コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


お約束満載の5つのリング


 ランプのほのかな明かりに照らされたアンティークショップ・レンは久しぶりに普通の客が店を賑わせている。どこにあるかもわからないこの店に彼らを導いたのは、鑑定に出そうとして用意していたいわく付きのアイテムであった。店主の碧摩 蓮はそれを明かりにかざしたり眼鏡で見たりして、いつもよりも念入りに調べている。というのも、これを持ってきた連中が物を見せる前によくわからない話をしたからだ。

 今回の客は昔から映画やテレビ、舞台演劇などに用いる小道具を専門に扱うスタジオの面々である。別にこの会社、経営が悪化したから固定資本となるものを少しでも売って返済の足しにしようとこの店にやってきたわけではない。実は最近、ある将来有望な社員が交通事故で亡くなったそうで、蓮に見てもらっているのは会社のロッカーの奥に眠っていたものだそうだ。彼女がおもむろに遺品の入った布を開くと、その中には光沢のある5つの指輪があった。一見すると実に子どもが喜びそうな色が揃っており、全体が山羊をモチーフにしたデザインになっている。それを見た蓮は『ムムッ?』とそれをにらみつけ、そのうちのひとつを手に取った。するとそれに反応してか、スタッフが堰を切ったように次々と喋り始める。

 「じ、実はですね。彼はとても戦隊ものが好きでして……彼にはそういうアイテムなどを専門に作ってもらってたんです。」
 「仕事に来るとはいつもテレビの話を楽しそうにする人でした。これを見つけるのが遅れたのは本当に残念でした。もう葬儀も終わってますので、これは墓に添えてやろうかと思ってるんです。」
 「でも悪い言い方をするとですね……これは彼らしくない造型なんです。もしかしたらどこかで購入したものかも知れないので、こうして鑑定をお願いしておる次第です。」

 蓮はそれを聞きながら真剣な眼差しで指輪を見ていたが、数をこなしていくうちに作業が目に見えて雑になった。しかもだんだんと顔の表情がだらしなくなっていくのだからたまらない。真剣な思いを胸に秘め、すがる思いでここにやってきたスタッフは口を揃えて文句を言おうとしたが、突然の彼女の笑い声にそれを阻まれた。

 「ははははは! 間違いないねぇ。これはあんたたちのいう男の作ったもんさ。責任を持って言えるよ。」
 「こ、これがですか。へぇ〜、全然イメージにないです……」
 「おっと、それを気安くはめるんじゃないよ。とんでもないことが起きるから。」

 スタッフが感慨深げに遺品を持とうとしたところで、蓮はご丁寧に忠告を発した。スタッフがおもむろに伸ばした手が止まり、一瞬だけビクッと震える。女性スタッフは蓮に詳しい説明を求めた。だが彼女は今までとは打って変わってまるっきり緊張感のない表情を浮かべ、視線を天井に向けながら話し始めるではないか。

 「この指輪は作った本人の妄想が憑いている。『残留思念がある』と言うよりも『呪いがかかっている』と言った方が正確だね。その呪いの内容は……そのぉ、えーっとだねぇ。」
 「ぼやかさないで、はっきり言って下さいよ!」
 「落ちつきなよ。説明しないとは言ってないんだから。まぁなぜかはわからないけど、この指輪は記録されることを望んでいるようなんだ。だが指輪をつけた者は呪われてしまい、記録が終わるまで決して外せなくなる。指輪をした本人は任意で瞬時にその色に合わせた珍妙な衣装に着替えることができ、そして身体的能力も格段に上昇する。つまりは普段は決してできない動作も容易にこなすことができるようになるってことなのかねぇ……意味がわかんないよ、まったく。」
 「それって……彼はまさか、我々に山羊をモチーフにしたヒーロー番組を撮れと遺言したようなものなのでしょうか?」
 「その辺はよくわからないけど、呪いを解いてこれを墓に添えたいのならそうするしかないようだねぇ。それとも何かい、あんたたちは大事に持ってきた遺品をこのまま売っぱらうか、その辺に捨てるかするつもりなのかい? あたしはそっちの返事が聞きたいねぇ。」

 蓮の意地悪な言葉と笑みがスタッフを渋い顔にさせた。しかし逆にその言葉に刺激されたのか、彼らはだんだんやる気になってきたらしい。各人が普段から持ち歩いているメモ帳を取り出し、さまざまな内容の打ち合わせを始めた。指輪の呪いが具体的に何を欲しているかはわからない。でもなんとかそれを形にしたい……スタッフたちは故人のために心を繋いだ。右手に持ったペンは立ち止まったり走ったりと、とても忙しそうである。それを端で見ていた蓮がひとつだけアドバイスと手助けを申し出た。

 「この指輪は冗談でも呪いがかかってる。その辺の人間がつけたらどうなるかわからない。そういうのに免疫のありそうな連中をあたしが見つけて提供してあげようかねぇ。あたしは別に鑑定料だけでいいけど、連中にはちゃんと駄賃くらい渡すんだよ?」
 「助かります。なんとか作品を作って指輪の呪いを解いて墓前に備えます!」
 「うんうん。」

 納得の返事を客から引き出し、ずいぶんとご満悦の蓮。遅れをとってはならないと、彼女も近くにあった洒落た電話の受話器を取って番号を回し始めた。彼女の目的はもちろん役者探しである。


