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<東京怪談・PCゲームノベル>


■茶々さん裏道に入る■



「いいな〜茶々さん!アルバートさんに心配して貰えるなんて!」
「ねー!アルバートは子供好きだから茶々さんにメロメロなのよ!」
 賑やかな男女が道を行く。
 かたや金髪を遊ばせて時折振り返る桐生暁。
 かたやピンクの髪を躍らせて時折跳ねる塚本朝霧。
(……恨むぞ草間)
 少しばかり先を行くアルバートの非常に据わった目を見るのは、気の毒なことに逆から歩いてくる罪の無い人々である。
 背後でやたらとテンション高く騒ぐ高校生二人組。その後ろに実は干乾びた風情ののどかな中年と、妙にふてぶてしい筋肉男(本人は「引き締まったって言うんだよ!」と煩い)が居るが手前の若者二名にその存在が掻き消されている始末。
「アルバートさんてば一人で探し回って、俺嫉妬しちゃう〜クスン」
「よしよし。桐生クンはアルバートに構って欲しいんだね」
「そうなんだけどさ〜、実は朝霧ちゃんでもいいな〜」
「いやん嬉しい!桐生クンおだてるの上手!」
「えー本気だってば、本気」
 茶々さーん、と呼びかける自分の声が遠い。
 神様仏様草間のバカヤロウ。どうしてこんな組み合わせになるタイミングで寄越してくれたんだ。朝霧と暁君が遭遇しなきゃこうはならなかったのに!草間め後で煙草没収してやる。
 アルバートの訴えはきっと誰にも届いていない。
 若者二名を挟んで後ろを歩く男達はあるいは気付いているかもしれないが、まあ坂上とジェラルドである。
「元気なこった」
「うーん、茶々さん気付いて出てきてくれないかなあ」
「アルバートが錯乱する前にな」
 所詮この程度だった。
 見物する二人の前で、暁と朝霧がきゃいきゃいと楽しそう。
「あ、でも俺ジェラルドさんも好きだよん」
「おー俺も好きだぞ」
「お!両想いだね!」
「そうだなぁ」
「う〜ん、でも実は俺の本命は朝霧ちゃんでもジェラルドさんでもないんだ〜」
「ほほう」
 言うなり暁が身体も捻って駆け寄りしがみつく。ジェラルドの隣、坂上鷹臣はお陰でうっかり尻餅をつきかけたのだが、それは流石にジェラルドが止めた。
「ああ……鷹臣さん和むな〜」
「そうかい?」
「凄く和みますよ〜」
「うわメロってる」
「桐生クンは年上好みだったんだね」
「いやあ僕おじさんなんだけどねえ」
 いっそ他人のふりをしようかと思わないでもないのだ。
 いや一度実行したのだ。そうしたら大声で呼び回られ特徴を挙げられ情けなく出て行った。
 駄目だ。俺にはあのテンションは付き合えない。
「茶々さーん!出ておいで!」
 やけになって張り上げた声が虚しいアルバートである。


** *** *


 順を追ってみよう。
 まず茶々さんが行方不明になった。迷子だろうと思われる。
 興信所にも慌てて確認したところ、やはり辿り着いてはおらずここで迷子確定。
 心配したらしい草間が居合わせた桐生暁に、見知ったマンションでもある事だしと手伝いを頼んだ。それにあっさり頷いて暁が来て……ここまでは良かったのだ。ここまでは。
『ん?皆何してるの?』
『おーピンクの髪の毛だ!』
 マッドウィッチ朝霧が帰宅したところに遭遇しなければ!いや彼女だって単独なら妙なアイテムを作る事はあっても、茶々さんを探すのに協力はしてくれる。今までだってしてくれた。いや違う。茶々さん捜索自体は今現在進行形で手伝ってくれているのだ暁も朝霧も。
 ただ二人のテンションが相乗効果であるだけで。

