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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


君と此処で

 最近、学園内に気になる女生徒が居た。
 ――其の生徒の名は、月神・詠子。

 グッさんの気の向く儘、辿り着いたこの神聖都学園へ唐突に転入して来た転校生で、他の生徒達とは違う不思議な雰囲気を纏い。其の姿は学園生活や何気ない日常を、一つと残さず謳歌している様に思える。
 只、其の独特な雰囲気が然うさせるのか、未だ彼女の周りに特定の友達が居付くと言う事は無くて。

 折角あんなにも楽しそうに笑えるのだから、其れを見る人が居ないと言うのは、矢張り寂しい。
 だからこそ如何やってか、彼女の存在を学園の誰もに浸透させてあげたいと思った――。

 * * *

 ――むぎゅ。

「――……ん?」
 神聖都学園に訪れた、朗らかな昼休み。
 自称魔法の国から訪れたモグラ――モグラの・グッさんは、この学園に自身の求める魔法少女が居はしないか、数日前より学園内に存在する有りと有らゆる女生徒を其の双眸へと収めてきた。

 ――だが、しかし。

 今現在、其の双眸は何をも映さない、真っ暗な闇の中へと閉じ込められていて。
 次いで聴こえて来た、凛として響く声と共に開けた眩い視界の先には――。グッさんが今一番に気に掛けている女生徒――月神・詠子が、グッさんを踏み付けていた足を上げ。
 何とも形容し難い面持ちで、グラサンに腹巻をした、小さな葉巻を持つモグラの其の面妖な姿を瞳の先へと収めていた……。

 * * *

「キミ、お弁当食べられるかい?さっき踏んじゃったお詫びに、少しだけ分けてあげるよ」
 あれから、地中を潜り進んでいた穴から這い出たグッさんは、言葉を交わせぬ代わりに用いるカンペで彼女との接触を試みる事となる。
 大凡普通のモグラでは有り得る事の無い其の状況に、大抵の女性であれば悲鳴の一つでも上げ早々に退散して仕舞う処であるのだが――。
 其れに反して、詠子は一転嬉々とした面持ちで、グッさんへと自ら昼食のお誘いを申し出てきたのだ。

 ――おおきに!――

 何とも軽い謝罪と共に差し出された、お箸の先に挟まれたタコさんウィンナーにカンペでお礼の言葉を連ね、早速其れを頂きに掛かる。
 そんなグッさんの姿を瞳に映しながら、詠子は物珍しい様な、心底面白い様な面持ちで始終笑みを浮かべていた。

 * * *

 グッさんが詠子を始めて目に留めたのは、現在と同じく学園の裏庭に在る、今正に二人が昼食を摂っている木の根元での事であった。
 其の時の彼女は独りきりで、特に何を嘆いている訳でも無いのに何処か其の影は寂しげで……。
 地中から僅かに顔を覗かせ其の様を黙視していたグッさんは、思わず天性の気質から身を乗り出して、彼女へと接触を図ろうとしたのだが。

 ――其の時。

 ふと、空を見上げ地へと掛かる幾重もの斜光を瞳に留めた詠子の表情が――ふわりと綻んで。
 其の無邪気な笑みに、グッさんは自身の登場の機さえ何処かへと失ってしまい……。
 ――其れから、グッさんによる詠子観察は始まった。

 彼女は同級生と言葉を交わす事こそ有るものの、実際友人とまでいく間柄の者は居ないらしく、学園では専ら独りで居る事の方が多い。
 そして矢張りこの裏庭の木の木陰が特にお気に入りの詠子の居場所らしく、昼休み等は主に此処で昼食を摂っている姿をグッさんは見掛けていた。
 他の生徒とは違う、身に纏う異質な雰囲気からか、本来の気質とは異なった印象を周囲へと与えてしまっているのだろう。
 ――だが、矢張り女の子は、楽しい事をしている時の笑みが一番映える。
 だからこそ、グッさんは自身が居る事で詠子の笑顔を、この学園――生徒達の中へと解放してやれる切っ掛けになれればと思ったのだ。

