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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


秋篠神社奇譚 〜避暑〜

●噂
「夏に現れる妖精の噂、かぁ…」
 冬月司(ふゆつき・つかさ)は手元にある資料を読みながらつぶやいた。
「近くにキャンプ場もあるな…、せっかくだから避暑がてら行って見るのも良いかもしれないな」
 丁度そこへ二人の銀髪の少女がやってきた。
「司兄、紗霧さんが頼まれた本持って来てくれたよ」
 そう言って入ってきたのは巫女装束に身を包んだこの秋篠神社の巫女、秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)で連れられて入ってきたのは、文月堂というこの秋篠神社と懇意にしている古本屋の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)であった。
 紗霧はその生い立ちゆえ、この夏の暑さには相当参っている様子であった。
 その様子を司は見て先ほど考えていた事を口に出す。
「なぁ、二人とも明日辺り避暑に行って見ないか?他にも何人か誘って」
「え?避暑ですか?」
「ああ、丁度取材がてら行ってみようという森があってな、そこの近くにキャンプ場があるらしいんだ。だかそこに避暑がてら皆で行って見るのも悪くないかな?と思ってね」
 紗霧が驚いたように聞き返すと司が微笑みつつ答える。
「あ、それいいね、ボクも行きたいな」
「私も涼しいなら行って見たいけど……、お姉ちゃんに話してみないと…」」
「それじゃ隆美には僕から話してみるよ」
 そう言って司は懐から携帯を取り出すと文月堂に電話をかける、しばらく話をしたあと再び携帯をしまう。
「隆美は丁度やらなきゃいけないレポートがあって店番しながらやるっていたから好きに行って来て良いって言ってたよ。だから今週末の土日にでもどうかな?」
「は、はい。行きたいです」
「賛成、ボクも早速お父さんに掛け合ってくるね」
 そう言うが早いか静奈は既に部屋からいなくなっていた。
「あ、そうだ、これが頼まれていた本です」
 ようやく思い出したかのように紗霧が手に持っていた本をテーブルに置く。
「ありがとう。あ、そうだ、文月堂の方に張り紙かなんかで一緒に行ってくれる人を探しておいてもらえないかな?僕達だけじゃ料理とか少し心もとないからね、一緒に行く人がいたら一緒に行こうと思ってね。」
「あ、はい判りました、探してみますね」
「よろしく頼むよ」
「それじゃ今日は帰りますね」
「ああ、詳しい事は今晩にでもまた連絡するよ」
 司は紗霧が帰っていくその後姿を見送りながら呟く。
「妖精はああいう子達が好きって話があるけど、果たして本当なのやら、まぁ楽しい記事が書けるのが一番かな?」

●電話
 いつものほぼ日課となっている電話からそれは伝わった。
「避暑でキャンプですか?」
「うん、司兄とかと一緒に行く事になったんだけど、撫子さんもどうかな?って思って」
 天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)は電話の受話器越しに秋篠宮静奈(あきしのみや・しずな)からの話を聞いていた。
「そうですね…、その日は特に予定も無かったと思いますし。大丈夫だと思うわ」
「ほんと?それじゃ一緒に行こうね」
「ええ」
「良かった、それじゃボクはまだ誘いたい人がいるからこれから電話しなきゃいけないからおやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
 静奈から電話で話を聞いた撫子は、受話器を下ろした後、その避暑に行くというキャンプ場の地名に引っ掛かりを覚える。
「何だったかしら?」
 しばらく考えた後、ひとつの事を思い出す。
 そこに光る妖精が現れる、という噂を。
「司さんの事ですから、きっと何か考えがあるんでしょうね…」
 そう呟くと撫子はキャンプへ行くために何が必要か考え始めた。
 そして静奈は最近友達になった水鏡千剣破(みかがみ・ちはや)へ連絡するために受話器をとるのであった。
「はい水鏡です…」
「あ、千剣破?ボクだよ、静奈、今度の土日なんだけど…」
 そう話し始めた静奈は千剣破の事をキャンプに誘うのであった。

