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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


碇麗香と桂の高峰沙耶への取材


 高峰沙耶は、何時ものように微笑んでいた。
「取材を、始めさせてもらってよろしいでしょうか」
 黒猫のゼーエンは、麗香の言葉にうなずくような瞳をする。
 テープレコーダーのスイッチを入れて、円卓の中心に置いた。
「それでは、今日のテーマですが」
 麗香、
「三年前から、何故この世界はこんなにも、殺しあって」
「一回目は、変革という意味だった」
 研究所の主、
「一回目の変革は、過去への思いにより始まったわ」
 ……遠まわしな言葉の意味を、整理するくらいには、麗香は高峰沙耶の、つかみ所の無い人間性には触れていて、
「帰昔線。過去に戻りたい人間の願い」
「因果律と時空が歪になり、幾つもの異なる事がが生まれるように。一つの実像が、幾つもの願いで、数多の虚像を――いいえ、それは虚偽ではない、それぞれが真実」
 ある所では、探偵は、哀愁を漂わせて、涙のかわりに紫煙を漂わせて、
 だけどある所では、馬鹿で情けない男で、
「パラレルワールド、ですか?」
「その方が通りはいいわね。……そう、何度もあった世界の歪み、百年か二百年すれば、元に戻る歪みが生んだ現象。些細な事、世界は滅ばないのだから……」
 麗香と高峰の会話、隣で黙って聞いているのは、桂と、……一人か、二人か、三人か、
 彼等の声はまだ、テープレコーダーに記録されない。
 今保存されているのは二人の女性。
「二回目の変革は、異界というパラレルワールドの如実な形が、幾つも出来た、……そうだと思うかしら?」
「……え」
 麗香は、そもそも異界というパラレルワールドを、概念としては解っても、実際として知れるはずがない。《異界の麗香にとっては。》……自分が、その一人だという事は、目の前の彼女ですらそうである事は、……銀色の髪の少女のレポートで聞かされても、完全に自覚していない。だからどうしても、戸惑いの言葉が漏れる。
 黒いドレスの美女は、構わずに、続ける。
「二回目の革命は、始まっていると思う? ……そもそも、三年後というこの世界は、変革なのかしら、異界という現象、パラレルワールド、……二度目の変革と変わらない」
「……どういう事ですか」
「二度目の変革は、変化は、未だ無い。もし、この異界の主が無謀にも、数多ある中で、それを果たそうとしたのなら」
 この異界の出来事を、世界の出来事にしてしまおうとするのなら――
「……殺しあって、世界を終わらせようとしてるとでも、そういうのですか」
「……それは」
 ついでかもしれないわね、と高峰は語って。
 黒猫のゼーエンの瞳が、側に居る麗香でなく、正面をみつめた。
「二回目のREVOLUTIONは、」
 英語、
「回帰という意味で」そう、
「新たに生まれ変わるよりも、戻りたいのかしら?」
 尋ねる相手、

