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<東京怪談ノベル(シングル)>


台風が俺を呼んでいる!


 あやかし荘の安っぽ〜い屋根や外壁に「これでもかこれでもか!」と雨風が叩きつける。今、東京は台風通過の真っ最中。学校も軒並み臨時休校にさせるほどの強い勢力を保ったまま、我が物顔で日本を縦断するのだろう。管理人室でまったりと茶をすする嬉璃もさすがにこれには我慢できずにいた。外がやかましいせいでテレビの音量はいつもの4割増し、だが自分の耳に入ってくる音はいつもよりちっちゃい。しかも雷が鳴るたびにテレビの映像が乱れるとあっては、いよいよ苛立ちも最高潮に達する。とりあえず平静を装いつつ茶を飲み干した直後、小さな手でちゃぶ台をどんと叩いた。

 「嬉璃は我慢できんのぢゃ! 今度の台風は遠慮がないんぢゃ! 落ちつかんのぢゃ!」
 「おおーっと、嬉璃殿! ならばわしと一緒に台風退治なのじゃ! その怒りを奴らにぶつけるのじゃ!」

 彼女の怒りを察したのか、それともすぐそこで黙って聞いていたのかはわからない。すかさず部屋の戸を開けて部屋の中に入ってきたのは本郷 源だった。彼女はどこで手に入れたかわからない怪しげなベルトを2本持っていた。どうやらこれで難題を解決しようというのだ。怒りが沸点まで達した嬉璃は何度も頷き、言われるがままそのベルトを腰に巻いた。そのベルトの中心には黒いバナナのような珍妙なシルエットが描かれていたが、それが何なのかはまったくわからない。ふたりは装着を完了すると、そのまま雷鳴轟くあやかし荘の庭へと踊り出た。そして恨めしそうに空を見ながら嬉璃が叫ぶ。

 「これで本当に台風を消せるんぢゃろうな!」
 「わしを信じるのじゃ! 嬉璃殿、大きくジャンプしてベルトに力を与えるのじゃ! さすればわしらはリーゼントライダーとして戦うことができるのじゃ! 敵は台風を操るといわれる風神と雷神じゃ!」
 「ほほう……これは得体の知れぬ輩が起こすものぢゃったか。ならばまとめて皆殺しぢゃ。」
 「行くのじゃ! リーゼン……」
 「とぉっ、なのぢゃ!」

 小柄なふたりのジャンプはベルトの力ではるか彼方まで飛んでいき、煙のように渦巻く雲の中へと突っ込んだ! その間、ふたりの身体に変化が起こる。ふたりの身体はお揃いの特殊なスーツに包まれ、端正な顔も不思議なマスクが全体を覆った。そしてついには雲を突き抜け、全身に太陽の光を浴びる頃には変身した姿がはっきりと確認できた!
 頭には装甲とはまったく関係のなさそうなリーゼント。ふたりの違いを示す物は白と赤の鉢巻くらいで、あとはほとんど似たような装備をしている。頑丈な胸当てにいくつかのラインが入ったスーツ、そして鉢巻と同じ色の手袋とブーツ……彼女らは秋晴れの空で憎き敵と対面した。彼らはよく昔の絵で表現されるベタな風神と雷神だったが、ただ一点だけ謎な部分があった。なぜか連中はスキンヘッドなのだ。しかし今の源と嬉璃にはそんなことに興味を持つ余裕などない。さっそく名乗りをあげ、戦いを挑まんとした!

 「わしはリーゼントライダー、パワーの1号っ! 白き閃光じゃ!」
 「嬉璃はリーゼントライダー、テクの2号っ! 赤き灼熱ぢゃ!」
 『何しに来たん、あんたら?』
  ドガシャ!
 「やかましいのじゃ! 下手な方便で喋るものではないのじゃ!」
 『ああっ、兄者あかんて! 天然はいつでも仇になるって言うてるやん! 兄者が教えてくれたんやで!』
 『痛い〜、痛いよおかあちゃ〜〜〜ん!』

 なぜか関西弁の風神にツッコミ代わりのキックを顔面に見舞う1号。唐突に現れたくせに遠慮のクソもない敵に圧倒されている風神と雷神。しかも何気に彼らは兄弟だったらしい。とても倒すべき相手には見えないふたりではあるが、このまま下に帰っても状況は何ひとつ変わらない。リーゼントは心を鬼にしてスキンヘッドに戦いを挑む。余談だが、源たちは戦う理由を相手に一言も説明していない。もしかしたら円満解決もあり得たのに……ともかく激しい戦いが始まった。

