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<白銀の姫・PCクエストノベル>


Fairy Tales -another- 〜湖の貴婦人〜


【フラグ:Dabit deus his quoque finem】

 神聖都学園大学部電子工学科の大学院研究室へ、セレスティ・カーニンガムは足を運んでいた。
 なにやら忙しなく動き回るスタッフ達が言うに、先日まで意識不明で入院していた都波・璃亜は、眼を覚ました早々弟や医者の言葉を遮って『Tir-na-nog Simulator』のある奥の部屋に篭っているらしい。
 入院していたにもかかわらず、そんな無茶な行動に出ることは、身体を壊すと散々回りが言っても聞かないため、研究室と『Tir-na-nog Simulator』の安置してある部屋の行き来をする人が多くいた為、忙しなく見えていたようだ。
「すいません、セレスティさん。折角来てくださったのに」
 ため息混じりに的場・要が頭を下げる。
 そして「珈琲はいかがですか?」と、問いかけた。
 セレスティは笑顔で「頂きます」と答え、しばらくして珈琲のいい香りが研究室内を充満していく。
 誰かが珈琲だけはこだわりを持っているらしく、豆から淹れないといけないらしい。
 そんな作業中の的場に向けてセレスティは問いかける。
「的場さんは、ゲーム内へとアクセス出来る様な個別PCを創る事は可能でしょうか?」
 先日アリアを連れてきたというだけの関係上、セレスティも的場もお互いの事は余り知らない。
「僕は新しく創るのは実は苦手なんですよ」
 今までにある物をまるっと暗記してしまう能力には長けていたが、それを利用して新しい物を創るということは不得手、所謂的場は応用力に欠けた人間。
「的場さんの物でなく、デフォルトの遠隔操作できるような簡易PCでも構いません」
「あぁ…それなら」
 元々プレイヤーと同じ立場で物を見ていたのが、黛・慎之介等のゲームマスター。しかしそれはこの白銀の姫が異界化してしまった時に、“元々創られていたプレイヤーキャラクタ”というものだったため現在は存在していない。しかし、開発側がNPCを装っていたPCはそのまま存在するらしい。
「でも、どうして?」
 的場の問いかけに、セレスティはこう考えていた。
 外部からだけでなく、内部からも『Tir-na-nog Simulator』を操作する事が出来れば、もっと円滑に事が運ぶのではないかと予想して。
「一応、念のため」





 やはりログインしたパソコンからのみログアウトが可能ならば自宅の方が安心できると、セレスティは早々に屋敷へと戻る。
 そして、軽いタッチでパソコンを立ち上げ、白銀の姫へとアクセスした。
 瞬間のフィードアウトの後、景色は一転して変わる。
(この世界とも、最後なのでしょうか……)
 セレスティは周りを見回し、自然と懐かしむような優しい笑みを浮かべる。
「セレスティさん」
 名前を呼ばれ、振り返ってみれば綾和泉・汐耶と、作業中のはずの璃亜の姿。
「どうなさったんですか?」
 てっきり作業しているとばかり思っていましたと、言葉を続けんばかりの問いかけに、璃亜はにっこりと微笑んで答える。
「私だって、この眼で見てみたかったんです」
 慎之介の感動ぶりを思い返せば、璃亜がそう思うのは仕方のない話なのだろう。
「ご一緒してもよろしいですか?」
 開発者である彼女の行く先に一緒についていけば、今までとは違った物を見る事が出来るかもしれない。
 そんな好奇心がセレスティの心にふと浮かび上がる。
「一緒に行くのは構いませんよ?」
「ぜひお願いします」
 何のことも無く璃亜は答えるが、汐耶は目的地までの道中を考え、セレスティの同行に力強く同意する。
「どうかしましたか? 汐耶さん」
 そんな彼女の口調に流石のセレスティも、はて? と首をかしげ問いかける。
「いえ、私達これからルチルアちゃん…いいえ、ゼルバーンに会いに行こうと思ってて」
「なるほど」
 ルチルアではないゼルバーンが身を隠すとすれば、クロウ・クルーハが棲家にしていたという竜の巣ぐらいだろう。
 そこへ向かおうというのだから準備も必要だと思うのだが、如何せん璃亜は呑気だ。
「そうですね、馬車でも借りてしまいましょう」
「ありがとうございます」
 NPC達はまだ消えていない。
 ならば、馬車を借りることも可能だろう。
 これは最後のちょっとした冒険だ。





