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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


悪意の書

 その日。ラクス・コスミオンが居候している屋敷の電話が鳴った。
「あ、草間さん? こんにちは。……はあ、悪意の書、ですか」
 それに応対する大家の声に、ラクスの耳がぴくりと動いた。今、確かに「書」と聞こえた。草間からの電話なら、何かの調査依頼だろう。
 ラクスは胸をときめかせながら、電話応対中の大家の近くに座り込んだ。いくら何でも電話中に騒ぐのはマナー違反だという常識は既に身に付けた。だから声を出すことなく、それでも顔に「ラクスも聞きたいです」という言葉を貼り付けて、大家を見つめる。
「ええ、人に危害を与えるための術式ばかりを集めた魔術書、ですか? それで実際には人に恨みや敵意を持った人間を持ち主に選んで、その悪意を増幅させるんですね。最後には悪意の対象を呪殺し、同時に持ち主の魂を喰らって成長する、と……」
 大家も心得てくれているらしい。草間の言葉をラクスにも聞こえるように繰り返してくれる。
「それが既に誰かの手に渡ってしまっているんですね? ということは、それを探すのが目的……ということになりますね。ええ、依頼人は李煌(リーファン)さんという魔術師見習いの方……」
 どうやら、問題になっている書は禁忌の書に類されるものらしい。それなら、読み手の魂を喰うのはまあ当たり前と言えるだろう。それよりも、書に書かれているであろう呪の方がラクスの興味を引いた。
「書は呪殺が成就したらすぐに次の獲物を探してどこかへいってしまうから、その前に回収しないといけない……。けれどおそらく持ち主は書に魅入られているので、戦闘になる可能性が高いのですね」
 とはいっても、どうせ書自体は人間の書いたものだろう。きっと知識の番人アンドロスフィンクスであるラクスにとってはもの珍しいと思えるものは含まれていまい。それに、草間が調査員に女性ばかりを選んで声をかけているということはないだろう。男性と一緒に行動しなければならないかもしれないと思うと、この暑さの中でも、ラクスの背筋は凍りそうだった。
 けれど、万一、ひょっとして……という気持ちが完全にはぬぐい去れない以上、それはわきわきとラクスを駆り立てた。その機会があったのに、新たな知を逃してしまったとしたら、後悔してもしきれない。それに、ひょっとして、ひょっとしたら女性ばかり、ということもあるかもしれないではないか。
 第三者が見れば可能性の大小は明らかだというのに、ラクスの抑えきれない探究心はどんどん膨らみ、自分にとって都合の良い可能性の方が大きく見えてくる。
「ええ、私よりも、うちの同居人の方が……」
 大家がちらりとラクスを見る。その視線に、ラクスは顔中に「ラクスが行きます」と書いてあるかのような表情で応えたのだった。
 早速草間興信所に出向こうとして、ラクスははたと足を止めた。せっかくの調査の機会だ、実用性の確認を兼ねて、先日造った擬躰で参加しようと思い立ったのだ。この時点で、ラクスの胸の高鳴りは、不安を完全に圧倒した。
 ラクスはいそいそと、自分の精神を人間の少女の姿をした擬躰に置き換えた。これで準備は万端、さあ、草間興信所までひとっ飛び……と思ったところで、あの力強い翼は今はないことに気付く。
 頭上からはさんさんと容赦なく夏の陽射しが照りつける。それは、ラクスの故郷に比べれば強いと言える程ではなかったが、何せ今は華奢な少女の身。目指す草間興信所は果てしなく遠く、その道のりはこの上なく険しく思えてくる。
 数分後、玄関を出たところで途方に暮れているラクスを見つけ、大家がタクシーを呼んでくれた。もちろん、ドライバーには女性を指名してくれている。「擬躰の時には移動手段を確保すべし」その車内で早速メモに書き付けたラクスだったが、もう1つ大切なことを忘れていた。
 そもそも、草間興信所所長、草間武彦からして男だということを。

「こんにち……は」