 役者は揃った。同じ頃、スタッフが呼んだ脚本家や演出家、カメラマンなど制作サイドの人間も蓮の店に集合していた。そして本人たちが希望する色の指輪を持ってもらい、メガホンを振ることになった監督が全員に向けて挨拶を始める。

 「あー、今回はどうもご面倒をおかけしまして。皆さんにはすでに指輪が渡っていると思いますので、この後は助監督から物語の筋や撮影の流れに関して打ち合わせをしていこうと思い……」
 「すまん、話の腰を見事に折って悪い。テラレッド役の不動 修羅だ。俺の用意した山羊のぬいぐるみの中に例のスタッフを降霊してある。今までの話を聞いてもなかなか夢のある奴なんで、俺は『夢やん』と呼ぶことにした。くれぐれも最後の『ん』を省略しないようにな。」
 「まだ四拾九日も終わってないのに彼を呼び出したんですか。ある意味でかわいそうですね。」
 「でも本人が満足しないことには、この指輪の呪いは解けない。この手の霊はお茶を濁すようなことをすると、ますます現世に執着を持つ可能性が高い。あんまり邪険に扱うと指輪を装備する俺たちが、それこそ永遠のヒーローになりかねないんだ。実際に番組作ってるんだから、手を抜くことばかりを考えるなよ。ちゃんと『夢やん』から話を聞いておけ。」

 修羅は同僚だった女性に、そして彼女は脚本家にぬいぐるみを渡した。撮影当日になるまでさまざまな打ち合わせがあるはずだ。一仕事終えて肩の力を抜いた修羅はふと美しい風貌を持つ眼鏡の男性に目をやった。彼の名は宇奈月 慎一郎。実は彼が現れるまでに指輪の数と同じ5人の役者が集まっていた。しかし彼がふらりと現れると、会社の事務所から飛んできたスタッフが店内に入って叫んだのだ。『指輪が、指輪がもうひとつありました!』と。宇奈月はやわらかな笑顔を浮かべながら、6つ目の純白のリングを手にした。「僕の目指していたものはこれだよ」と微笑む彼の真の目的はいったい何なのだろうか?
 監督はリングを手にした6人の男女に対して、撮影に関する注意事項をいくつか伝える。まず全員がテレビ撮影に関して素人なので、カメラワークは気にせず精一杯演技をしてほしいと言った。常に何台かのカメラを使って映像を撮っていくので、編集スタッフがその後の作業で形だけでも番組として成立させる努力をするらしい。要は役になりきってくれれば後は何とかしてもらえるということだ。もちろん脚本の用意はするが、その内容は大まかな設定と話の流れだけにとどめ、後は出演する方々のノリに任せたいと監督は話す。その意向を聞いて『夢やん』からいろいろな話を聞いている修羅は、頭の中でレッドとしての演技をどうするか真剣に考え始めていた。
 ところが、というかやっぱりというか……集まった人間はみんな戦隊ヒーローものが大好きらしく、いちいち脚本家や演出家をつかまえては「こういう設定はいけるのか」と自分の希望や要望をなんとか実現させようと必死になっていた。どなた様もやる気満々らしい。武術で鍛えてそうな偉丈夫がいるかと思えば、ホストのように着飾った長身の男性もいる。果ては小さなお子様まで……果たしてどんな作品になるのやら。誰もがこの情景を見て一抹の不安を覚えたに違いない。


 そして一ヶ月後。ついに番組は完成した。それまでずっと指輪を外せなかった出演者たちはもちろん、番組作りに尽力したスタッフたちも貸し切りのシアターに集まって今か今かと上映の時を待つ。これで指輪が外れなかったらもう一度、いや何度でも作品を撮り直す羽目になる。一発オッケーをもらうためにも、彼が憑いているぬいぐるみを最前列に置き、番組の出来映えをじっくり見てもらうことにした。
 周囲の照明がゆっくりと落ち、だんだんと会場は暗くなっていく。いよいよ架空のテレビ番組『山羊戦隊テラレンジャー』が始まるのだ。誰からともなく「いよっ!」という声とともに拍手が鳴り響いた。会場の雰囲気はそれだけで少し暖まる。そしていよいよオープニングのワンシーンが映し出された。


 ネオン街に闇はこない。カラフルな電飾に照らされたホストクラブ『音葉』の玄関で、相生 葵はフロイラインの帰りを見送っていた。指には髪と同じ緑色の指輪が光っている。今日も彼女たちに「なんでそんなものをしてるんですか?」と聞かれた。山羊の紋章の入ったその指輪は、きっとまだ若い葵には不釣合いなものに見えたのだろう。しかし彼は小さく笑うと「大切なものなんだよ」とだけ答えた。そう、それは本当に大切なものだった。誰かを守るために必要な。
 彼女たちはずっと葵に手を振っている。もうすぐ角を折れ、フロイラインは彼の視界から消えようとした。ずいぶんと酔っているせいか、暗い所へ向かっているのに気づいていないらしい。彼女らの行動を嘲笑うかのように、何者かが鈍い光を放つものを突き出して背後に迫る!

