゃくり始めた。その姿は、先ほどのような恐ろしさは無く、時雨はその様子を黙って見ていることなどできなかった。

「大丈夫、俺達はそんなことしないよ。」

優しくそう言って、ねっと東雲に同意を求める。しかし東雲が大剣を構えていたので、すかさず電撃をお見舞いした。

「ボクお腹が空いてて、キミ達美味しそうだったから・・・。」

時雨はそうか、と言って微笑んだ。

「でも俺達はマジ食わせてやるわけにはいかないぜ。親父の気が狂いかねないからな・・・。」

東雲は時雨と目配せしながら言った。ふたりとも紅の親バカは理解しているらしい。

「・・・町の人間なら食っていいんじゃないの?」

時雨はさらっと言ってのけた。ロルフィーネの目が輝く。天然とはいえ中々な事を言い出す弟に些か恐怖を覚える東雲。

「食べてもいいの!?」
「いいんじゃない?父上が名前を書き直せば食べても戻るでしょう。」
「ま、まぁそうだけど・・・。」

ということで、時雨が歩いてきた道をみなで逆戻り。赤ずきんの家がある町に到達すると、ロルフィーネは片っ端から食らいついた。町はかつて無い混乱に見舞われ、恐怖で塗りこまれたが、それも一瞬。ロルフィーネは町人を平らげると、息をついて「ご馳走様」といった。余ほど空腹だったのだろう、これだけの人数をこれだけの時間で片付けたのならば、もう世界新記録の域だ。ロルフィーネは血で汚れた服をパタパタしながら、美味しかったよとふたりに言った。こういう場合なんと言ったらよいのかわからないので、とりあえずふたりで声をそろえて「よかったね」と言った。顔は微妙に引きつっていたけれども。

「ボクは散歩を続けるよ、じゃあね。」

ロルフィーネは大きく手を振る、時雨と東雲も手を振った。後ろのほうでは、町の人々がひとり、またひとりと蘇り始めていた。どうやら紅が気がつき、時雨の意向を読み取って直し出したのだ。

「またお腹がすいたらこの町の人でも食べにおいでよ!」

遠ざかるロルフィーネの背中に、時雨がそんな声を掛ける。思わず今しがた蘇った町人は青ざめ、東雲も慌てて時雨の口を塞いだ。

「まぁ、また遊びに来いよ!普通に遊ぼうぜ、待ってるから!」

東雲がそう付け足す。ロルフィーネはにこりと笑って、長い髪をさらりと流した。どこまでも続く一本道を歩きながら、ロルフィーネは足から光に包まれ、消えていった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ロルフィーネが目を開くと、埃っぽい本屋が戻っていた。カウンターには紅がどかっと座っており、右手に握ったペンを軽く振った。朱鷺もその隣にいる。
「町人は直しておいたよ、うちの息子たちも待っているようだし、また空腹なら訪れなさい。歓迎するよ。」
本の隙間から顔を覗かせて、ロルフィーネは一度可愛らしく微笑むと、汚れた血を滴らせながら書店を後にした。ロルフィーネが歩いた後に血痕がぽつぽつと残ったが、気にしないのが星屑書店。

「またのお越しをお待ちしております。」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC

【4936/ロルフィーネ・ヒルデブラント (ろるふぃーね・ひるでぶらんと)/女/183歳/吸血魔導士・ヒルデブラント第十二夫人】

NPC

【安倍 紅(あべ くれない)/男/23歳/星屑書店店長・小説案内人】
【安倍朱鷺(あべ とき)/女/22歳/星屑書店・店員&主婦】

【安倍東雲(あべ しののめ)/男/15歳/霊闘師】
【安倍時雨(あべ しぐれ)/男/14歳/新米陰陽師】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、今日和。ライターの峰村慎一郎です。
この度は有難う御座いました。
最後のほうはお腹一杯になって頂こうと、急遽町まで戻ってもらいました^^;
とても楽しんで書かせて頂きました。
有難う御座いました、また機会がありましたら
宜しくお願いします。

峰村慎一郎