●張り紙
 文月堂の中に張られた小さな張り紙、それに資料を探す為に文月堂を訪れていた羽雄東彩芽(はゆさき・あやめ)そのおいてあったチラシにたまたま気が付いた。
 彩芽は近くにいた銀髪の店員の少女に声をかける。
「あの店員さん、このチラシなんだけど…」
「あ、はい、あのキャンプの、ですか?」
「ええ、そのキャンプなんだけど、私が行っても構わないのかしら?」
「あ、はい良いと思いますよ」
 銀髪の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)がそう受け答えをした処で店の奥から黒髪の店員が姿を現す。
「あ、彩芽さん、お久しぶりです」
 その黒髪の女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)は彩芽に声をかける。
「あ、隆美さん、お久しぶりです」
「お姉ちゃん、この人がキャンプに行きたいって言ってるんだけど…」
「あ、彩芽さんなら大丈夫よ」
 隆美がそう言って太鼓判を押す。
「そういう訳でよろしくお願いします、あと友達も連れてきたいのですが良いですか?」
 彩芽がそう言って頭を下げると、隆美が笑いながら答える。
「大丈夫よ、って言っても私は行かないんだけどね」
「良かった…、その悠宇君も隆美さんとは面識があると言っていましたし大丈夫だとは思ったんですが」
「あ、なんだ悠宇君と友達だったんだ、だったら問題ないわよ。もう声をかけてあるから」
「あ、隆美さんは悠宇君と知り合いだったんですか」
「ええ、ちょっと前に知り合ってね。その彼女さんと一緒に来たいとか言ってたわよ」
 羽角悠宇(はすみ・ゆう)とその彼女である初瀬日和(はつせ・ひより)の事に話題が移る。
「良かった、普段余りアウトドアとかはしないから知ってる人が多いと安心できるから」
 三人がそんな会話をしていると、茶色い髪の少年が文月堂に入ってくる。
「こんにちは、隆美さん、紗霧さん」
 その少年、結城二三矢(ゆうき・ふみや)が挨拶をすると、彩芽の持っているチラシに気が付く。
「あ、なんですか?そのチラシは」
 そう言って二三矢もチラシを手に取りキャンプの事を知る。
「あの……、このキャンプって紗霧さんも行くんですか?」
 しばらくチラシを眺めていた二三矢がそう問う。
「ええ、そうよ、ね?紗霧?」
「あ……うん。私は行く予定だよ」
 急に振られた紗霧は慌てた様に答える。
 その様子を隆美はどこか楽しそうに見ながら二三矢に話しかける。
「だ、そうよ、二三矢君も行くので良いのかな?」
「は、はい」
 思わず頷き答えてしまう二三矢であった。
「あ、俺は結城二三矢って言います。お姉さんもキャンプに行くんですか?」
「ええ、そのつもりよ。私は羽雄東彩芽っていうの。よろしくね、二三矢君」
「こちらこそ、よろしくお願いします、お姉さん」
 笑顔で彩芽に答える二三矢であった。

●妖精の噂
 キャンプに行くメンバーはそうやって決まって行った。
 そしてキャンプ当日、文月堂の近くにレンタカーのキャンピングカーを止めた眼鏡をかけた男性、冬月司(ふゆつき・つかさ)は中にいる二人の少女に声をかける。
「おーい、静奈と千剣破ちゃんついたぞ、少し荷物とか積み込むの手伝ってもらえるか?」
 千剣破は文月堂の場所を知らないという事もあり前日、静奈達の秋篠神社で一晩過ごし、司の運転するキャンピングカーに乗って文月堂まで来ていたのだった。
「ここが文月堂ですか、思った通り古そうなお店ですね」
 千剣破がそんな風に感想を漏らす。
 車の音を聞きつけて店の中から何人か出てくる。
 今回キャンプに行く事になった紗霧、二三矢、撫子、悠宇、日和が出てくる。
「司さん、この車で行くんですか?思ってたよりも大きい車ですね」
 紗霧がそう感想を漏らす。
「思っていたよりも行く人数が増えたからね」
 司がそんな風に苦笑しながら紗霧に話す。
「それじゃ行こうか?みんな荷物を積み込んで」
 司のその言葉で一向はキャンピングカーに積み込んだ。

