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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


壮絶!!心霊ツアー〜夏と花火と怪談と〜

 投稿者:●●●
 件名:夏季心霊ツアーのお知らせ。

 内容:皆さんこんにちは、いつも楽しくこちらのHPを拝見しています。
 さて、今回来たる夏に向けて心霊ツアーのお知らせをしたく書き込み致しました。
 ××県○○市に建つ曰く付きの旅館へご一緒してみませんか?
 一泊二日、興味を持たれた方はこちらの専用サイトまで詳細を……――


 其処までを視界に収め、瀬名・雫は自身の管理しているHPに設置されている掲示板の窓を閉じた。
 心霊ツアー、とは。要するに其の手の愛好者達が寄り集まって、何泊かの設定の中で生々しい霊体験を感じる……事が出来れば言う事は無いのであろうが、結局の処近年では一般のオフ会の意味合いを持つ物が多い様な気がする。
 雫は本来寄せられた投稿情報を元に、其の真偽を検証する事こそを至上の楽しみとしているのだが……。
「○○市――か、何だか興味深いかも。……私も行ってみちゃおっかな?」
 生来からである“怪奇大好き少女”の血が何かを告げるのか、雫は其の書き込みに何かを感ずる儘、心霊ツアー専用サイトへのURLをクリックした――。

 * * *

「さて、あちらに見えますのは〜。本日のツアーの目玉であり宿泊先!曰く付きの心霊旅館になります〜♪」
 目的地を前に減速する質素なツアーバスの中。運転手の隣を陣取り、付属のマイクを片手に悪戯な色を帯びた高校生――桐生・暁の声が円やかに響き渡る。
 ツアーの企画者から各々へ伝えられた集合場所から今の今迄、一端のバスガイドの如く、且つ信憑性の薄い案内を続けていた暁に、喜んで囃し立てる雫以外の同ツアー参加者は既に半ば諦めた面持ちで、彼のガイドを瞳の端へと収めていた。
 そして、軈て停車を経たバスに今心霊ツアー参加者の誰もが、好奇心に満ち溢れた面持ちで例の旅館へと其の眼差しを留める。
「これが、例の旅館って訳ね。――確かに、見るからにって感は否めないけど?」
 各々が自身の荷物を手に、旅館の入口へと歩む中其の内の一人、三雲・冴波が頬に掛かる髪を掻き揚げながら率直な印象を述べた。
 其の外見は趣き有る木造で、然う小さくも無いし、かと言って大過ぎる訳でも無い。
 けれど、其処にいる誰もが……。其処に漂う異様な雰囲気に、背を粟立たせる何かを感じていた。
「さあっ、何時までも此処でぼ〜っとしてたって何も始まらないし!先ずは兎に角検証検証〜☆」
 然う語ると同時に嬉々として旅館へ飛び込んでいった雫を追う様に、他の者達も次々と旅館の内部へと其の足を赴けた。

 * * *

 無事にチェックインを済ませ、男女個別の和室からフロント前の広間へと集合した雫達は、旅館内でのこれからの行動について打ち合わせを行う事となった。
「そう言えばさ〜、このツアーの企画者って――遅刻、だっけ?まだ来ない訳?」
「……確かに、メールが一回朝に来たっきり。其れからずっと連絡が無いわね」
 既に準備万端とばかりに浴衣を着込んだ暁が其の会話の中、ふと漏らした疑問に続いて冴波が同意を返す。
 この心霊ツアーの企画者である人物は、参加者への連絡を是迄逐一に細かく対応した後、当日になって急用を理由に遅刻の旨を各自へと連絡して来た。
 そして本来混乱を来たすかと思われたツアーは、事前に報告されていた予定と手配。重なり雫と言うゴーストネットOFF管理人による手際の良いフォローによって、滞り無く続行に至る事となったのだ。
「う〜ん……。多分、用事が忙し過ぎて途中で抜けられなくなっちゃったんじゃ無いかな?――後はもう一泊して帰るだけだし、気楽に行こ〜☆」
「そっか、それもそうだよな〜。……――じゃ、俺温泉入ってくる!」
「は?ちょっ、あんた――」
 雫の言葉を抵抗無く受け入れた暁は聞くなり直様に踵を返し、其の一点の曇りすら感じさせない動きに冴波が声を掛ける暇も無く――。
 軽快に駆けてゆく其の後姿を、唯々呆然と見詰めていた。
「……冴波ちゃんは、これから如何する?」
 暁が廊下を曲がるのを確認してから、雫が冴波に問い掛ける。
 既に他の参加者達は、各々の興味の向くまま広間から立ち去ってしまっている。
「そうね……先ずはこの旅館の中、ぐるっと見回ってくるわ。この旅館の曰くについて、何か分かるかもしれないしね」

