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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


あやかし荘 台風襲来!!

◆台風前夜◆

『……大型で強い勢力の台風は、依然として勢力を強めたまま北上し、明後日の朝には関東に上陸するものと思われ、気象庁では……』

 『あやかし荘』の管理人室。いつもの様にお茶とお菓子を片手にのんびりテレビ鑑賞中の恵美と嬉璃。
「台風かぁ」
「うむ、そのようぢゃの」
 テレビの中では顔立ちの整った美人のキャスターが接近中の気象災害について視聴者に注意を促している。
「ここ(あやかし荘)は……大丈夫かな?」
「なんぢゃ恵美。もしやその歳にもなって台風が怖いのか?」
「ち、違うわよ! ただ、ここってカナリ古いし、それに木造じゃない。台風で壊れちゃったりしないかな〜って……」
 築数百年とも言われる総木造の巨大アパート。雨漏りや床抜けは日常茶飯事。
 恵美が不安に思うのも無理からぬことだった。
「ふむ……ならば恵美、ここはひとつ、店子どもから有志を募り来るべき台風に備えようではないか」
「ええっ?」
 恵美は思わず手にした煎餅を取り落とす。
「なぁに心配は無用ぢゃ。店子どもも己の部屋が水没の危機ともなれば喜んで手を貸すぢゃろうて」

◆台風襲来!! 〜翌朝〜◆

「莫迦者ッ! そんなヤワな補強では屋根の瓦が飛んでしまうぢゃろうが、このたわけ!」
 台風が近づいているなどとは到底思えぬ夏の空に響く嬉璃の怒号。
「ひぇぇ、そんなコト言っても……僕、高い場所はダメなんですよぉぉ」
 嬉璃の視線の先。屋根にしがみついて情けない声を上げているのは、あやかし荘・ぺんぺん草の間の住人、三下忠雄。
 『あやかし荘』の住人有志によって台風に備えようと言う嬉璃の作戦は、ものの見事に失敗していた。
「まったく、どいつもこいつも……店子として己が屋敷を守らんと言う気概はないのか!」
「仕方ないわよ。皆さんお仕事や学校なんかで忙しいんだから」
 時期が悪かった……と、言わざるを得まい。
 店子の大半は旅行やレジャー、里帰りなどで部屋を留守にしているものが殆どだった。
「……そう言えば、三下さんはお仕事大丈夫なのかな?」
「ああ、彼奴の心配なら無用ぢゃ。雇用主から了解は取っておる」
 そう言って嬉璃が差し出して見せたのは、メモ帳サイズの小さな紙切れ。
『煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。』
 そんな文面の末尾には、流麗な文体で記された碇麗香の署名。
「……三下さんも大変ね……」
「お、降りれませ〜ん、誰か助けてくださ〜い」
 恵美の溜息と三下の情けない叫びが夏空まぶしい『あやかし荘』に響き渡るのであった。

◆台風襲来!! 〜夕方〜◆

 台風の上陸を数時間後に控え、朝の晴れ間も何処へやら。時を追うごとに風が強さを増し分厚い雲が空を覆い始めたその日の夕方。
「……あやかし荘。うん、どうやらここで間違いは無さそうだけど……」
 『あやかし荘』の正門前に立ち、その外観を手にした地図と見比べながら何やら呟く、小奇麗なグレーのスーツに身を包んだ二十台半ばほどの男。一見すると何処にでも居そうな普通の青年に見えるが、実は齢100を越える鳥の……オウムの変化である。
 この『あやかし荘』は狐狸妖怪の類であっても住まわせてもらえると言う話を聞きつけ、部屋を借りようと思い下見に来て見たは良いのだが……今夜にも関東を直撃すると言う台風に、この総木造のオンボロアパートが果たして耐えられるのだろうか?
 一見して補強らしい補強も見当たらず、それどころか折からの強風でギシギシとイヤな音を立てている始末。
「こんなボロでホントに大丈夫なのかね……」
 戸籍などといった人間社会での身分を証明するものを持たないが故に塒に窮しているのは確かだが、果たしてここを棲家としても良いものかどうか……正直悩むところだ。
「なんぢゃ貴様。来るなり人様の屋敷をボロ呼ばわりとは、ずいぶんと良い度胸ぢゃのぅ」
「のわっ?」
 突然のその声に男はキョロキョロと周囲を見渡す。可愛らしい声の質に反した時代がかったその口調。
「ふむ……貴様、入居希望者か?」
 いつの間にか来たのか。門柱に腰掛け値踏みするような眼差しで男を見やる嬉璃の姿がそこにあった。
「そうですけど……どちら様ですか?」
「ちょうど良い所に来た。貴様、わしの手伝いをせい」
 何故か敬語の陣七を余所に、嬉璃は陣七めがけて門柱から飛び降りる。
「わわっ、なにするんですか!」
「ええい、店子になろうと思うなら黙ってわしの言う通りにせい」
 得体の知れない子供に肩車をさせられた陣七の苦難の夜はこうして始まったのだった。