 「クキーーーッ、クキクキーーーッ!」
 「き、きゃああーーーーーーーっ!」

 奇声を発する謎の存在に恐怖を覚え、思わず悲鳴を上げる女性たち。相手が持っているのはまるでペーパーナイフのようなもので、刀身は常に凶々しく揺らめいている。黒装束に身を包んだ彼がそれを振るわんとしたその時、いつの間にかその場に葵が立っていた! 彼の手は男の腕をしっかりとつかんでいる。

 「グギッ?!」
 「早く逃げなよ、フロイライン。今、怖かった分はまた僕が癒してあげるから。」
 「あ、葵さんは?!」
 「僕のこと気にしてくれてるんだ。嬉しいよ。でも大丈夫、ここは僕に任せて。」

 彼の言葉ですっかり酔いが覚めたフロイラインは駆け足でその場を去っていく。それを見送った後で、葵は手に力を込めた。その華奢な身体からは想像できないほどの力が怪しい人物の身体に伝わっていく。

 「お店での思い出をこんな物騒なもので断ち切ろうなんて……キミは本当にいけないね。お仕置きが必要だ。」
 「グギィィ……ブギャアアアーーーーーッ!」

 つかんだ腕を無理やり自分の方へ引きこむと、軽くジャンプして敵の胸元に強烈なキックを浴びせる! 葵の動きは俊敏かつ正確なものだった。不審者の正体を彼は知っていた。相手は無力な人々の暖かな思いを断ち切ることでエネルギーを集める悪の組織『カリトリアン』の構成員であることを。そして敵の悲鳴を合図に大勢の仲間が大挙することも……敵が倒れこむか否かのタイミングで、暗い路地に無数のザコが葵を取り囲む!

 「キミたちがいくら束になっても僕には勝てないよ。僕はいつも光合成して力を蓄えてるから。でもこのままじゃやりにくいからね……変身させてもらおうかな。オーダーメイドチェンジ、テラグリーン!」
 「クキッ、クキクキ!」「クキッ、クキクキ!」「クキッ、クキクキ!」

 葵が流れるような動作で右手に装着した指輪に人差し指を置くと、瞬時に緑色のスーツが全身を包み込む! その端正な顔にはマスクが装着され、額に輝く金色の山羊を指差すと南海の澄んだ水のような通る声で名乗った!

 「正義の光を創り出し、その身に力を漲らす! 光合成の山羊、テラグリーン! 出でよ、テラシューター!」

 葵ことテラグリーンは瞬時に銃を召喚したかと思うと、断りもなしにそれを敵に向けて続けざまに撃つ! すると鋭い光のシャワーが噴射され、圧倒的なパワーで敵を一度に吹き飛ばした! いきなり包囲網の一角を崩されたザコは大いに動揺する。もちろんグリーンは容赦しない。銃を巧みに操って、そのまま敵を全滅させる勢いでどんどん倒していく。
 ところが今日は何かが違った。やたらとザコの数が多い。目映いばかりに光っていたグリーンのスーツは、戦いが長期化するのと比例して徐々に光を失いつつあった。テラシューターの威力も最初の頃と比べてそれほど強くはない。実は彼が言っていたことは本当で、ある程度の力を発揮するには光合成をする必要があるのだ。本来なら太陽光の元で戦うのがベストである。しかし今は夜。相生 葵として生活している時間帯にこれほど多くのザコに襲われることなど想像していなかったのだ。まるですべてが計算された策略のようである。テラグリーンは無数に現れるザコの背後に見え隠れするボスの存在を心の隅で気にかけていた。
 グリーンが劣勢に陥ったその時、ザコが一斉に飛びかかってきた……かと思ったら、そのまま倒れこんでしまった。連中はガタイのいい青年のパンチ一発で吹き飛ばされたのだ! ザコが一歩ずつ後ずさる中、彼は悠然と輪の中に入る。そして両手を腰に当て、武道の構えのように前へ突き出し、変身ポーズをとった!

 「彼瀬 蔵人、見参! 葵さんを襲うためだけにこれだけのザコを出すとは……解せませんね。とにかくこの場は僕も手伝いましょう。ふんっ! オーダーメイドチェンジ、テライエロー!」

 指輪から黄色いオーラが発せられると、その光は全身を包みもうひとりの戦士へと変貌させた!

 「稲妻怒涛の馬鹿力! 雷神蹴りは岩をも砕く! 剛健の山羊、テライエロー!」
 「ふぅ、イエローがくればこの場は安心だね。僕は今からキミのサポートに回るよ。」
 「普段からそういう役目じゃないですか。ところでなぜすぐに僕を呼ばなかったんですか? 街中がこんな状態だというのに……」
 「なんだって……それってまさかザコが捨て身の総攻撃を始めたってことなのかな。」
 「ふんっ、とうわぁっ! 早くここを片付けてしまわないと、他がピンチになってしまうかもしれません。まずはあなたの職場を守りましょう!」
 「大人の夢も大事だからね〜ってさ。そうは言いながらも、ちぎっては投げちぎっては投げしてるキミが僕はとっても怖いよ。」

 イエローはグリーンに街の状況を伝えるために口を懸命に動かしていたが、同時に手足もしっかり動かしていた。迫り来る敵を一気に何人かずつ蹴り飛ばし、両手で敵を数人捕まえてそのままザコの大群に放り投げるという離れ業を披露する。その隙を突いて飛びかかってくる相手はグリーンのテラシューターの餌食になっていく。いつもの連携は健在だ。それでも他の戦士が戦っているという場所に移動するにはまだまだ時間がかかりそうである。もしかしたら敵幹部との決戦は近いのかもしれない。


