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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


□ 薔薇の秘密 □


+opening+

 世間では日曜日の日。
 時折、カラカラと扇風機の回る速度が遅くなるのを、草間はあきらめ半分で眺めていた。 数瞬のあと、黒電話がジリリリと鳴った。
 依頼だと良いな、と呟きながら受話器に手をかける。
「こちら草間興信所」

 最近オープンした薔薇園からの依頼だった。
 妙なことが起こっているのだという。
 来園者の少数が、帰宅後気分が悪くなり、病院に運ばれているのだ。
 病院の検査では疲労だと診断され、数日後には回復したのだが、同じ様な症状を訴える客が多く、このままではよからぬ風評が広がってしまうと、懸念した薔薇園が原因究明を依頼してきた。
 今の時期は薔薇の開花種類が少なく、客足の少ない間に解決して欲しいという。

「この暑い中、薔薇園か……」
 草間はアドレス帳を引っ張り出し、めぼしい人物へと電話をかけ始めた。



+1abcd+

 シュライン・エマは草間がちょうど、黒電話の受話器を置いたところに遭遇した。
 手に持っているのは、家で昨晩に作って冷やしておいた冷たい麦茶だ。
 興信所に来ても、草間が麦茶の一つも湧かしているとは思えなかったからだ。
 案の定、台所にある冷蔵庫を除けば、すでに飲み干され飲み物は何も無かった。
 やかんに水を入れコンロに火をつけ、そばに麦茶のパックを置く。
 冷たい麦茶が注がれたグラスを二つ手にして戻ってきたシュラインは、草間にはい、と手渡し、自身はソファに腰を下ろした。
「さっきの電話は依頼のお仕事?」
 アドレス帳片手に、電話をかける相手を捜している草間に内容を促す。
 ノースリーブの服から覗く腕にグラスを当てると冷たく、気持ちがいい。
「あぁ、依頼人は薔薇園を経営してるんだが、最近、疲労で病院に運ばれる人間が多いなだと。今の時期は薔薇がそんなに咲いていない時期だから、お客も少ない。今のうちに原因究明をして欲しいそうだ。……この暑い中、薔薇園だぞ?」
 考えただけでぐったりしている草間に、シュラインは嬉しそうにいった。
「いいじゃない、お客様よ? 武彦さん、わかってるの? 依頼料が入らないと、扇風機を買い直せないのよ?」
 時折、からからと回転速度が落ちる扇風機を見やり、重い溜息をつく。
 冷房はお客が来た時にしか電源を入れない様に、コンセントから抜いてある。待機電力もばかにならないからだ。
「頑張って行ってくれ、俺は待機している」
「……。もちろん武彦さんも行くのよ?」
 にっこりと笑みを浮かべたシュラインのひとことに、草間は言葉なくうなだれた。
 何事も怒らせてはいけない人物はいるのだ。
コンコンコンと扉をノックする音に草間が応答すると、中に入ってきたのは海原みなも(うなばら・みなも)だった。
「おはようございます。夏休みなので、アルバイトないかな、とお邪魔したんですが。お仕事あります?」
「いらっしゃい、みなもちゃん」
 シュラインはソファから立ち上がり、向かいの席をすすめ、台所へと麦茶を入れに行く。ちょうどお湯も沸いて、良い頃合いだろう。
「いい所に来たな、薔薇園へ行ってくれ」
「薔薇園ですか?」
 台所から戻ってきたシュラインが、みなもに麦茶を手渡し、先ほど草間が説明した内容を同じように話す。
 内容を聞くと、ん、と考え込み頭の中で整理し、話し出す。
「薔薇園の人に聞いてみないとわからないこと多いですけれど、まずは暑さ対策して来ないと駄目ですね。一度、家に戻って薔薇園に直行します。お昼前に薔薇園で合流というのはどうでしょう」
 女の子は用意するものが色々あるのだ。
「あぁ、そうだな。用意する物も各自あるだろうし。シュラインはどうする?」
「そうね、薔薇園でまず、お話を聞いてからになるから、今から用意して向かうわ」
 事前に調査することも出来るが、今はまだ電話だけで話を聞いただけだ。
 詳しい話を聞いてから、調査した方が調査の方向性を間違えることなく進めることができる。
 外を見やれば、雨の降る気配もなく雲一つ無かった。昼過ぎには随分と気温は上昇するだろう。水分補給の為の飲み物を用意しておかなければ、熱射病になりかねない。
 お昼前に薔薇園前で集合ということにして、草間はみなもに先ほどきいておいた場所を記したメモを渡す。
「ここから大体歩いて15分ほどのところだ。迷うことはないだろうが、もし迷ったらシュラインの携帯に電話してくれ。俺は持ってないんでな」
 みなもを見送ると、草間は二人の調査員に連絡を取り、シュラインの用意する荷物を待っている間、夏休み買い物で待つお父さんのごとく、扉隣の壁に背を預け煙草を銜え、紫煙をくゆらせた。


