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<東京怪談・PCゲームノベル>


夏雪

 蝉がやかましく鳴いている。
 想像だにしなかった骨董品屋の扉をまたいだ状態で、少女は困惑したように少し首を傾げた。
「ともあれ、外は暑いだろう?中で涼んで行くと良い」
 少女と相対した骨董屋の店主は笑顔で店内に招く。
「…というか」
 少女の視線を辿って店内を振り返った鷹崎は、彼女が何を見ているかを察して苦笑を浮かべた。
「ああ、大きい氷だろう。氷菓子屋でも開業できそうだと思わないかい?」
 くつくつと笑って、さあ、ともう一度鷹崎は少女を促した。

「そうだ、名前を聞いてもかまわないかな。私は鷹崎という。それから」
 お客さんですか、とのんびりとした笑顔を浮かべて店の奥の扉を開けて出てきた少女を示して彼は、「彼女は藤本文音君だ」と続ける。
 少女は、慌てて小さく会釈をした。
「私は、月宮・奏と言います」
「そうかい。ふむ、名は体を表すとはよく言った物だね。綺麗な名だ」
 にこやかに鷹崎が言うと、文音は呆れた表情を見せた。
「…素敵な方で、素敵なお名前だと言う事は私も心底同意しますけど」
「おや、なんだい文音君。随分と歯切れが悪いじゃないか」
「あっ、失礼しました…!…いえ、本当に素敵だと思うんですよ!……ただ」
 鷹崎が目を細める。
「ただ?」
「…鷹崎さんがそう言うと、ナンパしてるみたいだと思ったんですが」
 笑いを堪えながら続ける文音に、鷹崎と奏は顔を見合わせる。
「あっはっは、それは良い。こんな綺麗なお嬢さんなら、ナンパのしがいもあるだろうさ。…さて、お嬢さん。氷菓子でも如何ですか」
 吹き出して、鷹崎が芝居がかった様子で奏に手を差し出した。



 迷路のような店の奥、少し高くなった一角には畳が貼ってあり、簡易の座敷のようになっていた。
 奏に座布団を勧めながら鷹崎は和服の袖をたすきで器用に上げる。
 アイスピックと小さな金槌で適当な大きさの氷を砕いて、そしてそれを家庭用の、可愛らしいぺんぎんを模した削氷機に入れて蓋を閉める。
「月宮君…と呼んでもかまわないかな?月宮君は、シロップは何が好きだい?」
 奏が頷いたのを確認して、鷹崎が問いかける。
 和服の男は、目の前のデフォルメされたペンギンには酷く不似合いな気がしたが、とりあえず奏は微笑んだ。
「イチゴが好きです。あの氷、一体どうしたんですか?」
「了解したよ。………ああ、やっぱり気になりますか」
 涼しげな、ガラスの器を下に置いて、ごりごりと氷を削りながら鷹崎は苦笑した。
「はい、物凄いサイズだし…」
 興味深そうに削り出されてくる氷に視線を送りながら奏が頷く。
「あー…。『諸事情』で南極辺りをふらふらしていたら、頂いてね」
 意味不明だ。
 というか南極からこの氷をどうやって持って帰ってきたのだろうか。
 何となく触れてはいけないような気もする。
「俺も、月宮君に質問してもかまわないかな?」
 話を変えるように、鷹崎が問いかける。視線は奏に向いたまま、手は器用に器を取り外してシロップを振りかけていた。
 スプーンを添えて、奏に手渡す。
「…ありがとう。なんですか?」
「学生さんかな?」
 こう、ただの学生さんとはあまり思えないんだけれど。
 苦笑混じりに言われて、奏は頷く。
「はい。中学生です。…他にも、退魔師の仕事を」
「ああ、成る程。それでかい、納得が行ったよ。どうも君の周りは清浄な空気が有ってね」
 素直に告げた奏に、己の為のかき氷を削りながら、鷹崎が笑う。
「…清浄、ですか?」
「ああ、とても綺麗だと思うよ。人を安心させる清浄さだ」

 鷹崎のかき氷が完成するのを待ってから、奏は自分の分のかき氷を口に含んだ。炎天下の中、一仕事を終えてきたので口の中一杯に広がる甘酸っぱい冷たさが心地良い。
「ふむ、それにしても退魔師か…。危険な仕事も有るだろうけれど、あまり無茶をしないでくれたまえよ」
 彼女の幸せそうな様子に微笑んで、鷹崎は奏の頭に軽く、ぽすぽすと手を置いた。さすがに驚いた表情を見せる奏に苦笑する。
「ああ、すまない。…どうも人の頭を撫でる癖が有るらしくてね…。気に障ったかな」
「いえ、少し驚いたけど…」
「そう言って貰えると助かるよ」

