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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


怪談・カプリッチョ〜夢想学園シリーズ2〜

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 誰でも夢を見ることがある…色々な夢を。
時には、神聖都学園と言う学園で学校生活をしている夢を見る事も。
平凡な学園生活をしている時もあれば、少し不思議な体験をする事もある。

 今日見る夢は、どんな夢なのだろう。

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◆◆◆怪談・カプリッチョ◆◆◆

 学園七不思議…
全国各地の学校と言う学校には必ずあるであろう”学校の怪談”の王道。
それは、七不思議のはずが、集めていくと八つも九つもそれ以上もあったりする、
かなりいいかげんなシロモノだったりする事が多い。
 しかし、神聖都学園の七不思議はそれとは少し違う。
なぜならば…『わが学園の七不思議』と題された書物が図書室にあるからだ。
どこでどんな事がおこり、謂れはどんなものか等、七つ全てを詳しく説明している書物。
夏場になると貸し出し中が続いてなかなか読むことのできないレアな本である。
 そんなレア本をやっとの事で借りることの出来た生徒のほとんどが、
読破した後に取る行動と言うものは何故か共通している。

『七不思議の検証』

 コレだ。
中でも、七不思議の四番目に数えられる『深夜の屋上の怪』は特に人気が高い。
本に記されていることが事実なのかどうかを実証したくなるのが好奇心旺盛な生徒の性(さが)。
けれど1人で行くのはやっぱり怖かったりするのも生徒の性…かどうかは知らないが…
「誰か一緒にチャレンジする人この指とーまーれー!」
 ここでもそんな生徒が一人。
中等部2年生の女子生徒、神城・翼(かみしろ・つばさ)は、本を手にして大声を張り上げた。
果たしてわざわざ”恐怖体験”に足を突っ込もうという仲間が来るのかどうか…。



「その指とーまったー!」
どこからともなく走りこみ、翼の指に飛びついたのは浅海・紅珠。
初等部の彼女が何故、中等部校舎にいるのかは謎だが、何かのカンが働いたらしい。
「ありがとー!一人じゃ絶対に怖かったの!アタシ!」
「俺がいれば大丈夫。で?具体的に何すんの?」
見た目や行動が少しボーイッシュだが、れっきとした女子生徒である。
翼が詳しく説明しようとした時、
「はいはいはーい!俺も混ぜてくんない?アレ一回読んでみたいと思ってたんだよね〜」
 階段の上の階から駆け下りてくる高等部の男子生徒の姿が見える。
「おっ!桐生センパイ」
 紅珠の見知った相手で、桐生・暁。
こちらもこういったイベントごと(?)には敏感で、上の階にいて聞こえた声に反応し、
素早くここまで走ってきたのだった。
「生徒だけでは心配です…!わ、私も行きますっ!」
 背後から聞こえた声は古典教師の数藤・明日奈。
中等部の生徒である橘・都昏と共に、名乗りを上げたのだった。
「先生なんだ…でもかなりびびってるように見えるけど大丈夫かよ…」
 聞こえないように、ぼそりと紅珠が呟く。
「大丈夫なんじゃない?ナイト君がいるみたいだし♪」
「ナイト君ねぇ…?」
 それはつまり都昏の事。
二人の関係は詳しくはわからないのだけれど、なんとなくそんな雰囲気なのだ。
「俺には無縁の話かな。むしろ俺がナイト様って感じだし?」
「あははは!紅珠ちゃんならアリかな♪でも必要になったら俺がやるよ、ナイト様♪」
「うーはー…!ま、必要になったら、ね」
 こちらは色気と言うものは感じないながらも、それなりにいい友人関係は築いているようで。
「よーっし!じゃあこのメンバーでレッツゴーね!!」
 首謀者の翼も含めた、そんな五人のメンバーで行動することになったのだった。