 みなもは家に戻り、ちょうど起きてきて間もない家族に薔薇園に行くことを話すと、夏らしい、小さな水玉がちりばめられた可愛らしいワンピースを選んでくれた。
 麦わら帽子と薔薇園の中を歩くため、虫さされ防止にスプレーを手や足にふりかけ、手でのばしていく。他の調査員の方達も使われるかもしれないと籐製の鞄に入れる。
 飲み物と一緒におにぎりも作りましょう、と手伝ってくれる家族に感謝しつつ、飲み物だけでは暑さには不十分でしょうと、いろいろアドバイスを受けて、おにぎりを作りはじめる。
「はい」
 家族一緒に料理をしようと誘ってくれたのが嬉しく、みなもは満面の笑みを浮かべた。
 キッチンへ向かうと、白いレースが施されたエプロンをつけ、二人は料理を始めた。


 三種類のおにぎりを作り、食べやすい様に一つずつ包んで、魔法瓶に入れた冷たい麦茶を鞄に詰める。
 用意万端で、あとは出かけるだけだが、薔薇園前で待ち合わせの時間には、まだ少しあった。
 みなもはパソコンを使い、ネットで薔薇園の事を検索する。
 6月に開園して間もない薔薇園の名前は、水無月薔薇園。
 経営者は、水無月晃司(みなづき・こうじ)。
 写真も載せてあった。眼鏡をかけ、穏和な印象を与える容姿だ。
 色んな種類の薔薇を名前を添えてあり、開花時期も細かく解説されている。
 来園時の注意として、帽子や日傘を持参下さいとサイトのトップに載せてある。
 今日は臨時の休園日。
 調査して貰うのに、来園者があってはよからぬ噂が広がる可能性があるからと、休園日にしたのだろう。
 好意的でも、人間はおしゃべりなのだ。
 最近は気軽にブログを使って日記代わりにしている人も多く、家族連れでは薔薇園に行ったことを書いているかも知れないと、検索項目を絞ってみる。
 何件か出てきたブログには、薔薇園内を散策途中に貧血のように力が抜けてしまったと書かれているのが多いようだ。
「あ、性別は女性ばかりのようです。何か関係があるのでしょうか」
 みなもは気付いたことをメモして、ポケットに入れた。


