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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


――ALIMAN――

 ――最近の事だ。
 緑色に染められたワゴン車により、販売されている饅頭が話題になっていた。だが、人々はその饅頭の意図を知らない。転々と販売場所を換えるワゴン車は、今日も何処かで饅頭を売っていた。

 ――或る日の会社。
「ねぇねぇ、路上で饅頭売っていたから買ったんだけど食べない?」
 一人のOLがビニール袋から箱を取り出し、中身を開ける。興味深そうに周りのOLが集まる中、開かれた箱に入っているのは、緑色をした饅頭だ。
「抹茶味かしら?」
「気味が悪いわね」
「そお? このくらいしなきゃ誰も買わないわよ?」
「人気を得る為には変わった事もしなきゃ駄目って事ネ? んじゃ、いっただきまぁーす♪ あ、意外とおいしいかも?」
「ほんとほんと? あたしももーらい♪」
 見る見るうちに緑色した饅頭は彼女達の胃袋へと飲み込まれて行った。

 ――02:00AM
「はぁはぁ‥‥」
 饅頭を食べた若い女は息を荒げていた。汗がぐっしょりとパジャマを濡らし、苦しそうに喘ぐ中、既に布団は乱れている。
「うっ!」
 嘔吐感を抱き、彼女がよろめきながら洗面台へと移動する。目眩がするのか、彼方此方に華奢な身体を打ち付け、はずみで耳障りな音と共に小物や化粧品などが落下音を響かせていた。
「きゃっ!」
 運悪くコードに足を絡めてしまい、転倒する。起き上がろうとすると、ビクビクと身体が痙攣を始め、必死に踏ん張った刹那、形の良い爪が乾いた音と共に割れた。激痛が彼女を強襲し、悲痛な叫びを室内に響かせる。だが、女は一人暮らしだ。その悲鳴を煩いと感じる者はいても、心配して声を掛ける者はいない。
 ――そうだ‥‥彼に電話すれば‥‥
 血塗れの指で激痛に震えながら、携帯のボタンを押す。コール音が鳴り、間も無くして眠そうな男の声が飛び込んで来た。
「も、もしもし、あた‥‥うっ!」
 電話の相手は恐らく、顔を歪めた事だろう。それほどまでに嫌悪感を抱く音だった。びちゃびちゃと床にぶちまけた音が電話越しでもハッキリと聞き取れる。
『もしもし、おい、どうしたんだ? 吐いちまったのか?』
「うっ‥‥うっ、うごぁげえぇぇッ!?」
 女は我が目を疑った。彼女の視界に映ったのは、己の口の中から這い出そうとしている緑色をした蛇のような生物だ。
<キイィィィィッ!>
 鋭い歯が並んだ大きな口を開け、緑色の生物が鳴く。堪らず女は胃の中のものを盛大にぶちまけながら、緑色の生物を吐き出した。
 素早い動きで緑色の生物は移動し、彼女の前から姿を消した。男の叫ぶ声が電話から流れる中、女は意識を失った――――。

 ――13:00−草間興信所−
「私を私が殺しに来るんです‥‥きっとそう、節子も智美も‥‥きっと‥‥アレに食べられたんだわ‥‥」
 女は蒼白の顔で俯いたまま、ブツブツと独り言のように呟いていた。武彦の言葉も聞えているのかさえ定かで無い。まるで呪文のように、同じ事を言っては小刻みに身体を震えさせていたのだ。
 煙草を吸いたい気持ちを抑えて、武彦は軽い溜息を洩らした後、口を開く。
「つまり、緑色の饅頭を食べた日の夜中に吐き気を感じたら、口の中から緑色の生物が出て来て、姿を消した。或る日、あなたは自分とソックリな人物と遭遇して、殺されそうになった‥‥という事ですね?」
 ――ドッペルゲンガーか? なら、緑色の生物は何だ?
 思考しながら彼は煙草を取り出し口に咥え、我に返ると、手にしたライターをテーブルに置いた。

