コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


おもちゃのマーチ


 てくてくてく、寂れた街角を古ぼけたぬいぐるみのくまが歩く。
 その後ろには、てんてんてんと小さな赤い足跡がついていた。


   うぃ〜くんはね、サキちゃんのいちばんのおともだちだったの。
   でもね、サキちゃんがうごけるようになったぼくをみてびっくりしちゃうとおもったから。
   ぼくずっと、うごけないふりをしてたの。
   あのひ、サキちゃんがうごかなくなるまでは・・・・・・・・
   ままがサキちゃんをメッてしたら、サキちゃんがうごかなくなっちゃったの。
   だから、ぼくがままをメッてしたの・・・

   

「殺人ティディ・ベアだって?」
 そんなのがあるのか?
「そうはいっても、実際に殺人現場からなくなったものはぬいぐるみだけだというんだからな」
 母子が殺された現場からくまのぬいぐるみが歩いて去るのを目撃したものがいたらしいが、警察では相手にしてもらえなかったらしい。
「で、ここに持ち込まれたってわけか」
「しかたないだろう?実際にそんなものが街中をうろついているなら、物騒で仕方がないからな」
 店の店主がため息をついた。
「処理の方法は任せる、出来れば無傷で持ってきてもらいたいところだが・・・無理なら処分するだけでも構わない」
「りょ〜かい」
 連日騒ぎが持ち込まれ、頭を抱えていた店主はどうやら、常連客に仕事を押し付けるつもりで呼び出したようだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ねぇ、春日ちゃん、春日ちゃん。くまちゃんが見つかったらドロシィちゃんがもらってもいぃ?」
「危険なものだったらどうするんだ?」
 可愛らしく両手を前に組みおねだりポーズのドロシィ・夢霧(0592)の頭に手を置き、瞳を覗き込みながら店の主が苦笑した。
「だいじょうぶ、お友達になって一緒に遊ぶの♪」
 胸に抱えたティディ・ベアの腕を動かし可愛らしく笑う。
「実際にそのくまが犯人と決まったわけではないが……とりあえず、一度この店に持ってきてくれ」
「うん、じゃぁワトソンも連れて行っていい?」
「……ワトソン…………?」
 聞き覚えのない名に店主は首をかしげた。
『なんなのであるか!?』
 はなせなのである!両脇から夢霧家の黒服のボディーガードに腕を掴まれて、情けなくもぶら下がった状態で抗議している大型の爬虫類の鼻…と思しき場所にはご丁寧にちょび髭。
「名探偵の助手はワトソンて決まってるでしょ?」
『我名はシンなのである!そのような舶来の名ではないのである!!』
「ドロシーちゃんがワトソンて、いったらワトソンはワトソンなの!」
 黄昏堂の座敷イグアナは猛烈に抗議するがドロシーは屈託のない笑顔を浮かべて一歩も譲らない。
「それが役に立つかどうかは知らんが、連れて行きたいなら持っていっていいぞ」
『そ、そんな主殿……』
 ひどいのである……と、嘆く眷族の言葉には耳を貸さず、黄昏堂の店主は爽やかな笑みをドロシーに向けるのだった。
「それじゃ、ワトソン一緒に行きましょ♪捜査の基本は現場からよね♪♪」
 歓声をあげてドロシーは飛び出していった。勿論その後からはしっかり夢霧家の黒服に拘束されたシンも一緒に連れらていくのだった。

「随分と賑やかな嬢ちゃんだったな」
 窓際のソファーに腰をかけた新座・クレイボーンが呆れたように方眉を上げる。
「まぁ、調べてくれるなら構わないさ」
 此方も至って普通の調子で淡々と店の陳列棚の物に手を伸ばしながら店主が口元を緩めた。
「それにしても殺人ティディ・ベアかぁ。ん〜けどそいつがそっからいなくなったからって、そいつが殺したとは限んねーと思うぞ?」
「それもそうなんだけどな……どうも母親は何かに殴り殺されたような形跡があったそうだ」
 何とは断定していないが、寂しげに主が目を伏せる。
「だからってよぉ、てか、おれだったら見られてたら見たヤツも…」
 更に続けようとしたクレイボーンの喉元をバングルに擬態していた羽の生えた蛇がカプっと噛み付いた。
 どうやら、ぽんぽんと思ったことを口にだす主を彼なりに諌めようとしたらしい。
「イテェよケツァ………というか……どこかで俺の血を浴びた奴だったらヤだなぁ」
 寝覚めわりぃし。
「どういうことだ?」
「んぁ?あぁ、おれの血を一定以上浴びるとなんか擬似生命体が生まれるらしくてよ」
 なぁ、と今は大人しく足元に寝そべっているメカのような鈍い光を放つ恐竜の頭を撫でる。
「ふ〜む」
 それは面白い能力だと店の店主は苦笑する。
「まぁ、今回はその力は関係なかろう。少女がそのくまを持って外を出歩いたという話は出ていなかったからな」
「どの辺が妖しいのか目星はついてるのか?」
「あの辺で隠れられそうなのは商店街の路地裏か、家の近くの公園だろうな」
 閑静な住宅街において、それ程隠れる場所はないらしい。
「ほっとくと危ねーからってのはわかったけど、出っくわしてンなあぶねーのじゃなかったらおれなんもしねーからな」
「その辺の判断は任せる」