「はい、行きます!」
 久良木・アゲハ(くらき・あげは)は、草間から電話を受けると一つ返事で承諾した。
 もともと今の時期は夏休みで、宿題もほとんど終了しており、そろそろ休みの間にする遊びが思いつかなくなってきていたからだ。
 暇で暇でしかたなくなったら、お兄さんに遊んで下さいとお願いするくらいには暇が迫ってきていた。
 実際にお兄さんに電話するほど、裏家業のことを熟知しているアゲハは了見知らずではないのだが。
 長い休みは学生の特権だが、暑い中毎日出かけて行くには、アルビノ体質であるアゲハには辛い所がある。
 今も草間に来てくれるようにいわれたのは、薔薇園。
 昼前に集合だから、ちょうど暑くなる時間帯だ。
 日差し対策として、UVカットのクリームを身体に塗る。
 花柄のワンピースを身に纏い、両端が結ばれた黒のストールを肩にかけ、肌が見えないようにする。
 薄いブルーの日傘を用意し、準備万端。
 冷蔵庫に冷やしてある麦茶をステンレス製の魔法瓶にいれて、氷も少しいれて、帆布を使った鞄にいれた。
 その中にはタオルや、おしぼりが一緒に入っている。
 他の調査員の人達が持って行ってるかも知れないが、用意しておくにこしたことはない。
「吸血鬼がお食事をしに来ているみたいですね。薔薇って吸血鬼のご飯にもなるって聞いたことあります」
 真相を色々と廻らせつつ伝言をメモする。
 キッチンのテーブルに念の為、行き先を書いたメモを置いた後、雲一つ無い空の下へ踏み入れた。


 古き良き日本建築の外見を持つ家。
 守崎啓斗(もりさき・けいと)は、何かと増大する食費削減の為に、動くみかんや、動く茸を栽培出来ないかと日々研究に余念がない。
 中庭には、わびさび漂う日本庭園が広がる……筈なのだが、この中庭も畑に様変わりして久しい。
 土地は有効活用していくらだ、とは啓斗の格言だ。
 それも収穫時期が長く、育成の早い野菜がメインに育てられている辺りに、啓斗の涙ぐましい努力が伺えた。
 そんな啓斗に草間から電話が入ったのは、朝の水やりを終えた頃だった。
「薔薇園だな、わかった。今から用意すれば間に合うだろう」
 よろしく頼むと、草間の言葉を聞いた後、興信所同様にレトロな雰囲気を漂わせる受話器を置き、立ったまま暫く考え、行動に移した。
 出かける用意の完了した後冷蔵庫に伝言メモを貼り付ける。
 主に小言や、注意事項なのはキッチリとした啓斗の性格だろう。
 書き漏れがないのを確認し一つうなづき、出かけた。



+2abcd+

 薔薇園前で集まった五人は、シュライン、みなも、アゲハ、啓斗、そして草間……の筈なのだが、草間を除きこの場にいるのは四人の女性だ。
 草間は、煙草を口に銜えたまま、シュラインを見る。
「これで全員集まったわね。みなもちゃんに、アゲハちゃん、そして……啓斗君ね?」
 スパンコールと刺しゅうで花モチーフを施し、チャイナ風デザインの服を身につけ、黒の日傘を差している女性の前に立ち、シュラインは確認するようにいった。
「さすが、シュラ姐」
「えっ、綺麗……」
「綺麗ですね」
「どうしたの? 女装って」
「薔薇っていえば眠れる森の美女ってあるし、囮にでもなろうと。俺ってわかったのシュラ姐だけだし、大丈夫だろう」
 と、わからなかった本業探偵であるところの草間を見て、啓斗がひとこと。
「悪かったな、女性をじろじろ見ると悪いだろう。変に誤解されるしな」
「誤解されることがあったんですね、草間さん」
「そうなんだ、草間さんも色々大変なのですね」
 しみじみという、みなもとアゲハを見やり、
「何を誤解している、仮だ仮、俺じゃないぞ。一般常識で、だ」
 どことなく信憑性が感じられないのは、日頃の行いの賜物だろう。
「とにかく、だ。さっさと薔薇園に入るぞ、暑くてかなわん」
 草間は携帯灰皿に煙草を入れ、中にある事務所へと歩き出した。



