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噂の占い師
●噂
最近ネット上で噂になっている事がある。
それは良く当たるという評判の占い師の事である。
最初はネット上で噂されていたのだが、最近では口コミなども手伝って様々な所で噂される様になっていた。
……
………
…………
「へぇ…そんな噂が広まってるんだ?」
神聖都学園の自分の教室にて秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)が初めて知った噂話を話してくれた級友に答える。
「まぁ、静奈はそういう占いとかってやりそうにないもんね、なんたって巫女さんだし」
「なによ〜、その言い方。ボクだって占って欲しい事とかくらいあるよ?」
「あ、そうなんだ?ちょっと意外。でもね、この話には少し続きがあってね…」
そして静奈の友人は占いを受けた人の行動がおかしくなってしまうらしいという話をするのを聞いて静奈は少し考え込む。
「あ、静奈ったらどうしたの?そんなのただの噂に決まってるじゃない」
「そ、そうだよね」
慌てて考えていた事を笑ってごまかす静奈であった。
そしてその級友はそのまま違う級友にやはり同じ噂について話に行ったのであった。
●事件
「やれやれ、また手掛かりなしか」
一人の若い警察官がたった今コンビニ強盗をしようとして捕まった、少年を見てため息をつく。
ここ最近コンビニなどを襲おうとする少年少女が後を絶たないという事件が起こっていた。
そしてその少年少女に関係性は一切なかったが皆同じ手口で、かつ捕まったときどこか空ろな瞳で自分が何をしたのか、翌日には忘れているとの事であった。
「全く催眠術かなんかで何かしてるのかな?まるで非現実的だが…」
担当している刑事はそんなことを呟いた。
●変わらぬ日常?
「あら?今度はかわいらしいお嬢さんね?それであなたの願いはなんなのかしら?」
占い師を目の前にしてどこか占い師の気配に半分飲まれた様な静奈の姿があった。
「あの…、ボクの願いは…」
……
………
…………
そしてその翌日、どこか心ここにあらずと云った様子で神聖都学園に登校してくる静奈の姿があった。
「あ、静奈おはよう」
「…………」
「静奈ってばおはよう」
「……あ、おはよう…」
静奈は級友の言葉にようやく気がついたかのように答える。
「静奈?」
「………」
静奈は友人の言葉に答えずに、そのままどこかぼんやりとした視線でどこか頼りない足取りのままふらふらとゆっくり校舎に入って行った。
●学園
神聖都学園大学部は同じ学園内であるために高等部との交流もまた盛んである。
そして学園その物も巨大である為に他の大学などとの交流も盛んである。
天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)の通う大学もまたそういった大学のひとつであった。
そしてここ近辺の図書館ではかなりな蔵書量を誇る神聖都学園の図書館を使わせてもらう為にたまたま訪れていた。
「やっぱりここの資料は役に立ちますからね…。あれは?」
そう言ってキャンパス内を歩いていた撫子であったが、やはり同じ方向に向かっている高等部のブレザーの制服をきている少女に目が留まる。
その少女は自分の幼馴染で、よく知っている秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)であった。
だが友人と一緒に歩いている様なのだが、どこか少し離れた所から見ても判るくらいいつもと様子が違っていた。
一瞬声をかけようか撫子であったが、その撫子が声をかける前に別の方向から声がかかった。
「あれ?先輩も図書館に用事ですか?」
そう声をかけたのは静奈の一つ下の後輩に当たる結城二三矢(ゆうき・ふみや)であった。
しかしその自分の掛けた言葉にまったくといって反応を示さない静奈に対して、不審に思った二三矢はもう一度静奈に声をかける。
「秋篠宮先輩?」
それでも反応がないのを見て静奈の隣にいたクラスメイトが二三矢に声をかける。
「あなた確か一年の二三矢君…だったかしら?なんか今日の静奈変なのよずっとあの調子で…」
その様子の一部始終を見ていた、撫子も思わず会話に間に割って入る。
「あの…、静奈さんがおかしいとはどういう事でしょうか?」
「あ、あなたは?」
「あ、この人は天薙撫子さんといって、俺の知り合いです」
二三矢が撫子の事を説明する。
「そうなの?」
