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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■ウリ蜂■

「いやー……お前のことだから風流とか言いつつどんな別荘かと思って来てみれば、大したもんじゃないか」
 その日珍しく、草間武彦は、宿敵、生野英治郎(しょうの・えいじろう)の日本内の別荘に交通費込みで馴染みの仲間と共に招待され、海をそのまま汲み上げてプールにしているという波の出る美しい海を前に、上機嫌だった。零も水着姿で楽しそうである。
 「今のところ」、問題点は見つからない。
「他でもない武彦にそう言って頂けると、御招待した甲斐があるというものですよ」
 はっはっは、と海でクロールしつつ、英治郎。
 海を模した広いビーチには、屋台もたくさん並んでいる。
 警備についていた英治郎の会社の者がひとり、駆けてきた。
「え、英治郎様っ大変ですっ! こ、この海に『ウリ蜂』が紛れ込んだ可能性がある、と……すぐ海から上がって下さい!」
「なんですって」
 英治郎は海から上がり、───そして、武彦の腹の部分を見て、つぶやいた。
「手遅れのようです」
「どういう意味だ」
 意味の分かっていない武彦がムッとしたところへ、屋台を見て回っていた零がこちらに戻ってきた。
「に、兄さん、そのお腹のものは───!」
「ん? どうした、零」
 そして武彦は初めて気づくのだ───自分の腹にいつの間にか、両手におさまるほどの大きさの、虹色の卵がくっついていることに。
「な、なんだこの卵はっ……」
 その焦った声を合図にしたかのように、卵はパリパリと割れ始め───赤ん坊ほどの大きさの、「ミニ武彦」が生まれたのだった。
「わあ、可愛い」
 零は頭を撫でようとするが、ミニ武彦は可愛がられるのを嫌がり、武彦の持ち物が置いてあるところへ行き、煙草を取り出し、吸い始めた。
「こっこらお前、ガキのクセに煙草なんか吸うな!」
 混乱しつつも、一応とめる武彦である。
 ところがミニ武彦は、ちらりとこちらを見やり、「名前つけてくれ、親父」と言ったのみである。
「お……お……親父?」
 どういうことだ英治郎、と詰め寄る武彦に、英治郎はにこにこ顔で説明した。
「『ウリ蜂』という、私が海で育成している蜂がいましてね。数日前行方知れずになっていたのですが……ホラ、女性に比べてどうも男性って母性本能というか子供の可愛がり方が足りないと常々思っておりまして。それで、男性にも御自分の生む子供のことを少しでも考えて頂こう、と、お腹にとりついた男性そっくりの性格が生まれる卵を発明したのです。瓜二つの性格ですから、ウリ蜂、というんですけれどね。いやあまさか、この海に汲み上げられているとは……安心して下さい、泳いでいない方にはとりついていないはずですし、その『子供』其々の満足感が得られれば、自然と消えるようになっていますからv」
 見てみると、海で泳いだ自分と一緒に来ていた仲間達、男性のお腹にも卵がはりつき、其々の「ミニ子供」が生まれているところだった。
 ハタから見れば可愛いだけなのだろうが、これは───。
「お前のいるところに問題がないなんて、甘かったよ俺は……」
 もはや怒鳴る気力もなく、げんなりする武彦だった。




■万物成長記(謎)■

「まずはお名前、ですよね……草の字を音読みにして、『ソウ』くんとかどうでしょう?」
 ミニ武彦の周りには、8人の見物客、もとい仲間達が集まってきていた。
 ソウくんと案を出した初瀬・日和(はつせ・ひより)だったが、シュライン・エマは、
「ミニ彦……?」
 と、悩んでいる。
 そしてなにやら、こちらはこちらで意気投合して自分のミニ版と遊んでいる英治郎に、再現された砂浜を踏んで歩いていく。