 巫浄霧絵が居る。
 桂、一人、二人、三人、その他の誰かが集う円卓。


◇◆◇

 月刊アトラス インタビュー記事その一
 この世界について

◇◆◇


 まるで初めから居なかったように。
 ……コップに並々と注がれた透明の水に、垂らされた一滴のミルクのように。それくらい、存在感という力が薄くなっていた所為か、
 彼女の良く通る声は、唐突、だけど人を傷つけない穏やかな雷のように響いた。
「瓦礫」
 三文字の声は、碇麗香の不浄霧絵への注目を、容易く零にする。
「瓦礫で塞がっているみたいに、失くしたんじゃなくて、気付けないだけの記憶もあるかもしれないわ」
 それは知っている声、三年前から変らない声、今も時折、あの興信所に用がある時、電話口から聞こえる声、
 知っている声、
「けれど、やっぱり、色々零れ落ちていってる、最近、早いの」
 女性の声、
「急いでるみたい」
 シュライン・エマの声。
 ……彼女、草間興信所の古株、現在は寝泊り、かつての主の義妹を補助する台所役、
 虚無へと惹かれていく人間。
 ――三年前、大切な人との子を、産めなくて
 それを切欠という《鍵》にして、自分の《扉》に穴をあけて――
 零れ落ちて行ってる。自覚が出来てるのか、出来てないのか、その判断もつかないくらいに、あやふやに揺れながら。だから今の彼女の笑顔は、かつての頃のようじゃなくて、麗香、
「……急いでるとは」
 インタビューの相手を変えて、「何が、ですか?」敬語で、
 シュライン・エマは一言、世界がと答える。だって最近はとてもよく、声が聞こえるようになったから。声、って、
「確か、赤ん坊の声だったね」
 続けたのは若い青年の声だった。
「三年以内に生まれて死んだ、命の声」その知識は何時何処で得たのかは、聞いているから。(自分の隣に居る男に)
 シュライン・エマの奇行。……碇麗香ならばこう単純にタイトルにする、“死体となった母と子を探る謎の女”、と。鍵が、扉が、と呟いて。時に孕んだ母の腹を撫でて。シュラインにとってその奇行は、日常。興信所の訪問者にも時々不思議に思われて、
 彼女には、声が聞こえるのだ、赤ん坊の声が。死んでしまった子供の声が。
 同じように、三年以内の子供を、失くした所為か。聞こえる、と、青年は、
 瀬戸口春香は、隣の男に聞いた知識を、代弁者のように語る。
「つまり、声がよく聞こえるようになったのは、死んだ命が増えていっている、単純に言えば殺しあいが酷くなっているって事さ」
 そう麗香に説明してから、春香、
 視線を不浄霧絵へ傾けて。ひたすら沈黙を貫く彼女に、「聞きたい事は、山程ある」
 その為に春香はここに来た。自分の知識を蓄える為に。彼女の脳内にある情報という情報を、根こそぎ、自分に加える為に、だけど、
「先に、」
 春香、
「彼女が、聞きたい事があるようだね」
 そう、隣の男へ、呟く。男は、黙っている。不浄霧絵のように。
 シュラインは彼を知っている、けれど、
「探偵さん」
 シュラインは、彼を知らない。記憶が混乱してるのか、それとも、彼が変りすぎてしまってうまく認められないのか、それとも、
 瓦礫で塞がっているだけなのか、シュライン、
「子供の声は聞こえるの」
 手には、リストを持っていた。
 二年半前、高峰に渡した、あの人が出て行った(異界が始まった)あとに出産をした母子の生存情報。私に何かあったら、誰かに渡して欲しいといって、それは、
 この席に座る前、自分に、返された。いや、渡された。
 虚無へと近づいていっている自分に。けして、忘れない道具のように。それを眺めながら、もう、半分以上が死んでしまった母子の名前を眺めながら、尋ねる。
「三年以内に生まれて、死んでいった子供達の声は聞こえる」
 それはこの異界の命。それはそこらかしらに、まるで、彷徨っているように。けど、なら、どうして、
「それじゃ、母親の声が聞こえないのは何故?」
 瀬戸口春香の隣に居る男に、視線を向けた、知らない男に、視線を向けた、
 本当は知っている、けど、
「探偵さん」
 今は、解らない。

「三年前からある命は、何処へ行ったのかしら?」
 そう、ディテクターに尋ねた。
 かつて草間武彦と呼ばれた男に。

 ……シュラインの記憶には、草間武彦の記憶はあるけれど、けど、それとディテクターを別人としているのは、何故だろうか?
 記憶が、混乱しているのか。ただ瓦礫で見えないだけなのか。
「……シュライン・エマ」
 前に一度出会った時も、彼女は自分を覚えてなくて。
 寂しいと思った。彼女と、自分を知っている彼女と話をしたいと思った、けれど、けど、過去に人は戻れない。過去はいくら望んでも、願っても、変えれない、帰られない、だからそんなものに囚われ続ける事が、愚かだという事を。だけど、
 いくらも望んで、いくらも願って、その結果、
 もし、過去に戻れるのだとしたら?
 ――あの時のように
 だとしたら、人は、
 俺は、

