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■裏街道人生双六■
とある、夜のことである。
どこか暗い一室に、いつものように煙管をふかし、豪奢な椅子に座って高級毛皮マントを羽織っているマフィアのドン、かわうそ?がいた。
「お呼びですか、かわうそ?さん」
どこからともなく、草間武彦の宿敵である生野英治郎が現れ、傍らについた。
かわうそ?と英治郎は互いにひそひそとしていたが、その数時間後───。
闇のボスである草間武彦、碇麗香、瀬名雫、碧摩蓮、草間零、嬉璃、(何故か)三下忠雄が急遽召集された。其々に「闇の怪奇探偵」だの「闇の編集者」だのあまり冴えないアダナがついてはいたが、腐ってもボスはボスである。
「今日皆さんにお集まりいただきましたのは、ほかでもない、かわうそ?さんの退屈しのぎにおつきあいして頂こうと思った次第です」
眼鏡をにこにこと押し上げつつ、英治郎。
「それってのは俺達にも楽しいコトなのか?」
疑わしい武彦である。
もちろん、と返事が返ってきた。
「つきましては今回、私が急遽建てました『裏街道人生館』において、自らが望むボス───武彦や零さん、碇さん達のことです───の元に辿り着けた人間に、『裏街道パス』を渡すという遊びを思いつきまして」
ざわっ、とその場がざわめく。
裏街道パス。
それは、この裏街道を生きる者にとって、憧れのアイテムだった。裏街道に住んでいない者にとっても、いざという時には便利な代物だ。
何しろ、裏街道に関する全てのことが「オールパス」になってしまうのだから。
例えば、単にヤクザにカツアゲされていてもそのパスを見せただけで、立場が逆転してしまうほど、そのパスを持っていれば恐れられてしまうのである。
「分かったわ、楽しそうだし、人材を当たってみるわよ」
麗香が立ち上がる。
「そうだねー、今ってどれだけそんなホネのある人間がいるのかって分かるとたのしーし♪」
と、雫。
「無論、そのナントカ館でのその者達の映像は、見せてくれるんじゃろ?」
と、楽しそうな嬉璃。
「うーん、誰を呼ぼうかなあ……表向きは『かわうそ?さん主催のパーティー』ってことで招待状出す、でいいんですよね」
と、草間零。
「招待状の文章は考えますのでー」
と、一応ボスのクセに一番腰の低い三下。
「やれやれ……一体何を企んでいるのやら」
ひとり、まだ疑わしそうな瞳でかわうそ?と英治郎を見つめる蓮。
◇
「かわうそ?さん、招待状はつつがなく全員の元に配られたようですよ」
ボス達がさがった後、再び二人きりになると、英治郎が報告する。
|Д゚) 楽しめる 館の準備 準備
「分かってます。大丈夫ですよ、館の準備はいつでも整っています。まさか武彦達も自分達も退屈の餌食になるとは思ってもいないでしょうねえ♪ まあ、蓮さんあたりは流石に手ごわそうですけれど」
|Д゚*) フフ
「じゃ、そろそろ始めましょうかね」
そして、館の中にぞろぞろと人が入り始めた───。
■櫻・紫桜編■
薄暗い館に入ると、バタンと入ってきた扉が閉まった。カチャリと鍵がかかる音がする。
「お約束だな……」
言いかけた紫桜の目の前に、空中にボス達の顔写真のホログラフィが現れ、英治郎の声が響き渡る。
『さて、お察しの通りゴールである出口まで進まなければ、この館からは出られません。どのような能力だとしても、ですよ。そして……ボス達はかわうそ?さんと私こと生野英治郎を抜かし、全員この館の中にいます。というか、捕獲しちゃいました♪ ので、ボスを救いたければまず、この館から出ることです♪ どのボスを選びますか?』
「捕獲って……」
言いかけて、どうもこの声の主には何を言っても無駄なような気がし、紫桜はボスの選択に入った。
「草間武彦さんがいいかな。よくしてもらってるし」
もし一緒に進むのなら、自分よりいいリアクションもしてくれそうだし、とつぶやく。本当にそうだったら、面白かったのだが。
パッとホログラフィが消える。
『因みにお相手となるのは、この私です。サイコロが振れない場合は、まだ私が振っていない、ということですので。では、武彦救出のため頑張ってください、櫻・紫桜さん』
