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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


「季節外れの淡雪の光」

 放課後の神聖都学園の奥まった庭に、その少女はいた。
少女は沈みゆく太陽に…昼間とは違う静かな学園独特な雰囲気に、恐怖心を募らせていく。

 …にゃ…

「雪ちゃんっ」
 猫の声が聞こえた。どうやらその猫こそ少女の探しものなのだろう。
 少女は猫の声を辿って、足を運んだ先。
其処は『生徒立ち入り禁止』の張り紙がされた古い校舎。
見ると立ち入り禁止のはずの扉は僅かに開いている。
 恐る恐る扉から中を覗き見た、その瞬間。
視界は暗転し、気がついた時には自身の通う教室にいたのだった。


 そこまでの経緯を語り、少女はその黒く大きな瞳を潤ませて見上げてくる。
季節外れの、首に巻いた白いマフラーを揺らしながら…。

「雪ちゃんは大事なお友達なの。お姉ちゃん一緒に探して…」




■■■



土曜の午後の中庭。
夏の日差しがまだ強い時間に、月夢・優名は泣いている少女に出会った。
その優しい気質のため気になって声をかけると、少女は優名へと語ったのだ。
少女の懸命さに優名は静かに微笑むと、少女の髪を撫でる。
「私でよかったら一緒に探そう。私の名前は月夢・優名。あなたは…?」
「藤堂美雪…」
「美雪ちゃんか。宜しくね」
「…うん」
 そっと手を差し伸べると、美雪はその手を握り返した。
優名の持つ雰囲気と、その手の温かさに安堵したように美雪も僅かにだが微笑んだようだ。
その様子に優名もほっとしつつ、怯えさせないよう努めながら話し掛ける。
すると少しずつだが少女から話を聞くことが出来た。
雪ちゃんとは紅いリボンをした白い猫で、美雪は初等部に所属しており、教室は一番端にあること。
「まずその教室に行ってみよう。何か分かるかもしれない」
「…うん」




■■■




「美雪ちゃんの教室、ここ?」
「そうだよ」
廊下の端にあたる教室は、土曜日のためか誰一人として生徒はいなかった。
優名は目撃者となる人物がいるかもしれない、という期待を持っていたのだが、教室の様子や少女の話からも、目撃者がいないことが分かった。
高等部ならまだしも、初等部ともなると、遅くまで残っている生徒はあまりいない。
優名は仕方ないか、と美雪に気付かれないように小さく溜息をついていると、美雪は教室の自分の席へとついていた。
「お姉ちゃん。ここ美雪の席なんだよ」
「へぇ、そうなんだ。美雪ちゃん、目良いんだね」
 どこか嬉しそうに言う美雪に、優名は微笑みながら近寄った。
そこは教室の一番後ろの席。
しかし、そこでふと優名はある事実に気付いた。
座席に表示されている名前が、違う。
「…美雪ちゃん、席間違えてない?」
 美雪にそう尋ねると、美雪はきょとん、とした様子で首を傾げた。
「美雪の席はここだよ?」
 そう言う美雪の瞳は、嘘をついている色は全くと言っていいほど無い。
不思議に思いつつも、前の座席の子が剥し忘れでもしたのだろう、と優名は思うと美雪と共に教室を後にし、旧校舎について調べるため図書館へと向かった。
「美雪ちゃん、ちょっと待っててね。」
図書館の中にある椅子に美雪を腰掛けさせると、優名は学校史、学校案内図を調べ始めた。
するとどうやら、その旧校舎は数十年前から使われていないことがわかった。
(……生徒増大と老朽化のため、か……)
学校史を読みすすめている時、ふと優名の目の端に見知った教師の姿を見つけた。
(あ、もしかしたら先生なら何か知ってるかも……)
そう思って、思い切って教師に声をかけた。
「旧校舎?」
「はい。何かご存知ないですか?」
「あぁ。あそこなら老朽化が進んでいるから、教師も滅多に出入りしてないよ。」
「そうですか……。」
「それに数年前にあそこで事故が起きてね。それ以来、人は入ってないんじゃないかな。」
「事故…?」
「初等部の女の子なんだが…落下物に当たってそのまま…」
「…」
「何で調べているかは分からないが、あまり近寄るんじゃない」
「はい。ありがとうございました。」
 教師はそれを言うと自分の用を済ますために書棚のほうへ歩き出していった。
その背中に礼の言葉を投げた。
その後優名は、美雪を連れて旧校舎の見取り図だけコピーすると例の旧校舎へ行くこととした。