+3abcd+

 空調の効いたサンルームに案内された五人は、材質の良いチーク材を使った椅子へとすすめられ、座る。
 休園日とは言え、薔薇の世話をする為に出てきているスタッフの姿が数名サンルームからでも見えた。
 冷たい麦茶をトレイに乗せてやってきた女性から、依頼人の水無月晃司は受け取ると、自ら配っていく。
「ありがとうございます」
 皆の代わりにシュラインが礼をいい、依頼内容の詳細説明をお願いする。
「ここ最近の出来事をそのままお話しします。抜けているところや、わからないところがあれば、遠慮無くお聞きください」
 と、水無月は前置きし、最近の状況を細かく説明し始めた。


 薔薇園を訪れたあと、その日の内に病院へと運ばれた人物は、届け出されて保障や、お見舞いをしに行った来園者は、七人。
 診断されたのは疲労なのだが、七人が七人とも薔薇園へ来園していることから、無関係ではないだろう。
 水無月には全く理由が思い当たらないのだが、原因があるのならば早く解決し、来園者が安心するようにしたい。
 薔薇園内には蔓薔薇を使って棚をつくり、日陰をつくり、休憩スペースを幾つか設けてある。
 散策コースも出口には、喫茶スペースもあり、空調も入れてある。
 七人には、薔薇園内をまわったコースを聞き、その時の体調なども記した書類を保管してある。
 もし、何かあればすぐに対応することが出来るようにとの配慮だ。


 水無月は話し終わると、どうかお願いしますと頭を下げた。
「この七人の方達の書類見せていただけますか?」
 シュラインが早速、水無月に聞く。
「この方達の通ったコースをみるために、園内の地図みせて頂けませんか?」
 一つずつ回って、園内を確かめようとみなもは思ったのだ。
「わかりました、書類の方ご用意させていただきます。園内の地図ですが、パンフレットがありますので、これをどうぞ」
 テーブルの下のスペースに入れてあったのか、パンフレットを各自に渡す。
 開いてみれば、コースは3コースあるらしい。
 短いコースは、大輪の薔薇やミニ薔薇、蔓薔薇など、その種類ごと造形が美しいところを見ていくもの。
 通常の散策コースは、広いスペースを取った場所でゆっくりと見てまわれるようになった家族向けのもの。
 長い堪能コースは、隅々までまわれるように道順が細かく記されたものだ。
 共通するのは、ちょうど真ん中あたりで、三つのコースは一度合流し、薔薇のアーチへと向かえるようになっている。最初は長いコースだけにたどり着けるようにしていたのだが、要望が高くコースを少し変更したらしい。
 カップルに人気が高いらしいが、ロマンティックな気分を楽しみたい家族連れにも人気だ。
 皆で一緒にまわるか、別行動でするかは後で決めることにし、まずは疑問に思うことを先に解決することにする。
 水無月の持ってきた書類を広げ、各自何枚か手に取り読む。
「あ、女性ばかりなんですね」
 アゲハが書類を見て、気付いたのを素直にいう。
「ここに来る前にネットで調べたら、来園者の方数名のブログに書いてありました」
 みなもが同意し、アゲハと書類を交換する。
「まわっているコースも違うし、起こっている日にちや時間帯も違うな」
 読み進めている啓斗はボソリと呟く。
「現象が起き始めたのはここ一週間なのですね、その前はないみたいです」
「水無月さん、薔薇園内で急に枯れたり、元気になったりした薔薇などはありますか。倒れた人がでた日にち辺りで。あとは、使われている土や、肥料などは何処から仕入れておられます?」
 ペンとメモを取り出し、シュラインは水無月を見る。
「全体的に、薔薇は今の時期は元気がないんですが、目に見えて元気になったのはないですね。ただ、暑さにまけているのか、その現象でおかしくなっているのかはわかりませんが、アーチ周辺の薔薇の状態はあまり良くないです。肥料は多めに与えたとしても、吸収する量は決まっていますし、適宜様子をみる程度です。肥料は業者にお願いして、週に一度入れて貰ってますが、開園当初から肥料の種類も業者も変わってません」
「そうですか、この周辺は広くて日の当たりもいいからかしらね」
「いや、この倒れた人達が皆、このアーチをまわってるから、何かあるかも知れない」
 女性だと思っている啓斗の声を聞き、低い声だと思ったのか水無月が目を向ける。
「あ、本当です。この人もアーチのところ通ってます」
 みなもが、書類に書かれているのを見、アゲハも覗き込む。
「最終地点はアーチのところにして、一度コースまわりましょう」
「ちょっと待て、コースは三つあるから、一度で済むように三つに別れよう。俺とシュライン、アゲハとみなも、啓斗でまわろう。何かあれば、携帯に電話するより、まずは叫べ。同じ敷地内で、外に居るんだから良く聞こえる筈だ」
 啓斗が一人なのは、戦闘能力が秀でているからだ。
 草間が麦茶を飲み干し、テーブルに置くと立ち上がり、腕時計を見る。
「長いコースで大体四十分ほどか………啓斗、任せた」
「この中だと、まぁ、俺が妥当だな。長めのコースをまわった人達の道順を同じようにまわって来る」
 他のコースに比べて時間が掛かるために啓斗は先に向かう。