「ただいま〜☆ おにいさん、御饅頭買って来ましたけど食べます?」
「ひっ! まんじゅうーッ! まんじゅう〜ッ! ヒヒイィィィィッ!!」
 自分の髪の毛を両手で掴み、奇声をあげる女。ブチブチと長い髪の毛がブチ抜ける不快な音が響き渡った。
 嬉しそうに箱を持った零は、普通じゃない状況を察して言葉を飲み込む。
「おにいさん‥‥あの‥‥」
「零、この饅頭は食べるな! それと、応援を頼む」
 バタバタとスリッパの音を響かせ、少女はダイアルを回した。

●集いし者たち
「はい☆ お茶どーぞ♪」
 零はトレイに4人分のアイスティを乗せて差し出した。集まった4名の手がお礼の言葉と共にコップを取っていく。早速ゴキュゴキュと喉を鳴らして飲み干したのは藍原和馬だ。
「やっぱ暑い時は冷たい飲み物が効くよな〜!」
「なら、この黒いスーツどうにかしたら? 見ている方も暑くなるわよ」
 一口飲んで切れ長の青い瞳を流すのはシュライン・エマである。彼女は当然、興信所の事務員として元々来るつもりであり、今回の件に参加した訳だ。小麦色の肌も健康的に、和馬は「男の拘りってやつさ」なんて空のコップに氷を涼しげに鳴らして澄まして見せるが、様になっているのか否か。
「あ、お代わり持って来ますね」
「あッ、零ちゃん俺にも頂戴☆」
「はい♪」
 のほほんとした少年がコップを空にして差し出す。否、目許がややハデで、パッチリしたツリ目と、ふさふさした黒髪も相俟って幼さを残しているが、夏野影踏は立派な大人である。そんな中、穏やかに苦笑して腰をあげたのは隠岐智恵美だ。
「あら‥‥あらあら、零ちゃんも休んだら? お代わりは私がお持ちしますから」
 智恵美は修道服を身に纏い、厳かな感じを漂わす妙齢の女性だが、その風貌から、大らかでノホホンとした性格を読み取るのは容易い。
「えっ? お客様に悪いですよ」
「あらあら、私は偶然立ち寄っただけですから、気にしなくても構いませんよ。ささ、腰を降ろして下さいな」
 小首を傾げて微笑む智恵美の肩で、柔らかそうな茶髪が揺れる。この笑顔に敵う相手が何人いるものだろうか。
 シスターが台所に行く中、和馬はテーブルに置かれた緑色の饅頭を手に取り、目線を合わせて覗き込む。
「緑色をした饅頭か‥‥。オカルト系の掲示板で書き込みを見たけど、実際に見ると気味が悪いねェ」
「俺も仕事先で話聞いたんだよな、実際どうこうなってるの見た訳じゃないけど‥‥」
 影踏も和馬の手に乗った饅頭を覗き込む。自然と端整な風貌が、精悍な小麦色の顔に近付くが、偶然か必然か。
 ちょっと近付き過ぎじゃないか? と頬に汗を垂らしつつ、和馬は饅頭を真っ二つに分けた。中の餡子らしきものも緑色だ。抹茶風味と思えば見えなくはないが、どこか不気味な色彩を放っていた。
「饅頭の中に何か仕込んであるんじゃないのか? ‥‥言っておくが、饅頭は食べないぜ? 実験台だけは勘弁してくれ」
 チラリと傍の顔に黒い視線を流す。慌てたのは影踏だ。
「なんだよ、俺だって食べるのはヤだよ。吐くの、嫌いだもん」
「あらあら、ネットの噂だけかもしれませんよ? 食べたら美味しいかも」
 ――嘘だ! この女性(ひと)は笑顔で罠を張ってやがる!
「そんな訳ないでしょう? 智恵美さん、悪戯が過ぎますわよ」
 呆れた風にシュラインが中性的風貌に微笑みを浮かべて軽く咎めた。それでも彼女は「あら、お見通しですね」と笑顔だ。敵に回したくないと誰もが感じた事だろう。そんな中、口を開いたのは影踏だ。
「一番手っ取り早いのは誰か食べてみて反応を見る‥‥なんだろうけど、万が一って考えるとマズイよなぁ。他には、その逃げた依頼人に張り込むとか‥‥饅頭を分解して調べるとかか? なんか幻覚作用っぽい気もするけど、どーなんだろ。ちょっと可哀想だけど、金魚にでも食べさせてみる?」
 あれこれと表情や仕草をコロコロと変えながら、饅頭をチョット摘んで見る。彼を始めとして事情を聞いた者達は、幻覚作用のある饅頭かもと推測していたのだ。
「駄目ですよ! 金魚さんが可愛そうじゃないですか?」
「いずれにしても、武彦さんが依頼人と共に戻って来ないと話は進まないわね」
 シュラインが肘を抱くように両腕を組み、現状に結論を出した。詳細は本人から聞かなければ分からない。
 沈黙が室内を包み込む中、彼等は帰って来た――――。