「て、お前が気落ちしてるトコ悪ぃがよ」
「……」
「その大騒ぎのおかげで茶々さんが出て来たぞ」
「…………そうか」
「物騒な人連れて来てるねえ」
「けどオッサン余裕じゃねえか」
「いやいや、桐生くんは強いから」
「そりゃ俺も知ってるよ」
「会った事あるんだったねえ」
「そうそう」
 余裕だなと思えば、奥で朝霧と茶々さんを背に庇って軽口を叩く暁の方が更に余裕だと思ってアルバートは口を噤む。
 茶々さんも、変な人には興味持っちゃ駄目だよ、と何度言えば判ってくれるのか。
 切なく眺めるアルバートの前では楽しそうな暁が、それはもう瞳をきらきら輝かせて二人組に対峙していた。
「って、混ざらないのかジェラルド」
「充分みたいだし見物だろ」
「うーん桐生くんかっこいいねえ」
 女子供を背中に庇う今の場面だけ見れば確かにかっこいい。
 ふ、と遠い目をしてアルバートも見物体勢に入る。とりあえず茶々さんにこっそり呼びかけて、危ないからと抱っこしておけばいいだろう。
 大の男三人が呑気に見詰める前で、暁の口上はクライマックスに入りつつあった。
「いけないなぁ、小さい子をいじめるなんて」
「勝手についてきたんだから、文句つけられるスジはねェ」
「反省の色もなしか〜駄目だなぁ、よし!」
 ここで振り向いた朝霧の、にんまりとした笑顔には嫌な記憶ばかりがある。
 待て!何をする気だお前!
 言いかけた言葉は暁の決め台詞とポンポンポンと可愛らしい音に阻まれて――

「そんな奴は俺達にゃんこレンジャーが成敗☆」

「なんだこりゃ!あー!茶々さんの頭が!」
「あ、僕も生えてるなぁ」
「すげぇ。アサギリ呪文でも唱えたのか」
「ひ・み・つ〜」
「秘密じゃない!秘密じゃないぞ朝霧ちゃん!元に戻せ!」
「いやん」
「あーどうせ時間経てば戻るんだろ。ならいいじゃねぇか」
「そうだねえ。今だけだしねえ。でも困るかなあ」
「大丈夫だろ。今だけだ今だけ」
 ぴこ、と茶々さんの赤い耳が揺れる。
 呆然と見る二人組。当然だ。彼らからすれば、わけのわからないハイテンション集団が来たと思えば手品みたいに頭に一斉に猫耳生やして大騒ぎしているのだから。いや大騒ぎは褐色の肌の男と若者二人が殆どなのだけれども。
「朝霧ちゃんすっごいな〜!ナイス!」
「でしょ!可愛いでしょ!」
「ピンクの猫耳可愛いよ〜!」
「桐生クンの猫耳もラブリーだよ!」
「サンキュ!あーでもアルバートさんと色かぶっ……ブ」
 若者二名が盛り上がり、仲良く見物人を振り返ったところで暁にはツボだったらしい。
 いい年こいた男達が金やら黒やら茶色やらの猫耳を生やしてぴくぴく動かしている。茶々さんは赤い大きな耳がそれはそれでマッチしているが、男達は何の冗談だとしか言えなかった。
「……や、み、皆似合って……ぶは!」
「ありがとよー」
「桐生くんと朝霧ちゃんの作戦だったんだねえ」
「……も、いいや俺」
「いやいや似合ってる似合ってるよ〜!」
 ひょいひょい近付いて、憮然としたアルバートに手を伸ばすも撫でにくく、代わりに茶々さんを撫でておいた。
 ぴこぴこ揺れる赤い猫耳が可愛らしい。
「ていうかさ、ホラお揃い!似合う?」
「あー似合う似合う」
「似合う?」
「はいはいピンクも似合う似合う」
 騒ぐだけ騒いでどうでもよくなったのか、一転してトーンの低いアルバートの前で悪ノリしてみる。
 朝霧と一緒にポーズ。ついでにウインク。
 しかし突き抜けたらしいアルバートの対応は冷静だった。もしかしたらこういう人間なのかもしれない。
 騒ぐだけ騒いだら後は冷静……便利なのか不便なのか気になるところだ。
「うんうん似合う似合うすっごく似合う。だからそろそろ正気に返るあっちの二人片付けて貰えるかな」
 指差した先に放置されている二人組。
 立ち去ればいいところだが、当人達も呆然と猫耳騒ぎを見ていて正気に戻っていない。
「おー!そういえばそうだった!」
「猫耳で忘れてたね?桐生クン」
「忘れてたよ朝霧ちゃん!」
「コントするなら俺が始末しちまうぞー?」
「あー!いや俺がやる俺がやる!ジェラルドさんは見てて〜」
「へいへい」
「がんばれ桐生クン!かわいいぞ〜」
「いやんカッコイイって言って〜!」
「カッコ可愛いぞ?」
 声援を受けて暁が二人組に向き直る。
 暁のテンションを上げるのに最適なんだな、とその非常に楽しそうな顔を見てアルバートはぼんやり思ったわけだ。
 茶々さんを抱っこするアルバートの前で踊るように男達をあしらい、からかって回る姿は確かに強いのだろうと思えるけれど、いやしかし。しかしだ。
(朝霧ちゃんと暁君は一緒だと、俺にはついていけない)
 ふ、と疲れた溜息。
 自分の年のせいだろうか、と思ったりしても、隣でにこにこ見守る坂上はどうなのだ。「困ったねえ」といまだ言ってはいるものの、本気で困っているのかどうか。
 結局は神経の太さだとゆるく首を振っておいた。