 家の周辺を当たってみて、結局クレイボーンが辿り着いたのは店主の言っていた公園だった。
「うーん、一番妖しいっちゃ、妖しいんだけどよ」
 なんだかとてつもなく短絡的な落ちのようにも見える。
『ぎゃお』
 足元の銀の恐竜が何かを訴えるように主の服の裾を引いた。
「おりょ?マジでここなのか?」
 恐竜が顎で指し示す先には小さな足跡。
 既に掠れてしまっているが確かに、赤黒い色をしていた。
「ま、いいかおれになんかあっても逃げるなよー」
 そう僕たちに声をかけてクレイボーンは公園に足を踏み入れた。

 ぎーこ、ぎーこ。
 軋んだ音を立てて、ブランコを漕ぐものがいた。
「あれか?」
 クレイボーンが恐れも知らずに公園のブランコに近づいた。
「よぉ、殺人テディ・ベアってお前のことか」
『……?さつじんてなぁに』
 円らな釦の瞳に、小さな口元。とてもこのくまが殺人を犯したように見えなかった。
「う〜ん……」
 どうやって説明したらいいんだろう……。
 不思議そうに首を傾げるくまのぬいぐるみを前にクレイボーンは考え込んでしまった。
『おじさんもさきちゃんをめってするの?』
「おれはおじさんじゃねぇ!じゃなくて……」
「見つけたわよ!」
 かみ合わない話に音をあげかけたとき、走りこんできた小さな人影があった。
 逃がさないんだから!とドロシーが高らかに宣言する。
『…さきちゃん!……じゃないね…』
 さきちゃんはもういないし。ブランコをこいでいたくまが小さな肩を落とした。
 主だった少女と同年代のドロシーを見て、主を思い出したのであろう。
『さきちゃんはもういないの……ママがめってしたから』
「ということは……お前さんが女の子を殺したんじゃないんだな」
 それは確認。
『なんで、うぃ〜くんが?』
 さきちゃんはぼくの全て。さきちゃんがいたからぼくがいるのに。
『ママがめってしたんだよ』
「そっか……それで、主の敵をとったんだな」
 溜息交じりの新座・クレイボーンの言葉にテディ・ベアが首を傾げる。
『さきちゃん、うごかなくなっちゃったの……もうぼくといっしょにあそべないの…?』
 意味が良く分かっていないらしい。このくまのぬいぐるみは善悪の区別も人の生死も良く理解していない……いわば未だ生まれたばかりの子供なのだ。
『そう、ぼくがママをめってしたの、でもさきちゃんはもういないの』
 誰もいなくなってしまった……寂しさも良く分からずに、このくま主を求めてあるきまわっていたのである。
「貴方にえらばせてあげる。ドロシーちゃんと一緒にくるか……それともOZへ行くかを」
 いつの間にかドロシーの傍に丸い虹に小さな頭ひょろ長い手足のオーバー・ザ・レインボゥが使役されていた。
『おず?』
 それは何?
「素敵な場所よ、貴方の望みが全て適う場所」
「わぁ〜と、ちょっとまった。店のねぇちゃんが一度連れてこいっていってただろ!」
 今すぐにでも持ち帰りそうな勢いのドロシーにクレイボーンが慌てて脇から突っ込みをいれた。
「えぇ〜だめなの?」
「駄目なのじゃねぇよ……とりあえず、くま公の処分は黄昏堂に戻ってからでも遅くないだろ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 日も大きく傾き既に夕刻というよりも、夜半と言った頃合。
 黄昏堂につれて来られた。ティディ・ベアを前に集った面々は頭を寄せ合っていた。
「それで……母親の方はこのくまが殺したことで間違いないんだな」
「たぶんな」
 溜息のような確認におそらくと注釈を付け加えながらクレイボーンが頷く。
 くまの右手にはべったりとどす黒い染み。恐らく主を守るつもりで母親を手にかけたのだろう。
 クレイボーンの聞き込みによると、母親は日常的に娘に手を上げていたらしい。

「春日ちゃん、この子ドロシーちゃんにちょうだい♪」
 しっかりとティディ・ベアをつれてくるときに両腕に抱きかかえてきた、ドロシーに春日が苦笑をする。
「人一人殺しまってているからな……」
 たとえそれが主の敵であったとしても。許されることではない。
「暫く此方でも様子を見たい」
 幼い魂に教えなければいけない理も多々存在したから。
 生まれたばかりの魂に理を教え、新しい主を見つけるのもまたこの店の役割。
「つまんないのぉ」
「まぁ、そういうな何時でも遊びに来やってくれ」
 人と触れ合うこともまた、物に宿る魂にとって必要なこと。
「ということは、このくまはこの店においておくのか?」
「あぁ、暫くは売りには出せないが店頭には飾っておくさ」
 そしてそのうち相応しい主が現れるだろう。
「よかったな、くま公」
 がしがしと乱暴に、なでたティディ・ベアの頭は手触りがよいものだった。
 何時かまた、新しい主のもとでこのくまにも新しい幸せな日々が訪れることだろう……


【 Fin 】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【3060 / 新座・クレイボーン / 男 / 14歳 / ユニサス(神馬)/競馬予想師/艦隊軍属】
【0592 / ドロシィ・夢霧 / 男 / 女歳 / 聖クリスチナ学園中等部学生(1年生)】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

新座・クレイボーン様

はじめまして、ライターのはるでございます。
個人的に存じ上げているPC様でしたので…ご参加を確認したときは……思わず嘘だろ…?
とか思ってしまったことは内緒にしておいて下さい(何)
なんだかまとめ役に回っていただいてしまっておりますが…少しでも楽しんでいただければ幸いです。