 深夜の屋上の怪…
午前零時になる前に校舎の屋上に向かうと、転落防止フェンスの向こう側に男子中学生が立っている。
 深夜には鳴らないはずのチャイムが何故か鳴ると同時に、その生徒はそこから飛び降りるのだが…
その姿を見た後、屋上から帰ろうとすると背後から「…痛いよ…」と生徒の声が聞こえてくる。
 声を聞いて慌てて逃げると、逃げたはずなのに何故か気づいた時には…
その男子生徒が落下した地点あたりに立っていると言う…
昔、文化祭の準備中に事故か故意か不明だが、屋上から転落死した生徒の霊だという噂…

†                   †                     †

 深夜の屋上はさながらちょっとしたピクニック風景。
初等部6年女子の浅海・紅珠(あさなみ こうじゅ)の提案で、
翼と同じクラスの男子生徒の桐生・暁(きりゅう あき)と三人でお菓子や飲み物を用意したからだ。
「なんだか楽しそうで良かった…」
 ほっと安心した表情になる古典教師の数藤・明日奈(すどう あすな)。
懐中電灯の明かりが五つほど揃っていると明るさもあって、場の雰囲気が和やかだったかららしい。
「先生はビビリすぎ!もっと気楽にいいればいいんだよ」
「そ、それはわかってるつもりなんだけどね…」
 笑いながら紅珠に言われて、明日奈は生徒のいる手前、恥ずかしそうにしながら、
無意識に中等部2年の男子生徒、橘・都昏(たちばな つぐれ)の陰に隠れる。
「え?あ、ちょっ…す、数藤先生…?」
「うはー…アツイなー!」
「大丈夫!アタシはお二人の味方ですからっ!」
「な、なにを…?!」
 明日奈と都昏のそんな様子をからかう紅珠と翼の女の子コンビ。
暁は鼻歌を歌いながら都昏の肩にポン、と手を置いて『わかってるから』とでも言いたそうに笑みを浮かべる。
「なっ…いや、違っ…」
「浅海さん、暑いのならうちわを用意しましたからどうぞ」
 頬を赤くしながらドギマギと慌てる都昏だったのだが、明日奈はサッパリ意味をわかっておらず、
紅珠の発した”アツイ”の発言を聞いて、にこにこと自分のバッグの中からうちわを取り出して差し出す。
「………あーえーっと…桐生センパイ、しつもーん!」
「んー?はい、紅珠ちゃん!なんでも聞いてくれよ♪」
「あの数藤センセって、もしかして…天然?」
「ま、それに限りな〜く近いかなーって言うのは中等部、高等部では有名かな」
 そうなんだ…と、紅珠は納得したように数回頷く。
明日奈は初等部は担当していないので、紅珠は実はまともに接するのはこれが初めてのこと。
じっと見つめる紅珠の視線に気づいて明日奈はにこっと微笑みかける。
やんわりとふんわりとした微笑に、何故かポッと顔が赤くなってしまうのは何故なのか。
「紅珠ちゃんってもしかして…」
「なんだよ、桐生センパイ」
「いやー、両方イケちゃうタイプだったりするのかなーなんて…」
「はあっ!?ナニ言ってんだよ!違うよ!」
 ボーイッシュだし、もしかしてと思ったんだけどな〜と暁は笑いながら紅珠に謝る。
確かに確かに紅珠は今は少女であるが、時に身体の機能が変わってしまう期間があるのは事実。
しかし、あくまで『心はオンナノコ』なのだ。
「数藤センセのあのノーテンキそうな顔見たらこっ恥ずかしくなっただけだよ!」
「あはははっ!そんなはっきり言っちゃう?」
「あら、楽しそうにお話しているけれど…何のお話?先生も混ざってもいいかしら?」
「うはっ!?い、いつの間に背後にっ…!」
「紅珠ちゃんのそのリアクションおもしれー!」
 暁が笑うのは、紅珠の少しオーバーなリアクションだ。
明日奈から肩越しに声をかけられ驚いた紅珠は、両手を盆踊りのようにしゅぱっと上に挙げて、
座ったままでずざっと後退したのだ。さすがにその行動は誰が見てもちょっと面白かったりする。
「笑うなよ!暁っ!」
「まあ、浅海さん。高校生の先輩を呼び捨てするのは良くないわ」
