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ゴーストタウン
■introduction
その日もインターネットカフェには瀬名雫の姿があった。いつものように一席を陣取った彼女は、運営するホームページ≪ゴーストネットOFF≫にアクセスする。
「わあ、今日もたっくさんの投稿がある! 皆ありがとねー」
サイト内の投稿情報を元に怪奇現象の真偽を確かめるコーナーには毎日多くの投稿が寄せられる。書き込まれた数多くの記事を読むのが雫の日課となっていた。喜色満面の雫は手馴れた様子でマウスを動かす。
「面白そうなのは……っと、これなんかどうかなー」
『十数年前にちょっとした事件を起こして
潰れちゃった精神病院があるって聞いたことない?
数年後、病院跡地に次々と家が建ったんだって。
最初こそ何も知らない人が移り住んでたみたいだけど、
今は誰も住んでなくて、ゴーストタウンになってるんだって!
ちょっと怖くない? あ、肝試しにちょうどいいかもw
お化けでも出るのかなぁ・・・と思って投稿してみました。
管理人さん、興味があったらぜひ調べてみて下さい!』
「うーん」
記事に目を通し、雫は首を傾げながら唸る。
「夏っぽい記事だなぁ。この事件……十数年前ってことは、あたしが生まれてすぐかな? 誰かこのニュース、聞いたことない?」
■bulletin board service
瀬名雫が≪ゴーストネットOFF≫で掲示板の投稿記事を読んでいる頃、結城凛も同じ記事を目にしていた。黒のカラーコンタクトに覆われた金の眼が鋭く光る。
「閉院になるような事件……なにかあったかしら?」
記事の内容が事実であるならば、凛がまだ学生の時分に起こった事件である。しかし精神病院とあるのだから、セラピストとして医療業務に携わる凛が見逃すはずもない出来事だ。
「ちょっと気になるわ。今日は暇だし、調べてみようかな」
先輩医師にも聞いてみようと思い、凛は電話の受話器を取った。
さらに同時刻、セレスティ・カーニンガムもまた、掲示板の記事を見つけていた。
「正心病院事件のことでしょうか?」
近頃は全国各地の病院で医療ミスが相次ぎ、世間を騒がしているが、それでも責任を負うのは担当医なので閉院になる話はなかなか聞かない。十数年前に起こった病院関連の大きな事件というと、正心病院事件しか思いつかなかった――聞き覚えがある程度だ。
セレスティは長い指でキーボードを打ち、心当たりのある事件名を検索する。
しかしインターネットが普及する以前の事件なので、記事のヒット件数は百未満と少なかった。しかも記事が古いせいか、リンク切れが多数あって情報の収集が思うようにはかどらない。
整った容貌を曇らしながらセレスティは呟く。
「図書館に行ってみるしかありませんね」
廃院、跡地にできたニュータウン――そしてゴーストタウン。気になる。が、しかし。
青の双眸が見つめる窓の外は、セレスティが苦手とする、夏の名に相応しい気温になっていることだろう……。
■library
建設されて間もない市内の第二図書館はバリアフリー設計になっているので、足が弱く、杖や車椅子での移動を余儀なくされるセレスティはこの図書館を重宝している。
セレスティの乗る車が図書館の地下駐車場に停まると、一人の若者が駆け寄ってきた。車を降りるセレスティに会釈する若者は司書補の一人で、久我悠莉という。使用人の親戚の者と聞いているが、なかなか気の利く若者であった。
「セレスティ様、ようこそいらっしゃいました。ここは空気が悪いです。さあ、上に参りましょう」
「いつもありがとうございます、悠莉くん」
エレベーターで一階に上がると、平日だというのに予想以上に人が多かった。小さな子供が多いのを見て、暑いせいで人が集まっているのではないことに気付く。
「世間はもう夏休みに入ったのですね」
「ええ、お陰で朝から晩までこの賑わいですよ」
