 |
霹靂祭り
晴れ渡る空に突然と轟く雷鳴。
暗雲などどこにも見当たらないのに、ただ雷鳴だけが響く。
それを青天の霹靂という。
ある夏の晴れた日。
何時もよりも茹だる様な気温の中、仕方なくも外へと出かける。
なぜこの日家から出たのかは、分からない。
こんな暑いだけの日に、ありえない気まぐれ。
それは、何かに呼ばれたような気がしたから？
真っ青な空の下、突然の雷鳴が鳴り響く。
（――落ちた！？）
それは遠い空の下、遠くに響いていたと思っていた雷鳴。なのに、なぜか全てを包むような白に包み込まれた。
はっと光が止み、恐る恐る瞳を開けてみれば、見ず知らずの土地。
顔を上げれば、やけに空が遠い。
不思議に思い、田んぼの用水路に溜まる水に姿を映してみれば―――子供の姿になっていた。
【▲】
此処はいったい何処なんだ？
物部・真言はゆっくりと右を見て、次は左に顔を向ける。
ポツンと1人立ち尽くし、どう考えても回りは田園風景が懐かしい田舎の情景。
確か自分はこれからバイトに行くつもりだったはずだ。
このくそ暑いのに家から出るのかと嘆息もしてしまったが、正社員でもないしがないバイトの身で勝手に休みを入れることは、真言にとってかなりな死活問題だ。
腕時計の時間を確認しようと持ち上げた腕には時計の気配はない。実際、見つめた腕には腕時計はついていなかった。
それに加えて、大人になる事で少し角ばった手が、どこかふっくらとしている。
現在の真言の姿は年の頃12歳。
服装は浴衣。
浴衣―――……
耳に届いた喧騒に視線を向ければ、淡く灯る提灯が木製の電信柱に引っ掛けられて、風にゆらゆらと揺れている。
どうやらこの場所、この村でお祭りがあるから自分の服装は浴衣なのかもしれないが、いったいこの浴衣誰が着せてくれたんだ？ いや、そんな事よりもなぜ自分は今子供の姿に戻っているのだ？
真言はその場で考え込み、むっと唇を引き締める。
とりあえず此処で立ち尽くしていても何の解決にもならないし、どう考えても元の世界とは違っているこの場所から帰る方法を探さなくてはいけない。
それには先ず情報を収集する事が先決だ。現在分かる事と言えば、立ち並ぶのぼりからこのお祭りの名前が『霹靂祭り』であると言う事。
偶然か故意的かは分からないが、浴衣の格好をしている事で自分の姿はすんなりとお祭りに溶け込んでしまう。
いつもの身長ならば見回すだけで分かる景色が、顔を上げなければ人の顔さえも見にくい。
真言は祭りで並ぶ屋台の列の中へ走りこみ、誰か声をかけても大丈夫そうな人を探そうと顔を上げた。
「……っ！！」
そしてそのまま余りの驚きに動きが止まり、見開いた瞳が徐々に大きくなっていく。
動物。
行きかう人々、屋台を切り盛りしている人、その全てが動物の頭を持っていた。
いや、持っているというのは正しくない。
今自分が見える範囲内で、自分だけが人の頭を持ち、その他の人々は全て動物――二足歩行の動物たちだった。
言葉は通じるのだろうか？
真言は立ち尽くしていても仕方が無いと、自分と同じ人間を探して恐る恐る歩き出す。
今は穏やかに笑いあっているように見える獣達だが、いつその本性を現して襲ってくるかもしれないと思ったから。
この場所の謎を誰かに問いたいのだが、獣達とは故意に瞳を合わせないように真っ直ぐ前だけを見て歩く。
そうしている内に、こちらが興味を示さなければ、あちらも興味を示してこない所という事が分かった。なんだかその点だけは今時の現代とそう大差ないように思う。
言葉が確実に通じると確信が持てる自分と同じ人を探して歩いていたために、知らずに早足になっていた歩みをそっと緩める。ふっと肩の力を抜いて、屋台の列を歩き出せば、なんだか小さい頃に行った故郷でのお祭りに何処か似ているような気がしてきた。
もしかして精神がタイムスリップでもしてしまったのか？ などとSFチックな事が頭をよぎったが、それは二足歩行の動物達の存在によって簡単に否定される。
とりあえず此処が何処であるのか、どうして自分はこんな所にいるのか、帰る方法はあるのか、この3つを探さなくてはいけない。
いや、その前に自分はどうやって此処に来たのか。
「どう…やって……」
覚えている事といえば、茹だるような暑さと突然の雷鳴。
あの雷鳴と共に自分はこの場所に立っていた。ならば、雷鳴に自分は呼ばれたという事だろうか。