……
………
…………

 荷物を積み込み、走り出した車の中で撫子が運転する司に話しかける。
「これから行くキャンプ場には妖精がいるという噂を聞いたのですが…」
「それなら私も聞きました、ひょっとして司様も何か知っているのですか?」
「やれやれ、秘密にしてたつもりなんだけどな。撫子さんは知っての通り僕はフリーのライターをやってて、特にそっち方面の事とかを書いたりもするんだ、その取材をかねて、折角だから避暑もかねたキャンプを、と思ってね」
「やっぱりそういう事でしたか」
 撫子がどこか納得したかの様に頷く。
「妖精さんってどんな感じなんでしょう?」
 日和が不意にそんな事を聞く。
「僕も詳しくはないんだけどね、なんでも光る何かがいるって程度しか」
「光る妖精さんって事でしょうか?」
 日和がどこか嬉しそうに司に聞く。
「そうかもしれないね、もしいたら彩芽さんにも得る事があるだろうし、いると良いよね」
 そんな事を一向は話しながら車は高速道路を走っていくのであった。

●キャンプ場
 キャンプ場についた一行はその空気と涼しさを堪能する。
 固定式のテントが既に張られていて、そういう準備はしないでもいいようになっているキャンプ場であった。
 そして近くから、パンフレットにもあった川のせせらぎが聞こえてくる。
「本当、気持ちの良いところですね」
 普段の彼女を知っているならば驚くであろう、動きやすそうな白いワンピースに身を包んだ撫子が気持ちよさそうに風に揺れる髪を押さえながら辺りを見渡す。
「とりあえずテントに荷物を運んじゃいましょう、悠宇君、二三矢君頑張ってもらいますよ?」
 そう微笑を浮かべた司は二人をキャンピングカーまで連れて行くのだった。

……
………
…………

 しばらく男性陣が中心となりテントに荷物を積み込んでいる間女性陣は周囲を散策していた。
「あ、静奈さん、そっち行くと迷いますよ」
 ふらふらーっと糸の切れた凧のようにどこかに行ってしまいそうな静奈の事をあわてて撫子が引き止める。
 それを見ていた千剣破が不思議そうに撫子に問う。
「静奈って、ひょっとして方向音痴だったりするんですか?」
「あ、千剣破様は知らなかったですか?静奈さんは相当な方向音痴なんですよ」
「ボクはそんな方向音痴じゃないよ、撫子さん千剣破に変な事吹き込まないでよ」
 むくれながら静奈が撫子に講義する。
「それじゃさっきどっかに行ってしまいそうだったのはどこの誰でしょうか?」
「………う…」
 そう言われて黙るしかなくなった静奈を見て思わず千剣破は笑みをこぼすのであった。
 日和や彩芽と一緒に歩いていた紗霧は気持ちよさそうに風に揺れる髪を押さえる。
「この風は気持ち良いですね」
「そうですね…。こういう感じでしたら私も外に出るのが苦にならないのですが」
 普段余り外に出ない彩芽が損な風にこぼす。
「そうですね、私もこの位だったら過ごし易いのに…と思いますよ」
 その体質のため、夏の炎天下は苦手とする紗霧も同じ様な事をもらす。
「それじゃここにいる三人はこういう機会でもなければ外に出ない集まりって事なんですね」
 少し楽しそうに、日和が川辺に座り水を手で掬いながらそんな風に話す。
「そうですね、確かにそうかもしれないですね」
 彩芽もついついそれに同意してしまう。
 そこへ撫子達がやってくる。
「そろそろ荷物の降ろしも終わったと思うから戻ろうよ」
 千剣破がそう何かを楽しみにしてるような口調で話す。
「千剣破さんどうしたんですか?なんだか楽しそうですよ?」
 日和が不思議そうに聞く。
「さっき静奈と話していたんだけど、これからこの川でみんなで遊ばない?って思って。川が近くにあるって聞いてたから、水着もちゃんと持ってきたし」
「あ、それはいいですね、さっき川の水を触って見たんですが、流れも緩やかだし、冷たくて気持ちよかったから私は賛成です」
 日和もそれに賛成する。
「それじゃ早速戻って着替えて来ようよ」
 いてもたってもいられないといった様子で千剣破が皆を急かす。
「はいはい」
 そんな千剣破を見て彩芽は微笑むのであった。

