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お囃子チャンチキ、夏祭!
------<オープニング>--------------------------------------
八束ケミカル本社ビル屋上。
昼日中、梅雨明けの強烈な陽射しが照りつけるそこには、昼休みとて遊びに来る社員もおらず、全く人気がない。
小さな人工林の中にちんまりとたたずむ苔むした社(やしろ)は、木漏れ日を浴びて夏の風情をかもし出し――社の主である稲荷狐はと言うと、祭壇の前でぐったりと伸び切っていた。
「あづーい。しんどーい。……ヤル気出ぇへんわぁ」
なんとか人のかたちは保っているものの、耳も尻尾も出放題。そんな稲荷狐、椿(つばき)の鼻先に、白いたおやかな手が氷菓の乗ったガラス皿を置いた。くん、と鼻腔を動かし、椿は口元を緩める。刻んだ青柚子の皮の乗ったシャーベットからは、ほのかに日本酒の香がした。
「いただきま……」
顔一杯に喜色を浮かべ、直接皿に口をつけようとした椿の額を、たおやかな手が容赦なくはたく。
「何です、兄様。お行儀の悪い!」
言って、スプーンを差し出したのは八束・銀子(はちづか・ぎんこ)。和服の襟一つ乱さず膝を揃えて正座しているのが、だらしなく床に張り付いている椿とは対照的だ。
「夏は暑いものです。椿の兄様は、まがりなりにも八束稲荷の神体でしょう。少しはしゃんとなさいませ」
思わぬところからお小言が始まってしまった。シャーベットをスプーンで崩しながら、椿は肩を竦めた。暑いものは暑いのだと、反論しかけたが、火に油を注ぎそうなので思いとどまる。それよりは、話を逸らしたほうが穏便に済むだろう。
「そ、それより、今日は何の用や?」
「ああ、そうでしたわ」
言われて、銀子ははたと我に返った顔で居住まいを正した。
「今年の夏祭の日取りが決まったのでご報告に……」
「祭!」
ぴん、と椿の耳が立ち上がる。
「ええ。社員の福利厚生を兼ねて、屋上に縁日を……」
「縁日!!」
祭と縁日。椿の大好きな単語が二つ揃った。
「そら、やらな! どうせやったら、縁日王決定戦とかどうやろか!?」
だらけ切っていたのはどこへやら。瞳を輝かせて、椿は拳を握った。
以下、各方面に出された告知である。
『夏祭を開催します。
日時:2005年 8月 ×日 18:00〜
場所:八束ケミカル本社ビル屋上
内容:縁日です。
縁日王決定戦を同時開催します。
金魚掬い、お化け屋敷、型抜き、射的、クジ引きの五つが、対象競技となります。
カキ氷、タコ焼きなど飲食物の屋台も出ます。
浴衣特典あり:浴衣着用でいらした方には飲食費無料。
社員・関係者以外の参加者様も広く募集中。ふるって御参加ください』
------<祭の宵>------------------------------
夏祭当日。
黄昏のほの暗さに包まれた屋上には、冷たい夜風が吹き始めていた。
日暮れと共に一斉に灯った提灯の下、色とりどりの屋根やのぼりを掲げた屋台がずらりと並んだ様子は一種壮観だ。
まだ出入り口は解放されたばかりだが、早くも人口密度は上がってきている。告知しただけあって、浴衣率は高い。
ちゃりん、と鈴(りん)の音がして、それを合図に鎮守の森の中からお囃子が聞こえてきた。生演奏のようだが、それほどの人数が入れるほどの広さの森には見えないことを、深く追求してはいけない。
お祭り会場内のあちこちに設えられたスピーカーから、キーン、とマイクの接触の悪い嫌な音がして、ややあってアナウンスが流れた。
「縁日王決定戦のエントリーカード、鳥居の下で配布中ですー。参戦なさるお人は来てやー」
社の前で、マイクを握っているのは椿だ。鳥居の下に銀子が立って、集まってきた人々に葉書ほどの大きさのカードを配っている。
「わーいなのー! なんだかカッコイイのー!」
首から下げられるように紐のついたカードを、銀子に首にかけてもらって、小さな男の子が歓声を上げた。藤井・蘭(ふじい・らん)だ。パンダやキリンのイラストが賑やかに散らばった柄の浴衣の腰で、水色のふわふわした兵庫帯(へごおび)が揺れるのが愛らしい。
「なまはげのおにーさんもカッコイイのー!」
賑やかなのが嬉しくて大ハシャギの蘭は、見知った少年も同じようにカードを首に下げているのを発見して、顔を輝かせる。
「今日は違うんだが……ま、いっか。久しぶりだな」
