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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


〜穏やかな日差しの中で……〜



 夏の日差しも木の陰に入れば涼しくなり、風が吹けば周囲に貯まっていた暑い空気は吹き飛ばされる。 川辺にもなれば、自然と涼しい気分になれる。
 二人が居るのは、まさにそんな場所………。 川辺で水と戯れる子供と、面している広場で野球をしている子供達を眺めながら、和泉 大和と御崎 綾香は、二人して木陰で休んでいた。 散歩の途中で偶然遭遇した二人は、最初からそうする予定だったかの様に、穏やかに休憩と談笑を楽しんでいる。
 大和の相棒(?)カー助は、大和が飲み干したジュース缶を突っついて遊んでいた。

「平和だなぁ……」
「ああ。 そうだな」

 ノンビリとした口調で大和が言うと、隣で座っている綾香も、同じように景色を見ながら言った。 二人ともインターハイを終え、夏休みに入る前から続いていた緊張感のある生活から解放された御陰で、二人は久しぶりに一息付けていた。
 現役弓道部員エースとして活躍する綾香はともかく、マネージャーである大和も後輩や同級生達の相手をしていたりしているので、それなりに忙しかったらしい。 そんな二人の活躍の御陰で、大和の相撲部は全国八位。 綾香に至っては全国優勝と、期待以上の良績を納めていた。
 もう大きな大会もないので、両部共にノンビリと休み休みになっている。 二人にとっては、これからが夏休みだと言えるだろう(もう何週間もないのだが…)。




 二人はそれぞれの大会時の状況などを交換した。 大和は相撲部のマネージャーとしての話だった。 それでも部員達にどんなアドバイスをしたか、大会直前に自分も参加した部内の選抜で、以前は何ともなかった一年生が強くなっていたとか、そう言う話をすると、綾香は面白そうに頷いていた。
 エースとして期待されていた綾香は、無事に優勝した訳だが、それでもどれほど緊張し、危うくプレッシャーに押しつぶされそうになったことを話す。 綾香も一通り自分のことを話し終える。 そしてポツリと、小さく「ありがとう」と言った。 大和はその言葉を聞き、頭の上に?マークを浮かべる。

「ん? どうした?」
「ありがとう、と言ったんだ。 私があそこまで頑張れたのは、大和の御陰だ」

 綾香はそう言って、ポツリポツリと話し始めた。
 周りからの、無責任な『頑張れ』という激励。 それにプレッシャーを受けてしまい、折角最近になって持ち直していた調子を、再び崩してしまっていたこと。
 そして、それを立ち直らせてくれたのが、大和の『まぁ……あんなに頑張ってたんだから、大丈夫だろ』という、ある意味諦めている様にすら取れる様な激励だったこと……
 聞いてから大和は頬をポリポリと掻き、腕を組んで小さく唸った。 それから少しだけ苦笑気味になって言う。

「我ながら応援になっている様ななっていない様な………微妙な言い回しだな」
「私にとっては、あれが一番良い激励だったぞ。 大和の言葉を思い出したら、気分が軽くなって……いつもの様に、矢を放つことが出来たんだ」
「気が楽になったのか」
「そう言うことだ。 負けるのが、あまり怖くなくなった。 ……そう言えば、私が調子を崩した時、それを立て直してくれるのは、いつもお前だな……」
「そうなのか?」
「そうなんだ」

 綾香は、普段よりも幾分声を弾ませていた。 表情も、口元に笑みが浮かんでいるのが解る。 綾香の周囲を取り巻いている様な者達が見たら、目を丸くして驚く様な声と表情だ。
 普段皆に見せている様な、“高嶺の花”の御崎 綾香では、決して見せない顔だった……
 そんな綾香に、大和はただ「良かったな」と、それだけを言い返した。 このぶっきらぼうで、素っ気ない態度………しかし、そこに下心の類がないのがよく解る。 こういう男だからこそ、綾香が封じていた内心を、表に引っ張り出すことが出来たのかも知れない………
 大和はそれから、思い出した様に「あ〜、そういえば……」と前置きし、ふと、景色から視線を外して、綾香に向ける。

「夏休みが終われば、本格的に進路関係の話が始まるよな。 綾香は、やっぱり実家の神社を継いで巫女になるのか?」
「実際に継ぐのは長男だろうが、私はこのまま巫女になって、手伝うことになると思うが………大和はどうするんだ?」
「俺か?俺は………実はな、スカウトが掛かってるんだ」
「スカウト?」
「ああ。 でも相撲じゃなく、プロレス団体からな。 ほら、前に話しただろ?入院していた頃にプロレスラーに会って、励まして貰ったって………あの人と、この前再会したんだ」
「それで……スカウトされた?」
「ああ。 スカウトというか、誘われたんだけどな」
「だが、お前は足が………プロレスなんて、とても出来ないだろう?」