■■■



『生徒立ち入り禁止』の張り紙がされた扉は、少女が語った通り僅かに扉が開いていた。
美雪が繋いでいた優名の手を、ぎゅっと握り締める。
見ると少女の瞳は不安そうに揺れていた。
「私がついてるから、大丈夫だよ…」
 優しく握り返してやると、少女は小さく頷く。
(……お札とか、ないよね?)
扉に手をかけると、以外にもすんなりと校舎内へ入ることが出来た。
しかし、すぐに異変が起こる。
「っ…!」
 突然手にかかった重さに、優名は身体が傾いた。
「美雪ちゃんっ?」
 手にかかった重さ、それは少女の体重だった。
美雪が突然倒れ、苦しそうに喘いでいる。
「こ、わぃっ…」
 慌てて抱き上げてやると、小さな少女は優名へと縋りついた。
あまりにも突然な出来事に優名も混乱していたが、美雪の背中をさすり、落ち着かせることに専念した。
暫くすると、美雪も落ち着きを取り戻し始めたようで、一緒に行けるか、という優名の問いに美雪は申し訳なさそうに首を横に振る。
「大丈夫だよ。私が雪ちゃん探してきてあげるから、外で待っててね」
 幼い少女を一人外に残していくことは不安だったが、あの様子では連れていくのは難しいだろうし、何しろ事故まで起こった校舎だ。
逆に連れていくほうが危ないと思い、優名は少女の頭を撫でると一人で進むことにした。
図書館でコピーした見取り図を頼りに、教室を一つずつ探していく事にする。
幾つの教室を見て回ったのだろうか。
(雪ちゃん、猫だから移動してるだろうし……もしかしたらもうここには居ないかも)
そんな不安が過ぎりつつも、優名は二階へ続く階段を上る。
最後の段を上りきり、ふと何気なく横を見る。
すると、何か赤いものがあることに気がついた。
「…?」
 よく見ると、それは赤いリボンだ。
乱雑に置かれている机の端から覗いている。
おそらくは積み上げられていた机が崩れてしまったのだろう。
もしかして雪ちゃんが隠れているのでは。そう思って優名は机をどかす。
しかしそこにあったのもは、白い骨……。
そう、それは赤いリボンを首であろう部分にまきつけた、猫の白骨であった。
「なっ…」
 優名の頭の中に、「雪」という一言が過ぎる。
しかし、美雪が探している猫が雪だ。
その猫が白骨化しているはずもない。
よく見てみると、足の骨の部分が潰れている。
机に挟まれて、動けなくなってしまったのだろうか。
「似てる猫……?」
 そう思ったが、こんな偶然があるだろうか。
優名は首を傾げながら考えこんでしまったが、ふと後ろに感じる気配に振り返った。
「っ…!美雪ちゃん!」
「雪ちゃん…」
「え?」
 優名が美雪に驚き小さな叫び声をあげるが、少女の耳には優名の声は聞こえていないようだった。
その大きな瞳に涙をたたえ、白骨化した猫を見つめている。
優名ははじめ悲しんでいるのかと思ったが、少女の様子からはそうではないらしい。
むしろ嬉しささえ感じるような瞳の光をたたえ、猫へと歩み寄ると、その小さな掌で抱き上げた。
「…ここにいたんだね…。ずっと…ずっと会いたかった…。先にいってごめんね……。おいていってごめんね…」
 突如として、美雪と雪が淡い光に包まれる。
美雪は振り返ると穏やかな笑みを浮かべた。
「お姉ちゃん。雪ちゃんを探してくれてありがとう…」
 少女の白いマフラーと、猫の赤いリボンが風もないのに揺れている。
「お姉ちゃんのおかげで、雪ちゃんと会えた」
 嬉しそうにそう言う少女は、既にこの世にはいないのだ。
彼女が教師の言っていた初等部の少女なのだろうと、優名は悟った。
「……会えて、良かったね」
 あまりにも少女が嬉しそうに微笑むものだから、優名も自然と笑みが零れる。
「ずっと、ずっと見つからなくて苦しかった。ずっとずっと探してた。でも見つからなかったの……。本当に、ありがとう…」
「雪ちゃんが、頑張ったおかげだよ」
 優名の言葉に、少女はまた嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。美雪、もう帰るね。」
「うん。…おやすみ」
「おやすみなさい…またね…」
 少女が別れの言葉を口にすると、少女の姿は強い光に包まれて、次の瞬間には消えていた。
優名は、消えた少女と猫がいた場を暫く見つめていたかと思うと、踵を返した。
自身の帰る場、寮へと向かうために…。




■■■



 その後美雪が優名の考え通り、数年前に事故で無くなった少女だということが、時間をかけて調べた結果わかった。
事故が起こったのは、冬のある日。
あくまで憶測でしかないが猫を探しに出て行ったあの日を、少女は長い年月の間繰り返してきたのだろう。
雪を最後まで見つけられなかったという無念が、少女を彷徨わせていたのだろうか…。
不思議な想いにかられ、優名は女子寮の窓から外を眺めた。
空には白い雲が流れている。
まるでそれは、白いマフラーのように儚げで…。
優名は美雪が、安らかに眠っていることを心の中でそっと祈った。








END







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】


 2803/月夢・優名/女性/17歳/神聖都学園高等部2年生   






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■         ライター通信          ■
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「季節外れの淡雪の光」にご参加下さいまして、誠に有難う御座います。
 この作品で優名さんと出会えたことを嬉しく思います。
 今後もその優しさで多くの方を癒してあげて下さいw
またお会いできることを楽しみにしております。
有難う御座いました。