飛びついてきた蘭の頭を撫でてやったのは、菱・賢(ひし・まさる)である。本日は、深い紺の浴衣に灰色の帯を締め、きっちり夏祭らしい出で立ちなのだが、過去二回ほどナマハゲ姿でイベントに参加していた印象が強かったのだろう。蘭にはすっかり“なまはげのおにーさん”で覚えられてしまっているらしい。
「ひさしぶりだな!」
賢の背後から、蘭と同じくらいの小さな男の子がヒョコリと顔を出した。賢とおそろいの、恐らくはお古らしき浴衣を着ている。後ろ姿を見ると、帯の結び目の下あたりが少々収まりの悪い感じで膨らんでいるのは、彼のお尻に尻尾があるからである。
「タヌキさんも、お久しぶりなの!」
蘭と男の子は、子供同士、賢を挟んで盛り上がった。
「わ、こら、お前ら転ぶんじゃねーぞ!?」
きゃっきゃと飛び回る二人に、今、賢の気分は保育園のせんせいだ。
そんな彼らの隣には、草間興信所の面々がいる。
「なんだか、子供の頃のラジオ体操を思い出すわね」
エントリーカードを片手に、シュライン・エマが呟いた。昭和初期頃のアンティークものらしき浴衣には、白地に藍色の格子柄と、萩の葉と花が染め付けられている。アップスタイルに纏めた髪には、同じくアンテイーク風の簪(かんざし)。ガラス玉を連ねた飾りが、さらさらと涼しげな音を立てて揺れている。
「ラジオ体操、ですか?」
草間・零(くさま・れい)が、カードを裏にしたり表にしたりしながら不思議そうに瞬きをした。
「確かに、このサイズといい、首にかけるところといい、似てると言えば似てるな」
草間・武彦(くさま・たけひこ)も、そう言ってカードを首にかけた。
カードには縦横の罫線が引いてあり、5つの競技名のそれぞれ隣に空欄がある。
「各自、好きな順番で5種の屋台で遊んでくださーい。競技を終える度に、店主がカードに得点を記入することになっとりますー」
椿の説明によると、書き込みの終わったカードを主催側で集め、ポイントを集計して順位を決定する形式らしい。
「タケヒコー、一緒に回るヨ!」
草間の腕に、赤い爪の映える褐色の腕が絡みついた。イントネーションが怪しいエセアメリカンなこの口調は、ジュジュ・ミュージーである。白と紫と赤の鮮やかな螺旋模様の染め付けられた浴衣が、彼女自身の持つ色彩に良く似合っていた。
「そうね。折角一緒に来たんだから、お祭りも一緒に回りましょ」
にこ、と。シュラインがジュジュに笑顔を向ける。……状況を解説しよう。実は、シュラインが夏祭へのお出かけを提案したのと、ジュジュが興信所に誘いにやって来たのとが、ほぼ同時だった。
「そうネー。競争するネ、負けないネ。ミー、縁日とってもトクイね。祭の鬼と呼ばれたものヨ」
ジュジュも袖をまくり、たすきなどかけながら、にっこり笑顔を返す。それは本当に祭だけの話をしているのか? 周囲の誰もが思ったが、間に挟まれた草間ときたら零と一緒に「じゃあどこから行くかな」などと呑気なことを言っている。
「草間さん……大物だなあ……」
後ろから様子を見守っていた葉室・穂積(はむろ・ほづみ)が、思わず呟きを漏らす。挙げた片手は、挨拶をしようとして声をかけ損ねた格好のままで固まっていた。
穂積の呟きを聞きとがめて、ちっちっち、と人差し指を唇の前で振ったのは、瀬名・雫(せな・しずく)だ。
「違うよ、あれはただのトーヘンボクって言うんだよ」
「あー……」
女子中学生にこんな風に評されるハードボイルド探偵って一体……でも、ごめん、おれ、フォローできない。心の中で草間に合掌している穂積を、雫は何やらまじまじと見上げている。今日の穂積は濃紺に水色と白の細縞が入った浴衣姿だ。背中に挿した団扇には、粋に「鎌輪ぬ」。後頭部に装着されたヒーローもののお面にさえ目を瞑れば、いつもの制服姿よりもぐっと大人びて見える。これぞ、和服マジック。雫はそれに感心しているらしい。
「ふーん。なかなかキマってるんじゃない?」
「そっか? ありがとな。雫も可愛いじゃん」
トーヘンボク呼ばわりされないためにも、穂積はすかさず雫の浴衣姿を褒め返した。
「えへへ、ありがとっ。帯の結び目も良いでしょ☆」
兎と撫子(なでしこ)模様の浴衣を見せびらかすように袖を広げ、雫はくるりと後ろを向く。
「おー、可愛い可愛い……って、帯、解けてねえ?」
「え! ほんとだ」
穂積の指摘した通り、雫の帯の結び目が少し緩んでいた。人込みの中を歩く間に、どこかに引っ掛けたのだろうか?