 綾香が心配そうに言う。 綾香の言っていることはもっともだ。 大和の怪我を知っている者なら、誰でも心配になる。 大和の怪我は重く、中学時代の事故から既に数年経っているにも関わらず、未だにボルトが入っているのだ。
 そんな体で、プロレスなど出来る訳がない。
 だが大和は、首を振って言った。

「足のボルトな………その人の行きつけの接骨院で見て貰ったんだが、そろそろ抜いても大丈夫らしい。 その後に多少リハビリとか、なんだかしなくちゃならないから時間は掛かるんだが……出来る様になる可能性は、十分らしい」
「……相撲はどうするんだ?」
「ボルトが抜ければ、出来る様になるんだが……悩んでる」

 遠くを見て、静かに口を閉じる大和。 大和にしてみれば、長年やり続けてきた相撲からプロレスに移ることは、かなり大きい問題なのだろう。 だが、プロレスをすることは、以前綾香も聞いたが、それこそ憧れだったのだ。 そんな大和にとって、足のボルトが抜けるというのは、大和にとっては朗報である。 憧れ続けてきたものに、これで手が届く様になるのだ。
 二人は沈黙を続ける。 だがそれは、そう重いものではない。 大和が相撲を続けるにしてもプロレスを続けるにしても、それはどちらをとっても結果は一緒。 どちらも自分の夢であり、支えであるのだ。
 ………願わくば、どちらを選んでも、後悔しない様に歩みたい………

「そうか。まぁ、気長に考えておけばいい」
「ああ。まぁ、気長に考えるさ」

 大和は綾香の横で木に寄り掛かり、再び景色を眺め始める。 綾香はそんな大和に内心微笑みながら、同じように、川辺の光景を眺め続けた。
 風が流れ、穏やかに時間が過ぎる。 心地よい感覚に綾香がウトウトし始めた時、綾香は自分の肩に、何かが寄り掛かってくる重さを感じ取った。
 ふと、横を見る。

「や、大和!?」
「………ん……」

 もたれ掛かってきた大和を見て、顔を赤くして慌てる綾香。 モゾッと寝返りを打ち、こちらに顔を向けてくる大和。 それが実際に寝返りなのだと綾香は気が付き、何とか平静を取り戻した。 それから、辺りをキョロキョロと見渡してみる。
 近くには人は居らず、広場や川辺に子供達や家族連れが居るぐらいだ。 木陰で休んでいる人達はほとんど居らず、皆、こちらのことなど、別段気にしていない。
 カー助は、少し離れた所で、一人で勝手に遊んでいた。(空き缶を突っついていてクチバシが貫通し、抜けなくなったらしい)
 辺りの人が誰も見ていないのを確認してから、綾香はそっと体の位置をずらした。 手で大和の体を支え、起きないよう、ゆっくりと横にしていく………

「偶には……良いかな」

 小さく呟き、大和の頭を膝の上に置いてやる。 大和は自分がどんな状態になっているかも知らずに、スヤスヤと寝息を立てていた。
 ついでに、助けを求めてきたカー助から空き缶を抜き取ってやる。 カー助は二人の邪魔になると思ったのか、気の裏側に回って、自分も丸まって眠り始めた。
 静かに眠り続ける大和の寝顔をジッと見つめ、綾香は自然と微笑んでいた。

「いつかの話………私も、本気にして良いんだな」

 眠っている大和は何も言わないが、それでも、小さく頷いてくれた様に感じる綾香………
 祭りの打ち合わせや準備があるため早く帰ってくる様にと言われていたが、大和が自分から起きるまではこのままで居ようと、そう思う綾香であった…………








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5123 和泉・大和(いずみ・やまと) 男性 17歳 高校生
5124 御崎・綾香(みさき・あやか) 女性 17歳 高学生
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■         ライター通信          ■
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 もう何度ご依頼頂いているのか………毎度有り難う御座います。メビオス零です。
 今回は大和君と綾香君、何とも慣れた感じで名前を呼んでますね。綾香君、何やら吹っ切れた様子です。やはり一回言ってしまえば、次からは案外普通に呼べるものですねぇ(しみじみ)。まぁ、まだ肩に寄りかかられて赤くなってますから初々しくはあります。
 さて、次回は………夏祭りですかね?果たして綾香は浴衣なのか、それとも巫女なのか!?(それが重要らしい(w)
 では、夏バテなどにならないよう、お体にお気を付けてと言いつつフェードアウトします。またの御機会がありましたら、よろしくおねがいします。

追記:HPを新しくしました。感想板などを纏めた簡単なものですが、要望なども書き込んで構いませんので、お暇でしたらどうぞ(・_・)(._.)
http://mebiosuzero.poke1.jp/