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<東京怪談・PCゲームノベル>


IF 〜ありえる訳が無い邂逅〜


 休みの日。
 出かける仕度をすませて向かったのは、最近よく耳にするようになった寿司屋だ。
 普段から考えればずいぶんと奮発したと思うが、これにはちゃんと理由がある。
 都由の隠れた趣味であるトトカルチョ。
 成績上位の生徒を当てるという物なのだが、これは別に誰か相手がいる訳ではなく本当に都由一人の個人的な楽しみなのである。
 見事ぴたりと一致させた事に気分を良くしたのを切っ掛けに、せっかくだからお寿司を食べようと思い立ったのだ。
 出前を出したりもしていないようだったが、直接食べに行けばいい話である。
 普段通りの服装と、変わらぬ髪型で。
「今大丈夫ですか?」
 開店してる事を確認し、暖簾をくぐる。
 中には先客が二人。
 奥の座敷にいる、女性と男性はのんびりと話していた。
「らっしゃい」
 無愛想な声はカウンターの向こうにいる店主から。
 一度都由に視線をやってから、また直ぐに手元に視線を戻す。
 話には聞いていたが、噂通りに無愛想で強面だった。
「ここ構いませんか?」
 店主の側の席が空いていたのは、この性格のせいかもしれないとは思ったが、それが返って楽しそうだと思ったからである。
「………好きにしな」
 返事を聞いてからカウンターの空いてる席に座ると、直ぐにお茶を出してくれた。
 頑固ではあるが、それだけではないらしい。
 それがこの寿司屋に来て直ぐの都由の感想だった。
 あともう一つだけ聞いていた事がある。
 鬼鮫、それがこの店主の名前だ。



