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焼き肉戦争
零ちゃんは買いだしで出かけている。
「えっと、コーヒーと御茶……後でレジ前に置いてある乾電池を」
とスーパーで、メモを見て品物を買っていく。
鰻が食べたいとか肉を食いたいとか兄が言っているが無視の方向だ。
安い物を買って節約である。
そして、会計を済ましたときに、レジのおばちゃんから福引き券を貰った。
「ありがとうございます」
早速、あまり期待しないで福引きを回すと……。
「おめでとうございます! 和牛セットです!」
「え? ええ?!」
驚くしかない零ちゃんである。
一方、草間興信所で空腹の草間武彦。
「は、腹減った……」
そこで、電話がかかる。
「もしもし……此方くさ…」
「にいさーん! えーん!」
「なんだ? おい! どうした!? 何泣いている」
「運使い果たしましたー!」
「いきなりそんなこというなあ! 訳をはなせ……うん」
「……」
「なにぃ!」
そして1時間後……
霜降り肉、カルビとロース……涎ものの和牛が並べられた。
もちろん、タンもある。しっかり野菜も用意した。
「焼き肉だ……」
強い意志を感じられる草間の声。
「……いいのですか?」
豪華さに負けている零ちゃん。
「暫く祈りたいです」
「まて、この時期は痛みやすい……これは2人か安心できるヤツと数人で食すのが良い」
「奪われたくないですね」
頷く妹……。
「そう言うことだ……」
しかし、既に数名(つまりあなた)は……
ドア越しとかからその話をきいており、参戦するのである。
焼き肉戦争の勃発だった。
〈嵐の前の静けさ〉
「ガルルル」
草間武彦は和牛焼き肉を守らんとするため、野生動物見たく入り口のドアを威嚇している。
「武彦さん、其処までしなくても……」
此処の事務員であり、所長の妻であるシュライン・エマさんが色々用意して苦笑している。
もっとも、滅多にないことだからだろう。
妹の零ちゃんに悪影響を受ける可能性を否めない。
「箸休めのお漬け物とご飯、お吸い物も用意したわよ」
「ありがとうございます、姉さん♪」
|Д゚) ……
「はい、小麦色さんは別のところに待機、待機」
シュラインさんはかわうそ?にそう支持した。
|Д゚)ノ ←良い美人には素直な小麦色
|Д゚) ←入り口近くにぼけっとしている
そして、態とらしく「奇遇だねぇ」と言わんばかりに約8名がゾロゾロ興信所に入ってきたのだ。
「家族だけの焼き肉パーティで済ませたかったのに……。何故お前等が居るんだ! いつでも食えるヤツもくるし!」
武彦は叫ぶ。
もう 犬の如く。
「まあまま、草間様そう言わずに」
と、夏野菜を籠一杯に入れて、大吟醸を持ってきた天薙撫子さんと、
「零さんがくじ引きを当てたところを見ていましたので。あ、これは柚のシャーベットです」
櫻紫桜くん。
「お久しぶりです〜。お土産のタラバガニをどうぞ〜」
北海道旅行してきたらしい白里焔寿さん。
「堅いこと言わず一緒にビール飲もうぜ、草間〜」
と、暇人唐島灰師が笑っている。
「まあまあ、草間さん。零さん、大丈夫ですから」
「美味しそうですねぇ〜。大丈夫ですよ〜」
海原みなもちゃんと大曽根千春さんが草間を宥めています。
因みに、みなもちゃんは海産物で旬のあじと鰹、海草(昆布とかわかめ、もずくとか)、千春さんは鮪のカマ(エラの下(尻尾側)の骨のあたり)を持ってきている。でかい。でかすぎる。
興信所に入ってからそうそう、何故か菜箸を持ってきている来琉鳩未来がいる。
|Д゚) たけぴー 差し入れ、生きている?
「其れには否定できないわね」
「はい、恥ずかしながら……」
ナマモノの言葉に苦笑するしかないシュラインさんと零ちゃん。
既に関係ない目的で来ているのは約1名。
「かわうそ?――!!」
|Д゚) げっ!