 この様子を地面に設置された大きな水鏡で見ているふたりがいた。ひとりはボンテージ衣装に身を包み、ギザギザのついた金属ムチを操る女幹部『シュレイダー』。そしてもうひとりは眼鏡をかけた青年であった。ただ普通でないところを挙げるなら、彼は赤い目をした白山羊の指輪をしていることだろうか。ここはいずこかにあるとされる悪の組織『カリトリアン』の作戦本部だ。ほとんどのザコ兵は街に繰り出しており、中はもぬけの殻同然。しかし幹部のヒステリックな声はいつものように響き渡るのだった。

 「キーーーッ! またも、またもテラレンジャーにやられてしまう! 宇奈月 慎一郎……本当にこの作戦は思いつきなどではないのね?!」
 「だから今から僕が行くじゃないですか。今まであなたからおでんを頂いた恩に報いると言った。その言葉にウソはありません。」
 「ならばザコどもの足並みが乱れた今がチャンスよ! お前のその力でテラレンジャーをメロメロにしてしまいなさい!」
 「あなたが僕を捕まえて勝手にメロメロになったくせに。まぁいいでしょう、この頭の中にしっかりとした策があります。それを実行すれば、後は彼らの自滅を待つだけです……オーダーメイドチェンジ、テラホワイト。」

 上品な手つきで指輪に触れた宇奈月は真白き山羊の戦士へと変貌するが、なぜかその身には赤いラインが混じっていた。またグリーンやイエローにない上半身を覆う大きなゴートメイルにあの紋章が刻まれている。彼はいったい何者なのだろうか……ホワイトはそのまま水鏡の中へと静かに入った。今は高校生くらいの青年がふたり、背中合わせに立っている姿が映し出されている。


 高層ビル街の交差点のど真ん中……あの映像と同じようにふたりの青年が無数のザコに囲まれていた。ふたりは得意の体術で難を乗り切ろうとしたが、今回に限っては敵の数があまりにも多い。カリトリアンの出現を感知した指輪に導かれるまま街中へやってきたはいいが、今は敵に押されっぱなしだ。ふたりはとりあえず変身することを確認し合った。

 「刹利っ、施祇 刹利! こうなったらテラレンジャーに変身だ!」
 「でもさぁ……修羅、こんなザコなんてロボ使ったら一発で蹴散らせ」
 「だからいちいちアスガルダーに固執するなよ! これくらいだったら俺たちだけでもいける! オーダーメイドチェンジ、テラレッド!」
 「だーかーらー、ボクの専門はロボの操作だってば! オーダーメイドチェンジ、テラブラック!」

 修羅は手を組み、刹利は腕を交差させる瞬間に必要な動作を行い、同時にテラレンジャーへと変身した! ただそれを見ても周囲のザコはまったく驚く気配なし。実はこの時すでにテラホワイトの策謀は動き始めていたのだ。邪悪なテレパシーが彼らを強気にさせる……そんなことも知らずにふたりはいつものポーズを決めた。

 「人々の夢を守る使命を帯びて、燃える魂が呼応する! 熱血の山羊、テラレッド!」
 「山羊聖神のパイロット! 暴悪な敵を闇へと還す! 機械の山羊、テラブラック!」
 「クキッ、クキクキ! クキッ、クキクキ! クキッ、クキクキ!」
 「出でよ、テラセイバー! ザコはどれだけいてもザコなんだよ! とぉりゃあああーーーっ!」

 勢いよく敵陣に飛びこんだレッドはばったばったと敵を薙ぎ倒していく。若さと勢いに任せた戦い方ではあるが、戦士として今まで幾度となく戦ってきた実績がある。それなりによく動き、ザコの包囲網を少しずつ崩していく。口上で『巨大ロボのパイロット』と名乗ったブラックも『テラランサー』を巧みに操って周囲に敵を寄せつけない。どちらも負けず劣らずの戦い振りをしていた。
 だが、ふたりの力を凌駕する戦士が風のように現れる。彼は空中から白熱一閃の必殺技『ホワイトスライダー』でテラレンジャーの逃げ道を作り出すほどの力を持っていた! さすがのレッドもブラックも、そしてザコもそちらに視線を向ける。ゴートメイルを身にまとったテラホワイトの登場に、ふたりは驚きを隠さない。

 「6人目の……テラレンジャー!」
 「そういうことになるかな。僕の名はテラホワイト。純白のスーツに力を秘めた最強の戦士だ。ブラック、今の一撃で敵の一角を崩した。この場はレッドと僕に任せて、君はアスガルダーの召喚準備に入るんだ。」
 「ああ、じゃあここはキミに任せるよ。修羅、待ってろよ。こいつらまとめて踏み潰してやる!」
 「おいちょっと待てよ。お前は俺にこんな得体の知れないのと一緒に戦えっていうのか?」
 「ほらほら修羅くん、よそ見してるとザコにやられちゃうぞ。そうなれば刹利くんの努力も無駄になる。」
 「そうだな……じゃあ行くぜ! あんたもそのサーベルで敵を倒してくれ!」