 意気揚々と草間興信所の玄関を開けたところで、ラクスは硬直していた。中に草間と先客のセレスティ・カーニンガム、そして小柄な少年――彼が今回の依頼人、李煌なのだろう――の姿を見た途端、最初の懸念を思い出したのだ。けれど、ここまで来て引き返すわけにはいかない。
「ラクスさん?」
 そんなラクスの思考を、女性の声が引き戻した。興信所事務員、シュライン・エマがラクスの姿を見て首を傾げたのだ。
「はい、今日は擬躰で参加しようかと……」
 少し人心地ついて応えた途端、背後に男性の気配を感じ、ラクスはまたも肩を跳ね上げた。
「……こんにちは」
 銀髪で、暗赤色の瞳を持った少年はラクスを不思議そうに眺めながらも、中にいる面々に丁重な挨拶を繰り返した。
「僕で最後、でしょうか?」
 中を見た少年が首を傾げる。
「いや、あと1人」
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
 七重に答えた草間の声にかぶさるように、クールな女の声が振ってきた。パンツスーツの似合う彼女、綾和泉汐耶(あやいずみせきや)にはラクスも見覚えがあった。
「ええと……、これで全員ね」
 シュラインが草間に確認するその声で、全員がソファに座った。途端に神妙な雰囲気が興信所内に満たされた。とりあえず、と今回の依頼人李煌を含めて、全員が自己紹介を交わす。先ほどラクスを驚かせた少年は尾神七重(おがみななえ)と名乗った。
「おおまかな話は草間さんに聞いたけど、問題の書の流出がいつ起こったか教えてもらえるかしら?」
 まず汐耶が短く切り出した。李煌の話を聞く限り、時間的な余裕はあまりない。誰の関心もまずそこに向いているようだった。
「昨日の夕方です」
「ミスで……とお聞きしていますが、どのようなトラブルが起こったのですか?」
 今度は遠慮がちながらも七重が口を開く。
「僕は悪意の書の解呪を……無害化を研究しています。その方法が見つかって、実験をするために結界内で書の封印を解いたのですが……。恥ずかしい話なのですが、その結界に不備があって、書に逃げられてしまったのです」
 李煌は俯き、唇を噛んだ。
「昨夜の今日なので、今回はまだ犠牲者は出ていない……と思いますが」
「ということは呪殺成立までのタイミングはあるということですね。毎回同じ方法で対象は殺されるのでしょうか?」
 さらに七重が問いを重ねる。
「ええと……、「黒い羽の悪魔」が呪いを媒介すると聞いているのですが、実際の方法は所有者の意志によるところが大きいようです。ですから、よっぽど強い殺意を持って、相手を一思いに殺してやりたいと願っていない限りはまだ時間がかかると思います」
「あと、問題の書の外見と……、ひとつ気になっているのですが、回収に成功したとして、呪術を途中でキャンセルすることになるわけですから、やはり所有者の魂が取り込まれてしまうのではないでしょうか?」
 今度はセレスティが思慮深げに口を開く。
「あ、はい、大きさはこれくらい、黒くて表紙に大きな目が描かれています。呪術が途切れても所有者は無事です。前回捕まえた時に確認しています」
「成功報酬完全後払い、ね。なかなか良心的と言えるのかしら?」
 汐耶が皮肉っぽく呟いた。
「あと……、こういう書物には往々にして対抗するための対になる書物がありますが、これにはどうでしょうか?」
「ない……と思います。少なくとも僕は耳にしたことがないです」
「ということはとりあえず探し出して真っ向勝負、ということになるわね。どちらにせよ急いで探さないと……」
 汐耶が軽く息を吐いた。
「古書店から書の魔力の波動を辿れれば良いのですが……」
 思った以上の男性比率の高さに、それまで隅っこで小さくなっていたラクスだったが、話が核心に近づいているのを悟り、おずおずと口を開いた。
「これじゃ、ダメでしょうか。書を封印していた帯なのですが」
 李煌が荷物の中から、文様の縫い込まれた帯を取り出した。確かにわずかながら封印のものとは違う魔力の波動が残っている。これを辿れば問題の書に行き着けるかもしれない。
