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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


待ち人来たりて魔が醒める

東京―――。それは様々な欲望渦巻く魔界都市。日本という
小さな島国の中で、その都市は世界中のどの国にも負けず劣らずの存在感を持っていた。それもそのはず、この都市は世界各国から様々な「能力」を持った人間が集まっているのだ。人と人ならざるもの、それらが交じり合い、互いに作用することで、東京はよりいっそうの不可思議を呼び寄せていた。

そんな東京の中で、ひときわ奇妙な雰囲気をかもし出す一軒のビル―――の一室。
今にも崩れそうなひび割れた古めかしい建物に、金融会社や風俗店、果ては怪しい新興宗教。いかにも怪しい雰囲気の看板がでかでかと軒を連ねている中に、ひっそりと、申し訳なさそうに掲げられている看板があった。
その看板に書かれた文字は「久地楽探偵事務所」―――。
「探偵事務所」と書かれた看板は、雨風ですすけて読みにくく、人の目に留まることを恐れているかのようだった。まるでこの大都市東京で活躍することを拒んでいるかのように―――。

亜真知は、雲行きの妖しくなった空を見上げてため息をついた。
―――ここですわね・・・
亜真知は数日前にポストに放り込まれていた奇妙な手紙を懐から取り出した。その手紙には、「榊船 亜真知様へ」とこなれた字が躍っている。封筒の裏に書かれていたのは、住所と久地楽探偵事務所という文字のみだ。
最初いたずらかと思い手紙を引き裂こうとした亜真知であったが、胸騒ぎを覚えて封を開け、中に入ってた手紙を見た瞬間、その奇妙な言葉に目を留めた。
亜真知の元へやってきたこの不可思議な手紙―――そこにはただ一言、こう書いてあった。

