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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


■ナマモノ双六−じょうずなかわうそ?のつかえまえ方 双六編−■

 ある日、アンティークショップ・レンの主である碧摩蓮は、倉庫を片付けていた時に古ぼけた箱を見つけた。
 その箱にはあの小麦色のレリーフがあり、「にゅんべら〜」とかヘンな声がする。
「…………」
 あまりの気持ち悪さのため、蓮は───捨てた。



 一方、仕事帰りの三下忠雄。
 夜道を歩いているときに、ゴミ捨て場に妙なものを見つけ、なんの性かその箱を拾ってしまった。
「なんだろうこれ……コワそうだなあ」
 と、あやかし荘で開けるに開けられない三下だったが、
「どれ、わしが開けてやろう」
 と、あっという間に嬉璃の手によって開けられてしまった。

 ───嵐の到来である。
 その箱の特質がゆえに、ゲームをするしかなくなった。



 一方その頃、草間興信所では。
「なんだっ……さ、さっきから身体が動かん」
 と、主である草間武彦がもがいている。
 あやかし荘ではまさに、嬉璃が草間そっくりの形をしたコマを動かし始めた。
「この怪奇探偵をコマにするかの」
 と、楽しそうに……。
 当然のように、武彦の身体は勝手に動き始める。驚く武彦。
「さて……三下のコマはよくなそうじゃからちょうどいい、おぬしが使え」
 と、あなたは三下のコマを渡された。
 よく見てみると、このゲームは簡単な双六のようだ。
「じゃ、始めるぞ」
 嬉璃がコマを進めたとたん、周囲は密林(ジャングル)へと変化した。嬉璃がコマを進めると、途端に嬉璃の首に蛇が巻きつき、嬉璃は苦しがり始めた。嬉璃が進めたマスを見ると、「蛇に首に巻きつかれて苦しがる」と書いてあった……今頃恐らく武彦は、蛇に首に巻きつかれて苦しがっていることだろう。というか。
 コマの持ち主も巻き添えになるということが、これで明らかになった。

 このゲームの呪縛から逃れるには、無事ゲームを完遂させるしかないようだった。



■シュライン・エマ編■

 シュラインは、とても不吉な予感でいっぱいだったのだが、嬉璃の様子を見て「やっぱり」という感がたえなかった。そして、嬉璃の持っている武彦のコマ。
 事務所に連絡を入れても反応はなく……ということで、ここに来たのだが。
「じゃ、次私ね」
 不審げな眼差しを嬉璃の持つコマに注ぎつつ、自分の持っていたダイスをころころと転がす、シュライン。
 ダイスの目は……3。
 マスに浮かび上がる文字を見ると、「ハンター出現」と書いてある。
「ハンター……?」
 とたん、左側の森林からばしゅっと何かが飛び出してくる。ハッとする……もしかしたらかわうそ?なのでは。思った途端、勝手にシュラインの手が動き、それを捕獲しようとした───が。
「っ!」
 声にならない悲鳴をあげ、シュラインは慌てて手をひっこめる。
 それはかわうそ?ではなく、ホンモノのカワウソで、手を噛まれてしまったのだ。
「否応なしってワケね……」
 同じく三下が手を抑えて涙を堪えているのを傍目に、シュラインは口元をひくつかせる。
 嬉璃がつつがなくコマを進め───シュラインの2度目。
「ダイスは5か。どれどれ」
 嬉璃が好奇心いっぱいの瞳で覗き込んでくる。
 シュラインも覗き込もうとした途端、「シュラインさん、これ!」と、三下に手を引っ張られた。
「な、なに?」
「かわうそ?の足跡に間違いありません! このレリーフからしても、ヤツを捕獲したら多分ゴールです! 追跡しましょう!」
「そうね」
 自分で「え?」と思いつつ、立ち上がって足跡追跡を始めてしまうシュライン。
 何か理不尽なものを感じながらも辿っていくと、どこぞの松の木に天女の羽衣がひっかけてある。
「何故密林に松の木が……」
「あっ、見てください!」
 もっともな疑問を持つシュラインの肩を、ばんばん叩く三下である。
 見ると、行水を終えた天女が、かわうそ?を抱いている。
「あっ……天女さん、この羽衣と……」
 咄嗟に羽衣を持ち、駆け寄ろうとするシュライン。
 あわよくば羽衣とかわうそ?とを交換しようと思ったのだが、それはかわうそ?を抱いたまま空に昇っていった天女自身の意思により、失敗に終わった。
 いや、かわうそ?の意思かもしれなかったが。
 嬉璃のところへ戻ると、彼女はもうコマを進めてしまっていたらしい。
「ほれほれ、シュラインの番じゃぞ♪」
 ダイス───3度目。
「……!」
 それは、耳の良い彼女だからこそできた行動と言っていいだろう。
 咄嗟に身を翻し、横に転がる。
 僅差で蜘蛛が降ってきて、かわりとばかりに三下に噛み付きまくった。
「危ないところだったわ……って、三下くん、大丈夫?」
 嬉璃がサイコロを振ったおかげで蜘蛛が消え去ったあと、シュラインは手当てをしてやる。
「シュラインさぁん……なんだか痛いを通り越して、痒いです……」
「我慢よ、三下くん」
 次こそはいいコマに、と気合を入れて4度目を振る。
 何やらもこもこと、座っている部分が持ち上がり、ころころと小判がたくさん出てきた。
「わあ……ちゃんと、いいコマもあるのね」
 喜んだ三下がそれを拾う。嬉璃が次を振っても、それは消えないようだった。
 シュラインのこの台詞も、今までのコマを体験すれば無理もないことだろう……。
 シュライン、5度目。
「?」
 何も起こらない。
 どうやらこのマスは、「何か異常事態が起きている場合のみ発動する」マスのようだ。
 また、嬉璃が振ってシュラインの6度目。
「何かしら、このカード。かわうそ?さんがぼろ屑みたいになって大泣きしているカード……」
「ほほう。かわうそ?アンラッキーカードを掴んでしもうたようじゃの」
 お茶をすすりながら、嬉璃。
 見ると、ちゃっかり説明書が嬉璃のところにあった。
 ……だからといって、このマスや起こる事態が変わるわけではないのだが。
 そうこうしているうちにシュラインと三下の周りにだけ土砂降りが降り始め、二人そろって、かわうそ?ふぉーむになってしまった。
「こ、これは一体なに……」
 脱力感すら覚える、シュラインである。嬉璃は面白そうに笑いつつ、
「かわうそ?ラッキーカードを掴むまではずっとその状態のようじゃのう」
 と、次のマスへ進む。
 嬉璃が殆ど「アンラッキー」なマスにいかないですむのは、こっそりとシュラインが、自分の目より嬉璃嬢の目が害のあまりなく早くゴールできるように祈っていたからかもしれない。
 とにもかくにも、武彦が心配だ。シュラインは7度目のダイスを振る。
「うわあぁぁぁっ! ひっひっ蛭うぅぅ!」
 天井まで生い茂った木から、ぼたぼたと蛭が落ちてきたのを見て、三下が悲鳴を上げる。
 蛭は三下の生気を吸い取り、そしてシュラインの持つ三下コマは───「5マス戻る」の指示に従い、勝手に動いて5マス、忠実に戻ったのだった。
「永遠に終わらぬかもしれんの」
 楽しげに笑う嬉璃。
「一刻も早く終わらせなくちゃ」
 シュラインも真剣になってくる。大丈夫、嬉璃の草間コマは一応ゴールを目前としている。
 嬉璃がマスを進んだのを見届けて、シュラインの8度目。
 突然、ずっと降っていた土砂降りがやみ、燦々と太陽が降り注いできた。かわうそ?ふぉーむも元に戻っている。
 いつの間にかシュラインは、かわうそ?がゴージャスな格好をしているかわうそ?ラッキーカードを手にしていた。
「よかった……元のお部屋に戻ったとき、水溜りだらけじゃ困るものね」
 問題はそこではない気がするが、と嬉璃はひょいとコマを進める。
 嬉璃もまた、小判を拾ったようだ。
 次、シュラインの9度目。
「えっ……」
 見る間に、地面にたくさんの穴が開いていく。
 そしてあちこちに、かわうそ?が顔を出しては引っ込んでいく。
 三下とシュラインは、それぞれにハンマーを持っていた。
 マスを見ると、「もぐらたたきならぬかわうそ?たたきだ! 夕陽が沈むまで叩き続けろ! 真っ白に燃え尽きるまで」と文字が浮き出ている。
「ほほ、これはいいのう」
 嬉璃は笑うが、二人にとっては笑い事ではない。
 だが、身体には───否、指示にはあらがえない。