 * * *

「――あんた、其処で何してるの」
 今し方まで、旅館内を散策していた冴波が一言然う呟いたのは、広間で夕食を摂った面々が自由行動に至ってから暫くの事。
「何って――旅館と言えば、卓球じゃん?」
 浴衣!卓球!!――と、手にしたラケットを片手に振り、こぢんまりとした卓球場には温泉から上がった暁が嬉々として、ツアー参加者達からのエールを受けている。
「唯今怒涛の三連勝〜♪……あんたも、俺と勝負してみる?」
「――大した自信ね」
 本来、然う軽々とは子供の遊び事に首を突っ込まない性質の冴波であったが、暁の余裕の態度に生来の負けず嫌いの気がざわめいて――。
 冴波は先に敗北したと思われる相手の手の内から、彼女にしては少々乱雑な素振りでラケットを奪い取った。

 * * *

「――はっ!!」
 甲高い音と共に、既に幾巡目かのピンポン球が見守る参加者達の目の前を目紛しい勢いで過ぎて行く。
「フッ、甘いな――スマッシュ!!」
「――……っ!!」
 冴波が伸ばしたラケットの先を、暁のスマッシュに勢いを増したピンポン球が通り抜け、小一時間に渡る至上稀に見る卓球勝負は漸くの幕を閉じた。
「3セット2−1であんたの勝ち……ね。まさか、私が負けるとは思わなかったわ」
「俺だって、こんなに苦戦するとは思わなかったし。――事実上の、引き分けって奴?」
 汗ばむ額に張り付いた髪を掻き揚げながら、笑みを零し悔しそうに漏らす冴波に、何処か憎めない笑みを向けて暁が返す。
 凡人離れした勝負を目の当たりにした参加者達は、一頻りの賛辞を二人に述べると、同じく何処からか其の勝負の一部始終を見ていた雫が人の壁の間からひょっこりと顔を覗かせた。
「――さて、一世一代の名勝負が付いた所で……。皆で花火で弾けちゃお〜☆」
「えぇっ?肝試しとか、無いの?花火の前にさぁ〜」
「何なら、今から変更する?すご〜く良く冷えた西瓜もあるんだけど〜」
 雫の提案に、最初は不満を露わに愚図っていた暁であったが――。
 付け加えられた一言を境に、其の面持ちは瞬く間に爽やかな笑顔へと移り変わった。

 * * *

「ふぅ……。まさか、この歳で本気で卓球をやる羽目になるとは思わなかったわ」
 先の真剣勝負で予想外の苦戦を強いられた冴波は、一足先に花火をしに庭へと出た皆とは別に、先ず普段よりの疲労と此度の汗を流しに一人温泉へと赴いた。
「其れにしても……この旅館。今の所然う表立った異変は無い様だけど――」
 徐々に削られていく残りの時間に、今ツアー根底の目的を思い、思考を追い掛ける言葉が無意識に連ねられる。
 又、更に続けられるかと思われた其の呟きは――一つ、舞い落ちた花弁によって遮られた。
「――……桜――?」
 今の季節に大凡相応しく無い其れに冴波が瞳を上方へと向ければ、其処には闇に覆われた空が、深々と一面に映るばかりで……。
「…………――」
 掬い取った一片に、冴波は瞳を逸らす事無く――。唯、揺蕩う其れを見詰めていた。

