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<東京怪談ノベル(シングル)>


【 仁義なき西瓜の戦い 】

そう、それは夏真っ盛りな一日のとある出来事だった。

シャクシャクシャク…。
ミーンミーン。

シャクシャクシャクシャク…。
ミーンミンミンミーン。

夏!という感じの暑い日差しに照らされ、蝉の声が鳴り響く。
空は青く、雲ひとつ見当たらない。
そして、目の前に広がる庭は緑に染まり、丸々と大きな西瓜が辺り一面に実っていた。
――其れは何故か。
記録的な猛暑の中、何らかの理由で西瓜が自生し、大繁殖を起こした為である。
あやかし荘から漂う妖気のせいなのか、はたまたこの陽気のせいなのかどうか分からない。
しかし、採れた西瓜はとても大きく、それでいて甘く、何と言うか絶品な西瓜であった。
そんな西瓜を食べずには放っておけない二人がいた。
あやかし荘の住人こと本郷・源(ほんごう・みなと)と、同じくあやかし荘の住人の嬉璃である。
今日も二人はいつものように縁側に座って西瓜をシャクシャクと食べていた。
ちなみに、こうして二人並んで西瓜を食べるのは今日で5日目である。
最初は夢中で食べていた西瓜も、毎日食べていると飽きてくる。
「うーん、西瓜で何か楽しい事ができないじゃろうか?」
「そうぢゃのう…」
源の言葉に嬉璃は考え込みながら、口に含んでいた西瓜のタネを勢いよく飛ばした。
ぴゅーっと飛んでいく種を見て、源は閃いた。
「タネ飛ばし大会とかどうじゃ!?相手より遠くタネを飛ばした方が勝ちじゃ!」
「ほう、タネ飛ばし大会とな?面白そうぢゃ♪」
嬉璃も快く同意し、早速シャクシャクシャクと西瓜を食べ始めた。
たっぷりとタネを補充した二人は、ハムスターのように頬が膨らんでいる。
「それじゃ、わしからするのじゃ――!!」
そういって源は、勢い良くタネを数個飛ばした。
綺麗な放物線を描きながら、タネ達は地面に落ちていく。
「次はわしぢゃな――!」
源のタネが落ちたのを見計らって、嬉璃もタネを飛ばした。
その結果、先に飛ばした源の方が飛距離が長い。
ということで、源の勝ちとなった。
「わしの勝ちじゃー♪」
「も、もう一回勝負ぢゃ!次は負けないのぢゃ!」
それでムキになった嬉璃、再び勝負を申し込む。
源もかかってこいとばかりにその挑戦を受け、再び西瓜を食してタネを飛ばす。
嬉璃もリベンジとばかりに勢い良くタネを飛ばし、今度は嬉璃が僅差で勝利した。
「ぬぐぐぐぐ」
「ふぐぐぐぐ」
それで闘争心に火がついたのか、源も嬉璃も西瓜を食べてはタネを飛ばし、飛ばしては食べを繰り返す。
その為に、西瓜もどんどん収穫されて数を減らしていく。
しばらくして飛ばしすぎてどちらのタネか分からなくなったという事に気づき、いつしかタネの目標は目の前のライバル(?)へとロックオンされた。
「そりゃー!」
「痛っ!?卑怯ぢゃぞ!」
何処から出したのか、玉を飛ばすパチンコにタネをセットして嬉璃に飛ばす源。
思いっきりタネを食らった嬉璃が、もう怒ったとばかりに水鉄砲もといタネ鉄砲で応戦。
シャレの範囲だったパチンコが、鉄砲でかえってきたとなれば源も更に対抗心がむくむくと湧き上がって来た。
「くっ…ならば、こちらはタネガトリングじゃ!」
ダラララッ!と派手な音を立てながらタネを盛大に飛ばしてくる源に嬉璃は慌てて壁に隠れてやり過ごす。
「中々やるのう、源!!」
「ふっふっふ…そろそろ嬉璃殿も観念したらどうかのう?」
ほれほれとガトリング砲を得意げに揺らす源に、嬉璃はニヤリと笑った。
「観念なんかわしがするはずないぢゃろう!!」
ずるりとその懐から取り出したのは――タネ大砲。
いや、何でそんなものが懐に入ってるんだとか突っ込んじゃいけない。
「なっ――!?」
「源よ、覚悟するのぢゃ!発射ーー!!」

『ドーーーーーン!!!』

派手な音を立てて西瓜丸ごと一個が源に猛スピードで向かってくる。
「それはタネではないのじゃーーーー!!」
思いっきり体を仰け反らせ、ギリギリ西瓜を避けた源が荒い息をつきながら突っ込んだ。
「当たればタネが出てくるのぢゃ!」
その前に頭から何か出てきそうです、などと突っ込んではいけない。
「くっ…この不敗の源、嬉璃殿になど負ける事なんて無いのじゃーーー!!」
「ふん、この常勝の嬉璃、あっという間に返り討ちにしてやるのぢゃーーー!!」
そして更に激しい戦いが続いた――。
そう、正しくそれはあやかし荘を二分する程のものだと言って良い。
しかし、いつしか武器(西瓜)も使い尽くし、後に残ったのは地面に散らばった大量のタネのみ。
「――のう、嬉璃殿よ」
「なんぢゃ、源」
戦いに疲れ果て、倒れていた源はふと思い出したように呟いた。
「この西瓜のタネ、掃除するのわしらじゃよなぁ?」
「――――そうぢゃな」
この後に襲いくる重労働を考え、二人は同時に深いため息をこぼした――。

勝負の結果:どっちもどっちで引き分け