 レッドの言葉を聞いたザコどもは急に元気になって襲いかかってきた。さすがのレッドもこの変化には首を傾げる。しょせんはザコはザコ。倒すには苦労しないが、なぜこのタイミングで勢いづいたのかがわからない。普通ならテラホワイトの必殺技を見た時点で腰を抜かし、武器を捨てて我先に逃げても全然おかしくないのに……迫り来る敵に集中しながらもレッドはどこか腑に落ちないなと思っていた。不幸にもその悩みが彼の視野を思ったよりも狭くしていた。実はすでにテラホワイトはその場から消え、そして彼が切り崩したはずの包囲網は元通りになっていたのだ! 悩みながら戦うレッドは知らぬ間に苦境に立たされた。ゆっくりと白い戦士の黒い策謀が動き出す……


 なんとか人気のない空き地にまで避難したブラックはどこからともなく小さなロボを取り出した。これがブラックの力で召喚された山羊聖神がロボに宿り、『山羊聖神アスガルダー』になるのだ。彼は地面にそれを大事そうに置き、戦いの喧騒が響く街の中で静かに瞑想を始める……しかし、それを止めるべく直線と曲線の攻撃が同時にブラックの胸を貫いたのだ!

  ガギィィン! ジュワァァン!!
 「うわあぁぁぁぁーーーーーっ! こっ、これは、い、いったい!」
 「ごきげんよう、テラブラック。あたしよ、あたし。シュレイダーよ。そして彼が最強の助っ人・テラホワイト。」
 「な、なんだって……じゃあさっきボクを救ったというのは、あれはウソだったのか?!」

 テラサーベルとデンジャラスウィップの一撃を受け、大きく後ろによろめくブラック。どうやらまんまと罠にハマってしまったようだ。ホワイトは騙したことを気にすることなく、ただ自慢げに自分の策を片膝を落として傷を押えるブラックに対して披露した。

 「さしものテラレンジャーでも、巨大で強大な敵には太刀打ちできない。だからまず刹利クンを倒すことから考えたのさ。」
 「くっ……そ、そこまで計算していたのか! でもボクは負けない!」
 「あんたがテラレンジャーの中で一番弱いのはわかってるんだよ! 2対1で勝てると思ってるのかい!」

 ブラックは再びテラランサーを構えなおすが、ザコを圧倒的な力で吹き飛ばしたホワイトの必殺技には勝てる気がしない。やはり5人が、いやせめて召喚までにもうひとり必要だと判断した。だが今までの状況を考えると、そう都合よくことが運ぶとは思えない。逆にレッドと同じように仲間たちも苦戦している可能性が高い。刹利は分の悪い戦いに苦笑した。ところが彼の元にスゴい早さで駆けこんでくる少女がいた。その姿はまるで餌に向かって飛んでくる小動物そのものだ。そして間に割って入ると、和服姿の少女は勝手に口を開き始めた。

 「おーおー、わしの知らぬところでテラレンジャーが戦っては困るのじゃ!」
 「げ! まだ本郷 源が出てきてなかったの! 宇奈月、これは……」
 「う〜〜〜ん、マズいですねぇ。これはまったくの想定外です。よい子だからおうちで寝てたのかも知れませんね。」
 「刹利殿もリーダーのわしを差し置いて何をしておるか! わしもすぐさま変身じゃ! オーダーメイドチェンジ、テラパープル!」

 他の4人とは明らかにサイズは違うが、全身にしっかりスーツを装着した源はびしっとポーズを決める!

 「小さな身体に大きな願い! 紫紺の神秘の数々、とくと見よ! 奇跡の山羊、テラパープル!」
 「そろそろ他の場所に放っているザコも全員倒されてしまうわ……宇奈月、パープルからやっておしまい! あれが動くと何かが起こる!」
 「仕方ないですねぇ。じゃあさっそくホワイトスライダーで……とぉわぁっ!!」

 ところがパープルは完全にブラックに密着しており、何かを手にしてそれを頭にかぶせようと必死になっている。さすがのホワイトもこのままふたりまとめて倒していいものか一瞬だけ悩んだが、シュレイダーにご馳走してもらったおでんの恩に報いるには絶好のチャンスだ。そのまま必殺技を繰り出そうと、無駄のない動きで白熱一閃! ところが彼と同じタイミングでブラックがパープルを払い落としてしまった。必殺技の狙いが刹利の頭か源の身体かに分かれたが、もはやホワイトに選択の余地はない。そのままブラックを退治しようと必殺技を見舞う!