 |Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)Д゚)

 穴の中から瞬時に顔を出しては消えるかわうそ?は、さながら分裂したかの動きで逃げる。
 やがて密林に、ようやく平和(夕陽)が訪れた。
 息を切らしつつ、ゲームのところに戻ってくる二人。結局、かわうそ?を一度も叩くことは出来なかった。
「こっちは一回休みじゃ。さ、シュライン。おぬしが先に振れ」
 嬉璃の言葉に、シュラインはごくりと唾を呑み込む。
 最後の一回───これで決めてやる。

 コロン、

「「「あ」」」
 三人が同時に、声を上げていた。
 三下コマが、すうーっとゴールに向けてまごうかたなく動いていき、ピタリと止まった。
「やったー」
 苦労した分、思わずはしゃいだシュラインだが、ぽっかりと目の前に現れたかわうそ?を捕獲することも忘れない。

 |Д゚) ……

「かわうそ?さん、捕獲完了。どうかした?」

 |Д゚) …………捕獲おそい ねるとこだった

 そんなかわうそ?の言葉を残して。
 辺りはぱあっと明るくなり、元のあやかし荘へと戻り───不思議なことに、その双六の箱も密林と共に消えていたのだった。

 後日談はまた、別のところで語られる(?)ことになる───かもしれない。



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、双六ネタを思いついてしまいまして、急遽NPCをお借りしたりしまして、こんなノベルになりました。わたしのノベルにしては、かなり異色かと思われます(笑)。もう、ただひたすら何も考えずに楽しむノベルを、と考えたらこんなものができてしまいまして(爆)。

■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 拙いOPでありながら、本当に有り難うございます;巻き込まれ型になってしまいましたが、ご気分を害されましたらすみません; 10回6面ダイスを振るのって、結構難易度(ゴール度)高いかな、と思っていたのですが、見事にピッタリとゴールされたので正直驚きました。途中、かわうそ?ふぉーむを着て頂いたのは御愛嬌ということで……その後、草間氏も無事になっているといいですねv

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を追求しまくってしまいましたが、参加者様には本当に感謝しております。有り難うございます。
これに並行しまして「双六シリーズノベル」の別バージョンもネタを考えていますので、また御参考までにv

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/8/19 Makito Touko