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文月堂奇譚 〜古書探し〜
結城二三矢編
●約束
それは彼女にとって唐突に現れた。
「……水…泳?」
「はい、前に約束をした事を果たそうと思って」
古書店、文月堂の店内、外よりはやや涼しいその中で細身の華奢な雰囲気のある少年、結城二三矢(ゆうき・ふみや)は銀髪の少女、佐伯紗霧(さえき・さぎり)を泳ぎに誘っていた。
「確かに約束はしたけど……」
そう言ってどこか所在無さげに視線を迷わせる紗霧を見て二三矢は勇気づける様に声をかける。
「大丈夫ですよ。俺がちゃんと泳げるように教えてあげるから」
「でも……」
それでも迷っている紗霧のところへ店の奥から黒髪の女性、佐伯隆美(さえき・たかみ)が顔を見せる。
「お姉ちゃん二三矢君が泳ぎに行こうって誘ってくれたんだけど…」
どこか助けを求めるかのように、隆美に事情を説明する紗霧に隆美が笑って答える。
「あら、丁度良いじゃない、紗霧は全然泳げないんだから、良い機会だから教えてもらってきなさいよ」
隆美はあっさりと紗霧のその希望を打ち砕き、翌日二三矢に近くの室内プールに一緒に泳ぎの練習に行く事となったのだった。
「その子、本当に泳ぐの駄目だからよろしくね、二三矢君」
「任せてください、隆美さん」
二三矢はその言葉を後に後悔する事を未だ知らなかった。
●プールにて
文月堂から程近いところにある市営の室内プール。
二三矢と紗霧の二人はそこに来ていた、二人とも神聖都学園の指定の水着を着用していた。
「それじゃまずは今日の目標を決めようか」
二三矢はそう言って小さく息を吸う。
紗霧はまるで刑罰を待つ囚人のような真剣な表情で二三矢の言葉を待つ
「うーん…そうだなぁ、今日の目標はがんばれクロールで25メートルって事で、頑張ろう」
「25メートル…」
呆然とした表情と声でそれを繰り返した紗霧であった
……
………
…………
そしてまずは水に慣れるという事で、まずは手をついてのバタ足の練習から始まった。
「はい、いちに、いちに」
二三矢の言葉に合わせて紗霧は一生懸命バタ足をする。
しかしものの数分もすると疲れて足が動かなくなる。
さすがに二三矢はこれには困り果てる。
「……体力が無いとは思っていたけど、これほどとは思わなかったな…」
元々紗霧が体力が無いというのもあったが、慣れない水の中という事もあり余計にそれを助長することまでは二三矢は考えていなかった。
「ああ、だからもっと肩の力を抜いて……」
まるで子供に泳ぎを教えるかのように紗霧に泳ぎを教える二三矢であった。
……
………
…………
しばらくそういう状態のまま紗霧の練習に付き合っていた二三矢であったが疲れたようにため息をつく。
「はぁ、まさかここまでとは…」
二三矢のため息が表すように紗霧の練習は一向に進まず、ようやく体を浮かせるようになったかならないか程度であった。
「はぁはぁ、もう疲れました…」
紗霧は疲労一杯という様子で二三矢に話す。
「うーん、確かにこれ以上やっても成果は上がらないかもしれないな、仕方ない。今日はこの辺にしておこうか」
「はいっ」
プールの中で嬉しそうに紗霧は答える。
「無理して体を痛めても仕方ないしね…」
そう言って紗霧がプールから出て来るのを手を差し出して手助けしようとする二三矢であったが、そこで紗霧がバランスを崩すことになるとは思わなかった。
手を掴んだところで紗霧とともにプールへ落下する二三矢。
そして、そのショックでプールの中へ沈んで行く紗霧を二三矢はあわてて抱えて水から上がる。
水から上がった二三矢は紗霧が目を開けないことに心配する。
「どうしよう?どこか打ったのかな?まさかこのまま目を覚まさなかったら……」
半ば気が動転しつつおろおろしていた二三矢であったが、ふとある事を思いつく。
「こ、こういう時って人工呼吸だよな……」
大きく息を吸って落ち着こうとする二三矢。
「落ち着け、別にキスをしようとかって訳じゃあないんだ、するのはただの人工呼吸…」
そうして息を整えると横になっている紗霧の脇に座る二三矢。
そして大きく深呼吸すると、ゆっくりと顔を近づけたその時であった。
「う……う……ん」
小さく声を漏らすと、ゆっくりと瞳を開けた紗霧とものすごく接近した位置で目が合ってしまう。
一瞬、二三矢は時間が止まったような気がした。
そしてその数瞬後にはなにやら言い訳めいた事を言いつつ、慌てて紗霧から離れる二三矢の姿があった。
「あ、こ、これは別にキスをしようとかそういうつもりではなくて、ただ人工呼吸をしてあげようとかそういうわけであって…」
そうぼそぼそと言い訳を並べる二三矢を紗霧はまだぼんやりしたような視線を中にさ迷わせながらみながら、二三矢の言葉をぼんやり聞いていたのであった。
●エピローグ
そんなこんなで一日はあっという間に過ぎ、二人は帰りの休憩のための喫茶店に来ていた。
先ほどの騒動は紗霧自身、頭がはっきりしていなかった為、良く覚えていなかったらしく、二三矢は胸をなでおろしていた。
「はぁ、今日は疲れちゃった…」
「ま、目標は達成できなかったけど、こつこつやっていけばいつかは泳げるようにきっとなるから、ね」
「うん…ありがと」
二三矢はそう言って紗霧の事を元気づけ、紗霧はそれに笑顔で答えた。
★☆★☆
本日の目標
クロールで25m泳げるようになる
★☆★☆
本日の結果
体を浮かせられるようになった
★☆★☆
……まだまだ先は長いようだ。
Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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≪PC≫
■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高校部学生
≪NPC≫
■ 佐伯・隆美
職業:女子大学生兼古本屋
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋
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■ ライター通信 ■
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どうもこんにちは、ライターの藤杜錬です。
この度は『文月堂奇譚 〜古書探し〜』にご参加頂き、ありがとうございます。
全然本とは関係ない内容でしたが、これはこれで良いかな?と思いました。
夏らしくて、涼しい気持ちに書いてる間は浸れましたし。
楽しんでいただければ幸いです。
ご参加ありがとうございました
2005.08.29.
Written by Ren Fujimori
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