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<東京怪談・PCゲームノベル>


霹靂祭り


 晴れ渡る空に突然と轟く雷鳴。
 暗雲などどこにも見当たらないのに、ただ雷鳴だけが響く。
 それを青天の霹靂という。



 ある夏の晴れた日。
 何時もよりも茹だる様な気温の中、仕方なくも外へと出かける。
 なぜこの日家から出たのかは、分からない。
 こんな暑いだけの日に、ありえない気まぐれ。
 それは、何かに呼ばれたような気がしたから?

 真っ青な空の下、突然の雷鳴が鳴り響く。

(――落ちた!?)

 それは遠い空の下、遠くに響いていたと思っていた雷鳴。なのに、なぜか全てを包むような白に包み込まれた。
 はっと光が止み、恐る恐る瞳を開けてみれば、見ず知らずの土地。
 顔を上げれば、やけに空が遠い。
 不思議に思い、田んぼの用水路に溜まる水に姿を映してみれば―――子供の姿になっていた。



 【☆】


 とりあえず…と、桐生・暁は辺りを見回す。
 どう考えても、どう見ても自分は高校生とは言いがたい容姿だし、せっかく高い金だして染めた金髪も真っ黒に戻っている。
 見回してみてもコンビニも無ければ現代を象徴するようなビルもない。逆に都会では見たことが無いような畑や田んぼが連なり、なんだか嘘みたいに遠くに山々も見える。
 この田舎は何処だろう。
 そういえば此処に来る前大きな雷鳴を聞いた気がする。
 それがなぜ自分は若返ってこの場所に立っているのだろう。
 はてっと立ち尽くし、顎に指を当てて首を傾げる。
 しかし、しかし…だ。
 自分の服装は浴衣で、なにやら楽しそうな喧騒が遠くから聞こえてくる。
 突発的なイレギュラーよりも立ち並ぶ楽しそうな雰囲気に、暁はにんまりと微笑んで本能の赴くまま歩き出した。
 『霹靂祭り』と毛筆でプリントされたのぼりがいたる所に立ち並び、それがこのお祭りの名前らしいと暁は納得する。
 きょろきょろと辺りを見回しながら歩くと、程ほどの知名度のあるお祭り並に屋台が立ち並び、どうにも目移りしてしまう。
(あれれ?)
 ふと足を止めて顔を上げてみれば、屋台を出している店主も、浴衣で井戸端会議をしている人も皆動物の頭を持っていた。
(着ぐるみ? マスク??)
 暁は瞳をパチクリと瞬かせて店主の顔をじろじろと見る。
 その視線に気が付いたのか、店主が店先に並ぶチョコバナナを1本手にとって、暁の前に差し出した。
「わ……」
 意識が二足歩行の動物に行っていた事で、暁は思わず驚きの声を発してしまう。
「欲しかったんじゃないのかい?」
 犬頭の店主さんがチョコバナナを持った手は、毛むくじゃらで頭の毛と同じだった。もしかしたらこの握った手の中には肉球もあるかもしれない。
 つい差し出された手に驚きつつ固まってしまったが、犬頭の店主の怪訝そうな眼差しを受けて、暁はにっこり笑顔を浮かべて、
「あ、ありがと!」
 と、チョコバナナを受け取って逃げるようにその場を後にする。
 どの店で買うのか物色しているような振りをして、暁は祭りの屋台の中を観察する。幸いにも犬の店主さんがくれたチョコバナナは、ケチる事無くチョコがしっかりと付いていて実に美味しい。
 ただで手に入れてしまった甘味に舌鼓を打ちつつ視線は祭りの中をきょろきょろと移動させた。