「直してもらって来るっ。都由さーん!」
名前を呼びながら、雫は藍染めの浴衣姿を探した。そしてすぐに、目的の姿を鳥居の前に見つける。藍色の裾と袂に白い鹿の子、間違いない。雫に浴衣を着せ付けて、お祭りに連れ出してくれた人物は、挨拶の最中だった。
「どうも〜、お誘い〜、ありがとうございます〜。お稲荷さんが〜あるとのことなので〜、稲荷寿司です〜。お供えに〜、どうぞ〜」
風呂敷に包まれた折り詰めを銀子に差し出し、鷲見条・都由(すみじょう・つゆ)は深々と頭を下げた。
「ご丁寧に、ありがとうございます。神聖都学園さんにはいつもお世話になっておりますから、今夜お楽しみいただいて、せめてものご恩返しになりましたら嬉しく思います」
謹んで包みを受け取りながら、銀子が頭を下げ返す。学園の保健室と購買部は、頭痛薬や風邪薬といった薬品やバンソウコウなどの衛生用品を卸して貰っている上得意様だ。ただ、担当になる営業社員は「あそこの購買のおばちゃん、値切り交渉が厳しすぎます!」との悲鳴を上げる。
「これからも、どうぞよしなに。うちの営業を泣かさないでやって頂けましたら、幸いの上にも幸いですわ」
「それは〜、そちらのお勉強次第ということで〜。良いものを〜、学園に安く仕入れるのが〜、あたしの仕事ですからね〜」
挨拶の中に、銀子は遠まわしに社員からの苦情を盛り込んだが、のらりくらりとかわされた。鷲見条都由。 のんびりした口調と、眼鏡の奥のおっとりした瞳とは裏腹に、なかなかどうして、手強い女性なのである。
「都由さーん!」
雫の呼び声が、やっと都由の耳に届いた。
「あら〜、瀬名さん。帯が〜、解けてしまったのですね〜」
滅多なことでは解けたりしないように、しっかり結んだはず。そう思って首を傾げつつ、都由は手早く、雫の帯を元通り蝶々の形に結んだ。
それと時を同じくして、少し離れた場所で。
「こら、末葉(うらは)」
初瀬・日和(はつせ・ひより)は、小さな白い獣を肩の上から手に降りさせた。末葉と名付けられたそれは、日和の飼っている霊獣イヅナで、愛らしく主人に忠実だが少々落ち着きに欠けるのが珠に傷。
「あのね。気になるからって、何でも引っ張っちゃ駄目なのよ?」
日和の掌の上で、末葉はキュ?と鳴いて首を傾げた。末葉の目下の興味の対象は、アップスタイルにしていつもと違う日和の髪形だ。特に、簪の先についたちりめん細工の梅の花が気になって仕方ないらしい。もちろん悪意はない。
「私の簪もだし、すれ違った人の帯なんかにも飛びついたりしちゃ駄目よ?」
見えないところで悪戯してないか心配だわ、と日和は溜息を吐いた。人をうきうきさせる提灯の明りとお囃子の音とは、末葉をはしゃがせるにも充分であるようだ。
「白露(しらつゆ)はお利口さんにしてるのに」
紺地に桜の染め抜かれた、日和の浴衣の足許で、もう一匹のイヅナ白露は足先を揃えて大人しく座っていた。末葉と姿はよく似ているが、こちらは少し体が大きく、子狐めいた可愛らしさよりは精悍さのほうが目立つ。
「日和。エントリーカードもらってきたぜ」
白露の飼い主、羽角・悠宇(はすみ・ゆう)が、二人分のカードを持って戻ってきた。白露がピョンと飛んで、その肩に乗る。
「ありがとう悠宇くん」
カードを受け取った日和と目が合って、悠宇は落ち着かなさげに身じろいだ。
「や、やっぱ、なんか変か?」
と、襟を直す仕草をする。悠宇の浴衣は墨色一色で、背中に垂らした銀の髪がよく目立った。青い目と相俟って不思議な色の取り合わせで、折角の祭だしと着てきたはいいものの、悠宇はそれを気にしているらしい。日和は頭を振った。
「ううん。似合うなあって思って」
「そ、そうか。日和も、その。あー、えーと」
似合ってるぜ、の一言が言えず、悠宇が赤くなったり俯いたりした時、日和が声を上げた。
「あ! こら、末葉!」
いつの間にか日和の手から離れてしまった末葉が居た場所は、ヨーヨー釣りの屋台の、しかも水に浮いたヨーヨー風船の上だった。
カラフルな風船の上で走ると、くるくると回って、水上玉乗り状態になるのが楽しいらしい。
「すみません! お店の邪魔をしてしまって!」
「いいえー。準備が終わったばかりで、まだお客様もいませんし。遊んでいて頂いて構いませんよ」
慌てて頭を下げた日和に、店主が笑って応じた。知った顔を意外なところで見つけて、日和は目を丸くする。裸電球の下に座っていたのは、誰あろう、シオン・レ・ハイだった。
「今日は、マッチ売りの少女ならぬヨーヨー売りのおじさんなのです。これが売れないと……たこ焼きもイカ焼きもカキ氷もアイスも焼きトウモロコシも玉子焼きも焼きソバもフランクフルトも買えません……」
あちこちの屋台から、色々な食べ物の良い匂いが漂い始めている。色とりどりのヨーヨーを前に、シオンはくっとハンカチを噛み締める仕草をしながら切なげに言った。流石、職業・貧乏人。今日もお金がないようだ。
しかし、彼の今日の服装は、白地に青い朝顔柄の浴衣。イベントの告知内容を思い出しながら、日和は口を開いた。
「あの、シオンさん。確か今日は、浴衣を着て来たら食べ物は、」
無料ですよ、と日和が言うのと、シオンのおなかがぐうーと音を立てたのが同時だった。
「え? 何ですか? ……早くお客さん来てくれると良いんですけどねえ」
シオンの言葉に答えるように、硬貨を握った手が四方八方から差し出された。気がつくと、屋台に人だかりができている。水上玉乗りをする小さな獣は、良い客寄せになったらしかった。
みるみるうちに、シオンの売上箱がお金で一杯になってゆく。
「夏祭りの夜、ヨーヨーで玉乗りをする謎の白い獣……。ダメだわ。うちの記事にしちゃ、ほのぼのしすぎね」
楽しそうに遊んでいる末葉を見下ろし、呟いたのは月刊アトラス編集長、碇・麗香(いかり・れいか)だった。浴衣は、黒地に紫の蝙蝠と白い蜘蛛の巣柄。プラス、はだけそうで全くはだけない危ない胸元ときて、大人の魅力満載。いつも通りの美女ぶりだが、ただ、締め切りが近いのか目が充血していて怖い。
「おや、編集長さんではないですか! ヨーヨーは如何ですか?」
サービスです、と言うシオンを、麗香は据わった目で見た。貧乏だ貧乏だと言いつつ、シオンはいつも良い笑顔だ。
「そうね、ありがとう。折角気分転換に来たのに、カリカリしても仕方がないわね」
シオンに貰った赤いヨーヨーのゴムを指にはめ、麗香は少し笑った。そして周囲を見回し、アトラス編集部でも馴染みの面々をそこかしこに見出して、コッソリと含み笑う。
でも、こういう場所なら、何か面白いことあるかもしれないわね?