 シュライン達も向かうために立ち上がり、啓斗が辿り着く時間までにはアーチのところには居ましょうと時間を互いに確認した。
「水無月さん、水無月さん自身にはなにか遭遇した出来事はありませんでしたか? 個人的なことであると思うのですけれども」
 みなもが申し訳なさそうにして、背の高い水無月を見上げていう。
「私個人ですか。そういうのはお気になさらずに、解決の糸口になればいいと思いますから。最近というわけではないのですが、一ヶ月程前に、被害届を出しました。ストーカーをされていたんで。お恥ずかしいのですが、自分ではどうにも出来なくて、警察に被害届を出して、注意をして頂きました。それからはそういった事はないのですが、ただ、この女性が薔薇園の向かいにある三件の内の一件に勤める店員さんで最近見かけないんですよ。流石にどうしたのか聞きにくいですし」
「それ以外はなにもないのですね。良かったです」
 ほっとした風にいうみなもに、水無月は笑みを浮かべ、何かあれば呼んで下さいと言い残し事務所へと去っていく。
 隣で聞いていたアゲハは、
「そのひと、本当に諦めたのでしょうか。コースをまわる前に、一度喫茶店へ顔を出そうと思うのです」
 シュラインと草間は散策コースへ行ったらしく、一番短いコースをまわることになっているのはアゲハとみなもだ。
 時間的には余裕があるだろう。
「気になることは確かめておいた方がいいと思います、一緒にいきましょう」
 みなもの返事を聞き、二人は喫茶店へと向かった。



+3abcd+

 啓斗はパンフレット片手に、メルヘンな風景に一役買っている赤煉瓦の道を足早にまわっていたが、暑いだけで今のところはなにも発見はなかった。
 確かに、夏の間は花をつけている薔薇は少なく、葉だけの薔薇では幾分寂しさを漂わせている。
 植物はある程度の温度を超えると育ちが悪いのを思い出し、薔薇も同じなのだなと考える。
 薔薇は観賞用だが、啓斗が思い出したのは収穫野菜だ。
 優雅さからかけ離れているのは、日頃の食生活のせいだろう。
 途中、薔薇の世話をしているスタッフが居るのに気付き、仕事中悪いと思いつつ、声をかける。
「仕事中すいません、聞きたいことがあるのですが、いいですか」
 男性は顔を上げ、啓斗の方へ歩いてくる。
「ああ、今日は休園日だから構わないよ。君たちが調査してくれているんだね、よろしく頼むよ。俺は、皐月忍。聞きたいことって何かな」
「最近、薔薇園内で何か気付いたことってありますか? どんなことでもいいです」
 啓斗の質問に、皐月は確証がないのだが、と前置きして話し始めた。
 少し背が高いが、可愛い女の子だからと丁寧に説明をする。
 全く気付いて居ないようだ。
 聞き終わると礼をいい、啓斗は先ほどよりも早い速度で合流地点へ向かう。
 このペースだと、予定の時間より少し早くつきそうだった。