|≡3 さっ
宮本まさおである。
かわうそ?目当てでやってきたのだ。
焼き肉のこと何て実際どうでも良いらしい。
食事する場所から徐々に離れて……かわうそ?を追いかけるために興信所から出て行った。
「敵は少ない方がいい……」
草間はそう言った。
心のそこからの安堵である。
宮本まさお:リタイヤ
各々が、鉄板を囲んで座り始める。
草間と零は一緒に、その草間さんの隣にシュラインがすわり、和牛が盛りつけられた皿を置いている。 草間の正面には灰師が草間をからかうために陣取っている。未来もその辺に居る。千春や、みなも、撫子、紫桜は下座(入り口と台所に近いところ)に座った。
実際こんなところでテーブルマナーも減ったくれもないのだが、色々お世話をしようと思っている千春と撫子は、機能性を考えると、この位置が最も良いのだ。シュラインさんは真ん中辺りにいる感じになる。草間兄妹を世話するのは当然のことなのだ。
野菜、そして肉を鉄板に並べ始める。そして、撫子の用意した夏野菜で枝豆をビールのつまみに、皆もちゃんと一緒に夏野菜と鰹のサラダを作り始めた。
焔樹ちゃんのお友達猫、チャームとアルシュは焔とじゃれて遊んでいる。
|Д゚) 怖いほど静か……←窓にへばりついて見ているナマモノ
「かわうそ?〜!」
|≡3
〈戦争開始:赤身〉
古株に位置するみなもとシュラインさんとみなもちゃんは、草間兄妹に和牛を食べさせたいという思いがある。
ほかの男衆一部は全く違うのだが。
ジュージューと野菜と肉が焼ける音がする。
シュラインさんは皆に平等に肉を置いており、
「後は各自で世話してね」
と、にっこり笑って言う。
やはり安物の肉と色が違うし、焼き具合も違う。今は皆、肉と自分が食べたいものと野菜の世話で精一杯の模様だ。多少
灰師はご機嫌でビールを注いで貰ってから草間と飲みあっている。
枝豆も鰹と夏野菜サラダがあるのでつまみに事欠かない。
紫桜は黙々とジュースを飲んで、野菜の世話をしている。
千春と撫子は、せっせっとビールを注いでおり忙しい。
みなもは周りを注意深く見ている。特に草間兄妹にたいして茶々を入れる輩が居ないか、などだ。
未来は、如何にして悪戯を開始するか考え、菜箸で肉を弄っている。
「そろそろかな?」
と、誰かが言った。
表面だけが焼けた人も好きな人もいれば、徹底的に焼けるのを好む人もいるだろう。
特にお腹がすいていそうな、育ち盛りで食べ盛りの少年少女はそうだ。
今は平等に焼き肉として一般的な部分を焼いている。赤身辺りである。
たれをつけて、一口……。
「う、美味い……美味すぎる!」
未来は驚いた。
徐々に、皆が食べると……
言葉が出ない人沢山。
灰師はそもそもいつでも食べられる事、千春はいつもニコニコなので表情が読みとれない。
「生きてて良かったです」
零ちゃん、美味しさのあまり泣いています。
「良かったね、零ちゃん♪ ? 何? 武彦さん」
草間も、シュラインさんに次焼いてくれと急かしている模様。
「はい♪」
と、シュラインが次々に焼いていく。
「これは……美味い……」
紫桜がガクガク震えている。
「おいしいですね〜」
「ですね〜」
焔樹ちゃんとみなもちゃんはニコニコ笑っている。
さて、味を堪能したところから……戦争は本格的になりつつある。
まず灰師が、草間に酒を勧め続け、草間をからかいながら自分の肉はしっかり確保している。そして撫子が草間と灰師に大吟醸を注いであげた。
「ありがとう」
「サンキュー」
「いえいえ」
一見、普通の焼き肉パーティに見える。
未来はその間に菜箸で中立地点に置かれた肉をひっくり返す為に菜箸でとり、尽かさず野菜に隠したが……。その野菜を紫桜が捕ってしまうと言うハプニング(?)。
「……」
「? ああ、野菜が好きなんで……野菜が欲しかったの?」
「いや……なんでもない」
未来は紫桜を睨むので、紫桜が謝った。
「あ、そのお肉焼けていますね〜」
千春ののんびりした声で、未来が隠そうとした肉を見ている。
位置的に零が欲しがっているのだが、焔樹ちゃんが其れをみて、
「みたいですね〜」
と相槌。
未来はこの状況下では何も言えない。
「では、零さん受け皿を」