……麗香の期待するような「何か面白いこと」など、起こらないに越したことはない。
「ほな、皆さんおのおの楽しんでください!」
スピーカーから椿の声がして、お囃子の音が大きくなる。
祭の夜が始まった。
------<競技1・型抜き>------------------------------
型抜きとは、デンプンと砂糖でできた小さな板から、窪み線で描かれた絵の通りの型を抜き出す遊びである。板は原材料の性質上、硬いくせに脆く出来ているため、複雑な形の絵になるほど細部が壊れやすくなる。
「これ、難しそうなの。ボクにもできる?」
屋台の前で、蘭は椿(主催者のくせに、ちゃっかり首にエントリーカードを下げている)を見上げた。
「もちろん、できるで。坊(ぼ)ん、初めてなんやったら、このお月さんあたりがええんと違うかなあ」
椿が蘭に勧めたのは、三日月の型抜きだった。尖っている部分が上下の先端だけだし、初心者向けといえる。
難易度の高い型は高得点も狙えるが、失敗個所が多くなればなるほど減点になるため、自分にできるレベルを見極めて、完璧に仕上げることを目指すのが肝要だ。
「がんばるのー!」
型抜きと画鋲を受け取って、蘭も既にはじめている他の参加者達に混じった。
誰もが黙って集中することしばし。
「っくしゅん! ……ああっ」
クシャミの音の後、ややあって悲痛が上がった。都由だ。手許では、型抜きが原型がわからないほどバラバラになっている。
「ちょっと欠けちゃったけど、できたのー! 椿さん、見て見て!」
初めてにしては上出来の三日月を掌に乗せて、蘭が歓声を上げた。
シオンは、絶妙な器用さでもって難度の高い「傘」を仕上げつつあったが、
「これ……食べられるんですよねえ……………あっ」
あと一歩のところで雑念が入り、傘の柄をぼっきり折ってしまった。
ぱり、と儚い音がもう一箇所からも上がる。
「もうちょっと簡単なのにしとけばよかったな。欲張りすぎたか」
葉っぱの先が折れてしまった「チューリップ」を前に、唸ったのは悠宇だ。
それ以上に悔しそうなのが、「エンゼルフィッシュ」のヒレの先を僅かに欠いてしまったジュジュである。
「ミーとしたことが、焦りすぎたネ!」
ジュジュの隣で、シュラインは黙々と作業を続けている。「リス」の尻尾の付け根の、一番難しい部分を無事に抜き終えて、ふうと額の汗を拭う。
「久しぶりだったけど、勘が戻ってきたわね」
後は楽々、胴体の部分を抜くのみだ。
さて、角が強敵の「カブトムシ」を選んだのは、男子高校生二人だった。
「こういうの嫌いじゃないよ、おれ」
意外と器用なのと、部活がら集中力があるのとで勝利を収めたのは穂積、
「地道な作業は慣れてるぜ」
器用さはともかく、寺の修行で培われた根性と集中力でやり遂げたのは賢。
同じ型を同じく完璧に仕上げたので、この二人は同点同位となる。
「末葉、まだ食べちゃだめよ。もう少しだから、待っててね」
次々と結果が出る中、日和は手許をうろうろする小さな獣を宥めながら、作業を続けている。型の絵柄は「串団子」だ。
カブトムシ以上に難度の高いそれを完璧に仕上げた日和が、最高得点を獲得した。
■結果■使用ステータス:器用さ+(根性×2) ()内は計算結果
1位:初瀬・日和(18)
2位:葉室・穂積(17)
菱・賢(17)
3位:シュライン・エマ(16)
4位:ジュジュ・ミュージー(15)
5位:羽角・悠宇(14)
6位:シオン・レ・ハイ(13)
7位:藤井・蘭(11)
8位:鷲見条・都由(8)
------<競技2・オバケ屋敷>------------------------------
社を囲む鎮守の森の裏に、おどろおどろしく飾られた小屋が一つ。説明されずとも見ただけでオバケ屋敷と知れるわかりやすさだ。
競技としてのルールは単純。各自、振動センサーのついた懐中電灯を持って入り、出てくるまでに「懐中電灯を激しく揺らした回数」を「驚いたり怖がったりした回数」として、振動センサーのカウント数が低いほど高得点となる。
先ほど入って行った一団が、そろそろ出てくる頃だ――。
「オバケさんは怖いです! 怖いんですぅうううう!!」
どたどた、ばたん、がたがた。小屋の中で、凄まじくぶつかったり転んだりする音がする。落ち着いて!と諭すのは麗香の声のようだが、しかし騒がしい音は止まない。
「火の玉が……墓石が……井戸から鎧武者が……っ。ごめんなさい、もうダメです……っ!」
碇麗香の手を引いて、出口から先頭を切って出てきたシオンのカウンターは、999で振り切れている。シオンのエントリーカードには「測定不能」と記された。努力と根性・各1は伊達ではなかった……。
次によろよろと出てきたのは都由だった。
「た、楽しいことは〜、好きですが〜、心臓に悪いのは〜、嫌いです〜」
「え〜? 楽しかったよ、も一回行こうよ都由さん」
都由の隣で、ピンピンしている雫とは対照的だ。
「最後の、井戸からガイコツが出てくるところ、怖かったね、悠宇く…………ん?」
