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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



「わぁ……」
 秋築玲奈は戸惑ったように小さな声をあげる。
(都会のファーストフード店って、ほんとに人が多いなぁ……)
 混んでいればどこでも同じだろうに、玲奈は妙に納得して店内を歩く。
「あ」
 足がなにかに引っかかった。
 そう思った瞬間すでに体が前のめりになってしまい、トレイの上のものがふわっと空中に投げ出される。
 転ぶ。
 そう思った瞬間、玲奈の体を誰かが支えようと乗り出すのが見えた。
 倒れる音。なにかが飛び散る音。
 玲奈はゆっくりと目を開ける。
 だが、その目に映った光景に瞬きした。
 倒れたのは自分ではない。玲奈の落としたハンバーガーをかろうじてキャッチして倒れているのは金髪の少年だ。真横の席からまるで崩れ落ちたような体勢である。
 玲奈の襟首を引っ張り、腹部に手を回しているのは小柄な少女だった。そのおかげで玲奈は倒れずに済んだようだ。
「あ……」
 ゆっくりと首を捻ってその少女を見る玲奈。
「だいじょぶ?」
 平然とした顔のボブカットの女の子の横では、状況に驚いて目を丸くしている黒髪の少女がいた。
「あ、うん! あ、ありがとうございます!」
 慌てて体勢を整えて玲奈は頭をさげる。玲奈の様子に悠然と腰掛けているその女の子は微笑んだ。
「いいって。これくらい、たいしたことないし」
「あ、あのさぁ……ボクはどうでもいいわけ……?」
 むくっと起き上がった金髪の少年は、キャッチしていたハンバーガーを玲奈が離さなかったトレイの上に置いた。
「あ、ありがとうございます!」
 勢いよく頭をさげる玲奈に彼は驚き、それから微笑む。照れているようだ。
 玲奈はトレイの上を見つめてからハッとした。
「あ、あれぇ? オレンジジュース……」
 飲み物はその三人組の使っているテーブルの上に散乱している。玲奈はしばし停止し、青ざめた。
「ごっ、ごめんなさい〜!」
 トレイを置き、ハンカチを取り出してテーブルの上を拭きだそうとした玲奈の手をボブカットの少女が止めた。
「いいよいいよ。ハンカチが汚れるし」
「そうだよ」
 金髪の少年がティッシュを取り出す。黒髪の少女も同様にしていた。
「あ、で、でも、ボクがしたことだし……」
 ハンカチをおさめてティッシュを取り出した玲奈は懸命に片付けを始める。その時にテーブルの上にあった写真に気づいた。
 写真の風景に玲奈は驚く。それは見覚えのあるものだったのだ。
「鎌倉……?」
 写真を見て呆然と呟く玲奈を、黒髪の少女が凝視した。
「この写真の場所を、ご存知なんですか?」
「え? あ、う、うん」
 頷く玲奈の前で、奇妙な三人組は互いに顔を見合わせて頷いていた――――。



 テーブルの上を片付けたあと、玲奈はなぜか黒髪の少女の横に座っていた。目の前にはボブカットの子で、その横に金髪の少年。
「ほんとーにごめんなさい!」
 恐縮する玲奈に、黒髪の少女は微笑する。
「大丈夫ですよ。怒ってませんから」
「で、でも」
「それより、自己紹介がまだでしたね。私は一ノ瀬奈々子。あちらが薬師寺正太郎さん。そしてあなたの目の前のが高見沢朱理です」
 正太郎は軽く頭をさげ、朱理は片手を小さく挙げて挨拶した。なんとなく、その仕種で二人がどういう性格をしているのかわかってしまう。
「ボクは秋築玲奈と言います。よろしく」
 笑顔で言うと、奈々子が首を傾げた。
「もしかして、同い年ですか?」
「え? ボクは高校一年だけど……」
「やっぱり! 私たちも高校一年なんですよ」
 嬉しそうな奈々子に、玲奈が三人を見渡す。言われてみれば同い年に見えなくもない。ただ、組み合わせが奇妙すぎてそうは思えなかっただけだ。
「目」
「え?」
「色、違うんだね」
 朱理に言われて玲奈は戸惑ったような表情を一瞬だけ浮かべるが、すぐに苦笑した。この色違いは珍しいから、誰もが気にする。
 わざと口にしないようにする人もいるが、朱理は悪意があって口にしたわけではないようだ。
「うん。遺伝、みたいなものかな」
「……へー」
 低い朱理の声に奈々子が怪訝そうにした。
「朱理、その態度は失礼でしょう?」
「え? そう? あ、ゴメンね。ちょっと……あたいの知り合いにもそういうのがいるんだよ。思い出しちゃってさ」
 苦笑する朱理は玲奈に謝る。玲奈は「大丈夫」と首を横に振った。
 初耳だという顔をする奈々子は朱理を見る。朱理はすぐにいつもの無邪気な表情に戻っていた。
 玲奈としては、自分の目のことで驚かれるのはほぼ日常だったため……朱理のような反応はかなり珍しかった。
 驚くでも、畏怖するでもなく……ただ、事実を確認したような。
(変わった子みたいだな)
 そう思って朱理を観察すると、彼女は玲奈の視線に気づいてにこっと笑った。玲奈も微笑みを返す。
「秋築さん、この写真の場所に見覚えがあるってことだけど……」
 正太郎の言葉にハッとした玲奈は慌てて大きく頷いた。
「うん! それ、鎌倉で見た場所と同じだから!」
「か、かまくら……」
 場所に奈々子が眉をひそめる。
 写真は自然の風景と、子供が写っていた。
 山々に囲まれた草原で着物姿の子供が遊んでいるのだ。ちょっとした年代ものの写真みたいに見えるが……その子供は体が透けていた。
「場所が特定できただけでも良かったじゃん」
「また朱理さんはそんな楽天的に……」
 正太郎の非難めいた言葉に玲奈は提案した。
「そんなに気になるなら、行ってみようよ!」
「鎌倉まで行くんですか?」
 仰天する奈々子は朱理に視線を遣る。朱理は「べつにいいけど」と肩をすくめた。
「正太郎も行くでしょ?」
「……あのさ、行くの前提での会話、やめてよそろそろ」
 呆れる正太郎に朱理はにやにやと人の悪い笑みを浮かべてみせる。
「いいじゃん。運命共同体でしょ、あたいたちは」



