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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


歪んだ童話の見つけ方


 今まで言えなかった事を口にしたのは、黙っていなければならなかった反動だったのだろう。
「本当に言おうとしたら方法があったはずだろ」
「……だったら?」
 不穏な空気に、これから始まるだろう事を察したりリリィがそっと部屋から出て行く。
「それが出来そうなやつ沢山いるだろうし、俺にだってどうにか出来たかも知れない」
 遠回しな嫌みに、むっとしながら短く返す。
「何が言いたい」
「おまえのやり方は、何時だって卑怯だ」
 解ってる、そんな事。
「言えなかったんじゃない、言いたくなかったんだろ?」
「……考えなかったのか? お前が率先して動いて、誰かを殺すように仕組まれてるんじゃないかとか?」
「そういう嫌なところ親父にそっくりだ、最悪なことばっかり考えてる」
 どうしてこう、この男は……。
「何だよ、何か言えよ、それとも言い返せねぇのか」
「………」
「俺は誰も殺さない」
 黙ったまま、側にあったポットを顔面めがけて投げつける。
「ザマーミ……っ!?」
 ごっ!
 鈍い音が、喧嘩の始まりの合図だった。



 喧嘩していた二人……つまりはりょうと夜倉木を宥め、とりあえず落ち着かせる。
「理由は?」
「こいつが悪い」
 まったく同時に相手を指さす。
 反省の色は解ってはいたが皆無だった。
 深々とため息を付き、狩人は頭を抱えたくなったのをどうにかして堪える。
「大丈夫ですよ、この程度いつものことなんです」
「そうなのか……?」
 苦笑しつつのリリィの言葉は、普段見ているだけあって信憑性は高いとしても……酷く険悪に見えるのだが?
「もっと酷いときありましたし」
「………」
 一通り殴り合いをして、気が済んだらしい事だけは救いか。
「あんま無駄な体力使うなよ」
 とりあえずこの件はこれで良いとして。
「相手の場所も解ったことだし、今度はこっちから打って出ようと思ってる」
 何かしているのは明白だ。
 出来るなら早い内にどうにかした方が良い。
「急いだ方が良い、何か嫌な予感がするんだ。ああ、でも今回はできれば二手に分かれたい」
 虚無の境界は当然ながら、本部内のきな臭さも放置できない。
 コール達の所へ行くのが確定しているのはナハトと夜倉木、それからごたつくだろうからディテクターも呼ぶそうだ。
 本部にいるのがりょうと狩人にリリィとメノウ。
「乗り込む方と、ここに残る方、どっちか選んでくれ。他にすることあるって言うならそれでもいいが」
「りょうと別行動を取っても構わないのか?」
「ああ、俺が許可する」
「だが……」
「ん? 俺は平気だって」
「……そうか」
 考え始めたときに入った連絡に、狩人が携帯片手に慌ただしく部屋から出て行った。
「悪い、ちょっと出てくるから。その間に決めてくれ」
  戻ってくるまでに、どうするかを決めなければなるまい。
 それはすべてが動き出す、直前の出来事。


■三人

Hinx, minx, the old witch winks,
The fat begins to fry,
Nobody at home but Jumping Joan,
Father, mother and I.
Stick, stock, stone dead,
Blind man can't see,
Every knave will have a slave,

You or I must be he.

 使われなくなった、小さな教会。
 今更祈るのも馬鹿げている。
 カミサマなんて、居ないのだから。
 信じているのは……色々な事を教えてくれた人だけだ。
「……」
 気配を感じ取り歌うのをやめる。
「さあ、ディドル、タフィー、ここへ」
「出来てるのか?」
「これから仕上げを始めるんだ、力を貸してくれるな」
「はい、マスター」
 すべては、計画通り。



 ■組織

 見えてきた相手の存在はあまりにも大きいが相手も人間だ、対処のしようはある。
 圧力の元は国内ではないのだし、きっかけさえあれば距離から考えて手も出しにくくなるだろう。
 だが……どれほどの事が成せるだろうか?
 考え方を変えるべきなのかも知れない。
 どうすれば、興味をなくせるか?
「………」
 揺らいではならない。
 今度こそ犠牲を出してなる物か。
 長く続いている足取りを確かな足取りで前へと歩いていく。



 唄の始まり。
 さあ、揺らいでいるのは、誰?




 ■室内−1

 涼しげで柔らかい音色が部屋を満たす。
「これで良いわ」
「おー、バッチリ」
 具合を確認したり、腕をぐるぐると回してからりょうがポンと膝を打つ。
「まったくもう、何やってるのよ」
 呆れたように羽澄が言い、大人げない二人に視線を送る。
「一応は考えてますよ」
 治療できると解って喧嘩をしているだけあって、二人とも容赦や手加減という物が全くないのだ。
 普段通りなのは調子が狂うよりは良いかもしれないが、流石に限度がある。
「帰ってきたみたい」
 気配を察し、かなみが顔を上げた直後。
「もう行けそうか?」
 用事を済ませて戻ってきた狩人が声をかけたのは、これからコール達の所へ向かうメンバー。
「平気です、連絡もしておいたから」
「さっきかけてましたね、電話」
「北斗にも来るように言っておいたんだ」
 信頼できる人物であるのなら、多いに越したことはない。
「止められたとしても、私の考えは変わりません」
「だそうだ」
 淡々とした口調の中に、はっきりとした意志が感じ取れる。
 ナハトと夜倉木、魅月姫と啓斗。
「いや、向こうも危ないだろうからな。行ってくれて助かる」
 そしてこれから合流するディテクター、共通しているのは全員が攻撃主体であると言う事だ。
 先手必勝。
 攻撃は最大の防御なり。
 そんな言葉も浮かびはするが……。
「草一本残さないメンバーだよな」
「攻撃は問題ないとしても、防御は平気?」
「色々と細工をしてきそうですからね」
 不安げなリリィとメノウの言葉はもっともだ。
 結界や治療。そういった点が難点なのである。
「確かにな、俺も行った方が良くないか?」
「それこそ危険だろうが」
「りょうも狙われてる筆頭なのよ」
 ぽつと呟いた提案は、狩人と羽澄に即座に却下される。
 当然の結果だ。
「でも危険なのは確かよね、りょうも含めて」
 取り出した鈴をリンと鳴らしてナハトとりょうに渡す羽澄。
「これなら攻撃も防御も出来るから」
「助かる、羽澄」
 内ポケットへ仕舞ったのを見届け、鳴り始めた携帯片手にイスから立ち上がる。
 色々するべき事の仕度を始める頃合いだ。
「じゃあみんな、また後で」
「おっと、渡す物があったんだ……ちょっと待っててくれ」
「……?」
 奥の部屋へと行った狩人に羽澄も続き、入れ替わりに、汐耶が顔を出す。
「メノウちゃんに話があるんだけど……どうかしたんですか?」
 たった今まで話し合っていた時の気配が今も抜け切れていなかったのだろう。
 話を聞いた汐耶が、だったらこれをと鞄を開く。
「治療でしたらこれを、任意で発動できるようにしておきましたから」
 取り出した紙の束には汐耶の兄が持つ治癒の力が込められている。
 元々は一冊の書物の形をしていたが、分けた方が持ちやすいと考えたのだ。
「助かります」
「元々渡すつもりでしたから。メノウちゃん、今は大丈夫?」
「はい。では、また後で」
 二人を見送り、五人も既に車で待っているというディテクターの元へ急ぐその間際。
「危なくなったら直ぐに逃げろよ」
「そっちも気をつけて」
 それは念のためにかけた言葉なのか、はたまたこれからを感じ取ってなのか……足下をすくわれかねない状況にあるのは、どちらにいても同じなのだから。



 忙しい最中、本部内であるとはいっても出立間際に会えたのは運が良かったからだろう。
「帰ったら仕事たまってそうだな……」
「それ、予測じゃなくて確定してそうよね」
 山積みになった書類を前にため息を付く零の姿は容易に目に浮かんだ。
「でも今はこっちに集中しなきゃよね」
「そうだな、そっちもきな臭いから気をつけろよ」
「解ったわ……あ、ナハトに気をつけてあげてくれる?」
「戦闘ならあいつの方が強いだろ?」
 ナハトも行くと聞いて、不安に思っていた事を手短に話して聞かせた。
「……解った」
 話して行くのを止めようかも迷ったのだが、そうなると向こうの戦力面での不安が大きくなる。
 遠くから聞こえる良く知った足音。
 そろそろ時間だ。
 どうなるかは、起こってみなければ解りはしない。
「行ってらっしゃい、探偵さん」
 状況は、絶え間なく揺れ動いているのだから。



