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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


自殺しようよ。

“―――――僕の名前はナツ。”

“さぁ、皆で楽しく自殺をしましょう。”
掲示板にはそう書かれていた。
“生きてたってしょうがないよ。誰も君なんかいらないんだから。”
“ね、もう苦しまなくてもいいんだ。世界は勝手に滅亡するよ。”
“昼間有り金全部はたいて存分に遊んだら、死者の国に旅立ちましょう。”
この頃問題になってる勧誘集団自殺というものだ。
“死に方は古典的な一酸化炭素中毒でやりたいと思ってます。”
“希望があれば言ってね。死に方なんていっぱいあるんだから。”
“つーか僕はどの死に方でもいいんだけど。どれもやりたいけど、身体って一つしかないのが難点なんだよね〜★”
“というワケで、同士求む!!”


「うわ〜ちょっと雫、ヤバげなのみつけちゃった」
「そう? 結構あるけどなこの手の話」
「ダメじゃん! これ止めなきゃ!!」
「誰か乗り込もうよ。で、阻止するの」
「それいい! で、誰が……」
 雫たちはそろそろと、(見つかる筈ないけど)辺りを見回すのだった。



 数日後…。
「あ、来た来た! こっちです先生!!」
 雫はぶんぶんと大きく自分の居場所が分かるように手を振り回す。
「おう。待たせたな」
「大丈夫ですよ〜」
「言われた通り返信してみたか?」
「はい。返事、来てますよ」
「どれ…―――――」
 ズルズルズル。ジュースを飲む音が響いていた。誰か他にもいるみたいだ。
「他に誰かいるのか?」
 ひょいと、覗き込んだ、先生、門屋将太郎(かどやしょうたろう)はその存在を見つけ眼を丸くする。だが相手は怯む事なく、将太郎に向かってにんまり笑った。
「よぉ将ちゃん。久しぶり〜、元気してた?」
 そこにいたのは、神聖都学園高校二年、前にも将太郎と事件に挑んだ事のある、桐生暁(きりゅうあき)、本人だった。
「な、何でお前がいるんだ」
「いや、雫ちゃんからの頼みでさ〜、俺に潜入捜査してくれって」
 少し脱力気味の将太郎は、ふともう一人隣にいるのに気づく。それを悟って、少女は律儀に席を立った。
「あ、私、神聖徒学園高校三年の藤森大地(ふじもりだいち)っていいます。女の子なのに大地なんです。私も潜入捜査頼まれました、えっと……」
「あ。俺は門屋、門屋将太郎。宜しくな」
「はい! 宜しくお願いします、将太郎先生」
「いいよ将ちゃんでさぁ」
 ドリンクバーで新たにジュースを汲んできた暁がちゃちゃを入れる。
 将太郎が溜息をつく。どうしようもない、というような雰囲気で。
「まぁ、そこら辺は勝手にしてくれ。で、レスにはなんて?」
「スレッドに、先生の言った通り「自殺希望」で送信してみました。そしたら、時間と場所を指定して来ましたよ。先生の言った通りですね」
 雫がパソコン画面を覗きながらう〜むと唸る。
「少しでも多く仲間が欲しいんだな」
「つーか、自殺する前に遊ぶんしょ? 何処で何するって??」
 大地もパソコンを覗き込んで暁の問いに答える。
「今流行りのアミューズメントパーク。ルナーランドだそうです」
「あ、そこのジェットコースター超怖いんだって。いいな〜、雫も行こうかな」
「だ〜め! アンタはここで監視してりゃあいいの。行動は俺たちに任せなって」
「悔しいけど暁の言った通りだ。これは危ない任務だ。もしかしたら一緒に死んでしまうかも知れない。なんなら、大地ちゃんもここで雫と………」
「行きます! 私もこの任務の一員です」
「だったら決まり!! 俺たちも楽しもうじゃないの!!」
 ストローに口をつけ、ジュースを含んで離し、飲み込んでから暁は豪語した。
「だから言ってるだろ。危ない任務だって」
 少々呆れ気味に将太郎はまた、溜息をつくのだった。
 まったく、幸先の不安なメンツだな、と…。