●心にケアを――優しさと労わりの中で
 逃走した依頼人である若い女を連れて来たのは、追い掛けた武彦と途中で追跡に加わったササキビ・クミノであった。零を含めた5名の男女は依頼人を出迎える。年齢も様々なら雰囲気も違う。
「大変だったわね。さ、中に入って」
 その中でも傍に寄り背中を優しく押して室内に招き入れたシュラインの瞳と、「あらあらあら、もう大丈夫ですからね」と苦労を労い慈しみを与える智恵美に優しさを感じたものだ――――。
 彼女は震える手でコップを握りながら、自分の状態と友人の事を偽り無く話した。皆、親身になって聴いてくれているように感じたからだ。それから数名は素早く動き出し、役割を分担すると興信所を飛び出したのである。

●推測を元に――情報は足で稼げ!(智美編)
 依頼人から友人宅を知った者達は、それぞれ、節子と智美の探索と調査に駆け回っていた。
「饅頭が卵かしら? 人体温で孵りその人物姿に擬態とか」
「考えられなくはないな」
 シュラインと武彦は車で智美の家へと向かっていた。彼女は親と住んでおり、依頼人の話に因ると極一般的な中流家庭育ちのようだ。
「‥‥悪意のある存在なのかしら」
 シュラインはノートパソコンで情報収集を続けながらポツリと呟いた。人間では無いにしても穏便に済むなら越した事はない。
「もし、擬態するなら彼女が言っていた結果が濃厚だ。最悪の状況も視野に入れるべきかもしれないな」
 ――きっと殺されている。
 依頼人の言葉だ。それに彼女は自分に擬態した存在と出会っている。同じ姿の相手が会いに来る理由は何であろうか?
「着いたぞ」
 そこは有り触れた閑静な住宅地だ。車両が交差できる程の道路が引かれ、左右に様々な家が建ち並んでいる。二人は近くの公園沿いに車を止め、智美の家へ向かった。
 普通のプッシュホンを押すと、チャイムが小さく流れて来る。
『どなた?』
「智美さんの同僚です。在宅中ですか?」
 ここはシュラインが口を開いた。男よりも女の方が真実味があるし、何より警戒も解れ易いというものだ。
『はい、待って下さいね』
「いるみたいよ」「らしいな」
 顔を向き合い視線を交差させる中、玄関のドアが開いた。中から顔を覗かせたのは、依頼人と同じ年齢らしい眼鏡を掛けた女性だ。
「あの‥‥智美ですけど」
「私は先日入社した者です。先輩に挨拶に伺いたくて‥‥お邪魔ですか?」
「いいえ‥‥そうですか。中に入って下さい」
 戸惑いを浮かべながらも、智美はドアを開いて招き入れようとする。しかし、シュラインは胸元で両手をあげて申し出を断わった。
「いえ、車を止めていますから、公園で少し時間を頂けませんか?」
「構いませんよ。母さん? 私、出掛けて来ます」
 奥に聞えるよう声をあげると、そのまま彼女は外へ出て来た。警戒していないのか? それとも彼女は未だ人間なのか?
 暫らく歩くと、公園に辿り着いた。空は夕焼けに染まり、人影は幸い見えない。尤も、何か結界が張れる人物でもいればと思ったが、人目を避ける術を持つ者は集まらなかった訳である。