 「山羊聖神の最期だ! 白熱一閃・ホワイトスライダー!!」
  ガツッッ……………ン!
 「な、なんだ! 僕の最高の必殺技が止められた!」
 「みっ、見えない……源ちゃん、毎回ミスリルのアフロかぶせるのやめてよ〜!」
 「でも安全第一になってるのじゃ! 刹利はアフロで命拾いしたんじゃから、わしに後でお駄賃じゃ!」

 まさかパープルのいたずらそのものが自分自身の命を救ったとは、ブラックも予想だにしなかっただろう。彼が不恰好にかぶっているのはミスリル製のアフロだ。魔力を秘めた奇妙なヅラから轟く金属音はホワイトの心にも衝撃を与える。

 「偶然、なのか。それとも戦隊だからこその連係なのか……?」
 「シュレイダー、隙ありっ!!」
 「お待たせ、御両人。」

 その音を合図にテラレンジャーが次々と現れる! テライエローが両手両足に装着する専用武器『テラスパイク』を利用した攻撃をしたかと思えば、光のエネルギーを残したままなんとか戦い抜いたテラグリーンの射撃が襲いかかった! しかしさすがは幹部・シュレイダー。ザコの武器と同じく妖しいオーラを放つデンジャラスウィップでそれらを難なく阻止する。ところが最後に待ち構えていたのはテラレッドの必殺技だった! さすがの彼女もこれには血相を変える。

 「熱血必殺・テラブレイク!」
 「うおおおぉぉぉっ、舐めるのもいい加減におし! しゃあぁぁぁーーーーーっ!!」
  ババババババババン!!
 「わあぁぁぁーーーっ! な、なんだと、俺の必殺技が効かな……」
 『ウゴオオオォォォ! ゴオオオォォォ……ウガアァァァ!』

 テラレンジャーの連続攻撃を防ぎ切るため、シュレイダーは本来の姿である妖魔の姿へと変貌していた。彼女は自分の背後に忍び寄る『敗北』の二文字を恐れるがあまり、とっさにこの形態へと移行してしまったのだ。それを証拠に、彼女はほとんどの理性を失っている状態だった。もはや怪物と呼んでも違和感はまったくない。

 「シュレイダーが僕に断りなく力の封印を解いた……なぜ、なぜ妖魔形態になったの。いつも僕に話していたこと、全部ウソだったのかい?」

 テラホワイトは変わり果てた姿になった彼女に話しかける。『お前と同じ名を冠するテラレンジャーの連係を崩すことは赤子の手を捻るようなものだ』とシュレイダーは常日頃から言っていた。しかし目の前で起こっている状況はそれとはまったくの正反対である。宇奈月の疑問はいくつもいくつも湧き水のように心の中であふれるが、シュレイダーにそれを止めることはできない……誰も気づかないわずかな変化ではあったが、テラホワイトの血のように赤いラインは徐々に澄んだ色になりつつあった。
 彼は意を決した。息を荒くしながらわずかに吠える彼女の元をゆっくりと去ると、圧倒的な力の前に倒れたテラレッドの武器に自らのサーベルを接続するではないか!

 「お、お前、何のつもりだ!」
 「ひとつ聞かせてくれないか。修羅クンはなぜここにやってきた? 苦難があることは明白だ。罠だと気づいていたはずだ。なのにテラレンジャーは意見を違えることなく、また示し合わせることなく揃った。なぜだ?」
 「人を……夢を守るためだよ。それに刹利が罠にハメられて黙って引き下がれるかよ。人を助けるのに小難しい理由なんかいらねぇ。俺はこの世界を守るために戦うんだ! ただ! それだけだ!!」
 「そうやって僕たちは戦ってきた。いや、僕の場合は蹴り飛ばしてばっかりだったけどね。」
 「揺るぎない力とは、決して切ることのできない結束にあるのかもしれない……ならば今、ここで僕に見せてくれ。テラレッドがシュレイダーを倒すその瞬間を。」

 灼熱の赤・テラセイバーと神聖の白・テラサーベルの力が交わったことで、レッドの周囲にはすさまじいパワーが発揮される! その間、パープルが『テラロッド』で魔力の球を作り出し、それをグリーンが得意の射撃で軌道を合わせ、イエローが妖魔に向かってシュートを決めようと高くジャンプ! 決めるのは今だと言わんばかりの状況でテラレッドもシュレイダーに向かって突進し、そのまま紅白のオーラを帯びた武器を振りかざした!

 「食らえ! テラブラッシュ!!」
 「おまけだ! テラシュートストライク!!」
 『オゴゴゴゴ……オゴッ、オゴゴ、オゴオォォォォーーーーーーーーーッ!!』

 レッドの合体武器は妖魔の身体を切り裂き、パープルからグリーン、そしてイエローが放った魔力の球は彼女を燃やし尽くす。怪物のような悲鳴をあげながら燃え盛るシュレイダー。だが、喜ぶのはまだ早かった。なぜか炎の中でその身を元通りにさせた彼女はそのまま巨大化を始め、せっかくの二大必殺技をかき消した! テラホワイトは荒れ狂う妖魔を見ながらテラレンジャーたちに言った。

 「あの呪法も元は僕が施したものだ。シュレイダーの命の灯火が消える時、理性を犠牲にして巨大化し世界を破壊し尽くす邪悪の権化になるようにね。」
 「なんてこった……おい、刹利! アスガルダーの準備はいいか!」
 「もちろんだ、もうロボにはボクの力が漲ってるさ!」
 「修羅クンは約束を果たした。僕もテラの名を持つ戦士として……戦わなければならないのかもしれないな。」
 「テラホワイト……」
 「黒き戦士の呼びかけに応じよ、山羊聖神アスガルダー!」

 刹利の持っていたマシンがみるみるうちにシュレイダーと同じように巨大化し、5人が操作する山羊聖神アスガルダーに変形した! 彼らは息を合わせてジャンプし、コクピットの中へと飛びこんでいく。その際、レッドはホワイトにテラサーベルを返した。