「うーはー!!なんっかペース乱されるなぁ…」
 夜の学校の屋上だというのに、なんだか和やかな雰囲気が流れている一方で、
都昏はその輪の外で周囲の様子も含めてその場の様子を窺っていた。
 もし、何か変化があればすぐにでも動く事が出来るようにとの思いからだったりするのだが…
「橘くん、数藤先生を見てる時って優しい目をしてるんだね」
「えっ…?」
 いつの間にか同じように輪の外に出ていた翼がニコニコと微笑みかける。
意味がわからず、都昏は訝しげに眉を寄せた。
「数藤先生を見てる時の、目」
「そんな…僕は別に…」
「なんだか”見守ってる”って感じがしちゃうもん。いいなぁ、そういうの♪」
 そんな自覚は無かったのだけれど、と都昏は少し視線を泳がせる。
と、偶然にもこちらに顔を向けた明日奈と視線が合って、明日奈はニッコリと微笑んだ。
「なるほど。ムッツリなんだな、あんた」
「きゃっ!あ、浅海さん?!いつの間にっ!?」
「へーぇ、都昏っちーってムッツリなんだ♪翼ちゃんナイス聞き込み☆」
「桐生先輩までっ!?いきなり背後から声かけないで下さいっ!あー、びっくりした」
 なにやら気が合うのか、紅珠と暁の二人が、会話していた翼と都昏の背後から声をかける。
楽しそうなやり取りを、にこにこと微笑んで見守っているのはやっぱり明日奈…のはずだったのだが、
翼がふと視線を上げたとき見たのは、無表情に固まって心なしか青く見える表情だった。
「数藤先生…?どうかしたんですか…?」
 心配そうに問いかける翼の声を聞いて、紅珠と暁もその事態に気づく。
無意識なのだろうが、明日奈は都昏の制服のスソをぎゅっと握りながら、ゆっくりともう片方の手を上げ、
彼の肩越しから背後へと向けてその細い指をすっと指す。
 四人は一斉に、ぐるっと身体や首を自分たちの背後、指し示す方へと視線を向ける。
―――そこは屋上の端っこ、一メートルほどの壁、その上にある転落防止用フェンスの向こう側。
故意によじ登って行かなければ決して立つことの出来ないフェンスの向こうの僅かな空間。
そこに…一人の男子の制服を着た生徒がこちらに背を向けて、立っていた。
『出た―――!!!』
 瞬間、戦慄が走る。
生徒の向こう側の景色が透けて見えている事を考えても、『出た』に違いない。
「神城センパイっ、本、本になんて書いてた?!」
「うわええっ?!えっと、えっと、”フェンスに立つ生徒が、ならないはずのチャイムの音と同時に飛び降りる”って…」
「じ、自殺した生徒の霊ってヤツだっけ…」
 噂ではそうらしいと、紅珠の疑問に翼が答える。
ここで紅珠はカバンの中からロープを引っ張り出して自分の身体にくくりつける。
「あ、浅海さん?!な、何をしているんですかっ…」
 硬直していた明日奈が、紅珠の怪しげな動きを見てなんとか”教師”としての意識を取り戻して声をかける。
相変わらずその手は都昏の制服のすそを握ったままで、声も力なく細くふるえてしまっていた。
「いや、その…その本の通り、飛び降りたら俺も一緒にバンジーでとっ捕まえてみようかなー、なんて」
「だっ…駄目です!いけませんっ!!やめなさいっ!危険ですっ!」
 慌てて明日奈は都昏の服のスソを握っていた手をパッと放して、紅珠の手をぎゅっと握る。
生徒達を守る役目である教師として、そんな危険な事をさせるわけにはいかない。
「ちょっ…センセ、痛い、痛い!放してって!」
「ダメですっ!絶対に放しません!」
「いや、だって調べるために来たんじゃん?だからとりあえず”アレ”捕まえてみるのが…」
「いけませんっ!せ、先生の言う事を聞けないならっ…し、宿題増やしますっ!」
 小学生は担当しておらず関係ないはずなのだが、明日奈は幽霊への恐怖と生徒への責任感から、
ちょっとした混乱状態に陥ってしまっていたりする。
「なあ、都昏っちー、意外と頑固なトコあるんだな〜、数藤先生」
「………そうでしょうか」