車椅子を押してもらいながら館内を横切ると、周囲の視線がどんどんセレスティに集まってくる。白磁のような肌、夏の蒼穹よりも深い青の瞳、月光を寄せ集めた銀髪に整った鼻梁――誰もが彼の美貌に目を奪われてうっとりとしているのだ。
あれほど騒がしかった館内が、セレスティの登場で一瞬にして静まり返る。
そのまま小会議室の札がついた扉をくぐると、テーブルの上に古い新聞が丁寧にとじられたファイルが山と置かれていた。続いて部屋に入ってきた別の職員が冷たいお茶を運んでくる。電話一本で至れり尽くせりのもてなしをしてくれるのは――日本にいくつ図書館があるのかは分からないが――ここだけではないかとセレスティは思う。
一服しながら、セレスティは一番上のファイルにとじられている新聞を見やった。見出しは「患者失踪? 謎の深まる病院」とあり、一面を占めていた。
■vacant town A
バンパイアのロルフィーネ・ヒルデブラントが苦手とする炎天下の中、わざわざ星辰の里と呼ばれていたタウンにやってきたのには理由があった。彼女が日傘代わりに両手で掲げている女性の水着写真が表紙になっている雑誌の一番大きな見出しにはこうある――「夏本番! 心霊スポット特集!!」
美少女が一人、電柱の傍に腰を屈めてこれを読んでいる姿は、さぞかし奇妙に見えたことだろう。
「暑いよー……でも、それもこれもご飯のためだもん。あとは涼みながら待ってるだけ♪」
夜になれば、光に集まる虫の如く、美味しいご飯たちが無人の住宅街に集まってくることだろう。ロルフィーネはいくつかの家の周辺を歩き回り、勝手口が壊されている物件を見つけた。
どの家も比較的新しいが、やはり人が住んでいないと家も死んでしまうのだろう。じめっと湿気ており、ロルフィーネは不快感に身を捩った。
「気持ち悪いなあ。換気しよっと」
窓を開けて家中の空気を入れ替えて回る。
誰もいない家の中をうろうろしていると、ダイニングを見つけた。食卓の上にはからからに乾いたご飯と空のコップ、お茶漬けの素が置いてあり、今にも夜食が始まりそうな雰囲気である。
クーラーや扇風機も見つけたが、リモコンの電池は切れているし、そもそも電気が通っていなかった。
そのまま埃の積もった階段を上がっていき、閉ざされた扉を開く。どうやら子供部屋だったようで、女の子らしい内装になっていた。至るところにぬいぐるみが飾られているが、ロルフィーネの抱いているうさぎよりかわいい子はいない。
「あ、ふくろうさんだ! ちょっと色褪せちゃってるけど、かわいいな♪」
ロルフィーネが手にしたのは全体的に白っぽいふくろうだ。北海道に住むえぞふくろうだが、彼女はそんなことは気にしなかった。他にもしまふくろうやこみみずく、あおばずく、このはずく、とらふずくが飾られている。
「ふくろうさんがいっぱーい。ここに住んでた子、ふくろうさんが好きだったのかな?」
本棚にはふくろうが登場する英国女流作家の人気児童書が並んでいたが、ロルフィーネは気付かなかった。
窓際に置かれている観葉植物は枯れて黄色くなっている。その脇にはビーズで作った指輪が置かれていた。
「これもかわいい! あれなんだろ? あ、こっちのは?」
普段は人間の少女の部屋に入ることはないので、ロルフィーネにとって興味深い代物が溢れている。
うろうろしている間にも陽は傾き、ロルフィーネは夜に備えて少し休憩することにした。
■vacant town B
潰れた病院の名前が「正心(せいしん)」なら、地名も「星辰(せいしん)」だった。今は無人の街も、当時は「星辰の里」として売り出されたらしい。夜空が綺麗に見える家というのが宣伝文句である。
「それにしても暑いわ……」
凛はハンカチで額の汗を拭うと、「ん?」と目を細めてサングラスを持ち上げた。道の端に水色のバケツと花火の袋が落ちている。誰かがここで遊び、始末しないで放って帰ったのだろう。
「遊んだのなら、ちゃんと片付けなさいよね」
モラルの低下に少しばかり嘆いていると、凛は奇妙なことに気が付いた。
「車がある……? やっぱり引っ越したわけじゃなさそう……ね」