コロンとサイコロが手の中に、意思を持っているかのように入る。
「一度目」
自分で数え、サイコロに神経を集中させる。コロン、と転がった。
途端に辺りが街道になり、横断歩道を見つけて進もうにも進めない。
見ると、全部信号が赤だった───何故か、これも仕様なのだろうが紫桜の気持ちが凹んでくる。
|Д゚) 紫桜 一回休み
そんなかわうそ?の姿が一瞬見えた気がしたが、紫桜はなんとか気を取り直す。
サイコロが振れるその時まで待ち、二度目を振った。
───と。
ぐらぐらと、館が大きく揺れる。地震だ。
「!」
サイコロの上に落ちてくる壷が視界に入ったが、自分の身体を支えるだけで精一杯な状態である。
粉砕されたサイコロを、ため息つきつつ見ているところへ、身体がすすすーっと動いて館の入り口へ戻ってしまう。
「振り出しに戻る、場所だったか」
だが、こんなことでめげる紫桜ではない。
新たにコロン、と手に新しいサイコロが入ってくるのを感じ取ると、三度目を振っていた。
だが、また地震で壷がサイコロの上に落ちて振り出しに(以下略)。
「なんの」
再度、繰り返す。
だが、また同じ目が───。
───こんなことでめげる紫桜ではない……。
『随分と苦戦しているようですね。私も少しペースを落としましょうか』
楽しそうな、どこからかの英治郎の声。
「情けはいりませんよ」
紫桜は言い、五度目を振る。
ゴゥン、と音がして、目の前に地下への階段が現れる。
慎重に降りていくと、どう見ても拷問部屋、という場所に辿り着いた。
|Д゚) ここ調理部屋 ここで調理したものぜんぶ毒入り なにか症状でる
|Д゚)ノ がんば
かわうそ?がそう解説している間に、紫桜の身体は勝手に動き、調理器具と頭で変換せざるを得ない拷問器具を使い、見事にほかほかと湯気が立ち昇るカツ丼を作り上げ、食していた。
「我ながら美味しいな」
どんな症状が出るのか分からないが、これもまた運命だろう。
そう思っているところへ、しゃっくりが出始めた。
どうやら、紫桜の症状は、しゃっくりらしい。
サイコロを振ろうとしても、まだ振れず。英治郎が面白がって、まだ振っていないのに違いない。
紫桜が耐えている間、ようやくサイコロが振れるようになった。
「六度目!」
気合をこめてダイスを振る。
つつ、と足が勝手にどこかへ動いていく。
少し開いた扉の前で、止まる。もしやこの中にボス───武彦の姿があるのではと中を覗いた紫桜は、眉をしかめた。
「生体実験か───しかし、どう見てもあれはにんじんだったけど……」
それを生体実験と頭が認識してしまうのも、この館にいるゆえの仕様なのだろう。
七度目を、振る。
「!」
気配を感じ、咄嗟によけた紫桜の横を、革ジャンの背中側に「ぎゃんぐ」と書かれた、どう見ても人相の悪い野良猫が通り抜けていった。
ふと気づいて、懐を探る。
「スリ、か……」
紫桜、野良猫のギャングに財布を盗まれる。
『頑張ってくださいよ〜、振れる回数は残り少ないですよ♪』
英治郎の声が、聞こえる。
「頑張っていますよ」
丁寧に答えておき、八度目を振る、紫桜。
足が、どこかへ向けて歩き始める。雪が、館の中に降り始めた。
「マッチ……マッチはいりませんか……」
かすれた声で、みすぼらしい格好をした少女が疲れきったように座り込んでいた。
「どうしたんですか?」
紫桜が声をかけると、少女はしくしくと泣き始める。
「マッチが売れなくて……街から追い出されて、こんな館の中に……」
紫桜はちょっと考え、財布とは別にポケットにいくらか入れてあった小銭を確かめ、少女へ差し出した。
「これで、買えるだけマッチをいただけますか?」
「え……はい!」
少女は嬉々として、紫桜にマッチを売った。そして、お礼です、と、一枚のカードを渡してきた。
「これは、『一回パス権』という券です……相手を一回休みにできるんです……」
え、と紫桜がその券を見下ろし、お礼を言おうと顔を上げた時には、既に雪も少女もウソのように掻き消えていた。
「使わせてもらいますよ」
『うーん、やられましたね。私は一回休みです』
英治郎の声と共に、券は効力を発した証に消えてゆく。