「過去へ向かう」

 春香の隣には、ディテクターが居る。ディテクターの隣には桂、その隣に、
 巫浄霧絵が居た。
 かつてとはひどく、違う姿で。


◇◆◇


「この世界についての結論はもう、出ているかもしれない」
 テープレコーダーに再び、春香の声が記録され始めた。「けれどそれとは別に、俺は不浄霧絵に聞きたい事があるよ、多分まともに話を聞ける機会は、二度とないだろうからね」
 進行役であった碇麗香は、第三者に回る。高峰沙耶も沿うように沈黙する、微笑みながら、楽しむように。
 世界の成り行きを。
「全ては次の存在に生まれ変わる、と貴方は言った」
 それは、西欧の一国、夥しい霊団を率いた霧絵と通りすがる時に尋ねた、“草間武彦を愛してるか”から引き出した言葉。「それはさっき、高峰沙耶が言った、二番目の変革と関係があるのか」
「……」
 麗香や高峰が、聞くために沈黙を保つのであれば、今、霧絵が黙っているのは? 質問の拒否か、それとも、
「……殺しあうこの世界は、異界だという、異界は誰かの思いで作られる。ならば、貴方はその主か? それとも誰かに利用されているのか」
 それとも、
 性質、
 あまり喋らない、だけ、
「青の子という存在について、貴方は知っているはずだね。……あれは、なんだい?」
 春香が通りすがった時、漏れた言葉も、
 たった一言だけ、
「……この異界は」隣の男を見る、「ディテクターを殺す為に動いている、その俺の仮定を、どう思うかな」
 巫浄霧絵という女は、
「かつて草間武彦という名の時、ただの人間でありながら、異能達に囲まれ、渡り合い、怪奇の渦に塗れながら生きた。そして三年後のこの世界でも、生きているディテクター。だから、なのかな? 世界を殺しあう世界に変えてまで」
 ひたすら、
「ディテクターは殺されなければいけない存在なのか」
 喋らない。巫浄霧絵は、
 語らない――
「ダッテ、シャベル彼女ハ驚ク程存在シナイカラ」

 青い光が見えた。
 青の子が、霧絵の頭上に居る。

 突然の怪奇に咄嗟、桂や麗香は身構えたけど、他の面子は落ち着いている。慣れているからか、……シュライン・エマはただ、「綺麗」と言って、随分抜け殻になってしまっただけと見受けられるけど。
 青の子、青白く発光する、宇宙人と人間の合いの子のような容姿。とても、
「キミニハトテモ感謝シテルンダ、瀬戸口春香! キミノ知識ヲ求メル行為ガ、コノ席ヲウンダンダモノ! ソウ、世界ハ願イニ応エル」
「……良く、喋るね」
「ソウ、ソノ通リ! 僕ハ何度モ姿ヲミセタ、ダケド、タダシャベッテタダケダッタ! ソレガ」
「それが」
「二番目ト三番目ノ質問ノ答エ」
 ――瀬戸口春香は五つの質問をした
 答え、