「日和、お前が外でごはん作りたいなんて珍しくわがまま言ったから、それにつきあってて助かった」
 と、こちらはすかさず、やはり持って来ていたカメラで写真を撮りながら、男性陣の中では唯一かまど作りや雑用をしていてまだ海に入っておらず、難を逃れた羽角・悠宇(はすみ・ゆう)。
 そう───唯一。
「くさまさんがいっぱいなのー」
 藤井・蘭(ふじい・らん)が、嬉しそうににっこりしてミニ武彦に抱きつく。ミニ武彦は、戸惑っているようだ。
「海に来たら泳ぐもんっしょ、やっぱ。俺のまで生まれちまってるし……」
 と半ば諦めたようにだらーんと自分の腕にぶらさがったりしている自分のミニチュアを見下ろしつつ、桐生・暁(きりゅう・あき)。
「いえ、海に来たら魚がいないか探すものです! たけのこさん!」
 とは、服のまま魚を求めて泳いでいた、全身びしょぬれのうえ、腕に抱っこちゃん人形のようにミニシオンをはりつかせたままのシオン・レ・ハイ。たけのことはどうやら、ミニ武彦のことらしい。言われてみれば、もっともな表現である。
「そうだよな、普通海だったらひとまず泳ぐのがお約束だし、水遊びとか好きだから泳いでみるよな」
 そしたら生まれたし、としばらく固まっていたがやっと口を開いた神納・水晶(かのう・みなあき)だが、隣でずどーんともっと石化している、武彦に誘われて一緒にやってきた人造六面王・羅火(じんぞうむつらおう・らか)の肩をぽんと叩いてやる。
「………………な……」
 ようやっと、羅火は自分のミニチュアが、腕によじ登ったり懐いてくるのを見て、それだけ言葉を発した。
「満足すれば消える、とはいうてものう……」
 竜の眼が点になっていた彼だったが、ふう、と呆然のため息をつく。
 そこで、一同の耳にシュラインと英治郎の話し声が聞こえてきた。
「うーん、それは確かにそうかもしれませんねえ」
「でしょう? 男性に母性本能を求めるなら、やっぱり暫く下腹に重さと共につけておかなきゃ意味がないと思うの。仕事に支障が出るでしょうから膨らみは割愛するとして、その重さを10ヶ月も持ってるってこと、重要だと思うの。せめて一週間程度下腹を重くしてから生まれるように調整してみたらどうかしら?」
「そこまでは気づきませんでした。さすがシュラインさん、経験者ですね♪」
「いえ、少しでも参考になればと思って。作るからにはやっぱりちゃんとしないとと思うし。───って、私はまで経験者じゃないわ!」
「ああ、そうなんですかぁ?」
 と、わざとらしく武彦のほうに視線をやる、英治郎。
 武彦は頭が痛いといったふうに、シュラインを呼んだ。
「参考になることなんか言わんでいい……重さをつけるって、お前これ以上俺を苦しめて楽しいか……」
「でも、子供を生むって大変なことです。シュラインさんの言うことももっともだと思います」
 大真面目に、日和が賛同する。
「ま、まあそれはおいといてだな」
 きょとんとする蘭の頭をくしゃっとやりつつ、悠宇が場を和ませようと無理矢理笑顔を作る。
「とりあえず満足させさえすれば消えるんだろ? とりあえず、それぞれの満足しそうなこと、おのおの考えて実行しようぜ、協力すっからさ」
「さばいばるです!」
 ぐっ、と拳を握りつつ、シオンが熱く語る。
「このミニシオン、私のミニならばそれ以外にありません! さばいばるは欠かせません! 生野さん、この別荘に密林なんかはありませんか」
「どんな育ち方してきたんだよ」
 からからと笑いつつ、暁。そして自分のミニチュアに、「お前の名前は俺と同じ、アキ、な」と言いつつ、英治郎のところに一緒に行き、何か聞いている。英治郎は頷き、おつきの者に何か言って、大きな袋を持ってこさせた。