と、みなもちゃんが零ちゃんのために取ってあげた。
「ありがとうございます♪」
にっこり笑う零ちゃんが可愛かった。
シュラインさん周辺には肉と野菜がいっぱいあるが……シュラインさんの領土は野菜に囲まれている訳ではない。韓国焼き肉やジンギスカンじゃないのだし。囲ったら卑しいではないかということもある。草間も零も其れに倣っているため境界線はないが、暗黙の了解で領土が出来ている。
灰師は、草間の領土から簡単に肉を奪うのだが草間の威嚇をモノとしなかった。
「俺の肉を奪うな! この野郎!」
「何を言ってるんだよ。そのまま放っておいたら焦げちまうぞ? 勿体ない」
勝ち誇るかのようにその肉をタレに付け、食べる。そしてビールを飲む。
シュラインさんは苦笑しながら、
「ハイ、武彦さん、こっち焼けたわよ、あーん」
と、自分のところに置いている肉を草間の好きな焼き加減で「おくちあーん」で草間に食べさせる。
「夫婦っていいですねぇ♪」
焔寿がにっこり笑う。
涙を流し草間は味わって肉を食べている様に見える。何かジタバタしているが。
「其処まで涙流して食べなくても……」
「そこまで、せっぱ詰まっていたんですね」
と、溜息混じりで常連さんは漏らした。
「優しいですね、シュラインさんは」
と、焔樹ちゃんはチャームを撫でながらニコニコ笑って、ゆっくりお野菜を食べている。
――ち、違うんだ……熱すぎて火傷しそうになったんだよ!(草間の心の声)
「この鰹サラダ美味しいですね〜」
「そうですね〜」
と、のんびり屋の千春と肉より魚が好きなみなもちゃんはサラダを食べている。
紫桜も黙々食べているだけで、何の反応もない。ただ、自分の領土には肉が少なく、野菜ばかりなのだ。どちらかというと、鰹サラダを多く食べている感じがする。
「あら、そろそろ焼けますわね〜」
千春が気付いたのか、焼けた肉を3つほど仕上げとばかりひっくり返す。
「……」
そう言われて断るわけにもいかない地味な少年。
紫桜、灰師、未来が動いた。
先に掴んだのは灰師だった。しかも大きい方。
「頂きー♪」
「……」
「くそー」
また勝ち誇る灰師。
ビールがうまい。
無想の紫桜は黙々小さい肉を食べて、未来は中ぐらいの肉を食べていた。
|Д゚) ……
「かわうそ〜!」
|Д゚) いい加減、追いかけっこ、疲れた
|≡3
〈激戦 塩タン、カルビ&霜降り〉
シュラインさんの手により塩タンが並べられる。
みな、其れを多く食おうと野菜などお構いなく狙っている。
上質の牛のタンは非常に美味しいだろう。
紫桜は反対に黙々ご飯を食べている。
未来は、今度は上手くタンを野菜の中に隠す。
シュラインは、草間と零の分、そして自分の分もやっているので大変だが、みなもの目に見えないサポートが功を奏しており、今のところ実害はない。みなもの何気ない行動と、皿の配置が、シュラインの肉を奪おうとする輩から邪魔しているのだ。
「マグロのカマ、食べたいですねぇ」
「其れは大きいでしょう……」
流れを読んでない、マイペース高校生が1名いるが……。
ビールでご機嫌な灰師を横で、未来が野菜を食べていく。
「おお、美味い。美味い。あ、タレがないね」
塩タンは別に要らないのだが(場所によりけりで、レモン汁だけでいいというのもある)、タレをとりに行こうとする。
タンは数が少なく、美味い部分なのだが、未来は今残っている赤身とか一般的なモノを狙おうと菜箸で捕ろうとする。とうとう、肉が3人分常にあるシュラインさんの領土を侵入するが。
「駄目よ」
と、野菜の世話をしながらも、しっかり周りを把握しているシュラインさんが笑う。
未来の菜箸が止まった……。
流石、興信所の真の主、強いシュラインさん。
|Д゚) シュライン姐さんに手をだすたぁ……
|Д゚) あと、こえーぞ
「カルビと霜降り、並べるわよ〜」
シュラインさんの一言で、「おおっ!」と声が挙がる。
そして、上質カルビと上ロースが並べられる。
堪らないほどの肉を焼く音が興信所一杯に響く。
「ほら、肉汁が! すごいよ」
これは、肉より魚とか野菜とか考えている人も食べたくなる一品だ。
「ですねぇ〜」
|Д゚) 千春、何も考えて無いみたい。
「かわうそ?〜!」
|Д゚;) またか〜!
