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<東京怪談ノベル(シングル)>


※※災難な人達※※


 曜が通う女子高の生徒は大半が良家のお嬢様だ。将来はどこぞの御曹司と結婚をする女性が多いだろう。
 既に親が決めた婚約者がいるという生徒も少なくはない。
曜も良家のお嬢様、という事で学校関係者には通している。職業柄そこらへんのごまかしは得意だから。
 だから、曜が極道関係だと知る人間は学校の中には一人もいない。
 そんな中、曜は毎日の学園生活に少々のストレスを感じていた。
 無論、学校が楽しくないというわけでもないし、いじめがあるというわけでもない。
 …曜の心を悩ます原因とは…。
「お姉さま、おはようございます」
 声を掛けてきたのは後輩の女子生徒だった。
「おはよう、今日もいい天気だな」
「えぇ、お姉さまもいつも変わらずかっこいいですわね」
「そうか?ありがとう」
 言葉と共ににっこりと笑ってやると、その女子生徒はきゃあきゃあと騒ぎながら自分の教室へと足を向けていった。
 曜を悩ます原因、それは学校生活と私生活を別けて過ごしている事。
 くぐってきた修羅場の数と人生建研の深さ、そして貫禄があり、はっきりと物を言う性格から誤解されがちだが、そんな所がカッコイイと宝塚的人気が現在急上昇中なのだ。
「…はぁ…」
 曜は小さな溜め息と共に靴箱を開ける………途端、ドサドサと落ちてくる物体たち、もといラブレターの数々。
 今日もか、曜は疲れたように表情を歪めながら落ちたラブレターを一つずつ丁寧に拾い上げる。
 いくら欲しくもない手紙とはいえ、相手側の気持ちを考えると曜も無下にできないでいた。
「ひ、曜お姉さま!!」
 自分を呼ぶ声が聞こえたので、声の方に視線を向けるとやはり後輩の女子生徒が顔を赤くしながら目の前に立っているのが視界に入ってきた。
「あぁ、おはよう、どうかした?」
「あ、あ、あの…こ、これ!受け取ってください!!」
 受け取ってください、そう言いながら女子生徒は思いっきり突き出すように手紙と小さな四角の箱を曜に渡して…いや、強引に押し付けていった。
 まるでパンチでも喰らわすかのように突き出された女子生徒の手は見事に曜の鳩尾に入り、曜は箱と手紙を抱えながらその場に蹲った。
 そして、その女子生徒とはというと、きゃー!と叫びながら物凄い速さで曜の前から姿を消した。
 多分、きゃー、と騒ぎたいのは曜の方だという事に誰一人として気がついているものはいないのだろう。
「あ、曜お姉さま!私のも受け取ってください!」
 その証拠に見計らったように次々と現われる曜ファンクラブの皆様方。
「ありがとう、後で頂くよ」
 曜は極道っぽいところを見せないようにと気をつけながら礼を述べていく。
 そうしているうちにも曜のストレスメーターはぐんぐんと勢いよく上がっていく。
 一日が終わる頃にはメーターは限界を超えており、今にも爆発寸前だ。
 だが、ここで爆発させては今までも自分の苦労が水の泡になると考え、グッと堪えながら家路へと急いだ。


「わ、若頭!!落ち着いてください!!」
「あぁ、落ち着いているよ。コレ以上ないくらいに私は落ち着いているだろう」
『全然落ち着いていない!』
 組員達はそう思いながらも荒れ狂う曜を必死で宥めていた。
 その日は妖魔退治をした日だった。
 退治される妖魔が哀れだ、と思うくらいに曜は暴れてストレスを発散させていた。そして、それだけじゃ足りなかったのか自宅に帰ってから、ストレス発散の道具になったのが組員だった。
 哀れな組員達はみんなして『自分達のストレスはどこで発散させればいいんだろう…』と心の中で呟いていたらしいが、そんな事を言って曜の機嫌を更に損ねてもいい事はないので黙っていたとか。


 もしかしたら、一番かわいそうなのは八つ当たりをされる組員たちなのかも…。



―END―