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おもちゃのマーチ
てくてくてく、寂れた街角を古ぼけたぬいぐるみのくまが歩く。
その後ろには、てんてんてんと小さな赤い足跡がついていた。
うぃ〜くんはね、サキちゃんのいちばんのおともだちだったの。
でもね、サキちゃんがうごけるようになったぼくをみてびっくりしちゃうとおもったから。
ぼくずっと、うごけないふりをしてたの。
あのひ、サキちゃんがうごかなくなるまでは・・・・・・・・
ままがサキちゃんをメッてしたら、サキちゃんがうごかなくなっちゃったの。
だから、ぼくがままをメッてしたの・・・
「殺人ティディ・ベアだって?」
そんなのがあるのか?
「そうはいっても、実際に殺人現場からなくなったものはぬいぐるみだけだというんだからな」
母子が殺された現場からくまのぬいぐるみが歩いて去るのを目撃したものがいたらしいが、警察では相手にしてもらえなかったらしい。
「で、ここに持ち込まれたってわけか」
「しかたないだろう?実際にそんなものが街中をうろついているなら、物騒で仕方がないからな」
店の店主がため息をついた。
「処理の方法は任せる、出来れば無傷で持ってきてもらいたいところだが・・・無理なら処分するだけでも構わない」
「りょ〜かい」
連日騒ぎが持ち込まれ、頭を抱えていた店主はどうやら、常連客に仕事を押し付けるつもりで呼び出したようだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねぇ、春日ちゃん、春日ちゃん。くまちゃんが見つかったらドロシィちゃんがもらってもいぃ?」
「危険なものだったらどうするんだ?」
可愛らしく両手を前に組みおねだりポーズのドロシィ・夢霧(0592)の頭に手を置き、瞳を覗き込みながら店の主が苦笑した。
「だいじょうぶ、お友達になって一緒に遊ぶの♪」
胸に抱えたティディ・ベアの腕を動かし可愛らしく笑う。
「実際にそのくまが犯人と決まったわけではないが……とりあえず、一度この店に持ってきてくれ」
「うん、じゃぁワトソンも連れて行っていい?」
「……ワトソン…………?」
聞き覚えのない名に店主は首をかしげるのだった。
『我は、わとそんとやらではないのである!我名はシンなのである!!』
ドロシーの脇に控える、夢霧家の黒服のボディーガードに抱えられているのは、黄昏堂の座敷イグアナ。その鼻の下と思しき場所にはご丁寧に付け髭まで付けられている。
「往生際が悪いわよ、ワトソン。名探偵の助手の名前はワトソンって決まってるの!」
ずびし!とシンの鼻先に指を突きつけてドロシーが宣言した。
「今日のドロシーちゃんは探偵さんなの。だからワトソンはワトソンなのよ♪」
黄昏堂の座敷イグアナは猛烈に抗議するがドロシーは屈託のない笑顔を浮かべて一歩も譲らない。
「それが役に立つかどうかは知らんが、連れて行きたいなら持っていっていいぞ」
『そ、そんな主殿……』
ひどいのである……と、嘆く眷族の言葉には耳を貸さず、黄昏堂の店主は爽やかな笑みをドロシーに向けるのだった。
「それじゃ、ワトソン一緒に行きましょ♪」
「まぁ、ワトソンでもエジソンでもどうでもいいが、よろしく頼むぞ」
歓声をあげてドロシーは飛び出していった。勿論その後からはしっかり夢霧家の黒服に拘束されたシンも一緒に連れらていくのだった。
「やっぱり、捜査の基本は現場からよね」
いつの間にかディア・ストーカーを被り口元には薄荷入りのパイプを加えたドロシーが、拡大鏡を手にしていた。
既に現場は片付けられ、血の跡と思しきものもふき取られた後ではあるがドロシーは何も見逃すまいと拡大鏡を覗き込んでいた。
ここで凄惨な殺人が行われたとは到底思えない、極ありふれた普通の家庭といった様子の部屋の中。
残されていたのはカーペットに滲みこんでしまったどす黒い血痕だけが、その事件の凄惨さを告げていた。
塵一つ見逃さぬよう、ドロシーは前かがみになって辺りを捜索する。
やがて小さな、小さな、足跡を見つけたのはそれから数十分もした後のこと。
「これかなぁ〜?」
余りにも小さな足跡にドロシーは首を傾げる。
よほど注意して見なければわからぬそれは、てんてんてんと外の方まで続いていた。
「ワトソンはどう思う?」
『小さな痕跡も見逃さぬのが捜査の基本であろう?』
既に諦めたのか、ぶら〜んと相変わらず夢霧家のボディーガードに両腕を掴まれながらイグアナがぼやく。
「そうよね♪」