 蘭も傍に行き、英治郎に、「うちのパパさんはそうじゃないのー」とシュライン同様物申している。どうやら蘭は、「パパさん」にけっこう優しくされているらしい。
「んじゃ俺、ここでオーダーとって、なんか作ってるからさ、おねーさんやパパさん達と遊んでこいよ」
 暁が子供達にそう言うと、潮干狩りの用意をしていたシュラインが全員を呼んだ。
 やはりそっくりの性格とは言っても、子供は子供なんだなあ、と日和はこちらも英治郎に調理具や材料の用意をしてもらいつつ、思う。こちらはこちらで、腕を振るって食事の支度をしておくつもりだ。
「深いところに言っちゃダメよー、パパの言うことも聞きなさいね」
 てきぱきと、子供達に潮干狩りのやり方を教えつつ、シュライン。時折ミニ武彦をじーっと眺め、きゅっと抱きしめてみてちょっと新鮮さに感動していると、武彦がミニ武彦を足蹴にし、泣かせる。
「何するの、武彦さん」
「子供だからって甘やかすな、シュライン。他にも子供がいるだろ?」
「あれはなー、しっとっていうんだぞ、らか!」
「し、しっと? わしはよくわからん」
「しっととは、おいしいのですか?」
「カニさんはっけん! なのー! わーい! なのー!」
「おねーさん、あそばない?」
 楽しそうな順応性の早いミニ水晶と、真面目に分からない顔をするミニ羅火、そしてバケツにいっぱいの貝を既にとっているミニシオン、皆に抱きつきまくっているテンションの高いミニ蘭、その隙にとシュラインをナンパする、ミニ暁。
「あ、こら! お前ナニいっちょ前にナンパしてんだ!」
 と、武彦がまた嫉妬する。遠くで暁が、「おーいアキ、こっちこい!」と呼べば、先ほどこちらも自分の子供(?)に「あき」と名づけたミニ水晶までもが呼ばれたと勘違いし、ミニ暁と共に暁の元へ走って行き、更にそれを追うミニ羅火。
「……普段の人間関係が分かるようね……」
 シュラインのぽつんとした感想に、深く頷く武彦。
 その後もシュラインは幼稚園の先生さながらに残った子供達だけで潮干狩りをし、しばらくしてあがってくると、いい香りが日和の調理している場所から漂ってきた。
 そちらでは、暁にジュースをもらったミニ暁が、ダッチオーブンでケーキを焼いている日和にまとわりついている。
「おねーちゃん、あそぼー」
「んっとね、お姉ちゃん今、ケーキ焼いてるの。アキくんも一緒に食べようね?」
「日和をナンパするなんざ百億年早い!」
 写真を撮っていたはずの悠宇だが、ぱこんと子供相手にも日和に手を出す輩には容赦しない。
 あーん、と泣き出したミニ暁に、ちょっとたじたじするが、日和に頭を撫でられてまたナンパするのを見て再度ぱこんと(以下略)。
「あー、あんま叩くとさすがにこれ以上バカになりたくねーから勘弁」
 苦笑しつつ、豆でわざわざ珈琲を淹れていたり、オマケとしてクリームやスナックを子供達につけてやっていた暁がやってくる。
「お前親父だろ!? ちゃんとしつけしろよ!」
「ごめんごめん、俺ってこんなにナンパだっけ」
 ほら泣き止め、とミニ暁にアイスをやる、暁。
「ぱぱ! まま! おさかながとれました!」
 そこへ、ミニシオンがシュラインと武彦、ミニ武彦の後ろからたくさんの魚が入った網を持って現れる。
 思わず顔を見合わせる、シュラインと日和。
「ままって……」
「誰でしょう……」
 思わず日和のタテになる悠宇だが、シオンがミニシオンの肩にぽむ、と手を置いてしんみりとした口調で言う。
「シオンくん。ままはいないんですよ」
「え……ままは、いまどこにいるんですか?」
「きみはこの私だけから生まれてきたのです」
 みるみるうちに、瞳に涙が盛り上がっていく、ミニシオン。
「そこっ! センチメンタルなドラマ作ってるんじゃない!」
 もらい泣きをしそうな日和に慌てて割って入ろうとする悠宇と、「これも改善すべき点かしら」と真顔で英治郎に言うシュライン。
