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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



「ふわぁ〜! ほーんと、あの先生話が長くて困るよ」
 欠伸をした後、ぶつぶつと文句を言う始末。
 なにせ講義をしていたのは中年ではなくもはや老人とも言える年代の男だったのだ。
 なにを言っているのか聞き取り辛い口調と声。まったく嫌になる。
 成瀬冬馬はふいに足の向きを変えた。
「やめやめ! いっつものとこ行こう。あのジジイの顔が頭に残ってて、ちっとも癒されない」
 向かった先は冬馬が好んで通っている喫茶店である。
 ここのバイトの女の子はみな、可愛いのだ。
 ドアを開けて入ると、ちりんちりんとベルの音。この音がまた、癒される。
 は、と冬馬は瞬時に視線を向けた。美人の……いや、知り合いの女の子の気配が!
 無言で座っている黒髪の少女を発見し、冬馬の心の中で幸せのラッパが吹かれた。
「奈々子ちゃんじゃないか〜!」
 うわ〜い。
 スキップしかねない歩調で近づいて、にこにこと奈々子を見遣った。やっぱり美人だ。
(いいねえ。美人は見てるだけで癒されるって本当だなあ)
 これであの講義の老人のことはチャラだ。
 奈々子は冬馬に気づいて彼を見遣る。
「あ。成瀬さん」
「やだなあ。そんなに他人行儀じゃなくていいって。なんならナルって呼んでくれてもいいし、冬馬くんでもOKだよ」
「…………」
 半眼で見られてしまうが、彼女はすぐに視線を伏せてしまった。
 およ? と冬馬は目を丸くする。勝気で短気な性格の奈々子が、ここで反論しないことは珍しい。
 そういえば。
 冬馬は奈々子の向かい側で神妙な顔をしている正太郎に視線を遣り、それから首を傾げた。
 一人足りない。
 あの元気な、花火みたいな子がいないではないか。
「正太郎クン……はいいとして、朱理ちゃんは?」
 冬馬の言葉に二人がびくりと反応した。どうやら……なにかあったようだ。
(探偵の勘っていうより、二人の態度がわかりやすい、って感じだね)
 内心苦笑してしまう冬馬は、奈々子の顔を覗き込んだ。
「奈々子ちゃんが元気がない理由は、朱理ちゃんにあるみたいだね」
「そ、それは……」
「よし! じゃあ一肌脱いじゃおう! ほかならぬ、朱理ちゃんと……キミのためにね」
 ウィンクする冬馬は、とりあえずウェイトレスにアイスティーを三人分注文した。



「いかにもって感じだね、これ」
 正太郎に見せてもらった写真に、冬馬は苦笑してしまう。
「夢魔でしょ、たぶん」
「夢魔?」
 奈々子の横に陣取っている冬馬は軽く頷いた。
「ナイトメアとか、そういうのかな。悪い夢を見せ続けることもあるって聞いたことあるよ」
「悪い夢……? じゃあ朱理さんは……」
 正太郎は青ざめて震える。
 冬馬は携帯のメールで誰かとやり取りをしていた。そしてしばらくして、にっこり微笑む。
「ははあ。なるほどね」
「? どうしたんですか?」
 真横にいる奈々子の真剣な表情に、冬馬は嬉しそうにした。どうやら素っ気ない奈々子がこれほど興味を示してくれることに、まんざらでもないようである。
「実は友達にこういうのに詳しいヤツがいるんだよね。そいつによると……」
「よると?」
「やっぱり眠り姫には王子様のキ……」
 奈々子が拳を構えて物凄い形相で睨みつけているのに気づき、ごほんと咳を一つ。
「なわけないって。ははは。冗談だよ、ジョーダン!」
「…………」
 冷えた目をしている奈々子は、拳をとりあえず降ろしてくれた。冬馬は深く安堵の息を吐く。
 なにせ奈々子が朱理を容赦なく殴っているシーンを目撃しているのだ。彼女に逆らうと、ゴン、と拳が降ってきそうだった。
「被害者の思念に潜入するってのがまあオーソドックスみたいだね。とはいえ、ボクにはそういう能力はない」
「じゃあどうするんですか?」
「まあまあ落ち着いてよ正太郎クン。心に話し掛けるくらいなら、たぶんできるよ」
 奈々子と正太郎は互いの顔を見て、それから冬馬を見る。



 朱理の住居はマンションで、叔母と二人暮しという。それを聞いて冬馬は微妙に笑いを洩らした。洩らすまいと我慢したため、おかしな笑いになってしまったのである。
(朱理ちゃんの叔母さんかぁ……)
 想像してしまうのは、男としての性かもしれない。
(朱理ちゃんだってちょっと童顔だけど、絶対いい女になるよなぁ。放っておくなんて、世の男は見る目がないよね)
 ふふふ。
 ふふふのふ。
 どうにも想像が止まらなくなっていると、不審そうな視線を向けられてしまった。
「さっきから何を楽しそうにしているんですか……?」
「え? あ、いやぁ。助けたお礼に朱理ちゃんにデートを申し込んでみようかなあって思ってて」
「…………」
 呆れたような奈々子の視線。
「朱理さんのどこがいいの……?」と、正太郎まで呆れている。
「やれやれ。正太郎クンは二人と居ても何も感じないのかい?」
「はあ……」
「なんとも悲しいことだね。奈々子ちゃんは美人! 朱理ちゃんは可愛い! 両手に花じゃないか!」
 力説する冬馬をジト目で見て、正太郎はやれやれと肩をすくめた。
「どちらかと言えば、二人に腕を引っ張られて無理やり引きずられているって感じが正しいと思いますけど」
 冬馬は想像する。
 捕まった宇宙人を。
(ぶっ!)
 両手を左右の人間に引っ張られているその想像は、冬馬のツボに入った。
「あははっ! それ、面白いなあ!」
「ボクは面白くないです」
 正太郎は唇を尖らせてしまう。

