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<東京怪談・PCゲームノベル>


秋篠神社奇譚 〜参拝日誌〜

水鏡千剣破編

●夏の神社
 蝉時雨の聞こえる暑い日ざしが照り付ける鎌倉。
 そこに秋篠神社という神社があった。
「ここが秋篠神社…、やっぱり東京と違って緑が多い分、少し涼しい気がするな…」
 夏の最中、秋篠神社に一人の都内の学校の制服に身を包んだ少女が訪れていた。
 少女の名前は水鏡千剣破(みかがみ・ちはや)、この秋篠神社に学校が夏休みになったのを利用して修行に来る事になったのだ。
「ここには私と同年代の女の子もいるっていうし、相性が良いと良いな」
 そんな事を考えながら千剣破は階段を上り鳥居を潜るのであった。
 そして境内に出た千剣破は境内を掃除をしている緋袴に身を包んだ、自分と同じ位の年の頃の銀髪の少女に出会う。
「あ、いらっしゃいませ、参拝の方ですか?」
 その少女は掃除をする手を止めて、千剣破に話しかける。
「あ、いえそうではなくて…、本日からこちらにお邪魔させて頂く事になっている水鏡千剣破と申します…。ひょっとして秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)さんでしょうか?」
「は、はい。ボク…じゃない私が静奈です、ってあなたが千剣破さんですか。お待ちしていました。どうぞこちらへ」
 静奈はそう言って千剣破の事を案内して行った。
「ごめんね、もっと大きい神社を期待していたのかもしれないけれど、ボ……私と今の神主の父さんしかいない小さな神社で…」
「あ、ううん、そんな事は全然気にしないで良いですよ。大きさだけが全てではありませんし」
 神社の案内をしつつそんな会話をする二人であった。

●二人の少女
 神社の中に入った二人はお互いのことを座敷で座りながら意識しつつ、ちらちらと見あっていた。
 そして二人とも何か言おうとして言えないでいる中、二人同時に声をあげる。
「「あ……あの…」」
 二人の声が同じように響く。
 そしてその様子に思わず二人とも今までの緊張が解れたかのように相好を崩す。
「はぁ…、なんだかおかしいですね」
「うん…」

……
………
…………

 お互いがお互いの距離を測るような時間が続く。
 そしてお互いが揃って同じタイミングで、出されていた麦茶のコップに手を伸ばした。
 「間」というのはこういう事を言うのだろう、今まで音のない空間だった場所が、急に賑やかな場所となった。
「ねぇ、千剣破さんって面白い瞳の色をしているんだね」
「それを言ったら静奈さんだって綺麗な、でも不思議な髪の色をしてますよ」
 話のきっかけとはそういうものなのだろう、それぞれの特徴が話し出すきっかけとなった。
「千剣破さんは退魔行の修行でここに来たって話だけど本当?」
「うん……、まぁ、そんな所かな?あ、あたしの事は千剣破で良いですよ。さんってつけられるとなんかくすぐったくって…」
「だったらボクの事も静奈で良いよ」
 お互いがお互いのことを認めた瞬間だったのだろう、それぞれがそれぞれらしいしゃべり方になり、自分の事を表し始める。
「良かった……静奈ってなんかお嬢様って感じだったから、ちゃんとお行儀よくしなきゃって思ってたんだ」
「それをいうならボクの方だよ、こんな風に気軽に話せるならもっと前から話てれば良かった、と思うよ」
 二人の少女はそんな風にして微笑みあった。

●朝
「あ、それ私の玉子焼き、とっておいたのに」
 ここ数日の秋篠神社の朝の名物となった千剣破と静奈の賑やかな朝食の声が響き渡る。
「ははっ、残念早い者勝ちだよ」
 そんな風に笑顔を浮かべながら静奈は千剣破に自慢げな笑顔を浮かべる。
「最後に食べようと取っておいたのに…」
 悔しそうな声を上げる千剣破を見て、横にいた静奈の父親であり、現神主である秋篠宮公明(あきしのみや・きみあき)が静奈をたしなめる。
「これ、静奈お客さんの前でお行儀が悪いぞ」
「ごめんなさい、でもどうしてもその玉子焼きがボクに食べてっていうもんだから…」
 その言葉に公明は苦笑するとすっと千剣破の前に、奥から玉子焼きを持ってくる。
「ほら、食べなさい」
「あ、いえ、悪いですよ…」
 申し訳なさそうにしている千剣破に公明が優しく声をかける。
「君くらいの時はちゃんと食べないとね、そこにいる食い意地の張ってる様なのは困るがね」
 公明のその言葉に静奈は思わずむくれてしまう。
「なによ、その玉子焼きだって元々ボクが作ったものじゃない」
「はいはい、それじゃ作り手さんの分もな」
 公明がそう言って静奈にも玉子焼きを分けると千剣破は思わずこらえきれず笑ってしまう。
 いつものこの食卓にはない、笑顔がそこにはあった。
 その場に誰もがそれは嬉しい事であった。
 そして夏の暑い、しかし充実した一日が始まるのであった。