凛が電話した先輩の精神科医の話によると、星辰にあった正心病院が閉鎖した理由は、大勢の患者の失踪によるものだったらしい。患者ばかりではなく、医師や看護婦も何人かいなくなっている。そして患者の失踪に関与したと疑われた院長さえも、逮捕直前に姿をくらましてしまったらしい。
そして病院跡地にできた星辰の里。住民は引っ越した様子もなく姿を消し、以来、ここに住む者はいなくなったという。
「どの家も鍵がかかってるし、こんな明るい時間じゃ出るものも出ないわね。また夜に来なくちゃ」
涼しくなってから出直そうと踵を返すと、凛はゆっくりとこちらに向かってくる黒い外車を発見した。しかし凛に用があるわけではなさそうで、そのまま横を通り過ぎていく。
「金持ちが肝試しの下見? じゃなくて、この土地を買い取って再開発しようとでも思ってるのかしら」
敷地は広いし、周辺の環境もいい。十分にあり得る話だ。星辰の里も、病院の話をしなかったので跡地に人が住むようになったのだから。失踪事件のことを知らせなければ、また人が集まるに違いない。
汗を拭いながら、凛は来た道を戻り始めた。
図書館を出たセレスティは、運転手に正心病院跡地――星辰の里に寄るように言った。外気の一切を遮断した涼しい車内で、彼は変わっていく景色を眺めながら得た情報を頭の中でまとめる。
(正心病院で失踪したのは患者だけでなく、病院関係者も含まれている。院長までも――彼は逃げたのかもしれませんが――そして住民もいなくなってしまった。最近の事件では、この方面に肝試しに来た若者が行方不明になっている……)
車の速度が落ち、運転手が「そろそろ例の住宅街です」と告げてくる。
改めて窓の外を見ると、中世欧州の家屋に似せたかわいらしい住宅が軒を連ねていた。どの家も引っ越した気配はなく、ガレージには自動車や自転車が置かれたままだ。子供用の滑り台が置かれた家もある。
「肝試しとは、夜にするものでしたね?」
「は――そうですね。草木も眠る丑三つ時は魔性のものが徘徊する時刻と言われております。夜更けにひと気のない場所で恐ろしさに耐える力を試すのが、肝試しです」
突然の質問に運転手は驚いたようだが、偶然にもセレスティが欲しかったキーワードが得られた。
(丑三つ時……午前二時ですか)
もうすぐ住宅街を抜けるというところで、セレスティは道の端に一人の女性が立っていることに気付いた。活発そうなその女性は、閑静な住宅街を走り抜けるセレスティの車を訝しげに見つめている。
(肝試しに来た若者が行方不明になるという噂を聞きつけた記者かなにかでしょうか……?)
女性の脇を通り過ぎると自動車の速度は再び上がって、セレスティは無人の住宅街を後にした。
■ghost town A
懐中電灯の灯りが二つ、闇の中にちらちらと揺れている。ぺったんぺったんとスニーカーの底を引きずるような音と、ヒールがアスファルトを打つ高い音が静寂の中に響いた。
「うへえ、マジで誰もいねぇの?」
「かわいい家なのに、もったいないなあ」
「なんならオレと暮らしちゃう?」
「ヤだぁ。あたしコンビニの隣に住みたいー」
緊張感のない二人組みは、肝試しに来たカップルだった。きゃあきゃあと騒ぎながら電灯をあっちこっちに向け、閉ざされた窓を照らして置物の影を見つけては叫んでいる。
無人の街――ゴーストタウンに集まってくる獲物を狙う少女は、月を背景にして屋根の上に腰掛けていた。呑気な二人の若者に目を付け、無邪気に微笑む。
「見ぃつけた♪」
ロルフィーネは空のワインボトルの栓を抜くと、月明かりに透かした。
このワインボトルは先の家の応接間で見つけたものだ。飾り棚にあった空き瓶だが、有名な銘柄であったので拝借したのである。兄や姉の真似をしてボトルを鮮血で満たし、そこからグラスに注いでみたい。
(グラスでご飯! 憧れるな〜)
ソファーに腰掛け、少し気取った仕草で血に満ちたグラスを傾ける。飲み干した後に舌で唇を舐めると、色鮮やかな紅が唇を彩るだろう。
「あ。あたしトイレしたい」
「はあ? こんなとこでなに言ってんの? しょうがねぇなあ……ほら、そっちの家の裏でしろよ」