 竜の巣にて、ルチルアに戻っていたゼルパーン―――
 いや、ルチルアを連れてジャンゴへと戻る。
 汐耶はもう少しルチルアと一緒に居ると、ジャンゴについてから別行動となった。
 別段一緒に行動する理由もないし、汐耶もルチルアと2人で話したいような雰囲気もあったため、すんなりと別れを告げた。
 しかしルチルアの汐耶への懐きようはどこか姉を慕う妹のようにも見えて、とても微笑ましいもので、セレスティは思わず口元から笑みがこぼれる。
「これからどちらへ?」
 今度は女神達に会うために行動を取ろうとしていた璃亜へと問いかける。
「女神達の部屋か、知恵の環へ、でしょうか」
 今の位置から近い方へと向かおうと思っているらしい。
「知恵の環が近いでしょうか」
 セレスティもその言葉に現在の位置から考えて、知恵の環へ向かうことを提案する。
「なら、知恵の環へ」
 そうして行き先はすんなりと決まり、セレスティと璃亜は知恵の環へと足を向けた。
 ぎぃっと知恵の環の扉が開けると、知恵の環常連女神ネヴァンと来栖・琥珀が同時に顔を上げる。
「可愛い〜!!」
 入り口の扉でぱぁっと顔を輝かせて璃亜はそう宣言すると、ネヴァンの元へと近づく。
 その光景をくすくすと笑いながら眺めながら、セレスティは後に続くように知恵の環へと足を踏み入れた。
「誰…?」
 突然の見知らぬ来訪者にネヴァンは琥珀の後にすっと隠れる。
「璃亜さん、どうしたんですか?」
 この世界には来そうにもない人が今目の前に立っている。
「皆それ聞くなぁ」
 琥珀の問いかけに璃亜は苦笑して、お決まりのように「私も見てみたかった」と答える。
 そう、本当に見てみたかったのだ。
 自分達が創り上げた世界を、自分の瞳で。
「初めまして……になるね」
 実質いつもこの4つを操作していた開発チームに渇を飛ばすだけで、触る事はしてこなかった。だから、本当に璃亜にとって個々の女神は初めましてなのだ。
 そっと琥珀の後で小さくなっているネヴァンに手を伸ばす。
 突然の事にぎゅっと小さくなってしまった彼女の頭をそっと撫でて、他の女神よりは小さいとはいってもそれなりの重さがあるであろうネヴァンを抱き上げた。
「ぁっ」
 ゆったりとした笑みを浮かべて、本当に微笑ましくその光景を見つめるセレスティ。
 琥珀も何だか自分が入り込むような余地はないと、すっとその場を離れるとセレスティと肩を並べてその光景を見る。
 少しだけ状況についていけないネヴァンは不安そうな顔色を浮かべていたが、耳元で何か言われたのか、はっと一瞬瞳を大きくして璃亜を見ると、ぎゅっとその首筋に抱きついた。





