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<東京怪談・PCゲームノベル>


具現化協奏ファントムギアトルーパー――testee2

 ――燦燦と輝き照り付ける陽光。
 雲一つ見当たらない澄みきった青空。小波の音と共に揺れる紺碧の水面。ジリジリと熱を帯びた気温と焼ける砂浜――――
 歓声を響かせながら幾つもの足跡を残して砂浜を駆けて行くのは少年少女達だ。はしゃぐ声が時折流れて来る心地良い潮風に運ばれて行く。
 ここは貸し切り状態の楽園そのものだった‥‥。

■testee2:臨海学校の中で
 ――あたし‥‥どうしたらいいんだろ‥‥。
「ちさと〜! 一緒に泳ごうよぉ」
「なになにー? 水着忘れたのー?」
 様々な彩りの水着に肢体を包んだ少女達が遠くで手を振っていた。見れば腰まで海水に浸り、大きなビーチボールを掲げている。一緒に遊ぼうと呼んでいるのだ。
「いいー! 皆で楽しんでて!」
 そんな事を告げるとパシャパシャと水面を蹴って少女達が駆け寄って来た。走る度に若い身体が弾む姿に、彼女は溜息を吐く。
 ――しまった! 余計なフラグ立っちゃったか!
「ちょっと千里ー、せっかく海に来たんだよー」
「あたしの貸したげよっか? 迷ったから2着あるんだぁ♪」
「‥‥あたしに喧嘩売ってるの?」
 零れそうなビキニに包まれた果実から友人の顔へ視線を移し、ジトっとした眼差しを向ける。流石に失言だったかと、友人達は顔を見合わせて苦笑していた。
「‥‥そんなつもりは、ないんだけどぉ‥‥」
「じゃ、何かあったら呼んでね☆ いこ!」
 二人は再び元気に砂浜を駆けて行く。
 彼女達は高校生だ。開放的な臨海学校の行事に、期待と不安を思い描きながら、心底楽しんでいるのである。だが、彼女の場合は少し違っていた――――。

「おい? 月見里だったか?」
 月見里千里が深い溜息を吐く中、不意に飛び込んで来たのは男の声だ。聞き覚えはある。ショートヘアの少女はゆっくりと顔を向けると、小麦色の肌が陽光によく似合う精悍な風貌の男が瞳に映った。
「藍原、先生」
「よぉ、名前は覚えてくれてたみたいだな」
「はい‥‥それより何か用ですか?」
「いや用って程じゃないけどよ。折角の海だぜ? 月見里は泳がないのか? 水着忘れたのか?」
 確かに千里はビニルシートの上で膝を抱えており、細い身体を包むのは軽装の私服だ。あれこれと詮索する藍原和馬に、少女は不機嫌そうに片眉を跳ね上げる。
「気にしないで下さい。担任には許可してもらっているんですから」
「まあ、担任が良いって言ってるなら仕方ないが‥‥臨海学校だぜ? それとも具合でも」
「藍原先生?」
 声は彼の背後から聞えた。咎めるようなキツイ感じの声だ。和馬が視線を流すと、瞳に映ったのはシンプルなワンピースの上にパーカーを羽織った、中性的風貌の女だった。腕を組んで仁王立ち。切れ長の青い瞳が男を射抜く。
「エマ先生‥‥な、何か?」
「何かじゃありません! 体育教師なら準備運動させたり、事故が無いかもっと周りを見るべきじゃありませんか? 月見里は私が見ますから大丈夫です」
 やたらと大丈夫を強調した声だった。これは退散した方が良さそうだ。茶髪をポリポリと掻いてバツが悪そうに周囲を見渡す。
「分かりました分かりました、月見里はエマ先生にお任せしますよ。じゃな、気が向いたら俺に相談してくれよな」
 軽く手を振って和馬はその場を離れた。シュラインは苦笑しながら溜息を吐くと、千里の隣に腰を降ろす。
「ごめんなさいね。まったく男は乙女心が分からなくて駄目ね」
「いえ‥‥そんな大袈裟な事じゃなくて‥‥」
 ――きっと似合わないから‥‥。
「いいのよ、誰にでもそんな時期はあるわ。また、無神経な男に訊ねられたら私に言いなさい☆ それじゃ、私は仕事があるから行くわね」
「仕事ですか?」
「これでも教師は雑用とか忙しいのよ☆」
 シュラインは立ち上がって微笑むと、軽くウインクして見せた。