 入れ替わるように訪れたのは啓斗から連絡を受けた北斗と、嫌な予感がすると行って駆けつけてくれた撫子。
 部屋まで案内した悠也が最後に部屋に入り戸を閉める。
「お帰りなさい」
「不具合はありませんでしたか?」
「大丈夫、ありがとう」
 結界を張ったりと色々と細工をさせてもらった際、この家に元々張られてあった結界と不具合を起こさない様にかなみには話をしてあったのだ。
 これでもうこの扉を通じてしか出入りできない。
 鍵をかけてしまえば、家を守る結界が働いて無理に扉を破る事も不可能だ。
 中に入れば安全は確保できる。
 その他のことを考えると一時的な対処にすぎないが、今はこれで十分だ。
「結構集まったな」
 戻ってきた狩人と羽澄がそろった顔を見渡す。
「北斗も呼ばれたみたいね」
「所で、俺ほとんど何もしらねぇんだけど。いきなり兄貴に来いって言われてよ、ほとんど命令だなあれ」
 その光景を容易く想像できた羽澄が笑みをこぼす。
「今はやる事があるから、また後でね」
「それ、好きに使っていいからな」
「解ったわ」
 探していた物は一枚のフロッピーだった。
 きっちりとしまい、外へ行こうとした羽澄が足を止めて振り返り、軽く手を振る。
「頑張ってね」
 どこかうれしそうな微笑み。
 誰に向けた物か気づいたのは、ごく僅かな人だけだ。
 扉が閉まる音を耳にしてから、そろそろと話を切り出す撫子。
「わたくしも状況をお聞きしてよろしいでしょうか?」
 それもその筈。
 撫子と北斗の二人は今の状況を殆ど知らないのだ。
「良かったわ、ちょうど事件をまとめてた所だから」
「いまプリントアウトする」
 トンっと書類をまとめたりょうとリリィにちょうど良いと狩人がうなずく。
「詳細はそれ見て判断してくれ、ザッと説明すると……かなみ?」
 何かを悩んでいた様子だったのだが。
「何でもないわ、お茶入れるから待っててね」
 軽く手を振ってから。
 一人、二人と数え直しキッチンへと戻っていった。
「俺も手伝います」
「私も」
 かなみの後を追うように悠也とリリィの二人も続く。
 僅かに首をかしげた物の、落ち着いたところで説明を再開する。
 しばらくして、事のあらましを説明しかけた頃。
「……だいぶ混乱されてるようですね」
「結局なにがどうなんだ?」
 書類の文字を指先で辿る撫子とは対照的に、困難した話を聞くだけでぐったりした様子の北斗。
「そうだな。思い切りまとめるなら、色々ちょっかい出してくる奴らが居るけど……片方は張り倒して、もう片方は穏便にあしらって帰ってもらおうって所だ」
 身も蓋もない。
「………」
 何となく視線がりょうに向かったのは、間違いなく血筋めいた物を感じたからである。
「少し外の様子を見てきますね」
「行ってらっしゃい」
 ソファから立ち上がった悠也を見送り、話を再開した。



 ■虚無−0

 元居た部屋を振り返り、痕跡がないことを確認する。
 強い結界を張るのは可能だ、けれどそれは同時に結界を張ったという痕跡を残しやすくしてしまう。
 それはここに何かあると告げているに等しい。
 大丈夫。
 彼女が元々張ってあった結界に、悠也の張った結界と仕掛けが上手い具合に隠すことか出来たし、部屋の中にいるりょうにも結界を張ってある。
 他にも多々防護策をとってある様だから、りょうは安全だと考えて良い。
 さて、と振り返った悠也が普段通りの口調で呼びかける。
「悠、也」
「はーい」
 ぽんっと軽い音と共に現れた悠と也が足下へとかけより、楽しそうに見上げてくる
「楽しかったですか?」
「はい、いっぱい遊びましたー♪」
「楽しかったですー★」
 廊下に響いた元気の良い声に、悠也が柔らかく微笑んだ。
 今までもこの調子で走り回っていたのであれば、これからも何かしても大して気にはならない筈である。
「影さんの所へお使いと本部内の門番役、お願いしますね」
「はーい、お使いです♪」
「はーい、門番です★」
 これで本部内で何かあれば二人がすぐに気づく。


 そろそろ本来の目的を行動に移す事にしよう。
「いい頃合いのようですしね……」
 一人になれる場所で結界を張り、放っていた蝶へと意識を傾ける。
 耳に届くのは感情のない歌声。
 聞こえた会話はコール達の話。
 どこからか帰ってきたばかりの様で、結界も開いたばかりだから干渉もしやすい。
 この辺りで、詳しく情報を手に入れておくべきだろう。
「これから仕上げを始めるんだ、力を貸してくれるな」
「はい、マスター」
 ゆらりと陽炎のように感じる感情。
『計画通り……ですか?』
 声に気づいたコール達が視線を向けたのは、ひらひらと舞っていた蝶が悠也の姿へと変化した後だった。
 はっきりと見えるようになった教会の内壁の所々には大きく魔法陣が描かれてある。
 様々な技術を掛け合わせた為だろう。
 歪みや矛盾をそのままに形作られたそれは、今にも何かが吐き出されてきそうな気配を作り出していた。
 あれは、危険だ。
「……驚いたな、ずいぶんと早い」
『それは失礼をしました、すっかりお待たせしてしまったのではないかと思ったのですが……少しは驚いて貰えたようですね』
「……このっ」
 視界の端で、ディドルが飛びかかる間合いを計っていたのを見逃しはしなかった。
『無駄ですよ、実態はここにはありませんから』
 だが鋭く伸びた爪が体を切り裂くのを交わす必要もない。
『俺はここに居て、ここに居ませんから』
 音もなく腕が悠也の立っている場所を通り過ぎるのを見守るだけで良かったのだ。
 触れることが出来ないという、何よりも雄弁な出来事。
「……っ! コール!」
「……無駄だディドル、下がれ」
 半身ほど前に移動したコールは、その場に立っていただけのタフィーをも背後へと下がらせた。
 その方が都合は良い。
『皆さんが到着する前に、少しお話ししましょうか』
 伸ばした掌がコールの体内へすうっと滑り込んでいく。
「……!」
 コールの思考に干渉し悠也の意識を溶け合わせていく事は、まるで濁流に逆らう様だった。
 濁った流れの中で明確な言葉としてつかめた単語は幾つか。
 動揺、虚脱感、闘争本能、敵対心。
 霊鬼兵、装甲型。
 触媒能力。
 カードの奪取……。
 そして、一人の少女。
「……っ! タフィー!!」
 ジャラリと揺れる鎖の音。
 爆発的に膨れあがった能力に、悠也は触れていた意識から強い反発に合いはじき飛ばされた。
「……妨害、ですか」
 流石に一筋縄ではいかない。
 周囲を確認すれば、教会から遠く離れた場所へとはじき飛ばされてしまっている。
 結界もより強く張り直されてしまったようだから、再度干渉するにも時間が掛かるだろう。
「………急いだ方が良さそうですね」
 まずは、体に戻らなければならない。
 つかみ取っていた単語を組み立て直し、その予測が辿り着いた答え。
 それは、こちら陣営のカードを奪い取る事。
 足下から、内部から、今にも崩れ落とそうとする音が響き続けていた。



 ■室内−2

 さらに先に進もうとする前に、しておくべきポイントが一つある。
 そう考えていたのは一人ではなかったようだ。
 元から話を聞いたりして部屋に残っていた北斗と撫子に加えて、調べ物の合間に汐耶とシュラインが戻ってきたのはそんな理由があったからこそである。
「……何で俺は囲まれてるんだ?」
「日頃の行いじゃねぇの?」
 困惑気味な口調に、北斗が冷静に突っ込む。 ショートコントは横に置いておくとして。
「まじめな話、りょうさんがどう考えてるかはっきりしておいた方が良さそうですね」
「……へ? 向こうの思い通りに動くつもりなら頭からねぇけど」
 その事によほどこだわっているらしい、気持ちはわかるが今は別の事が聞きたいのだと汐耶が訂正する。
「能力の自覚について、どう認識しているのかと思いまして」
 根本的な事だからこそ、再確認しておきたい。
 何かずれがあるとすれば、その歪みは後になればそれだけ大きくなる。
「あー……」
 沈黙し、考え込んでいたのは数秒程だった。
「はっきりと考えたこと無かったな。一回全部取られた時は不便だったけど」
自分の持っている能力を具体的にどう使えるか、それを解っているか解っていないかの違いは大きい。
 持ちうる能力が体質的な物であれば、何らかの覚悟や犠牲と共に得た能力と全く別の意識を持っていたとしても当然だ。
「……考えとく、出来るだけ早く」
 どうするか決めるられるのは本人だけだろうか、あまりにも漠然としすぎては居ないだろうか?
「早くって……それも大変そうな」
「ははっ、まあ大変だろうがはっきりさせられたら悪くはないな」
 短時間では無理があるだろうとほのめかす北斗に苦笑した狩人は、だからこそ解ることが多いのだろうと感じさせた。
「それが切っ掛けになる可能性もある訳ですから」
「色々疑問点が多い状態ですから、言ってくれると助かります」 
 何が事態を紐解く事に繋がるか解らないから、深く関わっていそうなことは知っておきたい。
「触媒能力者ってのは、何か切っ掛けがない限り大体が平均値である事が多いんだ」
 何事にも対応できるように、特に苦手な分野も得意な分野もないのだ。
 得意不得意があればまだどうするかを思いつきやすいのだろうが。
「なるほど、そう言う事でしたかですか」
 意図を察した撫子がうなずく。
「意識すれば何とかなる問題なんだ、しゃきっとしろ」
「……そーだな。うん、そうする」
 納得しかけていると解ったのなら、次へと移る思考も早かった。
「その辺りの資料とか、そう言った物を見ることは出来ませんか? IO2が捕まえた虚無の境界の関係者や、能力を使った犯罪者が知りたいんですが」
「ん?」
 汐耶の提案に何かを感じ取ったのか、考え込んだように見えたのは僅かな間だけ。
「私も調べたいことがあるのだけれど門番の事件とか、触媒能力についても詳しく」
 他にも知りたいデータがあると告げたシュラインに、瞬時に思考を切り替えうなずく。
「解った。かなみ、頼む」
「家のパソコンから接続できるから、それを使ってください」
 後は個人の思考の問題になった以上、出来るのは助言だけだ。
 目の前でや、これから起こる事に対してどう動くべきかの判断は自らでなさねばならない。
 唐突に呼び出され状況を頭にたたき込むのが精一杯だった北斗にとって、落ち着くにはあと少しばかりの時間が必要だが、それはもっと根本的な問題なのだ。
「で、結局どうするか漠然とでも決めてるんだろ?」
「一応はな、出来るか出来ないかってだけで」
 反応を見て言っただけの北斗の言葉は、そう間違っていなかったようだが、口調や視線にどこか釈然としない物を感じずには居られない。
「……―――」
 どこかで見た事のあるような感情だと言いたかったが、上手く言葉にならない。
 何か警戒心めいた物がよぎりかけた北斗とは真逆の反応を示したのは撫子だった。
「話をお聞きしただけですけれど、りょう様の誰も殺したくないという思いは大切です」
 おっとりとした口調に、視線が集中する。
 空気が和らいだのが肌を通してすら感じ取れた。
「……ああ」
 まだ続きがあることを察したりょうは僅かな言葉を発し続きを待つ。
「ですが、一人で思い詰めるのは禁物ですよ。皆様はきっと、りょう様が思っている以上にりょう様のことを解っていらっしゃると思いますから」
「………」
「もちろんわたくしもです」
 合わされた撫子の視線はすべてを見通すような物であるのに対し、りょうは完全に予想外であったかのように目を見開いていた。
「やりたいと思うことを見つけてください、きっとある筈ですから」
 知ろうとする真摯な態度には、あまりなれていなかったらしい。
「…………はい」
 まるで諭された子供のように、りょうは真っ赤になった顔を隠す為にソファーの背もたれに頭を預けて天井を見上げたのだった。