「「ぼくがままなのー!」」
 蘭とミニ蘭が、二人がかりでミニシオンに抱きついた。
「ま、ままがふたりなんですか?」
「「そうなのー! だからなきやむなのー!」」
「は、はいっ!」
 ミニシオンを思う存分抱きしめたミニ蘭は、次々に相手構わず抱きつきまくっている。
「シオンさん、あっちでウニたべるのー」
 蘭に手を引かれ、こちらも涙ぐんでいたシオン、はい、と気を取り直して歩いていく。
「───ままがいないとか関係ない子供が約二名いるみたいだが」
 武彦の言葉に、一瞬一同の瞳が、羅火と水晶、そしてその足元で海の水をかけあってはしゃいでいる二人の子供達を見つめる。
「なんだか本当の親子みたいに馴染んでるのは、あの二人だけみたいね」
「本当ですね」
 なんとなく和やかな気分で、シュラインと日和はほほえましく見守ってしまう。
「じょ、冗談ではないぞ、わしはままなどではない!」
「え、俺も違うヨ?」
「む……では、わしがままか?」
「あー……んじゃ、俺がまま?」
 いや俺が、わしがと言い合う二人もまた微笑ましい。
 カシャリと写真におさめながら、悠宇は「熱いな……」と何気なくつぶやく。
 それもそのはず、ミニ武彦がまたまた煙草を吸いつつ、悠宇の裸足の足に灰を落としているのだった。
「あっ……ミニ彦くん、だめよ!」
 こういうことには厳しいシュラインが、さっと煙草をとりあげ、ミニ武彦を叱る。
「はーどぼいるどに、たばこはかかせないんだ」
 たどたどしい口調でそんなことを言われても。
 ミニ武彦の言葉に、つい腰砕けしてしまう全員だったが、英治郎とミニ英治郎もこみで、なんとか席に落ち着き、全員で素麺やケーキを食べた。



 そのあとは屋台めぐりとなり、日和と悠宇は後片付けを、シュラインと武彦、そしてミニ武彦はカキ氷の屋台に座り、蘭とミニ蘭と共にカキ氷を食べていた。
「なにかこう、今年の夏もどたばたで終わるのかしら」
「英治郎の別荘に来たのが間違いだったなあ」
「ミニ彦くん、何かしたいこと、ない?」
 シュラインのその問いに、ミニ武彦はちょっと考え、ぽつりと小さく、「きゃんぷふぁいやー」と言った。
 いちご味のカキ氷を食べていた蘭とミニ蘭が、はしゃぐ。
「キャンプファイヤー、楽しそうなのー! 花火もするのー!」
「なのー!」
「いいわね、生野さんに頼んでみましょうか。そうそう、海で泳ぐ練習もしましょうね、浮き輪つけて」
 シュラインが言うが、こくりと頷いたあと、武彦のほうにサッと右手を出す、ミニ武彦。
「ん? なんだ?」
「こいつらにもかきごおり、おごったけどかねがない。こづかいくれ」
 なに!?と目をやると、いつの間にか、ミニ武彦の隣にズラッと子供達全員が並んでカキ氷を完食していたのだった。



「いいですか? 『だるまさん転んだ』のルールは、さっき言ったとおりです。では、先生の合図で皆さん動いたり止まったりしてくださいね。景品は、私が先ほど急ぎで縫ったウサギさんのぬいぐるみです! 能力解放は失格ですからねー! いきますよー、だーるまさんがー」
「「「「「「「「こーろんだ!」」」」」」」」
 語尾に「なのー」とか「のである」とか入る妙な子供達もいたが、シオンが統率して子供達がウサギのぬいぐるみほしさで「だるまさんが転んだ」をしている風景は、なんとも微笑ましい。
「アキー、がんばれよー!」
「こっちのあきもがんばれー」
「む、あの眼鏡の……英治郎とかいう者の子供、草間の靴に何か入れたぞ」
「みんながんばるなのー!」
「日和、ほら、そこだともう日が傾くからこっちのほうにこいよ」
「うん、ありがとう、悠宇」
「あら……本当。生野さんの子供がミニ彦くんの靴に入れたの、画鋲じゃない? どこから持ってきたのかしら」