●女子高等部のどきどき☆
「ちさとー、行こうよぉ」
「他の部屋でも皆いくみたいだよー?」
 いつものクラスメイトが縋るように哀願して来る。流石に断わり難い状況だが、彼女には目的があるのだ。
「ごめん! ほら、あたしが怖いの嫌いって知ってるでしょ?」
 見逃して! と、両手を合わせて長身の少女は頭を垂れた。クラスメイトは腰を手を当てると溜息を吐く。
「そりゃ、知ってて誘ってるんだけどさぁ」
「いいじゃん、男子に思いっっきりッしがみ付いてピンク色の悲鳴あげれば?」
 刹那、千里の表情が強張る。想い出と消された記憶――――。
「あ、ちさと? ごめんごめん。‥‥分かったよ」
「え〜? ‥‥うん、じゃね。先生来たら誤魔化してねぇ」
 何やらあったのだろうと、クラスメイトは戸惑いながら詫びた。
「‥‥うん、分かったわ。ごめんね」
「いいわよー! 帰りに飲み物でも買ってくるからね」
「いってきまーす」
 友人達が部屋を出ると、途端に静寂に包まれる。
「あの娘達、気まずそうだったな。見透かされたかな」
 ポリポリと頬を掻き、少女は持参したバックを開けた。中に入っているのは男が着るような衣服だ。彼女は素早く袖を通すと、ドアを開け、辺りに誰もいない事を確認すると、部屋を飛び出した。

■身体を張った囮作戦の行方
 ――妖怪は濡れ女と牛鬼のコンビよね。
 上下黒の紳士服に身を包んだ者が、海岸は歩いていた。シックな帽子から覗く短髪は茶色。細身で背も高いというほどではないが、優男に見えなくもない。‥‥まあ、夜の浜辺を歩いていること事態が怪しいものだが、囮は必要だ。そう千里は思い、こうして男装を施してフラフラと当ての無い散歩を続けている。本来なら怪談嫌いの彼女が囮なんて務めようとはしない。敵が本物の妖怪をコアとして作られた機械生物だと知っているから出来たことだ。
「とは言うものの、まぁ男装した程度で引っ掛かるものじゃないよね」
 男ばかりを狙う妖怪――濡れ女。
 外見だけで判断しているとも思えない。恐らく男の臭いで判断しているのだろう。所謂フェロモンというやつだ。当然、千里は女だ。水着が似合わず背も高く、髪も短い事から、男装に踏み切ったのだろうが、彼女にも女の色香はある。
 ――既に歩き始めて数十分は経過しただろう。
 少女はポケットを弄り、懐中時計のようなデザインの装置を掌に乗せる。鎮芽が予め渡したGPSのようなものだ。スイッチを押せば電波により、千里の現在地点に近い場所に霊駆巨兵が届けられるという話である。
「うーん、無駄になっちゃったかな? あっ!」
 胸ポケットで携帯が振動を伝えた。少女は畳まれた携帯を起こし、相手を確認すると、瞳を見開く。
「藍原先生? ‥‥もしもし、月見里です。‥‥もしもし?」
 刹那、砂浜が揺れ、何か飛沫のような音が聞えた。
「まさか、先生が濡れ女に?」
 千里は装置のスイッチを押し込んだ。
 ――霊波動確認 パイロット照合・月見里千里
 霊駆巨兵ファントムギアトルーパーリフトアップ―――― 
「‥‥! また地震? 違うわ、これって‥‥」
 砂浜が大きな山の如く盛り上がり、頭上から砂飛沫が降り注ぐ中、月明かりに照らされたのは鋼鉄の輝きだ。
「やっぱりね。元々上空にあれば落下して来るものだけど、地下に基地があれば、やっぱ下から上がって来るわよね」
 妙な納得をすると、少女は体育座りをした巨兵へと駆けてゆく。既に前回の騒動で把握済みだ。
 コックピットに飛び込むと同時、千里は身に着けているものを脱ぎ始めた。上着にネクタイ、シャツ、そしてスラックス――――このまま下着姿になるのかと思いきや、脱ぎ捨てた衣服から曝け出されたのはピンクのレオタードだ。しかし、一般的なレオタードとは若干異なり、胸元までの白い上着が縫い合わされている。
「皆も着てくれたかな? 次は男性用かなぁ? 千里、行くわよ」
 右スティックを押し込み、フットペダルを踏み込むと、軽い振動と共に鋭角のシルエットが砂浜を蹴って駆け抜けて行った。
「あれね」
 次第に近付く現場に、一機の巨兵が戦闘を繰り広げていた。しかし、千里の瞳に敵である妖機怪が映らない。前回はクミノのペイント弾で敵を倒したようなものだ。
「なら、支援するっきゃないかな。こちら千里です。これより支援に入ります」
『月見里か、助かったぜ! 生徒達を探していたら見初められちまってよ』
『藍原先生、惚気るのは構わないけど、状況を理解してるのかしら。千里さん、妖機怪がニ体いるの。どちらかお願いしていいかしら?』
「エマ先生? 分かりました。でも、あたしには敵が見えなくて」
 テヘ☆ と舌を出しておどけるものの、見える訳ではない。
『私がサポートするわ。藍原先生には直接見えるみたいなの』
「お願いします☆ 牛鬼と濡れ女ですよね?」
『御名答よ。それじゃ、濡れ女を頼むわね。妖機怪は赤ん坊の形をした物体を投げて来るらしいわ。微かな音で分かるけどね防げるならそうして頂戴』
「分かりました! 広域シールドを展開します」
 千里が意識を集中させると、機体を覆うほどのシールドが展開され、次々と不可視の衝撃が盾越しに伝わった。どうやら効果はあるらしい。
『そのままの歩幅で真っ直ぐ向かって! 5歩前に進んだら武器で攻撃して頂戴!』
「5歩ですね! ‥‥えっと、今が3歩かな? え? 4歩? ええーい、ゴールデンハンマー!」
 巨兵が腕に金色に輝く巨大なハンマーを出現させた。そのまま上段に構えて勢い良く振り下ろす。
「コンバート・パーティクル・フォトン・クラッシュ!!」
 不可視の衝撃が握るスティックに伝わった。インパクトあり! 叩き付けた物質を消滅させる武器は、光の粒子を散らして妖機怪を消し飛ばした事だろう。
「終わったみたいです。そちらはいかがですか?」
 少女はホッと胸を撫で下ろすと、視界を流す。
『おう! ご苦労さん。こっちも終わったぜ★』
『ありがとう。助かったわ』
「いえ、こちらこそサポート助かりました♪」
 視界に映る親指を突き出す巨兵に、千里は微笑みを浮かべると、同じように親指を突き出して応えた。

