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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


■雪降るような花火の中で■

 人の出会いは、かくも不思議なもの───



「うわあ、さすがにそれなりに名を轟かせるだけの祭りやなあ、屋台の数もすごいし、花火何時からやった? あっ、うちあそこの玉蜀黍買うてくるわ!」
 そう言って浴衣姿でコロコロと下駄の音をさせながら、近所のそこそこ有名な祭りに友達と来ていた一條・美咲(いちじょう・みさき)は着いたとたんに盛り上がり、焼き玉蜀黍の屋台へと人ごみの中を走っていく。
 盆踊りも始まっているのだろう、笛と太鼓の音も聞こえてくる。
「せっかくやし、チョコバナナもりんご飴も買うてくかな」
 わくわくしながらそれらの屋台を制覇し、最後につられて綿飴も買って、ふと気がつくと一緒に来ていた友人の姿が見えない。
「あっあれ……」
 元からお祭り好きの美咲が誘ったのだ。
 その友人ともノリノリで参加したので、放っておけるはずもなく。
 心配になりつつ、大声で祭りの賑わいの中、友人の名を呼びながらたくさんの荷物を持ち、探し始めた。

 ◇

 人間の催し物、というものには本当にたくさんのものがあるのだな、と山崎・健二(やまざき・けんじ)は思う。
 元暗殺者だった彼にとってみれば、こうした一般人はひやひやするほど隙だらけだ。
 よく生きていられる、と感心するくらいである。
 そんな彼が何故こんなところにいるのか───やはり自分が少しは「人とは違う」のではないか、ということから、一般社会に慣れるための勉強、という名目でこのお祭りとやらに参加をしている。
 だが、屋台というものがよく分からず、つい陰に隠れて、いわばマンウォッチング的な感じになってしまっていた。
 盆踊りの曲が聞こえてくるが、それすら健二にとっては、
「ヘンな音楽だ」
 としか感じられない。



「───不審人物発見や」
 ぽそっと美咲が思わずそうつぶやいたのも、無理はなかろう。
 射的の屋台の陰にひっそりと、半身を隠すようにして、高校生くらいだろうか、もっと年上にも見えるが───大の男が人々を眺めている。
「誰かと待ち合わせしてるわけでもなさそやなあ……」
 気になることは、放っておけない美咲である。
 つい近寄っていったところへ、ドン、と人ごみに押されてその不審人物の胸に転がり込む形になってしまった。



 ああ、何か浴衣姿の女の子が人ごみに押しつぶされそうだな、と見ていたら、その女の子が突然自分の胸に押されて飛び込んできたので、健二はつい硬直してしまった。
「あいたたぁ……」
 女の子が、額を押さえて自分を見上げてくる。
 こういう場合は───そうだ、こういうべきだ。
「大丈夫デスカ?」
「───なんや、あんたカタコトやで」
 思いっきり美咲が眉にしわを寄せる。
 健二はちょっと考え、「大丈夫か?」と自分流に言い直してみた。
「まあな、ぶつかったのが木やなくてよかった。ま、そちらさんもここに突っ立ってばかりやから木みたいやけど」
 美咲は、ちらりともう一度、健二を見上げる。木だとしたら、ものすごくキレイな木やろなあ、と思う。
 その木ならぬ男は、困ったような顔つきで見下ろしている。
「なあ、せっかくのお祭りやし、突っ立ったまんまじゃつまらんよ? そや、うちがエスコートしたる」
「エスコート……?」
 えっと思った時には、もう美咲に手を取られて引っ張られていた。
「どこに……?」
「そや、こういうのとか食べながらあるこ!」
 持っていた───既に彼女の頭からは友人のことなど消え去っていた───焼き玉蜀黍やチョコバナナ等を一個ずつ、健二に渡す。
 不審そうにチョコバナナのにおいをかぐ、健二。
「犬かい」
 つい突っ込んでしまう、美咲。
 そしてふと、そういえば名乗っていないな、と思った。
「うち、一條美咲。そちらさんは?」
「ああ、俺は……山崎健二」
 それから健二は初めてチョコバナナやりんご飴というものを食べ、歩いているうちにふと、足を止めた。
「色のついたひよこがいる」
「ああ、あれはなあ」
 着色してあるんやで、という声が聞こえたかどうか。
 健二はじーっとそのひよこたちの前で、子供達と一緒になって見つめている。
 ……欲しいのだろうか。
 もしかしたらこの男、お祭りというものが初めてなのではと気づき始めていた美咲だが、心なしか目を輝かせている健二を見ていると、しゃあないなあ、とどこか胸がくすぐったい気分になる。
「このひよこは年をとらないそうだ」
「そんなわけあるかいっ! おっちゃん、そんなウソついたからにはマケてもらうで〜」
 ひよこ売りのおっちゃんはたじたじとなりつつも、
「そんなおねーちゃんにはこれ! 色のついたひよこが生まれるというひよこ孵化機! ここに卵があるだろう? これを孵化機に入れて何日か経てば色の着いたさまざまなひよこが───」
「俺はそれがほしい」
「健二さんも簡単に騙されるなっ! ほんっとにもう……おっちゃん、心清らかな人間や子供らを騙してあこぎな商売、許されると思ってるんかい」
 美咲の啖呵に、ざわざわと人が集まり始める。おっちゃんはついに敗北(?)し、「ひよこならちゃんと丈夫なの他で売ってるし、こないなとこで買ったら人ごみでつぶされてまうで」という美咲の説得により、ようやく健二はそこを離れたのだった。