二三矢の説明を聞いたそのクラスメイトは今日あった一部始終を二人に話し始める。
静奈がいつもと違いぼんやりして、ずっと上の空である事。
声を書けても何回か声を掛けた後にようやく気がついたような感じになる事。
「確かにおかしいですわね、わたくしの知ってる静奈さんはそんなではないですし…」
「俺もそう思います。ところでこうなる前に何か変わった事とかなかったですか?」
二三矢がクラスメイトにそう問うとクラスメイトはしばらく悩んだあとに答える。
「特に何も今朝学校であったらずっとあの調子だったから……でも…」
歯切れの悪そうにクラスメイトは話をする。
「でも?」
その飲み込んだ言葉が気になり二三矢がクラスメイトに聞く。
「あ、ううん、これは私の勝手な憶測だし聞き流してくれても良いんだけど…、昨日今噂になってる占い師について静奈に話したのよねって、静奈ってああいう仕事もしてるから関係ないとは思うんだけど、なんかひっかかってね」
「占い師ってあの噂になっている占い師の事ですか?」
撫子が確認をする。
「ええ……、って静奈が先行っちゃったからあと追うね。それじゃ」
そういってクラスメイトは静奈の後を追う姿を見つめながら二三矢が撫子に聞く。
「どう思います?秋篠宮先輩に限ってとは思いますけど、少し引っかかりますね」
「そうですわね…、少し静奈さんの様子を伺う事にしましょうか?」
「そうですね、それじゃ学校が終わったら連絡しますよ」
「お願いできますか?」
「判りました」
「それじゃ秋篠宮先輩は図書館に向かったようだし、俺達も行きましょうか?」
「そうですわね」
二人はそう言うと図書館に向かって歩き出した。
●二人の少女
「ふ〜ん。ここが噂の占い師のいるっていうお店、かぁ。なんかいかにもって感じね……」
とある裏通りにある雑居ビル。
雑居ビルに並ぶ人影を見ながらブレザーに身を包んだ、髪を短く切りそろえた少女が呟く。
そのショートカットの少女、月見里千里(やまなし・ちさと)は周囲を見渡す。
しばらくして同じ様に周囲を伺っているおさげに制服を着た少女が千里の視界に入ってきた。
そのおさげの少女、唯崎紅華(ゆいさき・せっか)も見た所占いをしてもらうのが目的、というわけではなく、そのしてもらいにきている人の列に対して注意を払っているようであった。
しばらく考えた後、千里は紅華の元へとゆっくり歩き始める。
「よし、動かないと話は進まないよね。きっと彼女も見た感じ私と同じ目的みたいだし、何か協力できる事があるかもしれないし…」
千里はそう決めると紅華に話しかける。
「ねぇ、ひょっとしてあなたもこの占い師の噂を聞いて?」
その千里の言葉に紅華はその言葉に含まれたものを感じる。
「ええ、そうですよ。そういうあなたも……かしら?」
二人はその短いやり取りでお互いの考えている事が一緒だという確信を得る。
二人は無言のままそっとその列から離れ路地裏に入る
「私は月見里千里、あなたは?」
「私は唯崎紅華、千里さんって呼べばいいのかな?」
「うん、それでお願い。あたしは紅華ちゃんって呼ばせてもらうね?」
ちゃんずけというのに思わず紅華は苦笑するが、すぐに表情を引き締めた。
意気を合わせた千里と紅華は列に並び始める。
千里は紅華にどうするか自分が考えていた作戦を話し始める。
「私は実はこう言う事ができるの…」
そう言って千里は隠しカメラとマイク、そしてそれの受信機を何もない空間から作り出す。
「とりあえずこれだけあれば何とかなるかな?」
そうやって何もない空間から機器の類を取り出す千里を見て、唐突に声がかかる。
「あの……すこしよろちいでちか?」
そう言って少し舌足らずな言葉で声をかけてきたのは列の近くに並んでいた、クラウレス・フィアートであった。
「しつれいでちが、おねえさんたちもここのうらないしさんの『あの』うわさをきいてやってきたのでちか?」
『あの』と言う言葉をわざわざ強調するクラウレスに千里と紅華は彼もまた自分たちと同じ目的でここにやって着た事を感じ取り頷く。
「わたちもこのうらないしのうわさをきいて、どこかおかしいとおもってきてみたのでちよ…」
「なるほど、それじゃ私達と一緒だね。折角だから三人で協力しようか?」
二人のその提案にクラウレスはしばらく考えた後、笑顔で答える。
「そうでちね。ひとりでやるよりもみんなでやったほうがきっとうまくいくとおもうでち。だからわたちはさんせいでつよ」
そうして千里と紅華とクラウレスは協力して動く事となったのであった。
●噂
「それで二三矢様はどれだけ噂をご存知なのですか?」