「何ですか? お話って‥‥あっ! くうぅぅッ!」
 穏やかに訊ねた女は突然耳を抑えて身体を丸めた。因みに傍にいる武彦には聞えていないが、何をしたかは推測できる。シュラインは、人間には不可聴音の耳障りな超高音を発したのだ。
「あなた、人間じゃないわね。智美さんはどうしたの?」
 智美はゆらりと立ち上がり、ゆっくりと微笑みを浮かべて口を開く。
「‥‥やっぱり、変だと思った。でも良かったわ」
「何が良かったのかしら?」
「だって、いきなり殺そうとしなかったんだもの。私は智美じゃないけど、智美よ。あの人間の記憶は全て取り込んだから、癖や考え方も同じ★」
「油断するな、何が言いたい!」
 シュラインの傍に寄り、武彦は智美と名乗る者を睨み付けた。女は相変わらず余裕の笑みで口を開く。
「お母さんや家族を哀しませたくないでしょ? だって、私は智美なんだもの。‥‥オリジナルがいなければコピーだって本物よ」
「智美さんを‥‥殺したのね」
 シュラインの切れ長の瞳が鋭さを増す。
「殺す? 正確には呑み込んだってとこかしら? 死体や殺した痕跡は命取りってTVで言うじゃない‥‥! ま、待ってよ」
 余裕の笑みが慄きに変容した。ゆっくりと後ずさる中、シュラインの手にある物に動揺する。
「この中には液体窒素が入っているわ。ドライアイスも用意したけど、どちらがお好みかしら?」
 時期と体内孵化から寒さに弱いと判断して、シュラインが用意したものだ。智美は怯えた色を浮かべて震える口を開く。
「ま、待ってよ! 私が死ねば家族が哀しむわよ。私は智美そのものだもの! いいの? このまま見逃してくれたら何もしないわよ。あなた達の所為で一つの家族が哀しむ事になるのよ?」
 ――何もしないから。
 できれば穏便に済ませたいのは確かだ。生まれた結果が人を殺したとしても、既に悪意は感じられない。
 大切なのは今の状況か? それとも人を殺した罪の制裁か?
「‥‥あなたの目的は何なの?」
 シュラインは迷っていた。オリジナルの智美には悪いが、悪意が無ければこのまま生活させても、誰も傷つきはしない。
「私は生まれて来る事が全てよ。そして私は家族と共に暮らして恋をするの。結婚したら子供を産んで幸せな家庭を作るわ」
 智美は嬉しそうに未来を語った。
「何なの? その為に人を一人消しても許されるの?」
「許される訳がない。だが、彼女が言うのも事実だ。一人娘が呼び出されたあと失踪したら、残された家族に待つのは辛い日々だろう」
 しかし、何が一番これからの為になるのか――――
「そろそろ私、帰ってもいいかしら?」
「ああ、行け。だが家族に何かあれば分かっているな」
 一瞬動揺を見せたシュラインだが、武彦は迷いを断ち切るように言い放った。智美は「ありがとうございます」とお辞儀をすると、家族の待つ我が家へ駆けて行った。
「武彦さん‥‥」
「シュラインは合流してくれ。彼女の家は俺が張り込む」
 結論を出した訳ではない。今は結論が出せないだけ――――。