 ■組織−1

 渡されたのは一枚のフロッピー。
 飾り気のない黒いシンプルなそれの中は見れば解る。
 渡されたとき、好きに使っていいと言われたのだ。
 つまりは、そう言う意味だろう。
 裏で色々な思惑が動いているのはよく解っている。
 だからこそ調べる範囲を明確にして、考え得る可能性を調べていくことから始めなければならない。
 まず考えたのは狩人は圧力を受けているだけではなく、それ以上の……妨害めいた物を受けているのではないだろうか?
 触媒能力者を目的に、ごたつき出した隙に切り込むように動き出したのはIO2本局かその系統。
 政府関連やIO2と触媒能力者が関わってきた事を調べつつ、渡されたフロッピーのデータにも目を通していく。
「………これ」
 出てくる時は何を調べようとしているか言っては居なかったはずだから、中身と併せて考えた場合見えてくる結果が重要な手がかりになったのは偶然だったのだろう。
 本部の触媒能力者がらみの件はそう多い物ではない。
 触媒者がらみの事件には、ほぼすべてと言っていいほどに狩人の手が加わっているのだ。
 一致している事と言えば……彼を知っているのなら何らかの改竄をしてと解る。
 そして渡されたデータは、過去狩人がIO2と協力して行った実験のたぐい。
 触媒能力者が取り込んでしまった者の人格や能力を分離させる方法。
 能力の底上げ、真逆の性質を持った能力の融合実験。
 出来る事から初め徐々に実験の幅を広げていった結果だろう、先天的な能力を持つ者……人外異の遺伝子と人の遺伝子を結合させる研究までをも初めかけた矢先。
 唐突に放棄され、他者の手に渡っていたようだ。
「ジーンキャリア……」
 独りごちた単語こそが、研究していたことの現在の名称。
 思考し、目を閉じる。
 そうした実験の中で狩人が率先して血やら何やらを提供しては居たが、罪悪感めいた感情に襲われていたのかも知れない。
 中断して以降は、成果らしい成果を見せていない事も彼を呼び寄せた理由の一つだ。
 この研究は狩人の頭の中にある。
 他の触媒能力者も、ほぼ全員を狩人が居場所の把握していると言っていい。
 定期的な薬の投与を必要としないジーンキャリアの完成体を作ろうとしているのだろう。
 組織にとってこれからも行おうとしている様々な研究や技術の発展のために必要な事だったのだ。
 戻ってきた理由も、組織があまりに強い強攻策をとってこない理由がわかった気がした。
 組織にとって、まだまだ使い道は残っているのである。
 それが解る以上、そこにいる事こそが守りであり対抗策になりえるのだ。
「やっぱり親子よね」
 共通点は、相手が自分を交渉の材料に使えると理解している所。
 異界の核になってしまった者を救う事を考えるというのが、最近始めた一番新しい研究のようだった。
 一度発現した特異な能力の分解、消失という点で見れば、ここに来て狩人が始めた研究は螺旋のように始まりと似たような場所に戻ってきた風に感じられる。
「………戻らなきゃ」
 これを渡した理由を聞かねばならない。
 考えられる理由は幾つかある。
 データを渡したこと自体が必要な事。
 例えば本当に追いつめられたる事があった場合、データがここに無いと誤魔化そうとしているなんてありそうな事である。
 もしくは……いま、渡しておかないとなら無かった。
 確率で言うなら、後者の方がとても高く感じる。
 前者が希望で後者が予想だ。
 羽澄の知っている狩人は責任感が強く、一人でこなしてしまおうとする人なのだから。
 やるべき事がある以上、今すぐではないとは思いたい。
 けれど知っているのだ。
 希望は、願っているだけでは容易く裏切られてしまうと言う事を。



 ■虚無−1

 外見上には既に使われなくなり、時間の経過した教会ですんでいただろう。
 最もそれは能力を感じ取れない者に限定される事であって、感じ取れるのなら解りやすぎるほどに強固な結界が張られているのだ。
「そっちはどうだ?」
「駄目です」
 簡潔すぎるほど簡潔な答えに、ディテクターが煙草の煙と共にため息を付く。
「他に通り道はないな、あくまでも正面から来いと言いたいようだ」
 ここに到着したとき、ここから通れと言いたげに結界の緩くなった所がある。
 真正面の扉がそれだ。
「これだけ罠ですって解りやすいのも凄いな」
 独りごちた啓斗に、それぞれが内心同意する。
 相手の行動が解っても対処できなければ、殆ど対応できはしないのだ。
 正面突破はこの顔ぶれには対応しやすい手だが……。
 一応他に手はないか、二手に分かれて一回りしたが結果は今かわした会話の通り。
 建物の構造的にも、呪術的に見ても隙間や抜け道は全くなかった。
「まるで強固な檻のようですね」
 外からは物音一つ感じ取れないその場所を、魅月姫の言葉に誘われるかのように静かに見上げる。
 向こうはここに自分たちが来たのを知っているはずだ。
 それでも出てこないのは、中に入った方が都合がいいからである。
 ならそれを逆手にとり、外で話す程度の時間は取れるというのが結論だ。
「いっそ結界ごと建物もまとめて破壊してしまえばいいものを」
「……出来そうだけどな、それって……」
「冗談にしておいた方がいいですか?」
 何処まで本気か解らない夜倉木の言葉に、啓斗が浅くため息を付く。
 確かに強力な結界ではあるが、魅月姫とナハトが全力で攻撃を仕掛ければ中に入る必要すら皆無である。
「可能ですがどうなさいますか?」
「やる事がなかったらそれもありだと思うがな……」
 いくら簡単で手っ取り早いとはいえ……それでは何も解決しない可能性が高い。
「私はどのような方か会ってみたいと思っています」
「……そうだな、依頼もあるし」
 危険が及ばない範囲でと言う条件付きでの元、出来たらやって欲しいと言われていたことがあったのだ。
「出来る限りの情報の入手と可能であればタフィーの奪取」
 落ちる一瞬の沈黙。
 視線が交差し、その瞬間入り交じったのはそれぞれの思惑だ。
 行くべきか、行かざるべきか?
 安全を取るなら何も手に入らない。
 多少の危険と天秤に賭けててまで手に入れる情報や収穫があるか……。
 その判断は行ってみなければ解らない。
「応援でも呼ぶか?」
 このまま進むには手が読まれやすいだろうし、戻ればその間に移動してしまうだろう。
「ああ、それが……」
 一番いい手だと言いかけた矢先。
「待ってください」
「……!」
 静止を呼びかけた魅月姫に、ナハトが弾かれた様に振り返る。
 結界がほころびかけ、そこから何かがこぼれだそうとしているのがはっきりと解った。
「……なんだ、これ」
 苦しげに啓斗が胸元を押さえる。
 気をつけなければ気配に飲まれしまいそうだった。
「時間切れみたいですね」
「ああ……急ごう」
 人の身にはいささか重い気配に夜倉木とディテクターの二人も軽く咳き込んでから、何もなかったような表情で前を見据える。
「応援は……駄目だ。電波が通じない」
「それって……」
「ここの影響ですよ、大丈夫、一定時間連絡が取れなかったら直ぐに来ます」
 辺りの磁場をも歪めてしまう様な何かが、中で確かに起こっているのだ。
 本能的にも止めなければならないと思わせる何かが。
 研究している何かが最終段階に入っているのだろう。
「俺が先頭でいいか」
「よろしく頼む」
 先頭がナハトであるのなら、それだけで危険はある程度軽減される。
 頭の芯で鳴り響く警報にせき立てられるように進みかけたのを呼び止めたのは、やはりいつでも冷静な魅月姫の一言。
「ナハト」
「……?」
 振り返ったナハトと、集まった視線をその身に受けつつ、淡々とした口調で後を続ける。
「護ってあげます。貴方と貴方の大切なものを」
 驚いたように目を見開き、閉じられたままの右目を軽く押さえながらその場にいる全員に視線を走らせた。
「……はい、ありがとう」
 冷静さを欠いた思考こそ恐ろしいことはない。
 こうしてほんの一瞬でもいいから、思考する瞬間はとても大切なのだ。
 扉に手をかけ押し開く瞬間を、すべての感覚が一気に高められていくのを感じながら待ち続けた。
 この先に待ち受けるのは誰なのか?
 狙われているのは誰なのか?
 魔女の虜になるのは………誰?
 長い長い一瞬は、さらに長い一瞬の始まりりにすぎなかったのだ。