●格納庫にて
「皆様、お疲れ様でしたわ☆」
 胸元で手を組み、鎮芽は満面の笑みと共に霊駆巨兵ファントムギアトルーパーのパイロット達を迎えた。皆、後部ハッチを開くと次々と咳き込んだり、顔を顰めたり、リアクションは様々だ。何故なら機体は砂浜や浅瀬で戦いを繰り広げた為、砂と潮に塗れていたのである。
「まあ☆ 大変でしたわね。後でFGTも洗ってあげなきゃですわ」
 あまり大変そうに聞えない。
「それは兎も角として、まあ☆ 沢山集まってくれましたのね♪」
 瞳を輝かせてパイロット達に視線を流す。ずらりと並ぶ人数は11名の生徒に教師だ。
「では、折角ですから自己紹介でもしませんこと?」
 両手を合わせ小首を傾げての笑顔に、小麦色の肌が健康的な青年が苦笑してみせる。
「まあ、共に事態を収めた仲間だからな。俺からいくぜ? 藍原和馬だ。知ってる奴もいるだろうが、麗刻学園の体育教師を務めている。ま、ヨロシク頼むわ」
 次に口を開いたのは、切れ長の瞳が落ち着いた雰囲気を醸し出す中性的な女だ。
「シュライン・エマよ。外国語講師を務めているわ。ヨロシクね」
「では、教師ですので、わたくしが」
 丁寧で何処か、おっとりとした口調の和服姿の淑女がお辞儀する。眼鏡の奥に浮かぶ瞳は優しげだ。
「古典補助教諭の天薙撫子と申します。皆様、宜しく」
「えーと、撫子お姉様とエマ先生に藍原先生‥‥これで先生方は終わりね☆ わたくしから始めます♪」
 長い黒髪の美少女が手をあげる。
「高等部の榊船亜真知ですわ☆ 皆様、頑張りましょうね♪」
「次はあたしでいいかな?」
 茶髪のショートヘアを掻きながら、背の高い少女が微笑む。
「あたしは高等部の月見里千里だよ。誕生日は8月12日。身長166cm、体重50kg。3サイズは秘密ね☆ ゲームが好きで、コスプレが趣味。あのパイロットスーツはあたしがデザインしたんだ♪」
 気に入ってくれた? と訊ねるものの、数名は苦笑いだ。千里は、「ま、いいか☆」と笑うと次へバトンを回す。流石に年頃の女には抵抗があるかもしれない。
「レディファーストよね。クミノちゃん、どーぞ」
「私は、別に‥‥」
 流れるような優麗な黒髪に、赤いリボンをあしらった小柄な少女が溜息を吐く。
「‥‥ササキビ・クミノ。中等部よ‥‥よろしく」
「‥‥えっと、それじゃ僕かな」
 簡単な挨拶に終わりなのかと戸惑いながら、灰色に近い銀髪のショートヘアの少年が口を開く。
「尾神七重です。あ、中等部です。よろしくお願いします」
 これで前回の妖機怪小豆荒いの時から参戦したメンバーの紹介が終わった。
「次、誰から? あたしから始めよっか?」
 丸眼鏡を掛けた少女が元気な声を響かせた。彼女が顔を左右に向ける度に、長い三つ編みの後ろ髪がブンブンと揺れる。
「お先によろしくてよ」
「私はマスターの後で構いません」
「レディファーストで来たなら、俺は一番後で構いません」
 三人の少年少女が先を譲った。
「そう? こほんっ☆ 銀の螺旋に勇気を込めて、回れ正義のスパイラル! ドリルガールらせん、ご期待通りに只今見参! ドリルガールこと銀野らせんよ☆ ヨロシクね♪」
 大きなドリルを召喚し胸に抱くと、らせんはウインクして微笑んで見せた。‥‥なるほど、確かにドリルガールだ。
「では、わたくしですね〜」