●水辺
 テントへ戻った一行は先ほどの事を司に話す。
「そうですね、こっちはこれからまだ色々準備があるし、丁度いいですからその間行って来ていいですよ。こっちは僕がやっておきますから」
 司もそれに賛成をする。
「あ、わたくしもお手伝いしますよ。司様一人では大変でしょうし」
「そうですか?すみません」
 撫子のその申し出を司はすんなり受け入れた。
「あ、二三矢君と悠宇君も行って来ていいですよ、こっちは僕達二人で大丈夫だと思いますから」
「本当ですか?」
 先ほどの散歩に一緒に行けなかったことが悔しかった悠宇が嬉しそうに司に聞き返す。
「ええ、さっきは手伝わせちゃいましたし、ね」
「俺達にも関わる事なんだから気にしないでいいですよ」
 二三矢がそう司に話す。
「でもそうと決まったら善は急げ、だね、私達は着替えたいからそこのテント使わせてもらっても良いかな?」
 千剣破が待ちきれないと言った様子でテントをみる。
「はいはい、そっちのテントはもう使えるようにしてあるから大丈夫ですよ、女性陣のテントも丁度そっちですし」
 司が微笑みながら千剣破に答える。
 その言葉を聞くか聞かないかのタイミングで千剣破は静奈の手をとってそのテントに入っていくのであった。
 そして撫子と司を残してそれぞれがテントに入っていくのであった。

……
………
…………

 しばらくして悠宇と二三矢が、続いて女性陣がテントから出てくるが、一人紗霧だけが恥ずかしそうに顔だけ出してテントから出てこようとし無かった。
「紗霧さんどうしたんですか?」
 二三矢がそんな紗霧の様子を心配して様子を見に行った。
「ほら一緒に行こうよ。きっと涼しくて気持ちいですよ?」
 そう言って紗霧に二三矢は手を差し伸べる。
「……う……うん…」
 恥ずかしそうにその手を取り出てきた紗霧の姿を見て二三矢は硬直した。
 そして次の瞬間激しく鼻血を噴出しふらついた。
 紗霧の水着が大胆な黒いビキニだったからだ、全く心構えのしていなかった二三矢はそのままふらついて紗霧の方にふらふらと倒れ…、そのまま唇が彼女の唇に重なる。
「……え?」
 紗霧は一瞬呆然となる。

 しばらくの後、紗霧の悲鳴が周囲に響き渡るのであった。

……
………
…………

 そしてなんだかんだで、一行は川辺で遊んでいた。
 千剣破は白いワンピース、静奈がパレオ付きの青いセパレーツ、日和が青のパレオ付きのワンピースで、彩芽だけは水着には着替えずに日傘を差して水辺ではしゃぐ一行を見守っていた。
 その中で二三矢は紗霧に一生懸命、先ほどの事情を説明していた。
「だからあれは単なる事故で…、まさか紗霧さんがそんなその…大胆な水着を着てるとは思わなかったから…」
「私だってこんな水着だとは知らなかったから……」
 紗霧の水着は前日、隆美がプレゼントと言って、渡してくれたものであった。
 隆美はもっと色々頑張れというメッセージをこめたつもりであったが、完全な逆効果になってしまっていた。
 そんな様子を見ながら千剣破は静奈に話しかける。
「あの二人恋人とか?」
「うーん、ボクが知る限りそうじゃないと思うよ。少なくとも紗霧さんはそういう風には思ってないみたいだし」
「……なるほど」
 その言葉の真意を汲み取った千剣破は少し楽しそうな笑みを浮かべるのであった。
「それにしても静奈、その水着よく似合ってるよ」
「そういう千剣破方が、よく似合ってるよ」
「そ、そんな事無いと思うよ」
 照れ隠しのためか急に千剣破はかがみ、静奈に川の水をかける。
「あ、やったなぁ!」
 さっきまでの会話はどこへやら二人は楽しそうに水を掛け合うのであった。
 その後、二人の少年と四人の少女は時が立つのを忘れて水辺で楽しそうにはしゃぐのであった。
「みんな本当元気ですね……」
 日傘の中でぽつりと彩芽は呟くとどこかまぶしいものを見る様に目を細めるのであった。