 * * *

「わぁ〜っ、綺麗〜!!」
 雫が旅館へ来てから購入した花火と、暁が事前に用意していた花火とが様々な音や色を魅せ、魅せては儚く消えていく。
 暁は中でも大量に買い込んだネズミ花火を辺りへ盛大に撒いてみせ、皆其の不規則な動きに翻弄されながらも、各々が華やかな光に照らされ濁り無い笑みを浮かべていた。
 軈て花火の数も底を尽こうという時……。西瓜と残された線香花火を手に、誰が最後まで燈りを散らせずにいられるか等と、他愛無い勝負に再び白熱していた暁が――ふと、呟いた。
「やっぱ花火って、そん時はスゲ楽しいけど。終わっちゃえば其れで最後って感じになんね?」
 結構な量を買い込んで来た筈なのにと、然う呟く暁の面持ちは相変わらずの笑みの裏に、何処か憂いを帯びて。
「そうねぇ――」
 其の言葉に、皆の僅か後ろで一人。卓球での汗を流しに温泉から遅れて現れた冴波が、緩慢な動作で縁側へと腰を掛け。
 夜風と共に漂う趣きに浸りながらも、暁への言葉を投げ掛けた。
「あんただったら、花火の代わりにでもなるんじゃない?」
「早々散らない上やたらと賑やかだから、私は抜きにして周りは相当楽しいわよ」
 ――――と。
 遠回しな冴波の配慮と思われる言葉に、暁は闇に覆い隠された、誰の瞳にも触れ得ぬ景色の中――一際、屈託無く微笑んだ。
「訳分かんね!!――けど。何となく、受け取っておくよ――?」
 未だ、チリチリと燻る線香花火の末端、仄かな燈りが遂に地に落ちて。
 一夜限りに集った儚き者達の繋がりを、唯幾千の星だけが何時までも見下ろしていた―――。

 * * *

 翌日、穏やかな一夜を過ごし、チェックアウトを済ませた参加者達が再び、ツアーバスの前へ集う。
「結局、な〜んも起こらなかったね?まぁ、楽しかったけど」
「企画者も、最後まで連絡が無かったみたいね」
 各々がこの一泊二日の旅を感慨深く振り返る最中、不意に旅館の女将が表へ現れ、雫達の下へと歩み寄って来た。
「この度は当旅館をご利用頂き、誠に有り難うございました――」
「ううんっそんな事!とっても楽しかったよ☆」
 深々と頭を下げる女将に、雫が此方こそと礼を述べれば女将は心底嬉しそうに顔を綻ばせて。
「もう、来月には取り壊される運命の旅館ではありますが……。最後にお客様の様な方々をお持て成し出来て、本当に良かった――」
「…………え――?」
 雫達が思わず一語を漏らせば、女将は申し訳なさそうに一言――。一同に視線を流しながらも、静やかに言葉を漏らし始めた。
「元からに寂れた旅館ではありましたが――いよいよ、旅館の取り壊しが決まった矢先、旅館に不可解な出来事が起こる様になりまして……」
「其の為に更に早まった取り壊しに、最後に頂いた御予約が、お客様方からのものでありました――」
 何度も、何度も幾度と無く頭を下げ、立ち去って行った女将の後姿を見詰めながら。――茫然と立ち尽くす面々の中に、暁がぽつりと呟いた。
「この旅館が建ったのって……、何時だっけ――?」
「……開業なら五十年前の春、だったわよ。確か」
 冴波が自身で発した返事に思わず掴んだ、一片の花弁を収めたポケットの内には――、既に、何物の存在も在りはしなかった。
「……あれ?企画者ちゃんの携帯、繋がらないよ?携帯用の企画サイトも、全部無くなっちゃってる……――」
「――…………――」

 目の前には、既に役目を終えた一つの寂れた廃旅館。
 背後には、依頼主の分からぬ今ツアー用レンタル・バス。

 ――一同に、微妙な空気だけがじっとりと辺りを包み込む……。

 * * *

 後日雫のHPに更新された、掲示板の書き込みすらもが消え失せた、一つの新たな怪談。
 最後の謎は、花火の儚き燈りと消え……――。


【完】

■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

【4782 / 桐生・暁 (きりゅう・あき) / 男性 / 17歳 / 高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【4424 / 三雲・冴波 (みくも・さえは) / 女性 / 27歳 / 事務員】