「あ、はい。やってみます」
 と、返事はしてみたものの、少女っぽい顔立ちをしているとはいえ、やはり李煌も男だ。それを受け取る手は硬直したまま、どうしても伸びない。それを見ていたシュラインが、李煌の手から帯をとり、ラクスへと渡してくれた。
「ありがとうございます」
 心からの安堵と感謝を込めて礼を述べ、ラクスはそれを手に取った。そして目をつぶり、静かに神経を集中させる。
 この擬躰でも、神経の集中や魔力の行使には問題はなさそうだ。かすかに残された波動の痕跡を注意深く辿って行く。が、すぐにラクスは困惑した。どうも波動を2つ感じるのだ。帯に残った波動を読み取り損ねたのか、それとも辿る途中、どこかで失敗をしたのか。
「実はみんなが来る前に、李煌さんから術式に使う道具を聞いていたの。表向き術式を集めた書なのなら、所有者はまずそれにつかう道具を買おうとするかな、って」
 ラクスが顔を上げようとしたとき、先ほどまで誰かと電話していたらしいシュラインが、ちょうど口を開いたところだった。
「それで、道具の中にざくろ石があると聞いて、売ってそうな店に電話して、それっぽい客がいたら教えてくれるように頼んでおいたのだけど、今その返事が来たわ」
 シュラインの言葉に、さっとその場に緊張が走る。
「昨日の閉店前だから夜の9時前くらいね、20歳くらいの女性が血色のざくろ石を買って行ったそうよ。なんでも異様な目つきと雰囲気をしていたから、接客をしていた店員さんが覚えていてくれたみたい」
 時間的にも、そして条件的にもぴたりと合致する。その女性が今の所有者と見て間違いないだろう。
「その女性が所有者だとしたら……、気になる書き込みがありました。どうやら大学生のようですが、何でも、付き合っていた女性と別れてその女性の親友と付き合うようになった男性と、新しい彼女とが今朝事故に遭って病院に運ばれたのだとか……。そしてその女性も連絡がとれないそうです」
 ノートパソコンを開いていた七重が軽く首をひねる。李煌の顔色がさっと青ざめた。
「それ……臭うわね」
 汐耶も眉を寄せた。
「占いの結果が出たのですが……、どうやらこの公園のようです」
 話が途切れるのを待っていたらしいセレスティが、地図上の一点を指す。
「波動なのですが……2カ所から感じます。こちらとこちら……。こちらの方が近い、ですね」
 ラクスもまた、先ほどの困惑をそのままに結果を告げた。
「こちらは……、多分セレスさんの言っていた公園だわ。で、こっちは……」
 シュラインがラクスの指す方向から、地図上での方角を素早く割り出し、線を引く。ラクスが遠いと言った方の方向は、見事にセレスティの指した公園を示している。
「病院、じゃないでしょうか。呪殺対象者の入院している……」
 暗赤色の瞳で宙を睨んでいた七重が慎重な面持ちで口を開いた。
「あ、あったわ、病院。ここからそんなに遠くないわね」
 地図の上を指で辿り、シュラインは声を上げた。
「今から駆けつけて対象者を保護すれば、呪殺の成就は回避できるかもしれません」
「ええ、私も行きましょう。すぐに車を出させます」
 七重の言葉にセレスティも頷いた。
「ラクスは公園に向かいます」
 ラクスも立ち上がる。ラクスの目的は、あくまで書そのものだ。どうやら所有者は女性らしいし、セレスティと七重は病院に向かう。これなら心置きなく書に相対できる。何と素晴らしい展開だろう。
「私も書物に直接当たるわ」
「僕も行きます。せめて……、何かの役に立てるかもしれませんから」
 汐耶に引き続き、李煌も立ち上がった。が、もう1人男性がいたことを思い出したラクスの顔は密かにひきつっていた。
「じゃあ私はセレスさんたちと一緒に病院に……」
 シュラインが汐耶たちに頷き返す。ばたばた、と慌ただしく6人は興信所を後にした。

 さほど広くないその公園は、いかにも余った土地を体裁良く利用しています、と言わんばかりに、申し訳程度の遊具とベンチを備えているだけのものだった。住宅地の中にあるというのに、どこか近隣住民に忘れられ、死角にはまりこんでいるような印象さえ受ける。けれど、もしかしたら他者の干渉を嫌うカップルには格好のデートスポットなのかもしれない。