図書館の片隅で静奈の様子を伺いながら、小さな声で撫子が二三矢に問う。
「大体噂で流れてるのを聞いたとおりですよ。ただ先輩がもしその占い師の所に行ったのだとしたら…、これから少し注意する必要があるかもしれないですね」
「そうですわね」
そんな風に二人が話していると遠くから休み時間の終わりを告げる音が聞こえてくる。
「あ、俺はそろそろ授業に戻らないと…。先輩の事は授業が終わったらすぐに先輩の教室に向かって様子を見張りますから安心してください」
「それではわたくしはその占い師の所に行ってみますわ。静奈さんが昨日来たか判るかもしれないですし」
「それじゃ何かあったら連絡しますよ」
「お願いするわね」
そう言って席を立った静奈達の後を追うように二人も図書館を後にするのであった。
●占い師の館
授業が終わり、二三矢は慌てて席を立つ。
そして素早く荷物を片付けるとそのまま鞄を持って教室を出る。
「それじゃ先輩の教室に行くとするかな」
二三矢がそう言って教室を出て、静奈の教室に向かった頃、撫子は件の占い師の店の近くまで来ていた。
「本当にはやっているのですね……、おや?」
その行列に驚きながらも撫子は、その列から少しはなれた所で、見慣れた少女の姿を見つける。
以前会った時とは髪型も変わり印象も違っていたが、快活そうなその雰囲気は変わっていなかった。
撫子はゆったりとした足取りでその少女に近づき、声をかけた。
「千里様、お久しぶりです。千里様も何か心配事でもおありになってここにいらしたのですか?」
「あ、いや、まぁそういう訳でも無いんだけど…。それよりも撫子さんこそなんで?」
巫女である撫子がこういう占いとかに来る事の方が不思議に千里は思えたのだった。
そして千里は紅華とクラウレスにそっと目配せしながら撫子に問い返す。
「わたくしはちょっと気にかかる事がありまして…」
そう言いながらもわざわざそう聞いてくる千里の真意に気がついた撫子は三人に話を合わせる。
そして四人は軽く自己紹介をし、自分達の持っている情報を交換し合う。
四人共が、持っているのは噂に流れているような事ばかりで新しい情報は特になかった。
撫子が神聖都学園であった事を話すと千里が一瞬だけびくっと体を震わせたのを見て紅華が心配そうに声をかける。
「千里さん、大丈夫?怖いなら…」
「紅華さん、大丈夫そういうわけじゃないから…」
そんな二人のやり取りを見ながらクラウレスが声をかける。
「それじゃこれからどうするでちか?とにかくうらなってもらってからうごくのでもいいとおもいますし…」
「そうね、それじゃさっき話した通りまずクラウレスさんが、続いて私が占ってもらって見るわ、紅華さんと撫子さんはサポートをお願いできますか?」
「判ったわ、本当なら私も入ってみようと思ったのだけど、余り大人数で行っても怪しまれるしね」
撫子と紅華は千里の意見に了承の意を伝え、千里とクラウレスは占いを待つ列に並ぶのであった。
●追跡
神聖都学園を出た静奈を追いかけて、二三矢も学園を出る。
静奈に気がつかれない様に、といっても静奈は依然としてどこか宙を見るようなぼんやりした様子な為に気づかれる感じもなかったのだが、二三矢はその中でも違和感を感じていた。
「おかしい…秋篠宮先輩が迷ったそぶりもなくこうやって歩いているのは……」
二三矢のいう通り、静奈はよく迷子になるが、いつもいつも迷子になるわけではなかったのだが、二三矢にとってはいつも迷子になっているような印象を持っていたのであった。
しばらくそんな風に二三矢が静奈の事を付かず離れずに歩いていると静奈がふと足を止める。
そして静奈は目の前にあるコンビニエンスストアの看板を食い入るように見つめていた。
二三矢はそんな静奈の事を最初怪訝そうに見ていたが、慌てて隠れていた電信柱の陰から飛び出す。
「秋篠宮先輩だめだ!!」
飛び出したは店に入ろうとするし静奈を体ごと抱きしめて止める。
そしてそのショックで二三矢は静奈の事を押し倒す形になってしまう。
「う……う……ん…」
その倒されたショックで、静奈はどこか眠りから目が覚めたような小さな吐息を漏らす。
「先輩!大丈夫ですか?」
二三矢のその言葉でうっすらと静奈は瞳をあける。
「……あれ?…二三矢……君?どう……したの?」
「どうしたもこうしたもないですよ、心配したんですよ?秋篠宮先輩の事…」
「……?ありが…とう」
よくわかっていない様子ながらもお礼を言う静奈であったがふと胸にある違和感に気が付く。