 ――詠子ちゃんは、何で何時も独りでおるん?――

「何で?――何でだろう?皆、ボクが珍しいだろうから、其の所為かもね?」

 ――詠子ちゃんは其れで、寂しく無いん?――

「少し残念ではあるけど、結局は為る様に為るしかない訳だし。――楽しい事も他に沢山あるから、大丈夫だよ」
 其れから、少しずつ。グッさんは自身の事を含め、詠子と様々な話をした。
 自身は魔法の国からやって来た、特別なモグラである事。趣味はサーフィンで、モグラ界では名の知れた伝説的なベーシストである事……。
 グッさんの其の一挙一動に心からの笑みを漏らす詠子の、口調から何処か高圧的な印象を発する言葉は根を探ればとても温かで。
 詠子にとってもグッさんにとっても、其の穏やかな時はとても有意義な、掛け替えの無い物となった――。

 * * *

 そして長い様で短い談笑の時が終わり、授業再開の予鈴が辺りに響き渡る頃……。
 最後に、彼女へとこびりついた近寄り難い印象を根底から覆す大技を、グッさんは実行へ移す事となる。
「変なモグラさん。キミのお陰で、今日はとても楽しかったよ。有り難う」

 ――礼を言われる謂れも無いんやけど、其れはもうちょっと後でな?――

「――――え?」

 ――詠子ちゃんは、魔法少女に興味はあるんかなぁ?――

 木陰から立ち上がり半身の衣服を払う詠子は、せかせかとカンペを書き出すグッさんに……。と言うより、其のカンペの内容に首を傾げ只管に紙を注視する。
 其の間に、グッさんは何処からか本気狩素鉄器――元いマジカルステッキを取り出すと、説明も無く詠子の目の前で其れを振りたくった。

 ――ちゅーわけで、魔法少女に変身や!――

「え。ま、まほ……――?」
 直後、眩い光と共に、辺りはきらびやかな光彩に包まれて。
 グッさんが遣り切った面持ちでステッキを下ろした其の視線の先には、制服とは大凡掛け離れた朱の繻子生地に中華風の愛らしいコスチュームを身に纏った詠子が、未だ何が起こったのかも分からない儘に茫然と立ち尽くしていた。

「――さっきの物凄い光、確かこっちの方だったよな?」
「わあ、月神さん可愛い〜!如何したの?其の格好!」
 すると数分も経たぬ内に、変身の際に拡がった光に引き寄せられ学園の生徒達がちらほらと姿を現し始めて。
 グッさんは自身が人目に付かぬ様にと、咄嗟に穴を掘り只事の成り行きを見守る事にした。
「月神ってちょっとお堅いイメージあったけど、こういう服も着たりするんだなぁ……」
「すっごい可愛い〜、ね。先生に見つかると五月蝿いし、此の儘演劇部の部室でちょっと遊んじゃわない?」
「え?あ……、ボ、ボク……――」
 主にキラキラと瞳を輝かす女生徒の迫力に圧倒されながら、賛辞を受ける詠子の頬は羞恥からほんのりと紅潮してより女の子らしい一面を覗かせている。
 予想だにしなかった事態に挙動を乱し、思わずグッさんを追う其の視線に……。
 グッさんは一つのカンペで、詠子への応えを返した。

 ――頑張りや、詠子ちゃん!――

 然うして、僅かに瞳を見開き。
 次いで初々しい笑みを漏らした詠子の、皆に囲まれ去って行く姿を満足そうに眺め――。
 
 グッさんは又一匹、魔法少女探しの冒険へと旅立って行った……。


【完】

■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

【4839 / モグラの・グッさん (もぐらの・ぐっさん) / 男性 / 33歳 / 魔法モグラ】

■ライター通信■

モグラの・グッさん様

こんにちは、初めまして。ライターのちろと申します。
この度は『君と此処で』への御参加、誠に有り難うございました。^^

其の容姿も然る事ながら、何処か人情に溢れたグッさん様の設定に始終楽しくノベルを書かせて頂きました。
ノベル上の詠子ちゃんも、グッさんとはこれから一緒に居る事があれば仲の良い親友になれたのではないかなと思います。

そして、此方までをお目通し頂き有り難うございました。
また機会がありましたら、別所にて再びお会いする事の出来ます様……。