|≡3
カルビより霜降りが早く焼けそうなのは厚さに寄るものだ、とおもう。
なので、如何に早く多く食べるかは素早さと焼き加減の好みが決め手になる。
「戴きます!」
零ちゃんが動いた。
そしてシュラインさんも動く。
邪魔する輩は居ないみたいだ。否、零に対してする人など殆どいない。
場をかき回すだけの未来がかなり出遅れたのである。
あまり肉を食べていない撫子さん、しっかりカルビと霜降りをゲット。これだけはどうしても欲しかったらしい。
焔寿も灰師も撫子もお金持ちなので、草間から、
「お前等金持ちなんだから、いつも食えるんじゃないか! 撫子も!」
とか言われる始末。
「そんなのこと関係ないじゃん」
灰師は笑って受け流す。
しかし、いつの間にかたれにカラシが入っていたらしく、
「ぎゃー!」
叫んでいた。
「だ、誰だ!」
ビールで辛さを中和して何とか耐える灰師だが……
未来は心の中で笑っていた。
「美味しいので、食べたいですよ」
焔寿も退かない。
「ぐぅ 畜生……ブツブツ」
草間がブツブツ文句をたれる。
自分の霜降りを世話している矢先に、未来がカルビを菜箸で奪おうとする。
「させるか!」
しかし、未来に奪われた。
「こら! 俺の!」
「ぼうっとしているのが、悪いんだよー」
と、美味そうにカルビを戴こうとする未来だが、
途中で菜箸が真っ二つに切られた。
撫子が、妖斬鋼糸で“斬った”のである。
「あ、あぶない!」
落ちそうになる肉を零ちゃんが皿で受け止めセーフ。
「……あ、」
「危ない取り方ですね。見ていたんですが、肉を野菜の下に隠したり、何か良くないことをしていたり……」
にっこり笑う撫子さん。
「そんな。単に箸だけじゃないか。ってああ!」
と、撫子の鋼糸が、未来が隠してあったカラシを奪う。
「お前か! カラシを入れたのは!」
灰師が怒る。
「な、何のことかなぁ?」
それでもシラを切る未来だが、
「楽しい宴を邪魔する人は、お仕置きです」
と、妖斬鋼糸で未来を縛り上げた。
草間と零が幸い順当に食べているので良いのだが、やはり未来の行動は目が余るモノらしい。
来琉鳩未来:リタイヤ
これ以降は、皆順当に、当然クジで当てた零と、あの兄草間も沢山食べ、飲んでいた。
「結構平和よね」
「ああ、かわうそ?が居ない分。うるさいのがいないからな」
〈宴も終わって〉
「「ふーくったー! のんだー!」」
だらしない男衆がもう満足げに言う。
和牛焼き肉セットはあっという間になくなった。
未来は蓑虫のように転がっており、猫3匹に遊ばれている。
「さてデザートに、バニラ、抹茶あずき等々ありますよ」
焔寿と紫桜達が持ってきたアイスとか、簡単なお摘みの残りなどでまったりしている間、みなもと撫子、千春はシュラインと後かたづけをしている。
「良かった、良かった」
「零さんや草間さんがしっかりお肉食べられて良かったですね」
「シュライン様は?」
「食べたわよ。美味しかったわ。もちろんサラダも♪」
と、和やかな雰囲気。
クーラーボックスの蓋が外れ、ワサワサとタラバガニが出てくるところを灰師が満腹な草間の頭に載せて遊んでいたり、いつの間にか戻ってきた小麦色と他数匹が蓑虫未来に蟹いっぱい落として遊んでいたりと……。
「ぎゃーたすけてくれー!」
被害者が叫んでいる。
「こら、蟹で遊ばない! 臭くなるでしょう」
「あら? 縛っていたはずなのですが……」
「生命力が強いですね〜」
と、まあ、比較的平和な焼き肉パーティだったようだ。
「今度は蟹とマグロのカマをどうするかだよな……」
蟹に鼻を挟まれて怪我をしたが、絆創膏を貼っていた草間が呟いた。
〈おまけ〉
とある繁華街……
「かわうそ? どこだー!」
と、宮本まさおはずっとかわうそ?を追っていたのであった。
おわり
■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0170 大曽根・千春 17 女 メイドな高校生】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女(天位覚醒者)】
【1252 海原・みなも 13 女 中学生】
【1305 白里・焔寿 17 女 天翼の神女】
【2865 宮本・まさお 22 女 ロックバンド】
【4697 唐島・灰師 29 男 暇人】
【5017 来琉鳩・未来 24 男 ラーメン職人&悪魔召喚師】
【5453 櫻・紫桜 15 男 高校生】
■ライター通信
滝照直樹です
焼き肉戦争に参加していただきありがとうございます。
|Д゚) 和牛。和牛!
書いていて、私も焼き肉食べたくなりました。
|Д゚) ……
|ДT) 可哀想に
唐島灰師様、来琉鳩未来様初参加ありがとうございます。
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