 「ありがとう。おかげで助かったよ。」
 「テラレンジャー、まだ……戦うのか。敵は強」
 「言うなよ、そんなこと。俺たちには関係ない。いつも勝つしかないんだからな。じゃあ、俺も行くぜ。」

 テラホワイトはその言葉を聞いてただ呆然と立ち尽くしていた。信念を曲げない者たちが集まった彼らが負けるはずはない。妙な確信が胸を揺らす。しかし自分の呪法は生半可なものではない。気持ちだけで勝てる相手ではないことは、誰よりも彼がよく知っていた。だからこそ、彼は迷いなく指輪に向かって叫んだ。「出でよ、エターナルボイジャー」と。


 山羊聖神と巨大妖魔の戦いが夜明け前の街中で始まった。エネルギー管理と操作を駆使する葵の指示を受けながら、攻撃や防御の指示を出すブラック。山羊聖神の力が宿ったロボを操るのは彼の任務である。さっそく攻撃担当のイエローに必殺の雷神蹴りを出すことを指示し、パープルにはその援護を任せた。蔵人は自らも放つ必殺の蹴りを敵の腕に命中させる!

 『ウボオオォォォ!』
 「いいぞいいぞ、腕に電撃が走って使いものにならないはずだ。次はっと……」
 「次はリーダーのこのわしがカラフルビームを発射するのじゃ! ポチッと!」
 「ああ、パープルは勝手なことしないで! シュレイダーの腕に電撃が残ってるうちはなんか心配だからビームはやめようと……」

  ピシャーーーッ!

 いくらブラックが講釈を垂れても、もう遅い。パープルは自信満々の笑みを浮かべながら胸のエンブレムから出るカラフルビームを撃った。ところが巨大妖魔の理性は死んでも、まだ戦闘センスは死んでいない。ダメージを覚悟でもう片方の腕に電撃を伝導させ、なんと自分の目の前に電撃を利用した即席のバリアーを作り出したのだ! 普通の怪獣ならとどめを刺してしまうほどの威力抜群なビームは、そのままの威力を保ったまま反射され発射口へと返ってきた!

 「うそじゃ! わしの計算違いじゃろうか……パチパチパチ。」
 「今さらそろばんで計算しても遅いって! みんな、何かにつかまれ!!」

  ズドガーーーン! ドガドガーーーン、ドシーーーーーーーン!

 真正面からレーザーを受けてしまったアスガルダーは迂闊にも仰向けに倒れこんでしまった! 巨大妖魔はその機を逃さず、山羊聖神に対してマウントポジションから殴る蹴るの暴行を加える。コクピットの中にも激しい火花が舞い散る。パープルが暴走したせいで一気に窮地に追いこまれたテラレンジャー。誰もがテラホワイトの言葉を心の中で繰り返していた。『敵は強大だ』と。

 「く、くそっ! ボクの操作を受け付けなくなってきた!」
 「くっ、エネルギーも四散していく……こっ、このままじゃ一撃で倒す力はなくなってしまう。」
 「諦めてはいけません! 今の状況に目を背けずがんばりましょう! 勝機は些細な変化から起こります! 今はそれに賭けましょう!」
 「うむ。テライエローはいいこと言ったのじゃ!」

 大きく揺れるコクピットの中で山羊聖神の目から送られる映像に目を凝らすテラレンジャー。すると、あれだけ暴れていた巨大妖魔が一瞬のけぞったではないか! 一気に体勢を戻し、アスファルトの大地に再び立つ山羊聖神。それと同時に、5人は目を見開いた。巨大妖魔の動きを止めたのは、山羊聖神に似たロボだったのだ!

 「あれは、アスガルダーそっくりのロボ……!」
 「山羊戦神エターナルボイジャー! テラホワイト、ここに参上!」
 『ウゴガァァァ! ウゴガアァァァァァ!!』
 「テラレンジャーの力と戦神が呼応している……新たなる力が生まれようとしている。行きますよ!」
 「目映いばかりの光があのロボから注がれてくる。すさまじいパワーだ。テラホワイト、今がチャンスです。」
 「超白神合体! 山羊聖帝アスガボイジャー!!」

 テラホワイトの命を受け、戦神はその身体をいくつかのパーツに分離。その部品はアスガルダーの部位に装着され、まったく新しい姿となって妖魔の前に現れた! その名も『山羊聖帝アスガボイジャー』だ。朝日が顔を出したことで、いよいよエネルギー全開で戦える。あふれんばかりのパワーを力に変え、新たにコクピットに乗りこんだテラホワイトの指示で一気に勝負をつけることとなった!