「キミは、喋らない巫浄霧絵の代弁者。巫浄霧絵の思いが生んだ、生き物」
「ソシテコノ異界ノ核霊」

「……思いが、異界を作る」ディテクターが呟く。
 ――麗香には部下が居た、部下は、思った。カッコよくなりたいと。
 それがカッコイイ三下を、スーパー三下を作る異界を作り出し、あの生き物を誕生した。それと一緒で、青の子は作られた。
「そうなの」
 シュライン、
「貴方は、不浄さんの願いで作られたという意味では、利用される者の方かしら」
「者、トイウヨリ、道具ダネ、僕ハ」
 その事を対して気にしないよう語る、作られた存在。「世界カラ、沢山ノ異界ガ生マレタ。ケレド巫浄霧絵ハトテモ少ナイ、マルデ影ノヨウニ」
 だから彼女はあやふやだ、面接みたいに言うなら、個性が足りなくて、だから、
「人ハソウイウ時、仮面、着グルミヲ使ウ。……キミ達ノ知ラナイ事ヲ喋ロウカ」
 殺しあう異界が始まってから暫くした時、あろう事か、この異界に異界を着せる能力を持つ男が現れた。
 その着せた異界はバラエテ異界といって、殺しあう異界をごまかす為の異界だった。
 殺伐とした異界を一時的に終わらせた、ふざけておどけた異界……、
「……大阪ね」
 三年前のシュラインは、何度か触れた――
「ソレクライ、着グルミノ力ハ強力ッテコトダヨ、ヨボヨボノジイサンダッテ、着グルミヲ着レバ、演ジラレル、ヒーローヲ」
 今その男の霊は、他の霊と混じって、青の子の中に眠っていて、
「アノ男ノセイデ計画ハ遅レタ、ケド」
「けれど」
 、
 巫浄霧絵が、喋る。「けれど、それは好転したわ」
「アノ男ノ能力、」青の子、「異界を他の異界に着せる能力」霧絵、
「男ノ霊ハ僕ノ中ニ眠ッテイル」二つの声、
「異界を」だんだん、「世界ニ」
「着」「セ」「れ」「バ」
 重なって――

「全ての世界が、私の望んだ世界の異界に生まれ変わるかもしれない」
 青の子が、巫浄霧絵の中に消える。
 この異界の彼女が誕生する。


◇◆◇

 そして、ディテクターに、
 お久しぶりですと言った。
 草間武彦に語るように。
 シュラインは、
 、
 彼女が昔、草間武彦が不幸にした女と感じたシュラインは。

◇◆◇


「……世界中を、殺しあう異界にするつもりなのか?」
「ごめんなさい、話しかけておいてなんだけど」
 先に彼の質問に答えなければいけませんから、と、
「それじゃ、四番目の質問からでいいかしら」
 無表情だけど、多弁になった巫浄霧絵――「ディテクターを殺す為の異界という、あなたの仮定は」多弁に、よく喋る人に、
「もう、解るよ」
 この異界の霧絵に、春香、
「合っているんだろう」「ええ」
 、
「半分は」
「……残りの半分は、なんだろうね」
「手段」
「虚無の境界は、全ての滅びを望む集団だね」
 だから春香は疑問を覚える。
「殺しあう事って、無くなる事が、虚無となる事が目的じゃないのかな」
「春香さんの一つ目の質問の」
 シュラインが、途中で声を出して、
 思慮深い彼女もだんだん解ってきて、
「答えがそれになるんじゃないかしら」
「……そう」
 霧絵は、静かに。シュラインをみつめて。そして、
 ディテクターを見て、
 かつて恋人だった二人を見て、
「……全ては次のステージに生まれ変わる」
 虚無の境界には信仰がある――

 人は一度滅び、新たなる霊的進化形態を目指さなければならない。
 全人類が死に絶えた時、人類の霊的パワーが全て霊界に集められる。
 その時に起こる霊的ビッグバンによって、新たに完全な人間が転生する。
 その時こそ、人は真の安楽の世界を得られる。