隣の少年の腕にしがみ付きながら出てきた日和は、外に出て明りの下で相手の顔を見るなり、弾かれたように離れた。
「ご、ごめんなさい! 私、暗くて間違えて」
「いや、ごめん。俺こそごめん。まぎらわしいとこに居てほんとゴメン」
暗い中では背格好が似ていたからだろう、途中から日和にしがみ付かれていたのは穂積だった。真っ赤になって謝る日和に、穂積も何やら悪いことをした気がして平謝りしている、おかしな光景が出来上がった。
「オバケはちょっと怖かったけど、火の玉は綺麗だったのー」
「あれ、狐火やで。中の仕掛け、ワシの弟がやっとるからなー」
椿と手を繋いで、蘭が出てきた。笑っているところからして、振動センサーはほとんどはしゃいだせいでカウントされたのではないかと思われる。
「ああ、日和、やっぱり先に出てたか。割と本物っぽくて面白かったな」
悠宇は余裕の表情で出てきた。その割にカウントがついていたのは、日和を探した時に懐中電灯を振ってしまったせいだ。
次に草間と零が出てきて、シュラインとジュジュが続いた。
「よく出来てたが、まあ、いかんせん、認めたくはないがああいうのは見慣れちまったと言うかなんと言うか」
「そうですねー」
兄妹そのものといった雰囲気の会話を交わす二人の後ろで、シュラインはカウンターの数字を確認している。
「2……うん、最初の火の玉と、墓石が突然ひっくり返るところで、ちょっとびっくりしちゃったのよね」
「ミーは火の玉のところで1回だけヨ。びっくりはしたけど、怖くはなかったネ」
と、言ったところでジュジュはハッとした。ひょっとして、怖がるふりをして草間に甘えてみるチャンスだったのでは、と。
「く……でも、今のミーは祭の鬼ヨ。祭の鬼の名にかけて、今は勝負が優先ヨ……!」
拳を握ったジュジュの後で、最後に出てきた賢がカウンターを覗き込んでいる。
「0か。ま、あれくらいで動じてちゃ、僧兵なんざ務まらねえもんな」
ひとえに、修行と実践で鍛えた度胸と根性がもたらした結果であろう。
■結果■使用ステータス:(度胸×2)+根性 ()内は計算結果
1位:菱・賢(21)
2位:ジュジュ・ミュージー(20)
3位:シュライン・エマ(17)
羽角・悠宇(17)
4位:藤井・蘭(16)
5位:葉室・穂積(15)
6位:初瀬・日和(11)
7位:鷲見条・都由(8)
8位:シオン・レ・ハイ(3)
------<競技3・金魚掬い>------------------------------
「一応、全国金魚掬い大会のルールに則ってジャッジするわよ。椀で金魚を掬うのは当然反則。ポイが破れたらゲームオーバーよ」
金魚掬い屋台の前でそう説明したのは、夏服姿の少女だった。彼女の顔を見るなり、賢の眉間にあからさまに皺が寄った。
「あら、久しぶりじゃないの僧兵さん」
こちらも嫌そうに鼻の頭に皺を寄せた少女の名は、伊吹・孝子(いぶき・たかこ)。賢に嫌な顔をされるのは、彼女の過去の所業のせいに他ならない。
「あ、孝子だ。元気そうじゃん。孝子もお祭り来てたんだ?」
一触即発の雰囲気に割って入ったのは、穂積の呑気な声だった。孝子の片眉がピクリと上がった。穂積の声に屈託はないが、孝子としては以前、彼にのせられて余計な散財をしたことに対して、まだ恨みがある。
「何よ。バイトよ、悪い? ていうかあんたに孝子呼ばわりされる覚えは……」
無愛想に言った孝子は、鋭い視線を感じて縮み上がった。発信源はジュジュである。
「客商売の基本は愛想ヨ。仕事はきちんとする。私情を挟むのはもっての他ネ」
「…………」
ヘビに睨まれた蛙を見るようだ。今夜屋上に集まった屋台を仕切っているのは、実はジュジュだ。そこでバイト中ということは、今彼女が孝子の雇い主であるに等しいということで。
「掬った金魚の数がそのままポイントになりますので、皆さんどうぞ頑張って、ください、ね」
無理矢理笑った孝子の唇の端が震えている。何はともあれ、無事に金魚掬い競技が開始された。
「なー、まさる、これって喰っちゃだめなのか? なあなあ」
ポイと椀を貰ってしゃがみ込んだ賢の隣で、子狸が目を輝かせている。もとは山に暮らしている野性のタヌキだ。元気に泳いでいる金魚たちを見てそう言っているのだと気付いて、賢は子狸が水の中に突っ込もうとしている手を慌てて止めた。
……ポイを持ったほうの手が、ぼちゃんと水の中に入った。
「あ゛」
一匹も掬う前に、薄い紙は見事に破れていた。
「ポイは斜めにして水に入れなきゃ駄目ネー」
賢の失敗を尻目に、ジュジュはひょいと一匹掬い上げる。
「すごいの! お姉さん上手なのー」
「金魚を追いかけるの、良くないヨ。水面に上がってきたやつを、お椀に追い込むようなつもりでやるといいヨ」
ジュジュの教授により、蘭も順調に金魚を掬い上げた。
「掬えたの! わーいなの」
お椀の中に、赤い小さな金魚が三匹。蘭が次に狙ったのは大きな流金で、流石にポイが破れた。
「ふにー……」