 「目の前のくぼみにそれぞれの武器をはめこみ、そこから力を込めて下さい! 行きますよ!!」
 「うおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!!!!」
 「ち、力がどんどん送りこまれておるのじゃ〜〜〜っ!!」
 「これ以上ないエネルギー反応です、早く攻撃しないとこっちが危ない……!」
 「テラグリーン、心配無用です。瞬時に恐ろしいまでのパワーを吐き出しますから。超必殺! ファイナルゴートフラッシュ!!」

 山羊戦神のパーツから前にいる敵に向けて煌きのエネルギーが発射される! その光を直視できる者はいない。それほどまでにこの必殺技はすさまじい力が凝縮されているのだ。攻撃を受けていた時よりも強い衝撃がブラックの、テラレンジャーの身体を揺るがす。今までにない力をコクピットで感じ、誰もが身震いしているのだろう。巨大妖魔はそのパワーを直接受けてしまい、何度も何度も小さな爆発を繰り返した。しかし最後には極大エネルギーに身体が持たず、そのまま光の中へと消え去ったのだ。戦いに勝ったのは、新たなる力を得た山羊聖帝アスガボイジャーであった。


 戦いは終わった。しかし、まだ悪の組織『カリトリアン』は滅びていない。きっと今に新たなる幹部を引き連れ、また街を襲うのだろう。ところがテラホワイトは一度に光と闇を見たせいで、何が正しいのかがわからなくなっていた。思考の軸が完全にブレてしまった彼の選んだ道は『自分探しの旅』だった。テラレッドである修羅はまた彼と会う約束をかわし、快く朝の街へと送り出した。
 するとパープルの源もテンガロンハットをかぶり、背中に小振りのギターを抱えて旅支度をしているではないか。これにはさすがのメンバーもツッコんだ。

 「キミキミ、まだ戦いは終わってないんだ。旅に出られても困るよ。」
 「ここは自分の居場所ではないと悟ったのじゃ。止めてくれるな、おっかさん。」
 「あのね、残りはみんな男だらけなの。とにかくキミに抜けられると困るんだ。」
 「源さんは確かにトラブルメーカーですけど、なんとか僕たちも今まで死なずに来れましたから。」
 「みんな心配してるだろ。な、わかっただろ。お前の場所はここだ。だが、リーダーは俺だがな。」
 「それが気に入らんのじゃ……それではさらばじゃ!!」
 「ああっ、逃げやがった!」
 「早く捕まえて! 5人いないと山羊聖神も呼び出せないんだから!」
 「いつものことながら、なんて足の早さだ!!」

 すたこらさっさと逃げてしまった源を追う4人。街をまぶしく照らす太陽に向かってテラレンジャーたちは走っていく。まだまだ世界を救う戦いは続く……


 上映会はここで終わった。修羅が何度もぬいぐるみに話しかけたが返事がない……どうやら不幸な社員は成仏したようだ。監督や脚本家を始め、キャストやスタッフは一緒になって拍手した。これで呪いのリングも外すことができる。合計で6つあったリングはそういうアイテムの扱いに心得のある蔵人が預かり、後でみんなで彼の墓前に供えることになっている。ただ引き受けた蔵人は『これを墓に供えても、またロッカーに戻ってたりとかしなけりゃいいんですけどねぇ』ともっともな不安を抱えており、困った顔をしながらしきりに頭を掻いていた。
 そんな中、監督から協力してくれたキャストにねぎらいの言葉をかける。テラレッドの修羅は見事に熱血青年を演じ、テラホワイトという難しい役に挑戦した宇奈月もまた素晴らしい演技を見せてくれた。またアクションではテラグリーンとテライエローの連係が冴え渡り、アクション監督がふたりを盛んに絶賛していた。ところがザコ役で出演したスタントマンからは蔵人が放った本気の蹴りがビルの一角を崩したのを生で見ているため、素直に拍手が贈れなかったらしい。このエピソードが彼の耳に入るのは後のことである。また演出では刹利が持つ異能の力のおかげで巨大ロボを再現することができたことが大きかったと、これまた惜しみない賛辞の言葉が方々から飛んだ。源が持ちこんだミスリルのアフロは本人の希望もあり半ば無理やり本編にねじ込んだのだが、逆にこれがテラパープルのキャラクターを決定付ける要素となったと脚本家からお褒めの言葉があった。テラグリーンを演じた葵が最初に出てくるホストクラブは実際に存在する上、本人が毎晩勤めているそうだ。周囲の雰囲気もよく、ロケーションとしては最高だったのでカメラマンもここでの撮影を許可したらしい。本人は店の宣伝もできて満足したようだった。

 墓参りが終わると、今度は打ち上げが始まる。まだまだ彼らの興奮は収まりそうにない。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

1072/相生・葵    /男性/22歳/ホスト
5307/施祇・刹利   /男性/18歳/過剰付与師
4321/彼瀬・蔵人   /男性/28歳/合気道家 死神
2592/不動・修羅   /男性/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師
2322/宇奈月・慎一郎 /男性/26歳/召喚師 最近ちょっと錬金術師
1108/本郷・源    /女性/ 6歳/オーナー 小学生 獣人

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

皆さんこんばんわ、市川 智彦です。納品までにお時間を頂き、本当に申し訳ありません。
今回は異界でもないのに特撮ネタで、しかも戦隊ものにチャレンジしてみました!
自分で書いてても結構目新しくって、かなり楽しんで書かせて頂きました。面白い!

刹利くんは通常依頼では初めましてですね〜。今回は補足にもなかった部分をチョイス!
自分で「戦隊もののネタをやる」って言った癖に、巨大ロボのこと忘れてました(笑)。
でも皆さんのプレイングに助けられました。テラブラック、今後とも操縦がんばって!

今回は本当にありがとうございました。これ、続編とかやった方がいいんですか?(笑)
また通常依頼やシチュノベ、特撮ヒーロー系やご近所異界などでお会いしましょう!