「いらっしゃい」
 ドアを開けてくれた女性が、どうやら朱理の叔母のようだ。冬馬の顔が緩む。
(朱理ちゃんに似てないけど、若くてスタイルいいなぁ)
 冬馬の横の正太郎が、はあ、とまた嘆息していた。
「ごめんなさい。急な仕事で出かけなきゃいけないの」
「お構いなく」
「朱理は……まだ眠ったままなの」
 奈々子の表情が暗くなる。

 部屋にあがると、奈々子は迷いのない足取りで奥へと向かう。
 和室を自分の部屋にしているらしい朱理は、部屋の中央の敷布団で寝息をたてていた。
 冬馬はさすがに反応に困る。
 普通はもっと苦痛に満ちた顔をしていたり、唸っていたりするものだが……。
(平和そうな寝顔だなー……)
 なんか、小猿みたい。
 そう思っていると、奈々子が突付いてくる。
「あの……よろしくお願いしますね」
 ためらいがちに言われて、冬馬は自身の胸をどーんと強く叩いた。
「任せてよ!」



(朱理ちゃん……)
 そっと、冬馬は彼女の額に貼り付けてある符に指を添えて語りかけていた。
(うーん。ここにはいない感じ。もっと深そう……)
 潜るイメージをする冬馬は目を開く。
 いた。
(朱理ちゃん、聞こえる?)
 途切れ途切れに朱理の声が響いてきた。
<……さ……?>
(成瀬冬馬だよ。キミを助けに来た)
<……? ど……し……?>
(聞き取り難いからこっちの用件だけ伝えるね。キミはここ数日ずっと眠ったままなんだよ。それはたぶん……)
 ばちっ、と意識が引き戻される。冬馬は符から手を離していた。
 なにかが起こったのだ。
 ぱちりと朱理が目覚め、そしてぎろりと冬馬を睨む。
「朱理ちゃん?」
「この娘に干渉するでない」
 朱理の口から洩れるその声は、いつもの明るさも気安さもなく、ただただ拒絶しか含んでいない。
 起き上がった朱理は、額の符を剥ぎ取り、びりびりと破いた。
「あなたが朱理に取り憑いているんですか!」
 乗り出す奈々子を、朱理は一瞥する。その冷たい目に、冬馬は奈々子を庇うように腕を横に出した。
「朱理から離れてください!」
「奈々子ちゃん、ダメだ……!」
 後ろのほうでは正太郎が気絶していたのだが、三人は全く気づいていない。
 朱理は鼻で笑う。
「なぜ我がおまえらにそんなことを命令されなければならん? なんなら、この娘の能力で消し炭にしてくれようぞ」
「!」
 奈々子が絶句した。
(参ったな。朱理ちゃんの身体を支配しているのは、夢魔みたいだ)
 どうすればいいんだろう。説得に応じる相手ではなさそうだ。
「ちょっとお、勝手にあたいの身体を使わないでよお」
 突然朱理の口が動き、彼女の口調で喋った。
 ぎょっとする朱理……いや、夢魔は慌てる。
「ど、どうして!?
 そこの二人はあたいの友達なの。消し炭なんかにされたら困るんだよね」
 妙な光景であった。
「あ、朱理ちゃん?」
 話し掛けた冬馬の声に反応して、朱理はにっこり微笑む。
「ご指名ありがとね。成瀬さん」
 途端、ぼひゅん、と彼女の肉体から何かが飛び出す。素早く着地したソレは、着物姿の少女だ。
 朱理は脱力して布団に逆戻りである。
「うへー……追い出すのって、体力いるんだな〜……」
 よろめきながら起き上がる朱理は、奈々子に抱きつかれて「けぺ」と潰れたカエルのような声を出す。
「良かった!」
「いたい……」
「ええ〜! ボクには?」
 冬馬の言葉に、朱理は疲れたような視線を向けた。そして苦笑する。
「じゃ、キスかデートでどう?」
「へっ!?」
 仰天する冬馬の前で、朱理が奈々子にゴスンと殴られてしまった。
 追い出された夢魔はわなわなと震え、朱理を睨みつける。
「どうしてじゃ! 楽しいと言ってくれたではないか!」
「いやあ、鞠つきっての、珍しかったしね」
 後頭部を掻く朱理の横で、冬馬がぽつりと言う。
「なんだ……朱理ちゃんに憑いてたのは、遊び相手を探してたから?」
「ばっ! バカにするでない!」
 激怒する夢魔は殺気を冬馬に向けた。
 だが。
「楽しかったけど、あたいはあんたとは一緒に遊べないよ」
 そう、朱理が呟いた。
 夢魔は目を見開き、裏切られたという表情を浮かべて……それから無言で奈々子と冬馬、そして倒れている正太郎を眺める。
 ややあって、夢魔は殺気を消してゆっくりと窓を通り抜けて外を飛び出して行った。
 しーん、と静まり返る室内。
 そして。
「はー……どうなることかと思った……」
 深く息を吐き出す冬馬は朱理に近づく。
「ねえねえ朱理ちゃん。さっきのマジなの?」
 尋ねるが、朱理は気を失って奈々子の腕の中でぐったりしてしまった。
 きゃー! と奈々子が悲鳴をあげる。
(ちぇっ。ざんねん)
 冬馬は嘆息してから、微笑んだ。
 とにかく良いほうに動いて、良かった。
 それに、朱理は確かにデートしてもいいとも言ったのだ。冬馬は絶対、あの言葉を忘れないだろう。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/大学生・臨時探偵】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、成瀬冬馬様。ライターのともやいずみです。
 前回よりは仲良い感じですが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。