 温かいお茶をすすり、最初に頼むのは。
「タマゴお願いします」
「はいよ」
 見ている前で手際よく握られ、あっという間に完成し都由の前へと並べられた。
 手元にある箸を割り、軽く醤油につけたタマゴを半分ほど口に運ぶ。
「これはなかなか」
 寿司屋なのだから寿司がおいしいのは当然であるとして、最初に判断する材料として良いと聞いたのがタマゴなのだそうである。
 それが事実かどうかはさておき、大きさも味も上等であることは確かだ。
 気をよくした都由は次のメニューは何にしようと選び出す。
「何がお勧めですか?」
「今なら鮭とカツオ。イクラも良いのが入ってる」
 簡潔に返された言葉に、少し考えてから。
「お任せします」
 選ぶのも楽しいとは思うが、何を選んでくれるかと考えるとそっちの方が楽しそうだと思ったのだ。
「ああ」
 短い返事と共に、寿司を握り始める。
 その間醤油の瓶の隣に、別の種類の醤油が置かれているのを見つけた。
 試しにそっちの醤油につけてみるとまた別の味が楽しめる。
 ちょっとしたことだが、こういうのがあると嬉しい物だ。
 タマゴをきれいに食べ終え、一息ついた頃に出されるサーモン。
 これも勿論とてもおいしかった。
 出される寿司を堪能しつつ、ふと気になることが一つ。
 ゆっくり出来るのはとても嬉しいが、あまり人の出入りがない。
 入ってきた時から居る人はまとめて頼み、慣れきった様子でくつろぎつつ会話していた。
 やはり常連さんが多いのだろうかと思いかけたその矢先。
「どうもー」
 間延びした声と共にカラカラと音を立てて扉を開いたのは、ぼんやりとした風体の男の人だった。
 歳は都由よりもずっと上だろう。
 手近な席に座りつつ、想像通りにのんびりとした声で彼は言った。
「お持ち帰り用の作ってもらっても良いですかね」
「………」
「お持ち帰りも出来るんですか?」
 出来るのなら都由も帰りにそうしてもらおうかと思い、無口なままの鬼鮫に尋ねる。
「鮮度が落ちる」
 むっとした口調に、男性は慣れたように言葉を返す。
「お持ち帰り用の箱あるのは解ってるんですよ、良いじゃないですか」
「良くねぇ、食いたいならつれて来いと言っただろうが」
「良いじゃないか、今日は仕事で色々しでかしたから、おみやげ持って帰らないとまずいんだ」
「知るか!」
 何か因縁めいた物が彼らの間にあるのだろう、びしっと磨き抜かれた包丁の先を向けられたのにもかかわらず平然としていた。
 最もこの店内に誰一人として緊迫した状況だと思っている物は居なかったのだが。
「……ああ、お茶がおいしい」
 ほうっと一息つき、どうしようか首をかしげる。
 入れ直したお茶で喉を潤しながら、のんびりとやりとりを眺める都由の背後から聞こえる声。
「偶にああなんだよな」
「長くなりそう」
 ため息を付くような言葉。
 それだけで奥にいた人たちがここの常連だと言う事も、今起きているやりとりが何度かあったのだとはっきりと解る。
「色々工夫すればいいじゃないですか?」
「押し寿司だけにしてくれって言っただろうが!」
「大丈夫、気にしないです」
「言ったな、言いやがったな!!」
 だからと言って、それで何が変わるわけでもないのだが。
 偶々この場に居合わせた都由にとって<これはどう判断して良い物か?
 不運だと溜息をついてもおかしくない状況であると共に、珍しい物を見たとも言える。
 ある程度数は食べていた事は救いだ。
「そろそろ包丁しまおう?」
「誰の所為でこうしてると思ってるんだ!」
 今は声をかけるにかけられない。
「鬼鮫さーん」
 ぼそっと呟いた言葉に、唐突に飛び火する。
「お前等もだ、何時間もかけて食べたら乾くだろう!」
「うわ、ごめん」
 もう何が何だか。
 今ならとてもよく解る。
 余程なれた人か、肝の据わった人でなければのんびりと出来ない。
 それをふまえて考えた場合、ここにいる人達は両方に当てはまっていると思われた。
 動じていないという点では都由もそこに含まれてしかるべきだろう。
 このままではどうにもならない。
 都由は少し考えてから、そうだと声をかける。
「あの」
「はいよ」
 ばっと振り返る鬼鮫に男の人がぽつりと。
「ほら、怒るから驚いたんじゃないかな」
「誰の所為だと思ってるんだ!」
 声を荒げるのも気にせず、のほほんと都由が続ける。
「だから出前していなかったんですね〜」
 出前が大変なのかと思っていたのだが、別の理由があったのだ。
 納得したように頷く都由に、どう反応して良いか解らないらしかったが……直ぐに話を再開する。
「ほら見ろ! 直ぐに解ることだろうが」
「解ってやってるんだし」
「尚の事質が悪いっ!」
 再開した口論に、背後から聞こえる溜息。
「仕事で呼び出されたのに、困ったなぁ……」
「会計しないままにはねぇ、勝手にやる?」
「それもまずいだろ」
 眉をひそめた男の方には気にせず、女性客がパッと聞いてしまう。
「お会計しちゃいますよー」
「勝手にしな!」
 余程良く通い慣れた常連客だから出来ることだろう。
「何食べたっけ?」
「待って、今思い出す」
 指を折り数えつつ、ぼちぼちと電卓をたたき出した二人組。
「幾ら」
「待って今計算してる」
 どうやら難航しているようだと見た都由が、二人に声をかける。
「あたし計算が得意なんです、良かったら手伝いましょうか」
 そっと手を挙げた都由の提案に、二人が頷いたのは言うまでもない。
 食べた寿司と幾らかを教えてもらいつつ計算していく。
 扱う品は違えど、共通する点は多い。
 手際よく計算し、さらさらと合計金額を書いた紙を二人に手渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「助かりました」
 礼を言い、カウンターの上に代金を支払ってから忙しそうに店から出て行く。
 それを見送ってからカウンターに戻った都由はお茶をもう一杯。
「さて……」
 口論の行方を見守ることしばし。
 結果は……急いで帰ると言うことで落ち着きそうだ。
「手間をかけたな」
 バツの悪そうな顔に、構いませんよと微笑み返す。
 そう、あれは慣れた事だ。
「よかったー」
「今回で終いにしてくれ」
「うんうん」
 きっと、次も同じ事をするのだろう。
 やりとりに小さく笑みをこぼしてから、一息ついた所でカウンターに戻り注文を再開した。
「次はトロをお願いできますか?」
「ああ」
 仕切り直して、ゆっくりと寿司を楽しむ。
 次にまたこの店に来るかは……その時に決めること。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【3107/鷲見条・都由/女性/32/購買のおばちゃん 】

→寿司屋の店主な鬼鮫さん

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■         ライター通信          ■
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※注 パラレル設定です。
   本編とは関係ありません。
   くれぐれもこのノベルでイメージを固めたり
   こういう事があったんだなんて思わないようお願いします。

発注ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。

お任せだったので色々遊ばせていただきました。
お客は……マイナーすぎて解らないところを選んでみました。
解っても解らなくても支障は全くありません。
では、失礼しました。