そしてそのまま視線が胸のところに向かう、その先には押し倒した勢いで二三矢の手がちょうど静奈の胸をしっかり鷲づかみにしていた。
「………っ!」
静奈の声にならない悲鳴を聞いて慌ててうろたえた様に二三矢がその体をどかす。
「ち、違いますよ、これは不幸な事故で……」
そんな様子でしばらくの間、弁明をしていた二三矢であったがしばらくして静奈が落ち着いてくると、今までの事を話し始め、静奈に話を聞き始める。
「ボクは昨日噂になっている占い師さんのところに行ってみたんだ…。二三矢君は知ってるけど、巫女とかやってるのになんで?って思うかもしれないけど、ボクだってそういう普通の女の子がやってる事やってみたいんだよ…」
どこか照れくさそうに話す静奈であったが、占い師のところに行って自分の事を話したあと辺りからずっと霧の中を歩いてるような感じであったという。
そしてはっと気が付くと二三矢が自分の上にいて驚いた、との話であった。
「となるとやっぱり占い師の方はやっぱり危ないんだな…」
しばらく考えていた二三矢であったが、鞄から携帯電話を取り出すと撫子に電話をかける。
そして現在の状況を撫子に要約して説明して電話を切る。
「秋篠宮先輩は悪い夢を見ていただけなんですよ。一人で帰すのも心配ですし俺が家まで送りますよ」
そういって静奈の手をとりう二三矢であったがその内心ではまた少し違う事も考えていた。
『今の秋篠宮先輩を一人で帰らせてしまったらそれこそ外国にでも行ってしまうんではないだろうか?』
……と。
●夢幻
二三矢から連絡を受けた撫子は、やはりこの占い師は怪しいという事を皆に話す。
「なるほど、実際にここに来てって確証が取れたのはよかったけど千里さんとクラウレスさんは既にもう中に入ってしまったんですよね、後はうまくいく事を祈るのみ、でしょうか?」
紅華は心配そうな声でつぶやくと、占い師のいるというビルの入り口を見つめながら千里から渡された受信機を握り締めた。
占い師の館の中では千里がまずは自らの占って欲しい事をローブを目深にかぶった占い師に話始める。
自らの失った大事な人の記憶の事を…。
占い師はしばらく黙って聞いていたが、おもむろにテーブルの上においてある握りこぶしよりも大きいくらいの水晶球に手をかざす。
しばらく水晶球に両手をかざした後、占い師はゆっくりとした口調で千里に話しかける。
「あなたの……大切な人とは水晶球に映るこの人……ですか?」
そういって千里に水晶球を見るように促すと千里は警戒しながらも恐る恐る水晶球を覗き込む。
千里が水晶球をのぞくと水晶球は怪しく光、それとは逆に千里の瞳から徐々に輝きが失われて行った。
しばらくその様子を見ていた占い師であったが、その千里の様子に満足したのか、再び声をかける。
「どうですか?あなたの望むのはこの水晶球に映っていますか?」
「……は…い……」
虚ろな表情なまま千里は頷く。
「そう…いい子ね、あなたは今、私の声しか聞こえない……」
「……は…い…」
そう千里が頷いたときであった。
部屋の外で様子を闇にまぎれ伺っていたクラウレスが外にいる二人に連絡して、占い師と千里のいる部屋に飛び込んできた。
「ちさとさんだいじょうぶでちか?」
クラウレスのその言葉にも千里は返事をしなかった。
そしてクラウレスが来た事で、今回の事態に気がついた占い師は立ち上がり後ろにあった扉から逃げようとする。
そしてそのとき千里に声をかける「一緒に来なさい」と。
今まで呆然と座っていただけの千里であったが占い師のその言葉に勢いよく立ち上がり、占い師の後を追うのであった。
●占い師
占い師と千里の後を追いながらクラウレスは外にいる撫子と紅華に連絡して先回りしてもらうように頼む。
「ごめんでち。うらないしににげられそうでち、いまからおいかけていくのでさきまわりしてほしいでち」
「判ったわ。それでは先回りしておきます」
紅華はクラウレスにそう伝えると撫子に目配せをして、動き始めた。
クラウレスの追跡をかわす為に占い師は千里に声をかける。
「やつを足止めしろ」
その言葉で占い師と併走するように走っていた千里が反転をしてクラウレスの目の前に立ちはだかる。
「ちさとさんどうしたでちか?だいじょうぶでちか?」
クラウレスのその言葉に耳も貸した様子もなく千里は黙ってクラウレスに殴りかかってくる。
しばらくクラウレスは千里の攻撃を反撃もせずにかわしていたが、距離の離れていく占い師を見て仕方ないといったようにため息をつく。
「しかたないでち。ちさとさんちょっとがまんしてくださいでち」
クラウレスは力を集中すると本来の姿に戻る。