●二人の会話
 一行が水遊びをしている頃、司と撫子は諸々の準備をしていた。
 かまどを作っていた司に撫子が話しかける。
「司様は妖精が見つかったら、いかがするつもりなのですか?」
「見つけたら、とは?」
「いえ、もし見つけた時に捕まえるとかそのように考えているのかお聞きしたくて…」
「嫌だな、僕にそんな事できるわけ…」
 冗談めかすように司が言うと撫子が少したしなめるように続ける。
「本当に…?」
 その言葉を聞いて、観念したように司はまじめな顔で答える。
「やれやれ、適いませんね。大丈夫、僕はどうしようとも思っていませんよ。車の中で話した通りもしいるのなら見て見たい、それだけですよ」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
 張り詰めていた空気がそこでやわらかいものになる。
「わたくしはもし妖精が本当にいたとしても、そっとしておいてあげたいと思っていましたから」
「なるほどね。その点は安心していいですよ」
 二人がそんな会話をしていると、一行が水遊びから帰ってくるのが見えた。
「ああ、もう帰って来てしまいましたね。準備もここでひと段落ですし、丁度良かったですね」
「そうですね」
 司はかまどに最後の石を積み、歩いてくる一行を見て撫子が彼らに手を振るにだった。

●バーベキュー
 水着から着替えてきた一行は夕飯を食べるための準備を始めた。
 日和を中心に料理を始めて、一同に指示を出していた。
「こういうキャンプの料理って皆で作るから楽しいですよね」
 楽しそうに日和がまな板の上で小気味のいい音を立てる。
 男性陣は火の薪をくべたり肉体労働にいそしんでいた。
 しばらくして、バーベキューの準備が整い皆が楽しそうに箸をつつきだした。
「こうやって、皆に食べてもらえるのって、嬉しいですね」
 日和が嬉しそうする。
「でもこういう所で食べる食事って、なんだかいつもと違って楽しいですね」
 日和の嬉しそうな笑顔を見ながら紗霧がぽつりと言う。
「紗霧ってなんか不思議だよね、昼間から少し思っていたけど」
 千剣破が焼肉を美味しそうにつつきながらそんな事をもらす。
「そ、そうかな?実はずっと体が弱かったからこういうキャンプとか来たこと無かったから…」
「へぇ、そうなんだ?珍しいね」
「それよりもこっちのお肉も焼けた見たいだよ、早く食べないと焦げちゃうよ」
 今までずっと焼肉番をしていた静奈が二人を誘う。
「ま、いいか」
 千剣破もあえて言葉を続けずに、静奈の誘いに乗ったのだった。
 そんな風にバーベキューをした後、一行は思い思いの場所で夕涼みをしていたが、悠宇と日和の二人が気が付くといなくなっていたのに気が付く。
「あれ?あの二人は?」
 千剣破が彩芽に聞く。
「悠宇君と日和さんならさっき少し夕涼みの散歩に行くと行って向こうの小道の方に行きましたけど…」
 彩芽が千剣破に答えた丁度その時であった。
 その件の二人がその小道から戻ってくる。
「司さん、向こうで、綺麗に輝いてるっぽい場所があったんですけど」
「ひょっとしたら司さんの話していた妖精さんなんじゃないかな?って思って伝えようと思って戻ってきたんだけど…」
 二人が交互に興奮したように話し出す。
「落ち着いて、二人とも…」
 彼らに一番親しい彩芽がとりあえず二人を落ち着かせようと声をかけた。
 しばらくして彩芽の言葉で落ち着いたのか息を整えるとついさっきあった事を日和と悠宇は話し始める。
 二人は、食後の一休みもかねて少し夜の散歩をしようと抜け出したのが、その先でなにやらぼんやりと輝くものとせせらぎを聞いたというのだった。
「ひょっとして、妖精がいるんじゃ?って思って慌てて皆に知らせようと戻ってきたんだ」
 息を整えた悠宇が司に話す。
「とりあえず僕はそこにこれから行って見ようと思いますが、皆一緒に行って見ますか?」
 司のその問いに否と答えるものはその場に誰一人としていなかった。