 暁の言葉にも都昏は表情を変えず、涼しげな顔で答えると、
「落ち着いて下さい、数藤先生」
 静かな、しかしよく通る声でパニック状態の明日奈の声を遮った。
誰かの冷静な声が耳に入れば、自然と落ち着くものだ。
しかもその声の主が、普段から自分の安心材料になる存在であるならなおさらのこと。
明日奈ははっと目を開くと、紅珠の手を握る力を緩め、次第にクールダウンしていく。
「わ、私ったら…ごめんなさい!浅海さん…痛かったでしょう?痛かったよね?」
「別に大丈夫だけど…それよりこっちのロープの端、誰か持っててくれない?」
「え?紅珠ちゃんマジで飛ぶの?カッコイイーけど俺ちょっと心配」
「あのぉ〜今、そういう場面じゃないと思うんですけどぉ〜…」
 フェンスの向こうの存在そっちのけで盛り上がっていた面々に、翼が遠慮がちに発言した…その時、
キーンコーンカーンコーン…
『!?』
 場の空気が凍るというのはこういう事を言うのだろうと誰もが感じるほどに、
その場を支配していた”動”の気配が消えて、”静”が変わりに主張の権利を得る。
 その間、ただ無機質なチャイムの音がスピーカーから流れ続ける。
普段の授業のチャイムとなんら変わらない、聞きなれた、いたって普通のチャイムの音。
しかし、深夜零時と言う、”今”流れるはずの無い、音。
 その場の全員は、耳の注意はチャイムに向けたままで目はフェンスに釘付けになっていた。
咄嗟に紅珠の体に結んだロープを握る、四人の手に自然と力が入る。
もちろん、紅珠が本当に飛び込んだりしないようにと言う思いからである。
「あっ!」
 そして、全員が見守る前で…フェンスの向こうの男子生徒が僅かだが振り返る。
顔は見えない程度に、ほんの少しだけ肩越しにこちらを見ているような仕草を見せて…
「な、なぁ…あんたさ、ちょっと話…」
 呼び止めたいと言う思いにかられて、暁が声をかける…が、
それよりも先に、男子生徒は足を一歩前へと突き出す。もちろん、そこには地面なんか、無い。
「きゃあああっ!」
 思わず叫んだ明日奈の声に、硬直していた空気が解けて一斉にフェンスに向けて駆け出す。
ガシャっと音をたててフェンスから見ても、真っ暗な闇が広がるだけでそこには何も見えない。
落下した場所を確認するには、フェンスを登って向こう側に行かなくてはならず見る事が出来ない。
「た、橘君!どうなったの!?」
「わからない…姿も見えず気配も感じないけれど…」
 ”彼”のとった動き、あのこちらを見る行動に、都昏は何か違和感を感じたような気がした。
『屋上に立つ自殺した生徒の悪霊』と言うものが生徒達の間では定説となっている。
しかし、それが真実なのかどうかは…誰も知らない。本にも記されてはいない。
「都昏っちー、何か気になる事でもあるっポイ顔してんじゃん?」
「―――違うんじゃないのかな…」
「え?」
「あの男子生徒は…こんな事をして生徒を驚かせたりしたいわけじゃないんじゃ…」
「それって…どういう事なの?」
「ちょい待ち。翼ちゃん、本によるとこの後はどうなるんだった?」
「え?えっとぉ…”帰ろうとしたら声が聞こえて、逃げると何故か落下地点に立ってる”って…」
「じゃあちょっと試しに帰ってみようか」
「異議なーし」
「ええっ!?ダメよ、ダメ!ダメです!そんな危険な事っ…」
「でも先生、どっちにせよここにずっと居るわけにはいきませんよ?」
「そ、それはそうなんだけど…わ、わかったわ!その代わり、先生から離れないでね?ね?」
 言いつつも、明日奈は先頭ではなく後方でぴったりと都昏に寄り添っているので意味が無かったりする。
「あ、あの…数藤先生、もう少し離れて下さい…」
「でっ…でも、橘君…ってきゃああああっ!」
「数藤先生!?」
「だっ誰かが私の足首を掴っ…掴んでっ…」
「あ、ゴメン。俺のロープが絡んだみたい」
 コントやってるみたいと翼が内心思ってしまうようなやり取りをしながら、5人は塊となって階段に向か…