 ニッコリと微笑んだのは、金髪の少女だ。ほがらかな雰囲気を漂わせ、何処かノホホンとした印象を与える。
「ファルナ・新宮と申します〜☆ キャッチフレーズは、いつも笑顔でマイペースにです〜♪ 宜しくお願いしますね」
「私は護衛メイド・ファルファと申します。マスターであるファルナ様に仕えております。皆様、お見知り置きを」
 青い髪のシャギーヘアの少女が丁寧にお辞儀する。確かにメイド服を纏った彼女は、護衛は兎も角、紛れも無くメイドだ。
 最後に残った、整った風貌に精悍さを漂わす少年が、組んでいた腕を下ろして背筋を張る。
「俺は櫻紫桜です。偶然、ササキビさんに乗せてもらっただけの、普通の高等部生徒です」
「‥‥普通? 紫桜さん、妖機怪が見えてたでしょ?」
 クミノが冷たい視線を流してポツリと洩らす。すると話に割って入ったのは、和馬だ。
「妖機怪が見えるのかよ! 俺と同じ能力じゃん。謙遜するんじゃねーぞ? 少年は、自己主張も大事な勉強だからよ」
「勉強、ですか。覚えておきます」
 総数11名の挨拶が終わると、鎮芽が締め括る。
「頼もしい方々ですわ☆ もっともっと増えると部隊編成が出来て楽しそうですわよね? 次もお願い致しますわ♪」
 結局、新たな情報は見つからなかったが、戦いは始まったばかりである。妖機怪とは? 作られる目的とは何なのか?
 ――不明な点は多々ありますが、戦い続ける事で真相に近付けると信じています――――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/担当】
【5453/櫻紫桜/男性/15歳/高等部学生】
【0165/月見里千里/女性/16歳/高等部学生】
【1533/藍原和馬/男性/920歳/体育教師】
【1166/ササキビ・クミノ/女性/13歳/中等部学生】
【2557/尾神七重/男性/14歳/中等部学生】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/外国語講師】
【0158/ファルナ・新宮/女性/16歳/高等部学生】
【0328/天薙撫子/女性/18歳/国語・古典補助教諭】
【1593/榊船亜真知/女性/999歳/高等部学生】
【2885/護衛メイド・ファルファ/女性/4歳/完全自立型メイドゴーレム】
【2066/銀野らせん/女性/16歳/高等部学生】

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■         ライター通信          ■
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 この度は御参加ありがとうございました☆
 引き続き参加して頂き、嬉しく思っています。切磋巧実です。
 了解しました、水着は無しにしました。うーん、似合わないかなぁ? 今回設定から色々と演出させて頂きましたが(自己紹介はヤリ過ぎかと不安ながら)、いかがでしたでしょうか?
 他のPCの活躍と視点が違っていたりする部分もございますので、お時間があれば読んで頂けると嬉しいかも。
 楽しんで頂ければ幸いです。よかったら感想お聞かせ下さいね。
 それでは、また出会える事を祈って☆