 ───健二には、そんなことを言ったクセに。
「あっ健二さん! これ見て! スーパーボールの流し取りやて! うち、これやる!」
 と、スーパーボールとはなんだろうと小首を傾げる健二の脇でしこたまスーパーボールを取ったり、
「たこ焼き美味しいなあ」
 と、たこ焼きに舌鼓を打ってみたりと、つまりはやはりというか、美咲のほうがお祭りにノリまくってしまったのである。
 健二も当然のように、それを止めはせず───というよりも、むしろ巻き込まれていた───。
「あっちの射的で健二、スゴイ点取ったやろ? 輪投げならうちだって負けへんで!」
「輪は投げられないだろう、あれは紙に書くものだ」
「そうやなくてやなあ、……百聞は一見にしかずや!」
 生まれて初めて見る輪投げ。
 射的では危うく本能的に人を狙いそうになったところを、「そーゆーお約束はナシやで〜さてはヘタなんか?」と美咲に頭にチョップを入れられつつ突っ込まれ、結果標的(景品)を全てゲットしてしまったのだが。
「次は盆踊りや!」
「おい、……あんた、待て、浴衣がはだけてみっともない」
「暑いからちょうどええわ」
 あはは、と美咲は笑う。
「ええか? みんなの踊るとおりに踊って唄えば問題なしやからな」
 うちが前で踊るから、と、健二に耳打ちし、それっと二人して乱入する。
 射的でのたくさんの景品やスーパーボールの山の袋を持ちつつの盆踊りは少々きつかったが、楽しければそれでいい。
 お祭りとは、そういうものなのだから。
 気づくと、観客が笑い始めている。
 なんだろうと振り返ると、そこには、ひょっとこの係りの者の通りにひょっとこの表情の真似をして、盆踊りの唄を唄いつつ見事に踊りをマスターしている健二の姿があった。
 ひょっとこの顔まで真似せんと、と言いかけた美咲だったが、あまりに真面目な健二のその姿に、ついに自分も笑い出してしまったのだった。


 

「けど、ほんまにええ声やったで、健二さんは」
 踊りもうまいしな、とまだ笑い涙を袖で拭いつつの美咲。
「何がそんなに面白かったんだ?」
 と、真面目に問いかけてくる、ある意味純粋な瞳の健二が、また可笑しくて。
 美咲の笑いをとめたのは、パァン、という音だった。
 ハッと身構える健二の腕を引っ張り、
「こっちやこっち!」
 と、急いで走っていく美咲。
 川原に人が集まり、そこでは。
 空に、花火が上がっていた。
「たーまやー!」
 美咲が叫ぶ。
 たまというより、どちらかといえば花ではないか、いや雪か、と思う健二だったが、同じように叫んでみる。
 するとあちこちから、「かーぎやー」だの「きのくにやー」だのはじけた笑い声と共に人々があとを続いた。
「きのくにやはまた違うのになあ」
 美咲が、せっかく直した浴衣がまた着崩れしてきているのも放って、笑い転げている。
 健二はなんとなくそれをまた直してやりながら、「キレイなものだな」と、言った。
「せやなあ、また機会があったら、今度は花火、あげさせてもらおか!」
「興味深いな」
 たまにはこんな日も、あってもいいのだろう。
 誰にか分からず、まるで雪が降るような花火の中、健二はそう思う。
 そしてふと、美咲が隣で言ったのだった。
「なんか忘れてる気がするけど……ま、いっか」
 ───哀れ、はぐれた友人は今いずこへ。




《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、ご発注有り難うございますv 今回「雪降るような花火の中で」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。タイトルはロマンチックなのに中身は……という代物ですが(爆)。
なんとなく、ハジけ足りなかった感じもしますが、ひよこの場面はどうしても浮かんでしまってやってみたかったというのもあり。また、ひょっとこの顔をした健二さん、というのが妙に東圭のツボにハマッてしまい、美青年にこんなことを、と思いながらもさせてしまいました、すみません;; キャラが壊れても構わない、ということだったのですが少々図に乗りすぎているようでしたら、本当に申し訳ない限りです;
美咲さんの着崩れた浴衣は、あれだけはしゃげば絶対に着崩れるだろうな、そして健二さんの性格ならば何気なく直していそうだな、ということであんな感じになりました。

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで、書かせて頂きました。本当に有難うございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/08/24 Makito Touko