「妄想だね」
「そうね、元々はカルト集団、世界の終りを自分の手で起こすという、妄想から始まった」
 けど、だけど、
 月に行く事を夢みなければ、人は、月へ行けただろうか? だから、
「虚無の境界は力を持った」
 人の破滅の願いの結晶、創られた神虚無に触れられる、彼女を首領にして。けれど、それは滑稽、歪、……ふざけた、
「笑えないね」
 春香、
「虚無を望むものが、安楽の世界を願うなんてさ」
「でなければ、天国も地獄も生まれてないわ」
 ……けど、それは、世界の、虚無の境界の話だ。この異界の、貴方は、異なる巫浄霧絵は、
「五つ目の、最後の質問だ」
 何故、ディテクターは、
「殺されなければならないのか――」
 春香は自分で答えを出す。
「貴方は、ディテクターを殺したいだけなんだ」

 だから三年後のこの異界を創った。
 三年前、けして死ねない草間武彦を、
 死ぬ可能性があるディテクターに変える為。

「草間武彦だけじゃなかった、死ねない人間は」
 いくら願っても、いくら願っても、死ぬ事が出来ない人間は、三年前ごまんと溢れていた。まるでそれは契約のように。
「だから、その願いも利用して、死ぬ事が出来るこの世界は創られた」
 そして、出来上がった、
 誰もが死ぬ可能性がある世界、不老不死である貴方ですら、終わる事が出来るかもしれない世界、
 全人類の淘汰の実現、
 そうして、安寧の世界を――
「けれど、高峰さんは」
 シュライン、
「貴方に、戻りたいのかしら? って言った」
 彼女は、
「霧絵さん」
 微笑んで――

「帰昔線は、もう無くなってしまったわ」
「だから、自力で戻るの」
 霧絵は一つも笑わなくて。

 それから沈黙が起こった。
 一分も過ぎようかという、長い刻。
 一つの声も拾わないテープレコーダー、
 再起動役、麗香、
「巫浄霧絵さん、草間……ディテクターさん、瀬戸口春香さん、シュライン・エマさん」
 お願いします。
「結論を」


◇◆◇

「三年後の、この異界の人達は何を思うかしら、探偵さん」
 殺しあう世界、酷い世界、助けて、死にたくない、生きたい、嗚呼、
「戻りたいと思うだろうな」
 それが聞こえなくなった声、……過去を求める声、
「帰昔線は、過去を思う人間達の願いで生まれたのさ」
 戻りたい、あの頃へ、
 死ぬ事もないあの頃へ――
「そして私は、その魂を利用する」
 創世世界、
 過去に戻りたい者達の、ビッグバン、

「あの頃に戻って、娘と暮らしたいから」

 霧絵は、微かに笑う。

◇◆◇


「家は、田舎がいいかしら、のんびりとした所」
 彼女、
「働いて、あの子をちゃんと学校に通わせて」
 巫浄霧絵、
「ケーキ、作るわ」
 虚無の境界の首領、
「甘いケーキ、女の子ですもの、喜んでくれる」
 殺しあう異界を創ったのは、
「きっと、私も、あの子も、」
 
「今みたいに、人を殺して生きる事よりも、幸せになれる」
 娘とは、誰の事、
 ディテクターの記憶にあるのは――

 それだけの為に、
 自分の為に、
 娘の為に、
 過去に戻りたいと思うのは、愚かだ、そんな事は不可能だから。けれど、実際それが可能だとしたら、
 たとえそれが人類の犠牲という、過程であろうと、
 誰が間違いと叫べる。ただ、
「迷惑だね」
 それは、自由である人が、
 ただ一つ許せない事、
「一人でやってくれるならいい、けれど、貴方は全ての他人に迷惑をかけた」
「戻りたいという願いを叶えたとしてもかしら」
「……知らないのかな」
 貴方は、こんな世界でも、こんな、ふざけた世界でも、
「生きようとしている者が居る」
 迷惑だ。
「俺に」
 まだ、知り足りない世界――
 六つ目の質問をしよう、
「ディテクターを殺せば、殺しあいは止まるんだね」
 彼を殺す為に殺しあいがあるのであれば。けど、
「その為に、青の子は、スーパー三下をこの世界に呼んだわ」
 レイニーの首を渡して、無敵にして、殺しあう法則に関係なく蛮勇を奮う男を。どちらにしろ人類を淘汰して、ビッグバンを起こす為。
 保険。
「……といっても、最近のあの子は、」青の子が自分に戻るまで見た限りでは、「誰の所為か知らないけど、迷っているみたいだわ」
 けれど、問題は無い。
 もう人類の半分以上が死滅して――だから、
「殺しあう異界が、ただの異界になっても問題はないわ」
 この会話に一切の暴力行為は禁止されていて――だから、