『―――…痛いよぉ…』

 びくっと、自分で自分の驚き方に驚いてしまうくらいの動作で驚くほど不意打ちにその声が響く。
ここで普通一般的な生徒達のほとんどは、恐怖からそのまま全力で階段を駆け下りて逃げてしまうらしい。
「さっきの場所に戻るぜ!」
「言われなくても!」
 しかし、このメンバーでそれは無い。
暁と紅珠がいち早く駆け出し、翼と都昏もそれに続き、明日奈は逃げ出したい気持ちになりながらも、
一人になってしまうことの方が怖く、やはり都昏の制服のスソを掴んだままで後を追いかける。
階段から屋上に出ると、先ほどのフェンスの向こう側に先ほどと同じように男子生徒が立っているのが見えた。
「よーっし!今度こそジャーンプ!!ロープよろしくっ!」
 紅珠は軽い身の動きでフェンスをよじ登り、僅か30センチほどある空間にストンと着地する。
小学生で小柄な彼女だからこそ可能な行為であって、普通の人がやったら落ちそうな勢いだった。
「きゃあああ!浅海さんっ!!!」
 その行動を見ていた明日奈が、真っ青になって立ち竦む。
幽霊の存在よりも、生徒に危険が及ぶことの方が明日奈にとっては恐い事なのだ。
「大丈夫だって、数藤先生!紅珠ちゃんの命綱なら俺と翼ちゃんがしっかり持ってるからさ!都昏っちーも手伝ってよ」
「え?あ…ああ…」
 言われるままに、都昏もロープを手にとって加わる。明日奈もその後ろから恐る恐る手を伸ばしてぎゅっと握った。
「さ・て・と」
 紅珠はくるりと身を翻すと、すぐ前に居る半透明の男子生徒に向き直る。
じっと押し黙ったままで真っ暗闇で何も見えない地面の方を見つめて微動だにしないのだが、サラサラと髪の毛は風に揺れている。
「えーっと、とりあえず自己紹介かな?俺は浅海紅珠。あの向こうにいるのが桐生センパイと神城センパイ、橘センパイと数藤センセ」
 紹介されてにこやかに手を振る暁。残り三人は軽く会釈をして返した。
果たして男子生徒が聞いているのか見ているのかは定かではないながらも、紅珠は構わずに言葉を続ける。
「アンタさ、俺らに何か話したいこと、ない?俺でダメならあそこの四人が聞くし。
聞いてほしい事あれば聞くし、できる事があれば協力するからさ」
「そうそう♪俺で良ければ男同士で話も出来るし?」
「あ、あの…私、教師をしていますから…相談に乗れることがあれば…で、でも…とりあえず…こ、こっちに来ませんか…?」
「ほら、センセもああ言ってるし、行こう」
 紅珠は恐れるという事もなく、目の前の男子生徒の手を掴もうと腕を伸ばす。
すり抜けたらつかめないだろうなーなんて思っていたのだが、意外にもその腕はしっかりと掴むことが出来た。
ただ、普通の人と違うことと言えば、掴めるのだか、固く冷たい感じがして、人の腕だとは思えない感触だった。
 紅珠が触れたことで、男子生徒はビクッと身体を震わせてゆっくりと顔をフェンスの向こうにいる暁たちに向ける。
サラサラと髪の毛を揺らしながら、ゆっくりと上げた顔は…涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
「うわっ汚ねー!拭けって、ソレ!!」
「ちょっ…桐生先輩!刺激しちゃダメじゃないっ!!」
『あは…あははははっ…うん、うん…わかってる…僕だって…わかってる…でも…嬉しくて…』
 涙と鼻水で濡らした顔を笑い顔に変えて、男子生徒はそう、話した。