青年の姿となったクラウレスは千里の攻撃をかわすとその首筋に手刀を放つ。
その攻撃に千里はさしたる抵抗もなく崩れ落ちる。
「ん…?これで終わり、か?何かの暗示でもかけられてただ動いていた…、そんなところか。しかしこのままここにおいて行くわけにもいかないし、目が覚めるまで私が連れて行くしかないか」
クラウレスは千里の事を背中に背負うとそのまま走り出す。
「本当ならこの姿で長くはいたくは無いんだが、仕方ないな」
しばらくそうやって走っていると千里が小さく声を上げる。
「……う…うん……。あれ……、私どうして…?」
「目が覚めたか?」
背中からした声がするのを確認するとクラウレスは歩を止めゆっくりと千里を下ろす。
「今、あの占い師を追っているもう歩けるか?」
地面に降ろされた千里は見た事の無い青年に少し驚きながらも答える。
「は、はい…。まだ少しぼーっとしてるけど大丈夫です。あの…あなたは?」
「私はクラウレスだ、この姿は人にはあまり見せたくなかったんだがな、非常事態だったんで仕方が無かった」
そういって苦笑するクラウレス。
「クラウレス…君じゃないさんだったんですか…、驚きました。ところで早く追ったほうがいいですよね?」
千里はすぐに頭を切り替えたのかそう言って走り始める。
「そうだな、その通りだ」
クラウレスも走り始め、二人はまた占い師を追いかけ始めた。
●禍々しき水晶球
しばらくしてクラウレスと千里と紅華と撫子は人気のない大通りにて占い師を挟み込んだ。
「もうにげられないでちよ」
その時にはもうすでにクラウレスは元の子供の姿に戻っていた。
「その通りよ、もう逃げられないから観念なさい」
紅華がそういって一歩踏み出す。
その姿に占い師は一歩二歩と後ろに下がる。
「おかしい、私の計画は完璧だった…はず、何でこんな事に…」
「完璧?これのどこが?これだけおおっぴらにやったらそれはもうばらしてるようなものよ?」
紅華のその言葉に占い師はあからさまに狼狽していたが、意を決したのか紅華に向けて勢いをつけて走りだす。
雄叫びを上げて紅華に殴りかかった占い師であったが、その攻撃を紅華はあっさりとかわし、その首筋に手刀を一発放つ。
その手刀の一発で占い師はあっさりとその場に倒れこんだ。
「あれ?これでおしまい?なんだかあっさりとした終わりだったわね」
そう言いながら紅華は占い師の目深にかぶったローブに手をかけゆっくりと顔を露にする。
ローブの下にあったのはどこにでもいそうな二十代半ばくらいの女性の顔であった。
そしてその女性の懐から怪しげな光を放つ水晶球が転がり出る。
紅華はその水晶球に何気なく触ろうとした所を撫子に止められる。
「その水晶球から禍々しいものを感じます…。わたくしが封じますので触らないでください」
そう言って撫子が懐から符を取り出し水晶に封印の呪を唱える。
しばらく光が明滅していたが水晶からその光が徐々に失われて行った。
「どうやら、その人が、というよりもこの水晶球の方から悪しき物を感じました。ひょっとしたらその人はこの水晶球に操られていたのかもしれないですね…」
撫子がそう言って水晶球を手に取った。
●エピローグ
そしてその翌日、占い師から話を聞く事ができた。
彼女は以前から占いをやっていたが、なかなか自らの占いが人気が出ずにいた所、たまたま入った古道具屋であの水晶球を見つけたあと、その水晶球から声が聞こえたと思った途端、その後の記憶が断片的にしかなく今に至った、という事であった。
その場にいるのは、二三矢、撫子、紅華、クラウレスの四人であった。
撫子から話を聞いた千里は静奈の様子を見るという事でその場にはいなかった。
千里の気持ちとして、撫子から二三矢の話を聞いていた為一緒にいたくない、というのがあったからでもあるのだが…。
「それじゃそのすいしょうきゅうがすべてのしょあくのこんげんだった、ということでちか?」
街で評判のクレープをおいしそうにほおばりながらクラウレスが撫子に聞く。
「そうなりますね…。多分この人の心の弱い所をついたのでしょう」
撫子が嫌悪感を露にした様子で水晶球を見つめる。
「それで、その水晶球はこれからどうするんですか?」
「わたくしの神社で厳重に封をして預かろうと思います。今後このような事が起こらぬように…」
紅華の疑問に撫子が答えると、今まで黙っていた二三矢が声を上げる。
「それで今回の事件の被害者の人達は大丈夫なんですか?その水晶球を封じたからって…」
「それは大丈夫かと思います。千里様の様子を見た限り、どうやら催眠術の様なもので暗示をかけられていた様子でしたから、力の源が消えれば後は大丈夫だと思います」