紫桜の、九度目。
どこかの部屋に、また歩いていく。今度はどこだろう。
と思っていると、家具が全て揃っていて、これから生活していくのに何の不便もなさそうな部屋に入って、その部屋ごと振り出し───入り口に戻っていく。
|Д゚) さっきの場所 どんなことしても振り出しに戻る場所
かわうそ?の声が聞こえた気がして、紫桜はここまでか、と思う。
『作ったのは私ですけど、実際こうしてみると面白くないですねえ……。じゃ、残り最後の一回ですし、いい目が出たら紫桜さんがボスとした武彦も救出してさしあげましょう』
「ありがとうございます」
紫桜は丁寧に礼を言い、
「決めた道、同じ歩くなら楽しく歩め」
と、おまじないのように祖父からの受け売りである言葉をつぶやきながら、最後のダイスを振った。
部屋が消え、廊下が現れる。
人影を確認し、身構えると、人影がメモとスーツケースを差し出してきた。
「これをメモの場所にいる人物に渡してほしい」
─── 一瞬、ヤクの売人が頭をかすめたが、紫桜はそれを受け取った。
メモを歩きながら───いつの間にか、手が勝手にスーツケースを開いている。
「ど、どうして……俺の意思じゃないのに」
|Д゚) 出た目のせい
そう、かわうそ?の言うとおり、ダイス目によって誘惑に負けさせられ、スーツケースを開けた紫桜は、そこに様々な粉を見つけた。───ホットケーキミックスだったが。
「すみません、草間さん……救出できなかった……」
がっくりと肩を落とす紫桜だったが、
『紫桜さん、最後にその粉で我々におやつを作ってください。そうしたら、特別に出してあげますよ、三度も振り出しに戻ったなんて、可哀想すぎますから』
情けは、と言いかけた紫桜だったが、確かに一生このまま館の中で過ごす気はない。
それに、たまにはおやつというものを人のために作ってもいいだろう。
用意されたように目の前に現れる調理場(今度はまともな)で、彼は見事に、キツネ色のホットケーキを焼き、トッピングにアイスを乗っけた。
途端、パッと目の前が明るくなり、出口が見えた。
「ああ、やっぱり日の光はいいな」
言いつつ、結局武彦はどこにいたんだろう、と思いながらも帰路につく、紫桜だった。
|Д゚) ホットケーキうまー
|Д゚*) 紫桜 おやつ職人にしたい
……かわうそ?の、そんな言葉を、紫桜は知る由もなかった。
《完》
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5453/櫻・紫桜 (さくら・しおう)/男性/15歳/高校生
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)
さて今回ですが、双六ネタ第二弾となりました。わたしのノベルにしては、かなり異色かと思われます(笑)。裏街道、というからにはそれなり(?)のシチュエーションも多々用意してありまして、そこら辺は第一弾のものとはちょっと違うかな、と思います。
■櫻・紫桜様:初のご参加、有り難うございますv 裏街道、ということでシチュエーションはこんなものになりましたが、なかなかいい目のところに出ず、申し訳ない気分になってしまいました;最後のあたり、ホットケーキを紫桜さんが作れたのか、という疑問もあったのですが、なんとなく作れそうだな、と東圭が勝手に思ったので、あんな感じになりました。が、これは違うよ、というところなどありましたら忌憚なく仰ってくださいね;今後の参考にしますのでv 館の謎(ともいえないのですが)は解き明かされませんでしたが、それはまた、次の機会ということでv
「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を追求しまくってしまいましたが、参加者様には本当に感謝しております。有り難うございます。
なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>
それでは☆
2005/8/25 Makito Touko
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