 こちらは大人軍団(?)、屋台のひとつに入って、シオンと子供達の様子をそれぞれに見ている。
「英治郎ー、お前の子もやっぱりこすっからいヤツだな」
「まあまあ、子は親の真似をすると言いますし。武彦の子も煙草吸ってたでしょ?」
 結果、猫形態の変化も持っていた羅火の速い足が勝ち、ウサギのぬいぐるみはミニ羅火がゲットした。



 その後、今度は暁が何か悪戯っぽそうな表情で子供達を呼び、それぞれ英治郎に用意してもらった、イルカやシャチの形をした浮き輪ボートに子供達を乗せ、パパ連中がそれを引っ張る、という親子競争になった。
「よーい、どん!」
 パァン、と用意されたクラッカーの音を鳴らしたのは、シュラインである。
 英治郎の別荘は、なんでも出てくるなあ、と悠宇はシャッターを切りながら今更ながらに思ったものだ。
「はやく! もっとはやくなのー!」
「ぱぱ、こういうきょうそうならぱぱがいちばんまけません!」
「ふわふわそうでいいなー」
「あとでのっかるか?」
「ぱぱ、ぜったいおれいちばんだぞー!」
「おやじ、たいりょくないな」
「おやおや、みなさんのぱぱはがんばりますね、たけひこのぱぱとちがって」
 ミニ蘭、ミニシオン、ミニ水晶、ミニ羅火、ミニ暁、ミニ武彦、ミニ英治郎がそれぞれの親を応援(?)したり喋ったりしている。
 結果、ゴールは暁だった。
「さーって、賞品はないけど、この競争に勝ったらなんでも言うこと聞いてくれるってハナシだったよな」
 暁がにっこり笑うと、子供達は、ごくりと唾を呑み込む。だが、
「さあ、王様の命令だ! 皆で草間さんを砂にうめちゃえ!」
 との言葉に、わあっと楽しそうな声をあげ、「んな馬鹿なハナシがあるかーっ!!」という武彦の声もむなしく、子供達は暁の言うとおり、首から上だけを残して武彦に次から次へと砂をかぶせ、押さえつけ、さながら砂風呂のように砂に埋めてしまったのだった。
「こらっミニ! お前までか!」
「ふっ、ざまあないな、おやじ」
 首から上だけを残された砂の中の武彦、子供と言い争っている。
「武彦さんの子供って、最初からあんなふうにひねくれちゃうんでしょうか? それともただ、頑固で甘えべたってところがそっくりなだけなんでしょうか」
「そうねえ、私は後者だと思うけれど」
 こちらでは、日和とシュラインが、おやつをつまみながら談義している。
 足元では、再び猫形態したミニ羅火と羅火がじゃれあうその上に乗ってミニ水晶がはしゃいでおり、ミニ蘭は蘭に教えられながら、ミニシオンとシオンと共に、砂のお城を作っている。



 武彦はそのまま───というのも可哀想なので、せっかく楽しいんだから、と英治郎に珍しく助けられ、夕陽も落ちた頃、最後にキャンプファイヤーということになった。
「食べちゃダメだよ?」
「食べ物はこちらにありますからね」
「アイスコーヒー、あるのー、草間さん!」
「これ、日和の焼いたクッキーと、シュラインさんの焼いた、さっき皆で潮干狩りしたヤツだ。新鮮で美味しいぞ」
「俺もちま猫に乗ってみたいなー」
「わしは構わんが……ここではな……」
 それぞれ、暁、シオン、蘭、悠宇、水晶、羅火に花火や食べ物を渡される、子供達である。
 シュラインと日和も既に持っていて、英治郎と武彦が火をつけ、けっこう大掛かりなキャンプファイヤーが始まった。
「浴衣でも着せたいですね」
「本当ね、子供ものの浴衣って可愛いのよね」
 唄を唄いながら、花火をする。日和とシュラインが、ついそんな言葉を漏らす。
「へえ、よくこんなの見つけたな。この虫の名前はな」
 悠宇が、花火の終わった子供達に虫取りや木登りを教えている。
 虫取りの王者はやはりミニシオンだったのだが、その子供の栄誉をたたえようと胸に抱きしめようとしたシオンの手が、ふと止まった。