 「風神、覚悟じゃ!」
 『甘い! 甘いのはミックスジュースだけで十分や! 風神竜巻ぃぃっ!!』
 「どぅわああぁぁっ! さすがは台風を司るだけあって骨があるのじゃ……どこかに弱点でもないじゃろうか?」

 肉弾戦をメインとする1号に対し、風神は手に持った袋からすさまじい勢いの竜巻で応戦。強力な飛び道具にして敵を寄せ付けないその攻撃はまさに攻防一体の必殺技と評しても過言ではない。2号も果敢に攻めていくが、雷神電撃をお見舞いされ近づくことすらできない。こちらも兄者と同じ性質を持った隙のない攻撃だ。このままでは連中を倒すことができない。自分の平安を手に入れるため、2号が覚悟を決めてシンボルであるリーゼントを少し上に曲げた。

 『兄者! こやつらプライドを捨てよった! しょせんはリーゼント、昭和の産物なんか役には立たん!』
 「とうの昔に流行を終えた髪型しておるお前らに言われとうないのぢゃ。まずは雷神、覚悟するのぢゃ!」
 『何をしても無駄じゃ! ぬーーーん、最大電撃発射!!』

 すさまじい破壊音とともに繰り出された電撃は一直線に嬉璃へと向かっていく! ところが2号はこのタイミングでなぜか超スピードを発動させた。まずは電撃の真上に避けたかと思うと、そのままおかしな角度に移動しつつ雷神に接近する。そんな敵の行動が雷神を破滅に導くといち早く気づいたのは風神だったが、時すでに遅し。その間も放たれた電撃は2号の手によって巧みに操られ、最後には発射した本人へと飛んでいく!!

 『おおーーーーーっ、俺の電撃帰ってきてるやん! 兄者、兄、あががががががが!』
 『雷神ーっ! くそぉ、このままでは済まさんぞ! わかっとんやろーな!』

 最大の力で発した電撃を食らって徐々に全身真っ黒になりつつある雷神。さすがはテクの2号、リーゼントで作った避雷針と超スピードを駆使して敵を粉砕したのだ。だが風神も弟の敗北を指をくわえて見ているわけにはいかない。こちらもまた最大風力で竜巻を起こし、ふたりまとめて退治しようと攻撃した! しかし1号も同じ轍は踏まない。竜巻の中心を一目で見抜くと、自らその中に突入したのだ! そして流れと同じ方向に回り、風神の起こした回転をさらに強力なものにする!

 『な、な、なんてパワーや!!』
 「嬉璃殿、風神をこちらに蹴り飛ばすのじゃ!」
 「わかったのぢゃ。はああぁぁぁぁーーーっ、リーゼントぉ、ツッパリキィィィーーーーーック!!」
 『どぐわぁっ! めっ、目の前に俺の竜巻が……と、止まらな、あがががががが!!』
 『ああ、兄じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!!』
 「おまけに蹴っておいたのぢゃ。大事な弟ぢゃ、大事に受け止めるのぢゃ!」

 なんと嬉璃はとっさの機転で風神の後ろからさらなる力で雷神をも蹴り飛ばしていたのだ! まだ雷神は感電しているが、リーゼントライダーのブーツは防電加工が施されているので何の問題もない。結局、ふたりして行動不能になってしまったバカ兄弟は竜巻に飲みこまれた。

 「とどめなのじゃ! リーゼントぉ、タイフーンアタァァァァック!」
 『ホンギャラゲーーー!!』『ヒンジャラバーーー!!』

 ふたりは竜巻に巻き込まれ、東の空の彼方まで吹き飛ばされた。彼らを追いかけるかのように台風の雲もその方向へと向かおうとする……しかしふたりの統率を失った雲は次第にちぎれちぎれになり、そのまま四散した。そして東京の街に明るい日差しが戻ってきたのである。リーゼントライダーの活躍で、台風の脅威は取り除かれたのだ。


 すっかり晴れた空を見ながら、源と嬉璃はまったりと茶を飲んでいた。台風一過とはまさにこのことである。テレビもきれいに映るし、雨音に悩まされることもない。こうしてあやかし荘に平穏が訪れたのだった。