とりあえず他に原因も思いつかないし、自分が今此処にたっている理由はあの雷鳴のせいと言う事にしてしまおう。
これで問題は1つ（無理矢理）解けた。
次だ。
今まで歩いてきたが、自分と同じ人を見つけることは出来なかった。これは言葉が通じるかどうかも分からないが、勇気を出して動物達に聞いてみるのが一番早道かもしれない。
二足歩行だってしているのだ、言葉を話すくらいきっと造作も無いはず。
真言はごくっと唾を飲み込むと、笑いあっている狼と猪が切り盛りしているフランクフルト屋台に身体を向けた。
「すいません」
狼と猪は見上げた真言の声に会話を止めて、にっこりと笑うと、
「あぁ、フランクフルトだね」
と、何のためらいも無く真言に発泡スチロールの皿の上に乗せたフランクフルトを差し出す。
「ケチャップはいるよね、マスタードはどうするかい？」
そんな狼と猪の反応に、真言はぽかんと開いた口が閉まらなかった。
いや、そんな事よりも真言には聞きたい事がある。
言葉が通じるならば好都合だ。
きりっと我を取り戻すように視線を鋭くして、真言は息を吸い込むと口を開く。
しかし、
「……………」
至極真剣な表情でフランクフルト屋台を見つめたまま、真言の動きは止まる。
自分は今、何を聞こうとしていたのだろう。
「ん？ どうした？」
「もしかしてケチャップも嫌いだったかい？」
フランクフルトの上に波を描いている赤いケチャップ。
「あ…いや、嫌いじゃ…ない」
それは良かったと猪は笑ってフランクフルトを真言に手渡す。
「…ありがとう」
そこではたっと真言は自分が今何も持って居ない事に気がついて、お金が払えないからフランクフルトを返そうと顔を上げる。
「マスタードはかけなかったんだ」
「！！？」
行き成りの後からの声に真言はびくっと肩を震わせると、折角貰った皿を思わず落としそうになりながら、ゆっくりと振り返った。
「フレンチドックだったら、両方かけやすいよね」
何の話だと突っ込みそうになりながらも、そう提案して微笑んだ少年は、年の頃今の真言と同じくらい。そして頭には狐のお面を横につけている姿がとても印象的だった。
「僕も貰おうかな」
真言が手にしているフランクフルトに一度視線を落として、先ほどの狼と猪の屋台に手を出している。
瞳をパチクリとさせながらその姿を見ていても、お金を払っているようなそぶりは無い。
「食べないの？ 冷めちゃうよ」
食べ物は粗末にしてはいけない。ならば、美味しいうちに腹に収めてしまうが吉。
「あ…あぁ」
真言は少年に促されるままフランクフルトを口に運ぶ。ぷりっとしたウィンナーの食感がとても美味しい物だった。
「あの屋台に目を付けるなんて、真言もなかなかやるね」
振り返ってにっこりと微笑んだ少年に、真言は首を傾げる。
何時この少年に自分の名前を名乗っただろうか。
どう考えても初対面のはずだ。しかし、相手は真言の名前を知っている。
「真言？」
その場で立ち尽くし、じっと自分を見つめる真言に、少年はただ首を傾げる。
俺は何か聞きたかったはずだ―――
聞きたいという思いばかりが強くて、一体何を聞きたいのかという本題がどうしても思い出せない。
「あんた…誰だ？」
そんな中、真言の口から出てきたのは、この質問だけ。
少年はフランクフルトを口に加えたまま、動きを止めたようにきょとんと真言を見る。
「誰って、僕は神時でしょ？」
今更何言ってるの？ と、苦笑交じりに答えられ、真言はただその場に立ち尽くし顔を伏せる。
今更という言葉は、昔から知っている場合に使う言葉だ。
「最近暑かったからね。記憶がちょっと飛んじゃう位は仕方ないかな」
僕も昨日の晩御飯思い出せない事もあるし。と、ちょっと悲しそうに眉を寄せつつクスクスと笑って答える。
「ゴミ捨ててくるよ」
食べ終わったフランクフルトの串と、それを支えていた発泡スチロールの皿を真言の手から受け取り、神時はその場を走り去る。
余りに早足で行過ぎる状況に、いまいち追いつく事が出来ずに真言はポツンとその場に残されると、ゆっくりと頭に手を伸ばした。
どうしても、どうしても思い出せないのだ。
記憶が曖昧になっている。
誰だ？ なんて聞いてしまって、平気そうな顔をしていたけれど、本当は凄く傷ついたかもしれない。
自分が友人からそんな事を言われてしまったらとても辛い。