●追い詰めた先にあるもの
「お姉さん♪」
「あら? なんだお嬢ちゃんじゃない。おや、お客サン呼んでくれたの? いらっしゃい!」
 零の声に丸いサングラスの女は気さくに応えた。少女の背後にズラリと並ぶ4名。シュライン、クミノ、和馬、影踏である。
 ズイッと覆い被さるように顔を近づけたのは小麦色の肌の男だ。
「ネェチャン、営業中悪いんだけど、顔貸してくれんか?」
「な、何か?」
「いいのよ、ここでお話しても」
 シュラインが澄まし顔で告げた後、影踏が小さな声で男に耳打ちする。
「饅頭に一個ヘンな色のがあったんだけど、腐ってんじゃないの」
「えぇッ!? そんな馬鹿な‥‥分かりました。奥で聞きましょう」
 周囲の目もあるし売上にも響く。女は路地裏へと促がした。
「それで、どんな色をしてました?」
「緑色よ」
「えッ?」
 クミノの言葉に女は素っ頓狂な声をあげて振り向く。出口は元より、逃げ道すらない現状に、戸惑いを見せた。
「‥‥お客サンじゃないようですね」
「目的は何なの? あれを食べれば卵が孵って、食べた人間に擬態する事は調査済みよ」
「営業妨害よ。冗談は止めて下さい!」
「そうかしら?」
 クミノが抑揚のない声で口を開く。
「あなたが配ったか、誰かが作ったか知らないけど、饅頭‥‥来る前に焼いたわ」
「やッ、焼いただとぉッ!?」
 サングラスの女は声を荒げた。怒りで肩が戦慄き、黒いレンズの奥では瞳が煮え滾っているのは推測できる。
「よくも〜、我が子達をォォォッ!!」
 スマートな肢体を包み込む黒い衣服が膨れ上がった。皮膚が罅割れ、鮮血が噴き出す中、後頭部を血の噴水と共に突き破り、整った口が大きく縦に開く。奇声をあげるソレは正しく異形の化物だ。衣服が弾け跳ぶと、見た事もないシルエットが曝け出された。身体中の気管が浮き彫りにされたメタリックな質感を持つ爬虫類のような化物である。
「へッ! 正体を現わしやがったな!」
「和馬、俺を守ってくれよな♪」
「何だよ、影踏おまえ戦闘能力とかないのかよ?」
 ピッタリと背後にしがみ付く青年に、和馬は動揺しつつ呆れた。
「うん‥‥和馬☆ 私を守って♪」
 男の肩から顔を覗かせた影踏の風貌は美少女のものに変容し、声すらも鈴のような響きを湛えている。これが先祖返りという彼の特殊能力なのだ。しかも効果は一瞬と有り難味も少ない。
「シュラインさん、和馬さん、集中するから時間を稼いで」
 クミノは瘴気を身体に纏わせ、静かに瞳を閉じる。
「ったくよ、やってやるぜ!」
 和馬は先ほどの女のように衣服を膨れ上がらせた。動揺したのは影踏だ。刹那、頭には獣の耳が現れ、モーフィングするかの如く顔が伸び、口が横に裂けた。瞳は鋭い狼のものへと変容する。
「援護するわ!」
 シュラインが聞えない声で張り上げた。視覚できないが、波紋の如く超高音が異形の化物に放射されているのであろう。その証拠に酷く苦しそうな奇声を発していた。その隙にワーウルフと化した黒い獣が肉薄すると、渾身の一撃を叩き込んだ。吹き飛ばされ、壁を背中で砕いて倒れ込む異形のシルエットが噴煙の中に浮かび上がった。
≪グフッ、グフフフッ、やはりコノほしはトクベツだったか≫
「何を言ってるんだよ!」
≪だが、ワレワレのモクテキはフセゲヌゾ≫
「目的? そうよ、記憶を持ったまま摩り替わって何をするつもりなの!? 普通の生活をするって言ってたけど」
≪ソウ、ときがクルまでコドモタチはシラナイ。シンリャクにオオクのヘイキなんかヒツヨウないのだ≫
 ――侵略!?
≪オマエタチにフセゲやシナイ≫
「‥‥防いでみせるわ」
 クミノは意識を集中させる中、ゆっくりと両手を付き合せる。刹那、黒いエネルギーが放たれ、異形の化物を貫いた。傷口が黒い光を迸らせ、メタリックなシルエットを侵蝕してゆく。化物は放電する身体に悲鳴をあげ、口から緑色の塊を吐き出すと、息絶えたように倒れた。
「うっわ〜、こいつゲロ吐いて死んだみたいだよ」
 明らかに嫌悪感を露にする青年を擦り抜け、シュラインが駆け寄る。まだブクブクと泡を放つスライム状の塊。その中にシルエットを捉えたのだ。
 ――殺す? 正確には呑み込んだってとこかしら?
「まさか」
 僅かに躊躇ったが、シュラインは緑色の塊に両手を突っ込む。膜が裂ける感触とドロドロとした粘液が両手を包み、不快感が彼女を襲う中、一気に腕を広げて膜を大きく裂いた。刹那、中から粘液と共に現れたのは、あの女性だ。
「クミノさん手伝って。ほら男はコッチ見ない!」
 どうやら呑み込まれた本人は殺された訳でもなさそうだ。