「あのテの金魚にはヒレが強いヨ。挑戦したら、掬えてもポイはダメになるものヨ。覚えておくといいネ」
残念そうな蘭に、ジュジュが手提げビニールを差し出した。先ほど蘭が掬い損ねた金魚が入っている。大きいのを一匹掬ったところで、数は1。ジュジュの記録は、最初の一匹と合わせて二匹となった。
「水の中のポイはゆっくり動かして、迎えに行くお椀は素早くってのが難しいんだよなあ」
どっちも早くて良いのなら楽勝なんだけど、と悠宇は破れたポイを孝子に渡しながら肩を竦めた。悠宇の手のビニール袋には、黒出目金と赤い金魚が二匹ずつ泳いでいる。
「生き物相手だから、そう思った通りに動いてはくれないしね」
水面に出てきたのをひょいひょいひょいと五匹ほど連続して掬ったところで、シュラインのポイは破れた。逃げた六匹目をつい追いかけてしまったのだ。
「お兄さんと私の分と、シュラインさんのを合わせて、十匹も居ますね。事務所で飼えるでしょうか?」
シュラインの椀の中を覗きこんで、零が言った。とりあえずしばらくはバケツで良いとして、近いうちに事務所の誰かが水槽を買いに行くのは確定のようだ。
「水の中のポイの基本は横移動〜。金魚を掬ってからは稲妻のように素早く〜……お椀に移すのです〜」
ゆったりと動いているように見えて、都由の椀の中には着々と金魚が増えて行く。普段の都由の購買での動きを髣髴とさせる。
「そうですね。金魚たちも水から上がると苦しいでしょうから、できるだけ早くお椀に入れてあげたくなりますよね」
日和も、のんびりしているように見えて次々と掬っている。器用さと観察眼のなせる技だ。
「紙が傷み切るまでに何匹掬えるかもポイントだよな〜」
穂積は紙の耐久時間を無駄にしないよう機敏に動き、一つ目のお椀を一杯にして二つ目を受け取った。都由と日和を追い抜き、もうニ十匹は掬っている。
金魚掬いの一位は彼かと思われたが。
「ハァアアアアアア!」
ものすごい勢いで追い上げる男がいた。シオンである。
「え、うっそ、手許が見えねえ!? マジ!?」
穂積が驚いている間に、シオンの掬った金魚は三十匹を越え、五十を越え、百に届くか!?というところでポイが破れた。
「お箸なら破れたりしないんですけどねえ……」
残念そうに言ったシオンに、
「いや、シオンさん、普通お箸のほうが難しいですから!」
とりあえず穂積がツッコミを入れた。
■結果■使用ステータス:(器用さ×2)+すばやさ ()内は計算結果
1位:シオン・レ・ハイ(32)
2位:葉室・穂積(21)
3位:初瀬・日和(18)
鷲見条・都由(18)
4位:シュライン・エマ(15)
5位:羽角・悠宇(14)
6位:藤井・蘭(12)
7位:ジュジュ・ミュージー(10)
8位:菱・賢(9)
------<競技4・射的>------------------------------
用意された射的の屋台は、ベルトに乗って流れる景品をコルクの弾で撃ち落とすタイプのものだった。裸電球の下、懐かしの駄菓子やおもちゃがカタカタと流れてゆくのがなんともノスタルジックだ。
カタンコトンカタン、と、立て続けに景品が倒れた。
「よし、腕は衰えてないな」
早業を見せつけたのは草間である。相当上手い。
「あれが〜、欲しいですね〜」
先ほどから都由が狙っているのは、どう考えてもコルクの弾では落とせそうにない、招き猫の置物だった。しかも顔が可愛くない。流石に、雫が都由の袖を引っ張った。
「あんなの無理だよ。それにどこに置くの?」
「購買に〜、置きたいですね〜」
都由は果敢にチャレンジしたが、やはりと言うか、当たっても招き猫はびくりともしない。最後の弾で、ガムを一つ取ったのが唯一の収穫となった。
「と、届かないの!」
的が見えるところまで背が届かなくてばたばたしていた蘭を、椿がひょいと後から持ち上げた。
「見えるか?」
「見えるのー! お菓子がいっぱいあるの!」
「うん。とりあえず、細長い箱の菓子が一番取りやすいやろから、よーく狙って……」
椿が言い終えるよりも先に、かたん、とベルトの上からシガレットチョコが落ちた。
「当たったのー!」
結局当たったのは最初の一発だけだったが、蘭は景品が取れただけで大満足のようだ。
その隣で、賢がオモチャのライフル片手に唸っている。
「あれ、台にくっいてんじゃねえのか!?」
いくつか小さなお菓子を取った後、最後の弾で子狸が欲しがったミニカーを狙ってみたのだが、びくともしなかったのだ。
「ユー、当てた位置が悪いネ。大きいものは重心を崩してやらないと駄目ヨ。見るヨ」
ジュジュが銃口を向けているのは、ロボット型の貯金箱だ。何発か当ててぐらぐらになっているその頭に、ジュジュは最後の弾を当てた。がたん、とロボットが後に倒れる。足の裏には、得点数が書き込まれている。
「っと。惜しいな」
悠宇の最後の弾が、「駄菓子詰め合わせ」と書かれた大きな木札に当たって弾かれた。
「弾のパワーが微妙なんだよな。そこが楽しいんだけど」