 とりあえずあそこの角と、あの先に林檎飴の屋台。
 たしか桜の灯篭の近くに綿菓子の屋台。
 金魚すくいと、風船釣り、射的はどこだろう。
 焼きそばとたこ焼き、お好み焼きの屋台は見つけた。
(って、違う!!)
 完全にこの場所が何処だろうという疑問よりも、このお祭りの屋台には何があるのだろうと言う事に意識が飛んでいた。
「俺はこの場所が何処かって! 何処か……」
 自分も目的を再確認するように暁は言葉を発する。
「えっと、何…だっけ……」
「林檎飴はどこが一番美味しいか、じゃなかった?」
 突然の知らない声に、暁は振り返る。
 狐のお面を頭の横につけて、年の頃今の自分と同じくらいの少年が、くすっと微笑を浮かべてその場に立っていた。
 少年はそのどこか大人びたような微笑を尚更深めて、
「蜜柑飴とか葡萄飴とかもあったよ」
 と、暁に声をかける。
 しかし暁は誰だか分からなくて、ただ少年を見る。
「暁がどうしても林檎飴がいいって言うなら、僕は止めないけど」
 クスクスと笑って昔からの友人のようにそう口にした少年に、暁はただ眉を寄せる。
「あんた…誰?」
 こんな友人が居る記憶は暁には無い。
 しかし少年は弾かれたように一瞬瞳を大きくし、しょうがないと言わんばかりにその顔に苦笑を浮かべて、
「暁こそ何言ってるの? 僕は神時じゃないか。忘れちゃったの? さっき何しようか忘れてたみたいに」
 そして、暁は忘れっぽいからね。と、付け加えるように言われて、今度は暁が弾かれたように瞳を大きくした。
「ご…ごめん」
 そう、さっき自分がいったい何をしようとしていたのか度忘れしてしまった事を思い出して、暁は瞳を伏せると小さく謝る。
「いいよ。僕が勧める林檎飴の屋台でいいかな?」
「いや、蜜柑飴に挑戦してみる」
 にっと力強く微笑んで、神時が先ほど口にした蜜柑飴を食べてみようとぐっと拳を作る。
「じゃぁこっちだ」
 軽く駆け出す神時の後に付いて暁も走り出す。
 走る途中に金魚すくいの屋台を見つけて、後でやろうと心に誓うと、程なくして林檎以外のフルーツ飴を並べている屋台に付いた。
「うはっ……」
 丸くて串にさせれば何でもいいのか! と、つい突っ込みたくなるような飴のラインナップに、暁はただ笑顔のまま固まる。
 しかし、今回は蜜柑飴に決めたわけだし、他のフルーツ飴には目をくれないようにして、お小遣い幾ら持ってたかな? と考えを巡らせて行動が止まる。
 チョコバナナは偶然にも貰ってしまって気が付かなかったが、何処の屋台にも値段が付いていないのだ。
「なぁ神時、欲しいって言えばくれるもの?」
 しばしの考えを終らせて、隣に立ってると思っていた神時に声をかけるが、返事は無い。
「神時?」
 辺りを見回してみても、神時の姿はその場から消えている。
「1人で行っちゃったのかな?」
 もしかしたら他に面白そうな屋台でも見つけて行ってしまったのかもしれない。
 それなら一言声かけてくれればいいのに。と、暁は腰に手を当ててふんっと息を吐く。そして、店の方へと顔を向けると、
「蜜柑飴下さい!」
 と、手を差し出した。
「はいはい」
 持ち逃げになるのかな? と、考えつつもいとも簡単に手に入ってしまった蜜柑飴に、暁は御代は…と、尋ねようとして薄く開いた口のまま止まる。

 今、何を聞こうと思ったんだっけ?