 ■組織−2


 時計を見て思っていたよりも時が経過したことに驚かされながら、悠也は別のルートで戻り始める。
 何か異常がないかの確認もかねていたのだが、予想外の収穫もあったようだ。
「悠也君」
「今戻りですか? 羽澄さん」
「私の方でも調べてみたいことがあったから」
 目的地は同じ場所だ、自然と並んで歩きながら話し始める。
「俺の方も色々解りましたよ」
 続きは人がそろってからの方がいいだろう、詳しい内容は人通の多い通路でするにはいささか過激すぎる。
 逆に言えば解らない範囲であれば問題ないということだ。
「お届け物、喜んで貰えたようですね」
「何かあったの?」
「悠と也に影さんの所へ使いを頼んだんですよ、影さんにも洋なしのタルトを食べていただこうと思って」
 受け取って貰えたことは、悠と也なりを通してちゃんと伝わってくる。
「おいしかったわ、あのタルト」
「一段落ついたらレシピをお教えしますよ」
「ありがとう、今度私が作った煮物の味見をしてね」
「楽しみにしてます」
 これから慌ただしくなる前の軽いやりとりは半ば自覚し、半ば無意識で。
 始終意識を張りつめていたのでは、本人すら予期せずに集中の糸は切れてしまう。
 そうして張りつめていることを一番気づいていないのは、得てして当の本人だ。
 本人が気づきにくくなっているのなら、周りがどうにかすればいい。
 一人ではないと言うことは、そう言うことなのだから。



 二人が通り過ぎた通路のもっと奥。
 そこでも事態は深く静に進行していた。
「何言われたか思い出した?」
「いいえ」
 首を左右に振る千里の瞳はうつろで催眠をかけられているのは誰の目にも明らかだったが、現在行われているのはコールにかけられた催眠術の検査である。
「これも駄目か」
 困ったようにため息を付く黒いスーツを着た男の人に、同じく黒いスーツを着た女性が軽い調子で声をかけた。
「ハンターに聞く?」
「もうちょっと色々試してみてからにする、一任はされてるしこれ以上仕事増やすのもどうかと思うし……って、その忙しいときに何しに来たんだよ」
「この子の母親だって人が来てる」
「………もっと早く言え」
「連れてくる? 連れて帰りたいって言ってるけど」
「駄目に決まってるだろ、検査終わってないって言ってくれ」
 頭上で交わされる会話の最中、ぱちりとかけられていた催眠がとかれる。
 曰く、どんなことを言われたのか聞き出そうとしているのだそうだ。
「いかにもお母さんって感じの人だったから、私苦手だよ」
「阿呆、何時も言ってるだろ。事態を大きくしろ、相手を混乱させてその隙に好きな物をかっさらっていけばいい」
 ぐっと握り拳を作り力説した男の人に、女の人がクールな口調で切って捨てる。
「うん、言ってたのはハンターだけどね」
「………ああ、ハンターがだ」
 そのまま固まる男の人。
 意識がはっきりとしてきた千里は、そのやりとりに思わず苦笑する。
「………あー、起きた?」
「まあ、とりあえず合わせてあげて、安心させてから説明するって事でいい?」
「解った、続きはそれからだ」
 女の人が出て行った後だった。
 彼が唐突に尋ねてきたのは。
「一つ、聞かせてもらってもいいかな?」
「……はい」
 淡々とした口調に、きりっと気が引き締められるのを感じた。
「調べようとしたのは、何故?」
 その言葉自体が催眠であったかも知れない。
 ずっと、言いたかった事だったから。
 驚くほどなめらかに、そしてはっきりと答えは口から出てきてくれた。
「罪滅ぼしがしたいんです」
「そう思わされているということは?」
 ひんやりとした口調に、千里は首を左右に振る。
「これは、私の意志です。譲れません」
「他にもっと迷惑をかけたとしても?」
「……」
 目を閉じ、沈黙したのは僅かな間だけだった。
「監視付きでも、何でも構いません。私にチャンスをください」
「………それは、俺が決める事じゃないんだ」
「じゃあ……っ?」
「どうした?」
「いえ、お願いします。私……」
 千里の言葉は、ノックの音に阻まれた。



 ■室内−2

 調べ始めたデータは、ずいぶんと多岐にわたり始めている。
「やっぱり気になるのはIO2の動きなのよね」
 前虚無の境界ばかりに気を取られていたら、IO2と言う組織から後ろを取られかねない。
「それでしたら提案なのですが」
 すっと手を挙げたのは撫子だ。
 視線が集まるのを待ってから考えていたことの説明を始める。
「もう少し目を逸らすというのは如何でしょうか? 他で何かが起こればそちらに手を回さずにはおられないと思いますし」
「予想外に過激なお嬢さんだな。だがいい手だ」
 ニッと狩人が笑う。
「何か手があるのね?」
 切りの良いところで手を止めたシュラインが撫子に問いかける。
「はい、現時点ではわたくし達とIO2と虚無の境界とでの牽制を続けている状態が続いているわけですから。他に関心を向けることが出来たら緩和されるのではないかと思いまして」
 現在は簡単に言ってしまえば三すくみ状態だ、どちらか一方に傾けば別の対応が厳しくなってしまう。
「人数が増えればそれだけ色々なことは出来るな……けどそれはもっと多くないと危険なんだ」
「そうね、今の時点でぎりぎりみたいだし」
 シュラインの懸念は当然の物だ。
 有効な手段であると同時に、危険も多い。
「人手が足りないのであればわたくしにさせていだこうと考えていたのですが」
「えっ!?」
 そんな危険な。
 同じ思いが一瞬でその場にいた全員の脳裏を駆けめぐったのは、当然と言えば当然だろう。
「それって……」
 驚いたような北斗に、その反応も予想済みだった撫子が微笑み返す。
「他の方々も動く気配が見えた今、この瞬間だけなら如何でしょうか?」
「確かにマークされてないから動きやすいとは思うが……っと、一人は危険だ」
 同意しかけてからあわてて首を左右に振った狩人に、何とはなしに呟いた北斗の言葉が決定打になった。
「一人?」
 意外なほどに言葉に対して鋭い時がある。
「だったら、ええと……あのなんだっけ、ベ? ああ、いいや、なんか舌かみそーな名前の」
「ヴィルトカッツェ?」
「そう、それ!」
 ポンと手をたたく北斗。
「………んー、確かにな。動くなら今なんだが」
「私だったら大丈夫よ、ここにいれば安全だから」
 事の成り行きを見守っていたリリィがにっこりと微笑む。
「もう少し人数増やすべきかしらね?」
「そうですね」
 あれをしてこれをして……新しく手順を組み立て始めたシュラインと汐耶にご安心くださいと撫子がほほえみかける。
「手はありますから」
 意志は固いようだった。
「この手で行くしかないみたいだな。今ヴィルトカッツェ呼んだから、外で合流してくれ。会えば直ぐに解る」
 撫子の案に、狩人が付け加えた案は手短な物だった。
「場所は……昔ある子供が龍脈とかいじくって色々騒ぎを起こしてすったもんだのあげく、結局どうにもならなくて封印した場所があってな」
 どこかで聞いたことのあるような話に、僅かにトーンが下がる。
「………それって」
 何かを察したりょうに、ニッと笑いかけてから狩人が続ける。
「神聖都学園の近くの、今は旧校舎になってる場所だ。位置的にははずれてるし学校も終わってるから大丈夫だろう。それを解けば十分に目を逸らせる」
 一部からの呆れたような……驚いたような奇妙な視線。
「あれですか……」
「そうよね、知っててもおかしくないわよね」
 神聖都学園の旧校舎で起きた猫と鏡と唄にまつわる一件。
 最も事件の大筋とは絡み合うことはなく、知らない撫子と北斗にとっては首をかしげるより他はない。
 こういった方法で使うのでなければ、名前前も出なかった筈の、今起きている事件とは別の話である。
 どっと疲れた気がする中、その事件を知らない撫子がこくりとうなずく。
「そこに行って封印を解いてくればよろしいのですね」
「ああ、そのままにしてくればIO2が何とかしてくれるだろうしな。くれぐれも気をつけて」
「それでは、また後ほど」
 すっと立ち上がり、軽く会釈をして撫子もまた動き始めた。