「たのしかったです、またあいましょう」
 朗らかな顔で、ミニシオンがすうっと消える。
 次いで、三度シュラインと日和の元へナンパしているところを悠宇と暁に引っぺがされたところに、笑いながら、ミニ暁。
「あー、たのしかった! またなー!」
 ちま猫となってもっとちま猫形態のミニ羅火の上に乗っかっていたミニ水晶も、
「おれもたのしかった! またふわふわのたのむな!」
 笑顔を残し。
「わしもいくのじゃ。たのしかったぞ」
 ミニ羅火も、にこっと笑って。
「たのしくてすっきりしたなのー! またあうなのー!」
 最後にぎゅっとミニ武彦を抱きしめ、ミニ蘭がにこにこしながら消えた。
 ミニ武彦とミニ英治郎もまた、互いを見つめ、それぞれの親を見た。
「わたしたちも、これで。たのしかったですよ」
「おやじ、またな。……たのしかった」
 すうっと二人が消えて、あとはキャンプファイヤーの明かりだけとなった。



「一夜明けたけど、なんだか夢でも見てたみたいね」
 次の日、朝日を浴びながら、帰り支度を整えたシュラインが、別荘から出てくる。続いて、日和。
「本当、少し切ないです」
「もう少し遊びたかったな。日和にナンパしてくるのは許せんけど」
 悠宇も、少し物足りなそうだ。
「またあえるかな? あいたい、なのー」
 しょんぼりしている蘭の頭をくしゃっとやる、暁。
「会える会える、いつか会えるさ、笑ってれば、さ。いいことあるって」
「ウサギのぬいぐるみも一緒に持っていってくださったんですね……」
 どこかしんみりと、シオン。その手には、ミニシオンが作ってくれた、貝でできたブレスレットが握られている。
「シオン、ぬしの子供が作ってくれた貝のもの、大事にするぞ。しかし、本当に淋しいのう」
 らしくなく、羅火がちょっとため息をつく。そう、確かにシオンは全員に貝のブレスレットや色々なアクセサリを器用に作り、残していった。だから夢ではない、と確信できるのだが。
「まあ、またこんな機会もあるんじゃね?」
 水晶が、そんな羅火を宥めるようににっこりと笑った。
「その通り!」
 ばん、と英治郎がスーツ姿でビシッと決め、眼鏡を指で押し上げる。
「実はあれから『ウリ蜂』の改良計画が出ましてですね、今回『親』になられた方にはもれなく、近い将来子供ができる、とするように致しました」
 そうですねえ早ければ一ヶ月、いや一年……とつぶやく英治郎に、全員一瞬息が止まり、
「すぐその計画を中止しろー!!!」
 と、武彦の声が朝日にこだましたのだった。


 後日、いつものごとく、「微笑ましい親子の記録」と題された各人のアルバムが密かに、某羽角悠宇の手で界隈に売れたのは、言うまでもない。



《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
2163/藤井・蘭 (ふじい・らん)/男性/1歳/藤井家の居候
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん+高校生?+α
4782/桐生・暁 (きりゅう・あき)/男性/17歳/高校生アルバイター、トランスのギター担当
1538/人造六面王・羅火 (じんぞうむつらおう・らか)/男性/428歳/何でも屋兼用心棒
3620/神納・水晶 (かのう・みなあき)/男性/24歳/フリーター
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、生野氏による草間武彦受難シリーズ、第13弾です。
今回は皆様に、いつもよりちょっと切なめな感じのどたばたを体験して頂きましたが、本当に後日、どうなっているのでしょうか。ちょっと楽しみな東圭です(笑)。
また、今回は皆様、文章を統一させて頂きました。