 男子生徒は、昔。
学園で文化祭が行われた際に、実行委員として活動していた生徒だった。
その日も、文化祭の装飾の為に屋上から垂れ幕を設置する作業を行うはずだった。
しかし…季節はずれの台風が近づいていた事もあり、突然の突風に煽られ…
屋上から転落し、意識不明で病院に運ばれたが命を落としてしまったのだった。
 文化祭を行う前に命を落とすという心残りがあり、男子生徒の魂はここから離れることが出来なくなり、
来る日も来る日も、絶命した時刻になるとここに現れて自分に気づいてくれる人を待っていたと言う。
 しかも何故か地縛霊というものは自分が死んだ時の状態を何度もリピートしてしまうらしい。
「それで魂になってからも飛び降りてしまってたんですね…」
『はい…だからなのでしょうか…人が来てもみんな逃げてしまって…驚かすつもりはなかったのですが、
自分の気持ちと違って、体が勝手に動いてしまうという感覚なんです…』
 屋上の真ん中に懐中電灯を並べて、ピクニック気分を再開させる面々。
先ほどと違うのは、その輪の中に…男子生徒の幽霊がいると言うこと。
『誰かに気づいてもらえたらきっとここから離れることが出来ると思っていたんです…だから…
だから、今日…皆さんの気づいて、声をかけてもらえたことが嬉しくて…』
「お、おい!泣くなよ男だろ!」
『はい…そうですね…すみませ…ううっ…』
「あーもう!別にいいけどさぁー!」
 話してみたらやたらと泣き虫な幽霊に、調子が狂うな〜と紅珠は苦笑いを浮かべる。
でもまあ、なんだか楽しくお菓子を囲んで話をする事が出来てよかったな、とは思う。
ああしてフェンスを飛び越えて声をかけたものの、結果がどうなるかなんて考えていなかったのだから。
「それで…あなたはもう大丈夫なんですか?」
『と、言いますと…?』
「いえ…もうこの世に未練は無いのかと思って…」
『―――ああ…そうですね…』
 男子生徒は紙コップを持ったままふうっと夜空を見上げる。
遠い目をして、なにか見えないものを見つめているような目には薄っすらと涙すら見える。
『文化祭…』
「え?」
『文化祭を…したかった…』
 男子生徒はポツリと小さくこぼす。
「やろうじゃん!準備中だったなんてスッゲー残念だったって思うよ?俺だって嫌だ」
 呟きにすぐさま答えて立ち上がったのは暁だった。
「最後までやり遂げられなかった気持ちを思うとさ…やっぱ、辛いじゃん?」
『き、桐生先輩…』
「賛成!文化祭の季節に早いけど…俺らだけで擬似っぽくていいなら出来るんじゃない?」
『浅海さん…』
「そうですね…それがあなたの心残りであるなら、僕にできる事なら協力しますよ」
『橘君…』
「やりましょう!学校側には私から話をします!きっと、絶対にやりましょう!ね!」
『数藤先生…』
「だから元気を出して…って言うのは変かな?あははっ…だからもう少し待ってください!」
『神城さん…』
 自分を見つけて声をかけてくれた人達の、暖かい言葉がじーんとしみて、
生徒の幽霊はうっと目頭をおさえて、涙がこぼれてしまわないようにと天を仰ぎ見る。
しかしその両目からはもうすでにボタボタとたくさんの涙が流れ落ちてしまっていた。
「そうと決まればとっとと計画進めちゃおうぜ♪何をやるか、どんな風にするのか!」
「クラスの連中にも話をすれば手伝ってくれるかな…」
「僕も話をしてみます…」
「先生だって頑張ります!皆さんにばかり大変な思いはさせませんからね!」
 すっかり明日奈はやる気いっぱいでニコニコ笑いながら小さくガッツポーズなんか作ってみせる。
あれほど怖がっていた幽霊なのに、今ではもうすっかり平気になったようだった。
『ありがとう…みんな、本当に…ありがとう…』
 男子生徒はぼたぼたと溢れる涙を止めることはせずに、何度も何度も頭を下げる。
本当に心のそこから嬉しそうな笑顔で、さっと立ち上がると…歩いてフェンスの方に向かう。
『このフェンス…僕の事故があってから出来たんですよ…』
 手を伸ばしてフェンスに触れて、男子生徒の霊はそう呟く。
『もう二度と僕のような人が出ないように…僕が約束します…守ります』
 涙声ながらも、しっかりと意志を持った声で男子生徒が言うと…突然その身体が光り始める。
一瞬、「え?」と目を細める面々の顔に差し込むのは、昇りはじめた朝日の光。
男子生徒の背後が、ちょうど朝日の昇ってくる方向だったらしく、彼の姿を通して朝日が見えた。
『ありがとう…もう、大丈夫です…』
 太陽の光に目を細めて、まぶしさから目が眩みそうになっている間に、男子生徒の声が聞こえる。
やがて目が慣れて全員が再びフェンスを見つめたときには、もうそこには誰の姿も無かった。
その気配も無く、何度呼んでも探しても、またあの声が聞こえてくることは…無かった。
 翌日の夜も、またその翌日も皆で深夜に集まったけれど…
あの男子生徒はもう二度と、彼等の前に姿を見せることは、無かった。