●妖精の正体
 しばらく後、司達は夜の森の小道を進んでいた。
「それにしても紗霧ってこういう所、怖がりそうに思っていたけど、なんか意外だね」
 千剣破がそんな風に紗霧を意外そうに見る。
「あ……うん、私って結構夜目は聞くほうだから、そんなに意外だった?」
 少し驚いたように紗霧が千剣破に答える。
「うん、なんか、こうもっと怖がるような『お嬢様』に見えたからね」
「………………」
 その言葉に寂しいような悲しいような複雑な表情を浮かべる紗霧を見て、二三矢が横から口を挟む
「でも俺は紗霧よりも秋篠宮先輩の方が心配だよ」
「それはわたくしも同じですわ」
 二三矢の言葉に撫子も同意する。
「秋篠宮先輩から目を離さないようにしないといけないよね」
「そうですわね……、何かあったら大変ですものね」
 二三矢と撫子のその言葉に静奈が反論めいて抗議する。
「ちょっとなによ、まるでボクが問題児みたいに……」
「だって、先輩よく迷子になるから……」
「……………」
 二三矢が思っていることを直接口にすると、静奈は思わず黙ってしまう。
「静奈ってそんなにすごいんですか?方向音痴」
 ついつい千剣破が興味を持って口を出してくると撫子と二三矢は黙ってうなずいた。
 そして撫子はそんな静奈が、その一種、特殊能力ともいえる方向音痴のために、迷子にならぬようしっかり見張っていようと心に決めるのだった。

……
………
…………

 そしてそんな風に一行が森の中を進んで行くと悠宇が腕を上げて止まってと合図をする。
「この辺りです。向こうの方から光が……」
 日和がそう言って指をさす、そして確かに淡くそちらの方から光が見えた。
「うーん、あそこへ行くためには、この沢を下らないと行けなさそうですね、行けそう、かな?」
 司が覗き込んで、確かめる。
「とりあえず僕がひとまず行って見るよ、行けそうだったら皆に合図するから」
 そう言って司は沢に向かって下り始めた。
 しばらく下って行った司だったが、大丈夫そうだと確認すると皆に手を振る。
「大丈夫…、みたいですね。少し怖いですが、行って見ましょうか」
 皆の後に続いてがそう言って彩芽はそろそろと降りて行った。

……
………
…………

 そして沢の音のする場所までたどり着いた一行はその正体を知ることとなる。
「これが……妖精?」
 誰ともなく呟くように問いかける。
 そこにあったのは幻想的な光景であった。
 幾条もの水の流れと、ぽっかりとあいた森の木々の間から照らし出されるその光景に、一同声を無くす。
 そこにあったのは妖精ではなかったが、そう言っても差し支えないような幻想的な光景であった。
 小さな滝が幾条にも重なり合い、複雑な流れを作り出し、そこに月の幻想的な柔らかい光が当たることで、あたかも妖精が飛んでいるかのような、美しい複雑な虹を作り上げていた。
「………綺麗……」
 彩芽の漏らしたその一言が全てを現していただろう。
 しばらく皆が食い入るようにその幻想的な風景に見入っていたが、しばらくして一陣の風が吹き、木々が揺れるとその幻想はあたかも、解けて行くかのように消えて行った。
「あれは……」
 呆然としたように撫子が声を上げる。
「やれやれ、消えちゃいましたか…」
 司が残念だという感じで周囲を見渡す。
「司さんさっきのあれは?」
 二三矢が司に、というよりも皆に疑問を問いかける。
 しばらく静かな時間が過ぎる。
「あの…僕なりに考えてみたんだけど…」
 司が思いついたことを口にしようとする。
「良いじゃないですか、妖精さんで」
 その司の言葉を制すかのように、撫子が声をあげる。
「私もそう思います、真実よりも私達の想いを大事にしたいです」
 彩芽もその撫子の言葉に賛成をする。
「私もそう思うよ」
「ボクもね」
 次々に皆がその撫子の意見に賛成する。
『ま、確かに光の加減で妖精に見えた、なんて真実よりも妖精がいた、って方が良いよな、やっぱり