 上手く思い出せない。
 まさかこの歳からボケとか始まったのかな?
 度忘れにしてもこんなにも何度も忘れる事なんてあるのか?
 頭の中ではグルグルと色々考えているのに、暁の口から出た言葉は、
「ありがとう」
 だった。
 林檎飴もそうだが、こういったフルーツ飴はフルーツに到達する前に飴を舐めるのに飽きてしまう。という欠点がある。しかし、甘味大好きな暁にとってはそれは余り苦というわけではない。
 程なくして蜜柑に到達した飴を落とさないように上手く口の中に収めながら、ヴィイイ――と動く機械に目が奪われる。
 白ざらめを入れてスイッチを入れて割り箸を回す。
 昔ながらの綿菓子製造器。
 今では流行のアニメキャラクターがプリントされた袋に入っている姿しか見なくなった暁には、それはとても新鮮な物に見えた。
「やってみるかい?」
「うん!」
 暁は笑顔で答え、屋台の親父さんから割り箸を受け取ると、細い糸のように出来上がる綿菓子を割り箸で上手く巻き取っていく。
「上手い、上手いね〜」
 軽やかな手並みで巻き取っていく暁を見て、親父さんが歓声を上げた。
 暁はそんな反応に照れたように笑いながら、我ながら上手く出来たと思う特大の綿菓子を手にホクホク顔で祭りの中へと歩いていく。
 もう普通の屋台だったら、お金が必要だと言う事さえ忘れて。
 柔らかい綿菓子にかぶりつきながら、暁はふと顔を上げる。
 そういえば神時は何処へ行ったんだろう。
 きょろきょろと辺りを見回し暁は首を傾げる。見回す範囲内に神時の姿はない。
 一時その場で立ち尽くすが、神時は神時のお祭りの楽しみを見つけたのだろうと納得し、暁はまた屋台が連なる方へと歩き出した。
 ふと、ざらりとした違和感のある首の感触に、何だろうと手を伸ばしてみれば、細い鎖が指先に当たる。
 何故今まで気がつかなかったのか不思議に思いながら、浴衣に隠れたペンダントヘッドを取り出してみれば、それは小さな金色のロケットペンダントだった。
 どうしてこんな物が自分の首に掛かっているのかと首を傾げながら、暁はペンダントを外す。
「別にいらないか」
 何処かに投げ捨ててしまおうかと辺りを見回し、ロケットに触れた指先から小さな音がして手の平を開いてみると、そこには封印のとかれたロケットから知らない男の人と女の人が暁に向けて優しく微笑んでいた。
「……っ!!」
 胸が痛い。
 チクリと痛んだ胸の奥。暁はぎゅっと浴衣を握り締める。
 どうして知りもしない人達なのにこんなにも胸が痛いんだろう。

 ―――こんな痛いもの、いらない。

 やっぱり投げ捨ててしまおうと手を振り上げて、出来なくて、暁はぎゅっと奥歯を噛むとロケットペンダントをきつく握り締めた。
 此処にこのまま居てはいけない。
 だって、こんなに切ないのに、自分はこの微笑む男女の事を思い出す事ができないのだ。
 帰ろう。でも、どうやって?
 神時ならば何か知っているかもしれないと、暁は神時と分かれた場所へと戻ろうと踵を返す。
 振り返った瞬間、眼前に小さな頭が突っ込んできた。
 なんとか踏ん張って暁は転ぶのを免れたが、視線を落とせば自分よりも2つほど小さそうな男の子が尻餅を付いてその場に座り込んでいた。
「ごめん! 大丈夫?」
 男の子は顔を上げて薄らと微笑む。
「大丈夫です。お兄さんこそ大丈夫でしたか?」
 暁は大人びた子だなぁと思いつつ、男の子が立ち上がるのを手伝おうと手を差し出すと、その足元に転がる一口しか口を付けていないチョコバナナを見つけて背筋が飛び上がる。
「ホントにごめん! まだ一口しか食べてないのに!!」
 男の子は暁の伸ばした手を取りかけて一瞬手を引っ込めたが、心配する暁に一度視線を向けてその手を取り立ち上がった。
 そして申し訳なさそうに地面に落ちたチョコバナナに視線を向けて、少しだけ眉を寄せて微笑む。
「私はいいのですが、頂いた店主さんには悪い事をしてしまいました……」
 土が付いてしまったチョコバナナを拾い上げ、どうしようかと辺りを見回す。
 食べ物を粗末にする事はしたくないが、こうなってしまっては食べれそうにも無い。
「悪いと思うなら謝りに行こう。うん、それがいい!」
 男の子に向けて暁は豪語すると、ぎゅっと拳を握り締めうんうんと頷く。
「そうですね」
 ふんわりと微笑んだ少年の笑顔がなんだか自分と似ていて、どこかほっとけない気がした。
 紅月・双葉と言うらしい男の子に連れられてやってきたチョコバナナの屋台で、落としてしまった事に頭を下げると、狸の店員さんは笑顔で新しいチョコバナナを暁と双葉に渡してくれた。
 頭を下げて狸の店員にお礼を言う暁を、双葉はただ静に見つめる。
 暁はその視線に気がついたのか、首をかしげにっこりと笑い返した。
 双葉や神時のように自分と同じ人間が居るのなら他にもこのお祭りに呼ばれた人は居るかもしれない。
 太陽の光は徐々に西に傾き、空が橙色から紺色へのグラデーションを描いていく。祭りに掛かる提灯が紺色の夜空を際立たせるように明るく灯り、まるで行く道を照らしているように見えた。