 ここはルナーランドの東ゲート。皆(と言ってもまだ顔も名前も知らない)と待ち合わせの場所だ。きっかり昼の三時。ナイトデイというのを楽しむらしい。夜になればパレードやショウがあったりする。
 目印は主催者のニット帽。この時期、そんなものを被ってるヤツなんてそうはいない。
「だ、大丈夫かなぁ」
 大地が暁の腕を掴んでびくびくしている。
「大丈夫だって。つーか俺、嬉しいんだけど」
 はっとして大地は腕を離した。少し赤面して。
「す、みません」
「いいよタメ語で。大地ちゃん俺より年上なんだし」
「じゃあ、ごめんなさい」
「あー謝んなくていいから、ね」
「う、うん」
「いたぞ」
 将太郎が二人のやりとりに口を挟んだ。
 それは主催者が見つかったという合図。
 なるほど、確かにこの時期に相応しくない格好で一人の男が立っていた。他に三人傍にいる。あの人たちも集団自殺の参加者なのだろうか。
「あの、すみません」
 将太郎が躊躇いもせず口を開く。
「ナツさんですか?」
 するとナツと呼ばれた男は、にたりと妖しく笑ってこちらを見た。
「ええ、そうです。僕が主催者のナツです。よく来ましたね。歓迎しますよ」
 手を差し出したのを、将太郎は拒んだ。
「別に仲良くする気はない。死ぬ時は誰だって独りなんだからな」
「でも、今の僕たちには仲間がいる。恐れる事はありません。独りじゃありませんよ」
「………俺はハンドルネームSYOU。こいつらは……」
「いじめを苦に死にに来ました〜ハンドルネームアッキーです」
「私はハンドルネーム大地です。宜しくお願いします」
「じゃあこっちも自己紹介だ。皆揃ったようだしね」
 ナツがさっとマントを広げるように彼らを示した。
「リストラされて居場所のないハンドルネーム隆俊です」
「姑のいじめを苦に来ました。ハンドルネームよいこです」
「香樹。よろしくね」
 大地ははっとしてその女性を見ていた。
 ?
 暁は不思議そうにそれを見て、小声で言う。
「どうかしたの?」
「あ、あれ、香樹って、私のお姉ちゃん……二年前に家を出てってそれきりで…」
「! おい嘘だろ。何だってまた―――――」
「分からない。でも私のお姉ちゃんである事は確か。だってさっきから、眼合わそうとしてくれないし…」
 確かに、香樹はこちらを見ようとしない。見るといえば将太郎までで、こちらまで眼球を動かそうとしないのだ。
 嘘だろ、おい。と、暁は息を吐き出した。それは溜息にも近い。
「で、僕が主催者のナツ。皆よろしく!」
 一通り紹介が終わった後で、ようやく中に入れる運びとなった。皆各々チケットを買い、入り口の列に並ぶ。
「俺、説得してみるよ」
「え」
「香樹姉ちゃん。だってアンタ、いや大地先輩だって、彼女には生きてて欲しいって願ってんだろ?」
「それはそうだけど……」
「任せときって」
 にっと暁は大地に笑ってみせた。少しおちゃらけたような陽気な笑顔。大地の顔が綻ぶ。少し安心したのだろう。
「俺はナツを説得する。ヤツが事の発端だからな」
「お、将ちゃんも意欲満々だねぃ」
 将太郎が溜息をつく。
「その将ちゃんっての、何とかならないのか。大地ちゃんだって大地先輩って呼び直してるというのに」
「あーそれは無理。もう俺の頭にはアンタは「将ちゃん」ってインプットされちゃってるから。あはは」
「っち。アッキーか…」
「あ、それなし! 俺そのハンドルネームこっ恥ずかしいんだからな! 素直に暁にしときゃ良かったぜ」
「はははは」
 少しの団欒の後、ようやく中に入った各々は皆との親睦を深める為、暫く纏まって行動するようにした。最初はゴーストマウンテン。お化けが飛び交う中を縦横無尽に走り抜くというジェットコースターだ。
「わ! 私駄目です〜こういうの苦手で」
 大地が怖気づく。それを見て、香樹がからから笑った。
「大地は昔っから弱いもんね、こういうの。って―――――あ、ごめん。会ったばっかなのにね」
 もうその嘘ですら白々しい。大地はじと眼で香樹を見ていた。
「あ、そうだな〜私は好きだな〜こういうの」
 同時に暁も大地と同じように香樹を見ていた。口は軽そうだ。説得は容易そうに見える。
 そして彼らの順番が回ってきた。ナツの隣りは将太郎。香樹の隣りは暁。大地は隆俊っていう人と隣りになった。
 ゴウンゴウンゴウン。コースターが上へと上っていく。
 途端、下へ落ちてゆく感覚。これがたまらない!!
「きゃーーーーーーー!!!!!」
 程なくして大地の悲鳴が聞こえてくる。香樹は手を思いっきり上に伸ばして楽しそうだ。暁も嫌いじゃない。存分にコースターを満喫する。