言って、オモチャの銃を返却した悠宇の手には、キャラメルが一箱と謎の宇宙人のビニール人形が一体。総合得点的には、賢、ジュジュと同点だ。
「あ。取れたよ、悠宇くん!」
景品を受け取り終えた悠宇の背後で、日和が歓声を上げる。見事、悠宇が取り損ねた駄菓子詰め合わせを仕留めていた。
「狙って当てるのは得意だよ、うん。血が騒ぐよね」
穂積は調子よく全弾必中。コツさえ掴めば、小さいものなら簡単に落とせるように置いてあるようだ。
「細かいのをたくさん取るか、大きいのを集中して狙うかは好みというところかしら」
「は……はい」
シュラインにコツを一通り教えてもらって、零はオモチャの銃を構えた。
「じゃあ、まずはあのラムネを……」
「それじゃ当たらないぞ。よくタイミングを計れよ」
緊張した面持ちの零を、草間が後から見守っている。どうやら、草間は自分の遊びはそっちのけということになったようだ。
その光景を微笑ましく思いながら、シュラインは自分もコルク銃を構えた。
「食べられるものが一番です。はい」
シオンは完全に、お菓子にのみ目標を絞っている。次々に打ち落とすのは、食べ物への執念がなせる技か。
最終的に、一番多くの景品を抱えていたのは穂積とシュラインとシオンだった。
■結果■使用ステータス:器用さ+度胸、()内は計算結果
1位:葉室・穂積(12)
シュライン・エマ(12)
シオン・レ・ハイ(12)
2位:初瀬・日和(11)
3位:菱・賢(10)
羽角・悠宇(10)
ジュジュ・ミュージー(10)
4位:藤井・蘭(9)
5位:鷲見条・都由(7)
------<競技5・クジ引>------------------------------
裸電球の下、景品がヒモにつながって並んでいる。クジ引きは、空クジなしの、ヒモを引いた先についていた景品をもらえるタイプのものだった。
縁日王決定戦参加者はもうあらかた遊び終えているらしく、景品はもうきっちり人数分しか残っていないようだ。一番目立つのが、射的でも見かけた招き猫である。
店主の説明によると、景品の裏に点数札がついていて、それが得点になるが、良い景品に高得点がついているとは限らないと言う。
「ねえ、一つずつ引いたら最後の人がつまんないから、皆で選んで一斉に引こうよ」
言い出したのは雫だが、誰にも異論はなかった。
いっせーのせ、でヒモを引いた結果。
穂積の手に林檎飴、シュラインの手に金魚鉢、賢の手に狸のぬいぐるみ、ジュジュの手に台所洗剤セット、シオンの手に二十日大根の栽培キット、悠宇の手にオモチャの指輪、日和の手に花火セット、蘭の手に牛と蛙のぬいぐるみパペット。
ちょっとうれしいものが手に入るのも、微妙なものが手に入ってしまうのも、お祭りのクジ引きの醍醐味……であろう。
そして、注目の招き猫は都由の手に。
「これは〜、大あたりですね〜」
そう思っているのは恐らく都由本人だけだが、とりあえず猫の背中に張り付いていた点数札は最高だった。
■結果■使用ステータス:(運×2)+すばやさ ()内は計算結果
1位:鷲見条・都由(22)
2位:藤井・蘭(18)
3位:初瀬・日和(16)
4位:羽角・悠宇(14)
シオン・レ・ハイ(14)
ジュジュ・ミュージー(14)
5位:菱・賢(13)
シュライン・エマ(13)
6位:葉室・穂積(9)
------<決定、縁日王>------------------------------
空に高く月が昇った。
縁日王決定戦は集計結果を待つのみとなり、屋上にはまったりとした雰囲気が漂っている。
「美味しかったー! もうおなか一杯なの」
特設されたベンチに座って、蘭はおなかを撫でた。たくさん遊んで、独特の雰囲気の中で屋台の食べ物を食べて、すっかりご満悦だ。
「一位は〜、どなたでしょう〜。一人トトカルチョしてるんですよね〜、予想が当たっていたら焼きソバ、外れたらお好み焼きで〜」
雫の帯をゆるめてやりながら、都由がまったりと呟く。一人トトカルチョというか、それは単にどちらを食べるか迷っているのだとも言う。
「うーん……苦しーい……。あたし、どっちも要らないよー!」
雫がうめいている理由は、ズバリ食べすぎだ。
「縁日で食べるものって美味しく感じるもんなあ。気持ちはわかるよ」
言った悠宇の肩で、白露は悠宇が持っているフランクフルトに興味津々である。こちらはまだまだ食べ足りないようだ。
日和は、末葉を連れてタコ焼きを貰いに行ったまままだ帰って来ない。
悠宇が探しに行こうとした時だ。
スピーカーから、キーンという嫌な音がして、それが収まると椿の声が聞こえてきた。
「お待たせしました。縁日王決定戦、集計結果発表ですー」
社のほうから、チャンチキの音が高く鳴る。
「激闘を制し、本年度の縁日王に輝いたのは……初瀬日和殿!」
鳥居の下に立っている椿の隣に、日和が居た。マイクを向けられて困惑顔だ。
「えっと、あの……楽しかったです、皆さんありがとうございました!」
ぺこりとお辞儀をした日和に、拍手が起こる。