きっと、成仏できたのだろう。

彼は微笑みながら”もう大丈夫”と告げたのだから。

 けれど、今年の文化祭はいつもと違う気持ちで行う事になるだろう。
明日奈は過去に事故死した生徒の慰霊祭の意味もこめて行いたいと職員会議で発言をしていたし、
暁と紅珠は友人達に声をかけて早くも文化祭の話をはじめているし、
都昏は時折、図書室に足を運び、あの男子生徒がやりたかった事がなんだったのか学園史を紐解いて見ているし、
翼はまた凝りもせずに他の七不思議の検証も開始したようだった。

 実は神聖都学園の図書室にある七不思議の本は、実は定期的に改訂されている。
最新版の本を借りると、中身が少し変わっているらしい。

『深夜に屋上に向かうと、夜な夜な、五人男女が何かを探して彷徨っている…』と。

けれど翼はその事を知らない。
―――五人の誰も、知らない。







◆終◆



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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●初等部6年C組●
【4958/浅海・紅珠(あさなみ・こうじゅ)/女性/12歳/小学生・海の魔女見習い】
●中等部2年●
【2576/橘・都昏(たちばな・つぐれ)/男性/14歳/中学生、淫魔】
●高等部2年B組●
【4782/桐生・暁(きりゅう・あき)/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
●古文教諭●
【3199/数藤・明日奈(すどう・あすな)/女性/24歳/花屋の店員】

※個人データは現実世界の設定のものです。夢想学園内での設定とは異なります。

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■         ライター通信          ■
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 この度は、「神聖都学園〜夢想学園シリーズ〜」に参加いただきありがとうございました。
このお話は、1話完結型のパラレル的なお話となっております。
現実世界とは違った関係ややり取りで作っているストーリーですが、楽しんでいただけたら幸いです。

>浅海・紅珠様
>桐生・暁様
前回に続いてのご参加、どうもありがとうございました(^^)
せっかくの知り合い関係があるので、今回は少し進展させてみようかな?と思い、
なんだか小学生&高校生のコンビを結成させてみましたが、楽しんでいただけていたら幸いです。
「なんじゃこりゃー!」と思いましたら…すみません。(平謝)
心残りは、紅珠さんをダイブさせることが出来なかったことです(笑)
またお会いできるのを楽しみにしております。

:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等ありましたらお待ちしております。<(_ _)>