 一方こういうのはあまり得意じゃない将太郎は、眼を回しながら喜んでるのか苦悩してるのかよく分からない表情をしていた。隣りのナツは喜んでいる。心底こういう系が好きなのだろう。
 これじゃあ説得どころじゃない。もっと静かな乗り物でなくては――――……。
 一通りアトラクションを楽しんだ後、軽めの夕食をとって、今度はてんでばらばらに行動する。息の合った者同士は息の合った者同士と。もちろん一人でも構わない。
 暁は早速行動に出た。香樹は一人で観覧者に並んでいた。ようやく彼女の番になった次の瞬間、暁はトビウオのように香樹の真向かいに滑り込む。
「ちょっと、何よアンタ。乗りたいならちゃんと最後尾に並びなさいよ」
「俺は香樹ちゃんと乗りたかったんだよ」
 香樹の顔が見る間に赤くなっていくのが分かる。
 ガシャ。扉にロックがかけられる。これで約二分間は香樹と二人っきりだ。しかも誰にも邪魔されない。こんな絶好の説得ポイントがあっていいのだろうか。
「アンタ、本当に死にたいのかよ」
 香樹が今更何をって感じで口を開く。
「あったりまえでしょう!? じゃなきゃこんな集会来ないって。アンタだって死にたいんでしょ?」
「俺は死にたくないよ。頼まれたんだ。自殺を阻止してくれってね★」
「って、何それ。冒涜でしょ!! 皆本気で死にたがってるのに」
「アンタらは命に対して冒涜なんだよ」
 香樹は暫し口を噤んだ。俯き、唇を噛んでいる。
「知ってんだろ。アンタの妹がいるって。心配するなよ。アイツも俺たちと同じ阻止しに来たんだから」
「心配なんて―――――!!」
 香樹が立ち上がった。途端ガタンと空間が揺れる。
 そして静かに座り込んだ。
「そう、心配だった。まさかこんな所で会うなんて……」
「………そういえば、アンタ、どうして死にたいんだよ」
 暁の問いに香樹は口を噤む。じっと俯いて、静かに口を開いた。
「彼に、捨てられたのよ。五年も付き合ってた彼に…」
 それは裏切りに近かった。一方的に別れを切り出されのだ。他に好きな人が出来たって。今更、しょうがないのは分かっている。心変わりなんて、しょうがないのは分かってる。だから許せなかった。尽くしたのに。何もかも。もうお終いだなんて――――……。
「でも、他の誰かが酷い事言ったって、アンタには生きてて欲しいって人がいるんだ」
「そんなの、関係ないよ……。私は私。他の誰にもなれないし、私に他の誰かがなれるわけじゃない。やっぱり苦しいのは私だけなんだよ」
「………仲間が、いるじゃねーか。動機は不謹慎だけど、隆俊さんや、よいこさんや、ナツだって………あれでも仲間っていうんじゃないかな。でも、そんな仲間いない方がいいのかも」
「……そうだね」
 暫くの沈黙が降り積もった。どれくらいそうしていただろう。香樹がおもむろに口を開く。
「大地は、元気なの?」
「さっき見ただろ。ぴんぴんしてるよ」
「……そう、だね。良かった…」
「俺さ、ズルいから。人に助けられた命って簡単に捨てられないなって思うんだ。正直、天国には憧れはある。もしかしたら死んだ父さんや母さんに会えるかも知れないし」
「私もあるよ。天国への憧れ。理想郷っていうのかな。夢みたいな話だけど」
「死ぬのもいいけどさ。でも今日、楽しかったじゃん。だから、思い直してみてもいいんじゃない? って思うんだ」
「どうして?」
 暁は少し俯いて笑って、そしてじっと香樹の顔を見た。
「生きてれば、また楽しい事だってやってくると思うから―――。言いたかった事だって言えるだろ。死ぬ気になれば、大切な人に何だって言えるよ」
 それは多分、大地の事。沢山謝らなくちゃいけない事があった。心配かけてごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。そして、元気でいてくれて嬉しい。
 両親にも、言えなかった事がいっぱいあったから、香樹は家を出たのだ。
 そう思うとこんな馬鹿みたいな事しちゃいけない。そんな風に思えてきた。
 程なくして観覧者は一回りし、出口に近づいていった。そして暁と香樹は降りる。
「ありがとう。後は、私が自分で決めなきゃいけないから」
 香樹はそう言うと、暁に手を振って向こうへ消えてしまった。
 やるべき事はやった。後はどうとなろうと知ったこっちゃない。
「俺、ズルいから――…」
 そう暁は反芻する。本当は誰がどうなろうと知ったこっちゃない。でも、今日一日楽しかったんだ。それだけで生きる価値はあると思うのだ。
 そっと、暁も観覧者を後にした。