 司は心の中でそう呟くと皆に話しかける。
「それじゃ、そろそろ夜もふけてきたし、キャンプに戻ろうか?」
「そうだね、私もそろそろ眠くなってきたし、そうしたいな」
 欠伸をかみ殺しながら千剣破が答える。
「それじゃそろそろ戻りましょう、皆さん足元に気をつけて…」
 そう撫子が促し、一行はゆっくりと元きた道を引き返して行った。

●エピローグ
 その後のキャンプでは二三矢が寝ぼけて、隣のテントに入ってしまって混乱を招いたり、翌日帰りの車の中で皆遊びつかれたのか、気持ちよさそうに寝てしまったりとかありつつも概ね平穏無事に終わることができ、皆の仲にも楽しい思い出が残された。
「これがあの時の写真、か…」
 司が日和がいつの間にか撮っていたその写真を見て、呟く。
 日和はあの時とっさに悠宇と一緒にどこかで撮ろうと思ってポケットに忍ばせていたカメラであの時の光の妖精をカメラに収めていたのだ。
「ええ、折角ですから皆さんにも焼き増して渡そうと思って持ってきたんです」
「そういう事だったら私たちでみんなに渡しておくよ」
 紗霧が日和に微笑みながら答えた。

 そしてそれからしばらく後、作家、羽雄東彩芽が一冊の童話小説を出版した。
 彩芽の出したその小説は光の妖精にまつわるお話で、その本には光の妖精の写真が挿絵としてついていた。
 ベストセラーとはならなかったが、密かな人気を醸し出したという。

Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 初瀬・日和
整理番号:3524 性別:女 年齢:16
職業:高校生

■ 羽角・悠宇
整理番号:3525 性別:男 年齢:16
職業:高校生

■ 羽雄東・彩芽
整理番号:1560 性別:女 年齢:29
職業:売れない小説家兼モグリの占い師

■ 天薙・撫子
整理番号:0328 性別:女 年齢:18
職業:大学生(巫女):天位覚醒者

■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高等部学生

■ 水鏡・千剣破
整理番号:3446 性別:女 年齢:16
職業:女子高生(巫女)

≪NPC≫
■ 冬月・司
職業:フリーライター

■ 秋篠宮・静奈
職業:高校生兼巫女

■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

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■         ライター通信          ■
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 どうも初めまして、もしくはこん○○は、藤杜錬です。
 この度は『秋篠神社奇譚 〜避暑〜』にご参加いただきありがとうございました。
 少しでも皆さんに涼しい気持ちになっていただければ幸いです。
 それから妖精の妖精はこういう感じでした。
 如何だったでしょうか?

●初瀬日和様
 初めてのご参加ありがとうございます。
 今回は悠宇さんとの関係を頑張ってみたつもりですが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただければ幸いです。

●羽角悠宇様
 久しぶりのご参加ありがとうございます。
 今回は日和さんとの関係を頑張ってみたつもりですが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただければ幸いです。

●羽雄東彩芽様
 久しぶりのご参加ありがとうございます。
 初めて出したゲームノベル以来となりましたので、少々緊張いたしましたが、如何だったでしょうか?
 彩芽さんのふんわりしたところが出せていれば良いのですが。
 楽しんでいただければ幸いです。

●天薙撫子様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回は少し外から皆に事を見るという感じになりましたが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただければ幸いです。

●結城二三矢様
 いつもご参加ありがとうございます。
 今回はプレイングの結果、突発イベント発生となりました。
 如何だったでしょうか?
 楽しんでいただければ幸いです。

●水鏡千剣破様
 ゲームノベルに引き続きのご参加ありがとうございます。
 仲良くなっていく千剣破さんを書いていて楽しかったです。
 こんな感じで上手く表現できていれば良いのですが。
 楽しんでいただけたら幸いです。

 まだしばらく残暑が続きそうですが、皆さん御体には気をつけてください。
 それではご参加ありがとうございました。


2005.08.23
Written by Ren Fujimori