「もう少し早く歩いてちょうだい、武彦さん」
 周囲を確認しながら、日傘を差し歩くシュラインに、麦わら帽子を被った草間はうち上げられたアザラシのようにばてた顔をし、ゆっくりと歩いている。
「啓斗が辿り着くまでにつけばいいんだ、問題ない」
 速く歩けばそれだけ早くつくのだが、その分汗をかくことを思うと、速度を上げる気にはならない草間だ。
「んもう、仕方ないわね」
 シュラインは、草間の背後にまわり、背中を押し始める。
「早めについて、調べようと思っているのよ」
「わかった、わかった。だから押すな」
 草間を急かせた甲斐があったのか、ようやく薔薇のアーチが見えた。


 喫茶店で、思いも寄らないことを聞いてきたアゲハとみなもの二人は、どきどきしつつ、コースをまわっていた。
 早く知らせた方が良いと思い、二人は日傘を差し、足早に歩いている。
「やはり先ほど聞いたお話に関係あるのでしょうか」
「私はある気がします。幸せな様子を見ていたら、悪い事をしてまわりに不幸を振りまこうとしていたんじゃないかと。そういうことをしても、何にもならないのに」
「あたし達ではまだわからないことなのかも知れないですけれど」
「私達が最初につくと思うんですけど、アーチには近寄らないようにしましょう」
「そうですね、そのほうが良いと思います。あとで皆さんが来るのを待っていましょう」
「あっ!」
「どうしました? アゲハさん」
 みなもが突然声をあげたのを不思議に思い、目を向ける。
「この倒れた人達って、みんな女性ですよね……それも多分男性と一緒で」
「あ……っ!」
 みなももアゲハの考えていることに気付いたのか、顔を見合わせる。
「急ぎましょう!」
 アゲハとみなもは二人ワンピースの裾を少し持ち上げ、走り出す。
 間に合うと良いのだけれど、と心の中で思いながら。



+4abcd+

 最初についたのはシュラインと草間のペアだった。
「ふう、最初について良かったわ」
 ハンカチで汗を拭き、シュラインは呟く。
 隣で、草間が麦わら帽子を脱ぎ、帽子を団扇代わりにして煽っている。
 まずは、アーチの周辺の様子を見ようと、薔薇の方へと足を進める。
 草間は、そんなシュラインについて歩き、持っていた鞄の中から麦茶を取りだし、そのまま口につける。
「武彦さん、そのまま飲まないでったら」
 少し大きめのペットボトルに入った麦茶を、コップに入れずにそのまま口をつけて飲む草間を注意する。
「俺とシュラインしか飲まなければいいだろう」
 素でいう草間に、思わず赤くなって振り向こうとしたシュラインは、不意に襲ってきた脱力感に座り込む。
「おい、シュライン大丈夫か!」
 草間は座り込んだシュラインを抱き寄せ、顔色を見る。
 真っ青な顔色に、草間も例の現象だと気付いたのか、周囲に目を走らせる。
「大丈夫よ。聖水を少し入れた小瓶をポケットに入れておいたから」
 草間の手をかりて立ち上がると、シュラインは草間が持っている鞄の中から聖水の入ったペットボトルを取り出す。
「何か聞こえるわ」
 シュラインは驚異的な聴覚で音を捕らえていた。後は場所を特定するだけだ。
「シュラインさーん!」
 アゲハとみなもだ。
 走ってきた二人は、大丈夫ですかと開口一番聞いてくる。
 シュラインの顔色が悪いのにすぐに気付いたアゲハは、心配そうに見る。
「間に合わなかったんですね」
「え?」
 みなもの言葉にシュラインは訳がわからずに、二人を見る。
「多分、この辺りに何かあると思うんです。水無月さんをストーカーしていた女性がこの薔薇園の前にある喫茶店で働いていたんですけど、一ヶ月前に亡くなっているんです」
「薔薇の下の告白って有名なおまじないがありますし、カップルや夫婦が訪れる機会多いとおもうんです。幸せな人を恨んでいて、少しでも不幸にしようと思って留まっているのかもしれません」
 最後に啓斗が辿り着いて、安心した表情を浮かべていった。
「良かった、何かあったのかと……って、あったのか?」
「はい。でも、原因がわかりそうです」
「啓斗さんも何かわかったことありました?」
「あぁ、一ヶ月くらい前に侵入者があった形跡があるんだが、何も変わってなかったし、薔薇にも影響がなかったから、気のせいだと思っていたらしい」
 啓斗の言葉に、シュラインは頷いた。
「やっぱり、さっきの音は合ってるのね。何かあると思うの。アーチの下あたりから音が聞こえたのよ」
 五対の目が薔薇のアーチの下へと視線が集まった。