 ■室内−3

 かたかたとリズム良くキーを売っていた手を止め、かなみはテーブルの上に並べられた書類を見つめるかなみとりょうとリリィ。
「うーん……」
「大丈夫?」
 やっていた事が大分まとまってきたシュラインが、思わず声をかけてしまうほど煮詰まっているようだった。
「手伝ってもらっていますから、大分……」
 何とか笑おうとしたかなみに、おかしな所がないか見て欲しいと頼まれていた北斗が一言。
「これ、時間軸がおかしい。いきなり台場から新宿に飛んでる」
「じゃ、じゃあこれをこっちに……」
「まてって、それだと電車止まってるから」
 紙の束をパズルのように入れ替えては並べ直し、書類に仕上げていく作業を延々と続けている。
「どっちか切らなきゃね、他の人に回して」
「この人近い場所にいるから、これその人からの報告って事にしよ」
「ラジャー、伝えとく」
 今やっているのは水面下で動いている人達や自分たちの報告書の作成で、混乱しかけてきた所で冷静に見れる人が必要だと北斗が引っ張ってこられたのだ。
 行動やルートにおかしな箇所が出来ないように、報告書をパズルのようにやりくりしているのである。
 要するにアリバイ工作と事件に関わった人間の後々を考えた書類の偽造中なのだ。
 真実七割、嘘が三割。
 ざっと見はそんなところだろう。
「……」
 手にしていた書類にシュラインが視線を落としたのも無理はない。
「それは狩人さんがちゃんと調べてた物だから信憑性は安心して」
「そう……」
 苦笑するかなみに、シュラインも返したのは同じ様な表情だった。
「頭の中がぐるぐるしてきた……プロット立てよりきつい」
「頑張っておかしくないようなの考えてっ、いざとなったら式紙もう何体か増やすから」
「楽だけどもっと大変になるね……それ」
 だいぶ混乱している。
 手伝いたい衝動にかられたが、書類を見るに今が一番ごちゃごちゃになっているようで手の出しようがなかったのだ。
 おそらく、何をどうしたいのかは当人達にしか解るまい。
 最悪誰にも解らないかも知れないとは……怖いから考えない事にする。
「あ、帰ってきたみたい」
 かなみの言葉通り、羽澄と悠也はその直ぐ後に戻ってきた。
「狩人さん、あれは」
「おう、その様子だとバッチリ見たみたいだな。しばらく預かっててくれ」
「……預かるだけ?」
 念を押す羽澄に、狩人がはっきりとうなずく。
「もちろん。保険として知ってて欲しかったのは事実だけど、俺にもやることあるからな。別に後は任せた、なんてやろうとか思ってないし。まあ判断は任せる」
 さらっとした物言いの真偽を計るように考え込んでから、結局は自分の目で判断していくのが一番良いのだという結論に落ち着いた。
「お忙しい所を手伝えなくてすみません」
 一部をのぞいて、やっていた事が終わりそうなのだと判断をした悠也が声をかける。
「大分足元は固められたから、後はそれをより確かな物にするだけね」
「それも大変そうですが……?」
 何かを感じたらしい悠也がほんの一瞬表情を曇らせた。
「すみません、少し気になる事が出来たので様子を見てきます」
「大丈夫か」
 感じ取った直感を信じるのなら、何かあるのと同じなのである。
「はい、何もなければすぐに戻りますから」
「俺も一緒に行く」
「ありがとうございます」
 一人より、二人の方が良い。
 ひょいっと立ち上がった北斗が悠也の後に続く。
「いってらっしゃい」



 扉が閉まる小さな音を聞き、一拍おいてから話を元に戻す。
「さて、と」
 残りの疑問は、狩人に直接話を聞けばいい。
 問いかけるのにも調べ必要だったし、そうした上で問いかけられた方が狩人も答えやすそうだったから自然にそうなっていったのだ。
 それにはまず何をしていたかを説明してからの方が解りやすいだろう。
 汐耶がIO2に捕らえられた虚無の人員と能力者、それから持って行かれたデータについても何度も検討を重ねている。
 シュラインが触媒能力および霊鬼兵の能力と特性に加えて、以前関わった門番についての情報も細部に渡るまで調べていた。
「幾つか気になる点があったのだけど……」
 書類を見ていたシュラインが気になったのは、書かれていることよりも書かれていない出来事だ。
 その考えは現在同時進行で堂々と行われている偽造工作を見て、より確信が深まったと言っても良い。
「歪んだ男の家で会った門番から預かった少年の事が気に掛かってるの」
 あの少年を狩人に渡した後、どこかに連れて行ってそれきりだ。
 誰であったのかや、どうなったかも聞いていない。
 書類には僅かに『回収に成功。だだし現在は目的を果たせる状況にはない』そう書かれていただけだった。
「目的って何?」
 真剣な目線から視線を逸らすように顔を上げ、ため息を付きトンと自らの胸をたたく。
「親友だ。それで俺が最初に殺した人間でもあるから、つまりはここにもいる訳だな」
「………」
 薄々付いていたが、どう返したらいいのか微妙な空気が流れたのを察したらしい。
「話そうって中の奴と決めたんだ、それは気にしなくても良いから」
 これまでと同じような口調で、これまでのように短くまとめた説明を始めた。
「三十年以上前だったな。IO2に関わる前に、似たような事件が起こってぎりぎりまで追いつめられたあげくにな。だからこそ、今は余計にに阻止したいと思ってる」
「……どうして、今だったの?」
 気に掛かっていたらしい羽澄も静かなトーンで尋ねる。
「その時体の方が酷いダメージ受けてたから、せめて体だけでも再生を頼んでたんだが……渡された時に小さくなってて驚いた」
「前は違ったの?」
「見た目は二十歳ぐらいだったし……中のがショック受けてたな」
 どこか遠い目をしているのは辛いからではないように見えた。
 言葉通り、中にいるのだろう。
「魂を返せば何とかなるかなとか思わなかった訳じゃないが、せめて融合したままの状態からは解放したいとは思ってる」
「それが『やること』なのね」
 うなずいたのは羽澄だった。
 完全にとまでは行かないが、目的を果たそうとする意志は強く感じられる。
「おう、他には?」
 話題の切り替えに、それならとシュラインも次の疑問を尋ねた。
「じゃあ……IO2から一時的に抜けていたのはりょうさんと関係があるの?」
 シュラインが見せてもらった『IO2に提出した書類の触媒能力者の発見と保護』が違うだろう事は想像に難くない。
「あー、あるっちゃ……あるな」
「私も関わってたから良く覚えてます」
 続きを答えたのは、言葉を濁した狩人ではなく昔を懐かしむ様なかなみだった。
「出張だって言って、そのままIO2から音信不通になってたんです」
「知識と、一部関係者も連れて出国したからな、怒る顔が見れなかったのが残念だ」
 研究していた資料や、ノウハウなどを持って行ったのだからさぞかし困った事だろう。
「あら、でもそれだとりょうさんが関わってる所の辻褄があわなくなるわよね」
「あー……まあ、そこはそれだ」
 歯切れの悪い言葉に、何をやったのだろうと狩人に視線が集中する。
「海外出るにしても、何かしら逃げないいと思わせなきゃならなかったんだ」
 つまり……。
 次に目線が集まったのはりょうである。
「やっぱり俺は人質か!!!」
「落ち着いてってば」
 当然のように怒り出したりょうをリリィが宥めに掛かる、気持ちはわかるが今は親子喧嘩してる場合ではないのだ。
「先に進めた方が良さそうね」
 それとなく羽澄が二人の距離を取らせてから、かなみの仕事を手伝い始める。
 結局は重要な所だけ残して作り直すことにしたそうだ。