「ゴミ箱どこだろう」
神時に謝ろうと決意を込めて歩き出すが、肝心のゴミ箱の場所を真言は知らなった。
適当に辺りを見回して先に進むと、金網で作られた大きめのゴミ箱は見つかったが、神時の姿は見当たらなかった。
もしかしたら自分の言葉に傷ついてどこかへ行ってしまったのかもしれない。
真言は顔を伏せ、ぎゅっと唇を引き締めて、神時の姿を探そうと顔を上げる。
「……！？」
顔を上げたその瞳に、自分よりも小さく神時とも違う子供の姿が映る。
綺麗な銀髪の子供は真言から見て男の子なのか女の子なのか区別がつかないが、自分と同じ人間である事は分かる。
思考がそう判断するや、真言は思わず駆け出していた。
「きみ！」
銀髪の子供の腕を掴むと、本当に性別のよく分からない微笑が振り返った。
「どうされましたか？」
「えっと……」
いきなり引き止めてしまったが、別段真言にはこの目の前の子供に対して聞きたい事はない。
いや、聞きたい事はあるはずなのだが、思い出せない。
「キミも、私と同じで引き込まれた人なのでしょうか？」
優雅に小首をかしげて問い掛ける様は、どこか真言とは生きている場所が違うような気がして、ぐっと息を呑む。
見た目はどう考えても相手の方が小さいのに、この肌に感じる経験の差はなんだろう。
「引き…込まれた？」
そうだ。自分は元々からこの村の住人だったわけではない。知らずにこの場所に立っていたに過ぎないのだ。
真言は子供の言葉を小さく繰り返し、はっと瞳を大きくする。
「どうだ！ ここは何処なんだ！？」
忘れていた疑問を、やっと思い出した。
「それは私にも分かりかねます」
勢いで口から飛び出た質問に子供は律儀にも答え、真言はそんな相手の反応にどぎまぎと口を閉じた。
「私はセレスティ・カーニンガムと申します。キミの名前、教えていただけますか？」
子供−どうやら男の子らしい−セレスティは、にっこりと微笑んで真言に問い掛ける。
「あ…あぁ、ごめん。物部・真言だ」
引き止めたのは自分だし、現状だって自分の方がお兄ちゃんなのに、相手のペースにすっかり巻き込まれてしまっている様な気がする。
もっとしっかりしないと！
真言はパンっと自分の頬を両手で叩いて気合を入れ、この場所を見分するようにすっと瞳を細めた。しかし、
「ここがどこかと言う事は確かに気になりますが、私はもう少しこの謎を楽しみたいとも思うのです」
好奇心旺盛な子供心を失わないセレスティは、悪戯っぽい微笑を浮かべて真言を見上げる。
見上げられた真言は、まるで鳩が豆鉄砲食らったかのように目を点にしてセレスティを見つめ、当のセレスティはそんな事お構い無しに又も祭りの中へと駆け出していく。
「あ、おい！」
視線で追いかけたセレスティの背中に、楽しいと書かれているような幻覚が見える。
本当なら何時までも関わる義理などないのに、ほかっておいたって差しさわりがないのに、その小さな背中になぜか弟の姿が重なる。
なぜだろう似ても似つかないはずなのに、切なさが真言の胸を締め付ける。
気がつけば真言はセレスティの後を追いかけていた。
どこか危なっかしく駆け回るセレスティの背中をはらはらと見守る真言。
真言の瞳の奥に映る、小さな頭と泣きはらした瞳。
泣かせたくない。泣いて欲しくないのに―――
「どうかされましたか？」
ふと視線の端に映ったセレスティの足元に、はっとして顔を上げる。
どうやら気づかぬ内にかなり険しい表情でもしていたのか、声をかけたセレスティが心配そうに小首をかしげていた。
「あ…ごめん……」
心配させたくないのに、しっかりしなければいけないのに、どこか不器用で上手くいかない。
照れるように顔に手を当てて視線をそらせる。
「………」
そらせた視線の先に入った、赤く大きな鳥居。
真言の胸に懐かしさが込み上げる。
鳥居から見上げた先にある社は、祭りのかがり火を仄かに映す程度の明るさで、何か得体の知れない場所へ繋がっているかのような静寂が広がっていた。
「神社、行ってみないか？」
ここまで誰も居ない神社も怪しい。お祭りなら、本当はこの神社が主役ではないのだろうか。
それにこのお祭りの名前は霹靂祭り。この神社が雷神を祭っている神社ならば、あながち見当はずれと言う事はないだろう。
「そう…ですね。そろそろ帰らないと皆が心配しますね」