『貴方の「力」をお待ちしております―――魔界より』

「変な手紙ですこと・・・」
暗雲が立ち込めるなか、相変わらず不気味な雰囲気でたたずむビルを見上げながら、亜真知は不思議そうに首をかしげた―――

ビルの案内の通りに階段を上り、ドアの前に立つ。扉の向こうからは何も感じられない。こんな怪しげな場所なのに―――と逆に不審がりながらも、亜真知は扉を開けた。
扉の向こうには、大きな机に無造作に置かれた書類が山積になっている。それに、来客用のソファとテーブル、異様な存在感を見せる観葉植物が目に入る。どこにでもある、何の変哲も無い事務所の風景だ。
人気の無い事務所に不思議がりながらも、亜真知は中へと足を踏み入れる。
すると突然、頭上から声が響いた。
「ようこそ、お待ちしておりましたよ―――亜真知さん」
「どなたです?」
突如響いた声に、凛とした声で亜真知は答えた。声に殺気は感じられない。身構えながらも、亜真知は落ち着いてあたりを見渡した。その様子を見て安心したのか、声の主は朗らかに笑いながら姿を現した。
「はっはっは、驚かせてしまったようで申し訳ありません。僕は久地楽クロウ―――。あなたをお呼びした、探偵です」
「あら、ではあなたが・・・?」
はっとする亜真知の前に現れた男は、暗闇に溶け込みそうな不思議な雰囲気の男だった。不思議と、敵意は感じない。
「わたくしの名前をご存知ということは、自己紹介はよろしいかしら?」
「ええ、あなたのことはよく存じています」
「光栄ですわ」
和やかに挨拶を交わすと、久地楽は亜真知に椅子を勧めた。その勧めにしたがって、亜真知はソファに腰を下ろす。
「それで・・・この手紙はいったい何なのでしょう?」
「・・・」
「あのう・・・?」
「・・・ああ、いやいや。あまりのお美しさに心奪われておりました。あなたをお呼びしたのは他でもない。僕を助けていただきたいからです」
話の焦点をはぐらかされた気がしたが、亜真知にとって依頼の内容というのは気になるところであった。なにせ、自分の力を必要とする事件とはどういうものなのか、魔界とは何なのか―――この男は何者なのか。
しかし、そんな考えをさえぎるかのように久地楽は言葉を続ける。
「美しい方に悩んだ顔は似合いません。なに、頼みというのは仲間を助けていただきたい。それだけなのです。どうです、お受けいただけますか?」
そういって、久地楽はにやり、と笑った。その目はまったく笑っていない。不思議な暗さと深みのある目だった。亜真知の高貴さとは、また違った気高さがある。
亜真知はこの久地楽という男が何者なのかもう少し知りたい、と感じていた。それに、依頼の内容も仲間を助けるというものだ。悪いことではないだろう―――
しばらく思案をめぐらせていたが、亜真知はやさしく微笑むと「よろしいですわ。お引き受けいたしますわ」と答えた。その様子に、久地楽は無邪気な笑顔を見せて一枚の上を胸元から取り出した。机に広げて、確認するように目を落とす。
「あなたなら僕を助けてくれると思っていました。早速依頼についてお話をしたいと思うのですが、その前に―――」
と、言葉をさえぎるようにドアのノックが事務所に響く。亜真知も音につられて目をやると、扉が音を立てて開いた。
現れたのは、高校生くらいの少女と二十歳過ぎの男性だ。一人は細身で平凡な、どこにでもいそうな少女。もう一人は凛とした、それでいてどこか不思議な、つかみ所の無い青年だった。取り合わせるにしてはあまりにも違っている。
「ご一緒する方をご紹介しましょう。アザミ、ご紹介しろ」
久地楽が高圧的に言うと、アザミと呼ばれた平凡な女子高生はわかったわよ、とつぶやいて青年を招きいれた。
「えーと・・・こちら、陸震さん。一緒にお仕事する人・・・だよね、クロウ?」
「当たり前だ。さあ、亜真知さん、こちらがあなたと一緒に依頼をこなしていただく方です」
その言葉に、亜真知はソファから立ち上がり軽く会釈をする。陸震はそれに答えるように会釈をした。
「話はアザミから聞いた。よろしく頼む」
お互いに挨拶を交わす二人を見て、久地楽は満足そうに頷いた。アザミは、所在なさそうに不思議な訪問者を見つめている。
「さあ―――では、参りましょうか」
「あら、もっと詳しくお話いただけませんの?」
意気揚々と事務所を出ようとする久地楽を亜真知は呼び止めた。その言葉に、久地楽は振り向く。
「なあに。説明など不要です。出会えばわかりますよ。あなた方―――神に近いものならば」