 ルナーランドで遊んだ後は、皆でカラオケに行った。
 滅茶苦茶楽しかったよ。将太郎のポップスが外見に似合わない事、似合わない事。つーか着物にポップスが似合わないんだな。
 よいこさんはなかなかの美声で、一同呆然としていたっけ。
「ナツ、話があるんだ」
「はい?」
 将太郎はナツを呼び出した。
「どうしました? SYOUさん」
「どうしてこんな事をする」
「こんな事って?」
「集団自殺だ。何故そんな事を企てる!」
「あれ〜、おかしいですね。それを承知で参加したのではないんですか?」
「確かにそうだ。俺、こう見えても商売しててな。そいつがうまくいかねぇんで何もかも捨てて死のうかな〜って、考えたからお前に接触した」
「なら良いではありませんか。何も心配要りませんよ」
「お前が自殺したい理由って何だ?」
「それは秘密です。ご想像にお任せしますよ」
「……………」
 刹那、暁が叫ぶ。
「次入れたの誰〜?」
「あ、はい僕です」
 失礼します。とナツは将太郎の傍を離れた。
 将太郎の脳裏に、一抹の不安を与えながら。



 そしていよいよその時は来た。
 ナツが用意した車は、軽のワンボックス。ちなみに色は白だ。
 中で七輪を焚き煙を充満させるという方法で、ちゃんと睡眠薬も用意されている。
「俺、いっち抜っけた!」
 さぁこれからって時に、暁は皆に向かって言い放った。
「私も抜けるわ」
 香樹だ。暁の説得が結果に出たのだろう。考え直してくれたみたいだ。
「そうですか。残念です。それではここでお別れです。考え直しても、もう手遅れですよ」
「あ、えっと、私も―――――」
 バン!
 大地の小さな声に、無情にも気がつかなったナツが扉を閉めた。
「大地!!」
 香樹が叫ぶ!
 それでも届かない。
「将ちゃん!!」
 将太郎も中に残ったままだ。どうやら最後の最後まで説得に試みるようだ。
「無茶だ!!」
 程なくして眼張りが施される。ロックもされ、完全に外とシャットアウトされた。
「大地ー!!!」
 香樹が叫ぶ。
 叫んで、
 叫んで、
 叫びまくる。
 届かない。
「ああ、どうしよう将ちゃん! 大地先輩!」
 暁はおろおろと車の周りをうろついている。信じてるから。必ず生きて会えるって、信じてるから。