「どっか行かないでよ!」
「いかないって」
「覗かないでよ!」
「覗かない覗かない」
男が示したのは偶然にもロルフィーネが座っている家だった。男は玄関前に腰を下ろしてポケットから煙草を取り出し、ライターをかちっかちっと鳴らして点火する。月明かりさえあれば夜でも視界は利くが、目印となる煙草の火があれば確実だ。煙草は口にくわえるものなので、必然的のその下が牙を突き立てる場所になる。
ロルフィーネは紅の眼を不敵に輝かすと、音もなく男の背後に降り立って彼の背中から心臓目掛けてレイピアを突き立てた。
「うっ……」
絶命した男は力なくうな垂れ、くわえていた煙草は足元の溝に落ちる。
「えっと、どうやってボトルに移そう……?」
別のナイフを頚動脈に滑らせると、大量の血液がばっと飛び散った。頬に付着した血を指で拭って舐め取りながら、「入らないよ……」と肩を落としながら呟く。その時、ロルフィーネはだらりと垂れ下がった男の手を見て閃いた。
「あ! 指をボトルに突っ込んでから手首を切ったらいいんだ♪」
名案に心を躍らせながら、ロルフィーネはさっそく行動に移す。しかし流れ出る血液は少なく、反対の手を切っても零れたりして、ボトルの中にはたいした量が集まらなかった。
「あ〜もう、入んないよ! どうしてよ〜」
無残に切り刻まれた亡骸を睨みながら、ロルフィーネは頬を膨らます。胸や首からの失血で、体内に残された血液が少なくなったとはこれっぽっちも思わなかった。
「ちょっと少ないけど、まあ……いっか」
ロルフィーネは屋根の上に戻り、さらに失敬していたワイングラスにボトルに少しだけはいった血を注ぐ。ほんの少ししか入らなかったが、これで兄や姉に一歩近づいたのは確かだ。
「えへへ、ボクって大人っぽいでしょ♪」
相棒のうさぎのぬいぐるみに自慢げに語りかけながら、ロルフィーネはグラスを傾ける。いつもと違う味を楽しんでいると、家の裏側から「きゃあ!」という甲高い叫びが聞こえた。
「あ、女の人! あの人のこそボトルに入れよっと」
次なる狙いを定めて屋根の上から飛び降りようとしたその時、女性が叫んだ理由が彼氏の死体を見つけたからではないことに気が付いた。
女性の腕の肘から先が、そっくりと消えている。
「いやっ、なんなの? ちょ、ヤだ……ッ!」
泣き叫びながらもみるみるうちに闇の中に取り込まれる女性。ロルフィーネはその様子を眺めながら、そっと顔をしかめる。
「あれれ? 自然に『歪み』が生まれてるのかなあ?」
世界と世界の狭間に生まれるのが『歪み』である。異能力者が他世界へ渡る時に使うのが『歪み』と呼ばれる道だった。普通『歪み』は能力者が作りだすものだが、時折り地形や磁場の関係で自然に生まれる『歪み』があった。どこに繋がっているのかは、通ってみないと分からない。
「ふーん。でも、ま、いっか。ご飯が寄ってくることには変わりないんだし♪」
面白いものを見つけたロルフィーネは上機嫌になって、新たなる獲物探しに動き出した。
■ghost town B
昼間は気温三十五度を越える猛暑の街でも、よるになるとぐっと冷え込む。特に星辰の里は緑に囲まれており、室外機は死んでいるので薄着では寒すぎるくらいだ。上着を着てきて良かったと思う凛。
午前二時に再び無人の街を訪れた凛は、停まってあるバイクや自動車の数が増えていることに気付いた。肝試しにきた若者たちの物だろう。人の気配も至るところから感じる。
凛は昼間と同じように街の中を歩き出した。恐怖しながらもそれを楽しむ空気が漂う中、異質のものを察する。
「このにおい……血?」
つんと鼻をつくのは濃厚な血の香りだった。凛は金の眼を瞬かせ、きつくなるにおいの元に急ぐ。幾つかの家の前を通り過ぎて辿り着いた先には、異国の男が立っていた。その足元には黒々とした染みがアスファルトに残っている。
「キミが殺ったの?」
「――いいえ」
首を振る青年の目は嘘を吐いていない。凛は染みの傍に屈みこみ、そっと触れてみた。
(まだ粘り気がある……ここでなにかが起こってからそんなに時間が経っていない?)