+ending+

 赤煉瓦を外しているのは啓斗と草間だ。
 女性が被害にあっているために、いつまた反応するかわからないためだ。
 シュライン、みなも、アゲハの三人は少し離れたところで様子を見ている。
 煉瓦を外し、地面に埋め込まれていたのはビニールに包まれた四角い形のもの。
 草間が啓斗から受け取り、ビニールを外す。
 現れたのは携帯電話だ。
 先ほどシュラインが聞いた音は、携帯電話の呼び出し音だったのだ。
 しかし、既にバッテリーは切れ、電源は入らない。
 一ヶ月ほど前に侵入し、埋めたのだから、バッテリーは切れているのだ。
 こもっているのは女性の怨念か。
「山根麻理さん、相手を不幸にする思いは違うと思うのです」
 携帯電話を見、話しかける様にアゲハは優しくいう。
「関係のない人達にも迷惑をかけるのは、相手を思いやることの出来ないひとです」
 いつも人を思いやる優しさをもって接しているみなもとアゲハにとって、相手に押しつけるようにして、見知らぬひとに被害を及ぼすことは理解し難いことだ。
「このまま留まることなく、成仏してくれ」
 啓斗が、片手をあげ拝む。
「あの世で安らかに眠って下さい」
 草間が持つ携帯に、シュラインが聖水をかける。
 一瞬、携帯電話に電源が入りディスプレイが点滅し、微かに震える。
 そして、すぐにディスプレイは黒くなり、電源は落ちた。
 相手に気付かれないまま、恨みに思う思いは何処へと向かうのだろう。
 何処かやりきれない思いを胸に、水無月に報告した。


 暑い中の調査を終えると、皆そのまま草間興信所へと移動した。
 みなもが作ってきたおにぎりをみんなでわけ、冷たい麦茶と一緒に食べる。
 梅干し、鮭、昆布の三種類だ。
 食べやすいように包まれたおにぎりを片手に、互いが通った薔薇園のコースのことを話しているうちに、草間の耳が微かに赤くなったのに気付いたのは、草間以外の全員だった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【受注順】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】
【3806/久良木・アゲハ/女性/16歳/高校生】
【0554/守崎・啓斗/男性/17歳/高校生(忍)】

【公式NPC】
【NPC/草間・武彦】

【NPC】
【水無月晃司/男性/27歳/薔薇園経営/依頼人】
【皐月忍/男性/26歳/薔薇園従業員/水無月の後輩】
【山根麻理/女性/23歳/元喫茶店店員】

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■         ライター通信          ■
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初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。

皆様暑い中、薔薇園の調査ありがとう御座いました。
文章は皆様共通になっています。
今回草間さん以外、姿は皆様女性でいらしたので、狙われる可能性があったのですが、NPCの山根麻理が23歳という設定上、近い年齢のシュライン様が標的になりました。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。

>海原みなも様
再びのご参加ありがとう御座いました。
おにぎりのご用意して頂きありがとう御座います、水分補給だけでなく、塩分も必要でしたので。
お気に召したら、幸いです。