「では、始めます。各々配った薬を飲んで下さい。そのうち心地良い気分になってきますので、ゆっくり身を委ねて下さい」
 七輪を焚き出す。
「さぁ、眼を閉じて………」
 将太郎は薬をじっと見つめ、後ろに放り投げた。
「いいのか!? 本当に皆ここで死んでいいのか!?」
 薬を口に含もうとしているナツの手が止まった。
「どうしてです? 皆早く楽になりたいんです。こんな事なら、貴方も外に放り出せば良かった…。どうせ自殺する気などないのでしょう、最初から」
「お前も、本当は死にたくないんじゃないのか!?」
 瞬間、ナツの顔がカっと真っ赤になる。
「失礼な! 僕はこの企画の主催者ですよっ誰より自殺を望んで止まない!」
「いいや、違う。本当は誰かに助けて欲しかったんだ」
「そんな事は―――――……」
「じゃあ何故薬を飲まない!!」
 ナツははっとして自分の手の平の薬に眼を落とす。それは、残酷な程無垢に、そこにあった。
「そ、それは貴方が邪魔を―――――!!」
 そう言いかけて、思い余ったようにぐっと薬を口に含み、飲み込んだ。
「さぁ、飲みましたよ。貴方も飲みなさい」
「俺はいらない。これからお前らを助けなきゃいけないからな」
「そんな勝手な事!!」
「勝手じゃない! 誰だって生きる権利があるんだ。どんな事があったにしろ、生きてなきゃ何も意味を成さないんだよ!」
「私も、飲みません」
 大地がか細い声で言い放つ。
「皆、助けます!」

「早く警察に電話!!」
「もうしたって。落ち着きなよ。中の二人は何とかしてくれるよ。絶対、死んだりしないから……大地…」
「よっぽど大切な妹なんだな」
「まあね。ほら大地って私に似て可愛いし、悪い虫でもついたらどうしようって日々悩んだりしてさ」
「テメーで可愛いって言うか普通」
「いいじゃん。事実だし」
 確かに、大地も香樹も可愛いの部類に入るだろう。でも自分で言ってしまったら折角の可愛らしさが台無しというか――――。
 ガチャ!
 中からロックが外された音がした。
「ようやく来たぜ!」
「皆睡眠薬でぐっすりの時間だよ」
「きっと将ちゃん飲まなかったんだよ。でも早くしないとヤバい!」
「開けるよ! せーのっ!!!」
 引っ張るのと同時に、中からも引く力が加わって、扉はガムテープをびりびり毟りながら開いてゆく。
「げほっごほっげほ!!!」
 最初に顔を出したのは将太郎だった。早く車内の空気を入かえねば!
 思いっきりドアを開け放ち、将太郎は大きく深呼吸をした。
「シャバだぜ、将ちゃん」
「ばか」
 暁は少し涙眼になりながら将太郎に抱きついた。そして背中越しにもう一つの存在を探す。
「大地!!」
 返事はない。
「大地ちゃん!!」
 将太郎は車の奥を探り、その少女を抱きかかえて車外に寝がせる。
 息は――――ない!!!
「大地!!!」
 香樹が叫んで駆け寄る。ほっぺたをぺしぺし叩いたり抱きかかえては揺すったり。
「他の連中も外に運び出すから」
 そう言って、将太郎はぐっすり眠っている隆俊とよいこを抱えて外に連れ出す。
「……何故、――――――――――――……」
 半ばゆらゆらと夢の中のナツがぼそりと呟く。
 こんな自分なんか助けなくていい。
 こんな自分なんか、助けるだけ無駄だ。
 こんな自分なんか、皆要らないんだから。
 ナツの目頭に光るものをとらえる。
 本当は、誰かに助けて欲しかった――――――?
「何故って。消えかけている命を、みすみす手放す気はさらさらないんでな」
 そう言い、将太郎はナツを抱え込んだ。
「将ちゃん、どうしよう! 大地先輩息してないよ!!」
 ナツを地上へ下ろし、将太郎は大地の元へ駆け寄る。
「気道確保、心臓マッサージと人工呼吸をする。おい、俺が分かるか? 将太郎だ。分かるか?」
 もちろんといえばもちろんだが、反応はない。
 人口呼吸をした後、心臓マッサージをする。それを交互に繰り返す。これがなかなか体力のいる事で、途中、知識があるという暁に手伝って貰ったりしながら息を吹き返すのを願った。
「ねえ! 隆俊さんも息してないよ!」
 香樹がそれに気づき、悲鳴をあげる。
「分かった。ここは暁に任せる。俺は隆俊さんを助けるから! そういえばこの人七輪の丁度間隣にいたんだよな。香樹ちゃんは大地ちゃんについてあげてて」
「うん分かった!」
 将太郎は隆俊の元へ駆けて行き、同じように人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
「将ちゃん!! 大地先輩息吹き返した!!!」
 よっしゃー!! と言わんばかりに暁はガッツポースをする。
 香樹も涙を流しながら大地を抱きしめていた。