 ところで、とそこで前置きして、奏は鷹崎に尋ねた。
「あの、鷹崎さん、このお店に置いてある品物って鷹崎さんが見つけてきた物なんですか?」
「品物…?ああ、そうだね。引き取ってきたり、買い取ってきたりしたものだね」
 奏の脳裏には家の蔵が思い浮かんでいた。
 元からかなりの量の骨董品がしまいこまれていたのだが、人からの貰い物や、来歴不明の物まで、いつの間にか増えに増えて物凄い事になっている。あそこに手を入れようと思ったら、間違いなく大がかりな発掘作業になるだろう。
「…鷹崎さんの都合がいい時にでも、私の家の蔵を見てくれないかな」
 奏の言葉に鷹崎が軽く目を丸くした。彼女が蔵についての説明をすると、興味深そうに頷く。
「あんな所に眠らせておくより、求める人に出会えるならその方が幸せ。機会があれば…あの子たちを見てあげてくれないかな。鷹崎さんが気に入って引き取ってくれるなら、それがその品の運命」
「それは…俺にとっては確かに宝の山だろうけれど。…見ての通り、あまり流行っている店でも無いからね。引き取らせてもらってもこの店で埃をかぶるだけになるかも知れないよ?」
 鷹崎は珍しい物、曰く付きの物や古い物が好きだった。退魔師を営むという奏の家の蔵に心が惹かれないはずはない。
 ただ、彼女の言う、「求める人」に出会うのがいつの事になるかが全く予想が付かず、申し訳ない気がしたのだ。
 奏は首を振った。
「それにここなら…私も安心」
 鷹崎が珍しく、虚をつかれたような顔をした。
 それからひどく嬉しそうに微笑む。
「それは、責任重大だね。貰った信頼には応えないとな」
「じゃあ」
 鷹崎は一つ奏に頷いて見せた。
「ああ、是非俺の方からもお願いするよ。君の家の蔵、私に見せては貰えないだろうか」
「宜しくお願いします」
 楽しみだなあ、と呟く鷹崎に微笑んで、奏はかき氷の残りをほおばった。




 始めて来た店だけれど、何故かこの店は奏にとって居心地が妙に良かった。…波長が合う、とでも言うのだろうか。
 かき氷を食べて、店の二人を色々何でもない事を談笑していたりして。
 気づいた時には夕焼けが、高くなり始めた空に広がっていた。
 暗くなる前に、と言う事で店を一歩出る。
 鷹崎と文音が、店の前に並んで見送ってくれていた。
「今日はごちそうさまでした。…また来てもいいかな」
 奏の言葉に文音が満面の笑みを浮かべる。
「是非っ。歳もそんなに離れてませんし、お友達になって下さると嬉しいです」
 その言葉に嬉しげに笑って、奏は店主の顔を見あげた。
 鷹崎のきつい印象を与える目がやわらかく細められて、彼の手が再び軽く奏の頭を撫でる。
「ああ、是非。また来てくれるのを心待ちにしているよ」
 
 奏はしばらく店から歩いて、一度後ろを振り返った。
 大分小さくなった店の入り口にたたずむ鷹崎と、大きく手を振る文音の姿を見つける。
 奏は少し暖かい気持ちになりながら、もう一度手を振った。
 







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【4767/月宮・奏/女性/14歳/中学生:退魔師:神格者】

【NPC/鷹崎律岐/男性/24歳/骨董屋店主】
【NPC/藤本文音/女性/17歳/高校生】

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■         ライター通信          ■
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月宮・奏様

はじめまして。日生 寒河です。
この度は骨董屋にご来訪頂き、誠にありがとうございました。
脈絡のない世間話を延々とさせてしまいましたので、口調等、不備は無いと良いのですが。
それにしても綺麗な可愛らしいお嬢さんで、骨董屋二人は大手を振って大歓迎した模様です。
そして、品物の提供もありがとうございました!
WRも鷹崎も大喜びしておりました。

またのご参加、お待ちしておりますね。
ではでは、月宮様のこれからのご活躍、期待しております。