「なるほど…」
そう撫子に答えながら「千里」という名前になぜか自分でもわからないが心が痛くなる二三矢であった。
「それじゃとりあえず、これで一件落着って事になるのかしら」
紅華のその言葉で皆の顔に笑顔が戻った。
●エピローグ2
「大丈夫ですか?静奈さん?」
千里は二三矢に連れられて帰宅して、その後精も根も疲れ果てた様子で眠っていた静奈が目を覚ましたので声をかけた。
「ええ……、なんだか頭がまだボーっとしてるんだけど…。そういえばあの占い師は?」
「解決しましたよ。みんなで協力して…」
「そうですか、よかった、ボクみたいな被害者はもう増えて欲しくなかったからね」
「そうですよね。ってちょっとひとつ聞いて良いですか?」
「何?ボクで答えられることなら…」
「静奈さんって巫女さん…何ですよね?なんで占いなんかに行ったんですか?」
千里は皆が不思議がっていたことを静奈に聞いてみた。
「ははっ、ボクだって普通の女の子なんだよ?…つまりはそういうことだよ」
「あーなんだ、そういうことだったんだ」
どこか照れくさそうに話す静奈を見て千里も笑いながらまた思う。
自分のこの気持ちもまたどこかで再びひとつになることがあるのだろうか?と…
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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≪PC≫
■ 天薙・撫子
整理番号:0328 性別:女 年齢:18
職業:大学生(巫女):天位覚醒者
■ クラウレス・フィアート
整理番号:4984 性別:男 年齢:102
職業:【生業】奇術師 【本業】暗黒騎士
■ 月見里・千里
整理番号:0165 性別:女 年齢:16
職業:女子高校生
■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高等部学生
■ 唯崎・紅華
整理番号:5381 性別:女 年齢:16
職業:高校生兼民間組織のエージェント
≪NPC≫
■ 秋篠宮・静奈
職業:高校生兼巫女
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■ ライター通信 ■
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どうもこん○○は、もしくは初めまして、ライターの藤杜錬です。
この度はゴーストネットOFF依頼『噂の占い師』にご参加頂きありがとうございます。
しばらくお休みを頂いた後の復帰第一弾のノベルとなりましたが、いかがだったでしょうか?
私自身なかなかペースがつかめず四苦八苦いたしましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
暑い日々が続きますが、皆さんもお体にはお気をつけください
●天薙撫子様
お久しぶりのご参加ありがとうございます。
今回はこの様になりましたがいかがだったでしょうか?
●クラウレス・フィアート様
いつもご参加ありがとうございます。
今回はこの様になりましたがいかがだったでしょうか?
秘密を少し公開する結果となりましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
●月見里千里様
初めて依頼へのご参加ありがとうございました。
以前書いたシチュエーションノベルも踏まえて二三矢さんとの関係と絡めて見ました。
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
●結城二三矢様
いつもご参加ありがとうございます
今回は千里さんとの関係も少し踏まえて書いてみました。
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
●唯崎紅華様
初めてのご参加ありがとうございます。
久しぶりの依頼を出したと云う事もあり、色々緊張しながら書いてましたが、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは皆様ご参加ありがとうございました。
2005.08.08.
Written by Ren Fujimori
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