 結局、隆俊は息を吹き返さず、この世を去ったのだった。
 ナツは本人に勧められて将太郎の心理相談所に通っているらしい。
「結局、一人死んじゃったんだね」
 雫がしみじみと口にする。
「でも良かったよ、大地先輩助かって」
「良かったよってのは不謹慎だけどな」
 将太郎が暁の言葉に口を挟む。
 そこへ大地がやってきた。昨日病院を退院したばっかりだ。
「えへへ。来ちゃった」
 大地は嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せた。
 その後、姉は実家に帰って来たという。それからちゃんと身支度を整えて、改めて家を出たそうだ。
「いつでも大歓迎だぜ、お姫さま」
「暁……寒いからよせ」
「何だよ! 失礼だぜ将ちゃん!」
「で、どうなんだ、無断欠勤したバイトは」
「あ、そうそう、もう少しで首だったんだぜぇ? 危ない危ない。ほら、俺って無責任だから」
「それは言えてる」
 暁は頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
「ひっでー! そこはフォローすんのが人として普通だろっ」
「人としては余計だ」
「はいはい。もういいから。で、次も依頼あるんだけど………」
 雫は目配せする。
 大地と将太郎と暁は、声を揃えて言い放った。
「もう暫くは勘弁!」













◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
 −+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4782 / 桐生・暁 / 男性 / 17歳 / 高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【1522 / 門屋・将太郎 / 男性 / 28歳 / 臨床心理士】


◆ライター通信
 −+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
暁さんも将太郎さんもお久しぶりです。ぎりぎりでごめんなさ
い。当初のメンツが揃ってしまったという驚くべき結果となり
ました。これは運命でしょうか(笑) つーか将太郎さんは副
人格カネダさんなのですよね…暁さんの事って覚えているので
しょうか?? そこら辺が不安。
今回は苦悩しながら書かせて頂きました。自殺者の説得なんて
どうやればいいのだろう、と。もっと暁さんと将太郎さんのプ
レイングを尊重したかったのですが、この程度に収まってしま
いました(苦) 大目に見てやって下さいませ(ぺこり)

ご意見ご感想などありましたら、気軽にメールして下さいませ。

またの機会がありましたら、お会い出来る事を心待ちにしており
ます。では!