神社の鳥居を背にして祭りへと視線を向ければ、目立たなかった提灯の明かりが綺麗な淡い橙色で辺りを照らしている様が見て取れた。
本当に帰る場所を探した方がいいだろう。
「行ってみましょうか」
セレスティの言葉のままに真言は頷くと、境内へと足を踏み入れた。
【●】 【▲】
帰りたい、帰らないと……
2人はただそう思い、神社の境内へと来ていた。
このお祭りの名は霹靂祭り。
だから、霹靂神を祭っているこの神社が、元の世界へと帰る道筋なのではないかと思って。
「セレスティさん！？」
綾和泉・汐耶と共に神社の鳥居を潜ったシュライン・エマは、見慣れた銀髪に瞳を大きくする。
「えっと、こっちのお兄ちゃんは…？」
元々の口調と、子供としての口調が混ざり合いながら、汐耶は12歳ほどの姿をした桐生・暁と真言を見上げる。
もし暁が金色の髪のままだったらシュラインは気が付いたかも知れないが、如何せん今の暁の髪の色は黒。
「お久しぶりですシュラインさん、汐耶さん…」
同じように10歳程度の姿なのに、どこか大人びた微笑を浮かべているのは紅月・双葉だ。
「……えっと、皆呼ばれた人なのかな？」
櫻・紫桜の手を引いて鳥居を潜ったのは1人ちょっとだけ大きな姿の伏見・夜刀。
一同を見回してみれば、夜刀が一番大きな年齢である事がわかる。
「呼ばれた…確かに、あの雷をそう考えれば、呼ばれたという事なのでしょうね」
幼い容姿でありながらも、優雅さはそのままに、セレスティはにっこりと微笑んで答える。
眩しいくらいの晴天の霹靂。
その音と光によって自分達はこの村へと足を踏み入れた。
ならばその霹靂が妖しいと思うのは当たり前。
「本当にここでいいのかなぁ」
共に居た双葉が神社に行ってみようと口にしたため、一応見た目はお兄さんである暁は、弟が出来たような気分に浸りつつ、その言葉を尊重してこの場に立っていた。
「どうして皆神社に集まってるの？」
頭の横につけていた狐のお面を顔につけて、神時が立つ。
明るいお祭りを背に立つ姿は、神時の姿を逆光の中で照らし、なぜかゾクリと背中が震えた。
「お祭りはまだ終らないよ？」
正面に付けていたお面を、そっと横へとずらす。
お面の下から現れたのは何処までも優しい微笑み。
しかし、その微笑が怖くて―――
「もう直ぐ、花火が上がるんだ。ゆっくりしていきなよ」
きっと今年も大きくて綺麗な花火が上がると思うよ。
と、にっこりと微笑む。
「申し訳ないのですが……」
そんな神時に向けて、セレスティが口を開く。
「俺さ…」
暁はそんなセレスティの言葉を引き継ぐように一度口を開き、一同を見回して正面から神時を見る。
「俺たちさ、帰らなくちゃいけない」
お祭りは確かに楽しかった。だけど、このままの時を過ごしていてはいけない。
「俺が、俺のままであるためには此処じゃダメなんだ」
消え逝く記憶の中で、真言の中にいつまでも残っていた弟の泣き顔。あの泣き顔を消すために、自分は帰らなくてはいけない。
もう殆どの記憶が消えかけていて、どうして泣いているのかも思い出せないけれど、誰も泣かせたくない。その思いが今のままの真言を繋いでいた。
「あーシューちゃん、セッちゃん。こんな所に居た！」
たったったとかけて来た女の子−白楽は神時を追い越して、シュラインと汐耶の手を掴む。
しかし、シュラインと汐耶は動かない。
「どうしたの？」
顔を伏せ動かない二人に、白楽は首を傾げる。
「ごめんなさい」
すっと手を引くシュライン。
「貴女の事が嫌いなわけじゃないけど」
と、同じように汐耶もすっと手を引っ込める。
「私達…」
「元の世界に帰りたいの」
繋いだ手が解かれた事に白楽は眉をひそめ、一瞬何を言われているか理解できないといったように呆然とその場に立ち、そして―――
「どうしてぇえ…」
せきを切ったように泣き出した。
「あ……」
泣き顔を手で隠す事もせず、ポロポロと涙を流す白楽に、シュラインは思わず手を伸ばす。
「……だめだよ」
だが、そっと伸ばした手を夜刀が制し、
「…上手く、言えないけど…手を伸ばしたら、帰れなくなる」
頭一つ高い身長を見上げ、シュラインはただ俯く。
「泣かないで」
違うと分かっていながらも、紫桜は夜刀の浴衣の裾に引っ付いたままで白楽に言葉をかける。
「白楽……」
いつの間に近づいてきていたのか、神時は泣きじゃくる白楽の肩をそっと抱き寄せて、顔を上げる。