 人気のないその公園に、女が一人立っていた。真夏の白い陽射しをさんさんと浴びてなお、闇の中に佇んでいるかのようなその女は、じっと古ぼけたベンチを睨んでいる。そして、その腋には大きな黒い書物が抱えられていた。
「……あれね」
 見るだに異様な雰囲気をまき散らすその姿に、汐耶は軽く目をすがめた。
「ええ、間違いありません」
 李煌がごくりとつばを飲む。
「あの書が、そうなのですね」
 ラクスの目は、女の抱える書物に釘付けになっていた。と、その漆黒の表紙に描かれた目がぎょろりと開き、3人を睨みつけた。それと同時に女もこちらを振り返る。その顔にはぞっとする程の憎悪と憤怒が刻まれていた。
「しつこいわね。そんな姿になってまでまだこれを追うの?」
 李煌の顔を認め、女は顔を歪ませた。
「な……。そこまでその書に……」
 明らかに狼狽の色を見せ、李煌は呻いた。
「その書を渡して下さい。それはあなたの手に負えるものではありません」
 ラクスは前へと進み出た。男性と調査を共にしてまで探した目的の書はすぐそこにあるのだ。
「どうして邪魔をするの! 彼氏だと……親友だと思っていたのに裏切られて許せるわけないじゃない! 死んで当然だわ」
 女はラクスを睨みすえ、獣が吠えるような声で叫んだ。
「許す許さないはあなたの勝手です。ですが、あなたは今、この書に魅入られています。自分の意志を保てないあなたには、この書を持つ資格はありません」
 ラクスは言い返す。どうしてわからないのだろう、彼女がこの書を持っていても何も良いことなどない。それよりも自分が読んだ方がよっぽど有益だというのに。
「……渡さない」
 女は低い声で呻く。途端、辺りに邪悪な気配が充満を始める。
「来ますよ!」
 汐耶は短く叫ぶと、自らも李煌の前に立ち、身構えた。
「渡さない渡さない渡さない渡さないっ!」
 女の叫びが空気を振るわせる。と、それは衝撃波になって汐耶たちに襲いかかった。
「ここはラクスがっ」
 すかさずラクスは自身の魔術でそれに対抗した。予想通り、直接的な魔力の行使にも何ら不自由はない。力と力がぶつかり合い、衝撃を残して互いに弾ける。
「ラクスさんっ」
 擬躰への影響はなかったか、とつい自らの身体をチェックしているラクスの耳を、李煌の甲高い悲鳴が貫いた。一瞬身を硬直させたラクスは、さらに息を呑んだ。女が人間離れしたスピードでラクスに突進していたのだ。
 翼を広げて中空へ飛び立とうとして、ラクスはこの身体ではそれができないことを思い出した。万事休す、と身を硬くしたところへ汐耶が飛び込んできて、女の一撃を両腕で受け止めた。汐耶は、そのまま勢いを理由して蹴りを放つ。女は慌てて跳び退り、それを避けた。
 ラクスは素早く集中力を高め、地面に働きかけた。女が着地したその足元から金色の蔓が立ち上り、女の身体を縛める。
 今のうちに、と汐耶が悪意の書に手を伸ばす。
「邪魔を……しないでよぉっ!」
 女が咆哮をあげた。途端に凄まじい突風が汐耶に襲いかかる。
「汐耶様!」
 ラクスは先ほどの術を解くと、素早く汐耶の前に防護壁を張った。
「渡さない、渡さない、渡さないィィィ!」
 金切り声で叫ぶ女の頬が、ごそりとこけた。眼球の落ちくぼむ、ごぼりという音を聞いたような気さえする。書が汐耶たちに対抗するために、女の生命力を奪って力に変えているのだろう。
「まずいです、このままじゃ……。あの人の悪意が……、意識があるうちは書が……」
 李煌の声に焦りが混じる。
 対象者の保護に向かった調査員たちが呪いの成就は食い止めてくれているようだが、このままでは先に所有者の命が危ういかもしれない。もしこのまま女が死んでしまったら、書は次の獲物を探してどこかへ消えてしまう。それはラクスにとっても何としても避けたいことだった。
「李煌君。おとりになれますか?」
 汐耶が書を見据えたままで、短く尋ねた。
「え? あ、は、はい」
「ラクスさん、彼への援護をお願いします」
「え、えーと、李煌様への援護……ですね。はい……」
