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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



(お。かわいい)
 そう思って成瀬冬馬は視線を向けた。
 窓際に座る長い髪の少女と、彼女と談笑するボブカットの少女。冬馬は嬉しそうに微笑んだ。少し緩み気味ではある。
 ぴりっと、背筋に悪寒が走った。
(ん?)



「ねえねえ、そこのカワイイお嬢さんたち」
 声をかけた冬馬は、一斉に見られてちょっとウキウキしてしまう。
 一番美人なのは黒髪の女の子。ちょっとツリ目で性格がキツそうだが、美人は美人だ。ボブカットの女の子は小柄でかわいい感じ。いや、ちょっとばかり野生動物っぽいが。
「どちらさまですか?」
 半眼で見てくる黒髪の少女の厳しい視線に、冬馬は苦笑して肩をすくめてみせた。
「ボク、成瀬冬馬。大学生」
「ナンパだ! すごいや!」
 なぜか感心している小柄な少女の言葉に、向かい側に座っていた金髪の少年が呆れる。
「目の前でナンパを見れるなんて貴重な経験だよ! で、奈々子の対応は?」
「あのねぇ……なにを楽しそうに言ってるんですか、あなたは」
「あっはっは。面白い子たちだなあ」
 爆笑する冬馬。
「実はちょっと勘が働いてね。なにか困ったことになるって思ったからこうして声をかけたんだよ」
「最近のナンパって、こういう感じなの?」
「わ、私に訊かないでください!」
 だが、冬馬の言葉に別の反応をしたのは金髪の少年であった。青ざめて、視線をそらす。
 彼の様子に奈々子と呼ばれた少女はぴくりと眉をあげた。
「薬師寺さん……なにか隠してませんか?」
「え……?」
「声が裏返ってるよ、正太郎」
「うぐ」
 正太郎と呼ばれた少年は仕方なさそうに鞄から一枚の写真を取り出す。それをすぐさま奈々子が取り上げた。
「持ってきているならさっさと出してください!」
 少女二人と、冬馬は写真を覗き込む。
「……なんか変なジジイが写ってるね、これ」
「朱理! ジジイとはなんですか!」
「だってホントのことじゃん」
「これってさ、疫病神じゃない?」
 冬馬の言葉に、奈々子と朱理は顔を見合わせる。朱理はゲラゲラと笑い出した。
「疫病神ぃ!? こんな頭の薄いジィさんが? あはははは!」
 腹をかかえて笑う朱理を見て、奈々子のこめかみに青筋が浮かんだ。
 ぼごっ。
 鈍い音と共に朱理が沈黙してしまった。頭の上には大きなコブが一つ。
(う、うへえ。こわっ。あんまり逆らわないようにしようっと)
 内心そう思ってしまう冬馬であった。
「確かに怪しげな感じがプンプンしますね……。薬師寺さんはどう思います?」
「……確かに、ここに来るまでいいことなかったよ。犬のフンは踏むし、電柱に頭ぶつけるし……」
「なんか些細なことばかりですねぇ」
「なに言ってんだよ、他人事だと思って! ほんとに色々大変だったんだよっ!」
 正太郎の言い分に奈々子は神妙な顔になる。
「どうやらこの人の言ってることは本当のようですね……。あなた、なにか不思議な力があるんですか?」
 話題をふられて冬馬はにっこり微笑む。
「その話はちゃんとするって。まず、お名前を聞きたいかな」
 奈々子がむっ、として顔をしかめるが嘆息してから自己紹介をした。
「私は一ノ瀬奈々子。こっちが薬師寺正太郎さん。そして、こっちで寝てるのが高見沢朱理です」
「朱理さんは寝てるわけじゃ……」
「それでは、薬師寺さんの横に座ってください」
「……ボクの意見は無視か」
 がっくりと肩を落とす正太郎は奥のイスへと移動し、冬馬の席を空ける。
 冬馬は軽く片手を挙げて正太郎に挨拶し、腰掛けた。
「えーっと、奈々子ちゃんに、朱理ちゃんね。了解。かわいいねえ、名前も」
「……まじめにしてください」
 奈々子の冷たい声に、冬馬は明るく笑ってみせた。