 話を元に戻す。
「そうね……門番や能力に関してなんだけど」
「触媒能力に関してでしたら、私も同じような問いになりそうですね」
 現在最も詳しく答えられるとしたら、それは狩人に他ならない。
「門番のデータは取られていない? 出来るだけ向こうに知られてないことは多い方が有利だから」
「それは大丈夫」
 こっちが相手の手が読めないで混乱しているのと同じぐらい、虚無の境界とIO2も混乱している。
「もっと色々やりたいんだが、もう読まれやすくなってる」
 多少なりとも動きはあっても、全体から見れば硬直状態に近ければ出来る手は自然と限られてしまうからこそ、狩人が動けなくなってしまう。
 斬新で突飛なアイデアという物が降ってでもわいてこなければ、起きてから対処をするか予測するかだ。
「相手がどう動くか考えてみましょうか」
「手に入れた能力の使い方もですね」
 これまでの手段と、調べた事を考えれば予測の方向性は立てられる。
「これまでの傾向で言うと考えると回りくどくて、人を巻き込んだやり方が特徴かしらね」
「IO2は荒事に出れないと言ったところでしょうか」
 ごっちゃになりそうな会話だが、シュラインが予測を立てているのが虚無の境界の行動であり、汐耶がIO2の行動だ。
 よりいっそう混乱しそうだが、現在の状況と等しく考え、上手くやりさえすれば一挙にまとめられる。
「待って、結果はIOと虚無の境界で似たようなことだとしても、そこに至るまでが違うって考えておかないと?」
「IO2が実用性のある研究の実験で、虚無の境界が果たした目的による破壊を狙ってるって所だな」
 現在は、手順の一つが重なっただけなのだ。
「混乱しそうだけど、別々に考えた方が良いって事ね……虚無の境界はタフィーとりょうさんを狙ってるのかしら」
「タフィーは確か異界を作れないんじゃなかったか」
 いまいち理解できてないりょうに、シュラインが補足をしておく。
「ええと、そうね。タフィーに欠けている物を何とか出来るのなら。それもクリアできると思うの」
 タフィーにこだわるのなら、それもなくはない。
 感情すら一つに混ぜ合わせてしまう触媒能力の特性から考えれば、十分に考えられることだ。
「例えばだけど既にある物を乗っ取ろうとしてるか、何が一番良いかを選んでるんじゃないかと思うの……」
 ほんの一瞬迷ってから、狩人に問いかける。
「相手も選ぶのなら力の高い人を狙うと思ったんだけど……だからさっき門番のデータが盗られてないか気になったのよね」
「ああ、門番には昔似たようなこと聞いて即座に断られたな」
「………おい」
「昔の事だし」
「……次に」
 うめく寮は放って置いて、話を変えた。
 何故りょうを狙うのか?
 もしかしてとシュラインが顔を上げる。
「りょうさんとタフィーに対する目的は違うんじゃないかしら」
「例えば?」
「こっちの妨害があることを想定して、ある程度作戦に幅を持たせてるとか」
 どちらかによって目的が果たせればいいと言うのではなく、虚無の境界とIO2の目的が違うように使い分けようとしている可能性もある。
 その答えを出すには、もう少し情報が必要なようだった。
「向こうが何か解ってれば良いんだけど」
 着いてしまえば、結界や何かによって連絡が取れないだろう事はおおよそ予想している。
「それに対してIO2はりょうさんがターゲットになっていると考えた方が良さそうですね」
 それが最もここから動けない理由でもあったが、やりようによってはここだけに目を集めておけるとも言える。
「奇抜な手ですが……無くはないですよ」
 出来るかどうか?
 そんな感情を込めて発した汐耶に視線が集中した。
「出来ました、お姉さん」
「ありがとうメノウちゃん」
 その汐耶が見たのは、ようやく何かのデータをまとめ終わったらしいメノウである。
 隣に座るのを待ってから、汐耶はさらりと奇抜なアイデアを口にしたのだった。
「考えてたんですけど。りょうさんの触媒能力、危険だったら私が預かれないかと思いまして」
「預かるって、方法は……」
 答えに気づいた羽澄がメノウへと視線を移す。
 方法なら、ここにあったのだ。
「やってみる価値はあると思うわ、ナハトとこのまま繋がりを持ったままだと危ないかも知れないし」
 最初にまず同意したのはシュラインだった。
「ナハト?」
「現在も繋がってる状況だから、ナハトの経験したことを感じ取れるようになった場合も、切っ掛けが適用されないかって」
「あー、うん」
 現在のりょうは右目を通して一部分だが確かに繋がっている。
 ならばそれを逆手にとって繋がりを深くすることはやり方によっては可能なはずだ。
 向こうにはそれだけの技術者と、触媒能力者がいるのだから。
「危険じゃないか、俺が背負ってる物を渡しちまうわけだし」
「いざという時ですよ、能力を移せばかく乱にも使えると思いますし」
「時間的にはどれぐらいで出来るの?」
 念のための羽澄の問いに、メノウがあっさりと返す。
「簡単ですよ、最適な状態に出来るように式を組み立てましたから。これを二人が飲み込めばいつでも」
 二枚の小さなメモを取り出し、さらに説明仕掛けたメノウの言葉を遮ったのは結界の主であるかなみの一言だった。
「まって、外で何か起きてるみたい」
 その件についての連絡が狩人宛に掛かってきたのは、その直後の事である。
 それは勘弁してくれと言いたくなるような出来事の一つにすぎなかったのだ。
 他の場所で、全ては目まぐるしく動きだしていたのである。



 ■組織−3

 平行線と言うのは目の前で行われているこれを言うのだ。
 誰も譲らない平行線の会話を続けていれば、自然と精神状態もたるみ始めてくる。
 誰かが妥協するのか、そのままくだくだになって終わるかである。
 どちらも先は長そうだった。
 部屋の隅で口を挟めなくなって早数分。
 今は必死になって居るからこそ口にしていないが、催眠術の様な物を使ってましたと言えば不安をあおるだけだろう。
「はあ……」
 一番良いのは、第三者の介入である。
 こちら側に付いてくれるような人に助けを求めるべきだろうか。
「だったらリリィとメノウの二人をここに呼んでみるとか」
 ポンと出した言葉に全員が彼を見たのは、やはりこの話題に進展する要素が欲しかったからだろう。
「リリィちゃんとメノウちゃん?」
「そう、今呼ぶから」
「―――っ!」
 早速と携帯を取り出しかけた彼女を見て、ずきりと心臓が痛くなったのをはっきりと感じていた。
「離れろ!」
「なっ!?」
「千里っ」
 声が錯綜する。
 体中から力が一気に高められ、あふれ出し、暴走するのがはっきりと解る。
「止められない…っ」
 おかしな風に暴走した力が次々と物質を変化させていく。
 触れればどうなるか解らない何かが部屋ぎりぎりまで追いつめた時に、最初に飛び込んできたのは二人の子供。
「悠ちゃんでーす★」
「也ちゃんでーす♪」
 ちょんとポーズを取った二人に、皆がぽかんと口を開いた。



 降ってわいたような嫌な予感を信じ部屋から出て悠也に付いてきた物の、北斗には現状が未だ理解できていない。
 気のせいであれば一番良いのだろうが、それは無理な話のようだ。
「急いだ方が良さそうです」
「ああ」
 悠也がトンと軽く床を蹴って走り出すのと、本部のどこかで大きな音を立て、建物全体が軽く震える。
「本当にな……っ、どっち!」
「左をまっすぐ、奥にある病室です」
 さらに速度を速めて何かが起きている最中の部屋へと飛び込む。
「きゃあああああああああああ」
 聞こえたのは、少女の悲鳴。
「………あれって! 千里だ!」
 僅かに迷った物の、彼女が千里だと言うことを察し、次に何故という疑問が浮かぶが今はそれ所ではない。
「暴走させられているようですね。彼女がカード……?」
「止められ、無い……っ」
 中では自らの体を抱えるように抱きしめた千里が周りの物すべてを巻き込みながら違う何かへと変化させ続けてている。
「先に避難ですね」
 部屋の隅で悠と也が結界を張り、背後にいる三人に被害が及ぶのを防いでいた。
「道を造りますから、誘導をお願いします」
 こちらに手を振っている悠と也に手を振り返してから、札を使い大きく通路を造り出す。
 人が通るには十分な物だ。
「早く!」
 声をかければ、こう言った事には慣れているのか直ぐにそこから走り出す。
「娘が」
 どうやらよほど驚いているらしい母親に、悠也が柔らかく微笑みかける。
「落ち着いて、待っていてあげてください」
 目を見て静かな口調で語り掛ける、それだけでかなりの効果があったようだ。
「悠、也。安全なところまでお願いします」
 三人と共に距離を取るのを確認しながら、部屋の中に視線を戻す。
 うかつには近づけない。
 早く止めなければ力の使いすぎで危険だ。
「………」
 頭の中で素早く行動を組み立てている悠也に、北斗が短く告げる。
「俺も居るんたぜ」
「解りました、お願いします」
 頷きつつ悠也はこれと決めた札を取り出す。
 今起きている事への対処と周囲に結界を張るための物。
 その中には攻撃はおろか、直接触れるような物すらなかった。
 あれだけ力が放出している今は、術では抵抗力が減少し効果が強すぎてしまう。
 素手が一番有効なだとは、後から聞いた事だ。
 やるべき事は、きっとこれだったのだ。
 一度確信してしまえば、それは揺るぎなき信念となって前を見据える。
 余計な事は考えなくていい。
 胸を張って付いて行けるように。
 勝負は何時だって一瞬だ。
「………よっし!」
 合図は前へとまっすぐに投げられた札とトンと背中に触れた手。
 なんだかよく解らない物に変化しているはずの床は、札の上を行けば床に堅い感触を足の裏に伝えてきていた。
「―――っ!」
 どろりとした空気すら変わりなく感じたのは、背中に触れられた時に援護をされていたからだろう。
 最小限に力を抑えた結界を用いて駈け抜け、瞬時に間合いを詰める。
 あと二歩。
「―――っ!」
 悲鳴がやんだ。
 天井から落下してきた何かを回避すると、ちょうど良い位置に札がしかれている。
 あと、一歩。
 意志が感じられな目が北斗を捕らえる寸前に大きく跳躍する。
 天井すれすれに靴先をかすめさせる様に回転し、首筋に手刀を食らわせて着地した。
 部屋の中は変化をしたままだったが、感じる気配から危険は過ぎ去ったようである。
 振り返った北斗の背後には、意識を失った千里が悠也に受け止められていた。
「援護ありがとな」
「いいえ、お疲れ様です」
 このままここにいても誰かが来てしまい事が大きくなるのは目に見えているが、かといって組織の中での事であるからには逃げるのもまずい。
「安全なのはあの部屋の中ですが……」
「連れて行くのもまずいよな」
 たった今暴走を抑えたばかりなのである。
 向こうで何か起きるのは流石に問題だ、考えていた事に待ったをかけたのは一本の電話だった。
『直ぐに戻ってきて』
 相手はかなみだ、事情は知っているようだが、普段よりも急いたような声に直ぐに悠也は何かあったのだと察する。
「何か問題が?」
『その件で狩人さんに呼び出しが掛かったの』
 それは確かにまずい展開だ。
 わざわざ狩人に言う辺りが嫌な手口である。
 あの部屋の中にいる限りは安全だが、正攻法からの呼び出しでなら狩人が拒否するにも限界があるだろう。
「ぎりぎりまで引き延ばしてください」
『今やってるけど、そう持たないみたい』
 通路角から終わったのかと顔をのぞかせた二人に、ここは任せたと言い残してから悠也と北斗は元来た道を戻り始めた。
「これで終わり? 何か違う」
「……?」
 首をかしげた北斗に、悠也は今度こそはっきりと答えを口にした。
「カードは一枚とは限らないと言う事ですか」
 手札は多ければいい。
 それが向こうのやり口なのだとしたら、向こうに行ったメンバーも危険だろう。
「直ぐに知らせに……っ」
「しっ」
 背後のからの気配と靴音を感じ、口を閉ざす。
「何処に?」
 声は予想通りに背後からだった。
 ぞろぞろと並んで歩いてくる黒服が数人。
「用事を済ませて戻る所ですよ」
 笑顔で答える悠也に先頭に立っていた男はにこりともせずに手を前に出す。
「そこにいる彼女を渡してもらおうか、先ほど起きた件について確認を取りたい」
 このまま渡せばこちらにとっても、彼女にとっても良くないだろう事は分かり切っていた。
 さて、どう話を切り出そうか考えていた悠也が黒服の一人に視線を止める。
「申し訳ありませんが彼女は……」
 赤毛のニヤニヤと笑っている男。
「ディドル……!」
 何故成長したか考えるのかは考えるまでもない、同じ少年の姿ばかり取っていたがゴーレムならそれも可能なのだろう。
「!?」
 赤毛の男に向け一斉に銃口が向けられる。
 確認したのは一瞬。
 ドン!
 組織の人間が紛れ込んでいた異分子を確認し、行動を行動を起こすのも早かった。
 ドンドンドン!
 だがディドルが目的を果たすのは、その一瞬で良かったのである。
「堕ちろアリス!」
  蜂の巣にされたディドルの手から、重い音を立てて鎖が落ちた。
 先に付いた十字架が光の反射のように文字を輝かせては消していく。
「………っ」
 またもや暴走するのかとの予想を外し、うっすらと目を開いた千里が作り出した穴から大量の黒い水がどっと流れ込んでくる。
「こっちへ!」
 触れるのはあまりにも危険だ。
 これは、能力の集合体のような物だと瞬時に判断した悠也が体をぴたりと覆う形状の結界を作り出す。
 視界が黒に染まり、沼の中にいるようなどろりとした物が過ぎ去った後。
「もう終わりましたよ」
「………」
 反射的に閉じていた目を北斗が開くと通路にはあの水は一滴すら残されていなかったし、掌や髪すらも被害が及んだ様子は皆無だった。
 千里の姿も何処にも残されてはいなかった。
「やっかいな事になりそうです」
 念のためと採取しておいた僅かな水を手の中で揺らし、悠也は呟く。
 この自ら感じ溶けるのは、濃厚な死の気配だった。
「……こっちもな」
 立ち上がった黒服が、無言のまま二人の方を見ている。
 お礼をするような雰囲気は到底なく。
 解るのはもう少し足止めされてしまいそうだと言う事だった。