 そうだ、帰らないと―――…

 いらないと投げ捨てようとして握り締めていたロケットペンダントをゆっくりと持ち上げる。
 お祭りは確かに楽しいし、ここには何の痛みもない。
 でも、それだけではダメなのだ。
 それは理屈じゃなくて、上手くはいえないけれど、唯どうしても帰らなきゃいけない気がした。
「お兄さんも、呼び込まれた人ですか?」
 暁の手の中のロケットペンダントを見て、双葉が首をかしげ問いかける。
「君も!?」
 この状況に置かれている人間が自分だけではない事が嬉しかったが、それだけで現状を打破する方法が見つかったわけではない。
「帰りたい」
「私も、帰りたいと…思います」
 どこか影を感じさせる笑顔で答えた双葉に暁は頷く。
 しかし帰る方法がどうにも思いつかず、暁は眉を潜めた。自分が若返っている手前実際年齢は分からないが、目の前の双葉は年下。お兄さんの自分がどうにかしなければ、なんていう気分が生まれてくる。
「お兄さんは、この場所へ来る前に、大きな雷を聞きませんでしたか?」
 双葉の問いかけに、暁ははたっと眉を寄せていた顔を緩ませて、そういえば…と、思いをはせる。
「大きな雷を聞いた気がする……」
 晴れ渡る大空に響く夏の雷鳴は、霹靂。
「神社へ、行ってみませんか?」
 双葉はしばし考え、すっと視線を遠くに見える鳥居へと向ける。
 毎年きまった日に人々が神社に集まって行う神をまつる儀式。それが、祭りだから。
「あ…う、うん」
 ただ根拠はない。
 それでも考えうる可能性を試すため、2人は神社へと足を運んだ。