◆台風襲来!! 〜夜〜◆

「おつかれさまでした。いま、お茶入れますね」
「うむ、茶菓子も忘れるでないぞ」
「……やっと……終わったぁ」
 いよいよ台風の強風圏に入り、風に煽られガタガタと不穏な音を立てる『あやかし荘』の管理人室。
 そこに嬉璃と恵美、そして嬉璃に引きずり回され不慣れな力仕事を手伝わされ虫の息の陣七の姿があった。
「なんぢゃ、もうバテおったのか? 夜はまだまだこれからだと言うに」
「そんなコト言われても、俺の専門はもっぱら喋りの方で肉体労働は苦手なんですよ」
 軽妙な語り口とマシンガントークで人気の名司会者も、嬉璃の前では何故か敬語になってしまう。それは陣七自身、不思議ではあったが別に不快ではなかった。
「しかし何ぢゃのう。この調子では今宵の嵐に耐えられるかどうか……怪しいところぢゃ」
「ええ〜っ、そんな困りますよ」
 陣七の働きによって、必要最低限補修が必要と思われる箇所に関しては何とか手を入れることが出来たが、この広大な『あやかし荘』のすべてを1人でカバーするなどと言うのは幾らなんでも不可能と言うもの。
「ココはひとつ、何か策を考えねばならぬようぢゃのう……」
 恵美の運んできた茶をすすりつつ嬉璃がそんなことを呟いた……その時だった。
――ドタドタドタドタッ……
 管理人室に向かって何者かが勢い良く駆けて来る様な音。
「嬉璃殿、嬉璃殿はおるかっ!」
 バンッ、と管理人室のドアが開き、嬉璃に良く似た和服姿の少女が管理人室へと駆け込んできた。
「む、源ではないか。どうしたのぢゃ、こんな夜更けに」
 駆け込んできた少女の名は本郷源。『あやかし荘』薔薇の間に住まう嬉璃に(自称)親友にして『あやかし荘』きってのお騒がせ娘である。
「どうしたもこうしたもないのじゃ! 嬉璃殿、急いで中庭に来るのじゃ!」
 言うが早いか、源は嬉璃の手を掴むと一目散に駆け出した。
「これ、急に引っ張るでない! ええい、貴様も一緒に来い」
「ぐぇっ!」
 常人を遥かに凌ぐ力を持つ源に手を引かれては如何に嬉璃と言えども抗いようもなく……畳に伏していた陣七の襟首を掴むと、そのまま引き摺られる様に管理人室から飛び出していった。
「……大丈夫かなぁ、あの人」
 ひとり管理人室に取り残される形となった恵美が、嬉璃と源に巻き込まれるようにして消えた名も知らぬ青年の行く末を案じ小さくそう呟いた。

◆いくぞ、ボクらのリーゼントライダー!◆

「なんで俺はこんなところにいるんだろう……」
 夜半過ぎ。台風はついにあやかし荘を含む関東全域を暴風域に巻き込んだ。
「男なら細かい事をつべこべ言うでない」
 そんな風雨吹き荒ぶ『あやかし荘』の庭に佇む1人の男と2人の童女。
「そうじゃ、これからこの『あやかし荘』に棲まおうと言うのであれば黙って付き合うがよいのじゃ」
 そんな陣七の疑問に2人の童女は端から答える気はないらしい。
「しかし、ホントに出来るんですか? 『台風を追い返す』なんて」
 陣七は、先に嬉璃から説明された作戦の内容を今一度問い返す。
 なんでも、この台風の中心に居ると言う風神・雷神という妖を撃退することで、台風の進路を変えてしまおうと言う計画らしいのだが……。
「ふふ、まぁ見ておれ……源、準備は良いか?」
「おっけーなのじゃ」
 陣七の心配も空しく2人は完全にやる気100%、ドコから取り出したのか源がバックル部分に風車のようなモノがついた奇妙なベルトを自分と嬉璃に取り付ける。
――そして、待つこと十数分。
 徐々にその威力を増していた風雨が突然ピタリと収まる。
「来た来た来た来た! ついに来たのじゃ……とおッ!!」
 風が止むと同時に腰のベルトが勢い良く回転を始める。まるで台風の風を吸い込んだかのように……
「うむ、ゆくぞ源、とうッ!!」
 互いの手を取り勢い良く中空へ跳ぶ2人の童女……次の瞬間!
『変身ッ!!』
 掛け声とともに稲光に似た光が辺りを満たす! そして光が収まったとき――
「力の壱号、ここに参上……なのじゃ!」
「技の弐号、ここに推参……なのぢゃ!」
 『あやかし荘』の中庭を臨む屋根の上に立つ奇妙なスーツを身に纏ったふたつの影。言わずもがな源と嬉璃の2人である。
「り、リーゼント……ライダー!?」
 2人の姿を見上げ思わず呟く陣七。
 その特徴的すぎる髪型……もといヘルメットのデザインは、いま巷の少年・少女と一部の大きなお友達の間で話題騒然のヒーロー『リーゼントライダー』のモノに間違いなかった。