 ■虚無−3

 扉に触れかけたナハトは結界などがない事を確認し、構えた剣で扉を真横に両断してしまう。
「乱暴だな」
「相手にはこれで十分だ」
「もっともだ」
 注意めいた事を告げたディテクターも夜倉木も、切り開かれた扉からの中に向けて銃を構えているのだから言えた事ではない。
 そんな大人達を他所に、扉の下半分の死角になった位置を見た魅月姫が変わった物を見たように首をかしげた。
「ずいぶんと……」
「何かあるなら気をつけた方が……?」
 注意はしつつ中を見た啓斗も、不思議そうに沈黙する。
 扉の奥は聖堂のある部屋の窓には、明かり取りのためのステンドグラスが使われているはずなのに真っ暗だった。
 実際に、床のすべてが黒いのだ。
 一見して床全体に敷き詰められた黒い何かは、よほどよく見なければ液体状であるとは気づかなかったかも知れない。
 光沢のある表面は、時折生き物のように鱗のような物が垣間見えた。
「まるで強盗だ」
 ため息混じりの声は、教会の暗闇から響く。
 うっすらと立っている人影が整然と並べられたイスの背に立っている所から、床には触れてはいけないのではないだろうかとは自然と予想が付く。
「どうしてこう誰もまともに入ってこないのか?」
 独りごちてから、コールはさらに続る。
「来ないのか、俺たちはここにいる」
 ここからなら魔術を用いれば十分に狙える距離である事は、向こうも承知しているはずだ。
「よろしいでしょうか」
「……どうぞ」
 ふわりと音もなく跳躍した魅月姫は扉を越えて、コツと小さく靴音を鳴らし椅子の背に着地する。
「理由を尋ねてみたいと思いまして」
「めっずらしい」
 ククッと子供のように笑うディドルを手で制し、誰も動きはないだろう事を確認してから視線をタフィーに移した。
「少し長くなるかも知れないが……」
「なら必要ない」
 はっきりと言い切ったのは、魅月姫と同じように戸を越えて椅子の上に着地したばかりのナハトである。
「長引かせるつもりなら覚悟は良いな」
 とんっと続けざまに聞こえた二人分の着地音は啓斗と夜倉木の物だ。
 流石に全員行くのは危険だと外に残ったディテクターは、コールの声のする方へと銃口を向けている。
「こう手厳しくては話も出来そうにないな」
「構いません、続けてください。出来れば私が待てる間に」
 元から無表情に近かった魅月姫の表情から、さらに感情が消えたのが気配で伝わった。
「……たとえ、目的があったとしても言う必要はない」
「それが答えですね」
「ああ、精々悩むといい」
 床が波打ち始め他のを合図に、一斉に動き始めた。
 コールとディドルは魅月姫とナハトがいれば一瞬で片が付く筈。
 後は、どこかにいるだろうタフィーを見つけられたら。
「ナハト、本を使うのは危険です」
「……え!」
 かけられた静止に啓斗も使いかけていた術をストップすし、足場の良い座の部分に着地したが、ぎょっとして背もたれの部分へと戻った。
「!?」
 泥のように滑った何かを踏んでしまったのだ、気のせいではない。
 暗くて視界は悪くとも解る、あの黒い液体が変化したのだ。
「今……っ」
「増えてきてる」
 音もなく、床と見間違うほどの水位しかなかった物がここまであがってきているのだ。
 時間の経過と共に?
 それとも何かが鍵に……?
「そうかっ!」
 何故、魅月姫が術を使うのを止たかに気づいた。
「特殊能力を吸収しているようですね」
 ディドルを牽制しながら魅月姫が淡々と告げる。
 なるほど、それなら負ける気はないのは解るが……。
 使えば使うほど体積が増えていくのなら、直接たたけばいい。
 切っ先がコールに届く寸前。
「……っ」
 何もない空間から姿を現した少女が身代わりのように肩に剣を受ける。
「なっ!」
「タフィー!?」
 瞬間移動だ、止めるのにはほんの僅かに勢いが強すぎた。
 可能な限り止めはした物の、パッと散った血しぶきが黒い水に吸い込まれた瞬間。
 どくりと部屋中が生き物のように脈打ち始める。
「くっ!」
 血を浴び、息苦しそうに胸元を押さえるナハトにコールが何かを囁くが、鳴り続けている鈴の音がそれを阻む。
「Twas brillig, and the slithy toves Did gyre and gimble in the wabe;」
 呪文に集中しているコールの傍らには、胸元まで黒い水につかったタフィーが手を軽くつないでいる状態だけで繋がっていた。
「………」
 今なら上手くやりさえすればタフィーとコールを引き離せるかも知れない。
 踏み出しかけた足を阻んだのは、ねっとりとした物が足下に絡みつく様な嫌な感触。
「まずい足下まで来てる」
 一瞬で、数十センチはかさが増えたのだ。
「―――!」
「ナハト! 下がれ!!」
 背後ではっと息をのんだディテクターが扉から身を乗り出しかけながら叫ぶ。
「外に移りましょう」
「そうは……っ!」
 これ以上ここにとどまるのは危険だと判断した魅月姫がディドルの体をはじき飛ばし、三人を回収して扉の外へと飛び出した。
「………」
 乾いた地面の上に着地し、扉を振り返るとどろりと黒い物が吐き出されている。
 触れたくない、不気味な物だと直感的に感じた。
「ナハト?」
「そうだ、何もされて……っ」
 振り向いたディテクターが直ぐさま解る異常に言葉に詰まった。
 ナハトの手足やコートがじっとりと黒く濡れ、膝を突いてうめいている。
「ッか、は……ッ!」
「いけない、浸食され始めています」
 響く鈴の音により、進行は遅れているようだが……それも時間の問題のように思えた。
 必要なのは何をされたかを調べて対処する事だが………。
「連れて帰らないと」
 ここでは、無理なのである。
 急ぎたいがそれは許してくれそうになかった。
「上手くいったっ」
「あまりはしゃぐな、ディドル」
 悠々と水が無くなった教会の中から出てきた三人から、ナハトをかばうように啓斗と魅月姫が立ちあがる。
「そっちはお願いします」
「きっと、今から調べるよりも聞き出した方が早い」
 今ここにいる顔ぶれでは、対応できない。
「彼をかばうと」
「はい」
「はっ、その男から背を向けて良いのか?」
 タフィーを抱えたまま、コールがニッと笑う。
「ナハト!」
「……ッ、離れ……」
「伏せろ!」
 背後で行われたやりとりに反応した啓斗が振り向きかけ、驚き目を見開く。
「なっ!?」
「………!!」
 ディテクターの制止を振り切り、振り上げた獣の腕が夜倉木の脇腹を大きく切り裂いていた。
「夜倉木!」
「……っ! ……くっ」
 地面に倒れ込んで尚、脇腹を押さえながら起きあがろうとする夜倉木を叱りつける。
「動くな!」
「啓斗っ、本を!」
「わか、っ!」
 流れ続ける血の量にぞっとしながら、何かを堪えるように覚悟を決め渡されていた本で傷口を押さえ回復させ始めた。