 脅しだ。
「私が殺せばいい」
 部屋の中を埋める、八百万の霊の団。

 麗香が思わず、絶句するような。中で、
「そろそろ帰らせてもらうわ、余興として、楽しかった」
 その霊を引き連れながら、巫浄霧絵は立ち上がる。その動作に合わせてか、すうっと霊達は消えていく。現れたのが突然なれど、去るのは、ゆっくりと。
 霧絵、
「あなたに出会えたし」
 ディテクターをみつめて。
 ディテクターはうつむいた侭で。
 ……彼女はかつて、草間武彦が不幸にした女で、
 どういう経緯でここに立っているかも、実は不明で、もしかして一度亡くなってしまった人かもしれなく、けれど、帰昔線であの時願ったから甦ったかもしれなく、
 ねぇ、
「前進の為に過去へ」
 シュライン・エマ、
「後退の為の変革」
 草間武彦の大切な人、
「螺旋と円」
 霧絵に、聞くんだ。「霧絵さん、」
 ――、
「武彦さんを、愛していたの?」
 かつて、春香が聞いた事を、
 からっぽに近い微笑みで、そう聞くんだ。
 昔、彼は彼女に頼られていて、けれど幼さゆえに、不幸にして、
 頼っていた人、頼っていた、
 ねぇ――

 この異界の巫浄霧絵は、
「次の世界で、また、隣に居てくれるなら」
 けれどあなたに悪いかしら、と笑って。

 ディテクターを殺すのは、全人類の淘汰という目的と、そして。


◇◆◇


 テープレコーダーは一旦、止められる。
 ……次の取材の為に止められる。一度この内容を、その取材相手に聞かせる為にも。
 けれど、本当は、
 このやりとりを記録するのは、憚れるやうな気がして。
「草間」
 そして、彼女、
「探偵さん」
 麗香の呟きも、意味も無い。
 シュライン・エマは、草間武彦がディテクターである事が解らなくて、それは記憶として失ったのか、別の存在と感じているのか、瓦礫のようなもので見えないだけなのか、
 どうなんだろう。
「探偵さん、推理だけじゃなくて」
 シュライン・エマ、
 聞きたい事があるから、椅子に、まだ座っていて、インタビュー、
 記事にならない、
「貴方の、進みたい先は」
「……」
 寂しい。
 戻りたい。
 あの頃に。
 過去に。
 あの場所に。
 義妹の隣に。
 彼女の隣に。
 草間武彦は、

「草間零に依頼してくれ」
 その名を捨てている。
「俺を殺せ、と」

「探偵、さん?」
 不思議そうに返す彼女を、もう自分を、過去の自分と同じと気付かなく、なってくれた彼女を、もう見る事はない。席を立ち上がり、背中を見せて、
「俺が、死ねなかったのは、生きたかったからだ、生きたくて、しょうがなかったからだ」
 語る、推理じゃない言葉、
「……彼女に、巫浄霧絵に出会う為、そして」
 死にたくなかったから。死ぬのが怖かったから。
「寂しかったからな」
 きっとどこかで、あの頃にって、
 幸せに戻りたくて、
 捨てた物をもう一度拾いたくて、
 カッコつけたのもそれを隠す為で、だから、
 最後までカッコつければいい、俺は、死ねないんじゃなくて、死にたくないだけで、死ぬのが怖くて、生きてしまって。
 だから、この世界で懸命に生きている、
「お前と、義妹の為に死ねるのなら」
 そうカッコつけて、死のうと思った。義妹に殺されるなら、きっと、
 寂しくないと、思えるから。