 【☆】 【△】


 帰りたい、帰らないと……
 2人はただそう思い、神社の境内へと来ていた。
 このお祭りの名は霹靂祭り。
 だから、霹靂神を祭っているこの神社が、元の世界へと帰る道筋なのではないかと思って。
「セレスティさん!?」
 綾和泉・汐耶と共に神社の鳥居を潜ったシュライン・エマは、見慣れた銀髪に瞳を大きくする。
「えっと、こっちのお兄ちゃんは…?」
 元々の口調と、子供としての口調が混ざり合いながら、汐耶は12歳ほどの姿をした暁と物部・真言を見上げる。
 もし暁が金色の髪のままだったらシュラインは気が付いたかも知れないが、如何せん今の暁の髪の色は黒。
「お久しぶりですシュラインさん、汐耶さん…」
 同じように10歳程度の姿なのに、どこか大人びた微笑を浮かべているのは双葉だ。
「……えっと、皆呼ばれた人なのかな?」
 櫻・紫桜の手を引いて鳥居を潜ったのは1人ちょっとだけ大きな姿の伏見・夜刀。
 一同を見回してみれば、夜刀が一番大きな年齢である事がわかる。
「呼ばれた…確かに、あの雷をそう考えれば、呼ばれたという事なのでしょうね」
 幼い容姿でありながらも、優雅さはそのままに、セレスティ・カーニンガムはにっこりと微笑んで答える。
 眩しいくらいの晴天の霹靂。
 その音と光によって自分達はこの村へと足を踏み入れた。
 ならばその霹靂が妖しいと思うのは当たり前。
「本当にここでいいのかなぁ」
 共に居た双葉が神社に行ってみようと口にしたため、一応見た目はお兄さんである暁は、弟が出来たような気分に浸りつつ、その言葉を尊重してこの場に立っていた。
「どうして皆神社に集まってるの?」
 頭の横につけていた狐のお面を顔につけて、神時が立つ。
 明るいお祭りを背に立つ姿は、神時の姿を逆光の中で照らし、なぜかゾクリと背中が震えた。
「お祭りはまだ終らないよ?」
 正面に付けていたお面を、そっと横へとずらす。
 お面の下から現れたのは何処までも優しい微笑み。
 しかし、その微笑が怖くて―――
「もう直ぐ、花火が上がるんだ。ゆっくりしていきなよ」
 きっと今年も大きくて綺麗な花火が上がると思うよ。
 と、にっこりと微笑む。
「申し訳ないのですが……」
 そんな神時に向けて、セレスティが口を開く。
「俺さ…」
 暁はそんなセレスティの言葉を引き継ぐように一度口を開き、一同を見回して正面から神時を見る。
「俺たちさ、帰らなくちゃいけない」
 お祭りは確かに楽しかった。だけど、このままの時を過ごしていてはいけない。
「俺が、俺のままであるためには此処じゃダメなんだ」
 消え逝く記憶の中で、真言の中にいつまでも残っていた弟の泣き顔。あの泣き顔を消すために、自分は帰らなくてはいけない。
 もう殆どの記憶が消えかけていて、どうして泣いているのかも思い出せないけれど、誰も泣かせたくない。その思いが今のままの真言を繋いでいた。
「あーシューちゃん、セッちゃん。こんな所に居た!」
 たったったとかけて来た女の子−白楽は神時を追い越して、シュラインと汐耶の手を掴む。
 しかし、シュラインと汐耶は動かない。
「どうしたの?」
 顔を伏せ動かない二人に、白楽は首を傾げる。
「ごめんなさい」
 すっと手を引くシュライン。
「貴女の事が嫌いなわけじゃないけど」
 と、同じように汐耶もすっと手を引っ込める。
「私達…」
「元の世界に帰りたいの」
 繋いだ手が解かれた事に白楽は眉をひそめ、一瞬何を言われているか理解できないといったように呆然とその場に立ち、そして―――
「どうしてぇえ…」
 せきを切ったように泣き出した。
「あ……」
 泣き顔を手で隠す事もせず、ポロポロと涙を流す白楽に、シュラインは思わず手を伸ばす。
「……だめだよ」
 だが、そっと伸ばした手を夜刀が制し、
「…上手く、言えないけど…手を伸ばしたら、帰れなくなる」
 頭一つ高い身長を見上げ、シュラインはただ俯く。
「泣かないで」
 違うと分かっていながらも、紫桜は夜刀の浴衣の裾に引っ付いたままで白楽に言葉をかける。
「白楽……」
 いつの間に近づいてきていたのか、神時は泣きじゃくる白楽の肩をそっと抱き寄せて、顔を上げる。
「人を、間違えたのかな……」
 どこか静に神時は呟いて、白楽の頭に視線を落とした。
「あの!」
 今まで静かな子供だった双葉は、意を決したように口を開く。
「元の世界で、霹靂祭りはもう無いのですか?」
 双葉の質問に神時は弾かれたように瞳を大きくし、泣きじゃくっていた白楽もその涙を止めて顔を上げる。
 しかしその驚きも一瞬の事で、神時はまた静かに微笑する。
 なんだかそんな神時の姿が自分に似ている気がして―――
「白落村はもう無いんだ」
 しかし、神時の口から出たその言葉に二の句を続ける事ができず、双葉は顔を伏せる。
 白楽の手を握り、神時は神社に背を向ける。
「さぁもう行かないと、本当に帰れなくなるよ」
 神時の言葉と同時に、ドーン…と大きな一発目の花火が辺りを照らす。
「どうやって…?」
 なんとなくこのお祭りの名前が『霹靂祭り』だから、『霹靂神』を祭っている神社が妖しいと思って集まったものの、その方法は分からない。
 少しだけ視線を向けて振り返った神時が、頭の横のお面を正面に付け替えると、本堂の扉がバン! と開け放たれた。
「白楽ちゃん? 神時くん!?」
 花火の音はだんだんと重なるように増えていく。
 神社から離れていく2人に、汐耶は思わず叫んだ。