久地楽につれられて訪れたのは、町外れの閉鎖されたトンネルだった。外から見ても異様な雰囲気をかもし出すその場所は、すべてを飲み込むような闇に包まれている。
「さて、ここです」
「なるほど。"出そう"なところだ―――が」
「なんだか、不思議な気配がいたしますわね」
気配を感じ取り、隙なく辺りを見回す二人に久地楽は満足そうに頷いた。その横では、アザミが青い顔をして震えている。
「お気づきになられましたか。そう・・・お二人を呼んだのは他でもない。この奥にいる"モノ"を退治していただきたいのです。僕の手には負えないもので―――」
その言葉に反応するように、奥からはうめき声のようなものが聞こえてきた。どうやら、相当強い力を持つモノらしい。二人の気につられて奥から這い出してきたのか、気配がどんどんと近づいてくる。その気配は殺気立ち、とても話し合いなどで解決しそうな様子ではない。邪悪な気配に、亜真知は身を硬くした。
こんな手紙を受け取ったのだから、こうなることは想像がついていた。出会ったばかりの二人はお互いに目を合わせ、どちらとも無く自分のすべきことを理解した。気配は、すでに間近に迫っている。
「それでは、私が―――」
亜真知がすっとしゃがみこみ、大地に手をかざす。すると周囲が別次元のように不思議な空気に包まれた。
「これでよし・・・。結界を作りました。これで思う存分戦えますわ」
「ならば―――亜真知。支援を」
「ええ」
そういうと、陸震は腰にした炎皇をすらりと引き抜く。まばゆい刀身が、闇を裂くようにきらめいた。亜真知は久地楽とアザミを庇う様にして後ろに下がる。
「さあ、久地楽様、アザミ様、私の後ろに!」
「う、うん!」
アザミが答えると同時に、唸るような声が響く。
オォォォ―――ォォン・・・
「来る・・・!」
亜真知は闇の奥へと目を凝らす。瞬間、一陣の風が亜真知たちを襲った。
「ウォォォォン!!」
「ぐっ!」
「きゃあっ!」
予想以上の突風に、陸震と亜真知はよろめいた。しかし、すぐに体勢を立て直して陸震は剣を振るう。どうやら突風の中に本体がいるようだった。陸震の剣によって周りの風を斬られた敵は、警戒するように空を舞っている。
「どうやら・・・風を斬るにはその刀だけでは難しいようですわね」
亜真知のその言葉に、陸震はふむと考えるしぐさをするが、すぐに思いついたように亜真知に問いかけた。
「亜真知の術・・・結界だけではないだろう。それを俺の炎皇に」
「なるほど・・・・わかりましたわ」
「では、ゆくぞ!」
「はい!」
まるで初めて共に戦うとは思えないコンビネーションで、二人はすばやく敵に狙いをつけた。亜真知の体から、霊を浄化する清い光が漏れ光り、徐々に手のひらへと集まっていく。
「浄化せよ、光よ!」
そう亜真知が叫んだと同時に、陸震の剣が光をまとう。
「帰るがいい・・・己の場所へ!」
タンッ・・・と陸震が宙を飛び、光をまとった剣を一振りするとあたり一面が真昼のように輝いた。
瞬間、陸震と亜真知の目には不思議な光景が映った。
暗い闇の中にとらわれた、ひとつの光。
それは陸震や亜真知と波長の似た、神々しい光であった。
「闇が紙に恋をするとは―――愚かなことよ」
瞬間、光は急速に収縮した。


「助かりましたよ。お二人に頼んでよかった」
のんきな顔で笑っている久地楽の横で、目を回してアザミが倒れている。その様子に目をやりながら、亜真知は先ほど見た光についてたずねた。
「あの光―――神、ですわね?」
「さあ・・・?僕にはまぶしすぎる光―――それだけです。あなたと同じように」
芝居がかった久地楽の台詞に、亜真知は苦笑した。
「あなたは不思議な方ですのね」
その様子に、久地楽は微笑む。
「あなたもそうでしょう?」
「ふふ・・・」
亜真知が微笑んで、空を見上げた。先ほどまで闇に彩られていたトンネルは日を浴びてすっかり向こうが見渡せるようになっていた。
「亜真知さん」
呼びかけられて、亜真知は振り向く。そこには、白い封筒が差し出されていた。
「ご招待しますよ。僕の家に。あなたならきっと満足していただけるでしょう」

―――不思議な出来事でしたわ。
そう思いながら、亜真知は懐に入っていた手紙を取り出し、光にすかしてみる。
手紙の中には、紙の切れ端が一枚。
書かれている文字は「行先:魔界:片道」―――



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【5085/陸・震(リゥ・ツェン)/男性/899歳/天仙】
【1593/榊船・亜真知 (さかきぶね・あまち)/女性/999歳/超高位次元知的生命体・・・神さま!?】
【NPC2989/久地楽・クロウ(くじら・くろう)/男性/999歳/魔界探偵】
【NPC2990/御厨・アザミ(みくりや・あざみ)/女性/17歳/束縛者】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、花鳥風月です。今回初めてお仕事をさせていただきました。
今回は久地楽との出会い、魔物との対決と詰め込みすぎてしまったかもしれません。
依頼してくださった陸震様、榊船亜真知様の両名の特色が似ていらっしゃり、前衛後衛とタイプも分かれていらっしゃったので非常に描きやすく、物語がとても上手く膨らみました。
描き足りない部分も多くあり、もっとたくさん描きたかったのですけれども文字数の関係もありますのでこのようになりました。
今回、魔界の切符を手にされたので、いつか使ってみてください。そのときの活躍を楽しみにしております。
それではまた、魔界にて。