「……あのさぁ、なんであたいがこの写真持つの?」
 ぴらぴらと写真を振る朱理の後頭部を、奈々子が軽く小突いた。
「この中ではあなたが一番戦闘能力があるんです。我慢してください」
「……へーい」
 朱理は呟き、その瞬間ふいっと後ろに一歩退がる。
 どしゃ。
 朱理が居た場所に植木鉢が落ちてきたのだ。
「ひえええええっっ! 朱理さん危機一髪だよ!」
 朱理にしがみつく正太郎。冬馬は口笛を吹いた。
「すごいねぇ。朱理ちゃんて運動神経いいんだ」
「いやあ、なんとなくなんだけどなぁ、あたいは」
「でも、これでハッキリした。やっぱりその写真に写ってるのは疫病神みたいだ」
「神さまなんて、どうしたらいいんでしょうか……」
 困った顔の奈々子。
 四人はあてもなくウロウロしていたのだ。とにかくこの写真の場所を探している。
「さっき見た限りじゃ、写ってるのはどこかの軒先みたいだ。店の看板が近くにある。ここを探そう」
「面倒だからさ、写真をボッと燃やしちゃうの、どうかな?」
 笑顔で物騒なことを言う朱理の言葉に、奈々子と正太郎が顔を引きつらせる。
「ど、どうしてあなたはそう無鉄砲というか、無神経というか……!」
「そんなことしたら祟りにあうよ!」
「あっはっは。朱理ちゃんて面白い子だなあ」
「成瀬さんも笑ってないで止めてください!」
「奈々子ちゃんに言われたら弱いからね。てなわけで、朱理ちゃん、残念だけど燃やすのは却下ね」
 三人にそう言われては朱理も逆らえない。
 彼女は「へいへい」とやる気のない声で返事をした。
「ところで、どうしてあんな写真を持ってたんだい?」
「そ、それは……」
 口ごもる正太郎の横で、奈々子が冷たく言い放つ。
「それがこの人の能力なんです。無意識に妙なものを撮ってしまう癖があるんですよ」
「へえ。それはすごい」
 ほとんど直感のような冬馬の予知能力とは比較にならないくらい、はっきりしているようだ。
 だが写真に写っている場所なども特定できないことから、正太郎は能力に振り回されているようである。
「そんなことより、ボクは奈々子ちゃんのことがもっとよく知りたいなあ」
 奈々子に笑顔を向けたが、朱理に背中を拳で軽く突かれた。振り向く冬馬。
「やめときなよ。奈々子は身持ちのかたい女だからね」
「じゃあ朱理ちゃんでもいいよ」
「色気のない小娘なんかに手を出したって、いいことなんかないよ」
 皮肉っぽく笑う朱理がやけに凛々しい。
(かっこいい女の子だなあ。こりゃ、同性にモテそうだ)
 じっくりと朱理を眺めている冬馬に、彼女は不思議そうな顔をした。
「? どうしたの?」
「いやあ、朱理ちゃんて男前だなあと思って」
「惚れると火傷するぜい、成瀬の兄さん」
 わざと茶化して言う朱理の言葉に、奈々子と正太郎が突っ込む。
「本当に火傷しますから、成瀬さんは気をつけたほうがいいですよ」
「ほんとだよ……」
 冬馬は二人の嘆息混じりの言葉に首を傾げた。意味がよくわからない。



「ここか」
 冬馬は朱理の手元の写真を覗き込みながら、目の前の光景と見事合致することを確かめた。
 朱理は写真を持ったまま「すいませーん」と無遠慮にのれんをくぐって店の引き戸を開ける。奈々子と正太郎が「ヒィー!」と青ざめた。
 それを見た冬馬が笑いを堪える。
(ぶくく……! 面白い三人だなあ……!)

 事情が判明して、四人は店先で会議だ。
「つまりだ。邪魔だったから店先にあった大きな石をどけたと」
 冬馬の言葉に、朱理は首を縦に振る。
「らしいね。昔からそこにあったらしいよ」
 彼女が指差した方向は、店の前は前だが、家と家の狭い路地の入口だ。塞ぐようにあったのだろう。
 冬馬は腕組みする。
「捨てたってことは、それが関係あるってことかな。何かを封じていたとか、そういういわくがあったとか」
「そうですね。私も同意見です」
 奈々子と正太郎も顔を見合わせて同意した。
「ということは、元に戻すか、その石を祓うか……ってことじゃない? よくあるパターンだと」
 冬馬はいや〜な予感に乾いた笑いを洩らしてそう告げたのである。

 石を四人で探し回り、結局冬馬が一番に見つけた。臨時だが探偵もするのだ。当たり前である。
 だが、山奥に捨てられたその石……いや、岩とも見えるサイズのそれは……粉々になっていた。現在冬馬たちが立っている場所から崖下に落とされたからだろう。
「…………」
 全員がしーんと静まり返り、車の来ない道路に佇んでその光景を眺めていた。
「で、でも、よく店主さんの曖昧な言葉からこの場所を見つけましたよね、成瀬さん。すごいですよ」
「あ、ありがとう正太郎くん……」
「遠いね……。どうすんの? あそこまで降りて割れたの集めんの?」
「かなり距離がありますね……」
 途方に暮れるメンバーだったが、とりあえず下まで移動して、割れた石を集めることにした。
 集めた欠片をそれぞれ持って、あの店の前まで戻ってくる。
「あまり効果はないかもだけど……。まあ、その、これで許してください」
 冬馬は路地にこそっと石の欠片を置く。効果があるかどうかはわからないが……やらないよりはいいだろう。
「ひぃぃぃっ! せ、背中寒いっっ!」
 突然正太郎が悲鳴をあげてドタドタと足踏みする。振り返った全員が、店の前で疫病神がにぃ、と笑って消えたのを見た。
 果たして……許してくれたのだろうか。というか、一体なんだったのか。
「も、もう大丈夫なんじゃないかな」
 冬馬は恐る恐るそう呟いた。奈々子と正太郎は顔を見合わせる。朱理は写真を摘んでぴらぴらと揺らした。
「んじゃ。もうこの写真は燃やしても平気なの?」
「燃やすのはどうかな……。じゃあ、俺が神社かどっかにお祓いに持っていこうか?」
 提案した冬馬の言葉に、奈々子が瞳をきらきらさせる。
「ありがとうございます、成瀬さん!」
「いいって」
 笑ってそう応えた。女の子が困っていたからだという理由は伏せることにする。
 朱理から写真を受け取って、冬馬はしっかりとおさめた。



(へ〜んな三人だったなあ。また会えるといいけ……)
 どばしゃ! と冬馬は水を浴びる。
 動きを止めて横を見ると、水撒きをしていたおばあちゃんによるものだとわかった。ただし、おばあちゃんは目が悪いようでこっちにまったく気づいていない。
(な……)
 最後の最後で?
 にしし、と背後で何かが笑う気配がした。
 冬馬はムッとして歩き出す。
「石を割ったのはボクじゃないのに……!」
 次の日。
 冬馬は熱を出して寝込んでしまった。水を浴びたまま家まで歩いた自分のせいもあったが……絶対違うと、確信はあったのである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/大学生・臨時探偵】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、成瀬冬馬様。ライターのともやいずみです。
 コメディな感じになりましたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。