 この先も、たった2人で生きていくの?

 神時に手を引かれ、振り返った白楽が叫ぶ。
「はくらはね、白落だから、いいよ…さようなら」
 バイバイと手を振る姿だけを瞳の裏に残し、呼び込まれた時のように大きな雷鳴が花火と共に遠くで響いた。






























 ふらりと歪んだ視界に、とうとうこの暑さの中外へ出た事が裏目に出たか? と、頭を押さえる。
 ミンミンと煩いくらいに多重奏を奏でる蝉の声が、耳を劈くように大きく響き、遠くの路地が陽炎で揺らめく。
 額を伝った汗をそっと拭って、この暑さをただ恨めしく思う。

「何かが、違う……」

 しかしその違和感が何であるのかは分からない。
 暁は空を仰ぎ見て、くしゃっと頭をかく。
 何か置き忘れてしまったような、そんな違和感。
 なんだかとても楽しい時間を過ごし、とても悲しい時間を思い出してしまったような気もする。
「まぁいっか」
 暑さ程度でへばってたまるかと、暁は1度その場で屈伸すると、街中へと駆け出した。


 何処までも青い空を背に背負って―――





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4782/桐生・暁(きりゅう・あき)/男性/17歳(12歳)/高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳(10歳)/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳(10歳)/都立図書館司書】
【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳(10歳)/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【3747/紅月・双葉(こうづき・ふたば)/男性/28歳(10歳)/神父(元エクソシスト)】
【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/男性/24歳(12歳)/フリーアルバイター】
【5653/伏見・夜刀(ふしみ・やと)/男性/19歳(15歳)/魔術師見習、兼、助手】
【5453/櫻・紫桜(さくら・しおう)/男性/15歳(10歳)/高校生】

注:年齢の()はこのノベル内での外見年齢です。


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■         ライター通信          ■
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 初めまして、こん○○は。霹靂祭りにご参加ありがとうございました。ライターの紺碧 乃空です。今回8人という大人数に慣れていない事や、個別部分ばかりだという事もあり、予定よりも大幅に時間が掛かってしまったように思います。これを教訓に大人数は苦手だと悟りました(ダメじゃん!)

 あわせてcoma絵師による異界ピンもよろしくお願いします。

 お久しぶりでございます。お祭りはやっぱり楽しむ物ですよね! あまり遊び系の屋台には出向く事はありませんでしたが、綿菓子を自分で作る事が出来たという事で勘弁してください(笑)。ちなみに、りんご飴では定番過ぎて面白くないと判断した為、変り種とさせていただきました。なにやら暁様は食べてばっかりのような気がします。
 それではまた、暁様に出会えることを祈って……