●エピローグ
「命に問題はありませんでしたよ」
 カーテンを開けて現れたのは智恵美だ。気功術を長く行使した為か微笑みの中に疲労感が浮かび上がっていた。
 捜査に動いた者達が興信所に戻った所、依頼人も無事だった。恐らく居場所は掴めても付け入る隙が無かったのであろう。もし、智恵美が離れずにいなかったら、呑み込まれていたかもしれない。
「良かったわ。これで彼女を倒しても智美さんは助かる訳ね」
 シュラインは安堵の息を吐いた。クミノも次の行動は認識済みだ。
「私は節子さんに化けた敵を倒すわ」
「つまり一件落着って訳だぜ! ったく、何が防げねぇだよ」
 和馬は何杯めかのアイスティを口に運び、優雅にソファーで足を組んで寛いでる最中だ。そんな中、影踏はパソコンを弄りながら小さく呟く。その表情は青褪めているようにも見えた。
「‥‥そんな、ジョークだろ?」
「どうしたの? あら、アメリカのページ?」
 モニターを覗き込んだシュラインが視線を流してゆくと、瞳を見開き固まる。
「どうかしたのか? シュライン」
「‥‥緑色のソーセージと緑色のホットドック流行中‥‥」
「他のサイトも検索してみて!」
「韓国で緑色の肉まんブーム到来!? そっか、緑で各国に合わせて検索すれば‥‥」
 モニターに映し出されたのは、検索に引っ掛かった数万のサイトだ。尚も羅列され増え続けてゆく。
 ――オマエタチにフセゲやシナイ
 女はベッドで瞳を開いた――――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1533/藍原・和馬/男性/920歳/フリーター(何でも屋)】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【2309/夏野・影踏/男性/22歳/栄養士】
【2390/隠岐・智恵美/女性/46歳/教会のシスター】

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■         ライター通信          ■
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 この度は発注ありがとうございました☆
 お久し振りです♪ 切磋巧実です。
 数多くの物語に参加されておられるPC様を演出させて頂くのは、なかなか緊張ものでしたが、いかがでしたでしょうか? 
 さて、今回の物語コンセプトは『後味の悪いB級映画』でした(苦笑)。どう頑張っても全ての解決にはならない位に侵蝕している現状に、PC達は何を見るのか? って感じです。一寸した真夏の悪夢と思って頂けると幸いです。
 この物語は全て解決するには世界規模的な問題ですので、続編的ものは予定していません。が、もし希望される場合は教えて下さい。「今度は戦争だ!」と2を考えたいと思います(笑)。
 尚、今回は4本のエピソードに一部分けられています。他の方のも読んで頂けると全体的流れが見えて来るかも(おいおい、かもかよ)しれません。
 シュラインさんは優しい方ですね。話し合いで平和的解決を模索するとは予想していませんでした。タイトルがタイトルですし、B級映画は情け容赦ないですよ(苦笑)。そんな訳で解決まで読み進めれば円満に解決しそうですが、調査シーンの選択しか道が無かったら、どうするだろうかと気になります。倒しましたか? それとも見逃していましたか?
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