「じゃあわざわざ上京してきたんだ」
 玲奈に案内された教会からは、目的の場所までまだ距離がある。正太郎は元気よく歩く玲奈に声をかけていた。
「うん!」
「へぇ……見かけによらず情熱的なんだねぇ」
「あ。その言い方ひどいよ、正太郎さん!」
「そんな恋愛、してみたいです私も」
「やだなあ、奈々子さんまで!」
 照れ笑いをする玲奈であった。
(なんか、いいなこういうの)
 三人とも裏表のある性格でもないし、自分に好意的だ。

 目的地はかなりの山奥だった。平気な顔をしているのは玲奈と朱理だけで、奈々子と正太郎は体力切れでぜぇぜぇと息を吐き出している。
「二人とも〜! 着いたよ〜!」
「いいよいいよ放っておけば。体力ないんだから、あの二人は」
 朱理の冷たい言葉に納得がいかず、玲奈は二人のところに駆け寄って「がんばって」と声をかける。その様子に朱理は苦笑した。

 目の前に広がる草原に、奈々子と正太郎が感激の声を洩らした。田舎育ちの朱理は珍しくないようでじっと見つめている。
「どう? ここでしょ?」
 玲奈の言葉に奈々子が頷いた。
「はい! 間違いないようですね。でも……広くて綺麗……」
「そうでもないんじゃない?」
 朱理の言葉に奈々子がムッと反応して振り向く。腕組みしていた朱理をキッと睨みつけた。
「なんてこと言うんですか、あなたは!」
「…………悪かったね」
 視線を少し伏せてから、朱理はきびすを返してその場から去っていく。
 残された者たちは押し黙ってしまうが玲奈が朱理を追おうとするのを正太郎が止めた。
「なんか思い出したんじゃないのかな。朱理さんも山奥育ちだって言うし」



 教会では玲奈の親戚がシスターをしており、そのシスターの家に一泊することとなった。
 二階のベランダから空の星空を見上げる朱理に、玲奈は近づく。
「朱理さん?」
 呼びかけに彼女は少しだけこちらを見るが、すぐに前を向いた。視線は、昼間に行ったあの草原の方角だ。
「結局、あの写真の子供たち、出てこなかったね」
 退魔師でもある玲奈は、あそこに邪なものがあるとは感じていなかったうえ、なにもないと……踏んでいた。あそこに行くまでは確信が持てなかったが、あの場所に立って、わかったのだ。
「あれ……過去の光景だよね、たぶん」
「……あんたがそう言うなら、そうなんじゃない?」
 朱理の横に並んで玲奈は空を見上げる。都会では見れない空だ。
「あのね」
「ん?」
「あの草原で朱理さんが見てたもの、ボク知ってるよ」
 そう言われて朱理が目を見開いた。だが玲奈のほうを見ようとはしない。玲奈も朱理を見ていなかった。
「あそこ一帯も開発が進んでるからね。それでしょ、見てたの」
 切り取られた山を。
 死角にあるあの光景を、朱理は見ていたのだ。
 朱理はやれやれと肩をすくめた。
「玲奈ちゃんには敵わないなあ」
「そんなことないよ。ボクだって朱理さんの様子が変じゃなきゃ、気づかなかったもん」
「優しいなあ、玲奈ちゃんて」
「そんなことないってば。ねえねえ、正太郎さんが言ってたけど、朱理さんは山奥育ちなの?」
「山奥ってことはないけど。田舎育ちなのは認めるよ」
「へえ〜」
「……玲奈ちゃんの言う通り、たぶんあの場所での昔の光景を、正太郎が写したんだろうね」
 玲奈はあの写真をどうやって正太郎が手に入れたのか知らない。
 朱理は続けた。
「あいつ、念写能力持ってんの。過去とか未来とか、心霊写真とかぜ〜んぶ際限なく撮っちゃうんだよ」
「うっわ。それ、すごいね」
「でしょ? 一回さあ、あたいたちの目の前でさせたら奈々子の着替えてる写真を撮っちゃってさ……殴られてたなぁ」
「……こ、怖いね、それ」
 二人はしばらく黙って、それからくすくすと笑い出した。
 星がまたたく。
 あとで奈々子と正太郎にこのことを話して、なんでもないって伝えて。
 それで、東京に帰ろう。
「あ〜、明後日は月曜だよ。また勉強しなきゃ」
「なになに? 朱理さんて、勉強キライなんだ〜」
 そんな……他愛無い会話をしつつ彼女たちは部屋へと戻ったのだった――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4766/秋築・玲奈(あきつき・れな)/女/15/高校一年生】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、秋築様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 ちょっぴりせつないものを目指したのですが……いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。