 ラクスは消え入りそうな声で応えた。困ったことに李煌は男なのだ。攻撃ならともかく援護となるとうまく集中力が保てるか自信がない。とはいえ、今は他に方法がない。頑張れば李煌だって女に見える……かもしれない。
「行きますっ……」
 李煌が封印用の帯を腕に巻き付けて走り出た。書をめがけてその腕を伸ばす。先ほどと同じように突風が李煌を襲う。ラクスは必死で、頭の中で「李煌様は女、李煌様は女」と言い聞かせながら彼の前に防護壁を作り出す。
 その隙に女の背後に回り込み、汐耶はその首筋に手刀を落とした。女の身体がぐらりと傾き、その手から書が離れて、地面に落ちた。
 ラクスは弾かれたような勢いで書に駆け寄った。
「これが……?」
 高ぶる気持ちを抑えながら周囲に結界を敷き、書を開く。が、中に書かれていたのはさほど目新しくもない術式と、各ページに1個ずつの魔法陣だった。それも、この書に喰われた人間の魂が魔法陣に形を変えたものだ。期待していた新たな知は何もなかった。
 となると、急に腹が立ってきた。こんなもののために、自分は苦労して、男性と一緒に行動までしたのか、とふつふつと怒りが煮えたぎる。
「ラクスさん、さっさと封印してしまいましょう」
 汐耶の声にラクスはキッと顔を上げた。「邪魔しないで下さい!」と叫びそうになって、はたと、どうしてこんなに自分はイライラしているのだろう、と気付く。
 きっとこれが書の効果なのだ。悪意は容易く人に伝染する。この書に喰われた数々の悪意が、そしてこの書を作り出した悪意が、読み手の悪意を引き起こすのだろう。
「はい、お願いします」
 そうとわかってしまえば、もう書には用がない。ラクスは素直に身を引いた。汐耶がそれに厳重な封印をかける。
「さて、この書の保管ですが……」
「僕はこの書の解呪を生涯の研究テーマにするつもりです。先ほどの魔法陣は、この書に喰われた人々の魂を封じたものなのです。僕は、この人たちを解放したい……。二度と今回みたいなことは起こしません。だから……」
「……わかりました。そういうことなら。くれぐれも、保管には気をつけて下さいね」
 李煌と汐耶の会話を耳だけで聞きながら、ラクスの頭は既に擬躰の実用性についての実験結果のことで一杯になっていた。
 そう、書に記された呪が空振りに終わっても、まだまだラクスの探究心に終わりはないのだ。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1449/綾和泉・汐耶/女性/23歳/都立図書館司書】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【1963/ラクス・コスミオン/女性/240歳/スフィンクス】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度は「悪意の書」へのご参加、まことにありがとうございます。
今回はおかげさまで死者を出すことなく、悪意の書を回収することができました。この後、李煌は書の解呪にかかりますが、なにせ彼のこと、また皆様の手をお借りしなくてはならないことになるかもしれません。また困っている彼にでくわしたなら、お気が向かれました際には手を差し伸べてやっていただければ幸いです。

なお、いつものように、各PC様ごとに若干の違いがございます。
とまれ、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

ラクス・コスミオンさま
再度のご発注、まことにありがとうございます。お久しぶりにお会いできて、非常に嬉しいです。
今回は男性比率の高い中、おつかれさまでした。「書」と「知」に一途なラクスさんの姿をうまく描けていれば、と思います。収穫と、ご苦労の収支は微妙なところかと思いますが……。

ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。

それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。