「人を、間違えたのかな……」
どこか静に神時は呟いて、白楽の頭に視線を落とした。
「あの！」
今まで静かな子供だった双葉は、意を決したように口を開く。
「元の世界で、霹靂祭りはもう無いのですか？」
双葉の質問に神時は弾かれたように瞳を大きくし、泣きじゃくっていた白楽もその涙を止めて顔を上げる。
しかしその驚きも一瞬の事で、神時はまた静かに微笑する。
なんだかそんな神時の姿が自分に似ている気がして―――
「白落村はもう無いんだ」
しかし、神時の口から出たその言葉に二の句を続ける事ができず、双葉は顔を伏せる。
白楽の手を握り、神時は神社に背を向ける。
「さぁもう行かないと、本当に帰れなくなるよ」
神時の言葉と同時に、ドーン…と大きな一発目の花火が辺りを照らす。
「どうやって…？」
なんとなくこのお祭りの名前が『霹靂祭り』だから、『霹靂神』を祭っている神社が妖しいと思って集まったものの、その方法は分からない。
少しだけ視線を向けて振り返った神時が、頭の横のお面を正面に付け替えると、本堂の扉がバン！ と開け放たれた。
「白楽ちゃん？ 神時くん！？」
花火の音はだんだんと重なるように増えていく。
神社から離れていく2人に、汐耶は思わず叫んだ。
この先も、たった2人で生きていくの？
神時に手を引かれ、振り返った白楽が叫ぶ。
「はくらはね、白落だから、いいよ…さようなら」
バイバイと手を振る姿だけを瞳の裏に残し、呼び込まれた時のように大きな雷鳴が花火と共に遠くで響いた。
ふらりと歪んだ視界に、とうとうこの暑さの中外へ出た事が裏目に出たか？ と、頭を押さえる。
ミンミンと煩いくらいに多重奏を奏でる蝉の声が、耳を劈くように大きく響き、遠くの路地が陽炎で揺らめく。
額を伝った汗をそっと拭って、この暑さをただ恨めしく思う。
「何かが、違う……」
しかしその違和感が何であるのかは分からない。
真言は何かを考え込むようにその場に立ち尽くす。しかし、何を考えているのか途中で訳が分からなくなって、大げさに頭をかいた。
「いかん、遅れる」
はっと我を取り戻すように腕時計を確認すると、バイトのシフト変更まで後5分という時間をたたき出している。
真言はぎょっとして、街中へと駆け出した。
何処までも青い空を背に背負って―――
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【4782／桐生・暁（きりゅう・あき）／男性／17歳（12歳）／高校生アルバイター、トランスのギター担当】
【0086／シュライン・エマ／女性／26歳（10歳）／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員】
【1449／綾和泉・汐耶（あやいずみ・せきや）／女性／23歳（10歳）／都立図書館司書】
【1883／セレスティ･カーニンガム／男性／725歳（10歳）／財閥総帥・占い師・水霊使い】
【3747／紅月・双葉（こうづき・ふたば）／男性／28歳（10歳）／神父（元エクソシスト）】
【4441／物部・真言（ものべ・まこと）／男性／24歳（12歳）／フリーアルバイター】
【5653／伏見・夜刀（ふしみ・やと）／男性／19歳（15歳）／魔術師見習、兼、助手】
【5453／櫻・紫桜（さくら・しおう）／男性／15歳（10歳）／高校生】
注：年齢の（）はこのノベル内での外見年齢です。
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
初めまして、こん○○は。霹靂祭りにご参加ありがとうございました。ライターの紺碧 乃空です。今回8人という大人数に慣れていない事や、個別部分ばかりだという事もあり、予定よりも大幅に時間が掛かってしまったように思います。これを教訓に大人数は苦手だと悟りました（ダメじゃん！）
あわせてcoma絵師による異界ピンもよろしくお願いします。
お初にお目にかかります。クリショの方にて不安にさせてしまったようで、本当にメールありがとございました。お気に病んでいる事がないよう願います。あまりナイーブな感じが出せなかった事が心残りですが、弟さんが大切であるという事、泣かせたくない思いを仄かに関していただければ幸いです。
それではまた、真言様に出会えることを祈って……
|
|
 |