「今年は負けたけど、来年はミーが勝つヨ」
日和に拍手を送ると、ジュジュは『神風』の筆文字入りの日の丸鉢巻をそっと外した。
「普通のお祭だったわね」
ネタが拾えなくてちょっと残念、と、麗香は溜息を吐く。
「ふぁい? なんれすか、麗香ふぁん」
縁日王よりも今目の前にある食料。シオンの口はイカ焼きで塞がっている。
そんなシオンに負けず劣らずの猛烈な勢いで食べているのは賢だった。カキ氷、たこ焼き、焼きトウモロコシと、スチロールのトレイがどんどん空になってゆく。
「まさるー、お祭っていいなー」
賢と背中合わせに座った子狸は、もらったタヌキのぬいぐるみを抱いて満足そうに目を細めた。
「うちの水槽の魚、確か先生が縁日で獲って来たって言ってたよな。こいつらも大きくなるかなあ」
クジで当たった林檎飴をばりばり齧りながら、穂積が呟く。目の高さに掲げたビニール袋の中では、小さな金魚たちが泳いでいる。
「あら。すぐ大きくなるわよ、金魚って」
宇治金時ミルクの豪勢なカキ氷をストローのスプーンでさくさくと崩しながら、シュラインが言った。
集まった皆の間で、とりとめもない会話が交わされている。それもまた祭の醍醐味だろう。
「来年の夏、今宵のことを思い出しはりましたら、是非また、この屋上においでくださりますことを!」
椿の声が、月の滲む夜空に響いた。
END
■最終結果■1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点で集計
1位:初瀬・日和(15)
2位:シュライン・エマ(14)
葉室・穂積(14)
3位:菱・賢(13)
4位:シオン・レ・ハイ(12)
5位:ジュジュ・ミュージー(11)
6位:羽角・悠宇(10)
7位:鷲見条・都由(9)
8位:藤井・蘭(8)
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登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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【2163/藤井・蘭(ふじい・らん)/1歳/男性/藤井家の居候】(器3度6根4速6運6)
【3070/菱・賢(ひし・まさる)/16歳/男性/高校生兼僧兵】(器3度7根7速3運5)
【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま/26歳/女性/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】(器6度6根5速3運5)
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/16歳/女性/高校生】(器8度3根5速2運7)
【3525/羽角・悠宇(はすみ・ゆう)/16歳/男性/高校生】(器4度6根5速6運4)
【3356/シオン・レ・ハイ(しおん・れ・はい)/42歳/男性/びんぼーにん(食住)+α】(器11度1根1速10運2)
【0585/ジュジュ・ミュージー(ジュジュ・ミュージー)/21歳/女性/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)】(器3度7根6速4運5)
【4188/葉室・穂積(はむろ・ほづみ)/17歳/男性/高校生】(器7度5根5速7運1)
【3107/鷲見条・都由(すみじょう・つゆ)/32歳/女性/購買のおばちゃん】(器4度3根2速10運6)
参加お申し込み順。
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ライター通信
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まずは、納品が遅れて申し訳ありません。
夏祭へのご参加、ありがとうございました。
ステータスで競技をするのは、初の試みだったのですが、如何でしたでしょうか。
競技での得点については、同点同位が複数人数いらした場合、全員にポイントを加算することにしております(例:3位の方が二人の場合、二人ともに3点加算)
また、得点の開き方によって、接戦か圧倒的勝利か圧倒的最下位かによって、描写の違いがあります。
ステータスに個性が表れていて、順位を判定しながら非常に楽しませて頂きました。
今回、全ての方に同一の文章で納品させていただいております。その都合上、どうしても実現できなかったプレイングや、勝手に足してしまったキャラクターの行動など、いくつかございます。
イメージにそぐわない部分などありましたら申し訳ありません。
では、失礼します。
まだまだ残暑が激しい折、皆様ご自愛ください。
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