** *** *


「てことではじめまして〜桐生暁でっす!」
「……茶々です」
「無事で良かったね〜」
「はい」
 出会い頭のハイテンションな混乱に警戒していたものの、坂上らの説明でようやく茶々さんも暁と挨拶をしてくれた。
 このあたりは朝霧は面白がるばかりで仲介してくれない。坂上の親切に和むことしきりである。
「鷹臣さんとか〜アルバートさんとか〜ジェラルドさんとかとは会った事あるんだけど、茶々さんとは初めてだね〜」
「はじめてです」
「あーあたしとも初めて初めて」
「朝霧ちゃんとは初めてな気分がしないよね〜」
「桐生クン面白いもんね!茶々さん無事でよかったね!」
「はい」
 よしよし、と撫でる小さな頭に猫耳は健在だ。
 いっそこのままにしとけないかな、と女子高生が呟くのに暁もいいね〜と返す。でもまあ時間制限が無いと流石に困る人々も多いだろうし。
 例えばアルバートとかアルバートとかアルバートとか。
「いや俺も困るからな」
「僕も流石に困るなあ」
 裏道を占拠する形で小さな茶々さんを囲む一同。
 ともあれ無事に助け出せてよかったね、とその点では誰も同意見だった。
 訳の判らない集団の騒ぎを見せられ、あしらわれ、からかわれ、散々コケにされた挙句に若者二人の椅子になっている男二人を除いて。よく考えれば茶々さんがついてきただけでボロボロにされたのだから彼らもある意味被害者であろう。

「で、猫耳いつ消えるんだ?」
「多分二、三日!ファイト!」
「あーもう俺どうせ仕事部屋でやるしいいや」
「マンションまでがちょっと恥ずかしいね」
「いやそれももうどうでもいいです」

 これにて一件落着――猫耳以外はだけれども。


** *** *


 後日。
 暁の元に小さな封筒が届いた。
 ふわふわ柔らかい中身の不確かな封筒に切手は無く、ただ「桐生暁様」と。
 警戒しつつも封を切る。出てきたのは包まれた小さな鍵一つと小さな便箋。

『いつもお世話になっております。適当な一室にてお使い下さい――クライン・マンション大家』

 大家って誰?とか。
 家賃タダなのかな〜、とか。

 しばらく便箋を広げて考えた後、とりあえずその少しばかり古めかしい鍵をしまいこんだ。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4782/桐生暁/男性/17/高校生アルバイター、トランスのギター担当】

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■         ライター通信          ■
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・茶々さん捜索ありがとうございます。ライター珠洲です。
・NPCが茶々さん省いても総勢四名!ほぼ会話で一場面が進む形になりました。誰が話しているか判りますでしょうか……朝霧は判ると思うんですけども。彼女のテンションは賑やかな人と居るとあんな感じです。猫耳は立案は暁様、実行が朝霧というパターンにしてみました。
・よく考えれば朝霧以外のNPCと既に顔見知りなんですよね。ありがとうございます!
・家賃も多分不要なマンションの鍵が今回贈られました。大家さんヘルプカウントしてたみたいです。不法入居も多いマンションですので、大家公認な暁様は好きに一室お使い下さいな。多分変な事起きますけども。