◇◆◇

 本当は、寂しいんでしょ。
 自分勝手な男の背中を、シュライン・エマは、ただ、そう思って、見送って。
 草間武彦だと知れたなら、殴りでもしただろうか。
 キスの一つで、繋ぎとめようとでもしただろうか。ああ、
 子供に戻れるならば。

◇◆◇


 そして、瀬戸口春香は高峰沙耶と会話する。
「タイムマシーンが生まれたのは、未来よりきっと、過去を望んだから」
「それは人の原始的な願いだね」
「人じゃない貴方が望むのは、過去、未来?」
「今は」
 少なくとも、今は、
「今を望む」
 まだ知りたい事があるはずだからと、それに、
「過去に戻らなくても、一度、会えたからね」
 弟の名前が、少しだけ、彼の中で響いた。
 そして、二人の会話は終り、
 月間アトラスの最初の取材は、終了した。





◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ◆◇
 0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
 3968/瀬戸口春香/男/19/小説家兼能力者専門暗殺者

◇◆ ライター通信 ◆◇
 プレイング内容を照らし合わせて、今回は分けています。特集記事その2はまた別に。
 ちゅうわけでご参加おおきにでございました。八割が決めていた所で、二割がプレイングからって感じです; 一応これで個人を除いた、異界の謎関係は全部晒されたと思います。ちゅうわけで各人にGO!(二人だけやないかい
 シュライン・エマのPL様、プレイングに帰昔線とあったので、多分こっちの方が正解っぽいなぁと、次のステージを過去戻りに致しました。……ちょっと、虚無に近づいているシュラインがうまく書けたかなぁと不安ですが; 今まで色々謎が謎呼ぶプレイングおおきにでございました(ぺこり)……ちゅうても、シュラインの虚無化については謎がまだなくもないんでしょうか(聞くな
 瀬戸口春香のPL様、いやぶっちゃけ、春香ん(春香ん言うな)がおらんかったら異界の謎関係どうなったか解らずで。知りたい彼を活躍させていただきありがとうございます、今回のプレイングがあったおかげで、大部分が明らかになった感じで。サンキュー春香ん(だから春香ん言うな
 今回はご参加おおきにでした、殺しあう異界は残り三回の予定です。よろしければまたお願い致します。
[異界更新]
 殺しあう異界とは――全ては巫浄霧絵が、死ぬ事が出来ない者達の願いを利用して、死ぬ事が出来る三年後の異界を作り、今度は異界の住人の過去に戻りたい願いを利用して、過去の世界を創造しそこからまた娘と生きる為。ついで、草間武彦も。
 また、世界を再び作る為には、《全》人類の淘汰によって引き起こされる霊的ビッグバンが必要なため、三年前何があっても生きている草間武彦を、死ぬ可能性があるディテクターに変える為という部分もあった。
 青の子は巫浄霧絵の願いが生んだ者、それが核霊となっているが、ぶっちゃけ、青の子=巫浄霧絵という解釈でも問題はあまりない。
 スーパー三下は、ディテクターが思ったより早く死んで殺しあいの法則が止まった時の為の保険。現在S三下はある女の所為で弱体化してるが、既に充分人が死んでるので、霧絵はその中から霊を選び、八百万の団を引き連れている。全人類淘汰はそれでなんとかいけそう。
 補足、青の子はある切欠で、異界を世界に着せる、つまり世界全てを自分と娘と草間武彦が居る世界に出来る可能性もある能力があるが、これは成功しなくてもいいらしい。
 シュライン・エマ、虚無化のスピードが早い、世界が、殺しあいが急いでいる。
 瀬戸口春香、知識獲得。まだ得たい知識はあるか、その他の行動を出るかは不明。