■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 生野氏に物申す、というところも内容が内容だっただけに、笑ってしまった東圭をお許しください(笑)。潮干狩りはとてもいい案だったなーと。途中、つい焼きウニを食べたくなってしまいました。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 早速名前を考えるあたり、順応性がついてきたなあ、と微笑ましく(?)思いながら書いていました。素麺以外の温かいもの、どうせなら生野氏の食材を借りて七面鳥とかでも……と思いましたが、やはりそれは冬だろう、と素麺とケーキだけに描写がとどまりました。
■藤井・蘭様:続けてのご参加、有難うございますv どうしても蘭さんとミニ蘭さんのイメージが一緒になってしまい、言動や口調が一緒になってしまった感じで、自分の拙さを痛感していますが^^;それでもわたしの中ではいつも元気な蘭さん、というイメージがあるので、こんな感じになりましたが如何でしたでしょうか♪
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 毎回いつもカメラ係と化してしまっていますが、そろそろお小遣いも相当なものになったのでは、と思います(笑)。今回、ナンパに関してはやっぱり日和さんが絡むと素の男の子に戻るんだなあ、と改めて感心(?)しつつ書いていました。ひとりミニ版を逃れたのは流石だなあ……と、色々な意味で思ったり(笑)。
■シオン・レ・ハイ様:いつもご参加、有り難うございますv サバイバルをどうやって表現しよう、ということで最後、皆さんにミニシオンさんから貝のアクセサリの贈り物をして頂きましたが、個人的には生野氏に「実は隠れ無人島行きシステムがついているのです!」とかいうシチュエーションも思いつき、実行してしまいたい衝動に駆られました(笑)。が、この台詞はまた次の機会にとっておきます。「たけのこくん」の台詞があまり生かせなかったのが心残りです;
■桐生・暁様:続けてのご参加、有り難うございますv ナンパするなよ小さい俺、という台詞であそこまでミニ暁さんをハジケさせてしまいました;(笑)ついツボでしたもので(爆)。草間氏を砂浜に、という案は是非使ってみたかったので……さぞや新陳代謝がよくなったことでしょう。
■人造六面王・羅火様:初のご参加、有り難うございますv なんというか、設定を拝見させて頂いて、石化している羅火さんのお姿が何故か目に見えるようで……つい楽しく書かせて頂きましたが、ちま猫+もっとちま猫の図が是非見てみたい東圭です(笑)。
■神納・水晶様:初のご参加、有り難うございますv ふわふわモノをもっと出したかったのですが、あまり思いつかず;ですが、やはりこれは猫形態になった羅火さんの背にぜひとも乗って頂かねば、ということであんな感じになりました(笑)。羅火さんとの会話のほうが多かった感じになりましたが、設定的になんとなくそのほうが自然かな、そして皆から見ても微笑ましいかなと思った次第ですが、如何でしたでしょうか。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を草間武彦氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。
次回受難シリーズは皆様のお手元に届く頃には、既に窓明けもしていると思います、ちょっと時期的には遅くなってしまいましたが「熱射病」ネタです。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/8/27 Makito Touko