●再会の約束
 そしてそんな風に千剣破と静奈の二人が打ち解けてから数日がたった。
「今日で千剣破が帰っちゃうの、なんだか寂しいな」
 静奈がそんな事を境内の掃除をしながら小さく漏らす。
「別に今生の別れって訳でもないんだし、そんな風に言わないでも大丈夫だよ」
「それはそうなんだけどさ」
 静奈と同じ様に掃除をしていて、静奈の掃いていた物を塵取で取っていた千剣破は数日間、秋篠神社にて修行の日々を過ごし今日帰る事になっていたのだった。
 同年代同士で、まるで小さい頃友達と行った旅行か何かのようなそんな不思議な気持ちに慣れた数日間であり、一緒にいたのが楽しかった静奈はそれが少し寂しかった。
 別に千剣破も寂しく無かった訳ではなかったが、自分で言った通りそれが今生の別れというわけでもなく、またすぐに会おうと思えば会いに来れるのだから、と自分に言い聞かせていた。
 そしてそこでふと静奈はひとつの事を思い出す。
「ねぇ、千剣破は今度の日曜日あいてるかな?」
 そんな風に聞かれた千剣破は少し驚きの表情を浮かべたあと、笑顔で答える。
「ううん?大丈夫、特に何かの予定は無かったと思うけど…」
「ほんと?良かった。その日にね、この神社で奉納のお祭りがあるんだ。もし良かったら来てみてもらえないかな?折角だから一緒に回ってみたいなって…。そこの神社の巫女って事で、休み時間でもあまり一人でうろうろしてるのは良くないっていつも言われてるから…、千剣破を案内するって事なら問題ないと思うんだ」
 そんな風に誘われた千剣破の唇から思わず笑いがこぼれる。
「つまり私の案内するって事で、お祭りを楽しみたいって事かな?」
「そう…なるかな?」
「そういうことなら良いよ。一緒にそのお祭り楽しもう?」
「ありがとう!」
 二人はその場でそんな秘密の約束を交わした。
 数時間後、千剣破は東京へと帰って行ったのだった。
 その帰り道千剣破は呟く。
「静奈とはこれからもうまくやっていけると良いな」
 そんな風に物思いにふけりつつ、帰りの電車から夕暮れに染まった外の景色を窓から眺めつつ、気が付くと小さく寝息を漏らしていた千剣破であった。

●エピローグ
 そして約束の日。
「あ、静奈お久しぶり」
「千剣破の方こそ久しぶり、少し日に焼けたんじゃない?」
「静奈のほうこそ、その千早とか良く似合っているよ。あ、ひょっとしてその弓がご神体の弓?」
 千剣破は静奈の持っている弓に興味を持つ。
「あ、これはそのレプリカ、だよ。大きな声ではいえないけどね」
「なぁんだ、やっぱりそうなんだ」
 少しがっかりした声が千早の口からこぼれる。
「まだ少しやらなきゃいけない事があるから奥で少し休んでてよ。ここまで来るの暑かったでしょ?」
「ははっ、実はもう喉からからなんだ。だからそうさせてもらうね。」
 そんな風に楽しげにしゃべりながら二人の少女は再会を果たすのであった。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 水鏡・千剣破
整理番号:3446 性別:女 年齢:16
職業:女子高生(巫女)

≪NPC≫
■ 秋篠宮・静奈
職業:高校生兼巫女

■ 秋篠宮・公明
職業:神主

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■         ライター通信          ■
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 どうもはじめまして、ライターの藤杜錬です。
 今回は秋篠神社のゲームノベル「秋篠神社奇譚 〜参拝日誌〜」へのご参加ありがとうございます。
 また、静奈と友達になると言ってくださりありがとうございました。
 南京武志絵師とのコラボ企画からの御参加と云う事で緊張しながら書かせていただきましたが、いかがだったでしょうか?
 異界ピンナップの雰囲気などを壊していなければ幸いです。
 折角のコラボ企画でしたので、雰囲気を壊さぬようにと配慮したつもりですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
 もしまた静奈とのご縁があるようでしたら、その時はよろしくお願いいたします。

2005.08.16.
Written by Ren Fujimori