ドロシーは自分の勘に任せる事にした。
てんてんてんと続く足跡らしきものをおって辿り着いたのは、家の近くの小さな公園。
「ここね!」
ドロシーは大きく頷くと公園に足を踏み入れた。
そこには先客がいた。確か黄昏堂で主の話を一緒に聞いていた男性……。
「見つけたわよ!」
逃がさないんだから!とドロシーが高らかに宣言する。
『…さきちゃん!……じゃないね…』
さきちゃんはもういないし。ブランコをこいでいたくまが小さな肩を落とした。
主だった少女と同年代のドロシーを見て、主を思い出したのであろう。
『さきちゃんはもういないの……ママがめってしたから』
「ということは……お前さんが女の子を殺したんじゃないんだな」
それは確認。
『なんで、うぃ〜くんが?』
さきちゃんはぼくの全て。さきちゃんがいたからぼくがいるのに。
『ママがめってしたんだよ』
「そっか……それで、主の敵をとったんだな」
溜息交じりの新座・クレイボーンの言葉にテディ・ベアが首を傾げる。
意味が良く分かっていないらしい。このくまのぬいぐるみは善悪の区別も人の生死も良く理解していない……いわば未だ生まれたばかりの子供なのだ。
『そう、うぃ〜くんがママをめってしたの、でもさきちゃんはもういないの』
誰もいなくなってしまった……寂しさも良く分からずに、このくま主を求めてあるきまわっていたのである。
「貴方にえらばせてあげる。ドロシーちゃんと一緒にくるか……それともOZへ行くかを」
いつの間にかドロシーの傍に丸い虹に小さな頭ひょろ長い手足のオーバー・ザ・レインボゥが使役されていた。
『おず?』
それは何?
「素敵な場所よ、貴方の望みが全て適う場所」
「わぁ〜と、ちょっとまった。店のねぇちゃんが一度連れてこいっていってただろ!」
今すぐにでも持ち帰りそうな勢いのドロシーにクレイボーンが慌てて脇から突っ込みをいれた。
「えぇ〜駄目なの?」
「駄目なのじゃねぇよ……とりあえず、くま公の処分は黄昏堂に戻ってからでも遅くないだろ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日も大きく傾き既に夕刻というよりも、夜半と言った頃合。
黄昏堂につれて来られた。ティディ・ベアを前に集った面々は頭を寄せ合っていた。
「それで……母親の方はこのくまが殺したことで間違いないんだな」
「たぶんな」
溜息のような確認におそらくと注釈を付け加えながらクレイボーンが頷く。
「春日ちゃん、この子ドロシーちゃんにちょうだい♪」
しっかりとつれてくるときに抱きかかえてきた、ドロシーに春日が苦笑をする。
「人一人殺しまってているからな……」
たとえそれが主の敵であったとしても。許されることではない。
「暫く此方でも様子を見たい」
幼い魂に教えなければいけない理も多々存在したから。
生まれたばかりの魂に理を教え、新しい主を見つけるのもまたこの店の役割。
「つまんないのぉ」
「まぁ、そういうな何時でも遊びに来やってくれ」
人と触れ合うこともまた、物に宿る魂にとって必要なこと。
「ということは、このくまはこの店においておくのか?」
「あぁ、暫くは売りには出せないが店頭には飾っておくさ」
そしてそのうち相応しい主が現れるだろう。
「よかったな、くま公」
がしがしと乱暴に、なでたティディ・ベアの頭は手触りがよいものだった。
何時かまた、新しい主のもとでこのくまにも新しい幸せな日々が訪れることだろう……
【 Fin 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【3060 / 新座・クレイボーン / 男 / 14歳 / ユニサス(神馬)/競馬予想師/艦隊軍属】
【0592 / ドロシィ・夢霧 / 男 / 女歳 / 聖クリスチナ学園中等部学生(1年生)】
【NPC / 春日】
【NPC / シン】
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■ ライター通信 ■
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ドロシィ・夢霧様
はじめまして、ライターのはるでございます。
この度は初の異界ノベルに御参加ありがとうございました。
ティディ・ベア……は小さいのを進呈いたしますので、これで我慢してください……
大きい方は何れということで……
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