 琥珀はセレスティ達と共に行くことにしたらしく、知恵の環から手を振るネヴァンに手を振り替えしている。
「ここからですと、モリガンさんの居城が近いと思いますが?」
 セレスティの言葉に璃亜は頷くと、そのまま歩き出す。
 何かあった時以外は自分の城(部屋?)にいる事が多い女神たち。その中で、この場所からならネヴァンを除けばモリガンが近いだろう。まぁもしかしたら三下・忠雄にも会えるかもしれない。
 颯爽とモリガンの城へと足を踏み入れると、気だるそうにクッションに身体を預けたモリガンがすっと顔を上げる。
「うわ……」
 小さく口にした璃亜の言葉に、セレスティと琥珀は苦笑を浮かべ、モリガンはぴくっと柳眉を吊り上げた。
「何か用事かしら」
 情けなさ全開の三下の勇者化育成に相当疲労困憊が見て取れるモリガンは、何処かイライラしたような口調で一行に問いかける。
 じぃっと上から下までを眺める璃亜の視線に気が付いたのか、モリガンはゆっくりと立ち上がると、コツコツとヒールの音を響かせて怪訝そうな瞳を向けてきた。
「新しい私の勇者様?」
 起動AIではなく『Tir-na-nog Simulator』の直接操作は女神達に現状を知らせないのだろうか?
 セレスティはふとそんな事を考え、傍観するようにモリガンと璃亜を見つめる。
「璃亜さんは勇者じゃなくて、開発スタッフさんですよ」
 助け舟となったかどうかは定かではないが、そう言葉を発した琥珀にモリガンは表情を変える。
「…創造主だって、言うの?」
 苦笑気味の含み笑いで、璃亜は正確には答えない。
「まぁ、いいわ」
 すっと一行に背を向けて髪をかき上げながらクッションへと戻っていくモリガンに、璃亜はそっと口を開く。
 ネヴァン同様はっとして振り返り、驚きに大きくした瞳を伏せると、完全に背を向けてしまった。
「……っていうか、考ちゃんどういう趣味してるんだろう」
 モリガンの城を後にして璃亜が呟いた言葉に、セレスティと琥珀はその後何故か浮かんできた笑いに顔を見合わせる。
 さて、後はマッハとアリアンロッドだ。
 マッハはこの不正終了でまき戻る現状よりも、最強になることを目指しているため、会うかどうかはどちらでもいいかもしれないが、アリアンロッドにはあって置いた方がいいだろう。
 しかし、アリアンロッドに現実世界に帰してもらう予定だから、と勇者の泉−酒場へと足を運んだ。
 案の定…と言っては悪いかもしれないが、マッハが近場の冒険者と飲み比べを行って、かなり煩い状況が出来上がっている。
 本当に、誰も知らないのだ。
 少しずつ人が減っていっていることも、もう直ぐこの巻き戻しの世界が終る事も。
「うわ! ここだけ見ると、凄い人」
 確かに人が集まる酒場では他の場所より人が沢山居るように見えるだろう。
 しかし知らずに取り込まれてしまった人達の数と比べれば一握りしか存在しないのも事実。
「何か、飲んでみますか?」
 紅茶を飲むのであればいつものカフェへと赴きたい所だが、目的はマッハと出会うこと。
 だから、ここで何か食べてみないか? と、セレスティは問いかけた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと、美味しいですから」
 そんな提案に乗るように琥珀も後を続ける。
 しかし、
「うーん…そろそろ、長居はできないから」
 と、人を掻き分けマッハの元へと進軍していく。
 飲み干した酒樽をドンと床に置き、璃亜を見たマッハの反応も、他の女神達を同じだった。
 一瞬酒を飲むのを止めたマッハだったが、ギャラリーの1人が言った「降参か?」の一言でまた大酒を食らいはじめる。
 人ごみかき分け酒場から外へ出ると、
「最後“アリアンロッド”に会って、帰してもらいます。付き合ってくれてありがとうございました」
 璃亜は一言そう言って手を振って去っていく。
 最後まで一緒に行動してみても良かったかもしれないと思ったが、酒場から出たあの言葉は遠まわしに拒否されているような気がして、ただ手を振り返す。
 ふと、今日出会わなかった人達は何をしているのだろうかという想いがセレスティの中を駆け抜け、なんとなくジャスパー・リングに言葉をこめた。







to be end...




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳/都立図書館司書】
【3962/来栖・琥珀(くるす・こはく)/女性/21歳/古書店経営者】

【NPC/都波・璃亜(となみ・りあ)/女性/27歳/情報講師】
【NPC/的場・要(まとば・かなめ)/男性/24歳/大学院生】


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■         ライター通信          ■
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 Fairy Tales 本編補足編-another- 〜湖の貴婦人〜にご参加くださりましてありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。今回の登場人物は(名前だけでも)出てきている人のみとさせていただいております。このお話は本編のエンディングへと続いております。今回の-another-は全てにリンクしており、ご自分がプレイングした伏線が他者様納品ノベルにて生きていたり致します。
 明確にこれと言った目的という物より、一緒に行動したいという気持ちが強いと判断いたしまして、結構いろいろなところいいとこ取りみたいな感じにしてみました。分かりにくかったらすいません。
 それではまた、セレスティ様と出会えることを祈って……