◆決戦?風神・雷神◆

「隠れておらずに潔く出て参れ! 其処におるのは先刻承知ぢゃ」
 『あやかし荘』の屋根に立ち、虚空へ向かって言葉を投げつける嬉璃……もといリーゼントライダー弐号。
「それとも我等2人に恐れをなしたか!」
 続く源……もといリーゼントライダー壱号。
 台風の目に入り、先程までの暴風雨がなりを潜めた星空を指差しポーズを決める2人は、もはや完全に戦闘態勢だ。
「あの〜、もしも〜し」
 テンションの高さと話術において余人に劣ることなどなかった陣七だったが、これまで経験した事のない2人の童女のテンションに半ば思考停止を起こしかけていた。
 しかし、むかしのエライ人はこう言った。それでも地球は回る……と。
――ふふふ、さすがはリーゼントライダー。
――俺達の気配に気がつくとは、なかなかにやりおる。
 嬉璃と源の声に応えるかのように空から響く謎の声。
「こうしてわし自らで迎えてやっておるのぢゃ。勿体つけておらんでさっさと出てこんか」
 声はすれども姿は見えず。そんな状態に業を煮やした嬉璃の声が『あやかし荘』の中庭に響き、ついに……
『ふっふっふっ……』
 虚空から、含み笑いとともに、まるで滲み出るかのように姿を現すふたつの影。
 江戸時代の画家、俵屋宗達の『風神雷神図』から抜け出てきたような、雷鼓を背負い風袋を持った鬼そのものの荒々しい姿。
 台風のような巨大な気象現象を司り、曲がり形にも神号をもつ大妖。圧倒的な霊気を周囲に放ちつつ嬉璃と源へ歩み寄るその姿は威厳すら感じられる。
 屋根の上で歩み寄る鬼どもの姿をジッと見つめる嬉璃と源。中空を歩む二匹の鬼との距離は一歩ごとに縮み、ついに互いに手の届く距離まで近づいた。そして……
『お久しぶりです、嬉璃殿』
「……はぁ?」
 嬉璃を前に二匹の鬼はそう言って恭しく頭を下げた。

◆台風一過 〜また来年〜◆

「それでは嬉璃殿、源殿、また来年お会いしましょう!」
「それまでどうぞお達者で! さぁ、ゆくぞ風神!」
 そう言って、颯爽と空を駆け去ってゆく風神・雷神の後姿を見送りながら、嬉璃と源は盛大に溜息を吐いた。
「結局、なんだったのじゃ? あの2人は……」
「まったく、迷惑千番とはこのことぢゃな……」
 風神・雷神とともに足早に去ってゆく台風の空を眺める嬉璃の手には、彼らが土産にと置いていった浅草名物『雷おこし』
「まさか、わしに挨拶をする為だけに台風に乗ってくるとはの……」
 そう言って嬉璃は懐から手紙の束を取り出した。
「それは?」
「うむ、全国の魑魅魍魎どもから毎年この時期に送られてくる……人間で言うところの暑中見舞いのようなものぢゃな」
 その様子を怪訝な顔で見つめていた源の問いに嬉璃は事も無げにそう答えると、その束の中から一通の葉書を抜き出し、
「ほれ、コイツを読んでみぃ」
そう言ってその葉書を源へ放ってよこした。
「え〜っと、なになに……」

『暑中お見舞い申し上げます。近いうちにご挨拶に参りますので、その際はどうぞ宜しくお願い致します。――風神・雷神』

「いやぁ、まさか本当に来るとは思ってもおらんでな。今の今までスッカリ忘れておったわ」
「嬉璃どのぉ〜……」
 ハッハッハッと、まるで自分の失態を誤魔化すかのように大きく笑う嬉璃。その横でまたひとつ大きく溜息を吐く源。

 夏のあやかし荘に訪れた台風の夜は、こうして一応の幕を下ろしたのであった。


■□■ 登場人物 ■□■

整理番号:5478
 PC名 :木幡・陣七(きばた・じんしち)
 性別 :男性
 年齢 :100歳
 職業 :司会者 

整理番号:1108
 PC名 :本郷・源(ほんごう・みなと)
 性別 :女性
 年齢 :6歳
 職業 :オーナー 小学生 獣人


■□■ ライターあとがき ■□■

 本郷様、はじめまして。この度は『あやかし荘 台風襲来!!』へのご参加、誠に難う御座います。担当ライターのウメと申します。

 まずは納品時期が著しく遅れましたこと、この場をお借りしてお詫び申し上げます。
 体調不良に拠るものとは言え、ライターとして締め切りを破りお客様にご迷惑をお掛けしたことは謝って済むものではないと理解しているつもりです。
 今後は、皆様に楽しんでいただける物語を作るのはもちろんのこと、自身の体調管理にも力を入れて頑張っていきたいと思っております。
 至らないところばかりでは御座いますが、今後とも宜しくお願い致します。

 さて、嬉璃のド忘れから始まった台風騒動はこのような形で決着と相成りました。
 リーゼントライダーの活躍の場はイマイチありませんでしたが、それは次回(?)のお楽しみ……。
 個人的にヒーローモノのパロディなんかは大好きなので、変身シーンの前後はかなりノリノリで楽しく書くことが出来ました。

 最後に、拙い文章ではありますが少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。有難う御座いました。