立ち上がった凛は、月の精霊のように透明感のある神秘的な青年を見つめる。
「キミは?」
「セレスティ・カーニンガムと申します。……昼間ここでお見かけした方ですね」
「昼間……って、あ! キミ、あの外車に乗ってた人?」
目を丸くして驚く凛には、セレスティが美貌の青年実業家に見えたのだろう。セレスティは苦笑いを浮かべながら小さく頷く。
「私は結城凛。キミみたいな人がこんなところでなにをしているの?」
「調べ物です」
「奇遇ね。私も調べ物よ」
互いに名乗りあった後、セレスティは青の瞳をすがめた。
「どうやら早急に引き上げた方が良さそうですね。ここには不穏な気配が立ちこめています」
「どういうこと――あ!」
凛が見つけたのは、通りを挟んで反対側の家の傍を歩いていた若者たちだった。肝試しをしていたのだろうが、彼らの上半身が唐突に消える。常人の目には消えたように見えるのだろうが、凛の邪眼には黒い渦に呑み込まれる若者たちの姿が見えた。
助けに行こうと走り出すも、彼らはあっという間に姿を消してしまった。
「な、なんなの?」
「……『歪み』と呼ばれるものでしょう。本で『見た』ことがあります」
杖で体を支えたセレスティは、視力の悪い目を閉じ、思い出すようにして口を開いた。
「私たちの住むこの世界と、それとは別の世界の間に生じる摩擦が生み出すものが『歪み』と呼ばれる空間のようです。異世界へ行く道のようなもので、条件が揃うとこうして自然に生まれることもあるとか」
「じゃあ今の子たちは、今まで行方不明になった病院の患者さんや住人たちは『歪み』に呑み込まれたっていうの?」
「そうでしょうね」
そこで二人は互いの調べ物が同じであったことを知る。
正心病院で消息を絶った患者や医師、院長たちは病院がどこかへ隠したのではなく、超常現象の犠牲となっていた。星辰の里に新居を構えた人々は深夜にいずこの世界へと飛ばされた。ゴーストタウンに肝試しに来た若者たちは『歪み』に呑み込まれ、魔性の存在の餌食となった。
「『歪み』を封じる方法はないのかしら」
「一時的な処置として、私がこの土地を買い取ろうと思います」
「え!」
セレスティの言葉に、凛は本気で驚いた。この広大な敷地を、超常現象の犠牲者をなくすために買い取る人がいるとは思えなかったのだ。一体いくらになるのか検討もつかない。
「この時間にここにいなければいいのです。これだけ広い土地なら、使い道はいくらでもあります」
「そ、そう……」
凛が絶句した翌日、再び星辰の里を訪ねると、そこはもう柵が巡らされて私有地になっていた。
「リンスター財閥……凄いわね……」
「もう最悪! せっかくいい場所見つけたと思ったのに〜!」
「?」
幼い声に振り返ると、いつの間にか凛の傍に十代前半の少女が憤りをあらわにして立っていた。勝手に獲物の集まってくる地を見つけたロルフィーネである。
猛暑の中、黒いマントを羽織った少女は立ち入り禁止の看板を二度、三度、うさぎのぬいぐるみで叩くと、そのまま風の如く去って行った。
(今の、なんだったのかな?)
肝試しに最適の地を見つけた小学生だったのだろうと納得すると、凛は釈然としない気持ちを押さえ込み、星辰の里と呼ばれた土地を離れた。
【完】
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┃ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
・0884 / 結城・凛 / 女性 / 24歳 / 邪眼使い
・1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い
・4936 / ロルフィーネ・ヒルデブラント / 女性 / 183歳 / 吸血魔導士、ヒルデブラント第十二夫人
・NPC / 久我・悠莉 / 男性 / 19歳 / 学生、アルバイター
・NPC / 瀬名・雫 / 女性 / 14歳 / 女子中学生兼ホームページ管理人
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┃ ライター通信
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凛さん、初めまして。夏バテライターの千里明と申します。ご依頼ありがとうございました。リアルが忙しく、まだ八月になったという実感がありません。もっと個別で書き込みたかったのですが、〆切の関係もあってこういう形になりました。
★結城・凛さま
初めてのご依頼ありがとうございました。すっかりお待たせして申し訳なく思っております。プロフィールを拝見した時は夏に相応しい方だと思って明るく活発に書き込みたかったのですが、私自身がそうではないのでどうも感覚が分からなくなってしまい(苦笑) もっと能力を使って頂きたかったのですが、こういう形になってしまいました。お気に召して頂ければ幸いです。
★セレスティ・カーニンガムさま
初めてのご依頼ありがとうございました。年長者の重みと申しますか、風格が掴みきれず、手探りで描かせて頂きましたのでイメージにそぐわない点があるかと思います。不安がいっぱいですが、如何でしょうか?
★ロルフィーネ・ヒルデブラントさま
再度のご依頼ありがとうございました。またお会いできて嬉しく思います! 今度こそ美しく残酷に描きたいと思っていたのですが、まだまだ力量不足でこういう形になりました。描写していないところでおなかいっぱいに食べて頂けたと思います(笑)
今回は参加して下さって本当にありがとうございました。またご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
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