 少し離れた場所では魅月姫とナハトが対峙していた。
「体が……勝手にっ!」
 がくがくと震える掌を見つめるナハトは、いつの間にか全身が黒いローブを身にまとっている。
 すべてはあの水が原因だ。
 黒い水は今も尚、何かの形を作ろうとうごめき続けている。
「今すぐ解きなさい」
 同じ事を繰り返した魅月姫に、コールが返したのは苦笑だけだった。
「ははっ! そんな事をすると……さあ、ジャバウォック……」
「よし、ナハトっ! みんな殺せ!!!」
 コールを押しのけて声を張り上げたディドルに、その場にいたほぼ全員の脳裏に嫌な予感めいた物が走る。
「ディ、ディドル……?」
「? どうかし……っ!?」
 何事かとコールを見上げたディドルの首は、そのまま胴から離れてごろりと転がった。
「……………っ!!!」
 これこそが嫌な予感の正体だ。
 みんな殺せとは、つまりはこの場にいる全員が標的になり得るのである。
「………」
「………」
「………」
 言葉を発したら狙われるとためらう中、最初に声をかけたのは魅月姫だった。
「ナハト」
「………っ!」
 反応し振り向きかけたナハトに、コールが注意がそれたと鎖を揺らしながら叫ぶ。
「触媒能力者を、盛岬りょうに関わる物を……」
 ヒュン!
 風を切る音と共にコールの腕が切り落とされる。
「うっ、ぐあっ!」
「これが必要な物のようですね」
 切り離された手に絡んだままの鎖を拾い上げた魅月姫から、コールはジリリと距離を取る。
「さあ、これで」
 振り向いたときにバサリと鳴った羽音は、ナハトが身にまとっていたローブが翼のように変化していく音だった。
「止められな……っ!」
「待ってください、ナハト」
 鎖を鳴らしてはみるがまだ何か足りないのか変化がない。
「あっ、あああああああああ!!!」
「ナハトっ」
 重ねて呼ぶと悲鳴は止み、返されたのは息苦しそうな言葉の切れ端。
「おねがい、します。りょうを……ここの、ことも………っ!」
「ナハト」
「う、あっ!」
 右目の辺りをかきむしりながら、瞬く間に飛び去ってく。
 瞬く間に小さくなる影に向けて思いついたように、コールが唱えていた言葉をそのまま繰り返してみた。
「Twas brillig, and the slithy toves Did gyre and gimble in the wabe;」
 がくんと高度が下がり、落下していく。
 効果はあったようだが……落ちた後どうなったかまでは解らない。
「……困りましたね」
 上から、直ぐ側へと視線を移し。後に残された惨状を見つつ魅月姫はそう呟いた。
 こちら側には重傷者が一人。
 コール達がいた場所に残っていたのは血の後と切り落とした腕のみだ。
「………」
 困った物だと思いつつ、ふと扉の入り口付近で藻掻いていた物に目をとめる。
 それは、胴と頭を切り離されたはずのディドルの体。
「置いて行かれたようですね」
「は、ははは」
 もしやと思いディドルの頭を持ち上げるとへらりと笑った。



 ■室内−4

「さっき二人が行ったのはこの為だったのね」
 外での事は悠也と北斗が対応している様だ。
「様子を見に……」
 立ち上がりかけた羽澄がぎくりと体をこわばらせる。
「どうした?」
「様子がおかしい……」
「ナハト? ……っ!!!」
 反射的に様子を見ようとしたりょうが息を飲み、押さえ始めた右目から波紋が広がるように文様が真っ黒な波となって広がり始めていく。
「いけない、止めないと!」
 椅子から転がり落ちるように膝を突いたりょうが、酷く苦しげにうめき始めた。
「何があったの!?」
 羽澄が持たせていた鈴がはっきりと鳴り響いて異常だと知らせている。
「……っ、ナハト……苦しがって、る。黒い水が……やば、夜倉木……。すまない、ごめん。違う……」
 ここではない場所を見ているのだと理解した。
「ああ、畜生、タフィーの仕業か、なんかやりやがった!」
「移しますか」
 メモを取り出した汐耶に、狩人が待ったをかける。
「今はまずい、意識こっちに引き戻さないと向こうにも影響が出る!! りょうは今向こうと繋がってるんだ」
「戻すってどうやってっ」
「ええと、なにか……っ!」
 どさりと重い音に全員がぎょっとした。
「………」
「りょう?」
 一体何が起きた?
 突然倒れたりょうに、悪い予感が頭の中を駆けめぐる。
 まさか。
 もしかして……。
「りょうっ!」
「……う」
 かけられた声に、ぐったりとした様子で体を起こしがなら首筋をさすっていた。
「なんかちくっとした……」
「大丈夫……みたいね?」
「一応な」
 口調や反応は何時も通り、変わったところはない。
「そう、良かった」
 もう鈴の音も止まっている。
 ひとまずは安全だ。
「向こうで何かあったの?」
「そうだ、ええと……黒い水にナハトが乗っ取られて、夜倉木が怪我をしたけど啓斗とディテクターが直してて、魅月姫は無事だ」
「……早く向かった方が良さそうね」
 危険だと言うのももちろんあるのだが、それ以上に何を言ってるのかがさっぱりなのだ。
「今の内に能力預かっておいた方が良さそうですね」
「そうね、後になってからじゃ遅いし」
 シュラインも同意する。
 この場はなんとか事なきを得たが、同じ事が何度も起きてはたまった物ではない。
「………え」
「この際だ、一回触媒能力者じゃなくなってみるのも手だろ」
「移したことを隠しておけば、かく乱にもなりますから」
 例のが発動条件が発生して同化が始まったとしても、汐耶ならば内側で封印してしまえる。
 そのタイミングを計るには、こうするのが一番良いと思ったのだ。
「………解った、よろしく頼む」
 りょうが頷いいてしまいさえすれば、メノウが行った術の手順は実に単純な物だった。
 同時に小さな紙を飲み込む。
 パシッと小さく音がなり……それで完了してしまった
「………っ」
「………」
 汐耶が軽く手を押さえた箇所にはまるで小説の一部を移したように整然と文字が並んでいる。
「具合は?」
「………周りがざわざわして感じますね、五感が鋭くなったような気がします」
 幸いにして、これに似た感覚を汐耶は知っている。
 特別閲覧室にいる本達が一斉に話していたとしたら、きっとこんな感じだろう。
「りょうは?」
「……なんか、すっきりした」
 そう答え何もない掌を見つめる目は、ここではないどこかを見ているようだ。
「りょう」
 呼びかけても返事がない。
「りょうっ」
 リリィが下から顔の前で手を振ってみて初めて、意識がここに戻ってきた様に手を下ろす。
「大丈夫」
 はっきりとした口調で、確かにそう言った。




 ■神聖都学園

 学園に向かった撫子が指示された場所に着いた時、一人の少女が姿を現す。
「ヴィルトカッツェ様ですね」
「はい」
 教えられたとおり、彼女は確かに目立つ姿をしていた。
「よろしくお願いします」
 微笑みかけた撫子に、ヴィルトカッツェはこくりと頷く。
「それでは参りましょうか」
「はい、報告書では封印のある場所に行くには私が最適なようです。場所を教えてもらっても構いませんか?」
 その分野に関しては得意分野だ。
「直ぐに視ますね、少々お待ちください」
 建物の前に立ち、校舎に張られている結界を見渡していく。
 張り直されたのは最近のようだが丁寧で心地よいだけに、これを壊して奥に封じられているモノを解放させてしまうのは気が引けたが仕方ない。
「人目に付きにくい地下にしたほうが良さそうですね。それと出来れば封印は完全に壊すのではなく、多少弛めるに止めておきたいのですが。可能ですか?」
「はい、解りました。直ぐに戻りますから、任せて待っていてください」
 ちょこんとお辞儀をし、彼女は一瞬で姿を消した。
 本来ならば一緒に向かいたい所だが、この封印の要がある場所は撫子では少々通りにくい。
 彼女なら直ぐだろう。
 誰か来ないかを探ることにして、意識を集中とぎすませたその刹那。
「………?」
 見えたのは、死者その物の気配を纏った黒い何か。
 禍々しさを除けば、それは零によく似ていた。
 さらに良く視ようと力を高め、その正体にぱちりと目を瞬かせる。
「あれは……ナハト様」
 海の方めがけて落ちていくのを撫子は確かに視た。





【続く】



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/大学生(巫女)】
【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【0568/守崎・北斗/男性/17歳/高校生(忍)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1449/綾和泉・汐耶/女性/23歳/司書】
【1779/葛城・伊織/男性/22歳/針師】
【4682/黒榊・魅月姫/女性/999歳/吸血鬼(真祖)/深淵の魔女】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。
納品が遅くなってしまい申し訳ありません。

人数も文字数も過去最大でお送りしてみました。
そして展開の方もなにやら凄いことになってます。
プレによって救われてたり凄かったりと色々。
何かありましたら何でもお気軽にどうぞ。

それでは、また次回。

・本文に出てきたIO2他に関しての設定は九十九一の作品にのみ有効です。